労働におけるアスベスト関連安全衛生リスク管理のためのガイドライン/2025.12.18 欧州委員会

5 アスベストの確認

5.1 はじめに

効果的なリスク評価には、アスベストまたはアスベストを含有する物質(MCAs)の存在の包括的かつ信頼できる確認が必要である、付録4参照。その目的は、すべてのアスベスト及びMCAsが正しく確認されることを確保し、それによってリスク評価及び管理に対する効果的なアプローチを支援することである。多くの場合、信頼できる確認には、建物所有者など、その他の関係者との広範な調査及びコミュニケーションが必要であり得る。
アスベストの確認は、建物内での曝露だけでなく、アスベストまたはMCAsへの曝露が発生する可能性のあるその他のすべての部門にも関連する。以下のセクションにおいて、「施設」とは、建物、船舶、車両または設備を含め、アスベストが存在する可能性のあるあらゆる環境を指す。アスベストは、自然環境にも存在する可能性があり、これは自然生成アスベスト(NOA)と呼ばれる。アスベストを含有する岩石は、欧州の様々な地域に存在し得るため、NOA粉じんを空気中に放出し、労働者が曝露される可能性のある、岩石または土壌を攪乱するかもしれない作業を開始する前に、検討されるべきである。
環境、資産または施設内にアスベストまたはMC
Asが存在する疑いがある場合、アスベストが存在すると仮定して、必要な予防的及び保護的措置が講じられなければならない。
本セクションで使用される「資産」という用語は、建物、土木構造物、交通機関、鉱山及び採石場を含む。

5.2 アスベストがみつかる場所

MCAsは、耐熱性、断熱性及び補強性に優れるため、広く使用された。その使用は1920年代に始まり、1950年代から1970年代にかけて西ヨーロッパでより広範な応用が進み、1990年代から2000年代にかけては東ヨーロッパで建築物でのアスベスト利用が全般的により増加し、消費量も高まった(その用途は主にアスベストセメントに関連していた)。
MCAsは、様々な製造業者によって製造され、異なる名称で販売された。したがって、同じ製品が異なる名称で流通している場合がある。
一般的なMCA製品グループには、以下が含まれる。

■ 技術設備及び電気設備
■ 換気装置部品
■ 内装表面材
■ 屋根材
■ 外装材
■ 断熱材及び防火材
■ パネル及びボード
■ 特殊部品及び機器
EUの建設部門で歴史的に使用されてきたMCAsのより詳細なリストは、付録4に記載されている。アスベストは予期せぬ場所にも存在し得るため、このリストは、網羅的ではない。サプライヤー、アスベストの種類及び用途の一覧は、INRS(2014)ED 1475でも入手可能である。
アスベストは、建築用途以外にも使用され、以下の用途が含まれる。
■ 船舶、列車及び車両の部品(ブレーキパッド及びガスケットなど)
■ 産業用機器(耐熱繊維及び断熱パネルなど)
■ 金庫、保安装置、旧式の電気機器及び耐火材料

【囲み5-1:アスベスト及びアスベストを含有する物質の確認】

指令2009/148/EC(AWD[労働におけるアスベスト指令])第11条:
加盟国のアスベスト禁止が発効する前に建設された施設の解体、保守または改修作業を開始する前に、使用者は、アスベストを含有すると推測される物質を確認するために、とりわけ、施設の所有者、他の使用者及び関連する登録を含め、その他の情報源から情報を入手することによって、必要なあらゆる措置を講じなければならない。そのような情報が入手できない場合、使用者は、国の法律及び慣行に従って、資格を有するオペレーターによる、アスベストを含有する物質の存在の調査を確保し、作業の開始前に当該調査の結果を入手しなければならない。使用者は、要求があった場合、本段落で規定される義務を遵守する目的に限って、当該調査の枠内で入手した情報を、その他の使用者に提供しなければならない。
物質または構造物内のアスベストの存在について疑義がある場合、本指令の適用可能な規定が遵守され
なければならない。

これらのアスベスト含有製品は、民間、公共、政府及び商業施設において依然としてみつかり、保守、修理、移転作業時、若しくは破壊的な切断または金庫の非破壊的「精密ドリル開口」などの緊急時に、潜在的なリスクをもたらす可能性がある。効果的な確認は、禁止が実施される前に製造された製品など、アスベスト含有製品に関する歴史的知見に支援された、詳細なプロファイリングから始まる。
一部のMCAsは、攪乱されずに放置すれば繊維を放出する可能性が低い場合もあるが(付録4参照)、損傷または撹乱された場合若しくは保守または改修作業中に、繊維を放出する重大な可能性を持ち得る。壁への穿孔または床材の張り替えなど、小規模な改修または保守タスクでさえ、重大なリスクをもたらす可能性がある。「フライアブル」[訳注:日本では「飛散性」と訳されている場合が多い]という用語は、容易に崩れたりまたは粉状に砕けたりする可能性のあるMCAsを指すために用いられてきた。これは、その他の条件が同じであれば、フライアブルMCAsはノンフライアブルMCAsよりも危険性が高いことを意味している。フランスでは、誤解及び誤ったリスク評価を避けるために、フライアブルとノンフライアブルの区別は廃止されている、囲み5-2参照。ある研究では、粉じんレベルは、物質のフライアビリティよりも、使用される方法及び工具の影響をより強く受けることが判明している。
MCAsを確認する場合、目視可能なものだけでなく、改修または保守作業中に攪乱される可能性のある目視不可能な物質(アスベストセメント製品またはテクスチャーコーティングなど)も考慮されるべきである。MCAsはノンアスベスト物質と外観が同一である可能性があるため、アスベストの存在を判定するには、目視による識別のみでは信頼できない。MCAsの存在に関する情報が得られない場合、使用者は、作業開始前に、資格を有するオペレーターのサービスを利用して、MCAsの存在を調査させ、この調査結果を入手しなければならない。

【囲み5-2:フランス-フライアブル及びノンフライアブル・アスベストの区別なし】[省略]

アスベストが予想外の場所に存在する可能性は、アスベストの確認及び管理に対する徹底的かつ体系的なアプローチの重要性を強調している。このアプローチは、一般的にアスベスト使用と関連づけられていないもの、または床下空間及び屋根裏など通常はアクセスされないものを含め、建物、敷地、施設または設備の全領域を対象とすべきである。
参照されるべき情報源には、歴史的知識または文書を保有している可能性のある現在及び過去の所有者が含まれる。発注者及びプロジェクト監督者も、アスベストの存在に関する関連情報を有している可能性があるため、協議されるべきである。過去に当該施設で作業を行ったことのある他の使用者、及び入手可能な国または地方のアスベスト登録も考慮されるべきである。
包括的な確認、インベントリ及び登録を確保するために、機器または作業場は、定期的に更新及び保守されるべきである。これには、建物、敷地または機器の全体における、MCAsの位置、種類及び状態に関する詳細情報が含まれるべきである。確認されなかった劣化しているMCAsは、職場環境に繊維を放出し、存在するすべてのスタッフを曝露させる可能性があることから、これは、とりわけ労働者への受動曝露のリスクを低減するために重要である(セクション7参照)。
アスベストインベントリは、評価の目的及び資産の将来計画がすでに決定されているかなどの要因によって、範囲及び重点が異なる場合がある。図5-1に、アスベストインベントリの例を示す。例えば資産が解体または改修予定の場合、インベントリは通常、安全な作業環境の確保及び適切な廃棄物管理の支援のためにアスベストを確認することに重点を置く。
その他のケースでは、評価の目的は、使用中の資産にアスベストが存在するかどうかを判定し、占有期間中に物質を適切に除去または管理できるようにすることである。物質が存在し続けている間は、確認されたMCAの状態を定期的に監視することが重要である。
所有者/使用者の目的及び具体的なニーズに応じて、双方のタイプの評価を実施することが可能である。

【図5-1:場所、位置、建築構造部分及び物質別アスベストの存在を確認するためのインベントリの例】[省略]

連する加盟国のアスベスト禁止前に建設された施設に対する解体、保守または改修作業を開始する前に、使用者は、とりわけ所有者、その他の使用者及び関連する登録などの情報源から情報を入手することによって、推測されるMCAsを確認するために必要なあらゆる措置を講じなければならない。そのような情報が得られない場合、使用者は、国の法律及び慣行に従って、資格を有する者による施設の調査を手配しなければならない。これは、健康及び安全を守るための予防的及び保護的措置の適切な計画及び実施の確保を援助する。使用者は、要請に応じ、調査結果をその他の使用者が入手できるようにしなければならない。

5.2.2 自然生成アスベスト

NOAは、土壌または岩石中に存在し、多様な色の不均一な脈状鉱床として発生することがある。青(クロシドライト)、茶(アモサイト)、緑(アントフィライト、トレモライト、アクチノライト)、白(クリソタイル、トレモライト、アクチノライト)。ただし、鉱物の色調はきわめて変動しやすく、母岩または土壌に依存する。重要な点として、岩石中のNOAは、肉眼では必ずしも確認できないことがある。
NOAは、蛇紋岩などの超苦鉄質岩及び断層帯付近に堆積物としてしばしば存在する。トレモライトアスベストは、クリソタイル、バーミキュライト及びタルクの鉱床に混在することがある。
NOA鉱床には、1種類以上の繊維配向脈が含まれることがある。3種類のアスベスト繊維配向脈には、以下が含まれる。

■ クロスファイバーアスベスト:繊維が岩脈/貫入岩体に直交し、岩脈/貫入岩体壁に対してほぼ直角に存在する。
■ スリップファイバーアスベスト:剪断帯内の岩脈状構造内に繊維が形成される。
■ マスファイバーアスベスト:繊維束が塊状の岩石中に混在する。
【図5-2:メタガブロス中のアクチノライト-アルバイト脈(フランス)】[省略]
【図5-3:蛇紋岩質岩石上に形成されたクリソタイル(フランス)】[省略]
【図5-4:蛇紋岩質岩石中のクリソタイル横脈(フランス)】[省略]
【図5-5:トレモライトアスベストを含むアルミノマグネシウム質メタガブロ岩】[省略]
アスベストを含有する岩石が繊維を放出する能力は、岩石中の繊維含有量、破砕密度、岩石の脆性、人間活動の種類及び強度、並びに撹乱の程度など、様々な独立した要因の影響を受ける。時間の経過に伴う環境変化も、繊維放出の可能性に影響を及ぼし得る。

5.3 EU加盟国におけるアスベスト禁止

EUレベルでは、アスベストの使用は様々な理事会指令により禁止され、意図的に添加されたアスベストの禁止が、2006年よりREACH附属書XVII項目6のもとで導入された。
表5-1は、6種類のアスベストすべての製造、輸入及び使用が各加盟国で禁止された年を示している。ただし、禁止の実施後に移行期間が設けられた場合もある。したがって、これらの日付は慎重に解釈されるべきである。

【表5-1:6種類のアスベストすべての製造、輸入及び使用が禁止された年】[一番早いデンマークとスウェーデンの1986年から一番遅いルーマニアの2007年まで-省略]

非EU諸国は、EU加盟国より遅れて6種類すべてのアスベスト禁止を採用した。これには、ウクライナ(2017年)、モナコ(2016年)、セルビア(2011年)、トルコ(2010年)及びジブラルタル(2007年)が含まれる。ブラジル、中国、インド、ロシア及びアメリカなど一部の国では、アスベストの完全禁止がまだ実施されていない。アスベストの製造、使用及び輸入を現在禁止している国のリストは付録3に記載されている。
アスベストまたはMCAs(付録4参照)の存在を確認する場合、使用者は、以下の潜在的な発生源も考慮すべきである。

■ 表5-1[省略]に記載される年以降の(またはアスベストの全面禁止がここに記載される時期より遅れて導入された国、若しくはいまだ実施されていない国からの)アスベストを含有する物質または製品の無許可輸入
■ 過去に実施された不完全な除去作業(例えば建物または輸送手段からの除去)
■ リサイクル建材に潜在的に含まれるアスベスト
■ 土地及び土壌中のアスベスト汚染
■ アスベスト規制がより緩やかである可能性のある、EU域外で実施された保守または改修作業中に組み込まれたアスベストMCAs-これは、とりわけ、船舶、列車及び航空機などの輸送用手段に関係する(セクション14参照)
■ 禁止前に実施された建設後の改修で導入された可能性があることから、アスベストが広く使われる前に建設された施設にもMCAsを含む可能性

5.4 誰に責任があるか?

アスベスト及びMCAsの確認に関して、異なる関係者により実施される典型的な活動は、具体的な状況及び国の規制に応じて異なる。しかし、アスベストの確認及びリスク評価を含め、作業場におけるアスベスト粉じんへの曝露から生じる職業リスクから労働者を保護することに関しては、責任は使用者に帰属する。

5.4.1 アスベスト/アスベストを含有する物質の存在を評価するためのトリガー

アスベスト及びMCAsは、それらを撹乱する可能性のある作業を開始する前に、確認することが不可欠である。アスベストの確認は、加盟国のアスベスト禁止の発効前に建設された施設に対する解体、保守及び改修を開始する前に実施されなければならない。物質評価のトリガーとなり得る追加的な状況には、所有権の変更(新たな所有者に潜在的なアスベスト関連リスクを知らせるために物質評価を実施することが推奨される場合)、または特定の国の法令に基づく要求事項(特定の条件下で所定の日付までに特定の建物カテゴリーをスクリーニングする義務など)が含まれる。

5.4.2 主な関係者の責任

使用者には、労働に関連したあらゆる側面において労働者の安全及び健康を確保する義務がある。この文脈において、使用者は、アスベストまたはMCAsへの曝露に関連したリスクを確認及び評価しなければならない。加盟国のアスベスト禁止発効前に建設された施設に対する解体、保守または改修作業を開始する前に、使用者は、とりわけ施設の所有者、その他の使用者及び関連する登録を含め、その他の情報源から情報を入手することによって、推測されるMCAsを確認するために、必要なあらゆる措置を講じなければならない。そのような情報が得られない場合、使用者は、国の法律及び慣行に従って、資格を有するオペレーターがMCAsの存在を調査することを確保し、作業を開始する前に当該調査結果を取得しなければならない。使用者はまた、要請に応じて、この義務を履行する目的のみに限り、当該調査を通じて入手した情報をその他の使用者に提供しなければならない。
一部の加盟国(ベルギー(フランダース地域)、フランス及びオランダなど)では、特定の施設所有者が、法的にアスベストインベントリを維持することが義務づけられている。このインベントリは、施設内のMCAsの存在及び位置を確認するためのベースラインとして役立つ。他の加盟国(スペインなど)では、自治体が、アスベストを含有する建物のインベントリの作成に責任を有している。他の加盟国(フランスなど)では、改修または解体作業開始前のアスベスト確認についての責任は、プロジェクト所有者/スポンサーが負う。結果として、複数の関係者が、関連する情報を保持し、努力を調整する場合がある(セクション3.2参照)。

5.5 アスベストを確認する方法

アスベストの確認には、歴史的知識(MCAsについて)または地質学的知識(NOAについて)、目視検査及び科学的分析を組み合わせた、体系的なアプローチが必要である。一般的なアプローチは、常に保守的であるべきであり、すなわち、物質が未確認の場合、とりわけ国のアスベスト禁止前に建設または改修された施設においては、MCAsの存在を仮定する。
物質、製品または構造にアスベストの存在が疑われる場合、(国の法令に移行された)AWDの規定に従わなければならない。国のアスベスト禁止後に建設された施設であっても、違法に輸入された物質または二次建設用MCAsの使用が疑われる場合、MCAsの存在が考慮されるべきである。

5.5.1 アスベストを含有する物質の確認

MCAsを確認するプロセスには通常、以下の手順が含まれる。

■ 建築年、改修履歴及び物質の種類を含め、施設に関する情報の収集、セクション5.6参照。
■ 可能な限り隠れた空間を含め、すべての区域を調査し、徹底的な目視検査を実施するとともに、認証ラボラトリによる疑われる物質のサンプリング及び分析を手配するために、アスベストの確認に関する適切な訓練、資格及び経験を有する資格を有する者または企業を雇う、セクション5.7.2及び5.7.3参照。
■ 確認されたMCAsにラベルを付け、特定サイトのインベントリ若しくは地域または国の登録など、関連するアスベストインベントリを更新する、セクション4.1.3.1.2参照。
これらの手順は、他のセクションでより詳しく説明されているが、以下の原則に留意すべきである。
■ 訓練を受けた専門家であっても、包括的なアスベストインベントリを作成するには、時間及び経験が必要となる場合がある。
■ MCAsはノンアスベスト代替品と同一に見える可能性があることから、目視による確認のみでは信頼性が低い。
■ アクセス不能または検証不能な区域は常に文書化し、インベントリの限界を明記する。
■ アスベストインベントリまたは登録は、生きている文書として扱い、新たな情報が利用可能となり、または現場の状況が変化した場合、随時更新する。
■ 確認されていない、または劣化しているMCAsは、当該資産で働くすべてのスタッフに対して受動曝露のリスクをもたらす。

5.5.2 自然生成アスベストの確認

NOA確認のプロセスは通常以下の手順を含む。

■ 現場の地質的特性を評価するために、地質学者を雇う。NOAを含む可能性のある岩石の種類については、セクション15.3.3.1参照
■ 地質学者による岩石の目視検査を実施する(注:これによって自然生成アスベストの存在を完全に排除できるわけではない)
■ 土壌または岩石サンプルの分析を実施する。
土壌中のアスベストの判定は、空気中のアスベスト繊維の監視ほど確立されていない。土壌中のアスベストを定量するための方法は、他のバルクマトリックス中のアスベストの存在を分析する技術から適応されたもので、一般的に以下の2段階を含む。
■ 低倍率の実体顕微鏡で土壌試料を観察し、目視可能なNOAの塊を除去し、これを秤量して重量百分率を決定する。
■ 塊及び土壌中のNOAを電子顕微鏡(EM)を用いて同定及び定量する。

岩石のサンプリング及び分析手順については、セクション15.3.3.2でより詳しく論じている。

5.6 (情報共有を含め)情報源

アスベストインベントリは、以下のような、その他の情報源からも入手可能であることに留意することが重要である。

■ 当該施設の所有者、義務保持者または建設プロジェクト管理者(特定サイトののアスベストインベントリなど)
■ 当該施設で作業を行ったことのある過去の使用者
■ 利用可能な場合、関連するアスベスト登録(アスベストを含有することが確認されている施設の全国または地域データベースなど)

国または地域の法令により、資産におけるアスベストスクリーニングの実施について、より厳しく規定されている場合もある。
アスベスト登録の確立は、グッドプラクティスとみなされている。一部の加盟国では、特定の施設の所有者は、アスベストインベントリを維持することが法的に義務づけられている(セクション5.4.2参照)。
使用者は、MCAsを撹乱する可能性のある作業を開始する前に、入手可能なすべての情報を積極的に収集すべきである。既存の情報が入手不能、時代遅れまたは不十分な場合、アスベストへの曝露が関わる可能性のある作業を行う前に徹底的な調査が実施されるべきである(セクション5.7.2参照)。
使用者はまた、アスベスト関連情報をその他の使用者と共有し、すべての推測されるMCAsの確認を確保しなければならない。例えば、複数の使用者が同じ場所で作業する場合などが該当する。関係者間の情報共有について、明確な手順が確立されるべきである。一部の加盟国では、使用者間のこうした情報交換について書面による証明を要求する場合がある。コーディネーションの重要性に関するより詳しい情報については、セクション3.2参照。
解体及び改修の文脈において、もうひとつの関連する概念が、解体前検査または改修前検査(PD
AまたはPRA)である。これは通常、建設作業の所有者によって委託され、(解体業者ではない)第三者によって実施される。その結果として、それらの管理及び回収の選択肢とともに、解体及び改修プロジェクトから発生すると予想される物質、建材及び廃棄物のインベントリが作成される。
PDAs及びPRAsは、広範な範囲をカバーし、有害物質(アスベスト及び金属や有機物質などのその他の汚染物質)、及び、解体/改修作業前または作業中に回収可能な資源の双方を確認する。その主な目的は、労働安全衛生ではなく、環境保護(資源の回収、廃棄物及び環境影響の最小化を含む)である。にもかかわらず、それらは、アスベスト確認のための広範な戦略内において、有用なツールとして機能し得る。

5.7 アスベストを確認するための試料の採取

5.7.1 誰が試料を採取すべきか?

MCAsの確認のための物質評価には、適切な資格を有するオペレーターの専門技能が必要である。その資格要件は、加盟国によって異なり、国の法令を遵守しなければならない。ベルギーのフランダース地方、フランス、イタリア、オランダなどの加盟国では、アスベストオペレーター向けの特別な認証制度が実施されている。これには、訓練、試験及び継続的評価が含まれる。付録7に記載されている証明及び認証制度も参照されたい。
この分野での能力を維持するために、資格を有するオペレーターは、定期的な訓練及び更新を受けるべきである。資格を有する専門家であっても、実践的な経験を積むには時間を要する場合がある。これは、メンタリング制度を通じて支援可能であり、新規オペレーターが、監督下で経験を積むことを可能とする。例えば、フランスでは、新規のアスベスト確認専門家(理論的及び実践的評価修了後)は、経験豊富な専門家による指導を受ける必要がある。メンターは、最大1年間にわたり、実施される5つの異なるアスベスト確認任務において、メンティーを監督する。このメンタリングは、証明及び認証機関が監督し、首尾よく修了後に当該オペレーターは、ひとりで作業することを許可する能力の証明を取得する。

5.7.2 サンプリングプロトコル

MCA確認のための物質評価は、(利用可能な場合)国のプロトコル及び規格(例えば、ISO 16000-32:2014など)の対象となり得る。これには、集団的及び個人用保護措置の提供が含まれる場合がある(セクション8参照)。
MCAsの確認のための物質評価を実施する方法に関するガイダンスの例は付録9に、サンプリングに対するアプローチの例は囲み5-3に示されている。
物質評価は、資産の年齢及び保守/改修履歴に関する収集情報に基づくべきである、セクション5.6参照。評価には、アクセス可能なすべての区域の徹底的な目視検査、及び、ラボラトリでの分析のための疑われるバルクまたは土壌物質の採取[サンプリング]を含めるべきである、セクション5.7.2.1及び5.7.2.2参照。
例えばアクセスが不可能なため、物質がアスベストを含有するかどうかを判断できない場合、それはアスベストを含有するものとして扱われなければならない。すなわち、これらの区域では、保守または擾乱作業を実施してはならない。
検査は、隠れた物質が攪乱される可能性を考慮しつつ、その使用目的、特定の施設及び計画される作業の種類(保守、改修または解体など)に合わせて調整されるべきである。
サンプリングは、人がいない場所で行われるべきである。これには、稼働時間外(週末など)の作業も含まれる。アクセスは、必要な場合を含め、禁止及び/または警告標識を表示することによって制限されるべきである、セクション8.2.4.1及び付録12参照。

【囲み5-3:サンプリングに対するアプローチの例】[省略]

5.7.2.1 バルクサンプリング

バルクサンプリングは、疑われるMCAsからの試料[サンプル]の採取に関わるものである。各種類の疑われるMCAから少なくともひとつの試料を採取及び分析すべきである、セクション5.2.1及び付録4参照。試料中にアスベストが確認された場合、同じやり方で使用されているその他の類似物質も、アスベストを含有していることが強く推定される。
サンプリングは、試料を採取する労働者及び近隣のその他の者に対する潜在的なリスクを事前に評価することなしに(及び関連する予防措置を講じることなしに)実施されるべきではない。これには、サンプリングが、屋根、雨樋、配管、その他の施設または機器の完全性を損なう可能性があるかどうかの評価が含まれる。
試料を採取する場合、MCAs並びに存在する可能性のある粉じん及び破片に対する攪乱を最小化するよう注意を払う必要がある。表面は、保護され(例えばポリエチレンシートを使用)、サンプリング後は、湿式拭き取りまたは適切なHクラスの掃除機を用いて清掃されるべきである。
バルクサンプリングを実施する場合の考慮事項は、以下のとおりである。

■ 検査では、補修/損傷箇所、色調/濃淡、表面の質感/粗さ、叩打時の音、深さ、温度及びコーティングを含め、目視可能な物質の変化を評価すべきである。
■ 補修及び交換された物質は、元の物品に加えて、常にサンプリングされるべきである。
■ アスベストの破片及びその他の疑わしい目視可能な汚染物質もサンプリングされるべきである。
■ 採取する試料の数及び表面積は、当該物質を代表し、アスベストの存在の有無を判断するのに十分なものであるべきである。
■ 均質な試料については、1試料で十分である可能性がある。均質性が低いサンプルについては、より多くの試料が必要となる。
■ 試料の大きさは、試料の全厚み(裏打ち紙がある場合はそれも含む)にわたって約3~5cm2であるべきである。ただし、アスベストの分布が不均一な物質(例えば、テクスチャーコーティングまたはスプレー式防火コーティングなど、アスベストが典型的に不均一に分布しているもの)については、より大きな表面積が必要である。

5.7.2.2 土壌サンプリング

アスベストが存在する可能性があり、かつ、労働者にリスクをもたらすと信じる理由がある場合、土壌及び地面がサンプリングされるべきである。例としては、NOA[自然生成アスベスト]が存在する可能性のある場所、旧工業用地または不法投棄の影響を受ける可能性のある場所を含め解体廃棄物を含む区域がある。
バルクサンプルと同様に、サンプリング前に、試料を採取する労働者及び近隣の他の者を保護するために、存在するリスクに応じた適切な安全予防措置が講じられるべきである。土壌サンプリングを実施する場合の考慮事項は、以下に示すとおりである。

■ 土壌及び地面中のアスベストの分布は、変動し、予測困難である可能性が高い。
■ 試料は、土壌中に埋没したMCA破片及びアスベスト繊維から構成され、植物、石、レンガ及び砕けた建築瓦礫と混在している場合がある。
■ 採取される区域にアクセスするために、他の材料(瓦礫など)の除去が必要となる場合がある。
■ 代表的な試料の採取は困難である。ただし、試料の数及び量は、当該現場を代表し、アスベストの存在の有無を判断するのに十分なものであるべきである。
■ 現場は通常、約1m2の区域に分割され、各区域の表層1~2cmから代表的な土壌試料を採取し、円錐四分によりラボラトリ分析のための1リットルの代表的試料を採取する。
■ アスベスト含有量の深度プロファイルが要求される場合があり、これは連続的な掘削によって達成可能である。
NOAについては、2種類の試料タイプが考慮されるべきである。
■ 凝集性(マッシブ)サンプル:土壌サンプリングで概説されたものと同様の、標的サンプリング戦略が策定されるべきである(すなわち、様々な深度及び位置で採取したサンプル)
■ 非凝集性(フライアブル)サンプル:ラボラトリ分析のために代表的試料が採取されるべきである。

5.7.2.3 状況情報

試料は、個別の容器に密封され、当該容器はさらに別の容器に密封されるべきである。外容器には、アスベストを含有する可能性を示すラベル表示がされるべきである。各試料は、固有識別子を付してラベル表示され、物質評価文書、記録及び現場計画にも記録して、試料の由来を追跡できるようにすべきである。現場のサンプリング位置にも、同一識別子をラベル表示することができる。

【図5-6: 二重容器システムを示す分析のための試料の表示の例】[省略]

5.7.3 試料の分析

試料は、適切な能力を有するラボラトリによって分析されるべきである。試料分析に関する特定の加盟国の要求事項についても確認すべきである。
EN ISO/IEC 17025:2017は、ラボラトリの能力、公平性及び一貫した運営に関する一般要求事項を定めた国際規格である。この規格に基づく認証は、正確かつ信頼性の高い結果の提供を支援するうえで重要な役割を果たす。この認証は、アスベストに特化したものではない、ラボラトリが能力をもって運営され、有効な結果を生成することを示すことを要求している、セクション6.7参照。

【図5-7:偏光顕微鏡分析】[省略]

(本セクションで前述した)バルク及び土壌試料中のアスベストは、ISO 22262-1:2012などの規格に概説される方法を使用して(代替規格は付録5に掲載)、偏光顕微鏡法(PLM)及び/またはエネルギー分散型X線分析(EDXA)を伴う電子顕微鏡法(EM)を用いて同定される。これらの方法を用いた検出限界(LOD)は、試料の性質、試料前処理、分析時間及び使用される手法など、いくつかの要因に依存する。適切な技術が適用された場合、LODは0.01%未満となり得る。これは通常、技能試験制度を通じて検証される、付録6参照。
MCAs中のアスベストの定量は、ISO 22262-1:20
12に概説されるように物質のタイプに基づいて推定することも、または、ISO 22262-2:2014に記載されているような手法を用いて定量することも可能であり、これはアスベスト質量分率<5%に適している。

[原注:本稿執筆時点で、ISO 22262-2:2014は、今後数か月以内に「ISO/PRF 22262-2 タイ気質-バルク材-第2部:重量法及び顕微鏡法によるアスベストの定量」https://www.iso.org/standard/56773.html に置き換えられる見込みである。訳注:2026年1月に改訂された。]]

PLMは、アスベストの同定に適しており、繊維は通常束状で観察される(ビニルアスベストタイルなど、アスベストの細いまたは短い繊維のみを含む物質材を除く)。ただし、この方法は、空気監視サンプルには適さない、セクション6.7参照。
PLM法は、ほとんどのMCAsに適しており、通常は、アスベスト繊維を細長い鉱物片またはその他の物質から区別することができる。ただし、以下の場合、限界が生じる可能性がある。

■ 短い繊維または幅約1μm未満のものを含有する物質(ビニル床タイルなど)中の繊維の同定
■ 非常に低いアスベスト濃度の物質(アスベスト含有率1%未満、タルク及びバーミキュライトのような天然試料)中の繊維の同定
■ トレモライトとアクチノライト、または、トレモライトとアンソフィライトの区別

このような場合、追加的情報及びより優れた定量限界(LOQ)を得るために、EDXA及び/または電子回折技術を備えたEM[電子顕微鏡]を使用すべきである。アスベスト濃度が非常に低い試料では、間接分析法が好ましい場合がある。これらは通常、繊維束を分解する試料処理を伴い、EM分析中の繊維検出の可能性を高める。ただし、この処理は、とりわけ超音波処理を使用する場合、繊維のサイズ及び幅を縮小させ、生試料を反映しない寸法となる可能性がある。
一部の加盟国(フランスなど)では、PLMでは細い繊維(幅0.2μm未満)を検出できないため、PLM法に加えてEM法の使用が義務づけられている。
潜在的なアプローチとしては、PLMで陰性結果が得られた場合、ノンフライアブル有機結合物質(ビニルタイルなど)及び一部のNOA材料(タルク及びバーミキュライトなど)については、EM分析を実施することが考えられる。したがって、結果の感度及び信頼性を高めるために、EM法が使用されるべきである。

【囲み5-4:フランスにおけるPLM分析を補完するために用いられるEM法の例】[省略]

PLM分析においてアスベストと誤認される可能性のある物質には、以下が含まれる。

■ ポリエチレン繊維、皮革削り屑繊維、マセレーション処理されたアラミド繊維、クモの巣及びタルク繊維(いずれもクリソタイルに類似する可能性がある)
■ 繊維状ブルサイト(ネマライト)、繊維状ウォラストナイト及び珪藻土(いずれも角閃石系アスベスト繊維に類似する可能性がある)

分析プロトコルは、誤同定のリスクを最小化するように設計されている。さらに、ラボラトリでは、適切な背景情報の活用並びに品質保証(QA)及び品質管理(QC)手順を通じて、誤同定の可能性を低減している。

5.8 記録の保存

MCAsの存在、位置、種類及び状態に関する詳細な文書化は、例えば特定サイトのアスベストインベントリとして、維持されるべきである。
このインベントリには、以下を含めるべきである。

■ すべての物質評価結果(サンプリング場所及びラボラトリ結果を含む)
■ リスク評価及びAMPsの記録
■ 是正後の状況を明確に記述できるように、講じられた是正活動の詳細

文書は、利用権限を有するすべての関係者(労働者及び請負業者など)が明確に理解できるかたちで提供され、施設の用途またはMCAsの状態に関連のある変更が生じた場合、常に更新されるべきである。これには、陰性結果及び未検査区域(例えばアクセスが不可能だった区域)の記録も含めるべきであり、実施された物質評価の限界または仮定を明確に述べ、また、必要に応じ、MCAsの確認を支援する写真及び図面を含めるべきである。これらの記録は、資産の耐用年数または国の法令によって要求される期間、保存されるべきである。
注釈付き図面及び/または写真など、視覚的記録は、サンプリング位置及びMCA位置を記録するのに有効である。土壌サンプリングなどの大規模な物質評価では、地図を用いて物質評価を計画し、位置、量(MCA断片の数及び/または1平方メートル当たりのMCA発見面積)並びにみつかったMC
Asの形態に関する説明を記録することができる。
文書化には、以下を含めるべきである。

■ 確認されたまたは推定されるすべてのMCAs(未検査区域などによる)及び陰性結果の包括的なインベントリ
■ 可能な場合、建築図面を含む詳細な位置情報
■ MCAsの状態及びリスク評価結果
■ 該当する場合/入手可能な場合、空気監視結果
■ MCAsが完全には除去されなかった場合を含め、実施された除去、封じ込めまたは修復作業の詳細
■ 情報が最終更新された日付

文書化の詳細さのレベルは、現場の規模及び複雑性を反映し、常に効果的なアスベストリスク管理を可能とするのに十分な内容とすべきである。
デジタル文書化システムの利用は、情報の更新を容易にするとともに、利用可能な文書へのアクセスを改善する可能性がある。

https://employment-social-affairs.ec.europa.eu/document/70526012-b741-4092-ab52-3bae8de2a1b0_en

安全センター情報2025年6月号