化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針/令和5(2023)年4月27日技術上の指針公示第24号【新たな化学物質規制令和5年度分施行関係資料】
目次
1 総則
1-1 趣旨
(1) 国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)のうち、特別規則(有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)、鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)、四アルキル鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第38号)及び特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)をいう。以下同じ。)の規制の対象となっていない物質に起因するものが約8割を占めている。また、化学物質へのばく露に起因する職業がんも発生している。これらを踏まえ、特別規則の規制の対象となっていない物質への対策の強化を主眼とし、国によるばく露の上限となる基準等の制定、危険性や有害性に関する情報の伝達の仕組みの整備や拡充を前提として、事業者が危険性や有害性に関する情報を踏まえたリスクアセスメント(労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条の3第1項の規定による危険性又は有害性の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)をいう。以下同じ。)を実施し、その結果に基づき、国の定める基準等の範囲内で、ばく露防止のために講ずべき措置を適切に実施するための制度を導入することとしたところである。
(2) 本指針は、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号。以下「化学物質リスクアセスメント指針」という。)と相まって、リスクアセスメント対象物(リスクアセスメントをしなければならない労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第18条各号に掲げる物及び法第57条の2第1項に規定する通知対象物をいう。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う事業者において、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)等の規定が円滑かつ適切に実施されるよう、安衛則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃度基準値」という。)及びその適用、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するための方法、物質の濃度の測定における試料採取方法及び分析方法並びに有効な保護具の適切な選択及び使用等について、法令で規定された事項のほか、事業者が実施すべき事項を一体的に規定したものである。
なお、リスクアセスメント対象物以外の化学物質を製造し、又は取り扱う事業者においては、本指針を活用し、労働者が当該化学物質にばく露される程度を最小限度とするように努めなければならない。
1-2 実施内容
事業者は、次に掲げる事項を実施するものとする。
(1) 事業場で使用する全てのリスクアセスメント対象物について、危険性又は有害性を特定し、労働者が当該物にばく露される程度を把握した上で、リスクを見積もること。
(2) 濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合は、ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定(以下「確認測定」という。)を実施すること。
(3) (1)及び(2)の結果に基づき、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という優先順位に従い、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度とすることを含め、必要なリスク低減措置(リスクアセスメントの結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止するための措置をいう。以下同じ。)を実施すること。その際、濃度基準値が設定されている物質については、労働者が当該物質にばく露される程度を濃度基準値以下としなければならないこと。
2 リスクアセスメント及びその結果に基づく労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とする措置等を含めたリスク低減措置
2-1 基本的考え方
(1) 事業者は、事業場で使用する全てのリスクアセスメント対象物について、危険性又は有害性を特定し、労働者が当該物にばく露される程度を数理モデルの活用を含めた適切な方法により把握した上で、リスクを見積もり、その結果に基づき、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等により、当該物にばく露される程度を最小限度とすることを含め、必要なリスク低減措置を実施すること。
(2) 事業者は、濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積もりの過程において、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれのある屋内作業を把握した場合は、確認測定を実施し、その結果に基づき、当該作業に従事する全ての労働者が当該物質にばく露される程度を濃度基準値以下とすることを含め、必要なリスク低減措置を実施すること。この場合において、ばく露される当該物質の濃度の平均値の上側信頼限界(95%)(濃度の確率的な分布のうち、高濃度側から5%に相当する濃度の推計値をいう。以下同じ。)が濃度基準値以下であることを維持することまで求める趣旨ではないこと。
(3) 事業者は、濃度基準値が設定されていない物質について、リスクの見積りの結果、一定以上のリスクがある場合等、労働者のばく露状況を正確に評価する必要がある場合には、当該物質の濃度の測定を実施すること。この測定は、作業場全体のばく露状況を評価し、必要なリスク低減措置を検討するために行うものであることから、工学的対策を実施しうる場合にあっては、個人サンプリング法等の労働者の呼吸域における物質の濃度の測定のみならず、よくデザインされた場の測定も必要になる場合があること。また、事業者は、統計的な根拠を持って事業場における化学物質へのばく露が適切に管理されていることを示すため、測定値のばらつきに対して、統計上の上側信頼限界(95%)を踏まえた評価を行うことが望ましいこと。
(4) 事業者は、建設作業等、毎回異なる環境で作業を行う場合については、典型的な作業を洗い出し、あらかじめ当該作業において労働者がばく露される物質の濃度を測定し、その測定結果に基づく局所排気装置の設置及び使用、要求防護係数に対して十分な余裕を持った指定防護係数を有する有効な呼吸用保護具の使用(防毒マスクの場合は適切な吸収缶の使用)等を行うことを定めたマニュアル等を作成することで、作業ごとに労働者がばく露される物質の濃度を測定することなく当該作業におけるリスクアセスメントを実施することができること。また、当該マニュアル等に定められた措置を適切に実施することで、当該作業において、労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置を実施することができること。
(5) 事業者は、(1)から(4)までに定めるリスクアセスメント及びその結果に基づくリスク低減措置については、化学物質管理者(安衛則第12条の5第1項に規定する化学物質管理者をいう。以下同じ。)の管理下において実施する必要があること。
(6) 事業者は、リスクアセスメントと濃度基準値については、次に掲げる事項に留意すること。
ア リスクアセスメントの実施時期は、安衛則第34条の2の7第1項の規定により、①リスクアセスメント対象物を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき、②リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき、③リスクアセスメント対象物の危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるときとされていること。なお、「有害性等について変化が生じ」には、濃度基準値が新たに定められた場合や、すでに使用している物質が新たにリスクアセスメント対象物となった場合が含まれること。さらに、化学物質リスクアセスメント指針においては、前回のリスクアセスメントから一定の期間が経過し、設備等の経年劣化、労働者の入れ替わり等に伴う知識経験等の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合には、再度、リスクアセスメントを実施するよう努めることとしていること。
イ 労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法は、事業者において決定されるものであり、確認測定の方法以外の方法でも差し支えないが、事業者は、労働基準監督機関等に対して、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを明らかにできる必要があること。また、確認測定を行う場合は、確認測定の精度を担保するため、作業環境測定士が関与することが望ましいこと。
ウ 労働者のばく露の程度は、呼吸用保護具を使用していない場合は、労働者の呼吸域において測定される濃度で、呼吸用保護具を使用している場合は、呼吸用保護具の内側の濃度で表されること。したがって、労働者の呼吸域における物質の濃度が濃度基準値を上回っていたとしても、有効な呼吸用保護具の使用により、労働者がばく露される物質の濃度を濃度基準値以下とすることが許容されることに留意すること。ただし、実際に呼吸用保護具の内側の濃度の測定を行うことは困難であるため、労働者の呼吸域における物質の濃度を呼吸用保護具の指定防護係数で除して、呼吸用保護具の内側の濃度を算定することができること。
エ よくデザインされた場の測定とは、主として工学的対策の実施のために、化学物質の発散源の特定、局所排気装置等の有効性の確認等のために、固定点で行う測定をいうこと。従来の作業環境測定のA・B測定の手法も含まれる。場の測定については、作業環境測定士の関与が望ましいこと。
2-2 リスクアセスメントにおける測定
2-2-1 基本的考え方
事業者は、リスクアセスメントの結果に基づくリスク低減措置として、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることのみならず、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等を駆使し、労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めた措置を実施する必要があること。事業者は、工学的対策の設定及び評価を実施する場合には、個人ばく露測定のみならず、よくデザインされた場の測定を行うこと。
2-2-2 試料の採取場所及び評価
(1) 事業場における全ての労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の実施のために、ばく露状況の評価は、事業場のばく露状況を包括的に評価できるものであることが望ましいこと。このため、事業者は、労働者がばく露される濃度が最も高いと想定される均等ばく露作業(労働者がばく露する物質の量がほぼ均一であると見込まれる作業であって、屋内作業場におけるものに限る。以下同じ。)のみならず、幅広い作業を対象として、当該作業に従事する労働者の呼吸域における物質の濃度の測定を行い、その測定結果を統計的に分析し、統計上の上側信頼限界(95%)を活用した評価や物質の濃度が最も高い時間帯に行う測定の結果を活用した評価を行うことが望ましいこと。
(2) 対象者の選定、実施時期、試料採取方法及び分析方法については、3及び4に定める確認測定に関する事項に準じて行うことが望ましいこと。
3 確認測定の対象者の選定及び実施時期
3-1 確認測定の対象者の選定
(1) 事業者は、リスクアセスメントによる作業内容の調査、場の測定の結果及び数理モデルによる解析の結果等を踏まえ、均等ばく露作業に従事する労働者のばく露の程度を評価すること。その結果、労働者のばく露の程度が8時間のばく露に対する濃度基準値(以下「八時間濃度基準値」という。)の2分の1程度を超えると評価された場合は、確認測定を実施すること。
(2) 全ての労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するという趣旨から、事業者は、労働者のばく露の程度が最も高いと想定される均等ばく露作業における最も高いばく露を受ける労働者(以下「最大ばく露労働者」という。)に対して確認測定を行うこと。その測定結果に基づき、事業場の全ての労働者に対して一律のリスク低減措置を行うのであれば、最大ばく露労働者が従事する作業よりもばく露の程度が低いことが想定される作業に従事する労働者について確認測定を行う必要はないこと。しかし、事業者が、ばく露の程度に応じてリスク低減措置の内容や呼吸用保護具の要求防護係数を作業ごとに最適化するために、当該作業ごとに最大ばく露労働者を選定し、確認測定を実施することが望ましいこと。
(3) 均等ばく露作業ごとに確認測定を行う場合は、均等ばく露作業に従事する労働者の作業内容を把握した上で、当該作業における最大ばく露労働者を選定し、当該労働者の呼吸域における物質の濃度を測定することが妥当であること。
(4) 均等ばく露作業の特定に当たっては、同一の均等ばく露作業において複数の労働者の呼吸域における物質の濃度の測定を行った場合であって、各労働者の濃度の測定値が測定を行った全労働者の濃度の測定値の平均値の2分の1から2倍の間に収まらない場合は、均等ばく露作業を細分化し、次回以降の確認測定を実施することが望ましいこと。
(5) 労働者のばく露の程度を最小限度とし、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置については、安衛則第577条の2第10項の規定により、事業者は、関係労働者の意見を聴取するとともに、安衛則第22条第11号の規定により、衛生委員会において、それらの措置について審議することが義務付けられていることに留意し、確認測定の結果の共有も含めて、関係労働者との意思疎通を十分に行うとともに、安全衛生委員会又は衛生委員会で十分な審議を行う必要があること。
(6) 確認測定の対象者の選定等については、以下の事項に留意すること。
ア 確認測定の実施の基準として、八時間濃度基準値の2分の1程度を採用する趣旨は、数理モデルや場の測定による労働者の呼吸域における物質の濃度の推定は、濃度が高くなると、ばらつきが大きくなり、推定の信頼性が低くなることを踏まえたものであること。このため、労働者がばく露される物質の濃度を低くするため、必要なリスク低減措置を実施することが重要となること。
イ ばく露の程度が八時間濃度基準値の2分の1程度を超えている労働者に対する確認測定は、測定中に、当該労働者が濃度基準値以上の濃度にばく露されることのないよう、有効な呼吸用保護具を着用させて測定を行うこと。
ウ 均等ばく露作業ごとに確認測定を行う場合において、測定結果のばらつきや測定の失敗等を考慮し、八時間濃度基準値との比較を行うための確認測定については、均等ばく露作業ごとに最低限2人の測定対象者を選定することが望ましいこと。15分間のばく露に対する濃度基準値(以下「短時間濃度基準値」という。)との比較を行うための確認測定については、最大ばく露労働者のみを対象とすることで差し支えないこと。
エ 均等ばく露作業において、最大ばく露労働者を特定できない場合は、均等ばく露作業に従事する者の5分の1程度の労働者を抽出して確認測定を実施する方法があること。
3-2 確認測定の実施時期
(1) 事業者は、確認測定の結果、労働者の呼吸域における物質の濃度が、濃度基準値を超えている作業場については、少なくとも6月に1回、確認測定を実施すること。
(2) 事業者は、確認測定の結果、労働者の呼吸域における物質の濃度が、濃度基準値の2分の1程度を上回り、濃度基準値を超えない作業場については、一定の頻度で確認測定を実施することが望ましいこと。その頻度については、安衛則第34条の2の7及び化学物質リスクアセスメント指針に規定されるリスクアセスメントの実施時期を踏まえつつ、リスクアセスメントの結果、定点の連続モニタリングの結果、工学的対策の信頼性、製造し又は取り扱う化学物質の毒性の程度等を勘案し、労働者の呼吸域における物質の濃度に応じた頻度となるように事業者が判断すべきであること。
(3) 確認測定の実施時期等については、以下の事項に留意すること。
ア 確認測定は、最初の測定は呼吸用保護具の要求防護係数を算出するため個人ばく露測定が必要であるが、定期的に行う測定はばく露状況に大きな変動がないことを確認する趣旨であるため、定点の連続モニタリングや場の測定といった方法も認められること。
イ 労働者の呼吸域における物質の濃度が濃度基準値以下の場合の確認測定の頻度については、局所排気装置等を整備する等により作業環境を安定的に管理し、定点の連続モニタリング等によって環境中の濃度に大きな変動がないことを確認している場合は、作業の方法や局所排気装置等の変更がない限り、確認測定を定期的に実施することは要しないこと。
4 確認測定における試料採取方法及び分析方法
4-1 標準的な試料採取方法及び分析方法
確認測定における、事業者による標準的な試料採取方法及び分析方法は、別表1に定めるところによること。なお、これらの方法と同等以上の精度を有する方法がある場合は、それらの方法によることとして差し支えないこと。
4-2 試料空気の採取方法
4-2-1 確認測定における試料採取機器の装着方法
事業者は、確認測定における試料空気の採取については、作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行うこと。この場合において、当該試料採取機器の採取口は、当該労働者の呼吸域における物質の濃度を測定するために最も適切な部位に装着しなければならないこと。
4-2-2 蒸気及びエアロゾル粒子が同時に存在する場合の試料採取機器
事業者は、室温において、蒸気とエアロゾル粒子が同時に存在する物質については、濃度の測定に当たっては、濃度の過小評価を避けるため、原則として、飽和蒸気圧の濃度基準値に対する比(飽和蒸気圧/濃度基準値)が0.1以上10以下の物質については、蒸気とエアロゾル粒子の両方の試料を採取すること。
ただし、事業者は、作業実態において、蒸気やエアロゾル粒子によるばく露が想定される物質については、当該比が0.1以上10以下でない場合であっても、蒸気とエアロゾル粒子の両方の試料を採取することが望ましいこと。
別表1において、当該物質については、蒸気とエアロゾル粒子の両方を捕集すべきであることを明記するとともに、標準的な試料採取方法として、蒸気を捕集する方法とエアロゾル粒子を捕集する方法を併記し、蒸気とエアロゾル粒子の両方を捕集する方法(相補捕集法)が定められていること。
事業場の作業環境に応じ、当該物質の測定及び管理のために必要がある場合は、次に掲げる算式により、濃度基準値の単位を変換できること。
C(mg/m3)=分子量(g)/モル体積(L)×C(mL/m3=ppm)
ただし、室温は25℃、気圧は1気圧とすること。
4-3 試料空気の採取時間
4-3-1 八時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間
(1) 空気試料の採取時間については、八時間濃度基準値と比較するという趣旨を踏まえ、連続する8時間の測定を行い採取した1つの試料か、複数の測定を連続して行って採取した合計8時間分の試料とすることが望ましいこと。8時間未満の連続した試料や短時間ランダムサンプリングは望ましくないこと。
(2) ただし、一労働日を通じて労働者がばく露する物質の濃度が比較的均一であり、自動化かつ密閉化された作業という限定的な場面においては、事業者は、試料採取時間の短縮を行うことは可能であること。この場合において、測定されない時間の存在は、測定の信頼性に対する深刻な弱点となるため、事業者は、測定されていない時間帯のばく露状況が測定されている時間帯のばく露状況と均一であることを、過去の測定結果や作業工程の観察等によって明らかにするとともに、試料採取時間は、労働者のばく露の程度が高い時間帯を含めて、少なくとも2時間(8時間の25%)以上とし、測定されていない時間帯のばく露における濃度は、測定されている時間のばく露における濃度と同一であるとみなすこと。
(3) 八時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間については、以下の事項に留意すること。
ア 八時間濃度基準値と比較をするための労働者の呼吸域における物質の濃度の測定に当たっては、適切な能力を持った自社の労働者が試料採取を行い、その試料の分析を分析機関に委託する方法があること。
イ この場合、作業内容や労働者をよく知る者が試料採取を行うことができるため、試料採取の適切な実施が担保できるとともに、試料採取の外部委託の費用を低減することが可能となること。
4-3-2 短時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間
(1) 事業者は、労働者のばく露の程度が短時間濃度基準値以下であることを確認するための測定においては、最大ばく露労働者(1人)について、1日の労働時間のうち最もばく露の程度が高いと推定される15分間に当該測定を実施する必要があること。
(2) 事業者は、測定結果のばらつきや測定の失敗等を考慮し、当該労働時間中に少なくとも3回程度測定を実施し、最も高い測定値で比較を行うことが望ましいこと。ただし、1日の労働時間中の化学物質にばく露される作業時間が15分程度以下である場合は、1回で差し支えないこと。
4-3-3 短時間作業の場合の八時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間
事業者は、短時間作業が断続的に行われる場合や、一労働日における化学物質にばく露する作業を行う時間の合計が8時間未満の場合における八時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間は、労働者がばく露する作業を行う時間のみとすることができる。
5 濃度基準値及びその適用
5-1 八時間濃度基準値及び短時間濃度基準値の適用
(1) 事業者は、別表2の左欄に掲げる物(※2と付されているもの[発がん性が明確であるため、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値を設定できない物質]を除く。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を濃度基準値以下としなければならないこと。
(2) 濃度基準値は、別表2の左欄に掲げる物の種類に応じ、同表の中欄及び右欄に掲げる値とすること。この場合において、次のア及びイに掲げる値は、それぞれア及びイに定める濃度の基準を超えてはならないこと。
ア 1日の労働時間のうち8時間のばく露における別表2の左欄に掲げる物の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値(以下「八時間時間加重平均値」という。) 八時間濃度基準値
イ 1日の労働時間のうち別表2の左欄に掲げる物の濃度が最も高くなると思われる15分間のばく露における当該物の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値(以下「十五分間時間加重平均値」という。) 短時間濃度基準値
5-2 濃度基準値の適用に当たって実施に努めなければならない事項
事業者は、5-1の濃度基準値について、次に掲げる事項を行うよう努めなければならないこと。
(1) 別表2の左欄に掲げる物のうち、八時間濃度基準値及び短時間濃度基準値が定められているものについて、当該物のばく露における十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超え、かつ、短時間濃度基準値以下の場合にあっては、当該ばく露の回数が1日の労働時間中に4回を超えず、かつ、当該ばく露の間隔を1時間以上とすること。
(2) 別表2の左欄に掲げる物のうち、八時間濃度基準値が定められており、かつ、短時間濃度基準値が定められていないものについて、当該物のばく露における十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超える場合にあっては、当該ばく露の十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値の3倍を超えないようにすること。
(3) 別表2の左欄に掲げる物のうち、短時間濃度基準値が天井値として定められているものは、当該物のばく露における濃度が、いかなる短時間のばく露におけるものであるかを問わず、短時間濃度基準値を超えないようにすること。
(4) 別表2の左欄に掲げる物のうち、有害性の種類及び当該有害性が影響を及ぼす臓器が同一であるものを2種類以上含有する混合物の八時間濃度基準値については、次の式により計算して得た値が1を超えないようにすること。
C=C1/L1+C2/L2+……
(この式において、C、C1、C2……及びL1、L2……は、それぞれ次の値を表すものとする。
C 換算値
C1、C2……物の種類ごとの八時間時間加重平均値
L1、L2……物の種類ごとの八時間濃度基準値)
(5) (4)の規定は、短時間濃度基準値について準用すること。
6 濃度基準値の趣旨等及び適用に当たっての留意事項
事業者は、濃度基準値の適用に当たり、次に掲げる事項に留意すること。
6-1 濃度基準値の設定
6-1-1 基本的考え方
(1) 各物質の濃度基準値は、原則として、収集された信頼のおける文献で示された無毒性量等に対し、不確実係数等を考慮の上、決定されたものである。各物質の濃度基準値は、設定された時点での知見に基づき設定されたものであり、濃度基準値に影響を与える新たな知見が得られた場合等においては、再度検討を行う必要があるものであること。
(2) 特別規則の適用のある物質については、特別規則による規制との二重規制を避けるため、濃度基準値を設定していないこと。
6-1-2 発がん性物質への濃度基準値の設定
(1) 濃度基準値の設定においては、ヒトに対する発がん性が明確な物質(別表1の左欄に※5及び別表2の左欄に※2と付されているもの。)については、発がんが確率的影響であることから、長期的な健康影響が発生しない安全な閾値である濃度基準値を設定することは困難であること。このため、当該物質には、濃度基準値の設定がなされていないこと。
(2) これらの物質について、事業者は、有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等により、労働者がこれらの物質にばく露される程度を最小限度としなければならないこと。
6-2 濃度基準値の趣旨
6-2-1 八時間濃度基準値の趣旨
(1) 八時間濃度基準値は、長期間ばく露することにより健康障害が生ずることが知られている物質について、当該障害を防止するため、八時間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであり、この濃度以下のばく露においては、おおむね全ての労働者に健康障害を生じないと考えられているものであること。
(2) 短時間作業が断続的に行われる場合や、一労働日における化学物質にばく露する作業を行う時間の合計が8時間未満の場合は、ばく露する作業を行う時間以外の時間(8時間からばく露作業時間を引いた時間。以下「非ばく露作業時間」という。)について、ばく露における物質の濃度をゼロとみなして、ばく露作業時間及び非ばく露作業時間における物質の濃度をそれぞれの測定時間で加重平均して八時間時間加重平均値を算出するか、非ばく露作業時間を含めて8時間の測定を行い、当該濃度を8時間で加重平均して八時間時間加重平均値を算出すること(参考1の計算例参照)。
(3) この場合において、八時間時間加重平均値と八時間濃度基準値を単純に比較するだけでは、短時間作業の作業中に八時間濃度基準値をはるかに上回る高い濃度のばく露が許容されるおそれがあるため、事業者は、十五分間時間加重平均値を測定し、短時間濃度基準値の定めがある物は5-1(2)イに定める基準を満たさなければならないとともに、5-2(1)から(5)までに定める事項を行うように努めること。
6-2-2 短時間濃度基準値の趣旨
(1) 短時間濃度基準値は、短時間でのばく露により急性健康障害が生ずることが知られている物質について、当該障害を防止するため、作業中のいかなるばく露においても、十五分間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであること。さらに、十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超え、かつ、短時間濃度基準値以下の場合にあっては、複数の高い濃度のばく露による急性健康障害を防止する観点から、5-2(1)において、十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超える最大の回数を4回とし、最短の間隔を1時間とすることを努力義務としたこと。
(2) 八時間濃度基準値が設定されているが、短時間濃度基準値が設定されていない物質についても、八時間濃度基準値が均等なばく露を想定して設定されていることを踏まえ、毒性学の見地から、短期間に高濃度のばく露を受けることは避けるべきであること。このため、5-2(2)において、たとえば、8時間中ばく露作業時間が1時間、非ばく露作業時間が7時間の場合に、1時間のばく露作業時間において八時間濃度基準値の8倍の濃度のばく露を許容するようなことがないよう、作業中のいかなるばく露においても、十五分間時間加重平均値が、八時間濃度基準値の3倍を超えないことを努力義務としたこと。
6-2-3 天井値の趣旨
(1) 天井値については、眼への刺激性等、非常に短い時間で急性影響が生ずることが疫学調査等により明らかな物質について規定されており、いかなる短時間のばく露においても超えてはならない基準値であること。事業者は、濃度の連続測定によってばく露が天井値を超えないように管理することが望ましいが、現時点における連続測定手法の技術的限界を踏まえ、その実施については努力義務とされていること。
(2) 事業者は、連続測定が実施できない場合は、当該物質の十五分間時間加重平均値が短時間濃度基準値を超えないようにしなければならないこと。また、事業者は、天井値の趣旨を踏まえ、当該物質への労働者のばく露が天井値を超えないよう、十五分間時間加重平均値が余裕を持って天井値を下回るように管理する等の措置を講ずることが望ましいこと。
6-3 濃度基準値の適用に当たっての留意事項
6-3-1 混合物への濃度基準値の適用
(1) 混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用する場合、それらの物質の相互作用によって、相加効果や相乗効果によって毒性が増大するおそれがあること。しかし、複数の化学物質による相互作用は、個別の化学物質の組み合わせに依存し、かつ、相互作用も様々であること。
(2) これを踏まえ、混合物への濃度基準値の適用においては、混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用することが明らかな場合には、それら物質による相互作用を考慮すべきであるため、5-2(4)に定める相加式を活用してばく露管理を行うことが努力義務とされていること。
6-3-2 一労働日の労働時間が8時間を超える場合の適用
(1) 一労働日における化学物質にばく露する作業を行う時間の合計が8時間を超える作業がある場合には、作業時間が8時間を超えないように管理することが原則であること。
(2) やむを得ず化学物質にばく露する作業が8時間を超える場合、八時間時間加重平均値は、当該作業のうち、最も濃度が高いと思われる時間を含めた8時間のばく露における濃度の測定により求めること。この場合において、事業者は、当該八時間時間加重平均値が八時間濃度基準値を下回るのみならず、化学物質にばく露する全ての作業時間におけるばく露量が、八時間濃度基準値で8時間ばく露したばく露量を超えないように管理する等、適切な管理を行うこと。また、八時間濃度基準値を当該時間用に換算した基準値(八時間濃度基準値×8時間/実作業時間)により、労働者のばく露を管理する方法や、毒性学に基づく代謝メカニズムを用いた数理モデルを用いたばく露管理の方法も提唱されていることから、ばく露作業の時間が8時間を超える場合の措置については、化学物質管理専門家等の専門家の意見を踏まえ、必要な管理を実施すること。
7 リスク低減措置
7-1 基本的考え方
事業者は、化学物質リスクアセスメント指針に規定されているように、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という優先順位に従い、対策を検討し、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置を実施すること。その際、保護具については、適切に選択され、使用されなければ効果を発揮しないことを踏まえ、本質安全化、工学的対策等の信頼性と比較し、最も低い優先順位が設定されていることに留意すること。
7-2 保護具の適切な使用
(1) 事業者は、確認測定により、労働者の呼吸域における物質の濃度が、保護具の使用を除くリスク低減措置を講じてもなお、当該物質の濃度基準値を超えること等、リスクが高いことを把握した場合、有効な呼吸用保護具を選択し、労働者に適切に使用させること。その際、事業者は、保護具のうち、呼吸用保護具を使用する場合においては、その選択及び装着が適切に実施されなければ、所期の性能が発揮されないことに留意し、7-3及び7-4に定める呼吸用保護具の選択及び適切な使用の確認を行うこと。
(2) 事業者は、皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚から侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質及びそれを含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務に労働者を従事させるときは、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等の適切な保護具を使用させなければならないこと。
(3) 事業者は、保護具に関する措置については、保護具に関して必要な教育を受けた保護具着用管理責任者(安衛則第12条の6第1項に規定する保護具着用管理責任者をいう。)の管理下で行わせなければならないこと。
7-3 呼吸用保護具の適切な選択
事業者は、濃度基準値が設定されている物質について、次に掲げるところにより、適切な呼吸用保護具を選択し、労働者に使用させ ること 。
(1) 労働者に使用させる呼吸用保護具については、要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならないこと。
(2)(1)の要求防護係数は、次の式により計算すること。
PFr=C/C0
(この式において、PFr、C及びC0は、それぞれ次の値を表すものとする。
PFr 要求防護係数
C 化学物質の濃度の測定の結果得られた値
C0 化学物質の濃度基準値)
(3) (2)の化学物質の濃度の測定の結果得られた値は、測定値のうち最大の値とすること。
(4) 要求防護係数の決定及び適切な保護具の選択は、化学物質管理者の管理のもと、保護具着用管理責任者が確認測定を行った者と連携しつつ行うこと。
(5) 複数の化学物質を同時に又は順番に製造し、又は取り扱う作業場における呼吸用保護具の要求防護係数については、それぞれの化学物質ごとに算出された要求防護係数のうち、最大のものを当該呼吸用保護具の要求防護係数として取り扱うこと。
(6) (1)の指定防護係数は、別表第3-1から第3-4までの左欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる値とすること。ただし、指定防護係数は、別表第3-5の左欄に掲げる呼吸用保護具を使用した作業における当該呼吸用保護具の外側及び内側の化学物質の濃度の測定又はそれと同等の測定の結果により得られた当該呼吸用保護具に係る防護係数が同表の右欄に掲げる指定防護係数を上回ることを当該呼吸用保護具の製造者が明らかにする書面が当該呼吸用保護具に添付されている場合は、同表の左欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる値とすることができること。
(7) 防じん又は防毒の機能を有する呼吸用保護具の選択に当たっては、主に蒸気又はガスとしてばく露する化学物質(濃度基準値の単位がppmであるもの)については、有効な防毒機能を有する呼吸用保護具を選択し、主に粒子としてばく露する化学物質(濃度基準値の単位がmg/m3であるもの)については、粉じんの種類(固体粒子又はミスト)に応じ、有効な防じん機能を有する呼吸用保護具を労働者に使用させること。ただし、4-2-2で定める蒸気及び粒子の両方によるばく露が想定される物質については、防じん及び防毒の両方の機能を有する呼吸用保護具を労働者に使用させること。
(8) 防毒の機能を有する呼吸用保護具は化学物質の種類に応じて、十分な除毒能力を有する吸収缶を備えた防毒マスク、防毒機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具又は別表第3-4に規定する呼吸用保護具を労働者に使用させなければならないこと。
7-4 呼吸用保護具の装着の確認
事業者は、次に掲げるところにより、呼吸用保護具の適切な装着を1年に1回、定期に確認すること。
(1) 呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、日本産業規格T8150(呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法)に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とすること。
(2) フィットファクタは、次の式により計算するものとする。
FF=Cout/Cin
(この式においてFF、Cout及びCinは、それぞれ次の値を表すものとする。
FF フィットファクタ
Cout 呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度
Cin 呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度)
(3) (1)の要求フィットファクタは、呼吸用保護具の種類に応じ、次に掲げる値とする。
全面形面体を有する呼吸用保護具 500
半面形面体を有する呼吸用保護具 100
[以下省略]
別表1 物質別の試料採取方法及び分析方法
別表2 物質別濃度基準値一覧(発がん性が明確であるため、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値を設定できない物質を含む)
別表3-1~別表3-5 [呼吸用保護具の種類]
(参考1) 八時間時間加重平均値の計算方法
(参考2) フローチャート
【参考】厚生労働省リリース(2023年4月27日)
労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました(厚生労働省:2023年4月27日)
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針[PDF](本稿で紹介した指針全文)
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針 新旧対照表[PDF]
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(改正後)[PDFB]
※ 基発0427第2号「『化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針』の制定について」も発出されているが、内容を解説したものではなく、指針を周知するだけのものである。