直腸・精巣がんと放射線被ばく/厚労省●報告書と当面の労災補償の考え方

厚生労働省は5月17日、「直腸がん・精巣腫瘍(精巣がん)と放射線被ばくに関する医学的知見の公表について~労災請求を受け、国際的な報告や疫学調査報告等を分析・検討して報告書を取りまとめ~」を公表した。
※https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33105.html

【医学的知見報告書の概要】

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が医学文献の部位別のレビューをまとめた「2006年報告書」と、2006年以降の医学文献を中心にレビューを行った。

1 被ばく線量について
(1) 個別文献では、両がんの発生が統計学的に有意に増加する最小被ばく線量について記載された文献はなかった。
(2) 両がんを含む全固形がん※を対象としたUNSCEARなどの知見では、被ばく線量が100から200mSv以上において統計学的に有意なリスクの上昇が認められ、がんリスクの推定に用いる疫学的研究方法はおよそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないとされている。
※胃がん、大腸がんなどのように、塊を作るがんの総称。固形がんでないものとして、白血病などの血液のがんがある。
2 潜伏期間について
(1) 両がんに関する個別文献では、直腸がんの最小潜伏期間について記載されたものはなかった。
(2) UNSCEARなどの知見では、全固形がんの最小潜伏期間について、5年から10年としている。
3 放射線被ばく以外のリスク要因
直腸がんには、放線被ばく以外に、遺伝子のリスク因子、食事のリスク因子、その他の慢性疾患がリスク要因とされている。

【当面の労災補償の考え方】

1 当面の労災補償の考え方
放射線業務従事者に発症した直腸がんの労災補償に当たっては、当面、検討会報告書に基づき、以下の3項目を総合的に判断する。
(1) 被ばく線量
被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくと直腸がんとの関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、直腸がんとの関連が強まること。
(2) 潜伏期間
放射線被ばくからがん発症までの期間が5年以上であること。
(3) 放射線被ばく以外のリスク要因
放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。
2 その他具体的検討
個別事案の具体的な検討に当たっては、厚生労働省における「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」において引き続き検討する。

※上記1の(1)及び(2)については、これまで取りまとめた固形がんに係る当面の労災補償の考え方と同一である。

安全センター情報2023年8月号