能力発揮に重大な悪影響が生じる等看過できない程度の支障が生じる言動~あらゆるハラスメントを許さない取り組みを

カスハラ・求職者等セクハラで法改正

「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が、2024年2月29日から同年8月1日まで11回開催され、同年8月8日に「報告書」が公表された。続いて、雇用環境・均等分科会で検討が行われ、2024年12月26日に労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」が行われた。これをもとに労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部を改正する法律案要綱が作成され、2025年1月24日の第80回雇用環境・均等分科会及び1月27日の第174回安全衛生分科会に諮問されて、「妥当と認める」と答申された。主な内容は、以下のとおり。

Ⅰ 労働施策総合推進法の一部改正

① 職場における労働者の就業環境を害する言動に関する規範意識を醸成するための国による啓発活動
② 治療と就業の両立支援対策
③ 職場における顧客等の言動に起因する問題[カスタマーハラスメント(カスハラ)]に関して雇用管理上講ずべき措置等
④ 職場における顧客等の言動に起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務

Ⅱ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)の一部改正

⑤ 求職活動等における性的な言動に起因する問題[就活セクシュアルハラスメント(セクハラ)]に関して事業主が講ずべき措置等
⑥ 求職活動等における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務
⑦ 男女雇用機会均等推進者
Ⅲ 女性の職業活動における活躍の推進に関する法律の一部改正

改正法案は、衆議院で、③に関して雇用管理上の措置の例示の追加、及び、特定受託事業者が受けた業務委託に係る顧客等の言動に起因する問題に関する施策の検討、を加える修正が加えられたうえで6月4日に成立、6月11日に公布された。施行期 日は、①等が公布の日、②等が2026年4月1日、それ以外は2026年10月1日とされた。

6つのハラスメント防止指針

本号では、主に②及び⑤について紹介するが、2026年2月26日に以下の指針が定められている。

  • 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)に基づく「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[カスハラ指針]
  • 男女雇用機会均等法に基づく「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[求職者等セクハラ指針]

すでに4つのハラスメント防止措置が法律によって事業主に義務づけられており、以下のように、事業主が講ずべき措置等を定めた指針が策定されていた(いずれも2020年策定・改訂が最新版)。

  • 男女雇用機会均等法に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[セクハラ指針]
  • ・ 男女雇用機会均等法に基づく「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[マタハラ指針]
  • ・ 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児介護休業法)に基づく「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」[ケアハラ指針]
  • ・ 労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[パワハラ指針]

また2022年に、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」[カスハラマニュアル」が示されていた。

※各指針については、
職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
参照

従来のハラスメントの定義

ハラスメントの定義は、各々以下のとおりである(丸数字・下線は編集部による)。
セクハラ(職場におけるセクシュアルハラスメント)とは、「①職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの[対価型セクシャルハラスメント]、または、②当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されるもの[環境型セクシャルハラスメント]」をいう。
マタハラ(職場における妊娠、出産等に関するハラスメント)とは、「職場において上司又は同僚から行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠・出産に関する言動[状態への嫌がらせ型]、または、妊娠・出産に関する制度・措置の利用に関する言動[制度等の利用への嫌がらせ型]により当該女性労働者の就業環境が害されるもの」をいう。
ケアハラ(職場における育児休業等に関するハラスメント)とは、「職場において上司又は同僚から行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業制度等の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されるもの」をいう。
パワハラ(職場におけるパワーハラスメント)とは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」。
マタハラ・ケアハラ指針は、「なお、勤務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては…該当しない」、パワハラ指針は、「なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については…該当しない」としている。

第三者によるハラスメント

これらのうちセクハラ指針のみが、「当該言動を行う者には、労働者を雇用する事業主(その者が法人である場合にはその役員)、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主またはその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等もなり得る」と明記している。顧客や取引先など第三者からのセクシャルハラスメントは、セクハラ指針に定められた措置義務の対象である。
マタハラ・ケアハラ指針は、第三者によるハラスメントを対象にしていない。
他方、パワハラ指針は、「取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にはその役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備及び被害者への配慮のための取組を行うことが望ましい」としている(「行うことが望ましい取組」のひとつ)。「取引先等からのパワーハラスメント」と「顧客等からの著しい迷惑行為」とを使い分けているが、前者は、「優越的な関係を背景とした言動」を想定して「パワーハラスメント」としたものだろう。
このパワハラ指針の指摘も踏まえて策定されたカスハラマニュアルは、「企業や業界により、顧客等への対応方法・基準が異なることが想定されるため、カスタマーハラスメントを明確に定義することはできないが、企業へのヒアリング調査等の結果、企業の現場においては以下のようなものがカスタマーハラスメントであると考えられている。
『①顧客等からのクレーム・言動のうち、②当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、③当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの』」

カスハラの定義

新たに策定された指針では、カスハラ(職場におけるカスタマーハラスメント)とは、「職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」。「なお、顧客等からの苦情の全てが職場におけるカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない」とされた。
「顧客等」とは、「顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客も含む。)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者も含む。)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者を指し、例えば、以下の者等が含まれる。

  • 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
  • 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
  • 取引先の担当者
  • 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
  • 施設・サービスの利用者及びその家族
  • 施設の近隣住民 」

前述のようにパワハラ指針が、「取引先等からのパワーハラスメント」と「顧客等からの著しい迷惑行為」とを使い分け、カスハラマニュアルは、「顧客や取引先など」と説明し、最後のほうで言わば別扱いのように「取引先企業とのトラブルについて」述べているほかは、取引先を少なくとも一般的には「顧客等」に含めてはいないようにも思われたのだが、ここでは取引先も含まれている。
カスハラ指針では、「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動とは、「社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものを指す」としたうえで、以下のように解説している。
「この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、当該言動の行為者とされる者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。また、『言動の内容』及び『手段や態様』に着目し、総合的に判断することが適当であり、『言動の内容』、『手段や態様』の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得ることに留意が必要である。加えて、社会通念上許容される範囲を超えるかどうかの判断に当たっては、事業主又は労働者の側の不適切な対応が当該言動の原因や背景となっている場合もあることにも留意する必要がある。
社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型的な例としては、以下のイ及びロのものがあるが、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、イ及びロに掲げるものは限定列挙ではないことに十分留意し、4.ロにあるとおり広く相談に対応するなど、適切な対応を行うようにすることが必要である」(以下は項目のみ記載)。

イ 言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
③ 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
④ 不当な損害賠償要求
ロ 手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
③ 威圧的な言動
④ 継続的、執拗な言動
⑤ 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

参考までに、パワハラ指針では、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる」としている。

  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

なお、「職場におけるカスタマーハラスメントには、店舗及び施設等において対面で行われるもののみならず、電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれる」ことを明記しているが、この点は、他のハラスメント指針にも当てはまる。

求職者等セクハラの定義

求職者等セクハラ(求職活動等におけるセクシュアルハラスメント)とは、「事業主が雇用する労働者による性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害されるものをいう」とされた。
「求職活動等」とは、「求職者が行う求職活動や求職者に類する者が行う職業の選択に資する活動を指し、例えば以下のものが含まれる。なお、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれる。また、事業主が雇用する労働者が通常就業している場所で行われるものに限らない。

(求職活動等の例)

  • 企業の採用面接への参加
  • 企業の就職説明会への参加
  • 企業の雇用する労働者への訪問
  • インターンシップへの参加
  • 教育実習、看護実習等の実習の受講」

「求職活動等におけるセクシュアルハラスメント」とは、「求職活動等において行われる求職者等の意に反する性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害され、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度の支障が生じることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。

イ 少人数の説明会において、労働者が求職者等の腰、胸等に触ったため、当該求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。
ロ 企業が実施するインターンシップにおいて、労働者が求職者等に対して性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行ったため、当該求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと。
ハ 企業が実施するインターンシップにおいて、性的な内容を含むポスターの掲示や画面の表示等を行っているため、求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと。
ニ 面接中、面接官を務める労働者から性的な事実に関する質問を受け、求職者が苦痛に感じてその求職活動の意欲が低下していること。
ホ 求職者等が労働者への訪問を行った際、当該労働者に性的な関係を求められ、当該求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。
ヘ インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗しつように私的な食事に誘い、当該求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。 」

ハラスメントの一般定義

「労働施策総合推進法第4条第15号において、国は『職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること」に総合的に取り組まなければならないとされている。これは、現在、事業主の雇用管理上の措置義務とされている『セクシュアルハラスメント』、『妊娠・出産等に関するハラスメント』、『育児休業等に関するハラスメント』、『パワーハラスメント』以外のハラスメントも含め労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進することを国に求めるものであり、国はハラスメント対策に総合的に取り組む必要がある」(雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書)。
下線部は「ハラスメント問題」の一般定義に当たるものととらえられる。前述した対価型セクハラ及び求職者等セクハラの定義では、「就業環境を害する」という言葉は使われていないが、全体として以下のように整理することができる
「労働者の就業環境が害される」について、パワハラ指針は、「労働者が、人格や尊厳を侵害する言動により身体的・精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す」、カスハラ指針は、「当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す」としている。
セクハラ指針には、環境型セクハラの説明として、「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」という記述がある。
マタハラ・ケアハラ指針では、「言動により就業環境が害されるものの…典型的な例」として、①解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの、②制度等の利用の申出等又は制度等の利用を阻害するもの、③制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの、をあげ(「状態への嫌がらせ型」マタハラでは、②はなく、③は「妊娠したことにより嫌がらせ等をするもの」)、いずれも③の説明として、「客観的にみて、言動を受けた女性労働者の能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等当該女性労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなものが該当する」という記述がある。
ここでは、「不利益な取扱い」も「言動により就業環境が害されるものの…典型的な例」のひとつとされており、「言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの」である(「就業環境を害する」という言葉が使われていない)対価型セクハラについても、同様にとらえることも可能であろう。
求職者等セクハラ指針も、「就業環境を害する」という言葉は使われていないが、前述のとおり、求職者等セクハラとは、「言動により求職者等の求職活動等が阻害され、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度の支障が生じること」とされる。
そうすると、6つの指針を通じて、「言動により…能力の発揮に重大な悪影響が生じる等…看過できない程度の支障が生じること」が最大公約数であり、これに、「不快」、「(示唆を含め)不利益な取扱い」、「制度の利用/求職活動等の阻害」、「継続就業に重大な悪影響」を組み合わせることで、現行の関連指針体系のもとで「ハラスメントの一般定義」を構成することができそうである。これは、よりよい「ハラスメントの一般定義」を確立のために努力する必要がないということではなく、現行の考え方のもとでハラスメント対策の拡大・前進に活用することができるのではないかという提起である。
ただし、パワハラ・カスハラ指針だけは続けて、「この判断に当たっては、『平均的な労働者の感じ方』すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である」とする。他の指針にはない記述なので留意しておきたい。
なお、今回の法改正によって、労働施策総合推進法第4条第4項として、以下のように定められた。「国は、第1項第15号に規定する施策の充実に取り組むに際しては、何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行つてはならないことに鑑み、当該言動が行われることのない就業環境の形成に関する規範意識の醸成がなされるよう、必要な啓発活動を積極的に行わなければならない」。
「何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行つてはならないこと」自体を、法律上明定すべきである。
また、この改正は、事業主に取り組みを義務づけたものでもないが、あらゆるハラスメントを許さないという考え方と取り組みにつながることを期待したい。

事業主と労働者の責務

従前の4つのハラスメント指針は、事業主及び労働者の責務について、以下の共通した内容で規定していた。

〇事業主の責務

法の規定により、事業主は、職場におけるハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因する問題(「ハラスメント問題」)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。「労働者の責務」において同じ)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない。なお、職場におけるハラスメントに起因する問題としては、例えば、労働者の意欲の低下などによる職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得ること、これらに伴う経営的な損失等が考えられる。
また、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、ハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む)に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

〇労働者の責務

法の規定により、労働者は、ハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めなければならない。
カスハラ指針では下線部分が「他の事業者が雇用する労働者」、求職者等セクハラ指針では「求職者等」に変わっているほかは、まったく同じ内容が新たな2つの指針にも含まれている。

事業主が講ずべき措置

従来の4つのハラスメント指針が定める、事業主がハラスメント問題に関し雇用管理上講ずべき措置は10項目あって、以下の①~⑩のようにほぼ共通した内容で、かつ、措置を講じていると「認められる例」を示している(以下では省略)。カスハラ指針及び求職者等セクハラ指針の対応状況をみておこう(「同内容」とは、従来の4つの指針の規定と同じ内容であることを意味している)。

(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

措置① 方針の明確化と周知・啓発

職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
カスハラ指針-「職場におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。また、[その]旨の方針を顧客等に周知・啓発することも、被害の防止に当たっては効果的と考えられる。」
求職者等セクハラ指針-同内容。

措置② 行為者に対処する方針の規定等

職場におけるハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
カスハラ指針-「言動を行った者への対処」ではなく、「ハラスメントへの対処」として規定。
「職場におけるカスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた職場におけるカスタマーハラスメントへの対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知すること。
対処の内容については、職場におけるカスタマーハラスメントが発生し、その場で労働者から管理監督者等に報告があった場合や管理監督者等が現認した場合は、当該管理監督者等が直ちに適切な対応を行うことが必要な場合もあることを踏まえ、その内容を定めること。
また、当該事業所において発生しやすい職場におけるカスタマーハラスメントの例や、商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが職場におけるカスタマーハラスメントの発生の原因や背景となり得ることを併せて周知することも考えられる。
対処の内容の例としては、次のようなものがある。
ただし、次の例は限定列挙ではなく、各事業主が、労働者の状況等の実態に応じた対処の内容を定めること。

  • 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。
  • 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること。
  • 顧客等とのやり取りを録音・録画すること。なお、録音・録画に当たっては個人情報の保護に関する法律等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと。
  • 労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること。
  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。
  • 現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと。
  • 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること。」

求職者等セクハラ指針-同内容。

求職者等セクハラ指針は、「求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、これを労働者及び求職者等に周知・啓発すること」を新たな措置内容として追加した。

(2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

措置③ 相談窓口の設定・周知

相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
カスハラ指針-同内容。「なお、職場における他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置をすることも考えられる」と付記。
求職者等セクハラ指針-同内容(ただし、労働者からの相談ではなく、求職者等からの相談、以下同じ)。「なお、求職者等は人事担当者への相談をためらうことも想定されることから、相談窓口の担当者として人事担当者以外の者を指定することも考えられる」と付記。

措置④ 相談への適切な対応の確保

相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合等が考えられること。
カスハラ指針-同内容。
求職者等セクハラ指針-同内容(ただし、職場におけるハラスメントではなく、求職活動等におけるセクシュアルハラスメント、以下同じ)。

(3) 職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

措置⑤ 事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認

事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
※セクハラ指針では、「行為者が、他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)である場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認への協力を求めることも含まれる」とのなお書きあり。
カスハラ指針-同内容+セクハラ指針と同内容のなお書き。
求職者等セクハラ指針-同内容。

措置⑥ 被害者に対する配慮のための措置

措置⑤により、職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(被害者)に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
カスハラ指針-同内容。
求職者等セクハラ指針-同内容。

措置⑦ 行為者に対する措置

措置⑤により、職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。
カスハラ指針-措置⑧の後、(3)と(4)の間に、以下の内容の「(4)職場におけるハラスメントへの対応の実効性」を新設。
「事業主は、職場におけるカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならない。
なお、特に悪質と考えられるものへの対処の例としては次のようなものがあるが、当該方針に記載する対処の内容を検討するに当たっては、各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに留意しつつ、それぞれの状況に応じた方針を定めることが効果的である。

  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。
  • 行為者に対して警告文を発出すること。
  • 法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと。
  • 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること。
  • 民事保全法(平成元年法律第91号)に基づく仮処分命令を申し立てること。」

求職者等セクハラ指針-同内容。

措置⑧ 再発防止に向けた措置

あらためて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。なお、職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。
カスハラ指針-「改めて職場におけるカスタマーハラスメントに関する方針を周知・啓発し、必要な場合には、職場におけるカスタマーハラスメントの発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善を図る等の再発防止に向けた措置を講ずること。その際、必要に応じて、接客等における慣行の見直しなどの職場環境の改善や組織風土の見直しを行うことも考えられる。
あわせて、必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられる。
なお、職場におけるカスタマーハラスメントに係る言動の行為者が、他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)である場合には、必要に応じて、他の事業主に再発防止に向けた措置への協力を求めることも含まれる。
また、職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。」。
求職者等セクハラ指針-同内容。

(4) 併せて講ずべき措置

措置⑨ プライバシーの保護

職場におけるハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該ハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。
カスハラ指針-同様の内容(「相談者・行為者」が「相談者等」)。「なお、相談者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれるものであること」を付記。
求職者等セクハラ指針-同内容。

措置⑩ 相談等を理由とした不利益取扱いの禁止

労働者が職場におけるハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
カスハラ指針-同内容。
求職者等セクハラ指針-同内容。

他の事業主への協力

カスハラ指針は、以上の「事業主が講ずべき措置」と次の「行うことが望ましい取組」の間に、以下の内容の「他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力」を新設した。
「[労働施策総合推進]法第33条第3項の規定により、事業主は、当該事業主が雇用する労働者又は当該事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)による他の事業主の雇用する労働者に対する職場におけるカスタマーハラスメントに関し、他の事業主から、事実関係の確認等の雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、次の措置を講ずるよう努めなければならない。

(1) 事業主は、他の事業主からの協力の求めに応ずるように努めなければならない。
また、同項の規定の趣旨に鑑みれば、事業主が、他の事業主から雇用管理上の措置への協力を求められたことを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないものである。
(2) 事業主は、他の事業主からの協力の求めに応じて、労働者へ事実関係の確認等を行うに当たっては、これに協力した労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いを行わない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。
加えて、事実関係の確認により、職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、事業主は、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましい。」
求職者等セクハラ指針-規定なし。

行うことが望ましい取組

従来の4つのハラスメント指針はさらに、「言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容」を、以下の①~④のように、ほぼ共通した内容で規定していた(パワハラ指針は、25頁左段で紹介した取組も規定している)。

取組① 職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産等に関するハラスメント、育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントが複合的に生じることも想定されることから、事業主は、例えば、一体的に相談窓口を設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましい。
カスハラ指針-前出のとおり、措置③に付記。
求職者等セクハラ指針-規定なし。

取組② 措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合の参画を得つつ(衛生委員会の活用も考えられる)、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である。
カスハラ指針-「措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である。なお、労働者や労働組合等の参画を得る方法として、例えば、労働安全衛生法第18条第1項に規定する衛生委員会の活用なども考えられる。」
求職者等セクハラ指針-規定なし。

取組③ 「職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため」、ケアハラ・マタハラ指針では「労働者への周知啓発すること」、パワハラ指針では「コミュニケーションの活性化や円滑化、適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組を行うこと」が「望ましい」。セクハラ指針には、該当する規定なし。
カスハラ指針-「事業主は、職場におけるカスタマーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、次の取組を行うことが望ましい。
なお、取組を行うに当たっては、労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図ることは、職場におけるカスタマーハラスメントの被害者になることを防止する上で重要であることや、顧客等からの社会通念上許容される範囲で行われる正当な申入れについては、職場におけるカスタマーハラスメントには該当せず、労働者が、こうした正当な申入れを踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要であることに留意することが必要である。
イ 労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図るために研修等の必要な取組を行うこと。
ロ 労働者が顧客等への理解を深めるために必要な取組を行うこと。」
求職者等セクハラ指針-規定なし。

取組④ セクハラ・マタハラ・パワハラ指針…事業主は、措置①の職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。また、これらの者から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、上記の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。ケアハラ指針には、該当する規定なし。
カスハラ指針-規定なし。
求職者等セクハラ指針-「3の事業主及び労働者の責務の趣旨に関連し、求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為、求職活動等における妊娠、出産等に関するハラスメントに類する行為及び求職活動等における育児休業等に関するハラスメントに類する行為(以下「求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等」という。)について、事業主は、当該事業主が雇用する労働者の求職者等に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、求職者等に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4(1)イの求職活動等におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
また、求職者等から、求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等に関すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。
その際、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針2(7)に規定される職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる例を踏まえ、求職者等の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うこと、求職者等の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該求職者等の了解を得ずに他の者に暴露すること又は当該求職者等が開示することを強要する若しくは禁止すること等についても、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。」

なお、カスハラ指針では、「行うことが望ましい取組」として、⑬、⑫の次に続けて、以下の2つを挙げている。

「(3)職場におけるカスタマーハラスメントは、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては重要である。また、同じ業種・業態等の複数の事業主が一体となって取組を行うことも考えられる。
(4) 労働者が取引の相手方に対して職場におけるカスタマーハラスメントに係る言動を行う場合もあることから、3のとおり、事業主及び労働者の責務として、事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の事業主が雇用する労働者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、他の事業主が雇用する労働者に対する言動について必要な注意を払うよう努めなければならず、こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4.イの職場におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針の明確化等を行う際に、他の事業主が雇用する労働者に対する言動について、職場におけるカスタマーハラスメントを行ってはならない旨の方針を併せて示すことが望ましい。」

また、求職者等セクハラ指針では、「行うことが望ましい取組」として、⑭の他、以下を挙げている。

「(2)事業主は、求職者等から、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者による求職活動等におけるカスタマーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。」

あらゆるハラスメントに統一的に対応

2022年のカスハラマニュアルは、従来の指針に定められた事業主が講ずべき措置等との対応関係に大きく問題があった(2022年5月号参照)。今回の新たな2つの指針は、新設や変更等はなされているものの、構成上は基本的に対応している。
6つのハラスメント指針、及び6つの指針の対象に含まれない(かもしれない)あらゆるハラスメントに統一的に対応していくという面に限ってみれば、取り組みやすくなったと言えそうで、取り組みが進むことを大いに期待したい。

ハラスメントの防止措置等

ただし、現行の事業主が講ずべき措置等の構成が妥当かどうかは別の問題である。とりわけ、指針の雇用管理上講ずべき措置を、厚生労働省はリーフレットなどで「防止措置」と呼んでいるのだが、「防止措置」と呼べるかどうか自体に疑問が残る。
「防止措置」について、ILO暴力・ハラスメント条約第9条は、要旨次のように規定している。

「仕事の世界における暴力・ハラスメントを防止し、及び合理的に実行可能な限り、特に次のことを行うため、自らの管理の水準に応じた適当な手段を講ずることを使用者に要求する法令を制定する。
(a) 暴力・ハラスメントに関する職場における方針を策定し、実施すること。
(b) 労働安全衛生マネジメント(管理)において暴力・ハラスメント及び関連する心理社会的リスクを考慮に入れること。
(c) 暴力・ハラスメントのハザードを特定し、及び暴力・ハラスメントのリスクを評価すること並びに暴力・ハラスメントを防止し、及び管理するための措置を講じること。
(d) 労働者その他の関係する者に対し、暴力・ハラスメントの特定されたハザード及びリスク並びに関連する防止措置及び保護措置に関し、情報を提供し、及び訓練を行うこと。」

日本のハラスメント指針・マニュアルでは、このうちの(a)の「職場における方針」しかカバーされていないのではないだろうか。
「職場における方針の策定・実施」以外の内容は、「リスクアセスメントの実施とその結果に基づき必要な防止・管理措置を講じること」と要約することができる。
労働安全衛生法令によってすでにそれが使用者に義務づけられ、また、暴力・ハラスメントを含めた心理社会的リスクも対象に含まれているのであれば、新たな法令は必要ないかもしれない。しかし、「労働に関連するあらゆる側面において労働者の安全と健康を確保する」ことが使用者に義務づけられ、暴力・ハラスメントを含めた心理社会的リスクも対象に含まれることに争いのない欧州でも、心理社会的リスクに関する新たな指令の必要性が議論されていることを、本誌は紹介してきた。
わが国の状況はと言うと、「リスクアセスメントの実施とその結果に基づき必要な防止措置を講じること」は、危険有害化学物質に関しては義務となったものの、それ以外では努力義務にとどまっている。しかも化学物質以外のリスクについては、常時使用する労働者の数で裾切りがある(建設業・運送業等は100人以上、製造業等は300人以上、その他の業種は1,000人以上)。対象は、「建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因するリスク」とされ、リスクアセスメント指針で「労働者の就業に係る全てのものを対象とする」としているので、心理社会的リスクも含まれ得るのだが、心理社会的リスクを評価して対策を講じる慣行はないに等しいと言わざるを得ない。
わが国では、ハラスメント指針等に国際的に通用する内容での「防止措置」を定めるととともに、労働安全衛生法令等に「リスクアセスメントの実施とその結果に基づき必要な防止・管理措置を講じること」があらゆるリスクを対象とした基本原則であることを明確にすることの両方が必要と考える。
なお、心理社会的リスク要因の分類例としては、暴力・ハラスメント等を含めた社会的環境のほかに、職務内容、労働強度、職務の自律性、労働時間のアレンジ、雇用保障やキャリア開発等もあげられる。定義についての議論でもふれたが、(とりわけ専門の担当者・部署を含め、「クレーム」や「要求」対応において)ハラスメントとその他の要因を区別及び包含するアプローチが重要である。
最後になってしまったが、ILO暴力・ハラスメント条約第2条(a)項が規定するように、「暴力及びハラスメントを法令で禁止すること」が日本でも求められることは言うまでもない。

安全センター情報2026年6月号