改正化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針及び解説通達【新たな化学物質規制令和5年度分施行関係資料】

[解説通達前文]

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の3第3項の規定に基づき、別添1のとおり、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針の一部を改正する指針(危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)を令和5年4月27日付け官報に公示し、令和6年4月1日より適用することとした。
今般の改正は、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)の施行、労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準(令和5年厚生労働省告示第177号)及び化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号)の策定等に伴い、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号。以下「化学物質リスクアセスメント指針」という。)について所要の改正を行うものである。
改正点は別添2の新旧対照表のとおりであり、改正後の化学物質リスクアセスメント指針は別添3のとおりであるので、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第34条の2の9において準用する同令第24条の規定により、都道府県労働局健康主務課において閲覧に供されたい。
また、平成27年9月18日付け基発0918第3号「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(以下「第3号通達」という。)を改正し、改正点は別添4の新旧対照表のとおりであり、改正後の第3号通達は別添5のとおりであるので、事業者及び関係事業者団体等に対する周知等を図られたい。

解説通達・基発0427第3号令和5年4月27日「「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針の一部を改正する指針」について【全文】(pdf)

※ 本誌では、令和5年4月27日付け指針公示第4号による改正後の平成27年9月18日付け指針公示第3号を左欄に、また、令和5年4月27日付け基発0427第3号による改正後の平成27年9月18日付け基発0918第3号を右欄に配して対照できるようにするとともに、改正部分を傍線で示した(ただし、解説通達の別紙1~4には傍線は付けていない)。

改正化学物質リスクアセスメント指針(傍線は改正部分)改正解説通達(傍線は改正部分)
平成27年9月18日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号
改正 令和5年4月27日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号

化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針
平成27年9月18日 基発0918第3号
一部改正
令和5年4月27日 基発0427第3号

化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について
1 趣旨等

本指針は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条の3第3項の規定に基づき、事業者が、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものによる危険性又は有害性等の調査(以下「リスクアセスメント」という。)を実施し、その結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置(以下「リスク低減措置」という。)が各事業場において適切かつ有効に実施されるよう、「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号)と相まって、リスクアセスメントからリスク低減措置の実施までの一連の措置の基本的な考え方及び具体的な手順の例を示すとともに、これらの措置の実施上の留意事項を定めたものである。
また、本指針は、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」(平成11年労働省告示第53号)に定める危険性又は有害性等の調査及び実施事項の特定の具体的実施事項としても位置付けられるものである。

2 適用

本指針は、リスクアセスメント対象物(リスクアセスメントをしなければならない労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)第18条各号に掲げる物及び法第57条の2第1項に規定する通知対象物をいう。以下同じ。)に係るリスクアセスメントについて適用し、労働者の就業に係る全てのものを対象とする。

3 実施内容

事業者は、法第57条の3第1項に基づくリスクアセスメントとして、(1)から(3)までに掲げる事項を、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第34条の2の8に基づき(5)に掲げる事項を実施しなければならない。また、法第57条の3第2項に基づき、安衛則第577条の2に基づく措置その他の法令の規定による措置を講ずるほか(4)に掲げる事項を実施するよう努めなければならない。
(1) リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性の特定
(2) (1)により特定されたリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性並びに当該リスクアセスメント対象物を取り扱う作業方法、設備等により業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度(以下「リスク」という。)の見積り(安衛則第577条の2第2項の厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃度基準値」という。)が定められている物質については、屋内事業場における労働者のばく露の程度が濃度基準値を超えるおそれの把握を含む。)
(3) (2)の見積りに基づき、リスクアセスメント対象物への労働者のばく露の程度を最小限度とすること及び濃度基準値が定められている物質については屋内事業場における労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置の内容の検討
(4) (3)のリスク低減措置の実施
(5) リスクアセスメント結果等の記録及び保存並びに周知

4 実施体制等

(1) 事業者は、次に掲げる体制でリスクアセスメント及びリスク低減措置(以下「リスクアセスメント等」という。)を実施するものとする。
ア 総括安全衛生管理者が選任されている場合には、当該者にリスクアセスメント等の実施を統括管理させること。総括安全衛生管理者が選任されていない場合には、事業の実施を統括管理する者に統括管理させること。
イ 安全管理者又は衛生管理者が選任されている場合には、当該者にリスクアセスメント等の実施を管理させること。
ウ 化学物質管理者(安衛則第12条の5第1項に規定する化学物質管理者をいう。以下同じ。)を選任し、安全管理者又は衛生管理者が選任されている場合にはその管理の下、化学物質管理者にリスクアセスメント等に関する技術的事項を管理させること。
エ 安全衛生委員会、安全委員会又は衛生委員会が設置されている場合には、これらの委員会においてリスクアセスメント等に関することを調査審議させること。また、リスクアセスメント等の対象業務に従事する労働者に化学物質の管理の実施状況を共有し、当該管理の実施状況について、これらの労働者の意見を聴取する機会を設け、リスクアセスメント等の実施を決定する段階において労働者を参画させること。
オ リスクアセスメント等の実施に当たっては、必要に応じ、事業場内の化学物質管理専門家や作業環境管理専門家のほか、リスクアセスメント対象物に係る危険性及び有害性や、機械設備、化学設備、生産技術等についての専門的知識を有する者を参画させること。
カ 上記のほか、より詳細なリスクアセスメント手法の導入又はリスク低減措置の実施に当たっての、技術的な助言を得るため、事業場内に化学物質管理専門家や作業環境管理専門家等がいない場合は、外部の専門家の活用を図ることが望ましいこと。
(2) 事業者は、(1)のリスクアセスメント等の実施を管理する者等(カの外部の専門家を除く。)に対し、化学物質管理者の管理のもとで、リスクアセスメント等を実施するために必要な教育を実施するものとする。

5 実施時期

(1) 事業者は、安衛則第34条の2の7第1項に基づき、次のアからウまでに掲げる時期にリスクアセスメントを行うものとする。
ア リスクアセスメント対象物を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
イ リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。
ウ リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。具体的には、以下の(ア)、(イ)が含まれること。
(ア)過去に提供された安全データシート(以下「SDS」という。)の危険性又は有害性に係る情報が変更され、その内容が事業者に提供された場合
(イ)濃度基準値が新たに設定された場合又は当該値が変更された場合

(2) 事業者は、(1)のほか、次のアからウまでに掲げる場合にもリスクアセスメントを行うよう努めること。
ア リスクアセスメント対象物に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題があることが確認された場合
イ 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
ウ 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメント対象物として新たに追加された場合など、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合
(3) 事業者は、(1)のア又はイに掲げる作業を開始する前に、リスク低減措置を実施することが必要であることに留意するものとする。
(4) 事業者は、(1)のア又はイに係る設備改修等の計画を策定するときは、その計画策定段階においてもリスクアセスメント等を実施することが望ましいこと。

6 リスクアセスメント等の対象の選定

事業者は、次に定めるところにより、リスクアセスメント等の実施対象を選定するものとする。
(1) 事業場において製造又は取り扱う全てのリスクアセスメント対象物をリスクアセスメント等の対象とすること。
(2) リスクアセスメント等は、対象のリスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに行うこと。ただし、例えば、当該業務に複数の作業工程がある場合に、当該工程を1つの単位とする、当該業務のうち同一場所において行われる複数の作業を1つの単位とするなど、事業場の実情に応じ適切な単位で行うことも可能であること。
(3) 元方事業者にあっては、その労働者及び関係請負人の労働者が同一の場所で作業を行うこと(以下「混在作業」という。)によって生ずる労働災害を防止するため、当該混在作業についても、リスクアセスメント等の対象とすること。

7 情報の入手等

(1) 事業者は、リスクアセスメント等の実施に当たり、次に掲げる情報に関する資料等を入手するものとする。
入手に当たっては、リスクアセスメント等の対象には、定常的な作業のみならず、非定常作業も含まれることに留意すること。
また、混在作業等複数の事業者が同一の場所で作業を行う場合にあっては、当該複数の事業者が同一の場所で作業を行う状況に関する資料等も含めるものとすること。
ア リスクアセスメント等の対象となるリスクアセスメント対象物に係る危険性又は有害性に関する情報(SDS等)
イ リスクアセスメント等の対象となる作業を実施する状況に関する情報(作業標準、作業手順書等、機械設備等に関する情報を含む。)
(2) 事業者は、(1)のほか、次に掲げる情報に関する資料等を、必要に応じ入手するものとすること。
ア リスクアセスメント対象物に係る機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報
イ 作業環境測定結果等
ウ 災害事例、災害統計等
エ その他、リスクアセスメント等の実施に当たり参考となる資料等
(3) 事業者は、情報の入手に当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 新たにリスクアセスメント対象物を外部から取得等しようとする場合には、当該リスクアセスメント対象物を譲渡し、又は提供する者から、当該リスクアセスメント対象物に係るSDSを確実に入手すること。
イ リスクアセスメント対象物に係る新たな機械設備等を外部から導入しようとする場合には、当該機械設備等の製造者に対し、当該設備等の設計・製造段階においてリスクアセスメントを実施することを求め、その結果を入手すること。
ウ リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の使用又は改造等を行おうとする場合に、自らが当該機械設備等の管理権原を有しないときは、管理権原を有する者等が実施した当該機械設備等に対するリスクアセスメントの結果を入手すること。
(4) 元方事業者は、次に掲げる場合には、関係請負人におけるリスクアセスメントの円滑な実施に資するよう、自ら実施したリスクアセスメント等の結果を当該業務に係る関係請負人に提供すること。
ア 複数の事業者が同一の場所で作業する場合であって、混在作業におけるリスクアセスメント対象物による労働災害を防止するために元方事業者がリスクアセスメント等を実施したとき。
イ リスクアセスメント対象物にばく露するおそれがある場所等、リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性がある場所において、複数の事業者が作業を行う場合であって、元方事業者が当該場所に関するリスクアセスメント等を実施したとき。

8 危険性又は有害性の特定

事業者は、リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメント等の対象となる業務を洗い出した上で、原則としてアからウまでに即して危険性又は有害性を特定すること。また、必要に応じ、エに掲げるものについても特定することが望ましいこと。
ア 国際連合から勧告として公表された「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」(以下「GHS」という。)又は日本産業規格Z7252に基づき分類されたリスクアセスメント対象物の危険性又は有害性(SDSを入手した場合には、当該SDSに記載されているGHS分類結果)
イ リスクアセスメント対象物の管理濃度及び濃度基準値。これらの値が設定されていない場合であって、日本産業衛生学会の許容濃度又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)のTLV-TWA等のリスクアセスメント対象物のばく露限界(以下「ばく露限界」という。)が設定されている場合にはその値(SDSを入手した場合には、当該SDSに記載されているばく露限界)
 皮膚等障害化学物質等(安衛則第594条の2で定める皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質又は化学物質を含有する製剤)への該当性
からウまでによって特定される危険性又は有害性以外の、負傷又は疾病の原因となるおそれのある危険性又は有害性。この場合、過去にリスクアセスメント対象物による労働災害が発生した作業、リスクアセスメント対象物による危険又は健康障害のおそれがある事象が発生した作業等により事業者が把握している情報があるときには、当該情報に基づく危険性又は有害性が必ず含まれるよう留意すること。

9 リスクの見積り

(1) 事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
ア リスクアセスメント対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又はリスクアセスメント対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)及び当該危険又は健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)発生可能性及び重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ発生可能性及び重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法
(イ)発生可能性及び重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法
(ウ)発生可能性及び重篤度を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法
(エ)ILOの化学物質リスク簡易評価法(コントロール・バンディング)等を用いてリスクを見積もる方法
(オ)化学プラント等の化学反応のプロセス等による災害のシナリオを仮定して、その事象の発生可能性と重篤度を考慮する方法
イ 当該業務に従事する労働者がリスクアセスメント対象物にさらされる程度(ばく露の程度)及び当該リスクアセスメント対象物の有害性の程度を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法
(イ)濃度基準値が設定されている物質については、個人ばく露測定により測定した当該物質の濃度を当該物質の濃度基準値と比較する方法
(ウ)管理濃度又は濃度基準値が設定されていない物質については、
対象の業務について作業環境測定等により測定した作業場所における当該物質の気中濃度等を当該物質のばく露限界と比較する方法
(エ)数理モデルを用いて対象の業務に係る作業を行う労働者の周辺のリスクアセスメント対象物の気中濃度を推定し、当該物質の濃度基準値又はばく露限界と比較する方法
(オ)リスクアセスメント対象物への労働者のばく露の程度及び当該物質による有害性の程度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめばく露の程度及び有害性の程度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法
ウ ア又はイに掲げる方法に準ずる方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)リスクアセスメント対象物に係る危険又は健康障害を防止するための具体的な措置が労働安全衛生法関係法令(主に健康障害の防止を目的とした有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)、鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)、四アルキル鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第38号)及び特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)の規定並びに主に危険の防止を目的とした令別表第1に掲げる危険物に係る安衛則の規定)の各条項に規定されている場合に、当該規定を確認する方法。
(イ)リスクアセスメント対象物に係る危険を防止するための具体的な規定が労働安全衛生法関係法令に規定されていない場合において、当該物質のSDSに記載されている危険性の種類(例えば「爆発物」など)を確認し、当該危険性と同種の危険性を有し、かつ、具体的措置が規定されている物に係る当該規定を確認する方法
(ウ)毎回異なる環境で作業を行う場合において、典型的な作業を洗い出し、あらかじめ当該作業において労働者がばく露される物質の濃度を測定し、その測定結果に基づくリスク低減措置を定めたマニュアル等を作成するとともに、当該マニュアル等に定められた措置が適切に実施されていることを確認する方法
(2) 事業者は、(1)のア又はイの方法により見積りを行うに際しては、用いるリスクの見積り方法に応じて、7で入手した情報等から次に掲げる事項等必要な情報を使用すること。
ア 当該リスクアセスメント対象物の性状
イ 当該リスクアセスメント対象物の製造量又は取扱量
ウ 当該リスクアセスメント対象物の製造又は取扱い(以下「製造等」という。)に係る作業の内容
エ 当該リスクアセスメント対象物の製造等に係る作業の条件及び関連設備の状況
オ 当該リスクアセスメント対象物の製造等に係る作業への人員配置の状況
カ 作業時間及び作業の頻度
キ 換気設備の設置状況
ク 有効な保護具の選択及び使用状況
ケ 当該リスクアセスメント対象物に係る既存の作業環境中の濃度若しくはばく露濃度の測定結果又は生物学的モニタリング結果
(3) 事業者は、(1)のアの方法によるリスクの見積りに当たり、次に掲げる事項等に留意するものとする。
ア 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。
イ 負傷又は疾病の重篤度は、傷害や疾病等の種類にかかわらず、共通の尺度を使うことが望ましいことから、基本的に、負傷又は疾病による休業日数等を尺度として使用すること。
ウ リスクアセスメントの対象の業務に従事する労働者の疲労等の危険性又は有害性への付加的影響を考慮することが望ましいこと。
(4) 事業者は、一定の安全衛生対策が講じられた状態でリスクを見積もる場合には、用いるリスクの見積り方法における必要性に応じて、次に掲げる事項等を考慮すること。
ア 安全装置の設置、立入禁止措置、排気・換気装置の設置その他の労働災害防止のための機能又は方策(以下「安全衛生機能等」という。)の信頼性及び維持能力
イ 安全衛生機能等を無効化する又は無視する可能性
ウ 作業手順の逸脱、操作ミスその他の予見可能な意図的・非意図的な誤使用又は危険行動の可能性
エ 有害性が立証されていないが、一定の根拠がある場合における当該根拠に基づく有害性

10 リスク低減措置の検討及び実施

(1) 事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、労働者がばく露される程度が濃度基準値又はばく露限界を十分に下回ることが確認できる場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。
ア 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱うリスクアセスメント対象物の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減
イ リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又はリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
ウ 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
エ リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の選択及び使用
(2) (1)の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討まで要するものではないこと。また、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする。
(3) 死亡、後遺障害又は重篤な疾病をもたらすおそれのあるリスクに対して、適切なリスク低減措置の実施に時間を要する場合は、暫定的な措置を直ちに講ずるほか、(1)において検討したリスク低減措置の内容を速やかに実施するよう努めるものとする。
(4) リスク低減措置を講じた場合には、当該措置を実施した後に見込まれるリスクを見積もることが望ましいこと。

11 リスクアセスメント結果等の労働者への周知等

(1) 事業者は、安衛則第34条の2の8に基づき次に掲げる事項をリスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知するものとする。
ア 対象のリスクアセスメント対象物の名称
イ 対象業務の内容
ウ リスクアセスメントの結果
(ア)特定した危険性又は有害性
(イ)見積もったリスク
エ 実施するリスク低減措置の内容
(2) (1)の周知は、安衛則第34条の2の8第2項に基づく方法によること。
(3) 法第59条第1項に基づく雇入れ時教育及び同条第2項に基づく作業変更時教育においては、安衛則第35条第1項第1号、第2号及び第5号に掲げる事項として、(1)に掲げる事項を含めること。
なお、5の(1)に掲げるリスクアセスメント等の実施時期のうちアからウまでについては、法第59条第2項の「作業内容を変更したとき」に該当するものであること。
(4) 事業者は(1)に掲げる事項について記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間(リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内に当該リスクアセスメント対象物についてリスクアセスメントを行ったときは、3年間)保存しなければならないこと。

12 その他

リスクアセスメント対象物以外のものであって、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものについては、法第28条の2及び安衛則第577条の3に基づき、この指針に準じて取り組むよう努めること。
1 趣旨等について

(1) 指針の1は、本指針の趣旨及び位置付けを定めたものであること。
(2) 指針の1の「危険性又は有害性」とは、ILO等において、「危険有害要因」、「ハザード(haza-rd)」等の用語で表現されているものであること。

2 適用について

(1) 指針の2は、法第57条の3第1項の規定に基づくリスクアセスメントは、リスクアセスメント対象物のみならず、作業方法、設備等、労働者の就業に係る全てのものを含めて実施すべきことを定めたものであること。
(2) 指針の2の「リスクアセスメント対象物」には、製造中間体(製品の製造工程中において生成し、同一事業場内で他の化学物質に変化する化学物質をいう。)が含まれること。

3 実施内容について

(1) 指針の3は、指針に基づき実施すべき事項の骨子を定めたものであること。また、法及び関係規則の規定に従い、事業者に義務付けられている事項と努力義務となっている事項を明示したこと。
(2) 指針の3(1)の「危険性又は有害性の特定」は、ILO等においては「危険有害要因の特定(hazard identification)」等の用語で表現されているものであること。
(3) 指針の3(2)の労働者のばく露の程度が濃度基準値(安衛則第577条の2第2項に基づく厚生労働大臣が定める濃度の基準をいう。以下同じ。)を超えるおそれの把握の方法については、「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号。以下「技術上の指針」という。)に示すところによること。
(4) 指針の3(3)については、安衛則第577条の2第1項において、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度とすることが事業者に義務付けられていることを踏まえ、リスク低減措置には、当該措置義務が含まれることを明らかにした趣旨であること。


4 実施体制等について

(1) 指針の4は、リスクアセスメント及びリスク低減措置(以下「リスクアセスメント等」という。)を実施する際の体制について定めたものであること。
(2) 指針の4(1)アの「事業の実施を統括管理する者」には、統括安全衛生責任者等、事業場を実質的に統括管理する者が含まれること。
(3) 指針の4(1)ウの「化学物質管理者」は、安衛則第12条の5第1項に規定する職務を適切に遂行するために必要な権限が付与される必要があるため、事業場内の当該権限を有する労働者のうちから選任される必要があること。その他化学物質管理者の選任及びその職務については、安衛則第12条の5各項の規定及び「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」(令和4年5月31日付け基発0531第9号)第4の1(1)によること。
(4) 指針の4(1)エの前段は、安全衛生委員会等において、安衛則第21条各号及び第22条各号に掲げる付議事項を調査審議するなど労働者の参画について定めたものであること。また、4(1)エの後段は、安衛則第577条の2第10項の規定により、関係労働者の意見を聴くための機会を設けることが義務付けられていること踏まえて定めたものであること。
(5) 指針の4(1)オの「専門的知識を有する者」は、原則として当該事業場の実際の作業や設備に精通している内部関係者とすること。

5 実施時期について

(1) 指針の5は、リスクアセスメントを実施すべき時期について定めたものであること。
(2) リスクアセスメント対象物に係る建設物を設置し、移転し、変更し、若しくは解体するとき、又は化学設備等に係る設備を新規に採用し、若しくは変更するときは、それが指針の5(1)ア又はイに掲げるいずれかに該当する場合に、リスクアセスメントを実施する必要があること。
(3) 指針の5(1)ウの「リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき」とは、リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性に係る新たな知見が確認されたことを意味するものであり、日本産業衛生学会の許容濃度又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が勧告するTLV-TWA等によりリスクアセスメント対象物のばく露限界が新規に設定され、又は変更された場合が含まれること。また、指針の5(1)アで定める場合は、国連勧告の化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「GHS」という。)又は日本産業規格Z7252(以下「JIS Z7252」という。)に基づき分類されたリスクアセスメント対象物の危険性又は有害性の区分が変更された場合であって、当該リスクアセスメント対象物を譲渡し、又は提供した者が当該リスクアセスメント対象物に係る安全データシート(以下「SDS」という。)の危険性又は有害性に係る情報を変更し、法第57条の2第2項及び安衛則第34条の2の5第3項の規定に基づき、その変更内容が事業者に提供されたときをいうこと。
(4) 指針の5(2)は、安衛則第34条の2の7第1項に規定する時期以外にもリスクアセスメントを行うよう努めるべきことを定めたものであること。
(5) 指針の5(2)イは、過去に実施したリスクアセスメント等について、設備の経年劣化等の状況の変化が当該リスクアセスメント等の想定する範囲を超える場合に、その変化を的確に把握するため、定期的に再度のリスクアセスメント等を実施するよう努める必要があることを定めたものであること。なお、ここでいう「一定の期間」については、事業者が設備や作業等の状況を踏まえ決定し、それに基づき計画的にリスクアセスメント等を実施すること。
また、「新たな安全衛生に係る知見」には、例えば、社外における類似作業で発生した災害など、従前は想定していなかったリスクを明らかにする情報が含まれること。
(6) 指針の5(2)ウは、「既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメント対象物として新たに追加された場合」のほか、リスクアセスメント等の義務化に係る法第57条の3第1項の規定の施行日(平成28年6月1日)前から使用している物質を施行日以降、施行日前と同様の作業方法で取り扱う場合には、リスクアセスメントの実施義務が生じないものであるが、これらの既存業務について、過去にリスクアセスメント等を実施したことのない場合又はリスクアセスメント等の結果が残っていない場合は、実施するよう努める必要があることを定めたものであること。
(7) 指針の5(4)は、設備改修等の作業を開始する前の施工計画等を作成する段階で、リスクアセスメント等を実施することで、より効果的なリスク低減措置の実施が可能となることから定めたものであること。また、計画策定時にリスクアセスメント等を行った後に指針の5(1)の作業等を行う場合、同じ作業等を対象に重ねてリスクアセスメント等を実施する必要はないこと。

6 リスクアセスメント等の対象の選定について

(1) 指針の6は、リスクアセスメント等の実施対象の選定基準について定めたものであること。
(2) 指針の6(3)の「同一の場所で作業を行うことによって生ずる労働災害」には、例えば、引火性のある塗料を用いた塗装作業と設備の改修に係る溶接作業との混在作業がある場合に、溶接による火花等が引火性のある塗料に引火することによる労働災害などが想定されること。

7 情報の入手等について

(1) 指針の7は、調査等の実施に当たり、事前に入手すべき情報を定めたものであること。
(2) 指針の7(1)の「非定常作業」には、機械設備等の保守点検作業や補修作業に加え、工程の切替え(いわゆる段取替え)や緊急事態への対応に関する作業も含まれること。
(3) 指針の7(1)については、以下の事項に留意すること。
ア 指針の7(1)アの「危険性又は有害性に関する情報」は、使用するリスクアセスメント対象物のSDS等から入手できること。
イ 指針の7(1)イの「作業手順書等」の「等」には、例えば、操作説明書、マニュアルがあり、「機械設備等に関する情報」には、例えば、使用する設備等の仕様書のほか、取扱説明書、「機械等の包括的な安全基準に関する指針」(平成13年6月1日付け基発第501号)に基づき提供される「使用上の情報」があること。
(4) 指針の7(2)については、以下の事項に留意すること。
ア 指針の7(2)アの「作業の周辺の環境に関する情報」には、例えば、周辺のリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の配置状況や当該機械設備等から外部へ拡散するリスクアセスメント対象物の情報があること。また、発注者において行われたこれらに係る調査等の結果も含まれること。
イ 指針の7(2)イの「作業環境測定結果等」の「等」には、例えば、個人ばく露測定結果、ばく露の推定値、特殊健康診断結果、生物学的モニタリング結果等があること。
ウ 指針の7(2)ウの「災害事例、災害統計等」には、例えば、事業場内の災害事例、災害の統計・発生傾向分析、ヒヤリハット、トラブルの記録、労働者が日常不安を感じている作業等の情報があること。また、同業他社、関連業界の災害事例等を収集することが望ましいこと。
エ 指針の7(2)エの「参考となる資料等」には、例えば、リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性に係る文献、作業を行うために必要な資格・教育の要件、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」(平成12年3月21日付け基発第149号)等に基づく調査等の結果、危険予知活動(KYT)の実施結果、職場巡視の実施結果があること。なお、この際にデジタル技術を活用した調査、巡視等の結果の活用も可能であること。
(5) 指針の7(3)については、以下の事項に留意すること。
ア 指針の7(3)アは、リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性に係る情報が記載されたSDSはリスクアセスメント等において重要であることから、事業者は当該リスクアセスメント対象物のSDSを必ず入手すべきことを定めたものであること。
イ 指針の7(3)イは、「機械等の包括的な安全基準に関する指針」、ISO、JISの「機械類の安全性」の考え方に基づき、リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の設計・製造段階における安全対策が講じられるよう、機械設備等の導入前に製造者にリスクアセスメント等の実施を求め、使用上の情報等の結果を入手することを定めたものであること。
ウ 指針の7(3)ウは、使用する機械設備等に対する設備的改善は管理権原を有する者のみが行い得ることから、管理権原を有する者が実施したリスクアセスメント等の結果を入手することを定めたものであること。
また、爆発等の危険性のある物を取り扱う機械設備等の改造等を請け負った事業者が、内容物等の危険性を把握することは困難であることから、管理権原を有する者がリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供するなど、関係請負人がリスクアセスメント等を行うために必要な情報を入手できることを定めたものであること。
(6) 指針の7(4)については、以下の事項に留意すること。
ア 指針の7(4)アは、同一の場所で複数の事業者が混在作業を行う場合、当該作業を請け負った事業者は、作業の混在の有無や混在作業において他の事業者が使用するリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性を把握できないので、元方事業者がこれらの事項について事前にリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供する必要があることを定めたものであること。
イ 指針の7(4)イは、リスクアセスメント対象物の製造工場や化学プラント等の建設、改造、修理等の現場においては、関係請負人が混在して作業を行っていることから、どの関係請負人がリスクアセスメント等を実施すべきか明確でない場合があるため、元方事業者がリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供する必要があることを定めたものであること。

8 危険性又は有害性の特定について

(1) 指針の8は、危険性又は有害性の特定の方法について定めたものであること。
(2) 指針の8の「リスクアセスメント等の対象となる業務」のうちリスクアセスメント対象物を製造する業務には、当該リスクアセスメント対象物を最終製品として製造する業務のほか、当該リスクアセスメント対象物を製造中間体として生成する業務が含まれ、リスクアセスメント対象物を取り扱う業務には、譲渡・提供され、又は自ら製造した当該リスクアセスメント対象物を単に使用する業務のほか、他の製品の原料として使用する業務が含まれること。
(3) 指針の8ア及びイは、リスクアセスメント対象物の危険性又は有害性の特定は、まずSDSに記載されているGHS分類結果、管理濃度及び濃度基準値並びにこれらの値が設定されていない場合には日本産業衛生学会等の許容濃度等のばく露限界を把握することによることを定めたものであること。なお、指針の8アのGHS分類に基づくリスクアセスメント対象物の危険性又は有害性には、別紙1に示すものがあること。
また、リスクアセスメント対象物の「危険性又は有害性」は、個々のリスクアセスメント対象物に関するものであるが、これらのリスクアセスメント対象物の相互間の化学反応による危険性(発熱等の事象)又は有害性(有毒ガスの発生等)が予測される場合には、事象に即してその危険性又は有害性にも留意すること。
4) 指針の8ウの皮膚等障害化学物質等に該当する物質については、安衛則第594条の2の規定により、皮膚等障害化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に労働者を従事させる場合にあっては、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を使用させることが事業者に義務付けていることを踏まえ、リスク低減措置の検討に当たっては、保護具の着用を含めて検討する必要があること。
(5)
指針の8エにおける「負傷又は疾病の原因となるおそれのあるリスクアセスメント対象物の危険性又は有害性」とは、SDSに記載された危険性又は有害性クラス及び区分に該当しない場合であっても、過去の災害事例等の入手しうる情報によって災害の原因となるおそれがあると判断される危険性又は有害性をいうこと。また、「リスクアセスメント対象物による危険又は健康障害のおそれがある事象が発生した作業等」の「等」には、労働災害を伴わなかった危険又は健康障害のおそれのある事象(ヒヤリハット事例)のあった作業、労働者が日常不安を感じている作業、過去に事故のあった設備等を使用する作業、又は操作が複雑なリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の操作が含まれること。

9 リスクの見積りについて

(1) 指針の9はリスクの見積りの方法等について定めたものであるが、その実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア リスクの見積りは、危険性又は有害性のいずれかについて行う趣旨ではなく、対象となるリスクアセスメント対象物に応じて特定された危険性又は有害性のそれぞれについて行うべきものであること。したがって、リスクアセスメント対象物によっては危険性及び有害性の両方についてリスクを見積もる必要があること。
イ 指針の9(1)アからウまでに掲げる方法は、代表的な手法の例であり、指針の9(1)ア、イ又はウの柱書きに定める事項を満たしている限り、他の手法によっても差し支えないこと。
(2) 指針の9(1)アに示す方法の実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(1)アのリスクの見積りは、必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差し支えないこと。
イ 指針の9(1)アの「危険又は健康障害」には、それらによる死亡も含まれること。また、「危険又は健康障害」は、ISO等において「危害」(harm)、「危険又は健康障害の程度(重篤度)」は、ISO等において「危害のひどさ」(severity of harm)等の用語で表現されているものであること。
ウ 指針の9(1)ア(ア)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表(行列:マトリクス)に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法であること。(別紙2の例1を参照。)
エ 指針の9(1)ア(イ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法であること。(別紙2の例2を参照。)
オ 指針の9(1)ア(ウ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法(リスクグラフ)であること。
カ 指針の9(1)ア(エ)の「コントロール・バンディング」は、ILOが開発途上国の中小企業を対象に有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するため開発した簡易なリスクアセスメント手法である。厚生労働省では「職場のあんぜんサイト」において、ILOが公表しているコントロール・バンディングのツールを翻訳、修正追加したものを「厚生労働省版コントロール・バンディング」として提供していること。(別紙2の例3参照)
キ 指針の9(1)ア(オ)に示す方法は、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」(平成12年3月21日付け基発第149号)による方法等があること。
(3) 指針の9(1)イに示す方法はリスクアセスメント対象物による健康障害に係るリスクの見積りの方法について定めたものであるが、その実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(1)イ(ア)から(ウ)までは、リスクアセスメント対象物の気中濃度等を実際に測定し、管理濃度、濃度基準値又はばく露限界と比較する手法であること。なお、(イ)に定めるばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定の方法については、技術上の指針に定めるところによること。(別紙3の1参照)
イ 指針の9(1)イ(ウ)の「気中濃度等」には、作業環境測定結果の評価値を用いる方法、個人サンプラーを用いて測定した個人ばく露濃度を用いる方法、検知管により簡易に気中濃度を測定する方法等が含まれること。なお、簡易な測定方法を用いた場合には、測定条件に応じた適切な安全率を考慮する必要があること。また、「ばく露限界」には、日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)のTLV―TWA(Threshold Limit Value―Time Weighted Average 8時間加重平均濃度)等があること。
ウ 指針の9(1)イ(ウ)の方法による場合には、単位作業場所(作業環境測定基準第2条第1項に定義するものをいう。)に準じた区域に含まれる業務を測定の単位とするほか、リスクアセスメント対象物の発散源ごとに測定の対象とする方法があること。
エ 指針の9(1)イ(エ)の数理モデルを用いてばく露濃度等を推定する場合には、推定方法及び推定に用いた条件に応じて適切な安全率を考慮する必要があること。
オ 指針の9(1)イ(エ)の気中濃度の推定方法には、以下に掲げる方法が含まれること。
a 調査対象の作業場所以外の作業場所において、調査対象のリスクアセスメント対象物について調査対象の業務と同様の業務が行われており、かつ、作業場所の形状や換気条件が同程度である場合に、当該業務に係る作業環境測定の結果から平均的な濃度を推定する方法
b 調査対象の作業場所における単位時間当たりのリスクアセスメント対象物の消費量及び当該作業場所の気積から推定する方法並びにこれに加えて物質の拡散又は換気を考慮して推定する方法
c 厚生労働省が提供している簡易リスクアセスメントツールであるCREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)を用いて気中濃度を推定する方法(別紙3の例4参照)
d 欧州化学物質生態毒性・毒性センターが提供しているリスクアセスメントツール(ECETOC-TRA)を用いてリスクを見積もる方法(別紙3の例5参照)
カ 指針の9(1)イ(オ)は、指針の9(1)ア(ア)の方法の横軸と縦軸を当該化学物質等のばく露の程度と有害性の程度に置き換えたものであること。(別紙3の例6参照)
キ このほか、以下に留意すること。
a ばく露の程度を推定する方法としては、指針の9(1)イ(ア)から(オ)までのほか、対象の業務について生物学的モニタリングにより当該リスクアセスメント対象物への労働者のばく露レベルを推定する方法もあること。
b 感作性を有するリスクアセスメント対象物に既に感作されている場合や妊娠中等、通常よりも高い感受性を示す場合については、濃度基準値又はばく露限界との比較によるリスクの見積もりのみでは不十分な場合があることに注意が必要であること。
c 経皮吸収による健康障害が懸念されるリスクアセスメント対象物については、指針の9(1)アの方法も考慮すること。

(4) 指針の9(1)ウは、「準ずる方法」として、リスクアセスメント対象物そのもの又は同様の危険性又は有害性を有する他の物質を対象として、当該物質に係る危険又は健康障害を防止するための具体的な措置が労働安全衛生法関係法令に規定されている場合に、当該条項を確認する方法等があることを定めたものであり、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(1)ウ(ア)は、労働安全衛生法関係法令に規定する特定化学物質、有機溶剤、鉛、四アルキル鉛等及び危険物に該当する物質については、対応する有機溶剤中毒予防規則等の各条項の履行状況を確認することをもって、リスクアセスメントを実施したこととみなす方法があること。
イ 指針の9(1)ウ(イ)に示す方法は、危険物ではないが危険物と同様の危険性を有するリスクアセスメント対象物(GHS又はJIS Z7252に基づき分類された物理化学的危険性のうち爆発物、有機過酸化物、可燃性固体、酸化性ガス、酸化性液体、酸化性固体、引火性液体又は可燃性ガスに該当する物)について、危険物を対象として規定された安衛則第4章等の各条項を確認する方法であること。
ウ 指針の9(1)ウ(ウ)の規定は、毎回異なる環境で作業を行う場合、作業の都度、リスクアセスメント及びその結果に基づく措置を実施することが困難であることから、定められた趣旨であること。9(1)ウ(ウ)に示すマニュアル等には、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センターや労働災害防止団体等が公表するマニュアル等があること。
(5) 指針の9(2)については、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(2)アの「性状」には、固体、スラッジ、液体、ミスト、気体等があり、例えば、固体の場合には、塊、フレーク、粒、粉等があること。
イ 指針の9(2)イの「製造量又は取扱量」は、リスクアセスメント対象物の種類ごとに把握すべきものであること。また、タンク等に保管されているリスクアセスメント対象物の量も把握すること。
ウ 指針の9(2)ウの「作業」とは、定常作業であるか非定常作業であるかを問わず、リスクアセスメント対象物により労働者の危険又は健康障害を生ずる可能性のある作業の全てをいうこと。
エ 指針の9(2)エの「製造等に係る作業の条件」には、例えば、製造等を行うリスクアセスメント対象物を取り扱う温度、圧力があること。また、「関連設備の状況」には、例えば、設備の密閉度合、温度や圧力の測定装置の設置状況があること。
オ 指針の9(2)オの「製造等に係る作業への人員配置の状況」には、リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性により、負傷し、又はばく露を受ける可能性のある者の人員配置の状況が含まれること。
カ 指針の9(2)カの「作業の頻度」とは、当該作業の1週間当たり、1か月当たり等の頻度が含まれること。
キ 指針の9(2)キの「換気設備の設置状況」には、例えば、局所排気装置、全体換気装置及びプッシュプル型換気装置の設置状況及びその制御風速、換気量があること。
ク 指針の9(2)クの「有効な保護具の選択及び使用状況」には、労働者への保護具の配布状況、保護具の着用義務を労働者に履行させるための手段の運用状況及び保護具の保守点検状況が含まれること。
ケ 指針の9(2)ケの「作業環境中の濃度若しくはばく露濃度の測定結果」には、調査対象作業場所での測定結果が無く、類似作業場所での測定結果がある場合には、当該結果が含まれること。
(6) 指針の9(3)の留意事項の趣旨は次のとおりであること。
ア 指針の9(3)アの重篤度の見積りに当たっては、どのような負傷や疾病がどの作業者に発生するのかをできるだけ具体的に予測した上で、その重篤度を見積もること。また、直接作業を行う者のみならず、作業の工程上その作業場所の周辺にいる作業者等も検討の対象に含むこと。
リスクアセスメント対象物による負傷の重篤度又はそれらの発生可能性の見積りに当たっては、必要に応じ、以下の事項を考慮すること。
(ア)反応、分解、発火、爆発、火災等の起こしやすさに関するリスクアセスメント対象物の特性(感度)
(イ)爆発を起こした場合のエネルギーの発生挙動に関するリスクアセスメント対象物の特性(威力)
(ウ)タンク等に保管されているリスクアセスメント対象物の保管量等イ指針の9(3)イの「休業日数等」の「等」には、後遺障害の等級や死亡が含まれること。
ウ 指針の9(3)ウは、労働者の疲労等により、危険又は健康障害が生ずる可能性やその重篤度が高まることを踏まえ、リスクの見積りにおいても、これら疲労等による発生可能性と重篤度の付加を考慮することが望ましいことを定めたものであること。なお、「疲労等」には、単調作業の連続による集中力の欠如や、深夜労働による居眠り等が含まれること。
エ このほか、GHS分類において特定標的臓器毒性(単回ばく露)区分3に分類されるリスクアセスメント対象物のうち、麻酔作用を有するものについては、当該リスクアセスメント対象物へのばく露が労働者の作業に影響し危険又は健康障害が生ずる可能性を増加させる場合があることを考慮することが望ましいこと。
(7) 指針の9(4)の安全衛生機能等に関する考慮については、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(4)アの「安全衛生機能等の信頼性及び維持能力」に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。
(ア)安全装置等の機能の故障頻度・故障対策、メンテナンス状況、局所排気装置、全体換気装置の点検状況、密閉装置の密閉度の点検、保護具の管理状況、作業者の訓練状況等
(イ)立入禁止措置等の管理的方策の周知状況、柵等のメンテナンス状況
イ 指針の9(4)イの「安全衛生機能等を無効化する又は無視する可能性」に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。
(ア)生産性が低下する、短時間作業である等の理由による保護具の非着用等、労働災害防止のための機能・方策を無効化させる動機
(イ)スイッチの誤作動防止のための保護錠が設けられていない、局所排気装置のダクトのダンパーが担当者以外でも操作できる等、労働災害防止のための機能・方策の無効化のしやすさ
ウ 指針の9(4)ウの作業手順の逸脱等の予見可能な「意図的」な誤使用又は危険行動の可能性に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。
(ア)作業手順等の周知状況
(イ)近道行動(最小抵抗経路行動)
(ウ)監視の有無等の意図的な誤使用等のしやすさ
(エ)作業者の資格・教育等
また、操作ミス等の予見可能な「非意図的」な誤使用の可能性に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。
(ア)ボタンの配置、ハンドルの操作方向のばらつき等の人間工学的な誤使用等の誘発しやすさ、リスクアセスメント対象物を入れた容器への内容物の記載手順
(イ)作業者の資格・教育等
エ 指針の9(4)エは、健康障害の程度(重篤度)の見積りに当たっては、いわゆる予防原則に則り、有害性が立証されておらず、SDSが添付されていないリスクアセスメント対象物を使用する場合にあっては、関連する情報を供給者や専門機関等に求め、その結果、一定の有害性が指摘されている場合は、その有害性を考慮すること。

10 リスク低減措置の検討及び実施について

(1) 指針の10(1)については、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の10(1)アの「危険性又は有害性のより低い物質への代替には、危険性又は有害性が低いことが明らかな物質への代替が含まれ、例えば以下のものがあること。なお、危険性又は有害性が不明な物質を、危険性又は有害性が低いものとして扱うことは避けなければならないこと。
(ア)濃度基準値又はばく露限界がより高い物質
(イ)GHS又はJIS Z7252に基づく危険性又は有害性の区分がより低い物質(作業内容等に鑑み比較する危険性又は有害性のクラスを限定して差し支えない。)
イ 指針の10(1)アの「併用によるリスクの低減」は、より有害性又は危険性の低い物質に代替した場合でも、当該代替に伴い使用量が増加すること、代替物質の揮発性が高く気中濃度が高くなること、あるいは、爆発限界との関係で引火・爆発の可能性が高くなることなど、リスクが増加する場合があることから、必要に応じ物質の代替と化学反応のプロセス等の運転条件の変更等とを併用しリスクの低減を図るべきことを定めたものであること。
ウ 指針の10(1)イの「工学的対策」とは、指針の10(1)アの措置を講ずることができず抜本的には低減できなかった労働者に危険を生ずるおそれの程度に対し、防爆構造化、安全装置の多重化等の措置を実施し、当該リスクアセスメント対象物による危険性による負傷の発生可能性の低減を図る措置をいうこと。
また、「衛生工学的対策」とは、指針の10(1)アの措置を講ずることができず抜本的には低減できなかった労働者の健康障害を生ずるおそれの程度に対し、機械設備等の密閉化、局所排気装置等の設置等の措置を実施し、当該リスクアセスメント対象物の有害性による疾病の発生可能性の低減を図る措置をいうこと。
エ 指針の10(1)ウの「管理的対策」には、作業手順の改善、立入禁止措置のほか、作業時間の短縮、マニュアルの整備、ばく露管理、警報の運用、複数人数制の採用、教育訓練、健康管理等の作業者等を管理することによる対策が含まれること。
オ 指針の10(1)エの「有効な保護具」は、その対象物質及び性能を確認した上で、有効と判断される場合に使用するものであること。例えば、呼吸用保護具の吸収缶及びろ過材は、本来の対象物質と異なるリスクアセスメント対象物に対して除毒能力又は捕集性能が著しく不足する場合があることから、保護具の選定に当たっては、必要に応じてその対象物質及び性能を製造者に確認すること。なお、有効な保護具が存在しない又は入手できない場合には、指針の10(1)アからウまでの措置により十分にリスクを低減させるよう検討すること。
(2) 指針の10(2)は、合理的に実現可能な限り、より高い優先順位のリスク低減措置を実施することにより、「合理的に実現可能な程度に低い」(ALARP:As Low As Reasonably Practicable)レベルにまで適切にリスクを低減するという考え方を定めたものであること。
なお、死亡や重篤な後遺障害をもたらす可能性が高い場合等には、費用等を理由に合理性を判断することは適切ではないことから、措置を実施すべきものであること。
(3) 指針の10(4)に関し、濃度基準値が規定されている物質については、安衛則第577条の2第2項の規定を満たしているか確認するため、ばく露の程度が濃度基準値以下であることを見積もる必要があることに留意すること。

11 リスクアセスメント結果等の労働者への周知等について

(1) 指針の11(1)アからエまでに掲げる事項を速やかに労働者に周知すること。その際、リスクアセスメント等を実施した日付及び実施者についても情報提供することが望ましいこと。
(2) 指針の11(1)エの「リスク低減措置の内容」には、当該措置を実施した場合のリスクの見積り結果も含めて周知することが望ましいこと。
(3) 指針の11(4)の記録については、安衛則第34条の2の8第1項の規定を満たしていれば、任意の様式による記録で差し支えないこと。なお、記録の一例として、別紙4があること。

12 その他について

指針の12は、法第28条の2及び安衛則第577条の3に基づく化学物質のリスクアセスメント等を実施する際には、本指針に準じて適切に実施するよう努めるべきことを定めたものであること。

(別紙1)化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)で示されている危険性又は有害性の分類

1 物理化学的危険性

(1) 爆発物
(2) 可燃性ガス
(3) エアゾール
(4) 酸化性ガス
(5) 高圧ガス
(6) 引火性液体
(7) 可燃性固体
(8) 自己反応性化学品
(9) 自然発火性液体
(10) 自然発火性固体
(11) 自己発熱性化学品
(12) 水反応可燃性化学品
(13) 酸化性液体
(14) 酸化性固体
(15) 有機過酸化物
(16) 金属腐食性化学品
(17) 鈍化性爆発物

2 健康有害性

(1) 急性毒性
(2) 皮膚腐食性/刺激性
(3) 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性
(4) 呼吸器感作性又は皮膚感作性
(5) 生殖細胞変異原性
(6) 発がん性
(7) 生殖毒性
(8) 特定標的臓器毒性(単回ばく露)
(9) 特定標的臓器毒性(反復ばく露)
(10) 誤えん有害性

(別紙2)リスク見積りの例

1 労働者の危険又は健康障害の程度(重篤度)

「労働者の危険又は健康障害の程度(重篤度)」については、基本的に休業日数等を尺度として使用するものであり、以下のように区分する例がある。

① 死亡:死亡災害
② 後遺障害:身体の一部に永久損傷を伴うもの、
③ 休業:休業災害、一度に複数の被災者を伴うもの
④ 軽傷:不休災害やかすり傷程度のもの

2 労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)

「労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)」は、危険性又は有害性への接近の頻度や時間、回避の可能性等を考慮して見積もるものであり、以下のように区分する例がある。

① (可能性が)極めて高い:日常的に長時間行われる作業に伴うもので回避困難なもの
② (可能性が)比較的高い:日常的に行われる作業に伴うもので回避可能なもの
③ (可能性が)ある:非定常的な作業に伴うもので回避可能なもの
④ (可能性が)ほとんどない:まれにしか行われない作業に伴うもので回避可能なもの

3 リスク見積りの例

リスク見積り方法の例には、以下の例1~3のようなものがある。

[例1:マトリクスを用いた方法]

※重篤度「②後遺障害」、発生可能性「②比較的高い」の場合の見積り例

[例2:数値化による方法]

※重篤度「②後遺障害」、発生可能性「②比較的高い」の場合の見積り例

[例3:厚生労働省版コントロール・バンディングの概要]

ILOが開発途上国の中小企業を対象に有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するため開発した簡易なリスクア
セスメントツールを厚生労働省がWebシステムとして改良したものであり、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で提供している。
必要な情報(作業内容(選択)、GHS区分(選択)、固液の別、取扱量(選択)、取扱温度、沸点等)を入力することによって、リスクレベルと参考となる対策管理シートが得られる。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_1.htm

(別紙3)リスクアセスメント対象物による有害性に係るリスク見積りについて

1 定量的評価について

(1) 管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する。

濃度基準値が設定されている物質については技術上の指針の2-1及び3から6までに示した方法により、数理モデルによる推計又は測定した当該物質の濃度を当該物質の濃度基準値と比較してリスク見積りを行う。
濃度基準値又は管理濃度が設定されておらず、ばく露限界の設定がなされている物質については、労働者がばく露される物質の濃度を測定又は推定し、ばく露限界と比較してリスク見積りを行う。測定による場合は、原則として、技術上の指針の2-1(3)及び2-2に定めるリスクアセスメントのための測定によることとし、八時間時間加重平均値を八時間時間加重平均のばく露限界(TWA)と比較し、十五分間時間加重平均値を短時間ばく露限界値(STEL)と比較してリスク見積りを行うこと。
なお、定点測定の場合は、作業環境測定に準じて行うこととし、作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号。以下「評価基準」という。)におけるA測定の第一評価値に相当する値を八時間時間加重平均のばく露限界(TWA)と比較し、評価基準におけるB測定の測定値に相当する値を短時間ばく露限界(STEL)と比較してリスク見積りを行うこと。

(2) 数理モデルを用いて、対象の業務に従事する労働者の周辺の空気中濃度を定量的に推定する方法も用いられている。

主な数理モデルの例

  • 換気を考慮しない数理モデルを用いた空気中濃度の推定
    飽和蒸気圧モデルや完全蒸発モデルを用いた方法
  • 換気を考慮した数理モデルを用いた空気中濃度の推定
    発生モデルや分散モデルを用いた方法

数理モデルを用いたリスクアセスメントツールとしては、厚生労働省が提供している簡易リスクアセスメントツールCREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)(例4参照)、欧州化学物質生態毒性・毒性センターのリスクアセスメントツールECETOC-TRA(例5参照)などがある。

[例4:CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)の情報]

CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)は、あらゆる業種の化学物質取扱事業者に向けた簡易なリスクアセスメントツールで、化学物質の取扱条件(取扱量、含有率、換気条件、作業時間・頻度、保護具の有無等)から推定したばく露濃度とばく露限界等を比較する方法である。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm

[例5:ECETOC-TRAの情報]

ECETOC-TRAは、欧州化学物質生態毒性・毒性センター(ECETOC)が、欧州におけるREACH規則に対応するスク
リーニング評価を目的として、化学物質のばく露によるリスクの程度を定量化するために開発した数理モデルである。
ECETOCのホームページからEXCELファイルのマクロプログラムをダウンロードして入手する。(無償)
http://www.ecetoc.org/tra (英語)

必要な入力項目

  • 対象物質の同定
  • 物理化学的特性(蒸気圧など)
  • シナリオ名
  • 作業形態
  • プロセスカテゴリー(選択)
  • 物質の性状(固液の別)(選択)
  • ダスト発生レベル(選択)
  • 作業時間(選択)
  • 換気条件(選択)
  • 製品中含有量(選択)
  • 呼吸用保護具と除去率(選択)
  • 手袋の使用と除去率(選択)


計算により推定ばく露濃度が算出されるので、これをばく露限界と比較することでリスクアセスメントを行う。

2 リスクアセスメント対象物による有害性に係る定性的リスク評価

定性的リスク評価の一例を例6として示す。

[例6:リスクアセスメント対象物による有害性に係るリスクの定性評価法の例]

(1) リスクアセスメント対象物による有害性のレベル分け

リスクアセスメント対象物について、SDSのデータを用いて、GHS等を参考に有害性のレベルを付す。レベル分けは、有害性をAからEまでの5段階に分けた表のような例に基づき行う。
なお、この表はILOが公表しているコントロール・バンディング1に準拠しており、Sは皮膚又は眼への接触による有害性レベルであるので、(2)以降の見積り例では用いないが、参考として示したものである。
例えばGHS分類で急性毒性区分3とされた化学物質は、この表に当てはめ、有害性レベルCとなる。

※この表における「GHS分類における健康有害性クラス及び区分」は、ILOがInternational Chemical Control Toolkitを公表した時点の内容に基づいている。
1 ILO(国際労働機関)の公表しているInternational Chemical Control Toolkit
http://www.ilo.org/legacy/english/protection/safework/ctrl_banding/toolkit/icct/
(英語)

(2) ばく露レベルの推定

作業環境レベルを推定し、それに作業時間等作業の状況を組み合わせ、ばく露レベルを推定する。アからウまでの3段階を経て作業環境レベルを推定する具体例を次に示す。

ア 作業環境レベル(ML)の推定

リスクアセスメント対象物の製造等の量、揮発性・飛散性の性状、作業場の換気の状況等に応じてポイントを付し、そのポイントを加減した合計数を表1に当てはめ作業環境レベルを推定する。労働者の衣服、手足、保護具に対象リスクアセスメント対象物による汚れが見られる場合には、1ポイントを加える修正を加え、次の式で総合ポイントを算定する。

A(取扱量ポイント)+B(揮発性・飛散性ポイント)-C(換気ポイント)+D(修正ポイント)

ここで、AからDのポイントの付け方は次のとおりである。

A: 製造等の量のポイント
3 大量(トン、kl単位で計る程度の量)
2 中量(kg、l単位で計る程度の量)
1 少量(g、ml単位で計る程度の量)

B: 揮発性・飛散性のポイント
3 高揮発性(沸点50℃未満)、高飛散性(微細で軽い粉じんの発生する物)
2 中揮発性(沸点50‐150℃)、中飛散性(結晶質、粒状、すぐに沈降する物)
1 低揮発性(沸点150℃超過)、低飛散性(小球状、薄片状、小塊状)

C: 換気のポイント
4 遠隔操作・完全密閉
3 局所排気
2 全体換気・屋外作業
1 換気なし

D: 修正ポイント
1 労働者の衣服、手足、保護具が、調査対象となっている化学物質等による汚れが見られる場合
0 労働者の衣服、手足、保護具が、調査対象となっている化学物質等による汚れが見られない場合

イ 作業時間・作業頻度のレベル(FL)の推定

労働者の当該作業場での当該リスクアセスメント対象物にばく露される年間作業時間を次の表2に当てはめ作業頻度を推
定する。

ウ ばく露レベル(EL)の推定

アで推定した作業環境レベル(ML)及びイで推定した作業時間・作業頻度(FL)を次の表3に当てはめて、ばく露レベル(EL)を推定する。

(3) リスクの見積り

(1)で分類した有害性のレベル及び(2)で推定したばく露レベルを組合せ、リスクを見積もる。次に一例を示す。数字の値が大きいほどリスク低減措置の優先度が高いことを示す。

(別紙4)記録の記載例

【参考】厚生労働省リリース(2023年4月27日

労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました(厚生労働省:2023年4月27日)

化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針[PDF]
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針 新旧対照表[PDF]
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(改正後)[PDFB]

安全センター情報2024年6月号