アゾ染料による膀胱がん認めず/東京●中国・江蘇省蘇州市の縫製工場でのばく露に地裁判決
2022年10月14日午後、職業性膀胱がんを発症したFさんの労災不支給処分取り消し訴訟の判決で、東京地裁(前津達朗裁判長)は原告の請求を棄却した。
Fさん(男性、現在49歳)は、大手アパレル会社に勤務し、2008年3月から4年余り、中国の縫製工場に赴任し、速乾性生地の開発や縫製された衣料の品質管理の業務を担当した。日本の本社からの指示のもと、中国製の縫製品から異臭が発するというクレームに対処するため、染色後の生地を直接手にとり臭いを嗅いで洗浄不足がないかチェックする作業を行った。
その過程でアゾ染料が指先や鼻に付着した。アゾ染料は体内で特定芳香族アミンを生成する。特定芳香族アミンは発がん物質である。2022年EU、2003年に中国、2010年に韓国、2016年に日本で特定芳香族アミンを生じるアゾ色素の繊維製品への使用が禁止されている。
Fさんは、この作業で手指や鼻に付着し、洗っても落ちないアゾ染料に曝露し、体内で生成された芳香族アミンが原因物質で膀胱がんを発症したことは明らかである。
2012年2月に日本に帰国し本社勤務となったFさんは、2015年9月に42歳という若さで膀胱がんを発症した。膀胱がんは通常10万人に10人程度、高齢の主として喫煙者に発症するといわれている。Fさんは飲酒、喫煙の習慣はない。2015年12月、労災を確信し、S労基署に労災請求した。しかし、1年半の長時間の調査のすえ業務外とされ、さらには審査請求、再審査請求も棄却。そのため2020年3月、労災の不支給処分の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。
2021年にはFさんの労災認定を支援する会が発足し、東京労働安全衛生センターの飯田も支援する会の世話人となり、Fさんの労災裁判を支援してきた。
9月には150労組・団体を超える団体署名を裁判所に提出。また、2022年8月、職業がん救済と撲滅を求める啓発用DVDが制作され、販売と上映運動が始まった。
裁判では赴任先の中国の工場で使われていた染料を特定するための立証は困難をきわめたが、専門家の意見書や文献資料を証拠として提出し、Fさんの膀胱がんは中国の縫製工場、染料工場で使用されていたアゾ染料による特定芳香族アミンの曝露以外ありえないことを主張立証してきた。
しかし判決では、「それを裏付ける証拠がない」、「芳香族アミン一般の発がん性は途上にあり、発がん性を肯定する見解が現在における一般的な科学的知見であるということはできない」とし、Fさんが主張立証した中国の工場でのアゾ染料への曝露作業の実態を十分に検討することもなく、国の言い分を追認した。
Fさんはすでに3回も膀胱がんが再発し、手術を受けている。再発の不安をかかえるなかで、安心して療養できる環境を作っていかなければならない。Fさんと弁護段、支援する会は不当判決を銚ね返すべく、ただちに控訴の手続きをとり闘うことを決定した。
私たちもともにFさんの職業性膀胱がんの労災裁判を支援していくとともに、化学物質による織業がんの問題に取り組んでいきたいと思う。
文・問合せ:東京労働安全衛生センター
《ドキュメンタリーDVD》
「いのちと健康を守るために職業がん救済と撲滅を求めて」
販売: 個人観賞用 5,500円
映権付 22,000円
申込・連絡・問合せ先
〒556-0011 大阪市浪速区難波3-17-9化学一般会館内 職業がんをなくす患者と家族の会
TEL 06-6647-3481/FAX 06-6647-0440
e-mail ocpcnc@grupo.jp
安全センター情報2022年6月号