労働安全衛生法令策定のためサポートキット(2022.1.13 国際労働機関(ILO)から/00 1.-5. 国のOSHシステムに関連した諸機関の義務とOSHガバナンス文書

1. はじめに

【国際労働基準】

- 1947年労働監督官条約(第81号)
- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 2006年労働安全衛生促進枠組み条約(第187号)
- 2006年労働安全衛生促進枠組み勧告(第197号)

第187号条約はすべての国に対して、国のOSHシステムを策定することを求めている。第1条(b)は、国のOSHシステムを「労働安全衛生に関する国の政策及び国のプログラムを実施するための主要な枠組みを提供する基盤」と定義している。
第187号条約の第4条はILO加盟国に対して、もっとも代表的な使用者及び労働者の団体と協議したうえで、労働安全衛生のための国のシステムを策定し、維持し、漸進的に発展させ、及び定期的に見直すことを求めている。
国のシステムの諸要素は、第187号第4条に規定されており、以下のとおりである。

▶社会パートナーとの協議
▶OSH法令
▶OSHに責任を有する当局
▶監督システムを含めた遵守メカニズム
▶企業における協力を促進する仕組み
▶OSHに関する国の三者構成助言機関
▶OSHに関する情報・助言サービス
▶OSH訓練
▶労働衛生サービス
▶OSHに関する調査研究
▶労働災害・職業病に関するデータの収集・分析
▶関連する保険・社会保障制度との協力
▶MSMEs[中小零細企業]・インフォーマル経済のための支援メカニズム

【役に立つツール及びリソース】

2012年ILO「労働安全衛生の国のプログラムに関するトレーニングパッケージ」モジュール2「国の労働安全衛生システムの導入」

2. OSH能力を有する機関を設立する場合の主要な検討事項

運営のために公的資金を必要とする公的または半官半民の機関は法的根拠をもっているはずである。機関を規制する場合に、法令は通常以下のことを規定する。

▶設立
▶目的、権限、機能及び義務
▶(資金調達とスタッフを雇用・従事・任命する機関の能力を含めた)リソース
▶説明責任

多くのOSH法が、OSH責任を有する機関の目的・権限・機能・義務、また時にはその設立について規定している一方で、そのリソースと説明責任は通常、行政法で規定されている。OSH法がさらに、OSHに責任を有する機関のガバナンスの側面を規定している場合もある。

OSH責任を有する機関の設立

与えられた法的枠組みのなかで、OSHに責任を有する公的機関は、直接OSH法を通じて、または特別な法律を通じて、大臣命令によって設立・組織される場合もある。OSH能力を有する公的機関を創設するのに用いられる法的文書は通常、その構造・構成・機能を概述する。

OSH責任を有する機関の目的・権限・義務

関連する公的機関は通常、それを設立した法律のなかで規定された権限と機能をもっている。しかし、OSH関連義務はまた、OSHシステムについて規定しているOSH法令のなかで規定される場合もある。
第187号条約とそれに付随する第197号勧告は、国のOSHシステムの諸要素を規定している。機関には通常、以下を含め、これらの要素を発展させる機能が割り当てられる。

(a) もっとも代表的な使用者・労働者の団体と協議たうえで、実施規則、実施規範や技術的基準を含め、国のOSHプロファイル、政策、プログラム及び法令を策定すること
(b) 監督システムを通じたものを含め、OSH法令の遵守を監視・確保すること(OSH法令の執行に関するセクションX参照)
(c) 労働者・使用者の団体及びその他の関係者と協議を行い、協力すること
(d) OSHを組み込んだ労働協約の促進を含め、職場関連予防措置の不可欠の要素として、管理者、労働者とその代表の間の協力を、事業場レベルで、促進すること(OSHに関する労働者代表に関するセクションV参照)
(e) データ収集のためのシステム(OSHデータ収集システム:記録、通知及び統計に関するセクションⅣ参照)、最新の関連する国際的体系と互換性のある分類体系の使用の可能性を含め、OSH統計の分析・公表の用意を確立すること
(f) OSH法令のもとでの義務保持者やその他の関係者にOSHに関する助言・情報を提供すること(機関のウエブサイトや電話またはオンラインホットラインを通じてなど)
(g) OSHに関する調査研究を促進・支援すること
(h) OSH専門家のためのOSHカリキュラムを確立すること(サポートのキットのセクションⅧ参照)
(i) 労働衛生サービスを開発すること(労働衛生サービスに関するセクションⅦ参照)
(j) 教育・職業訓練のなかでOSHを主流化すること
(k) (予防など)関連する機能の提供、ガバナンス理事会の構成と議長権、及び資金調達源を含め、労働関連傷害、疾病または死亡に対する補償メカニズムを創設すること
(l) MSMEs及びインフォーマル経済におけるOSH状況の漸進的改善のための支援メカニズムを設定すること
(m) OSH能力を有する他の公的機関と連携すること

OSH法令はまた、公的機関が何らかの他の機能を行使することができるようにする、またはその他の法律(規則を含む)のもとで与えられている何らかの他の権限を行使するための、規定を含めることもできる。公的機関はまた、OSH分野における国際関係にも責任を負う。

OSH責任を有する機関のリソース

公的機関は、その機能を効果的に遂行するために、自由に使える十分な財政的・人的資源を持たなければならない。一般的にOSH法のなかでこれらの資源について規定する必要はなく、代わりに、国家予算に関連する法律など、政府の目的のために広く適用される法令のなかで規定されるのが一般的である。

財政的資源

財源を提供するためには、様々な資金源が使われるのが典型的である。国の慣行は様々であり、公的部門団体の資金調達に関する政府の関連政策に左右される。
資金調達モデルには以下が含まれる。

(a) 中央資金(すなわち年次予算計上)
(b) ライセンスの申請・発行及び(職場監査など)その他のサービスから得られる収入
(c) 関連するOSH法の適用を受ける企業によって支払われるOSH賦課金
(d) 強制労災保険に支払われる保険料または雇用保険・基金の予算の一部から引き出されるOSH資金
(e) 担当機関または部局に対して支払うよう裁判所から命じられる罰金及び関連する費用

予算計上によって提供される中央資金は、OSH機関の費用を社会全体に負わせるものである。費用回収は、OSH規制体系のもとにある義務保持者に直接資金調達費用を負担させるものである。両者の組み合わせも選択肢のひとつである。中央資金は通常、年次予算計上のなかで提供され、予算関連法令によって処理される。一方、費用回収の仕組みは、OSH法令または支援法令のなかで規定される必要があるかもしれない。

人的及びその他の資源

OSH責任を有する公的部門の機関は、その機能を効率的かつ効果的なやり方で行うことができるように、必要なスタッフ、技術設備、交通手段及び宿泊施設を備えていなければならない。
どのような資源が必要かを決定する際に、意思決定者は規制任務の性質と規模を評価することが有用であると考えるかもしれない。有用な措置には以下が含まれる。

(a) 産業部門の規模・性質・分布及びそこで行われる労働の種類
(b) 規制任務の対象となる企業その他の者・実体の数
(c) 国の規模や職場へのアクセスの困難さを含めた、地理的な考慮事項
(d) 存在している労働組織や労使関係の種類とそれらの分布状況
(e) 監督しなければならない労働現場の数
(f) 最適な監督の頻度とそれらの相対的優先順位(OSH指標やニアミスに関するデータがあれば、優先順位の設定に役立てられるかもしれない)
(g) 効果的な監督を確保するのに必要な技術的スキルと設備
(h) スタッフ(とりわけ監督官)に対する訓練と継続的教育
(i) 効率的かつ効果的な情報・支援・教育活動及び起訴を含めた執行活動に必要かもしれない資源

これらの要因の検討は、法令に基づいてなされる予算計上に影響を与える可能性があるが、実際の決定とそれらの実施は一般的に行政によって行われる。

OSH責任を有する機関の説明責任

ほとんどの公的機関は、確立された公的部門の説明責任要求事項の対象である。OSH責任を有する公的機関についての典型的な説明責任の仕組みには通常、以下に示すものが含まれる。それらは、公的機関のすべてまたはほとんどを対象としたより幅広い法令に含まれていることが多いが、OSH法令にも含まれている場合もある。

【チェックリスト】

OSH責任を有する公的機関についての説明責任要求事項

- 通常、詳細な財務報告を含め、報告年度中の活動、業績、傾向及び資源の使用状況を含んだ年次報告書の作成
- 労働監督活動に関する年次報告書の作成(第81号条約第21・22条で要求されている。機関の年次報告書に含まれるかもしれない。)
- 年次財務報告書の作成
- 運営上の決定に関する行政的・司法的レビューの仕組み
- 担当大臣が公的間の運営に関する一般的指示を出す権限が与えられている場合には、指示の遵守に関する定期的報告書の作成
-(三者構成常任または助言委員会などを通じた)社会パートナーと協議する要求事項
- 腐敗防止法令に基づく報告書の作成

3. 国のOSHシステムの枠内でのOSH機関の設立とOSH法によるその義務の規定

3.1 省、機関及び専門のOSH部局

第81号条約の第4条(2)(b)はILO加盟国に対して、労働安全衛生に責任を有する機関または団体、若しくは諸機関または諸団体を指定することを要求している。通常、労働や衛生を担当する省を含め、OSH能力を有する様々な省が存在している。
これらは、もっとも代表的な使用者・労働者の団体と協議のうえで、国のOSHプロファイル・政策・プラグラムや実施規則・実施準則・技術的準を含めたOSH法令を策定する役割を担っている。
これらはまた、以下を含め、国のOSHシステムのその他の要素の策定にも責任を負っている場合もある。

▶(機関のウエブサイトや電話・オンラインホットラインなどを通じて)OSH法令のもとでの義務保持者や地域社会に対するOSHに関する助言・情報の提供
▶OSHに関する調査研究への資金提供または実施
▶統計を含め、労働災害・職業病に関するデータの収集・分析
▶注意喚起や訓練活動など、SMEsやインフォーマル経済におけるOSH状況の漸進的改善のためのメカニズムの支援

CEACR[条約及び勧告の適用に関する専門家委員会]は、労働を担当する省が、OSH政策の策定・実施やOSH法令の管理・執行を含めた、主要なOSH責任責任を負っているが、保健や社会サービスを担当する省も、とりわけ労働衛生サービスや傷病補償に関して、機能と責任を有しており、労働省・保険省・社会サービス省を統合している国もあると報告している。
CEACRはまた、多くの政府は、指定された国の機関は、専門のOSH機関または労働に責任を有する省内の専門のOSH部署であると届け出ている一方で、OSHガバナンスにおける労働監督官、保健省や社会保障機関の役割を強調している政府もあると報告している。

【政策の選択肢】

OSHに責任を有する中央機関の主な構成様式

(a) 労働省内のOSH部署
(b) 保健省内のOSH部署
(c) 独立したOSH機関

【国の事例13】[省略]
【国の事例14】
[省略]

【役に立つツール及びリソース】

- ILO「LEGOSH」のテーマ3.1「OSHの管理及び/または執行に関連した機関・プログラム」のもとで他の諸国のデータを入手可能
- 2013年ILO「労働省:比較的概観-歴史・権能・課題・世界規模データベース・組織的チャート」

3.2 労働監督

第187号条約の第4条(2)(c)は加盟国に対して、監督のシステムを含め、国の保冷の遵守を確保するためのメカニズムを確立することを求めている。労働監督は、労働法の遵守の監視及び執行を指定された公的主体である。

【政策の選択肢】

労働監督の主なガバナンス様式

(a) 労働省内の部署
(b) 労働省に対して報告する大きな自治権を有した機関
(c) 政府または議会に対して報告する独立的な主体

労働監督の権能の範囲

(a) 一般的:OSHを含め、労働条件と労働者保護に関連するすべての法的規定の監督に責任を負う
(b) 専門的:OSHのみの監督に責任を負う
(c) 統合システム:部署内の一定数の監督官がひとつのテーマを担当し、残りは別のテーマを担当する

一部の国では、労働法とOSH法の管理及び執行に責任を負う単一の労働監督が存在する一方で、専門的な諸機能をもった様々な労働監督が存在する国もある。(労働時間、賃金支払や妊婦・若年・実習生などの特定の労働者グループの保護を扱う)社会監督とOSH監督の区別とは別に、OSH部門内にさらなる専門性があることが多い(以下を参照)。社会保障の支払いの管理も労働監督の領域に含まれる場合もあるが、ほとんどの国では別の社会保障機関がそれを担当している。
(例えば危険物や有害物質の輸送と保管など)特定のハザーズ・リスクに関するOSH法、または(例えば海事活動、鉱業や採石業、海洋石油や原子力発電、道路・鉄道・航空輸送など)特定の作業部門におけるOSHに関する法律の管理に、異なる機関が責任を負っている場合もある。
専門的システムの主な課題は、どのように以下をするかである。

▶一般的労働法を管理する者を含め、異なる労働監督官または労働監督の間の協力の確保
▶監督官は自らの権限にのみ焦点を当てて調査を進める傾向があり、(OSHと雇用関係の間の関係、労働時間、差別、ハラスメントなど)労働の異なる構成要素間の関係を観察しそこなうかもしれないことから、遵守問題に対処するための体系的アプローチに従うこと
▶異なる労働関連課題に関して、異なる個人・団体に対処しなければならない使用者の負担の最小化
▶規制の解釈やアプローチにおける一貫性のなさの回避
▶情報・証拠・データの共有に対する障害への対処
▶管轄権の重複への対処

一般的システムの直面する課題には、監督官が対象とするすべての課題に関する十分な知識と能力をもっていることを確保することが含まれる一方で、統合システムにとっての主な課題は調整でありそうである。
労働監督の建設的かつ機能的な様式は、連邦内の各州が独自の行政の仕組みを採用するかもしれない、連邦制においてより複雑であるかもしれない。州の規制当局に加えて、連邦政府も、国の管轄権内に特異的な、一般的な労働監督事項またはOSH事項について規制機関または規制諸機関をもっているかもしれない。このような場合には、管轄をまたがった労働監督を可能にし、OSH問題が効果的に対処されるようにするための協力の仕組みが必要である。
労働監督は、典型的には、とりわけ民法諸国では、行政法と特別の労働監督規則によって確立及び規制されている。慣習法諸国では、とりわけOSH問題について別の機関がある場合には、OSH法のなかでOSH事項が大きく規制されているかもしれない。いずれにせよ、OSH法は一般的に労働監督官のOSHに関連した義務と権限を埋め込んであり、それについてはこのサポートキットのセクションⅧで検討する。

【国の事例15】[省略]
【国の事例16】
[省略]
【国の事例17】
[省略]

3.3 OSH問題を扱う国の三者構成助言機関

第187号条約の第4条(3)(a)は加盟国に対して、適当な場合には、労働安全衛生問題を扱う国の三者構成助言機関または諸機関を設置することを求めている。この機関は政府に、労働者・使用者団体やその他の関係者と協議を実施し、協力するための場を提供する。
CEACRは、社会パートナーとの協議は国のOSHシステムの機能化のために不可欠であることを想起し、多数の諸国における労働問題検討のための三者構成機関の確立を指摘し、これらの機関の協議と定期的見直しのためのフォーラムとしての可能性を強調している。
多くの国が、もっぱらOSH問題のみを専門に議論する国の三者構成機関を設立している。これは、全国三者構成OSH評議会または委員会であり得る。通常、政府及び使用者・労働者団体の代表で構成され、典型的には助言的役割を指定されている。国の三者構成機関は、(とりわけ財源が特に限られている国では)OSH問題を含めた労働問題一般を扱うため、またはもっぱらOSH問題のみを専門に扱うために設立されるかもしれない。
多くの国が、この三者構成機関を拡張して、OSH協会や学術機関の代表、OSH能力を有する様々な公的機関、とくに労働監督と社会保障機関を含めている。一部の国の法律は、これらの委員会に女性が参加することも求めている。多くの場合、三者構成による国の機関は包括的なOSH法によって、またはこれが存在しない場合には労働法によって設立されるが、その構成と機能は実施規則で規定されるかもしれない。
もっぱらOSH問題のみを専門に扱う専門的三者構成機関が望ましいが、構成員が自国の具体的な国の状況においてよりよい選択肢と考える場合には、既存の非専門的な三者構成組織がOSHをその権能に加える場合もある。

【国の事例18】[省略]
【国の事例19】
[省略]
【国の事例20】
[省略]
【国の事例21】
[省略]

【役に立つツール及びリソース】

- ILO「LEGOSH」のテーマ8.1「国のOSH評議会、委員会または同様の機関」のもとで他の諸国のデータを入手可能

3.4 OSHに関する研究・情報主体

第187号条約の第4条(3)(b)及び(e)は加盟国に対して、適当な場合には、情報や助言サービスを提供し、OSHに関する調査研究を行うことを求めている。
CEACRは、情報の流れと利用可能性が依然として国の予防的安全衛生分化の重要な要素であることを想起し、各国政府に対して、使用者・労働者の団体と協議のうえで、情報・助言サービスの設立・強化を通じることを含め、包括的なやり方で、OSH情報が利用可能であり、アクセスしやすく、周知されていることを確保する措置を撮り続けるよう奨励している。
国の機関は、OSH調査研究、情報・助言サービスを実施するために、専門の公的研究センターを設立し、資源を配分することができる。多くの国が、この分野における調査研究を主導することを主な目的とした国のOSH研究機関を設立している。

【役に立つツール及びリソース】

- OSH機関・研究所・組織に関するILOデータベースINTEROSHで、世界のOSH情報機関・研究所・組織の業務範囲、統治様式、資源や専門技術分野に関する広範な情報をみつけることができる。
- ILOプロジェクト「労働安全衛生における国際的ネットワーキングの現代化」を通じてさらなるリソースを利用することができる。

調査研究機能は、国の主要なOSH機関のポートフォリオに統合されることもあるし、学術機関、OSH専門家の協会や諸団体のネットワークによって行われる場合もある。公的な専門的研究センターは、アメリカの国立労働安全衛生研究所の場合のように、OSH法によって設立することもできる。また、(韓国やフィンランドの場合のように)そのような機関の設立・運営・機能をもっぱら専門に扱う独立の単独法によって設立することもできる。
大規模な研究センターを設置することのできない国は、大学研究者や、また研究成果は他の国の同様な状況に対して転用できることが多いことから、それらの恩恵を受けられるように近隣諸国や先進国と協力することが推奨される。

【国の事例22】[省略]
【国の事例23】
[省略]
【国の事例24】
[省略]

【役に立つツール及びリソース】

- ILO「LEGOSH」のテーマ8.1「国のOSH評議会、委員会または同様の機関」のもとで他の諸国のデータを入手可能
3.5 OSHサービスを提供する主体
第161号条約の第7条は、労働衛生サービスは民間及び公的な主体の双方によって組織することができ、それらは以下であるかもしれない。

▶保健所、(労働)衛生機関、病院、診療所などの公的機関または公的サービス
▶労災保険機関

【国の事例25】[省略]

さらなる情報については、セクションⅦ労働衛生サービスを参照されたい。

3.6 労働災害保険制度の調整

これらの制度は、労働災害・職業病の事例に対する給付を提供するものであり、また予防を支援するかもしれない。
通常、国の社会保障法が、労働災害・職業病の場合の適切な労働災害給付への労働者のアクセスについての労働者、使用者及び政府の権利と義務の詳細を規定している。社会保障法に含まれる労働災害っ雄府に関する規則は、国際労働基準、すなわち1952年社会保障(最低基準)条約(第102号)、1964年労働災害給付条約(表1は1980年に改正)(第121号)、1964年労働災害給付勧告(第121号)に沿ったものでなければならない。これらの場合、重複を避けるために、OSH法のなかで社会保障法への参照がなされる場合もある。
労働災害給付が社会保障法で規定されていない場合、労働者とその扶養者が労働に関連した病気、傷害や死亡について給付の資格があることを確保するために、OSHに短いが基本的な規定を設けることによってこの規制のギャップを埋めるかもしれない。
労働災害保険(EII)制度は通常、労働省が管轄する社会保障機関の権能の範囲内にある。一部の国では、(経済省など)別の省の下に置かれているが、共通の情報技術ネットワークを通じた協力、活動の調整やリアルタイムのデータ共有を促進するために、社会保障とOSHは同じ公的権限の下に置くことが好ましい。
以下の議論は、労働災害・職業病の被害者に適切かつ効果的な労働災害給付へのアクセスを提供するすべてのEII制度まだ実施していない諸国を対象としている。

【国際労働基準】

- 1952年社会保障(最低基準)条約(第102号)
- 1964年労働災害給付条約(表1は1980年に改正)(第121号)
- 1964年労働災害給付勧告(第121号)

第102号条約の第31条は加盟国に対して、社会保障システムの柱のひとつとして、労働災害給付の提供を確保しなければならないと規定している。第121号条約及び第121号勧告はもっぱらこの柱に関連したものである。

不測の事態の種類

第102号条約及び第121号条約(各々第32条及び第6条)は、労働災害・職業病から生じる可能性のある不測の事態に関連した最低基準を設定している。これらはとりわけ以下で構成される。

▶病的な状態、すなわち医療または関連するケアを必要とする何らかの状態
▶そのような状態に起因し、国の法令によって定義される所得の停止を伴う労働不能
▶永久的なものとなるおそれのある、所得能力の全部喪失または規定された程度を超える所得能力の一部喪失、若しくはこれらに相当する能力の喪失
▶扶養者の死亡の結果として被る扶養の喪失
▶(職場/雇用に関連した)病気

労働災害給付の種類

第121号条約の第9条によれば、上述した不測の事態に対処するために、以下の給付を利用できるようにしなければならない。
(e) 病的な状態に対する医療及び関連する給付
(f) 一時的または永久的能力喪失及び死亡に対する現金給付(各々、能力喪失期間中の傷病給付、所得能力喪失の場合の障害年金、具容赦死亡の場合の遺族年金)

(a) 医療
第121号条約の第10条(1)によれば
「1. 病的な状態に対する医療及び関連する給付は、以下で構成されなければならない。
(a) 往診を含め、一般医及び専門医による入院及び通院ケア
(b) 歯科診療
(c) 家庭または病院若しくはその他の医療施設における看護ケア
(d) 病院、病後療養所、サナトリウムその他の医療施設への収容
(e) 必要に応じて修理・更新される補装具を含め、歯科、薬科、その他の内科用または外科用の治療材料
(f) いずれの時点でも、医学的専門職に関連したものとして法的に認められた他の職業の者が、医師または歯科医の監督の下に行うケア
(g) 可能な場合には、職場における以下の手当
(i) 程度の重い災害を受けたものに対する応急手当
(ii) 負傷が軽微であり労働の中断を要しない者に対するその後の手当」

第121号条約の第10条(2)は、災害を受けた者の健康と労働能力を維持し、回復しまたは(これが可能な場合には)改善することを目的として、上述の給付が支給されなければならないと規定している。

(b) 現金給付と支給様式
第102号条約の第36条及び第121号条約の第14~21条は、一時的、永久的傷害または死亡の場合に保証されなければならない現金給付の最低レベルを定めている。

給付に適用される諸原則

▶所得能力の喪失と能力の喪失の判定は困窮を回避するやり方でなされなければならない。
▶一時的能力喪失に対する給付の総額は災害前の労働者の平均賃金の割合であるが、第121号条約は60%を下回ってはならないことを求めている。
▶全部永久的障害給付は一時的障害給付と同じ割合で支払われ、部分的永久的障害給付の額は障害の程度に応じて比例的に減額される。
▶遺族給付は、労働者の死亡前数か月の平均賃金の割合で計算される。この割合は家族構成により、第121号条約によれば、2人の幼い子供をもつ夫または妻を亡くした者(標準的受給者)に認められる総額が労働者の平均賃金の50%を下回ってはならない。
▶一時的・永久的障害及び遺族給付の定期的支払いは、生活費の増加に照らして定期的に調整されなければならない。第121号条約は、(葬祭料または障害の程度が低い場合など)一定の具体的場合についてのみ一時金を認めている。
第121号勧告は、定義と手続に関するさらなる詳細と効果的な実施のためのその他の実用的なヒントを提供している。

予防を含め、EIIについてのその他の要求事項

第121号条約の第26条は加盟国に対して、以下を求めている。
「(a) 労働災害・職業病を予防するための措置を講じること。
(b) 障害を受けた者が、可能な限り以前の活動を再開し、またはそれが可能でない場合には、その適正と能力からみて最も適当な代わりの有償の活動に従事し得るように訓練することを目的としたリハビリサービスを提供すること。
(c) 障害を受けた者が、適当な雇用に就くことを促進する措置を講じること。」

EIIの基礎となる諸原則

労働災害給付はEII制度を通じて提供される。これらの有効性は、具体的な一連の原則に依存している。
▶「無過失」:災害を負った労働者、または死亡の場合は当該労働者の遺族は、使用者の「過失」を証明する必要なく、給付を受ける資格がある。
▶権利に基づく給付
▶使用者の間の集団的な責任分担
▶制度の運営についての独立した透明性のあるガバナンス

EII制度の様式

実際には、EII制度には2つの主な様式があり、社会保険と使用者責任である。

【定義】
社会保険制度は、(1)被保される不測の事態の発生前の保険料の支払い、(2)リスクの共有または「プール」、(3)保証の概念に基づき、保健メカニズムを通じて保護を保証する社会保護制度である。被保険者によって(または被保険者のために)支払われた保険料は一緒にプールされ、その結果としての基金が、もっぱら商業保険の影響を受ける者が被る費用をカバーするために使用され、社会保険におけるリスクのプール化は個別に計算されたリスク保険料とは対照的に、連帯の原則に基づいている。しかし、カバーされるリスクの特定の性質を反映するために、業種及び/または特定の工場に関して、保険料にいくらかのリスクアセスメントがなされる場合もある。このような保険料の設定は、災害予防措置の設定に関して、業種/工場レベルでよいインセンティブを与えるという利点がある。
使用者責任制度は、使用者に法的責任を負わせるものであり、個々の使用者が長期間、定期的支払いをする仕組みを設定することができないことから、長期的かつ指数化された定期的支払いを提供するうえで増大する困難に直面する。また、このアプローチは、社会保険制度が実施されている場合にはそれによって提供されることの多い、実施に必要な資源をOSH機関から奪う可能性がある。
出典:ILO「世界社会保護報告 2017~19年:持続可能な開発目標を達成するためのユニバーサルな社会的保護」2017年

第一世代のEII制度は使用者責任モデルに基づくものであったが、経験は、それらの成果が最適ではなかったことを示している。システムは、上述したようなILOの社会保障基準に明記された諸原則に準拠しているとはみなされていない。
今日、先進国と開発途上国の双方で、社会保険制度の導入に向けて動く傾向がある。カンボジア、中国、インド、インドネシア、パキスタン、フィリピン、タイヤベトナムなど、アジアの主要な輸出国の多くが、社会保険制を設立したか、またはこの選択肢を検討中である。これらの制度は一部の労働者しかカバーしないものの、対象労働者を徐々に増やす措置がとられている。アフリカでは、現在も多くの国が使用者責任制度を維持しているが、(エチオピア、マラウイやタンザニア共和国など)一部の国は、社会保険制度を採用したか、またはそのような制度を導入する過程にある。それは、災害を負った労働者や死亡した労働者の遺族のための労働者補償制度の慢性的な非効率性や不十分さに対する解決策とみなされている。社会保険制度を支える使用者の連帯責任に基づいたEII制度が、労働災害給付を提供するための最適なアプローチとして推進されるべきである。

【役に立つツール及びリソース】

ILO世界社会保護報告書のなかのEII制度の様式に関する議論を参照

しかし、手頃で持続可能かつ合理的なコストを実現するために、EII制度は、効果的かつ効率的に最良のサービスを提供する労働災害保護と、提供者の側のコスト意識の間のバランスをとる必要がある。

予防におけるEII制度の役割

労働災害・職業病の数とEII制度を運営するコストの間には直接的な関係があり、補償すべき事故や病気が多いほど、EII制度は財政的に不利になる。したがって、EII制度自体または第三者が主導する予防イニシアティブに予算の一部を投資できるようにして、予防に積極的に取り組むことは、EII制度の利益になる。予防への投資は、第121号条約の第26条(a)によって求められている。
EII制度の構造は、(労働災害・職業病の数を減少させる)予防機能、(労働災害の影響を受けた者が可能な場合には労働に復帰できるようにする)リハビリテーション、及び(影響を受けた者が労働に復帰することができない場合の)補償と結びついた、全体的アプローチに適合すべきであることを、実践が示してきた。これは、(補償を提供するだけの)たんに治療的であるだけでなく、予防的かつ再統合的である、現在の社会保障アプローチに沿ったものである。
EII制度は、以下を含め、様々な手段によって予防行動を支援することができる。

▶「ボーナス/マルス」のような金銭的インセンティブ及び証明、賞、コンテストや品質マークなどの非金銭的インセンティブを与えること。
▶特定の活動分野または特定の企業における関連するリスクに関する証拠に基づくデータを提供すること。
▶OSHに関する調査研究や訓練に資金提供すること。
▶労働者に医学的検査を提供すること。
▶事業所にリスクアセスメント、有害物質の測定または人間工学的分析・助言を支援すること。
▶情報を普及すること。

EII制度とOSHサービスがひとつの組織の下にある場合はどこでも、EII制度と予防活動の連携が奨励される。共通の情報技術ネットワークを通じた活動の調整とリアルタイムのデータ共有が容易になっている。EII制度は、予防活動を主流化し、特定の活動部門における関連するリスクに関する証拠に基づいたデータを提供するためのよいソースである。EII制度はまた、OSH関連問題に関する調査研究や質の高い訓練の提供においても、重要な役割を果たすことができる。
使用者に労働災害・職業病を予防するイニシアティブを与えるために、保険料額を設定する際に、労働災害・職業病に関する過去のパフォーマンスが考慮される、実績に基づく保険料評価制度をEII制度が実施する場合もある。
EII制度はまた、労働者に医学的検査を提供し、リスクアセスメントに事業所を支援し、有害物質の測定や人間工学的分析を提供し、助言や情報を普及することによって、予防活動を支援することもできる。

【役に立つツール及びリソース】

EII制度の詳しい議論については、ILO「労働災害・職業病予防を支援するための労働災害制度の役割の強化」2013年を参照されたい。
研究は、予防が報われることを示している。国際社会保障協会(ISSA)と2つのドイツの使用者団体が実施したある研究は、予防の見返りが1.6倍であることを明らかにしている(各1ユーロの投資に対して見返りが1.6ユーロ)。
OSHまたは社会保障法令が、EII制度の予防の役割を明確に規定する場合もある。

【国の事例26】[省略]

4. OSH能力を有する諸機関間の調整と協力

【国際労働基準】

- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 1947年労働監督条約(第81号)
- 1978年労働行政条約(第150号)

第155号条約の第15条は、「各加盟国は、できる限り早い段階でもっとも代表的な使用者・労働者団体、及び適当な場合にはその他の団体、と協議のうえで、本条約の第Ⅱ部及び第Ⅲ部を実施することを要請される様々な機関・団体間の必要な調整を確保するために、国の状況・慣行に適する措置を講じなければならない」、また、「状況により必要とされかつ国の状況・慣行が許す場合には、これらの措置に中央機関の設置を含まなければならない」と規定している。
第81号条約は、「労働監督は中央機関の監督・管理の下に置かなければならない」と規定し、それはよりよい調整、協力及び報告の要求事項を促進するだろう。これは、国内における労働監督のすべての地理的場所及び技術的側面に関連し散る。
第81号条約の第5条は権限のある機関に対して、「監督サービスと同様の活動に従事する他の政府サービス及び公的または民間機関の間の効果的な協力」並びに「労働監督の職員と使用者・労働者またはそれらの団体との間の協力」を促進するための適当な措置を講じることを求めている。
第150号条約の第4条は、「本条約を批准する各加盟国は、国の状況にとって適当なやり方で、自国領域内における労働行政の組織と効果的な運営、その機能と責任が適切に調整されていることを確保する」と規定している。
CEACRは、OSHに関する首尾一貫した国の政策の実施を可能にするために、OSHに責任を有する様々な機関の間の調整を保証することの重要性を想起している。また、国のOSHシステムの運営に関わる様々な機関の間の調整と協力が、あらゆるレベルにおける行動の一貫性を確保し、情報の流れとアクセスを助け、社会パートナーや他の関係者の見解や懸念が考慮されることを可能にすることを示している。CEACRは、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、コスタリカ、ホンジュラス、ハンガリー、アイルランド、ナミビア、フィリピン、セネガル、タイ、タンザニア連合共和国やアメリカなど、多くの国で、調整機関が設立されていることを観察している。
OSH法令は権限のある機関に対して、OSHにかんれんする諸問題について調整・協力し、(上述したように)労働安全衛生に関する国の参酌お政助言機関のような、関連するメカニズムを確立するよう求めなければならない。

【政策の選択肢】

公的機関間の情報共有・調整のアプローチには以下が含まれる。
(a) OSH能力を有するすべての機関がアクセスすることのできる統一された情報システムを創設する。
(b) 監督機構を「単一監督機関」に統合する(専門部署は残すが、統一管理の下で単一機関に統合する)。
(c) 監督諸機関が集まり、実務を調和させ、情報を共有することのできる「調整評議会」またはその他のフォーラムを設置する。

5. 主要なOSHガバナンス文書:国の政策、プログラム及びプロファイル

国のプロファイル、政策及びプログラムは、OSHガバナンスを担当する中央国家機関の重要な機能である。OSHに責任を有するあらゆる公的機関は、国の方針・プログラムと一貫性をもち、またそれらに指導されるなければならず、また、国のOSHシステムを含め、既存の国のOSH状況を十分に考慮しなければならない。

【国際労働基準】

- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 2006年労働安全衛生促進枠組み条約(第187号)
- 2006年労働安全衛生促進枠組み勧告(第197号)

5.1 国のOSH政策

国のOSHに関する政策の策定、実施及び定期的な見直し

第155号条約の第4条に従って、「各加盟国は、国の状況及び慣行に従い、かつもっとも代表的な使用者・労働者団体と協議のうえ、労働安全、労働衛生及び労働閑居に関する主一貫した国の方針を策定し、実施し、及び定期的に見直さなければならない」。
CEACRは、ILO憲章は第19条に基づき(OSH諸条約に関する2017年総合調査作成のために)報告書を提出したほとんどの政府が、国の政策をもっているか、または政策を策定中であると答えたと指摘している。

国のOSH政策の目的

国のOSH政策の主な目的は、以下のとおりである。

▶労働環境におけるその存在が不可避のハザーズの原因を、合理的に実行可能な限り、最小にすることによって、労働に起因し、若しくは関連し、または労働中に生じる事故及び健康傷害を防止すること(第155号条約第4条(2))
▶職業リスクまたはハザーズを評価し、職業リスクまたはハザーズに発生源で対処し、情報、協議及び訓練を含む国の予防的安全衛生文化を発展させるなどの本原則を促進すること(第187号条約第3条(3))

国のOSH政策が考慮しなければならない主な活動分野

第155号条約第5条に規定されているように、以下の主要な活動の分野が、労働安全衛生及び労働環境に影響を及ぼす限りにおいて、これらの分野を考慮しなければならない。

(a) 労働の物的要素(職場、労働環境、器具、機械及び装置、科学的、物理的及び生物学的物質及び因子、労働プロセス)の設計、試験、選択、代替、取り付け、配置、使用及び保守
(b) 労働の物的要素と労働を遂行しまたは監督する者との関係並びに労働者の身体的及び精神的な能力への機械、装置、労働時間、労働編成及び労働プロセスの適合
(c) 適切なレベルの安全衛生を達成するに当たっての関係者のいずれかの能力に係る、必要な追加的訓練を含めた訓練、資格及び動機づけ
(d) 労働集団、事業所並びに国レベルに至るまで及び国レベルを含めたすべての適当なレベルにおける連絡及び協力
(e) 懲戒措置からの労働者及びその代表の保護

CEACRは、ILO憲章は第19条に基づき(OSH諸条約に関する2009年総合調査作成のために)報告書を提出したすべての国が、その規制システムを通じて第5条(a)及び第5条(c)に効果が与えられていると答えたと指摘している。

国のOSH政策がとらなければならない機能と責任

第155号条約の第6条は、「本条約第4条に言う政策の策定は、公的機関、使用者、労働者その他の者の、責任の補完的性格並びに国の状況及び慣行を考慮のうえ、これらの者の労働安全衛生及び労働環境に関する各々の機能及び責任を示す」と述べている。
CEACRは、国のOSH政策について画一的なモデルは存在せず、各国は、使用者・労働者の代表的団体と協議のうえ、この政策がとる形についてかなりの自由度をもつことを明確にしている。

国のOSH政策の策定と定期的な見直しに資するためのOSH状況の評価

第15号条約の第7条は、「労働安全衛生及び労働環境に関する状況は、主要な諸問題を確認し、それらに対処するための効果的な方法及び行動の優先順位を明確にし、並びに結果を評価するため、全体または特定の分野に関して、適切な間隔で見直されなければならない」と述べている。この状況評価は、「国のOSHプロファイル」とも呼ばれる。
CEACRは、社会パートナーの完全な参加を得た、国の政策プロセスが、国のOSH状況を改善し、安全かつ健康的な労働環境を創設するための重要な原動力であり続けていると考えている。また、すべての労働者にとっての安全で安心できる労働環境を促進するという持続可能な開発目標(SDGs)の目標8.8に向けて前進したいと望む諸国にとって、周期的な国の政策プロセスの不可欠な性格を強調し、そのような政策の策定だけでなく完全な実施、及び、国の状況の変化や技術の出現に照らした定期的な調節ができるような包括的な見直しの実施を確保するために、三者構成員がさらに注意を払わなければならないことを強調している。

【役に立つツール及びリソース】

2012年ILO「労働安全衛生の国のプログラムに関するトレーニングパッケージ」モジュール1「労働安全衛生に対するILOの戦略的アプローチ」

【国の事例27】[省略]

5.2 国のOSHプログラム

【定義】
国のOSHプログラムは、基本的に、一定期間のOSH能力を有する様々な公的機関のOSHに関連する目標及び活動を列挙した作業計画である。それは社会パートナーやその他の関係者の役割をとらえていることも多い。第187号条約の第1条(c)は、国のOSHプログラムの様々な要素をとらえている。これらの要素は以下のとおりである。

- 達成すべき目標
- OSHを改善し、上述の目標を達成するための行動の優先順位
- OSHを改善し、上述の目標を達成するための行動の手段(例えば活動)
- 行動の手段を実施し、目標を達成するための時間枠
- 進捗を評価するための手段(指標)

国のOSHプログラムに関する要求事項

第187号条約の第5条並びに第197号勧告の段落13及び14は、国のOSHプログラムは以下でなければならないと述べている。

▶社会パートナーと協議のうえで、策定、実施、監視、評価及び定期的に見直される。
▶労働安全衛生に関する国の状況の分析に基づいて策定及び見直される。
▶国のOSH文化の発展を促進する。
▶労働に関連したハザーズ及びリスクを根絶または最小化することによって労働者の保護に貢献する。
▶目的、目標及び進捗の指標を含む。
▶安全な労働の漸進的達成に助けとなるであろうその他の補完的な国のプログラム及びプランによって補強される。
▶広く公表され、最上級の国の機関によって承認及び開始される。

CEACRは、国のOSHプログラムの開発が安全衛生文化促進のための重要な運営要素であることを想起し、社会パートナーと協議のうえで、そのようなプログラムの実施、監視及びそれに続く見直し、並びに明確な目標及び進捗の指標に基づいた方法を用いたパフォーマンス評価を確保することの重要性を強調している。

【役に立つツール及びリソース】

2013年ILO「労働安全衛生の国のプログラムの策定に関するトレーニングパッケージ」
理想的には、OSH法が、国のOSHプログラムを策定することを国の機関の義務として明確に埋め込むべきである。この文書を法律という手段で採用している諸国もある。
CEACRは、国のOSHプログラムの首尾よい実施と国の課題におけるOSHの優先づけにおける上位の位置からの支援の重要性を認識し、各国政府に対して、最上位の国の機関が国のOSHプログラムを承認することを確保する措置を講じるよう奨励している。CEACRは、かなりの数の国が、国のOSHプログラムまたはプランを採用していると答えていると指摘している。

【国の事例28】[省略]

5.3 国のOSHプロファイル

【定義】
国のOSHプロファイルは、ある国の現在のOSH状況及び安全かつ健康的な労働環境の実現に向けてなされた進捗を要約した文書である。プロファイルは、国のプログラムを策定及び見直すための基礎として活用されなければならない。
国のOSHプロファイルは、健全かつ効果的な国のOSHシステムを実現するためにさらなる発展が必要な分野、及び関連する必要な行動の優先順位のレベルを確認する強力な評価ツールである。
第197号勧告の段落13は、「加盟国は、労働安全衛生に関する現状及び安全かつ健康的な労働環境の実現に向けてなされた進展を要約した国のプロファイルを作成及び定期的に更新すべきである。プロファイルは、国のプログラムの策定及び見直しのための基礎として活用されるべきである」と述べている。
CEACRは、短期的及び長期的双方の目標の策定並びに目標の設定および評価のためには、効果的なデータの収集及び分析が不可欠であると指摘している。また、SDGsに関してなされた進展を測定するための、国の統計の収集及び編纂の重要性も強調している。

OSHプロファイルの要素

第197号勧告の段落14は、包括的な国のOSHプロファイルにはどのような要素が含まれるべきかに関するガイダンスを提供している。プロファイルには、以下のような、国のOSHシステムの要素およびその他の関連する情報を確認する情報が含まれるべきである。

▶労働安全衛生に関する法令、(適当な場合には)労働協約及びその他の関連する文書
▶国の法律及び慣行に従って指定された、労働安全衛生にに責任を有する機関または団体、若しくは諸機関または諸団体
▶監督のシステムを含め、国の法令の遵守を確保するためのメカニズム
▶職場関連予防措置の不可欠な要素として、管理者、労働者とその代表の間の協力を、事業所レベルで、促進するための手配
▶労働安全衛生問題を扱う国の三者構成助言機関、または諸機関
▶労働安全衛生サービスに関する上布及び助言サービス
▶労働安全衛生訓練の提供
▶国の法律及び慣行に従った労働衛生サービス
▶労働安全衛生に関する調査研究
▶関連するILO文書を考慮した、労働災害及び職業病並びにそれらの原因に関するデータの収集及び分析のためのメカニズム
▶労働災害及び職業病を対象とする関連する保険または社会保障制度との協力のための諸措置
▶MSMEs及びインフォーマル経済における労働安全衛生状況の漸進的改善のための支援メカニズム
▶国のプログラム見直しメカニズムを含め、国及び企業レベルにおける調整及び協力メカニズム
▶労働安全衛生に関する技術的基準、実施準則及びガイドライン
▶促進するイニシアティブを含め、教育及び意識向上のための仕組み
▶労働安全衛生に関する研究所及び試験施設を含め、労働安全衛生の様々な側面と連携する専門的な技術的、医学的及び科学的研究機関
▶監督官、安全及び衛生担当職員、産業医及び衛生士など、労働安全衛生の分野に従事する要員
▶労働災害及び職業病統計
▶使用者及び労働者の団体の労働安全衛生政策及びプログラム
▶国際協力を含め、労働安全衛生に関連する通常または実施中の活動
▶労働安全衛生に関連する財源及び予算
▶入手可能な場合には、人口統計学、識字能力、経済及び雇用を扱ったデータ並びにその他の関連する情報

【役に立つツール及びリソース】

2013年ILO「労働安全衛生の国のプログラムの策定に関するトレーニングパッケージ」モジュール3「国のOSHプロファイルと国のOSH状況の分析」

Support Kit for Developing OSH Legislation ダウンロードページ

https://www.ilo.org/publications/support-kit-developing-occupational-safety-and-health-legislation

安全センター情報2023年4月号