職業性胆管がん事件(校正印刷会社SANYO-CYP)(2014秋-1):会社と社長を略式起訴/被害者の会、和解合意

片岡明彦
関西労働者安全センター事務局次長/SANYO-CYP胆管がん被害者の会事務局長)

はじめに

校正印刷会社SANYO-CYP(サンヨーシーワィピー、以下S社)に発生した胆管がん多発事件に端を発した職業性胆管がん問題は、S社の17名を含め、全国で35名が労災認定されるに及んだ。

印刷業をはじめとする同種作業の健康障害防止対策を強化する行政通達が出され、主要な原因物質の1,2-ジクロロプロパンについては特定化学物質障害予防規則の対象物質とされた(2013年10月1日施行、ただし1年間の経過措置つき)。

1,2-ジクロロプロパンについては、国際がん研究機関(IARC)が、発がん分類をグループ3からグループ1に一気に引き上げ、ジクロロメタンについてもグループ2Bからグループ2Aに引き上げた(2014年6月)。国内の日本産業衛生学会は1,2-ジクロロプロパンを第1群に分類し(2014年5月)、第2群Bのジクロロプロパンの再評価を行っている。

化学物質規制全般についても、リスクアセスメントを義務づける労働安全衛生法改正が、2014年6月に公布された(2016年8月までに施行予定)。

本誌では2012年10月号に最初の記事を掲載、2012年12月16日に「胆管がん多発事件はどうして起こったか?原因と対策を考えるシンポジウム」(全国安全センター・関西労働者安全センター主催、2013年4月号で特集)を開催した。その後、2013年5月号、同年7月号、2014年1・2月号で続報した。

今号ではそれ以降の、S社と社長に対する労働安全衛生法違反に対する刑事処分、SANYO-CYP胆管がん被害者の会(以下、被害者の会)とS社との和解合意、厚生労働省「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」による労災認定状況、IARCによる発がん分類再評価などについて報告する。

たいへん悲惨な結果をもたらした職業性胆管がん事件は、一定の良い方向への変化を生んだ。

しかしながら、韓国のサムソン半導体工場等における白血病等健康障害多発事件をはじめ、起こり続ける国内外における化学物質による健康障害事件は、予防・補償の両面においてやるべき課題が多くあることを私たちに突きつけている。

全国安全センターとしては、今後早い時期に職業性胆管がん事件の一連の経緯を総括するとともに、国際交流も視野に入れながら、さらに、行政に対するチェックと提言を続けていくことが肝要だと考える。

会社と社長に罰金各50万円

2014年10月16日、大阪区検察庁は、S社と同社山村直悳社長を労働安全衛生法違反で大阪簡易裁判所に略式起訴した。労働安全衛生法違反(産業医未選任、衛生管理者未選任、衛生委員会未設置)によるもの。社長らは、10月21日に罰金を各50万円を支払ったということだ。

報道によれば、検察は、業務上過失致死罪の適用について検討したが「S社が胆管がん発症を予見できたことを立証するのは困難」として立件しなかった一方で、結果の重大性を考慮して、いわば形式犯であり、S社が行政指導に対してすぐに従ったところの、上記労働安全衛生法違反について略式起訴として処分した、ということである。

こうした結果しか出せない司法当局、労働行政当局、法制度に対して、17名労災認定うち9名死亡(表1)というきわめて深刻な被害を一方的に受けた被害者の立場からは、なんとも腹立たしく、納得ができないというほかない。

ただ、通常形式犯として行政指導が繰り返されるだけの違反行為に、最大限ともいえる処罰がなされたことの意味は、決して小さいとはいえないだろう。安易ともいえる行政指導では、重大な結果を招きかねないのだという厳しい警告。会社はもちろんだが、労働基準監督行政がこの刑事処分をどのように受け止め、監督行政の改善を図るのかを注視したい。

なお、被害者の会は略式起訴を受けて、次のコメントを出した。

  • 今回の労働安全衛生法違反(産業医未選任など3点)による略式起訴は、通常は行政指導にとどまるこのような違反行為に対して、行政指導にとどまらない法的処分を行うという前例となり、巷間、労働安全衛生法が軽視され、この種の違反行為が常態化していることに厳しい警鐘を鳴らすものであると評価できる。
  • しかしながら、胆管がん17名発症、うち9名死亡という事件の重大さを前にして、業務上過失致死罪の適用が見送られ、労働安全衛生法違反による罰金の「微罪」で済んでしまうという点は、社会常識の点から、被害者感情の点から、また、同種違反企業への抑止効果としてはきわめて不十分である点から考えても、法制度上に大きな欠陥があるといわざるを得ず、きわめて問題である。
  • 今後の同種事件の再発を防ぐためには、労働安全衛生法の違反に対する重罰化、事件責任者を厳しく処罰することを容易にする新たな法の制定が不可欠である。
  • また、本事件のベースには、SANYO-CYP社が創業当初から労働安全衛生法を無視した操業を行っていたことがあり、それによる幾多の労働安全衛生法違反を労働行政(大阪労働局、大阪中央労働基準監督署)が見逃してきたと考えられる。検察の処分については結論が出たが、そのことは、本事件の一部を構成する要素に過ぎない。より重要なのは、日常的な規制権限を行使する立場の労働行政が、SANYO-CYP社にどのような対応をしてきたのか、ということである。この点での検証がなされ、結果が明らかにされる必要があることを、この際申し添える。

和解合意書を締結

被害者の方々が関西労働者安全センター事務所で初めて全体会合をもったのは、2012年11月18日。厚生労働省が労災認定の結論を出す5か月前のことだった(稿末表)。

労災請求後の動向や労働基準監督署の対応、各被害者の状況などの報告、情報交換を主としてはじめた集まりは、2013年3月の労災認定を受けて、会社との話し合いを前提とした、2013年4月7日の被害者の会結成へと至った。

厚生労働省がS社16名の業務上認定を一括して行った(労災請求が遅かった1名(野内豊伸氏)の認定は5月にずれ込んだ)2013年3月27日の翌28日、S社は報道陣を前に謝罪会見を行った。

4月に入り、S社への家宅捜索のあとで、S社から筆者に電話があった。
「被害者の一部の方から、窓口は片岡だと聞いて連絡した」との話だったが、はじめ「被害者だけを相手に説明会をやりたい」ということであったがこれはお断りし、結局、筆者と被害者が全幅の信頼を寄せる熊谷信二産業医科大学准教授(現・教授)が同席して、2013年4月21日にS社との第1回目の話し合いが行われた。

以後の詳細な話し合いの内容はここでは省略するが、被害者の会からの質問、問題提起に社長ら会社側が回答するというかたちで回を重ねた。現場社員が使用している有機溶剤が問題ではないかという指摘をしていたではないかなどの社長への質問に対して、山村社長が「記憶にない」という場面が多かったため、被害者の会の不満、不信が募る展開となった。

そんななかでS社側からは、使用していた薬剤の伝票の一部、被害者の会参加者の検診記録などの一部資料が開示・提供され、多くの被害者が発症前からすでに肝機能異常を起こしていたことが判明したりするなど、重要な新たな事実も判明した。

2013年7月28日の第3回話し合いには、胆管がんを発症した管理職2名が出席し、彼らも社長に対して「使用薬剤が原因ではないか」との進言をしたことがあったが、社長が取り合わなかったとの趣旨を述べた。

事実関係をめぐっての説明と話し合いを進めるなかで、被害に対する責任の内容についてS社は、法律上の民事責任は認められないとしながら「労災補償とは別に補償を実施する」としたことを受けて、補償内容に関する交渉を進めた。

その結果、2014年9月25日付で合意書が締結され、10月22日に被害者の会、S社が同時に別々に記者会見を行い、合意に至ったことを公表した。

和解合意書の一部は秘密条項となったが、記者会見において記者からの質問があったため、補償額については、S社が被害者の会不参加3名について先行して和解したことを公表した水準(死亡1,000万円、療養中400万円ただし胆管がん死亡時に差額600万円)を上回る額を一律に支払う内容となったと回答した。

交渉途中、被害者の会に対してもこの先行和解水準の提案があったが、これを拒否して交渉を継続した。
当時、被害者の会と音信不通だったIさんの遺族から被害者の会に連絡があったのが、この補償提案と先行和解報道があった直後の頃だった。

S社はIさんの遺族にこの提案をしに、Iさんの郷里まで来たそうで、その話や話しぶりに大きな不信をもった遺族から筆者に電話が入った。すぐにお会いしてこれまでの経緯を説明、Iさんの遺族も被害者の会に参加することになったのが、2013年10月だった。

このとき「絶対、許せない」と声を詰まらせ、涙を流したご遺族の姿を忘れることができない。Iさんの遺族は、10月22日の会見にも出席し、肉親が胆管がんで逝くのを見送るしかなかった無念を涙ながらに語られ、この事件がいかに重大なものだったかをあらためて教えてくれたのだった。

様々なことがあったが最終的に今回の和解合意を勝ち取れた最大の要因は、言うまでもなく被害者の会の団結にあった。
和解合意書、覚書、和解にあたっての被害者の会とS社のコメントは以下のとおり。

和解合意書

株式会社サンヨー・シーワィピー(以下「甲」という)及び同社代表取締役山村直悳(以下「乙」という)と別表「当事者」欄記載の被害者及び遺族ら(以下「丙ら」という)とは、別表「被害者」欄記載の従業員ら14名が甲に勤務し、その作業中に使用した化学物質を曝露したことにより胆管がんを発症し、そのうち8名が死亡した件(以下「本件」という)について、下記のとおり合意したので、本和解合意書を締結する。

  1. 甲及び乙は、丙らに対し、本件被害を発生させた責任を認め、心から謝罪するとともに、同様の被害が二度と発生することのないよう安全対策を講じることを確約する。
    ※2~5 <守秘義務適用条項につき非公表>
  1. 甲は、今後、現在の従業員や退職した従業員に胆管がんの発生があったことを知ったときは、その事実を丙らで構成する被害者の会(事務局:関西労働者安全センター)に連絡するとともにこれを公表する。
  2. 甲は、前項の場合、当該従業員の労災申請手続きについて誠実に協力し、補償については本和解合意書の補償水準を下回らないよう最大限の努力を行う。
  3. 甲は、本件被害の原因究明について大きく貢献した熊谷信二産業医科大学教授の調査・研究に対し、今後もできる限りの協力を行う。
  4. 甲及び乙と丙らとは、本和解合意書に関する事項その他本件に関する事項について、相手方から協議の求めがあったときは、互いに誠意をもって話し合い解決をはかるものとする。その場合には、丙らの交渉窓口は被害者の会が行うものとする。
  5. 甲及び乙と丙らは、甲と丙らとの間及び乙と丙らとの間には、本件に関し、本和解合意書に定めるもののほか、他に何らの債権債務のないことを相互に確認する。

2014年9月25日
(甲・乙)代理人弁護士 浅井隆
(丙ら)代理人弁護士 位田浩

覚 書

株式会社サンヨー・シーワィピー(以下「会社」という)及び同社代表取締役山村直悳(会社と併せて以下、「会社他」という)代理人弁護士浅井隆と別表「当事者」欄記載者代理人弁護士位田浩とは、2014年9月25日付和解合意書(以下、単に和解合意書という)締結にあたり、次のとおり補足と確認をすることを、合意する(以下、本書を「本覚書」という)。

  1. 責任等の趣旨
    和解合意書1項の「責任」は、文字通りの意味であり、双方は、民事責任や道義的責任など、その意味を拡大的又は限定的に解釈しない。同2項及び別表の「損害賠償金」は、会社他にとっては補償金の趣旨となる。
  2. 6項の条件
    同項は、和解合意書の当事者以外の(現在の、退職した)従業員個人の意思・プライバシーの問題なので、会社は、同項を履行する前提として、同項の「発生があったことを知ったとき」、(現在の、退職した)当該従業員若しくはその相続人(以下、「本人ら」という)に対し、同項を履行することが本人らの意思に反しないことを確認する。その際、「被害者の会」の連絡先、会社他と「被害者の会」との話し合いにより同項を含む和解が円満にまとまった関係であることを、よく説明する。その上で、本人らの意思に反するときは、同項は適用除外とする。
  3. 8項について
    第8項の「調査・研究」に対する会社の協力は、和解合意書の当事者に関する限りのものとする。協力の具体的内容は、熊谷教授と会社代理人弁護士浅井隆との間で、今後協議するものとする。
  4. 守秘義務
    双方は、和解合意書のうち第2項ないし第5項及び別表の内容については、会社と代表者が連帯し、過去の和解水準を尊重しながら、今後の事業遂行に支障を及ぼさないことを十分に考慮した金額を支払う内容で全面的でかつ円満なる和解が成立したこと、を除き、第三者に口外せず(ただし、第三者より過去の和解水準との関係を質問されたときは、今後の事業遂行に支障を及ぼさない範囲で一定の上積みをした旨の限りでの説明を可とする)、厳格に秘密として保持する。双方の代理人は、これらの内容が第三者に漏れたときは会社の運営や2年後の分割金の支払に生じる可能性があることを、和解当事者に十分に説明し、守秘義務の履行の徹底を図るものとする。
  5. 記者会見
    記者会見は、和解合意書締結後、速やかに実施するものとし、詳細は、「被害者の会」事務局長片岡明彦と会社他代理人弁護士浅井隆との協議によって纏めるが、原則、その実施は、1回限り、双方別々にしかし同時に行うものとする。そして、プレスリリースの内容は、事前にそれぞれ文書化してお互い交換し、その内容が和解合意書の趣旨・精神印反する場合は相手方に是正を求めることが出来、プレスリリース前に相手方は誠実にこれに対応することとする。
  6. 事務局の所在地及び変更
    「被害者の会」事務局の所在地は、以下のとおりとする。
    〒540-0026 大阪市中央区内本町1-2-11
    ウタカビル201
    関西労働者安全センター内
    TEL.06-6943-1527/FAX.06-6942-0278
    事務局長:片岡明彦
    変更があった場合は、会社他代理人弁護士浅井隆に連絡することとする。

2014年9月25日
株式会社サンヨー・シーワィピー
及び同社代表取締役 山村直悳代理人
弁護士 浅井隆
別表「当事者」欄記載者代理人
弁護士 位田浩

当会( SANYO-CYP胆管がん被害者の会 )と株式会社SANYO-CYP社・同社山村直悳社長との和解合意にあたって
2014年10月22日

  1. まず、これまで、私たちを励まし、支援していただいたすべての皆様に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
  2. 和解合意の内容は、守秘事項のほかは、別紙のとおりとなります。
  3. 当会は、SANYO-CYP社と2013年4月21日以降、話し合いを行い、その中で、今回の胆管がん17名発症、うち9名死亡というきわめて重大かつ悲惨な本事件に関する説明や釈明を受け、これに対する疑問、質問を行いました。その中では、明らかになったこと、明らかにならなかったこと、様々な事柄がありました。
  4. しかしながら、会社・社長より被害を発生させたことに対して謝罪がなされたことは評価に値すると考えました。
  5. 当会は、現在闘病中の6名、死亡8名の遺族によって構成されています。いずれも若くして胆管がんを発症し、死亡した者であることから、会社との話し合いによる早期の解決を目指して、団結して、ことにあたってきました。重要事項である補償についても、話し合い、折衝を重ね、その結果、今般和解内容による解決を行うことを総意として決断しました。
  6. 和解内容は守秘事項によりすべては明らかにできませんが、諸般の事情を考慮して、現実的解決として受け入れられると判断したものです。これまでの話し合いの経過を踏まえれば、当会としては、団結してことにあたることによって勝ち得た大きな成果であると考えています。
  7. 和解内容には、胆管がん問題の今後に関わる点も盛り込まれています。新たな発症も懸念されるところでもありますし、当会としては今後も存続して、闘病中の患者へのサポートをはじめとした胆管がんをめぐる緒問題に対応していくことにしています。
  8. また、SANYO-CYP社以外における、胆管がん労災認定件数がすでに相当数にのぼっていることは、この問題とそれを引き起こした背景が、SANYO-CYP社に特殊に存在したのではなく一般的に存在していたことを示しています。したがって、同種事件の再発防止対策は、SANYO-CYP社のみならず、全国的に徹底をされなければなりません。行政による対策強化が今後着実に行われるべきです。労働行政当局による指導、監督がなされていなかったことが、今回の事件の第2原因であったことは明白です。この際、労働行政当局における猛省と過去の検証を要求したいと考えます。
  9. たいへん悲惨で不幸な事件に、私たちは遭遇してしまいました。今回、会社と和解合意に至りましたが、本事件を社会のすべての皆様が記憶に止め、職場の安全衛生対策向上に不断の努力を行われるように強く希望するものです。

ご報告-胆管がん問題解決
2014(平成26)年10月22日

報道各位

株式会社SANYO-CYP
代表取締役 山村健司
前代表取締役 山村悳唯

本日は、おいそがしい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。

1. 民事の問題に関して
弊社は、昨年労災認定及び支給決定を受けた方々に対し、現在まで1年半に亘って、ご質問への回答も含めて説明とともに解決のためのお話し合いを続けてまいりました。
とくに、昨年労災認定及び支給決定を受けた方々14名、そしてその会であるSANYO-CYP胆管がん被害者の会、その事務局長片岡明彦殿との間で、数次に亘るお話し合いを重ねておりました。
その結果、労災認定及び支給決定を受けた方々のご理解をいただき、全員との間で全面的な解決合意に至りました。そこで、この場にてその旨ご報告させていただきます。解決合意の詳細については、双方守秘することを約束しておりますので、概要のご説明にて、ご容赦いただきたく存じます。
すなわち、昨年(2013(平成25)年)秋、労災認定及び支給決定を受けた方々のうち3名の方々について解決合意に至りましたが、残りの方々につきましては、昨年春の労災認定・支給決定後現在まで、ご説明と全面的な解決のためのお話し合いを続けてまいりました。
その結果、今度、労災認定及び支給決定を受けた方々全員と全面的な解決合意に至りました。
合意内容は、会社と代表者山村悳唯が連帯し、過去の和解水準を尊重しながら、今後の事業遂行に支障を及ぼさないことを十分に考慮した金額を支払う内容の、全面的でかつ円満なる内容です。守秘義務を負う範囲以外のものを、本書面に資料として添付させていただきます。合意内容は、和解合意書とその詳細を定める覚書の2文書の構成になっています。
先に合意した3名の方々に関しても、すみやかにこの合意内容の金額に合わせて、解決合意を締結し直し、かつ、その差額金についても、現時点で履行が済んでおります。
よって、民事の問題に関しましては、昨年労災認定及び支給決定を受けた方々全員と全面的な解決に至っておりますことを、ご報告させていただきます。

2. 刑事の問題について
先週の10月16日大阪区検よりの略式起訴は、平成23年4月1日以降の労働安全衛生法違反でしたが、会社及び山村悳唯は、これを真摯に受けとめ、罰金各々50万円を10月21日、納付により終了し、刑事の問題に関しても、解決に至りました。
なお、大切なことなので、2点の補足説明をさせていただきます。
1点目は、今度の労災認定及び支給決定のあった17名の方々の胆管がんの発症原因と推認されている、1,2-ジクロロプロパンを含む溶剤(「ブランケットクリーナー」)の使用は、8年以上前の2006(平成18)年7月に止め、別の溶剤に変更をしており、現在は使用しておりません。弊社としては、発症された17名の方々以外には、今後発症しないことを強く願い、また、現職労働者、退職労働者に対して、6か月に1回のペースで大阪市立大学病院にて健康診断を行ってきたところです。今後も、同様のことを実施していく所存です。
2点目は、今度の略式による罰金刑となった労働安全衛生法違反についてです。この問題は、刑事事件としての立件されるに先立つ、2012(平成24)年5月30日、同年6月8日、何点かの違反(安全管理者、衛生管理者、産業医、衛生委員会の設置、そして定期健康診断結果報告書の提出、法定の安全衛生教育を怠ったこと)につき是正勧告を受け、弊社では、直ちに勧告に応じ是正し、その内容はすみやかに勧告した労基署に報告済です。
今回の刑事での立件は、その後、上記のうち、衛生管理者、産業医、衛生委員会の設置の3点に関して略式起訴となったものであり、その罰金については今週21日に納付済みであることは、先ほどご報告したとおりですが、官公庁よりご指摘の労働安全衛生法違反については、すでに2年以上前から遵守しているところです。
今後は、新しい経営体制の下、遵法経営をより一層心掛ける決意でおります。

3. 代表者の交代
労災認定及び支給決定を受けた方々への責任、そして、今度世間をお騒がせしたこと、労働局などの官公庁にお手間を煩わせたことへのけじめとして、創業以来、弊社の代表者であった山村悳唯は、代表取締役のみならず、取締役も辞任したことを報告させていただきます。後任の代表取締役には、山村健司取締役が就任致しました。
このことは、先週一部報道もされたところですが、その時点では、近い将来交代する旨のものでしたが、10月20日、弊社取締役会で、私、山村悳唯が代表取締役及び取締役の辞任の意思を表示し、替わって、山村健司取締役が代表取締役に選任決議されました。商業登記も本日(22日)には終了することとなります。
新しい経営体制の下で、遵法経営を強化し、また社会に貢献できるような企業となるべく、努力を行っていく所存です。
どうか今後とも宜しくお願い致します。

略式起訴、和解に際しての報道

今回の略式起訴、和解をどう見たのかのいくつかを以下に紹介する。

本田真吾さん(胆管がん患者)と岡田俊子さん(ご遺族)2014年10月22日

胆管がん補償 全面和解/大阪の印刷会社 被害者会と示談(毎日新聞2014年10月17日)

胆管がん補償 全面和解
大阪の印刷会社 被害者会と示談

大阪市中央区の印刷会社「サンヨー・シーワィピー」の従業員と元従業員計17人が胆管がんを発症し、うち9人が死亡した問題で、患者6人と8遺族でつくる「胆管がん被害者の会」とサンヨー社は16日、同社が補償金を支払うことで示談したと発表した。同会に属さない患者2人と1遺族とは示談しており、2012年5月の問題発覚以来、2年5カ月で全面和解した。一方、大阪区検は同日、サンとくゆきヨー社と山村恵唯社長(68)を労働安全衛生法違反(産業医の未選任など)の罪で大阪簡裁に略式起訴した。 (3面にクローズアップ)

被害者の会とサンヨー社は補償金額は明らかにしていない。交渉経過などから被害者1人当たり1000万円に一定の上積みをしたとみられ、支払総額は1億7000万円を超すと推定される。昨年9月に成立した患者2人と1遺族との示談は、死亡者に1000万円、患者に40℃万円を支払うとの内容だった。サンヨー社は以前の合意内容についても「今回の和解に沿って是正する」としている。略式起訴された祉長が辞任発表サンヨー社は16日、「全面的な解決合意に至った」とした上で、山村社長が辞任し、後任に次男の健司取締役(37)が就くことを明らかにした。
起訴状によると、サンヨー社は11年4月からの1年間、従業員50人以上の事業所に義務付けられた産業医や衛生管理者の選任、労使が職場環境の改善を検討する衛生委員会の設置をしなかったとされる。簡裁は罰金の略式命令を出したとみられる。【大島秀利、高瀬浩平、原田啓之】

毎日新聞 2014年10月17日

クローズアップ2014/死者9人でも「微罪」胆管がん労災略式起訴・国の監督も後手に(毎日新聞2014年10月17日)

クローズアップ2014

死者9人でも「微罪」胆管がん労災略式起訴
国の監督も後手に

大阪市中央区の印刷会社で起きた従業員らの胆管がん発症問題は会社側と被害者側の全面和解にこぎ着けた。ただ、大阪地検から事件の移送を受けた大阪区検による刑事処分は略式起訴にとどまり、遺族から法改正を求める声も上がった。

「17人が胆管がんになり、9人が死亡するという重大さに対し、微罪で済んでしまうのは、社会常識や被害者感情、企業への抑止効果としては極めて不十分だ」
患者らでつくる「胆管がん被害者の会」は全面和解の詳細な内容や評価に関しては「適切な時期に説明する」とした上で、大阪市中央区の印刷会社「サンヨー・シーワィ・ピー」の山村悳唯(とくゆき)社長(68)に業務上過失致死傷罪が適用されず、労働安全衛生法違反罪での略式起訴になったことに憤りのコメントを発表した一方で、産業医や衛生管理者の選任などをしなかったことが同法違反罪に問われたことについて、被害者の会は「通常は行政指導にとどまる違反行為に法的処分が行われたことは前例となる」として、今回の刑事処分を警鐘として受け止めるよう呼びかけている。

印刷会社の現場で起きた悲劇を表面化させたのは、被害者の知人の情報提供に基づき、熊谷信二・産業医科大准教授(現教授)らが2011年から乗り出した独自調査だった。元従業員5人が胆管がんを発症したことを突き止め、少なくとも85年ごろからインキ用の洗浄剤に使われた有機塩素系化学物質「ジクロロメタン」や「1、2ージクロロプロパン」が影響していると推定した。

これが12年5月に報道され、ようやく厚生労働省が調査や指導に動き出した。厚労省は13年3月、熊谷准教授の研究を追認する形で、二つの有機塩素系化学物質を高濃度で浴びると胆管がんの原因になると推定し、サンヨー社の17人を労災認定した。
厚労省の調べでは、サンヨー社は1996年ごろまで、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象物質である「ジクロロメタン」を使用していながら適切な対応を取っていなかった。労働局や労働基準監督署は長期閲、同社のさまざまな違反行為を見逃してきた。

サンヨー社での問題をきっかけに、この2物質が使われていた全国の印刷会社でも胆管がん発症が明らかになり、89人が労災申請し、現在、10都道府県で34人(うち請求時の死者15人)が労災認定されている。

厚労省が全国の印刷業者を対象にアンケートしたところ、有機則で義務付けられている特殊健康診断は77・5%が未実施、作業主任者の選任も63・2%がしていない実態も浮かび上がった。
被害者の会の片岡明彦事務局長は「労基署などが監督体制を強化すべきだ。もし人手不足でできないのならば、法の厳罰化などをしないとまた同じような悲劇が繰り返される」と法改正を訴えている。【大島秀利】

危険性予見困難

胆管がん発症の労災を巡って、使用者側が刑事処分を受けるのは初めてとみられる。一方、今回の捜査に当たった大阪地検は遺族らの意向などを考慮し、業務上過失致死傷罪の適用も検討したが、ハードルは高く、立件は見送った。
業務上過失致死傷罪が成立するには①サンヨー社の化学物質の使用とがん発症の因果関係②サンヨー社ががん発症の危険性を予見できたーことを立証する必要がある。

厚生労働省は元従業員ら17人を労災認定したが、医学の専門家らがまとめた厚労省の報告書では発症原因の断定は避けられた。
洗浄剤に含まれる化学物質「1、2ージクロロプロパン」などを長期間、吸い込んだことで発症した可能性が高いという「推定」にとどめており、地検もこの判断を重視した模様だ。

また、サンヨー社は06年7月までに、この化学物質の使用をやめているが、国が発がんの危険がある物質に指定したのは、それより後の11年だ。使用している事業所に国が排気装置の設置を義務付けたのは、さらに後の13年10月になる。

サンヨー社は使用をやめた理由について「労働環境の改善のため」と説明しているが、国が危険性を周知する前のことであり、地検は会社側ががん発症を予見するのは難しかったと判断したとみられる。

大塚裕史・成践大法科大学院教授(刑法)は「死亡する従業員が増え始めた04年ころ、社長らが何らかの危険を認識できたと言えなくもない。ただ、その時点でこの化学物質の使用を控えたとしても、発症を防ぐことができたかの証明は困難だろう」と指摘している。

地検は最終的に、がん発症の直接的な刑事責任となる業務上過失致死傷罪の適用は難しいと結論付け、形式犯とも言える労働安全衛生法違反の罪だけを問い、罰金刑となる略式起訴とした。

一方で遺族らの闇には「どこかで被害の拡大を防ぐことができたのではないか」との思いも強い。なぜ、これだけの犠牲者が出たのか。刑事処分とは別に、サンヨー社や国には今も重い課題が突き付けられている。【高瀬浩平、原田啓之】

「サンヨー・シーワィピー」での胆管がん問題
2012年5月、サンヨー社の元従業員5人が相次いで胆管がんを発症し、うち4人が死亡していたことが表面化した。印刷物の色の具合を確認するために少数枚数だけ印刷する校正印刷の工程で、インキ用の洗浄剤に使われた有機塩素系化学物質が原因とみられる。厚生労働省は13年3~5月、従業員と元従業員17人(うち死亡9人)を労災認定した。

毎日新聞 2014年10月17日

胆管がん労災 続く苦しみ/会社、法的責任認めず 示談成立(朝日新聞2014年10月17日)

胆管がん労災 続く苦しみ
会社、法的責任認めず 示談成立

大阪市の印刷会社「SANYO-CYP(サンヨーシーワイピー)」で起きた胆管がん集団発症事件の補償交渉が完全決着した。しかし、SANYO社は被害者側が求める法的責任は最後まで認めなかった。▷1面参照

2年前に発症した元従業員(36)は「会社は従業員の健康を守るという意識が完全に欠如していた」と話す。肝臓の一部の切除手術後も抗がん剤治療を続け、自宅がある徳島県から大阪市大病院に通う。同僚も闘病中だ。
「鼻の奥がツーンとする」「目が痛い」「吐き気がする」。被害者が証言する地下1階作業場の異常は、インク洗浄剤に含まれていた化学物質「1、2ジクロロプロパン」などが原因だった。揮発性が高く、主に蒸気を吸い込み体内に取り込まれる。
劣悪な職場環境は、厚生労働省の調査で裏付けられた。排気が不十分なため、汚染された空気の56%が室内に環流していた。「1、2ジクロロプロパン」の室内濃度は少なくとも作業場で使われていた2006年までの約15年間、がん発症につながる150ppmを超えていた。

多くの従業員が体調不良の原因に洗浄剤を疑い、会社に訴えた。2年前に発症した別の元従業員(33)もその一人だ。
06年夏、飲酒の習慣がないのに肝機能異常が見つかった。医師から「有機溶剤が原因と考えられる」と言われ、その診断書を上司に提出した。それ以前も発症者が続出していたが、会社は取り合わなかった。被害者の会はこれまで、当時の従業員の進言についてただしたが、会社の回答は一貫
して「記憶にありません」。「1、2ジクロロプロパン」による被害を予測できなかったとの立場を崩さなかった。

SANYO社は16日、全示談成立を発表したマスコミ向けの文書で「弊社の胆管がんに関する一連の事項は全て解決したことをご報告させていただきます」と記した。(足立耕作)

強い処罰感情、刑事処分へ

SANYO社の不適切な安全衛生管理の刑事責任をどう問うのか。大阪労働局から昨年9月に書類送検を受けた大阪地検は裏付け捜査に1年以上をかけた。
送検内容は衛生管理者や産業医を選任するなどしていなかった労働安全衛生法違反の疑いだった。罰則は「50万円以下の罰金」。大阪労働局の管内だけでも、昨年6~11月の調査で衛生管理者の未選任は352事業所に上っていた。「形式犯で、一般的には行政指導で是正してもらう」。検察幹部は取材にこう明かす。
一方で、SANYO社では洗浄剤に含まれた化学物質に長期間接したとみられる従業員たちが胆管がんを発症。民間の研究者の調査などで9人が亡くなったことが明らかになっていた。仮に会社側が化学物質の危険性を知りながら洗浄作業を続けさせていた場合、業務上過失致死罪にあたるー。その可能性について、地検は捜査を進めた。
しかし、その危険性への認識は作業現場で一般的なものではなく、SANYO社が胆管がんの発症を予測することはできなかった」と結論づけた。
業務上過失致死罪での立件が難しくなるなか、地検は遺族らを「実質的な被害者」とみて事情を聴いていった。そのうえで、SANYO社への処罰感情は強いと判断。従業員への衛生管理の義務違反を「形式犯」ととらえず、略式起訴を通じて企業の刑事責任を明確にする手続きをとった。元検事で労災問題に詳しい八木倫夫弁護士も「行政処分だけで済ませなかったのは適切だ」とみる。
被害者の会は16日に出したコメントで、検察の捜査に対して「法が軽視され、この種の違反行為が常態化していることに厳しい警鐘を鳴らす」と評価。業務上過失致死罪の適用が見送られたことには「法制度上に大きな欠陥がある」と指摘し、SANYO社に対する労働行政の検証を求めた。 (西村圭史、川田惇史)

朝日新聞 2014年10月17日

【社説】胆管がん労災 悲劇をなくすために(朝日新聞2014年10月17日)

【社説】胆管がん労災 悲劇をなくすために

大阪市の印刷会社での従業員17人が胆管がんを発症し、9人が死亡した労災事件で、会社側が労働安全衛生法違反の罪で略式起訴された。
17年間に同じ作業揚で働いた4人に1人が発症した。あらためて被害の深刻さを思う。
厚生労働省が発症の原因の一つに認定したのは、印刷機のインクを拭きとる洗浄剤に含まれていた「1、2ジクロロプロパン」という化学物質だ。
今回の被害が明らかになるまでは、法的な使用規制の対象ではなかった。検察は業務上過失致死傷罪の適用も検討したが、「当時は危険性が一般的に知られておらず、発症を予測することはできなかった」として見送ったとされる。
産業界で使われる化学物質は約6万種類もあり、年1千超のペースで増えている。発がん性を調べるには時間がかかる。すべての新規物質の危険性を確認するのは事実上不可能だ。
だが、被害の拡大を防ぐ手だてがなかったわけではない。
大阪の会社が刑事責任を問われたのは、衛生管理者や産業医を置かず、労使一体でつくる「衛生委員会」も設けていなかったことなど、法律で義務づけられた衛生管理態勢が取られていなかったことが理由だ。
会社側は認めていないが、従業員は目の痛みや吐き気を覚えるなど職場環境の劣悪さを訴えていたと証言している。法律を守っていれば、換気設備の改善などの対策につながった可能性もあり、ここまで深刻な事態に陥ることは避けられたはずだ。
行政の監督態勢も心もとない。今回の問題発覚を受けて厚労省は2年前、印刷業約1万8千社を調査した。有毒な化学物質を使っていると回答した社の約8割が法的に義務づけられた特別の健康診断を怠っていた。
有機溶剤は塗装や洗浄などでも広く使われている。国は危険性の高い物質を扱う業界への指導の強化など、実効性のある措置を取る必要がある。
新しい化学物質によるリスクを小さくすることも重要だ。
有効と考えられる対策の一つが「リスクアセスメント」だ。
化学物質の有害性、取扱量、揮発性などを調べ、危険性が高ければ、別の物質に変えたり作業手順を見直したりするための評価手法だ。有害かどうかが不明でも、労働者が浴びる濃度などによって、ある程度の危険性は判断できる。
ただ、現状では実施義務は一部の物質に限られている。企業側には労働者の安全確保のため、積極的な活用を求めたい。

朝日新聞 2014年10月17日

胆管がん発症者 今後公表/大阪の印刷会社 補償金1000万円超/被害者会と示談(毎日新聞2014年10月23日)

大阪市中央区の印刷会社「サンヨー・シーワィピー」の従業員と元従業員計17人が胆管がんを発症し、うち9人が死亡した問題で、患者6人と8遺族でつくる「胆管がん被害者の会」とサンヨー社は22日、同市内でそれぞれ記者会見し、示談の内容を明らかにした。サンヨー社が謝罪した上で1人1000万円以上の補償金を支払い、今後、新たな発症者が出た場合は被害者の会に連絡、公表することが盛り込まれた。【大島秀利、畠山哲郎】

同日付で社長を辞任とくゆきした山村悳唯前社長 (68)と、次男の健司新社長らが会見。山村前社長は「胆管がんを多数の人が発症されたことについて大変申し訳なく思っている」と頭を下げた。
サンヨー社と被害者の会によると、先月25日に「和解合意書」を締結。補償金額は明らかになっていないが、関係者によると、1人当たり一千数百万円という。合意内容はこのほか、▽新たな発症者が出た場合、被害者の会に連絡し、公表。補償金も今回の水準を下回らないよう努力するーなど。
新たな発症者を会社が被害者団体に連絡するルールは、クボタ旧工場周辺の住民の間でアスベスト(石綿)による中皮腫が多発した際、同社と被害者側が実質的に取り決め、被害者の支援・救済につながった例がある。
被害者の会とは別に先に示談した3人(うち生存2人)への支払額は死者1000万円、生存者400万円だった。3人についても今回の示談と同様の金額に是正される。
サンヨー社によると、同社と山村前社長は労働安全衛生法違反の罪で大阪簡裁からそれぞれ罰金50万円の略式命令を受け、既に全額納付したという。

患者・遺族「命預かる自覚を」

「家族にとっては終わっていない」。被害者の会の記者会見には、患者と遺族ら6人が参加し、「一定の節目を迎えた」と和解を評価する一方、肉親や同僚を失った無念の思いをにじませた。
今も闘病中の元従業員、本田真吾さん(33)=大阪府高槻市=は「私の命は被害を訴えたみんなのおかげで生かされている」と強調した。サンヨー社に2000年に入社。有機溶剤で印刷機を洗浄する作業中、刺激臭で頭がくらくらすることもあった。06年に健康診一「断で肝機能の異常が見つかり「作業をやめれば良くなるかも」と退職した。
12年、元の職場で胆管がんが多くでていることを新聞で知り、「関西労働者安全センター」(大阪市中央区)に相談。胆管がんと診断され、手術を受けた。
「被害者の会」には13年4月の結成時から加わった。そこで出会ったのは、ものをいいにくい職場で「換気が十分でない」と上司に訴えた後に退職し、死亡した元従業員(当時40歳)や27歳の若さで在職死した先輩の遺族らだった。「1人では泣き寝入りするだけだった。みんなで協力したから会社を引きずり出すことができた」
今も抗がん剤治療が続き、後遺症の胆管炎で高熱が出ることも。
「もし胆管がんの発見が1年遅れていたら、命はなかったかも。大事に生きていきたい」と話し、別の会社での「ケースを含めて胆管がん発症者を支援するつもりだ。「すべての経営者が従業員の命を預かる責任を自覚してほしい」と力を込めた。
遺族からは憤りの声が上がった。10年2月に40歳で亡くなった男性の父(77)は当初は会社側に面談を拒否されたことに触れ、「会社は『円満解決』と発表したがそれで済んでいいのか。労働者の人権、人命が無視されたことに会社の責任はまだ検証されなければならない」と訴えた。
13年5月に44歳で亡くなった男性の妹(40)は「兄が亡くなったことはまだ受け入れられないし、今も苦しんでいる方もいる」と涙ながらに語った。【大島秀利、田辺佑介】

毎日新聞 2014年10月23日

胆管がん 和解「やっと」(朝日新聞2014年10月23日)

胆管がん 和解「やっと」
印刷会社 各被害者に1000万円超

従業員17人が胆管がんを発症し9人が死亡した大阪市の印刷会社「SANYO-CYP(サンヨーシーワイピー」の労災事件で、被害者の会とSANYO社は22日、大阪市内でそれぞれ記者会見し、同社が被害者1人当たり1千万円超の補償金を支払う和解の合意内容を明らかにした。一連の問題の「全面解決」を強調する会社側に対し、被害者の表情は終始硬かった。

補償交渉は昨年4月から計7回行われ、今年9月に合意した。被害者17人のうち3人(1人死亡)は、死亡者の遺族に1千万円、患者に各400万円払うことで先に示談している。残る14人(8人死亡)でつくる被害者の会は、被害者の生死にかかわらず一律同額の1千万円超とし、会社と22日付で社長・取締役を辞任した山村悳唯(とくゆき)氏(68)が連帯して支払う。先に合意した3人も同額とする。また、会社側は被害を発生させた責任を認め、謝罪するとともに再発防止策を講じる。
被害者の会を支援した関西労働者安全センターの片岡明彦事務局次長は「闘病中の被害者もおり早期解決を目指した」と話した。
SANYO社の山村前社長は「胆管がんを多数発症されたことについて大変申しわけなく思っております」と謝罪。同社と山村氏が労働安全衛生法違反罪で大阪簡裁から罰金各50万円の略式命令を受け、納付したことも明らかにした。

遺族「国よ、しっかり取り締まって」

「国にお願いしたい。こんな会社をのさばらせることがないよう、しっかり取り締まってほしい」。大阪市内であった被害者の会の会見で、在職中の昨年5月23日に45歳で亡くなった男性の姉(50)は訴えた。
男性は1992年に入社。2011年の健康診断で肝機能の悪化がみられ、、翌年胆管がんと診断。余命3カ月と告げられた。
男性が亡くなる前日、入院先の九州の病院を訪ねた山村氏に、姉は問うた。
「頭が痛い、気分が悪い、換気が悪いと苦情を申し立てた従業員はいなかったのか。それでも何もしてくれなかったのか」。丸太ん棒のようにむくみ苦しむ男性の前で、返ってきた答えは「おりません。定められた基準にのっとってやっていました」だった。
「幸せになるために会社に入ったのに」。00年に入社した本田真吾さん(33)は6年後、飲酒の習慣がないのに健康診断で肝機能障害が見つかった。社内では胆管がんの死亡者が相次いでいた。本田さんは、印刷機の洗浄に使う有機溶剤が原因と考えられるという医師の診断書を上司に提出したが取り合ってもらえず、退職した。
2年前に診断され、肝臓の3分の2を切除した。今も抗がん剤治療を受ける。転職先も昨年5月に退職した。「会社の中でおかしいという声がいくつもあった。二度と被害者を出さないようにしてほしい」
07年に長男の岡田浩さんを46歳で亡くした母の俊子さん(84)は「不満はあります。でも年なので生きている間に解決したかった。やっと、やっとという感じです」と話した。
SANYO社は被害者の会の会見と同じ午後2時半から、大阪市内の別会場で会見し、山村氏は「全員と全面的な解決合意に至りました」と繰り返し強調した。

化学物質潜む危険性

産業現場で使われる化学物質は6万種類に上る。日常用品から特殊な工業製品 まで幅広く用いられているが、現場ではリスクがつきまとう。今回の労災事件を受けて、厚生労働省は昨年10月、胆管がんの原因物質 「1、2ジクロロプロパシ」を労働安全衛生法に基づく使用規制の対象物質に加えた。
人体に有害な高リスクの規制物質はポリ塩化ビフエニール(PCB)など117物質となったが、他の物質が必ずしも安全というわけではない。危険性や有害性が十分に把握されておらず、使用量や使用状況によっては健康被害を引き起こす恐れがある。
厚労省化学物質対策課によると、化学物質が絡む過去10年ほどの労災事件を調べたところ、急性中毒や火災をもたらした事件の少なくとも4割が、慢性障害による疾病を起こした事件の3割が、規制外の物質が原因だった。「規制外の物質であっても事業者は有害性の把握に努め、対策を取るのが安全衛生の原則」と担当者は言う。
今回の事件の実態を調べた産業医科大の熊谷信二教授(労働環境学)は「規制外の化学物質を使って健康被害を招いた場合でも、予見可能性の有無に関係なく、事業者に結果責任があることを明確にする必要がある。そうすれば、化学物質の安易な使用を防ぐことができる」と話している。 (足立耕作、後藤泰良)

胆管がん労災事件
1996~2012年、校正印刷部門に在籍した約70人のうち17人が胆管がんを発症。12年3月に元従業員らが労災申請して発覚した。厚労省が胆管がんの原因と推定した化学物質「1、2ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」を含むインク洗浄剤は印刷会社で広く使われ、89人が労災申請し、10都道府県の34人(今年8月現在、15人が認定時死亡)が認定されている。

朝日新聞 2014年10月23日

胆管がん 全面和解/補償金1人千数百万円 会社側陳謝(読売新聞2014年10月23日)

胆管がん 全面和解/補償金1人千数百万円 会社側陳謝
遺族ら「国も被害発生の責任」

大阪市の校正印刷会社「SANYO-CYP」で現・元従業員17人が胆管がんを発症(うち9人死亡)した問題で、14人の遺族らでつくる被害者の会と同社は22日、同社側が死亡者の遺族や生存患者に1人当たり1000万円超の補償金を支払うことで全面的に和解したと発表した。先に和解した従業員らを含め全被害者への補償がまとまった。両者がそれぞれ記者会見し、被害者の会は「同種被害の再発を防ぐため、労働行政による対策を全国で徹底してもらいたい」と強調した。

和解合意は9月25日付。先に和解した3人は昨年9月、在職中に死亡した1人の遺族に1000万円、従業員2人に各400万円の補償額で合意したが、同社によると全被害者17人について1人当たり千数百万円となるよう上積みし、すでに大半を支払ったという。
大阪市内で開かれた被害者の会の会見には遺族ら6人が出席。2年前に発症し、胆管を摘出した元従業員の本田真吾さん(33)は今も抗がん剤を服用し、再発の恐怖が頭をよぎるという。「安全対策を徹底するのが経営者の責任。国も企業への監視を強化してほしい」と求めた。
在職中の昨年5月に亡くなった男性(当時44歳)の姉(50)と妹(40)は初めて会見に参加。「家族の時間はずっと止まったままで何も終わっていない」と言葉を絞り出した。
同会の片岡明彦事務局長は「企業には安全性が不明な化学物質の使用を控えるようお願いしたい。国にも被害発生の責任の一端があ」る。今後の法規制や監督のあり方に工夫と強化を」と要望した。
一方、同社の記者会見では、この日、社長を辞任した山村悳唯(とくゆき)氏が「大変申し訳なく、厳粛に受け止めている」と陳謝。労働安全衛生法違反(産業医の未選任など)で略式起訴された同社と山村氏が起訴事実を認め、罰金各50万円を納付したことを明らかにした。新社長に就いた山村氏の次男、健司氏は「信頼できる会社、安全安心に勤務できる職場を目指したい」と話した。

読売新聞 2014年10月23日

(2014年秋-2)につづく

安全センター情報2014年12月号