白血病・原発被ばく労災「あらかぶさん裁判」はじまる/福島原発事故から7年 被ばく労働問題の現状と課題

飯田勝泰(東京労働安全衛生センター事務局長)

はじめに

2011年3・11東日本大震災から7年目を迎えた。地震と津波に襲われた福島第一原発は、全電源を喪失。原子炉が冷却不能に陥り、1号機~3号機の核燃料がメルトダウンした。1号機、3号機の建屋は水素爆発で吹き飛び、2号機からは不適切なベントにより、大量の放射性物質が大気や海に拡散した。

未曾有の福島原発事故に直面した政府は、2011年3月14日に原子力緊急事態宣言を発し、地域住民を強制避難させるとともに、緊急事故対応に従事する労働者の被ばく規制を緩和し、電離放射線障害防止規則7条の特例措置として、緊急作業に従事する労働者が受ける放射線の実効線量の上限を、100mSvから250mSvに引き上げたのである。

私たちは、こうした政府の決定に強い危機感をもった。原子力災害の緊急事態を名目に、事故収束作業に従事する労働者のいのちと健康を無視し、高線量、大量の放射線被ばくを労働者に強制することは許されないと考えたからだ。

同年5月、私たちは厚生労働省に対し、緊急作業従事者の被ばく線量引上げ問題に関する申し入れを行った。以後、省庁との交渉は毎年2~3回継続し、昨年10月5日で16回目を数えた。
また、被ばく労働問題を考えるネットワーク(2012年11月結成)やフクシマ原発労働者相談センター(2015年2月設立)の仲間とともに、福島原発や除染作業に従事する労働者の様々な相談活動に取り組んできた。

本稿では、昨年10月の第16回省庁交渉の報告を交えながら、7年目を迎えた福島原発事故の被ばく労働問題の現状と課題について考えてみた。

1 福島原発における被ばく状況

福島第一原発で事故収束作業に従事する労働者の被ばく状況を把握するには、東京電力が公表する情報によるしかない。東電は毎月末、「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況」を厚生労働省に報告し、ホームページで公開している。1)
現在は、2016年4月1日を始期とする外部被ばく・内部被ばくの実効線量と累積被ばく線量を公表しているため、事故発生の2011年3月~2016年3月までの5年間の累積被ばく線量を表に示した。2)

<累積線量 2011年3月~2016年3月まで>

<年間累積線量>

事故発生から2016年3月末までに、東電社員4,712人、協力会社の労働者(以下、下請労働者という。)4万2,244人、合計4万6,956人が福島第一原発での放射線業務に従事している。5年間の累積線量の平均は東電社員が22.43mSv、下請労働者11.75mSv。また、50mSvを超は東電社員798人、下請労働者2133人、100mSv超は東電社員150人、下請労働者24人である。

たしかに当初の緊急作業の高線量被ばく状況に比べると、5年間経過した時点での作業員の被ばく線量は低減している。とはいえ、福島原発事故以前の全国の原子力施設の労働者の平均被ばく線量が年1.1mSv(2009年度)だったことから、まだ、4~5倍程度高いレベルにある。

福島第一原発の廃炉・汚染水対策閣僚等会議で策定されている中長期ロードマップの進捗状況の会合では、毎回、「2013年度、2014年度、2015年度とも月平均線量は約1mSvで安定している。(参考:年間被ばく線量目安20mSv≒1.7mSv/月)」であり、「大半の作業員の被ばく線量は線量限度に対し大きく余裕のある状況である」と報告している。3)
しかし、年「20mSv/年、1.7mSv/月」を許容範囲とすることは、事故後の被ばく状況を既成事実化するものだ。

放射線防護の原則は、「事業者は、労働者が電離放射線を受けることをできるだけ少なくするよう努めなければならない」(電離則1条)である。電離則で規定する法定被ばく限度内であっても、被ばく線量が増加することにより、白血病やがんなどの放射線障害の健康リスクは高まっていく。

2 容器へのロボット投入で高線量被ばく

一方、溶融した核燃料を調査するため、原子炉建屋内部における高線量被ばく作業が計画されている。

2016年12月、2号機の原子炉格納容器の内部を調査するため容器に穴をあけ、今年1月~2月、自走式の調査用ロボットを投入した。ロボットが計測した容器内部の制御棒駆動機構(CRD)の交換レールの線量は毎時210Sv。とうてい人が近づけない線量である。ロボットを投入する作業は、格納容器の外部に隔離機構ユニットを構築して、放射線を遮蔽して行われた。計画被ばく線量は、3mSv/日。約3mSv~7mSvの線量率の中で、作業員の被ばく実績は平均0.18mSv/日~0.31mSv/日、最大1.66mSv/日だったと東電は報告している。4)

計画線量3mSv/日を設定せざるを得ないほど、原子炉建屋内では作業員の高線量被ばくは避けられない。中長期ロードマップの廃炉工程では、原子炉格納容器から溶けた核燃料を取り出すとされている。このように展望のない廃炉工程に執着し、消耗戦のように作業員に高線量被ばくを強いることが正しい道なのか、再検討する必要があるのではないか。
政府・東電に求められることは、すべての作業者の被ばくリスクを最小限に抑え、放射線防護対策を最優先にし、当面事故前の1mSv/年の被ばく状況を実現することである。

3 相次ぐ白血病、甲状腺がんの労災

福島原発事故の収束作業に従事した労働者が白血病を発症し、相次いで労災認定された。
2015年10月、3号機や4号機の周辺作業で溶接作業に従事した労働者(当時41歳)が急性骨髄性白血病を発症し、労災認定された。男性は、2011年~2013年のあいだ約2年のうち1年余り福島第一原発で働き、累積線量は19.78mSvだった(後述)。

また、2016年8月、もう一人白血病を発症した労働者が労災認定されている。
男性は50歳代で、2011年4月から2015年1月の3年9か月間、福島第一原発でがれきの撤去や汚染水処理に使う機械修理の作業に従事し、累積被ばく線量は54.5mSvだったという。

白血病の労災認定基準では、5mSv×従事年数と被ばく開始後1年以上で発症したものであれば、業務上として認定される。二つの白血病の事例とも、この認定基準の要件を満たしており認定されて当然である。
ところが、厚生労働省は、二つの認定事例の発表に際して、「放射線被ばくと白血病の労災認定の考え方」という文書を出し、「白血病の労災認定基準は、年間5mSv以上の放射線被ばくをすれば発症するという境界を表すものではなく、労災認定されたことをもって、科学的に被ばくと健康影響との因果関係が証明されたものではない」と説明している。

労災補償の考え方では、相当因果関係に基づき業務上外の判断を行うのであり、科学的な証明が必要とされるわけではない。厚生労働省は、相当因果関係を認めて白血病を労災認定しておきながら、「白血病の労災認定には科学的な因果関係はない」と弁明し、誤った理解を社会に流布させることになった。一部メディアは、厚生労働省が白血病の被ばくとの因果関係を認めておらず、労働安全衛生法の被ばく限度と労災認定基準が大きくかい離して、現場に不安を生んでいるなどと報じた。

私たちは、昨年10月15日の第16回省庁交渉においても、厚生労働省に、「放射線被ばくと白血病の労災認定の考え方」文書を直ちに撤回し、あらためて白血病の「被ばく線量5mSv×従事年数」の労災認定基準を被ばく労働者に周知徹底するよう要請した。厚生労働省は頑なに拒否し、未だに同文書を撤回しようとしていない。

一方、昨年12月、福島第一原発事故の緊急作業に従事した東電社員が甲状腺がんを発症し、労災認定されたと報じられた。
労働者は、原子炉の運転、監視業務に従事し、事故後は注水計や圧力計の確認、水力ポンプなどの燃料補給など行っていた。累積被ばく線量約150mSvで、事故後に約140mSv被ばくし、そのうち約40mSvが内部被ばくだったという(2016年12月16日朝日新聞)。
放射線被ばくによる甲状腺がんの労災認定は初めてである。

厚生労働省は認定に際し、「甲状腺がんと放射線被ばくに関する医学的知見」を公表し5)

  1. 被ばく線量が100mSv以上からがん発症との関連が強まる。
  2. 放射線被ばくから発症までの潜伏期間が5年以上。
  3. 放射線被ばく医学のリスクファクターを考慮する。

という考え方を示した。

このように、まだ事故発生から6年余りの間に2名の労働者が白血病を発症し、1名の労働者が甲状腺がんを発症して、労災認定された。
この現実は、多くの被ばく労働者に重く受けとめられているに違いない。前述したとおり、福島第一原発では事故後5年間で総数3千人近い労働者が累積線量50mSvを超えている。白血病やがんなどの健康被害が徐々に起き始めているという不安が静かに広がってきているのではないだろうか。

しかし、一方で、原子力施設での放射線被ばくによるがんの労災認定は、今回の事例を含めてわずか15件(白血病7件、悪性リンパ腫5件、多発性骨髄腫2件、甲状腺がん1件)にすぎない。これでは、いざというときに労災補償は頼りにならないと思われていても仕方がない。低被ばくによる発がんリスクを認めさせ、循環器系疾患等も含めた補償、救済制度の実現を追求していかなければならない。

4 被ばく労災の責任を問う、あらかぶさんの裁判

今年2月2日午前10時、東京地裁615号法廷には、あらかぶさん(通称)の裁判を支援する人々が大勢かけつけ、狭い傍聴席から廊下にあふれ出た。この日、あらかぶさんの第1回目の裁判がひらかれ、原告と弁護団の口頭弁論が行われた。
昨年11月22日、元福島原発労働者のあらかぶさん(42歳・男性)は、東京電力・九州電力を被告として、放射線被ばくによる白血病を発症した責任を問う損害賠償裁判を提訴した。

北九州市で鍛冶工として働いていたあらかぶさんは、2011年10月からから2013年12月までの約2年間、福島第二原発、玄海原発、福島第一原発で働いた。累積被ばく線量は19.78mSvだった(一部、九電の玄海原発でも就労)。

北九州市に戻ったあらかぶさんは、体調をくずし、地元の病院を受診。2014年1月、急性骨髄性白血病と診断された。白血病の原因は、福島原発でのズサンな被ばく管理のもとで事故収束作業に従事したためとして、富岡労働基準監督署に労災請求し、2015年10月に認定された。

あらかぶさんは証言台に立ち、正面の裁判官(東亜由美裁判長)をみすえ、やや早口ながら提訴するに至った自らの心情と裁判への決意を力強く訴えた。

私は、東北の人たち、福島の人たちの役に立てるなら、自分の溶接の技術が役に立つなら、少しでも力になりたいと思いました。ただ、私には、妻と、当時7歳と5歳と2歳の子どもがおり、妻と子どもたちからは、健康が心配だから行かないでほしいと言われたので、本当に迷いました。それでも、私の生まれ育った北九州では、誰かが困っていて、自分が助けになるなら、見て見ぬふりをするなという、義侠心というか、そういった風土がありますので、私も、これは行かにゃならんだろう、とそう思って、福島にむかいました。

あらかぶさんの証言

しかし、福島第二原発の4号機建屋の耐震化工事では、APD(警報付き個人線量計)が鳴っているのに、現場監督はアラームを解除し、第一原発4号機のカバーリング工事では、鉛ベストが配布されず、ズサンな被ばく管理のなかで作業させられた。
あらかぶさんは、意見陳述の最後にこう訴えた。

私たち、原発作業員は、何とか事故を収束させたいという、その一心で作業にあたりました。しかし、東電らはその作業員の思いにこたえるような労働環境を用意するどころか、私たち労働者を使い捨てにするような扱いをしてきました。私はこの裁判で、東電らのそのような姿勢、体質を明らかにし、その責任を認めさせることで、今後そのようなことが繰り返されないことを求めます

あらかぶさん

4月には、「福島原発被ばく労災損害賠償裁判を再さえる会(あらかぶさんを支える会)」が結成され、あらかぶさんの裁判闘争の支援運動の輪が広がろうとしている。

もとより、これまで原子力損害賠償法に基づき原子力事業者に賠償責任が認められた裁判例ことはない。あらかぶさんの裁判においても東電は、「被ばくと白血病の発症の因果関係は否認する」と全面的に争う姿勢である。
福島第一原発事故を起こした東電のずさんな被ばく管理の実態を明らかにするとともに、今後予想される被害者に対して、補償、救済の道を切り開くためにも、この裁判で東電の責任を徹底して追及していかねばならない。

5 死亡重症災害の多発と東電の安全衛生管理

昨年4月東電は、2015年度の作業災害38件を公表している。第16回省庁交渉で厚生労働省が私たちに示した、2015年の労災等の発生、補償状況は次のとおりである(今年度に行う省庁交渉では2016年の数値を明らかにさせる予定)。

東電の作業災害の件数及び厚生労働省安全課の死傷病発生状況、労災補償課の業務上災害等の決定件数を比べ合わせ、労災隠しの防止、労災補償の適正な給付を実現させていくことが必要だ。

2014年~2015年にかけ、福島原発では、死亡災害、重傷災害が相次いだ。2014年度の作業災害発生件数は64件に達し、前年度32件から倍増したのだ。汚染水対策を問われた東電が、現場の安全管理より、汚染水処理工事等を急がせたためである。
2015年1月、厚生労働大臣は、東電に、「原子力発電所の労働災害防止対策の徹底について」を通知し、「東京電力は、単なる発注者ではなく、原子力施設の所有者であり、原発事故の当事者であるとの自覚のもと、当事者意識をもって施設内の労働災害防止に万全を期すこと」と指導した。同年6月には、政府・東電は中長期ロードマップを改定し、工事優先からリスク低減の重視、作業員の被ばく線量のさらなる低減、労働安全衛生体制を強化することとなった。
さらに8月26日、厚生労働省は、「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理体制のためのガイドラン」を策定し、東電の第一義的な責任の下に、元方事業者と一体となった安全衛生管理体制の構築を指示した。

東電は、ガイドラインに基づき、元方事業者と連携した安全衛生管理体制を再構築し、KYT活動や熱中症対策を展開した結果、2015年度の作業災害は35件に減少している。
その一方で、災害性非災害性を問わず腰痛症等、筋骨格系の障害等の労災請求が皆無に近い状況である。日本の労災統計のなかでは、災害性腰痛が最も多い。福島第一原発だけが例外ではないはずだ。腰痛予防対策も含めて注視していく必要がある。また、過重労働、長時間労働による脳・心臓疾患やメンタルヘルス対策等にも取組んでいかねばならない。

6 原子力事業者の安全衛生責任の義務化

労働安全衛生法では、建設業や造船業は特定元方事業者として、現場の完全管理が義務付けられている。
私たちは、原子力事業者に対しても同様に、労働安全衛生法の責任主体として明確に位置づけ、放射線被ばく管理をはじめ現場の安全衛生管理を義務づける必要があると考えている。
原子炉等規制法においては、原子炉設置者が責任主体となっている。労働安全衛生法を改正し、原子力事業者も放射線被ばく管理を含めて、労働安全衛生法上の事業者とみなす規定を設ける必要がある。

私たちは、省庁交渉において粘り強く要請しているが、いまのところ厚生労働省は、発注者である原子力事業者には元方事業者責任はなじまないという見解だ。今後、労働安全衛生法の改正を実現に向けて、超党派の原発ゼロの会に参加する国家議員等にも働きかけをしていきたいと考えている。

7 長期健康管理と健康管理手帳の適用拡大

第16回省庁交渉で、東電福島第一原発の緊急作業従事者の長期健康管理制度の運用状況を確認したところ、厚生労働省放射線対策室は、「登録証の発行は現在まで19,559人で全体の99.4%。特定緊急作業従事者被ばく線量等記録手帳の発行数は868人で95.3%。平成27年度の指針に基づく白内障、がん検診等の健康診断の実施状況は集計中だが、平成26年度の白内障検査は56.7%、がん検診は87.4%。健康相談は平成28年度8月末で332件」ということであった。
あらためて、昨年度までの実施状況を明らかにさせる必要がある。
というのも今後、事故収束作業に従事する労働者の累積被ばく線量が増えるにつれ、白内障や白血病、がん等の晩発性障害の発症リスクが高まっていくからだ。がん検査等によって、早期発見、早期治療につなげていかねばならない。

厚生労働省は、事故直後の緊急作業に従事した労働者を対象に長期健康管理制度を作った。「東電福島第一原発緊急作業従事者登録証」を交付し、被ばく線量や健康診断記録等の情報をデータベースで管理するとともに、被ばく線量に応じて白内障やがん検査等を実施している。
しかし、登録者は、2011年12月16日の「事故収束宣言」までの緊急作業従事者(約2万人)に限定されている。それ以後に事故収束作業に従事しても、登録証は交付されない。被ばく線量50mSv超の登録者には「特定作業従事者等被ばく線量記録手帳」が交付され、離職後に白内障検査(50mSv超)とがん検査(100mSv超)が国費で受けられる。それも、手帳交付者に限られている。

一方で、緊急作業従事者2万人をデータベースに登録し、生涯追跡し、放射線被ばくによる長期的な健康影響を調査するために疫学研究が行われるようになっている。6) 登録者にとって、単なる疫学研究の対象とされるならば、この制度の本質を見抜かれ、協力も得られないであろう。

緊急作業従事者に限らず、福島第一原発の事故収束作業に従事したすべての労働者を対象に登録証を発行し、希望に応じで必要な健康診断を実施し、適切な保健サービスを提供するような長期健康管理制度に変えていくべきである。これからの事故収束・廃炉のプロセスは40年~50年の長期にわたり、膨大な労働者を必要とする。前述したように、原子炉建屋内や周囲においては高線量の被ばくをともなう作業を続けなければならない。必然的に健康障害の発症リスクも高まるであろう。

福島第一原発の事故収束作業に従事するすべての労働者を対象として、長期的健康管理制度を再構築し、生涯にわたり、手厚い健康確保措置を国が保障すべきではないだろうか。

私たちは、省庁交渉で毎回厚生労働省に要請しているが、放射線業務従事者にも労働安全衛生法(第67条)に基づく健康管理手帳制度の適用を拡大すべきと考える。労働安全衛生法では、石綿、ベンジジン、粉じん等、がんや重度の健康障害を発生させるおそれのある12業務の従事者に対し、離職時の申請により健康管理手帳が交付される。健康管理手帳制度により毎年2回(じん肺は1回)、指定医療機関で健康診断が受けられる。
しかし、厚生労働省は、「法令に基づく健康管理の徹底が重要。放射線業務を対象とするための検討はしていない」という態度だ。
粉じん、アスベスト(石綿)、有害な化学物質は、長期間の潜伏期間をへてがんなどの健康障害を発生させる。放射線業務も同じではないか。

放射線業務に従事した労働者に対しても、一定の要件で健康管理手帳を交付し、離職後の健康管理措置を保障する必要がある。

8 意外と高い除染労働者の被ばく線量

2012年除染電離則が改正され、従来の土壌等の除染作業に加えて、避難指示区域の見直しに伴い、復旧・復興作業に従事する労働者の放射線障害を防止するために、対象業務が拡大された。

除染電離則の対象業務には、

  • 土壌等の除染業務(従来の汚染土壌等の除去と汚染拡散防止その他の措置を講ずる業務)
  • 廃棄物収集等の業務(セシウム134、セシウム137の濃度が10,000Bq/kgを超えるものに限る)
  • 特定汚染土壌等取扱業務(セシウム134、セシウム137の濃度が10,000Bq/kgを超える汚染土壌で、①、②以外の業務)

これに、特定線量下業務(除染特別地域等の2.5µSv/hを超える場所等で行う除染等業無以外の業務)が加わった。

2013年11月、除染等業務従事者の被ばく線量管理制度が発足し、公益財団法人放射線影響協会、放射線従事中央登録センターで、被ばく線量等の情報を一元的に管理することとなった。すでに、放射線影響協会の中央登録センターが統計資料を公表している。7)
それによれば、2015年の除染等業務従事者の合計人数は40,377人

  • 被ばく線量1mSv以下が31,109人
  • 1mSv超~2mSv以下7,441人
  • 2mSv超~3mSv以下649人
  • 3mSv超~4mSv以下85人
  • 4mSv超~5以下22人
  • 5mSv超~7.5以下25人
  • 7.5mSv超~10mSv1人

となっている。
79.5%が1mSv以下だが、20.5%が1mSv超であり、そのうち5mSv超が26人(0.2%)である。除染等業務従事者で、年間1mSvを超えて被ばくしている実態に驚かされる。
除染作業では、空間線量2.5µSv/hで作業による実効線量が年5mSv超になる労働者に対しては、個人線量管理が義務付けられているが、年1mSv~5mSvまでの作業は、代表者測定による簡易な線量管理が行われている。
前述の除染等業務従事者の被ばく状況を踏まえ、除染労働者の被ばく線量管理が適切かどうか検証すべきだ。個人線量計を義務づけた被ばく線量管理の徹底が必要ではないだろうか。

9 除染労働の安全衛生法令違反

今年3月、福島労働局は福島第一原発の廃炉作業を行う事業者及び除染作業を行う事業者に対する監督指導結果(2016年)を公表している。8)
監督指導結果の概要として、廃炉作業では348事業者を監督し、
うち労働基準法令違反は160事業者、違反率40%(安全衛生関係19.2%、労働条件関連59.6%)、違反件数は273件で
うち安全衛生関係36件(元請の下請に対する指導、喫煙等の禁止等)、労働条件関係237件(割増賃金の支払、賃金台帳の作成、労働条件の明示等)となっている。

一方、除染作業では1,020事業者を監督し、
うち労働基準法令違反は586事業者、違反率57.5%(安全衛生関係47.0%、労働条件関連71.2%)、違反件数は982件で、
うち安全衛生関係497件(元請の下請に対する指導、除染電離健診結果報告等)、労働条件関係485件(割増賃金の支払、賃金台帳の作成、法定労働時間等)であった。

福島第一原発の廃炉、除染とも違反事業者数や違反件数が前年よりわずかながら減少しているものの、双方とも5割前後の事業者に法令違反があった。
とくに注意を要するのが、除染作業での事業者の安全衛生法令違反件率が47.0%と高いことだ。具体例としては、

除染電離則健診結果を所轄労働基準監督署に提出していなかった
除染対象土壌の放射能濃度を事前測定していなかった
作業員の代表者に線量計を装着させていたが、代表者が現場を離れたため正確な被ばく線量が測定されていなかった

というものだ。こうした違反状況からも、除染労働者の被ばく線量管理には問題が多いことが見て取れる。やはり、個人線量計による被ばく線量管理を義務化すべきだろう。

10 雇用保険、社会保険の加入促進を

福島第原発の下請労働者や除染労働者の多くが、雇用保険、社会保険に未加入である。

第16回省庁交渉において、厚生労働省は加入条状況の実態を調査し、未適応事業者に対する指導を徹底すべきと要請した。また、労働者が、雇用保険に加入していなくても、離職後に職業安定所で被保険者資格の確認請求手続きをとれば、失業保険を受給できる権利があることを周知徹底するよう求めた。厚生労働省雇用保険課は、「労働者向けのリーフレット、チラシで周知することを検討したい」と回答している。

今年4月から、建設業の公共工事の下請労働者に対し、社会保険適用を義務付けられた。
福島第一原発では、労働環境改善に責任をもつ東電に下請事業者の労働者が、雇用保険、社会保険に加入状況しているかを調査させ、その結果をもとに事業者を指導することもできる。厚生労働省に提案したところ、「有効な手段であると思うので検討したい」との回答を得ている。
東電は、毎年8月~10月に、福島第一原発で働く労働者を対象に、労働環境の改善に向けたアンケート調査を実施している。昨年12月、第7回調査結果をまとめて公表した。2017年度の調査には、雇用保険、社会保険の加入状況をアンケートの設問に加え、その実態を把握させ、未加入の下請労働者を雇用する事業者への適用促進を指導させていきたい。

一方、重層的な請負構造のもとではびこる偽装請負や違法派遣の摘発は遅々として進んでいない。末端の労働者は、賃金ピンハネや解雇、賃金不払いに泣き寝入りせざるを得ない実状にある。監督機関が多重下請構造にメスを入れ、労働条件の確保、権利の確立をいかに図るのかが重要な取り組みだ。
被ばく労働ネットワークでは、原発や除染作業で働く労働者向けに雇用保険や労災補償に関するリーフレットを作成し、今年4月、国道6号線のコンビニに立ち寄る原発、除染労働者に対し、宣活動に取りんだ。様々な相談活動を通じて、ばく労働者が不当な権利侵害と闘い、仲間を作って支え合えるよう取りんでいければと考えている。

11 問われる緊急時被ばく線量引き上げ問題

特例緊急被ばく限度の線量250mSvへの引き上げは、福島第一原発事故の緊急作業従事者に高線量被ばくを容認したことを既成事実とし、被ばくによる健康影響を過小評価している。
第16回省庁交渉では、原子力規制庁と厚生労働省に対し、特例緊急被ばく限度250mSvへの引き上げ措置を撤回するよう求めた。9)

原子力規制庁は、
「従来の実効線量100mSvに加え、放射性物質の敷地外への放出の蓋然性が高い場合は、国の基準等の考え方を参考に250mSv にした。ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告では、緊急救助活動は500又は1000mSv、また、他者への利益が救命者の利益を上回る場合の救命活動は制限なしと規定されている。この国際基準を参考として250mSvとした」と回答している。

また、厚生労働省放射線対策室も、
「ICRPの勧告を取り入れて設定した。厚生労働省の専門家の検討会で審議し、250mSv引き上げは妥当との答申を得た。対象となる緊急作業者は事前教育を行い、特例緊急作業を行った際には、月1回の健康診断を行い、結果について労働基準監督署に報告を求めている。これらを確実に実施することで、健康状態の把握や作業に必要な知識を得て作業する」という姿勢である。

2016年4月から特例緊急被ばく限度の引き上げ措置が施行されているとはいえ、福島第一原発事故による緊急被ばく作業の徹底した検証を抜きに、ICRP等の国際基準を持ち出して250mSv引き上げの既成事実化を迫るやり方は、事故収束・廃炉作業に従事する労働者に高線量・大量被ばくの強制を容認するであり、許すわけにはいかない。
すでに、2名が白血病を、1名が甲状腺がんを労災認定されている。
白血病の両者の累積被ばく線量は19.78mSvと54.5mSv、甲状腺がんは約150mSvであり、特例緊急被ばく限度250mSvよりはるかに低いレベルで発症しているのだ。

事故発生後6年経過したなかで、事故収束従事者に健康被害が顕在化しはじめている。厚生労働省の専門検討会は、こうした放射線障害をめぐる新たな事態を踏まえて、250mSv引き上げ措置が適切だったのかどうか、もう一度審議し直すべきであろう。
厚生労働省放射線対策室は、
「低線量被ばくの影響は科学的に証明されていない。労災は被災労働者を補償する観点から基準が定められている。放射線障害防止のための電離則の規準とは考え方が異なる」と述べ、厚生労働省労災補償課も、「補償と防護の規準を単純に比較できない」という。
まさに言い逃れとしか言いようがない。補償と防護の論理を使い分け、労働者が受けている健康被害を否定する暴論である。放射線被ばくによる健康被害と予防に関する国のダブルスタンダードを、徹底して追及していかねばならない。

12 労働者は志願者ではない

本誌でも度々主張してきたが、そもそも「電離放射線に関する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(BSS)」においては、緊急時被ばく状況において介入を行う労働者は、職業性被ばくの年間線量限度の上限を超えて被ばくしてはらないと定めている。ただし、以下の場合を例外としている。10)
a) 救命、もしくは重傷を回避するための行動をとる場合
b) 大規模な集団線量を回避するための行動をとる場合
c) 破滅的な状況に発展するのを回避するための行動をとる場合
そして、「年間線量の上限を超える可能性のある行動をとる労働者は志願者でなければならず、想定される健康リスクについて予め明確かつ総合的に明示され、必要とされる可能性のある行動の訓練を、実施可能な限り受けていなければならない」と規定している。
労働契約に基づき指揮命令をうける労働者は「志願者」ではありえない。省令改正では、事業者が特例緊急作業に従事することに同意し、特別教育を受けた労働者を選任し、業務命令で250mSvの被ばく作業=特例緊急作業に従事させることができるが、このような特例緊急作業の指示命令は、電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(BSS)に反している。
さらに、通常の線量限度を超える可能性がある業務に労働者を従事させることは、事業者に放射線による健康障害を防止するために必要な措置を講じることを義務づけた、労働安全衛生法第22条の規定に真っ向から反する。また、事業者に労働者を退避させる義務を規定した、労働安全衛生法第25条の規定にも抵触する。
福島第一原発事故を検証し、教訓化することもなく、約2万人もの緊急作業従事者に高線量、大量被ばくさせたことを正当化し、既成事実化させてはならない。緊急時の事故対応を名目に、緊急作業に従事する労働者に高線量・大量被ばくを強制することは許されない。

13 グスコーブドリにさせてはならない

七沢潔氏(NHK)は、「原発事故の収束は誰が担うのか」と題する論文を岩波「世界」(2017年4月号)で寄稿している11)。 七沢氏は、チェルノブイリ原発事故を取材した経験から、前述した特例被ばく限度引き上げに危機感を抱き、自らの考えを記している。長くなるが重要なことと思われるので、引用をお許し願いたい。

この特例被ばく限度の導入はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告(103号ほか)を参考にしている。そこにある考え方のもう一つは、「(作業に)従事することによる健康リスクに対し、ほかの便益が明らかに上回る状況で、作業の実施に正当性があること」という、いわゆる「正当化原則」である。(中略)だが私にはこれまでの取材経験から、ここには他にもアキレス腱=限界があることがわかる。その一つは、「線量限度は果たして守られるのか」あるいはその線量限度で必要な作業は賄えるのか」という問題である。(115頁)

「計画的被ばく」は緊急時の事故収束作業で避けられないとはいえ、線量管理が適正に行われることが前提である。不意に起こる事故に対応できる測定体制が求められるが、事故のダメージでそれが困難になり、被ばく線量不明のまま作業が行われる可能性も否定できないのである。(116頁)

このように、その時は必要と思われた緊急の事故収束のための作業が、結果として無意味だったとき、特例緊急被ばくが「正当化」される原則は果たして適用できるのだろうか。はなはだ疑問である。作業員にかかる健康リスクより(社会的な)便益が勝るとは到底判断できないからだ。(118頁)

冷害を前に火山を爆発させて地球を温暖化させる作業に主人公が身を投じる宮沢賢治の小説「グスコーブドリの伝記」をはじめ、多くの文学作品で「自己犠牲」は描かれてきた。だからこそ、福島に現れた吉田昌郎所長と「フクシマフィフティ」という「英雄」に日本中が共感し、あるいは日本がどうなるかわからない不安の中で救いを求めた。(120頁)

「英雄的犠牲」という言葉には注意が必要である。“軍事国家”アメリカがこの時を求め、菅首相が「命を捨てる覚悟で」と強調するのは、原子力規制庁が求めるような、目的合理性のある、自発的で抑制された被ばくではなく、死をも厭わず「国を守り、国に殉じる」精神である。(120頁)

七沢潔(NHK)「原発事故の収束は誰が担うのか-吉田調書を超えて(第1回)」

特例緊急被ばく限度の引き上げに反対する闘いは、たんに被ばく線量250mSvの妥当性を問うだけでない。まさに緊急作業従事者を「グスコーブドリ」にしたて、自己犠牲を強いる原子力産業の非人間的な本質を暴き、いのちと健康、人権を守る闘いなのである。

さいごに

福島原発事故から7年目を迎え、福島第一原発では原子炉建屋の内部と周囲での高線量被ばく作業が本格化しようとしている。高線量の環境下で無意味に労働者を被ばくさせ、いのちと健康を犠牲にするような消耗戦を続けるべきではないと考える。国や東電に対し、溶けた核燃料の取り出しに固執する廃炉工程を見直し、安全、確実な事故収束・廃炉を求める世論を作っていかねばならない。
今年度、私たちは、被ばく労働問題に関する省庁交渉に取り組むとともに、原発被ばくの東電の責任を問うあらかぶさんの裁判の支援運動をひろげていきたい。
被ばく労働問題に心を寄せる人々ともに、被ばく労働者の健康と安全を守り、権利の確立をめざしてこれからも闘いを進めていこうではないか。

1)東電ホールディングスプレスリリース
http://www.tepco.co.jp/press/release/index-j.html
2)福島第一原子力発電所の作業者の被ばく線量の評価状況について(2016年4月28日) http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1280695_8626.html
3)中長期ロードマップの進捗状況2017年3月30日(廃炉・汚染水対策チーム第40回事務局会議)
http://www.tepco.co.jp/decommision/planaction/roadmap
4)原子力規制委員会 平成29年2月24日「福島第一原子力発電所における循環注水冷却・滞留水等に係る定例会」資料https://www.nsr.go.jp/data/000180533.pdf
5)厚生労働省「甲状腺がんと放射線被ばくに関連する医学的知見を公表します」(2016年12月16日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146085.html
6)厚生労働省「東京電力福島第一原発緊急作業従事者に対する疫学的研究のあり方について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000047387.html
7)公益財団法人放射線影響協会「除染等業務従事者等被ばく線量登録管理制度」 http://www.rea.or.jp/chutou/koukai_jyosen/hibakukanri_jyosen.html
8)福島労働局報道資料 2016年3月
http://fukushima-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/
9)厚生労働省「原子力施設での緊急作業者の放射線障害防止対策を定めました」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000095467.html
10)ジエンリ・ニウ、吉川徹・小木和孝訳「労働者の放射線防護」(公財)労働科学研究所、2011年5月
11)七沢潔(NHK)「原発事故の収束は誰が担うのか-吉田調書を超えて(第1回)」「世界」岩波書店、2017年4月号

安全センター情報2017年5月号