個人事業者等の健康管理に関するガイドライン-令和6年5月28日-

1 趣旨・適用

本ガイドラインは、労働者と同じ場所で就業する者や、労働者とは異なる場所で就業する場合であっても、労働者が行う作業と類似の作業を行う者については、労働者であるか否かにかかわらず、労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであるという基本的な考え方のもと、事業を行う者のうち労働者を使用しないもの及び中小企業の事業主又は役員(以下「個人事業者等」という。)が健康に就業するために、個人事業者等が自身で行うべき事項、個人事業者等に仕事を注文する注文者又は注文者ではないものの、個人事業者等が受注した仕事に関し、個人事業者等が契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて必要な干渉を行う者(以下「注文者等」という。)が行うべき事項や配慮すべき事項等を周知し、それぞれの立場での自主的な取組の実施を促すものである。

また、個人事業者等が健康に就業するためには、各業種・職種の個人事業者等や注文者等の団体、仲介業者等(以下「団体等」という。)がそれぞれの立場に応じ、個人事業者等の健康管理に資する取組を行うことが期待される。その際、個人事業者等の活動の場は様々な業種・職種にわたることを踏まえ、団体等が、本ガイドラインを参考に、それぞれの業種・職種の実情や商慣習に応じた業種・職種別のガイドライン(以下「業種別・職種別ガイドライン」という。)を必要に応じて策定することが推奨される。

なお、雇用契約を締結せず、形式的には個人事業者等として請負契約や準委任契約などの契約で仕事をする場合であっても、労働関係法令の適用に当たっては、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、労働基準法(昭和22年法律第49号)上の「労働者」であるかどうかが判断されることになる1。「労働者」に該当すると判断された場合には、本ガイドラインによらず、「労働者」として、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)等の労働関係法令が適用されることに留意すること。

2 個人事業者等の健康管理の基本的な考え方と各主体の取組

(個人事業者等)

個人事業者等として事業を行う上では、自らの心身の健康に配慮することが重要であり、各種支援を活用しつつ自らで健康管理を行うことが基本である。

(注文者等)

注文を受けて仕事を行う場合には、注文者等による注文条件等が個人事業者等の心身の健康に影響を及ぼす可能性もあることから、個人事業者等が自らの健康を適切に管理するためには、その影響の程度に応じて、注文者等が必要な措置を講じることが同時に重要になる。また、個人事業者等が健康に就業することは、当該個人事業者等と継続的に業務を行う注文者等にとっては、事業継続の観点からも望ましい。

(団体等)

これらの取組を一部の積極的な事例に止めることなく、広く定着させていくため、団体等には、個人事業者等及び注文者等がこれらの取組を円滑に実施することができるよう、必要な支援を行うことが期待される。

(国)

国は、本ガイドラインに基づく取組について、個人事業者等、注文者等のほか、団体等に対しても周知啓発するとともに、個人事業者等の健康管理を支援するための取組(個人事業者等の健康管理に活用できるツールの提供、労災保険に特別加入している個人事業者等に対する産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターによる支援、団体等に対する情報提供等)を行うこととし、これらの内容について厚生労働省ホームページ等で一覧的に掲載し、随時、更新していく。

3 個人事業者等が自身で実施する事項

個人事業者等は、1及び2を踏まえ、利用可能な各種支援を活用しながら、次の事項を実施すること。

(1) 健康管理に関する意識の向上

個人事業者等は、心身の健康に配慮した働き方、生活習慣の改善等についての知識を深め、心身の健康の保持増進に努めること。
加入している医療保険者や自治体が行うセミナーのほか、労災保険に特別加入している者については産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターを活用することも一つの方法である。また、事業者が雇用する労働者の健康確保のために実施している事項を参考とすることも有効な方法である。

(2) 危険有害業務による健康障害リスクの理解

個人事業者等は、健康に影響を及ぼすおそれのある危険有害業務に従事する場合には、あらかじめ当該業務による健康障害リスクや健康障害を防止するために必要な対策についての知識を得ておくこと。

このため、当該業務に関係する安全衛生教育(労働者であれば受講が必要となる特別教育を含む。以下同じ。)を受講するとともに、請け負った危険有害業務による健康障害リスクや健康障害防止対策に関する情報の提供を注文者等に対して求めることが重要である。なお、注文者等からの情報提供については4(3)を参照すること。

(3) 定期的な健康診断の受診による健康管理

① 健康診断の受診

事業者に常時使用される労働者であれば、労働安全衛生法第66条第1項に基づき事業者が実施する一般健康診断2を受診する必要があることを参考にして、個人事業者等は、1年に1回、健康診断を受診すること。40歳から74歳までの者については加入している医療保険者が行う特定健康診査を受診することができることに留意すること。

健康診断において異常の所見が認められた場合には、精密検査や医療機関を受診するとともに、仕事のペースの見直しなど業務による健康障害を防止するために必要な措置を講じることが重要である。

また、健康診断の結果に基づいて、医療保険者が行う特定保健指導等を積極的に活用し、健康を保持するために必要な生活上の取組について指導を受けることも重要である。

② 特殊健康診断と同様の検査の受診

労働者であれば受診する必要がある労働安全衛生法第66条第2項に基づく健康診断若しくは同条第3項に基づく歯科健康診断の対象となる有害業務に常時従事する場合又はじん肺法(昭和35年法律第30号)に基づくじん肺健康診断の対象となる粉じん作業に常時従事する場合は、これらの健康診断と同様の頻度で、同様の検査項目による健康診断を受けること。

また、化学物質を取り扱う業務に関する仕事を請け負った場合には、取り扱う化学物質に関する情報、注文者等が実施したリスクアセスメント(労働安全衛生法第57条の3第1項の規定による危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)をいう。以下同じ。)の結果及び注文者等が自らが雇用する労働者に対してリスクアセスメント対象物健康診断(労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第577条の2第3項及び第4項に規定する医師又は歯科医師による健康診断をいう。以下同じ。)を実施する場合はその検査項目や頻度に関する情報を入手するように努め、入手したリスクアセスメントの結果から当該業務による健康障害リスクが許容される範囲を超えると判断されるときは、医師又は歯科医師が必要と認める項目について健康診断を受けること。

これらの健康診断(以下「特殊健康診断等と同様の検査」という。)の結果、異常の所見が認められた場合には、精密検査や医療機関を受診するとともに、仕事のペースの見直しなど当該業務による健康障害を防止するために必要な措置を講じることが重要である。

(参考1)労働安全衛生法第66条第2項に基づく健康診断の対象業務

  • 屋内における有機溶剤業務
  • 鉛業務
  • 四アルキル鉛等業務
  • 特定化学物質を製造し、又は取扱う業務
  • 高圧室内業務、潜水業務
  • 放射線業務
  • 石綿等の取扱い業務、石綿等の粉じんを発散する場所における業務

(参考2)労働安全衛生法第66条第3項に基づく歯科健康診断の対象業務

  • 塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  • なお、特殊健康診断等と同様の検査の受診に要する費用についての注文者の配慮については4(4)を参照すること。

(4) 長時間の就業による健康障害の防止

個人事業者等は、長時間の就業は脳血管疾患や虚血性心疾患の発症リスクを高めることを理解し、自らの就業時間を把握して長時間になりすぎないようにすることが重要である。その際、一般の労働者に適用される時間外労働時間の上限規制を参考にして、就業時間を調整することが望ましい。

(参考)一般の労働者3の労働時間の上限

a) 時間外労働4が年720時間以内
b) 時間外労働と休日労働5の合計が月100時間未満
c) 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1か月当たり80時間以内
d) 時間外労働が月45時間を超えることができるのは1年で6か月が限度

なお、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号。以下「改善基準告示」という。)については、旅客自動車運送事業者及び貨物自動車運送事業者においては、労働者に該当しない個人事業者等であっても、運転者の過労防止等の観点から国土交通大臣が告示で定める基準により、実質的に改善基準告示の遵守が求められることに留意する必要がある。

また、睡眠・休養の確保も含めた健康管理を行うこと。就業時間や睡眠時間を含めた日々の健康情報を管理するツールとしては、厚生労働省がインターネット上で無料配布している「マルチジョブ健康管理ツール6」を活用することも一つの方法である。

労働者の場合は、労働安全衛生法第66条の8に基づき労働時間(休憩時間は除く。)が週40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出により、当該労働者に対して医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を事業者が行い、事業者は、その結果をもとに、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、労働時間の短縮等の就業上の措置を講じることになっている(以下「長時間労働者に対する面接指導制度」という。)。

個人事業者等においても、長時間の就業によって疲労の蓄積を感じる場合は、長時間労働者に対する面接指導制度を参考に、医療機関を受診する又は医療保険者や自治体が実施している健康相談等を活用するとともに、仕事のペースの見直しなど業務による健康障害を防止するために必要な措置を講じることが重要である。

なお、労災保険に特別加入している個人事業者等については、産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターを利用することも一つの方法である。疲労の蓄積の程度については、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」(以下単に「こころの耳7」という。)に掲載している「働く人の疲労蓄積度セルフチェック8を活用して確認することもできる。

なお、注文者等が依頼等を行う業務の性質上、注文者等による注文条件等によって個人事業者等の就業時間や日々の業務量が特定されることに伴い個人事業者等の就業時間が長時間となり、疲労の蓄積が認められる場合に、注文者等が当該個人事業者等に対して医師による面談を受ける機会を提供することについては、4(1)を参照すること。

(5) メンタルヘルス不調の予防

個人事業者等は、ストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、メンタルヘルスについて日頃からセルフケアに努めること。
「こころの耳」「フリーランスの方のメンタルヘルスケア9「eラーニングで学ぶ15分でわかるセルフケア10を活用することも一つの方法である。

労働者の場合は、1年に1回、心理的な負担の程度を把握するための検査を事業者11が行い、高ストレス者に対してはその申出により、当該労働者に対して医師による面接指導を事業者が実施するとともに、その結果をもとに、事業者は、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、労働時間の短縮等の就業上の措置を講じることとなっている(以下「労働者に対するストレスチェック制度」という。)。

個人事業者等においても、労働者に対するストレスチェック制度を参考にして、自身のストレスの状況を把握できるツール(「こころの耳」に掲載している「ストレスセルフチェック12や「マルチジョブ健康管理ツール」におけるストレスチェック機能など)を活用して、定期的に、ストレスの状況を自身で確認することが重要である。

個人事業者等は、ストレスを自身で確認した結果、ストレスが高いと思われる場合は、労働者に対するストレスチェック制度を参考に、医療機関を受診する又は医療保険者や自治体が実施している健康相談等を活用するとともに、仕事のペースの見直しなど業務によるメンタルヘルス不調を防止するために必要な措置を講じることが重要である。

なお、労災保険に特別加入している個人事業者等については、産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターを利用することも一つの方法である。

(6) 腰痛の防止

個人事業者等は、長時間の座り作業や運転に従事するときは、これらの作業による腰痛を防止するため、「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号)を参考にして、作業姿勢の調整、椅子等の調整、適切な休憩の取得などに取り組むことが重要である。

(7) 情報機器作業における労働衛生管理

個人事業者等は、パソコンやタブレット端末等の情報機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業(以下「情報機器作業」という。)に従事するときは、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日付け基発0712第3号)を参考にして、作業場所の明るさやディスプレイ・入力機器の選択・調整、作業台や作業姿勢の調整、作業時間の調整、定期的な情報機器作業に関する健康診断の受診などに取り組むことが重要である。

(8) 適切な作業環境の確保

個人事業者等は、自らが作業環境を管理できる場所(自宅を含む。)で仕事をするときは、その場所の作業環境が適切なものとなるようにすること。
事務作業であれば、事務作業に従事する労働者が主として使用する事務所の衛生基準を定めた事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)を参考にして、適切な気積の確保、換気の実施、適切な温度の維持、適切な照度の確保など適切な作業環境を確保することが重要である。適切な作業環境の確保に当たっては、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日付け基発0325第2号、雇均発0325第3号の別添1)の別紙2「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」が参考になること。

また、例えば、塗装作業における有機溶剤のほか、リスクアセスメント対象物(リスクアセスメントをしなければならない労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第18条各号に掲げる物及び労働安全衛生法第57条の2第1項に規定する通知対象物をいう。以下同じ。)を取り扱う場合は、化学物質へのばく露が最小限となるように作業環境を整えることが重要である。

(9) 注文者等が実施する健康障害防止措置への協力

労働安全衛生法上の事業者13である注文者から、当該注文者が行う危険有害業務の一部を請け負う個人事業者等は、労働安全衛生法令に基づき、注文者から作業方法や保護具等に関する必要な措置について周知されたときは、周知された事項を遵守すること。

また、労働安全衛生法令に基づき注文者から周知された事項のほかにも、個人事業者等本人を含め作業現場にいる作業者の健康障害を防止する観点から、注文者等が作業現場における安全衛生上の規律を定めるなどの措置を講じる場合は、個人事業者等はこれに協力すること。

4 注文者等が実施する事項

注文者等は、1及び2を踏まえ、次の(1)から(5)までに掲げる事項を実施すること。

仲介業者やプラットフォーマー(インターネット等を活用し、利用者とサービス提供者を結び付ける仕組みや場を提供・運営する事業者をいう。以下同じ。)も、個人事業者等に仕事を注文する場合は注文者に該当する。

また、仲介業者やプラットフォーマーからは個人事業者等に仕事を注文しないが、個人事業者等が受注した仕事に関し、個人事業者等が契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて必要な干渉を行う場合は、当該仲介業者やプラットフォーマーは注文者等として、当該仕事の注文者と連携して、1及び2を踏まえ、次の(1)から(5)までに掲げる事項を実施すること。

注文者等は、個人事業者等が注文者等に対して次の(1)から(5)までに掲げる事項の実施を要請したことを理由として、個人事業者等との契約の途中解除や契約更新の拒否など、当該個人事業者等に対する不利益な取扱いをしてはならない。

なお、次の(1)から(5)までに掲げる事項については、注文者等が事業として個人事業者等に仕事を注文し、又は個人事業者等の契約内容の履行に対して必要な干渉を行う場合を念頭に置いたものであるが、注文者等が一般消費者である場合についても、その注文や干渉が個人事業者等の健康に影響を及ぼす可能性があることに変わりはないため、その旨を十分に理解した上で、注文等を行うことが重要である。

(1) 長時間の就業による健康障害の防止

注文者等が、個人事業者等への仕事の注文又は個人事業者等が受注した仕事のうち、個人事業者等が契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて必要な干渉を行う場合、労働安全衛生法第3条第3項において、仕事を他人に請け負わせる者は、「安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない」旨が定められていることを踏まえ、注文条件等によって仕事を受ける個人事業者等の就業時間が長時間になりすぎないよう配慮すること14。これには、次のような配慮が含まれる。

  • 週末発注・週初納入、終業後発注・翌朝納入等の短納期発注を抑制し、納期の適正化を図ること。
  • 発注内容の頻繁な変更を抑制すること。
  • 長時間就業が余儀なくされるような短納期での大量発注を抑制すること。
  • 発注の平準化、発注内容の明確化など発注方法の改善を図ること。
  • 個人事業者等の就業時間や日々の業務量を特定する場合には、当該就業時間や日々の業務量が過密になること、作業までの個人事業者等の待ち時間が長時間に及ぶことを抑制すること。

注文者等が依頼等を行う業務の性質上、以下のケースのように、注文者等による注文条件等によって個人事業者等の就業時間や日々の業務量が特定されることに伴い就業時間が長時間となり、疲労の蓄積が認められる個人事業者等から求めがあった場合は、長時間労働者に対する面接指導制度を参考にして、当該個人事業者等に対して医師による面談を受ける機会を提供すること。

(参考)個人事業者等の就業時間や日々の業務量が特定されるケースの例

  1. 注文者等が1日に配送すべき荷物量を指定するなど、注文者等が、日々の業務量を具体的に管理・指定しているようなケース
  2. 映画の撮影現場のように、個人事業者等の側で業務量や就業時間を自由にコントロールできないようなケース
  3. 個人事業者等が、注文者等の事業場に常駐して注文者等の労働者や他の個人事業者等と共同で一つのプロジェクトに従事するなど、個人事業者等の側で就業時間を自由にコントロールできないようなケース

ここで、機会を提供するとは、面談を行う医師の紹介や、医師による面談を受けるため、注文条件等により注文者等の側で特定している就業時間を変更することを含む。

また、個人事業者等に係る医師による面談は、注文者等による注文条件等で個人事業者等の就業時間や日々の業務量が特定されていることに起因して、当該個人事業者等の就業時間が長時間となり、疲労が蓄積したことによるものであるから、医師による面談に要する経費は、発注した仕事に必要な経費として、注文者等で負担することが望ましい。

「長時間」については、長時間労働者に対する面接指導制度において労働時間(休憩時間は除く。)が週40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超えた者を対象としていることが参考になること。本ガイドラインは、個人事業者等の日々の就業時間を把握することを注文者等に求めるものではないが、個人事業者等から医師による面談の求めがあった場合に、注文者等として個人事業者等の就業実態を具体的に確認することを妨げるものでもない。個人事業者等から医師による面談の求めがあった場合に、個人事業者等の疲労の蓄積の程度を注文者等が確認したいときは、個人事業者等から同意を得て、「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」の結果その他の疲労の蓄積の程度に関する情報を入手することが考えられる。

個人事業者等から、医師による面談の結果をもとに、注文者等による注文条件等によって特定されている就業時間や日々の業務量について変更を求められた場合は、必要な配慮を行うように努めること。この場合において、注文者等が、必要な配慮を検討する上で必要な範囲で、個人事業者等から同意を得て、医師による面談の結果を取得することは考えられる。
上記の場合のほか、注文者等による注文条件等に起因して個人事業者等の就業時間が長時間となった場合などで、個人事業者等から健康確保に関する相談を受けた場合は、相談に応じ、必要な配慮を行うように努めること。

注文者等は、個人事業者等から取得した「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」の結果その他の疲労の蓄積の程度に関する情報、医師による面談の結果及び個人事業者等からの健康確保に関する相談内容について情報管理を徹底するとともに、必要な配慮の検討以外の目的に利用してはならない。また、これらの情報をもとに個人事業者等に対して不利益な取扱いをしてはならない。

(2) メンタルヘルス不調の予防

注文者等は、個人事業者等のメンタルヘルス不調を予防する観点からも、(1)の事項を実施すること。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第14条では、同法第2条第6項に規定する特定業務委託事業者は、同条第2項に規定する特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備などの措置を講じるよう規定されている。

同法の施行後においては、注文者が特定業務委託事業者であり、個人事業者等が特定受託業務従事者である場合は、同法第14条に基づく措置を講じる必要がある。

また、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)第11条第4項に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)の7、同法第11条の3第3項に基づく「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成28年厚生労働省告示第312号)の6及び労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第30条の2第3項に基づく「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)の6では、個人事業主を含む労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組が規定されている。

これらのハラスメントに関する措置義務や望ましい取組に基づき、個人事業者等のメンタルヘルス不調への対応に取り組むこと。

(3) 安全衛生教育や健康診断に関する情報の提供、受講・受診機会の提供等

注文者等は、個人事業者等に対して、安全衛生教育や健康診断に関する情報の提供、受講・受診機会の提供について配慮すること。

受講・受診機会の提供については、安全衛生教育を行っている教習機関や健康診断を行っている機関の紹介、契約から仕事の開始までの間での受講や受診のための時間の確保又は注文条件等により特定されている就業時間について受講や受診のための配慮を行うほか、注文者等が労働者に対して安全衛生教育を行う際や健康診断を行う際に個人事業者等も対象に含めて実施することが考えられる。

なお、健康診断結果を踏まえた健康管理は個人事業者等が自ら行うものであり、本ガイドラインは、個人事業者等の健康診断結果の取得を注文者等に求めるものではない。

注文者等は、個人事業者等が安全衛生教育・健康診断を適切に受講・受診できるよう、自らも行う仕事の一部を個人事業者等に注文する場合や個人事業者等に注文する仕事の安全衛生について次の事項を把握している場合は、これらを情報提供すること。

  • 注文する危険有害業務の内容、当該業務による健康障害リスクや健康障害防止対策に関する情報
  • 注文する危険有害業務を行う際、労働者であれば受講が必要となる特別教育や受講することが望ましい安全衛生教育
  • 注文する危険有害業務を常時行う際、労働者であれば受診が必要となる特殊健康診断等(労働安全衛生法第66条第2項に基づく健康診断、同条第3項に基づく歯科健康診断、じん肺法に基づくじん肺健康診断及びリスクアセスメント対象物健康診断をいう。以下同じ。)や受診することが望ましい健康診断

特に、リスクアセスメント対象物を注文者等の事業場等で労働者と一緒に取り扱う業務を個人事業者等に注文する場合は、当該業務に係るリスクアセスメントの結果、当該リスクアセスメントの結果に基づき注文者等が講ずるリスク低減措置(当該注文者等が元方事業者等からリスクアセスメント結果や当該リスクアセスメント結果に基づくリスク低減措置に関する情報の提供を受けている場合には当該情報を含む。)やリスクアセスメント対象物健康診断を注文者等が労働者に対して実施する場合にはその検査項目や頻度も情報提供に含めること。

注文者等は、リスクアセスメント対象物を個人事業者等に提供する場合は、労働安全衛生法第57条に基づき、ラベルが表示されているかを確認するとともに、同法第57条の2に基づき、安全データシート(SDS)を交付すること。

個人事業者等に自らも行う危険有害業務の一部を請け負わせる注文者(労働安全衛生法上の「事業者」である者に限る。)は、労働安全衛生法令の規定に基づき、当該個人事業者等に作業方法や保護具等に関する必要な措置について周知すること。

個人事業者等が作業を行う場を統括する者(建設工事の元方事業者や製造工場の事業者など)は、個人事業者等が作業場に入場する際等に、業務に関連して必要となる安全衛生教育や特殊健康診断等と同様の検査の受講・受診の有無を確認することなどにより、その受講・受診の促進を図ることが望ましい。当該確認については、場を統括する者が直接行う方法以外にも、協力会社などに委任する方法も考えられる。

(4) 健康診断の受診に要する費用の配慮

① 特殊健康診断等と同様の検査の受診に要する費用

労働安全衛生法第3条第3項においては、仕事を他人に請け負わせる者は、「安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない」旨が定められており、これには請負金額の費目等が含まれることを踏まえ、注文者は、労働者であれば特殊健康診断等が必要となる危険有害業務を個人事業者等に注文する場合には、個人事業者等が特殊健康診断等と同様の検査を受診するのに要する費用の全部又は一部を負担するよう配慮すること。

個人事業者等が特定の一者の注文者からのみ注文を受けて、労働者であれば特殊健康診断等が必要な業務を常時行っている場合で、当該注文に係る仕事の契約期間が6月以上である場合(6月未満の契約を繰り返して締結し、各々の契約期間の終期と始期の間の短時日の間隔を含めて通算することで6月以上となっている場合を含む。)には、当該期間において個人事業者等が特殊健康診断等と同様の検査を受診するのに要する費用の全額を当該注文者が負担すること。

また、個人事業者等が特定の一者の注文者から受注した仕事の契約期間が上記のように通算して6月以上とはならない場合であっても、個人事業者等が一又は複数の注文者から注文を受けて、労働者であれば特殊健康診断等が必要な業務を常時行っている場合は、例えば、特殊健康診断等と同様の検査を受診するための費用を日単位に分割し、これに注文を受けた仕事に要した実働日を乗じた額をそれぞれの注文者に請求することも考えられるが、個人事業者等からこのような請求があった場合には誠実に応じることが望ましい。

② 一般健康診断と同様の検査の受診に要する費用

注文者が個人事業者等に注文する際又は注文後において、当該仕事に要する個人事業者等の作業時間が契約期間で平均して1週間につき40時間程度となることが見込まれ、かつ、期間が1年以上である契約又は一つの契約期間が1年に満たなくても、更新等により、繰り返し契約を締結し、各々の契約期間の終期と始期の間の短時日の間隔を含めて通算することで1年以上となる契約である場合には、当該個人事業者等が一般健康診断と同様の検査を受診するのに要する費用を当該注文者にて負担することが望ましい。

なお、40歳から74歳までの個人事業者等は加入している医療保険者が行う特定健康診査を受診することができるため、注文者等において個人事業者等が一般健康診断と同様の検査を受診するのに要する費用を負担する必要はない。

(5) 作業場所を特定する場合における適切な作業環境の確保

注文する仕事の性質により、個人事業者等の就業場所を注文者等が特定する場合、当該注文者等は、労働安全衛生規則及び事務所衛生基準規則を参考にして、当該場所について、適切な気積の確保、換気の実施、適切な温度の維持、適切な照度の確保、便所の設置など適切な作業環境を確保すること。

注文者等が当該場所を管理していない場合においては、当該場所を管理又は貸与する者に、これらの措置が講じられていることを確認するとともに、適切な作業環境を確保するための措置がなされていない場合は、就業場所を変更すること(仕事の性質上可能な場合に限る。)や当該場所を管理又は貸与する者に申し入れて作業環境を改善することなどの措置を講じることが望ましい。

また、注文者等が労働安全衛生法上の「事業者」に該当する場合には、例えば、自らも行う有機溶剤業務等の一部を個人事業者等に請け負わせた場合は、注文者は、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)等に基づき、個人事業者等だけが作業を行う時でも、局所排気設備など設備を稼働させる又は設備の使用を許可する等の配慮を行わなければならない等の規定があることに留意すること。

5 団体等に期待される取組

団体等には、個人事業者等及び注文者等が、それぞれの立場で3及び4の取組を円滑に実施することができるよう、必要な支援を行うことが期待される。

これには、本ガイドラインの内容を個人事業者等及び注文者等に周知して、その実施を促すことのほかに、例えば、個人事業者等に対して、心身に配慮した働き方や生活習慣の改善に関する情報、業務による健康障害リスクや健康障害を防止するために必要な対策に関する情報や安全衛生教育を行っている教習機関や健康診断を行っている機関に関する情報を提供すること、個人事業者等を対象とした安全衛生教育を自ら行うことやメンタルヘルスを含む健康相談に対応することが考えられる。

また、本ガイドラインは、個人事業者等及び注文者等が行うべき基本的な事項を示したものであるが、個人事業者等の活動の場は様々な業種・職種にわたる。本ガイドラインでは、必ずしも業種・職種に特有の実情や商慣習を踏まえた具体的な取組内容までは記載していないため、本ガイドラインを参考に、それぞれの業種・職種の実情や商慣習に応じた具体的内容や追加事項を示した業種・職種別ガイドラインを必要に応じて策定することが推奨される。なお、業種・職種別ガイドラインの検討に当たっては、個人事業者等及び注文者等双方の意見を十分に踏まえたものとすることが望ましい。

1 判断基準については、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日。内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)の第5を参照すること。

労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。労働基準法上の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は、この規定に基づき、以下の2つの基準で判断されることとなる。

  • 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
  • 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか

2 労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目

・ 既往歴及び業務歴の調査
・ 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
・ 胸部エックス線検査及び喀痰検査・血圧の測定
・ 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
・ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GPT)
・ 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
・ 血糖検査
・ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
・ 心電図検査

3 新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されている。建設事業については災害の復旧・復興の事業に関しては、b)とc)は適用されない。また、自動車運転の業務についてはa)の時間外労働は年960時間以内、b)からd)までは適用されない。医師については、別に上限規制の定めがある。

4 1日8時間及び1週40時間を超えた労働時間

5 労働基準法では、休日は原則として、毎週少なくとも1回与えることとされている。この法定休日に労働をさせた場合が休日労働にあたる。

6 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

7 https://kokoro.mhlw.go.jp/

8 https://kokoro.mhlw.go.jp/fatigue-check/worker.html

9 https://kokoro.mhlw.go.jp/freelance/

10 https://kokoro.mhlw.go.jp/e-learning/selfcare/

11 常時使用する労働者が50人以上の事業場については義務、それ以外の事業場については当分の間努力義務となっている。

12 https://kokoro.mhlw.go.jp/check/
個人事業者等が「ストレスセルフチェック」を活用する際は、「フリーランスの方のメンタルヘルスケア」に掲載している「個人事業者等の方向けストレスチェック調査票」を参照すること。

13 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。

14 自営型テレワーク(注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいう(法人形態により行っている場合や他人を使用している場合等を除く。)。)については、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(平成30年2月2日付け雇均発0202第1号)において、「成果物の納期(役務の提供である場合は、役務が提供される期日又は期間)については、自営型テレワーカーの作業時間が長時間に及び健康を害することがないように設定すること。その際には、通常の労働者の1日の所定労働時間の上限(8時間)を作業時間の上限の目安とすること。」とされている。

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個人事業者等の健康管理に関するガイドラインの策定について(基発0528第1号 令和6年5月28日)

都道府県労働局長殿

厚生労働省労働基準局長

事業者が作業を請け負わせる一人親方等や同じ場所で作業を行う労働者以外の者の安全衛生対策については、「建設アスベスト訴訟」の最高裁判決(令和3年5月17日)において、有害物等による健康障害の防止措置を事業者に義務付ける労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)第22条の規定は、その保護対象が労働者と同じ場所で働く労働者以外の者にも及ぶと判示されたことを受けて、安衛法第22条に基づいて定めている「有害性」に係る関係省令の規定について、労働者以外の者についても必要な保護の対象とするための改正を行ったところである(令和5年4月1日施行)。

また、上記改正省令について検討を行った労働政策審議会安全衛生分科会において、安衛法第22条以外の規定について労働者以外の者に対する保護措置のあり方、注文者による保護措置のあり方、個人事業者自身による事業者としての保護措置のあり方などを別途検討の場を設けて検討することとされたことから、令和4年5月から令和5年10月まで「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」を開催し、令和5年10月27日に報告書を公表したところである。

今般、同報告書で提言された個人事業者等の過重労働、メンタルヘルス、健康確保等の対策をもとに、労働政策審議会安全衛生分科会での議論を経て、個人事業者等が健康に就業するために、個人事業者等が自身で行うべき事項、個人事業者等に仕事を注文する注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項等を周知し、それぞれの立場での自主的な取組の実施を促す目的で、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」を別添のとおり策定したので、関係者への周知・啓発に取り組まれたい。

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