注文者等の配慮義務を建設工事以外にも拡大、プラットフォーマーも該当することを明示/労働安全衛生法等改正案が成立・公布

改正の要点

労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案(内容については2025年3月号掲載の法律案要綱を参照)は、4月11日に参議院本会議、5月8日に衆議院本会議で賛成多数により通過、成立した。4月10日に参議院厚生労働委員会、5月7日に衆議院厚生労働委員会で、各々附帯決議が採択されているので本稿で紹介する。
改正法は、5月14日に公布され、解説通達(同日付け基発0514第1号)が別掲のとおり示された。
①公布日、②2026(令和8)年1月1日、③4月1日、④10月1日、⑤2027(令和9)年1月1日、⑥4月1日、公布日から起算して⑦3年及び⑧5年を超えない範囲において政令で定める日、の8回に分けて施行される。
公布日に施行されたのは、改正された法第3条第3項の「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない」で、建設工事以外の注文者も含まれ、他人に対して仕事を注文する場合にはプラットフォーマーも該当することが明示されている。
他人に対して仕事を注文しない場合には該当しないものの、「プラットフォーマーが提供するサービスを通じた仕事の受注者の仕事に係る契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて、当該プラットフォーマーがアプリによる業務支援等必要な干渉を行う場合には、仕事の注文者と連携して、受注者の『安全で衛生的な作業の遂行』を損なわないよう、配慮することが望ましい」ともされている。      

労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について(基発0514第1号令和7年5月14日)

参議院附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

  1. 個人事業者等が新たに労働安全衛生法の適用対象となることに鑑み、制度の理解不足に起因する法令違反が発生することのないよう、発注時における注文者・事業者からの説明を含め、個人事業者等に対する制度の周知徹底を図るとともに、研修等を実施する者に対して支援を行うこと。また、個人事業者等が法令を遵守していない場合には、注文者・事業者から個人事業者等に対して適切な説明等が行われるよう、必要な指導を行うこと。
  2. 新設される業務上災害報告制度を活用し、個人事業者等による災害事例の収集・分析を進めるとともに、適宜、災害防止対策に反映すること。また、報告を行った個人事業者等に対して、注文者・事業者が不利益な取扱いを行うことのないよう必要な監督・指導を行うこと。さらに、個人事業者等の過重労働による脳・心臓疾患及び精神障害事案の発生を防止するため、個人事業者等自身等が労働基準監督署に報告する仕組みの整備を通じ、個人事業者等の過重労働・過労死防止の一層の強化を図ること。
  3. 労働災害防止の取組は現場の労使が一体となって協力・連携して行う必要があることを改めて徹底し、安全委員会や衛生委員会において労働者及び新たに対象となる個人事業者等の危険又は健康障害を防止するための対策等の重要事項について個人事業者等の意見を踏まえた十分な調査・審議が行われ、その結果を踏まえた対策が労働者のみならず個人事業者等にも周知徹底されるよう、適切な助言・指導を行うこと。
  4. 個人事業者等が労働者と異なる場所で労働者と類似の作業を行う場合や、プラットフォーマーに対する規制の在り方について、本法の施行状況を踏まえ、特殊健康診断・熱中症対策費用等の労働安全経費に係る負担の在り方を含めて検討すること。
  5. 本法の内容と密接に関わるILO第155号条約の早期批准に向けて、速やかに手続を行うとともに、その誠実な履行に向けて準備を行うこと。
  6. 過重労働やハラスメントが原因の自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害による労災申請・認定件数が引き続き増加傾向にあることに対する強い危機意識を政労使で共有しつつ、残業時間や深夜・休日労働の一層の抑制による総実労働時間の短縮、勤務間インターバル制度の導入促進、ハラスメント対策の一層の強化に努めるとともに、直近の脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定基準の変更によって労働災害被害者の認定・救済がより適切かつ迅速に行われているかを検証し、公表すること。
  7. ストレスチェック制度の効果を高めるため、集団分析・職場環境改善の実施を計画的かつ着実に推進すること。また、集団分析・職場環境改善の在り方について、義務化の可否を含め、労使等の関係者の意見を聴きながら検討を進めること。
  8. ストレスチェックの実施義務対象の拡大に鑑み、中小零細企業を支援するため、産業保健活動総合支援事業に関する体制整備を行うとともに、産業医・産業保健スタッフの育成に努めること。
  9. 化学物質の自律的管理制度への転換に伴い、譲渡・提供先への危険・有害性情報の確実な伝達と、リスクアセスメントに基づいた適切な措置が講じられるよう、事業者に対する周知の強化に取り組むこと。また、法令に関する知識や管理体制が必ずしも十分でない中小企業に対して、必要な支援を行うこと。
  10. 成分名の一部を代替名表示することが認められる場合であっても、通知対象物による健康障害が発生するおそれがある際には、医師・労働基準監督署に対して、必要な情報が迅速に開示されるよう制度運用に万全を期すこと。
  11. 登録機関が実施する設計審査、製造時等検査については、引き続き検査による安全性の確保が適切に行われるよう、適宜立入調査を行い、必要な監査・指導を行うこと。また、特定機械等の主要構造部分の変更時には、変更届の提出と変更検査の受検を行うよう、周知に努めるとともに、必要な指導を行うこと。
  12. 高年齢労働者の労働災害防止を図ることに鑑み、新たに公表する指針の周知に努めるとともに、高年齢労働者の特性や作業内容に応じた研修や講師の育成等を含めた事業者の取組を支援すること。
  13. 身体機能の低下等の高年齢労働者の特性に起因する労働災害のリスク評価の方法や身体機能の保持・増進、作業環境の改善、適切な作業管理等に係る具体策について、調査・検討を行うこと。また、本法の施行の状況を見つつ、高年齢労働者の労働災害防止対策の在り方について検討すること。
  14. 重大な労働災害を発生させた企業については、特別安全衛生改善計画作成等の指示、勧告、企業名の公表などを確実に実施すること。また、個別事業場の法令違反に対して厳格に対応すること。
  15. 本法の円滑な施行を確保するため、労働基準監督官、安全・衛生専門官の大幅な増員と、労働安全衛生を担当する行政体制の整備拡充を図り、労働災害の防止に即応できる態勢を確立すること。
  16. 第14次労働災害防止計画の政府目標の達成に向け、各種対策を講ずるとともに、各指標に対する政策評価に基づき追加対策を検討すること。特に、事業者の熱中症予防対策の実施を促進するために、熱中症予防に効果的な設備・機器の普及のための支援を図ること。

衆議院附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

  1. 個人事業者等が新たに労働安全衛生法の適用対象となることに鑑み、制度の理解不足に起因する法令違反が発生することのないよう、発注時における注文者・事業者からの説明を含め、個人事業者等に対する制度の周知徹底を図るとともに、研修等を実施する者に対して支援を行うこと。また、個人事業者等が法令を遵守していない場合には、注文者・事業者から個人事業者等に対して適切な説明等が行われるよう、必要な指導を行うこと。
  2. 労働安全衛生法の適用対象となる範囲を明確化するため、作業従事者に含まれる者の範囲を具体的に明らかにすること。また、法令違反に関する労働基準監督署長等への申告制度について、作業従事者が申告したことを理由とした不利益取扱いが禁止されていることの周知徹底を図るとともに、取引停止等の不利益な取扱いがなされた場合は罰則の適用も含め、厳正に対処すること。
  3. 新設される業務上災害報告制度を活用し、個人事業者等による災害事例の収集・分析を進めるとともに、適宜、災害防止対策に反映すること。また、報告を行った個人事業者等に対して、注文者・事業者が不利益な取扱いを行うことのないよう必要な監督・指導を行うこと。さらに、個人事業者等の過重労働による脳・心臓疾患及び精神障害事案の発生を防止するため、個人事業者等自身等が労働基準監督署に報告する仕組みの整備を通じ、個人事業者等の過重労働・過労死防止の一層の強化を図ること。
  4. 労働災害防止の取組は現場の労使が一体となって協力・連携して行う必要があることを改めて徹底し、安全委員会や衛生委員会において労働者及び新たに対象となる個人事業者等の危険又は健康障害を防止するための対策等の重要事項について個人事業者等の意見を踏まえた十分な調査・審議が行われ、その結果を踏まえた対策が労働者のみならず個人事業者等にも周知徹底されるよう、適切な助言・指導を行うこと。
  5. 個人事業者等が労働者と異なる場所で労働者と類似の作業を行う場合や、プラットフォーマーに対する安全衛生対策について、本法の施行状況を踏まえ、必要な検討を行うこと。
  6. 個人事業者等が改正法に基づき受講する講習費用等の安全衛生経費が適正に価格転嫁されるよう、ガイドラインの策定を含め、関係省庁と連携し対策を実施すること。
  7. 本法の内容と密接に関わるILO第155号条約の早期批准に向けて、速やかに手続を行うとともに、その誠実な履行に向けて準備を行うこと。
  8. 過重労働やハラスメントが原因の自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害による労災申請・認定件数が引き続き増加傾向にあることに対する強い危機意識を政労使で共有しつつ、残業時間や深夜・休日労働の一層の抑制による総実労働時間の短縮、勤務間インターバル制度の導入促進、ハラスメント対策の一層の強化に努めるとともに、直近の脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定基準の変更によって労災保険の特別加入者及び労働災害被害者の認定・救済がより適切かつ迅速に行われているかを検証し、公表すること。
  9. 9 労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックを適正に実施するため、ストレスチェック実施者等が秘密保持義務に違反している場合は、適切に対処すること。
  10. 10 ストレスチェックを希望しないことや受検結果及び医師による面接指導の申出を理由とする不利益取扱いが行われることのないよう、事業者に対して必要な監督・指導を行うこと。
  11. 11 ストレスチェック制度の効果を高めるため、ストレスチェック項目の評価・検証を行うとともに、集団分析・職場環境改善の実施を計画的かつ着実に推進すること。また、集団分析・職場環境改善の在り方について、義務化の可否を含め、労使等の関係者の意見を聴きながら検討を進めること。
  12. 12 ストレスチェックの実施義務対象の拡大に鑑み、中小零細企業を支援するため、産業保健活動総合支援事業に関する体制整備を行うとともに、産業医・産業保健スタッフの育成に努めること。また、個人事業者等においても自身のストレス状況を把握しメンタルヘルス対策を講ずることは重要であることから、個人事業者等が労働者と同水準のストレスチェックを実施することができるような環境整備を図ること。
  13. 労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックについては、事業者に過度な経済的負担及び業務上の負担が生じることのないよう、十分な準備期間を確保し、事業場の状況に鑑み、導入時期を慎重に検討するとともに、ストレスチェックを的確に行うことができるように支援すること。また、地域産業保健センターへの相談事例の増加に対応するため、相談しやすい環境を整備し、メンタルヘルスに一定の知見のある医師確保を積極的に行うために必要な措置を講ずること。
  14. デジタル化の進展に伴い、デジタルを活用したストレスチェックによって適時適切に実施することができるようにする等、デジタルを活用した実効性を伴うストレスチェックの実施の在り方を示すこと。
  15. 職場のメンタルヘルス対策を一層推進するため、これまでのメンタルヘルス対策の効果を検証するとともに、ストレスチェック以外の方法についても検討すること。
  16. 職場のメンタルヘルス不調者の職場での早期把握のための研究等を行い、その取組の好事例等を各事業者に提供するよう努めること。
  17. 高ストレス者の面接指導について、小規模事業場の特性を踏まえ、小規模事業場の高ストレス者が安心して面接指導の申出をすることができる環境を整備すること。また、事業者が、面接指導の結果に基づく労働者の健康を保持するために必要な措置に関する医師の意見を聴いて、必要な措置を講ずるよう、事業者に対して指導の徹底を図ること。
  18. 産業医がその専門性を発揮し、独立的かつ中立的に活動できるような配慮を事業者に求めるとともに、事業者に対する産業医の勧告を尊重するよう指導すること。また、産業医の勧告を理由とした不利益取扱いの禁止を徹底するよう、事業者に対して指導の徹底を図ること。
  19. 産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場で産業医が選任されていない事業場に対して、その選任を促すとともに、産業医の解任を行ったことを労働基準監督署が把握することができる仕組みの検証を行うこと。また、労働者と同一の場所において作業を行う直接雇用されていない労働者や請負人等も含めた事業場における作業環境に関してもその事業場の産業医が勧告できることについて、早期に周知すること。
  20. 事業場において労働者と同一の場所において作業を行う作業従事者に対する安全衛生を事業場管理者が十分配慮し、そのために必要な対策をとるよう、周知・指導に努めること。
  21. 化学物質の自律的管理制度への転換に伴い、譲渡・提供先への危険・有害性情報の確実な伝達と、リスクアセスメントに基づいた適切な措置が講じられるよう、事業者に対する周知の強化に取り組むこと。また、法令に関する知識や管理体制が必ずしも十分でない中小企業に対して、必要な支援を行うこと。
  22. 成分名の一部を代替名表示することが認められる場合であっても、通知対象物による健康障害が発生するおそれがある際には、医師・労働基準監督署に対して、必要な情報が迅速に開示されるよう制度運用に万全を期すこと。
  23. 化学物質の自律的管理制度への転換に伴い、危険・有害性情報の伝達が必要となる化学物質が増加することから、ラベル表示や文書の交付について、化学物質に関する知識が必ずしも十分でない作業従事者にとって、よりわかりやすい記載を検討すること。
  24. 有資格者による個人ばく露測定の実施義務化について、労働者が化学物質にばく露する程度を最小限とするため、事業者に対し制度の周知徹底を図ること。また、事業者の取組状況を把握し、適宜、化学物質管理対策に反映すること。
  25. 登録機関が実施する設計審査、製造時等検査については、引き続き検査による安全性の確保が適切に行われるよう、適宜立入調査を行い、必要な監査・指導を行うこと。また、特定機械等の主要構造部分の変更時には、変更届の提出と変更検査の受検を行うよう、周知に努めるとともに、必要な指導を行うこと。
  26. 高年齢労働者の労働災害防止を図ることに鑑み、新たに公表する指針の周知に努めるとともに、高年齢労働者の特性や作業内容に応じた研修や講師の育成等を含めた事業者の取組を支援すること。
  27. 身体機能の低下等の高年齢労働者の特性に起因する労働災害のリスク評価の方法や身体機能の保持・増進、作業環境の改善、適切な作業管理等に係る具体策について、調査・検討を行うこと。また、本法の施行の状況を見つつ、高年齢労働者の労働災害防止対策の在り方について検討すること。
  28. 身体機能の低下等の影響により労働災害の発生率が高い高年齢労働者の増加に伴って、労働災害による死傷者数に占める高年齢労働者の割合が増加している現状に鑑み、脳・心臓疾患の労災認定基準について高年齢労働者の特性に配慮し、適切に運用すること。また、会社が事業主証明を拒否するなど事業主証明を得られない場合においても労災保険の請求ができることを高年齢労働者に更に周知すること。
  29. 芸能従事者の健康確保を図るため、芸能従事者の業務の特性を踏まえたガイドラインの策定等必要な対策を行うこと。また、一定の要件を満たせば使用することができる児童の労働環境について、実態を把握し、必要に応じて労働災害防止対策を講ずること。
  30. 重大な労働災害を発生させた企業については、特別安全衛生改善計画作成等の指示、勧告、企業名の公表などを確実に実施すること。また、個別事業場の法令違反に対して厳格に対応すること。
  31. 本法の円滑な施行を確保するため、労働基準監督官、安全・衛生専門官の大幅な増員と、労働安全衛生を担当する行政体制の整備拡充を図り、労働災害の防止に即応できる態勢を確立すること。
  32. 第14次労働災害防止計画の政府目標の達成に向け、各種対策を講ずるとともに、各指標に対する政策評価に基づき追加対策を検討すること。特に、事業者の熱中症予防対策の実施を促進するために、熱中症予防に効果的な設備・機器の普及のための支援を図ること。

安全センター情報2025年7月号