特集/個人事業者等の安全衛生対策●個人事業者等も保護対象-有害性だけでなく危険性も-4省令改正と健康管理ガイドライン

目次

最高裁判決踏まえた第2弾

2024年4月30日に、「個人事業者等に対する安全衛生対策関係」に関する「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第80号)」が公布され、2025年4月1日から施行されることになった。2024年4月30日付け基発0430第4号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について」が示されている(「施行通達」の内容は、以下でほぼすべて紹介している)。

ここに至る直接の経過は下記のとおりであるが、今回の省令改正は、2021年5月17日の「建設アスベスト訴訟最高裁判決」を踏まえた個人事業者等に対する安全衛生対策見直しの第2弾となる。

第1弾は、2年前の2022年4月15日に公布され、2023年4月1日から施行されている「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第82号)」(「令和4年省令」)である。さらに追加として、2023年3月30日に「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第38号)」が公布され、公布日から施行。また、2023年4月21日に「有機溶剤中毒予防規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第69号)」が公布され、公布日、2023年10月1日及び2024年4月1日から施行されている。

第1弾の内容は、2022年6月号で解説しているが、最高裁判決において、労働安全衛生法(「法」)第22条(事業者による健康障害防止措置)は、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨との判断がされたことが契機となったもので、主な内容は以下のとおりであった。

① 労働者以外の者にも危険有害な作業の一部を請け負わせる場合は、請負人(一人親方、請負業者)に対しても、労働者と同等の保護措置を実施
・ 設備の稼働に関する配慮義務
・ 保護具使用の必要性に関する周知義務
・ 作業方法に関する周知義務
・ 汚染の除去等に関する周知義務、等

② 同じ作業場所にいる労働者以外の者(他の作業を行っている一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員など、契約関係は問わない)に対しても、労働者と同等の保護措置を実施
・ 特定の場所への立入禁止等義務
・ 特定の場所での喫煙及び飲食の禁止義務
・ 有害物の有害性等に関する掲示義務
・ 事故発生時の退避させる義務、等

「建設業等の事業場で就業する一人親方等については、従来、労働安全衛生法に基づく措置の対象としていなかったが、令和4年省令により、法第22条等の規定に基づく措置の対象とされたところであり、これに加え、[今回の令和6年]改正省令においては、新たに法第20条及び第21条等の規定に基づく措置の対象とするものであることから、令和4年省令と併せて、関係団体とも十分に連携の上、その周知・施行に遺漏なきを期されたい」とされている(施行通達前文)。

令和4年省令の施行に当たり厚生労働省はそのウエブサイト上に「個人事業者等の安全衛生対策について」のページを新設したが、今回の令和6年省令改正関係の資料は5月16日に追加された。

「令和4年省令は、…法第22条を根拠とする省令の条文について改正するために制定したものであるが、この省令について検討を行った労働政策審議会安全衛生分科会において、法第22条以外の規定について労働者以外の者に対する保護措置のあり方、注文者による保護措置のあり方、個人事業者自身による事業者としての保護措置のあり方などについて、別途検討の場を設けて検討することとされた」(施行通達「第1 改正の趣旨」)。

検討会による対策の検討

「これを受け、令和4年5月から令和5年10月まで『個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会』が開催され、令和5年10月27日に報告書が公表された」(同前)。

検討会資料:www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00010.html

まず、検討会報告書による「個人事業者等を取り巻く安全衛生上の現状と課題」を4~5頁を以下に紹介しておく。

個人事業者等を取り巻く安全衛生上の現状と課題
<個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会報告書>

個人事業者等による業務上災害の発生状況、就業環境や健康管理などの安全衛生上の課題、仕事を注文する者による対策等に関する現状と課題について、各種調査や関係団体からのヒアリング等も踏まえ、以下を共通認識とした。

(1) 個人事業者等による業務上災害の状況について、労災保険の特別加入者の災害状況についてみると、特別加入制度の対象が特定の規模、事業、作業に限定されているなど、災害発生率等を労働者と一概に比較することができないものの、特定の事業等において災害発生率は労働災害の場合と比較して高くなっている場合がある(第1回検討会資料3「個人事業者等に関する業務上の災害について」)。
また、脳・心臓疾患、精神障害についても毎年発生しており、過去11年間について見ると、脳・心臓疾患については年間10件前後、精神障害については年間3件前後となっている(第2回検討会資料5-4「特別加入者に係る脳心・精神事案の分析結果(安衛研研究)」)。
さらに、建設業で働く一人親方等の死亡災害(都道府県労働局・労働基準監督署が把握したもの)については、年間80~100件程度発生しており(第1回検討会資料4「建設業における一人親方等に係る災害分析」)、その災害内容についてみると、労働者の死亡災害に見られるのと同様の作業中に発生しているものや、類似した原因によるものも少なくない(第2回検討会資料3-1「建設業の一人親方の災害事例(死亡災害)について」)。
個人事業者等の業務上災害については、上記のとおり一部については把握出来ているものの、網羅的に把握する仕組みがなく、対策の企画・立案に当たっては、災害把握のための仕組みの構築が必要不可欠な状況となっている。

(2) 個人事業者等の就業場所についてみると、約29%が主に「自宅・自オフィス以外の場所」となっており、企業や自治体等の事務所のほか、建設現場や運輸・配送の現場など、他の労働者との混在作業が行われる可能性のある場所で就業している状況となっている(第2回検討会資料3-6「フリーランスアンケート(危険有害作業、過重・メンタル・健診関連)」)。

(3) 個人事業者等が行う作業についてみると、重量物取扱作業や粉じん作業、有機溶剤取扱作業、化学物質取扱作業など、様々な危険・有害作業に従事しているが、一方で、有害物質についての教育または説明を受けた割合は約28%程度となっており(同前)、特殊健康診断の受診率も極めて低調な状況となっている(同前)。

(4) 個人事業者等の健康管理状況についてみると、市町村で実施している健康診査等も含めた健康診断を受けていない者の割合が約35%に上る5ほか、調査対象業種全体で見ると、週の就業時間が60時間を超える割合は労働者と比較して高い傾向にあり(第2回検討会資料5-5「自営業者の就業時間・メンタルヘルスの実態(みずほ委託研究)」)、業務に関連したストレスや悩みがある者が約43%となっている(同前)。それにもかかわらず、医師による面接指導を受けたことがない者の割合(約97%)やストレスチェックを受けたことがない者の割合(約85%)は極めて高くなっている(前出第2回検討会資料3-6)。

(5) 個人事業者等が仕事を請け負った発注者からの指示の状況についてみると、現場での作業内容や作業条件等が明示されないまま発注され、現場に行ってから具体的な作業指示がなされる場合や、契約や予定にない作業が依頼される場合があるといった状況にある(前出第2回検討会資料3-6)。
また、個人事業者等の中には、形式上は請負契約に基づいて就業しているが注文者から様々な指示や制約を受けながら就業するいわゆる「偽装フリーランス」と呼ばれる者も少なからず存在するのではないかとの指摘が参集者からあった。
更に、重層下請で作業が行われる現場においては、元方事業者が関係請負人の労働者や個人事業者等に対して安全衛生確保の観点から行う指導・指示が「指揮命令」に該当するのではないかとの懸念から、必要な指導・指示を躊躇しているといった状況がある(第4回検討会資料4「日本化学工業会へのヒアリング結果とりまとめ資料(事務局作成)」)。

(6) フードデリバリーの配達員やイーコマースの商品配送員に代表されるように、必ずしも請負関係にないプラットフォーマーを介して業務を行う就業形態が増えているが、プラットフォーマーには様々な形態があり、個人事業者等が行う業務への関与の度合いも異なることから、誰が、どのような役割分担の下、作業者の安全衛生を確保すべきかが明確となっていない状況にある。

検討会は、「労働者と同じ場所で就業する者や、労働者とは異なる場所で就業する場合であっても、労働者が行うのと類似の作業を行う者については、労働者であるか否かにかかわらず、労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであるという基本な考え方」のもと、「危険有害作業に係る個人事業者等の災害を防止するための対策」-個人事業者自身、注文者等による対策(論点1)及び事業者による対策(論点2)、また、③「危険有害作業以外の個人事業者等対策(過重労働、メンタルヘルス、健康管理等)」(論点3)の3つの論点に分けて検討を行ったとし、また、「対策の検討に当たっての基本的な考え方」を以下のように示している。

〇労働者と同じ場所で就労する者は、労働者以外の者であっても同じ安全衛生水準を享受すべきであり、その実現のため以下の対策を講じる。
① 作業場所を管理する者(事業者)が当該場所で就労する者を保護する。
② 労働者と同じ場所で就労する者(個人事業者、その他の作業者)は、自身の安全衛生確保に加え、同じ場所で就労する者に危害が生じないよう、必要な事項を実施する(上記①に対応した措置等)。
→最高裁判決で示された判断に整合した内容

〇個人事業者が労働者とは異なる場所で就労する場合であっても、労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであり、その実現のため以下の対策を講じる。
① 個人事業者らは、作業に伴う安全衛生や自身の健康を確保する。
→新たな視点(安衛法の枠組みを超えるため、ガイドライン等で推奨)
② 注文した仕事に係る作業場所や作業方法から生ずる災害リスクを管理することが可能である注文者が災害リスクに応じた措置を講ずる。
→安衛法の既存の枠組みで対応

※上記以外にも、安衛法の既存の枠組みの拡充(統括管理の対象拡大、機械等貸与者による措置の対象機械拡大等)やガイドラインの策定も検討

表1は、厚生労働省による「検討会報告書の概要」である。報告書は、「このうち、制度や仕組みを見直すこと及び取組を進めることが適当とされた事項については、厚生労働省において速やかに、必要な法令改正、予算措置等を行うべきである。また、これらの措置等については、当該措置等を実施する中で、措置等の改善が必要となれば見直しを行う等、個人事業者等における安全衛生の確保に向け、不断の見直しを行うべきである」とした。

安全衛生部会による検討等

舞台を移して、労働政策審議会安全衛生分科会では、同年11月17日の第157回分科会に同検討会報告書が報告された後、12月13日の第158回分科会に「『個人事業者等の健康管理に関するガイドライン』の基本的な考え方等(案)」、2024年2月21日の第159回分科会に「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン(素案)」及び「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案の概要(個人事業者等に対する安全衛生対策関係)」、3月21日の第160回分科会に「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案要綱」、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン(案)」、「個人事業者等の健康管理に関する国の取組について」が示されて、改正省令案要綱については即日、「妥当と認める」と報告されて、審議会から厚生労働大臣に対してその旨答申された。

2024年1月17日には、「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案(概要)」が示されて、2月15日を締め切りに意見募集(パブリックコメント手続)が行われ、4月30日に結果が公示された。

実際、検討会報告書が示した対策のうち、今回の省令改正に当たって安全衛生部会で具体的に検討されたのは、論点2「危険有害作業に係る個人事業者等の災害を防止するための対策②(個人事業者等に作業の一部を請け負わせる事業者による対策)として掲げられた【個人事業者等に対する「退避」や「立入禁止等」などの措置】(法第20条、第21条、第25条関係)及び【個人事業者等に対する「保護具」や「作業方法」の周知】(法第20条、第21条関係)だけであった。法第20条及び第21条はともに事業者による危険防止措置、法第25条は退避措置に関する規定である。

検討会報告書自体が、前者については、「…『有害性』と『危険性』で対応に差を設ける合理性はないため、法第22条以外の条文に関しても、速やかに所要の省令改正を行うこととする」(「法第22条に基づいて定められている『有害性』に係る関係省令の規定については改正・措置ずみ」)。また、後者については、「①新たに創設する災害報告制度に基づき、個人事業者等による災害実態を把握し、法第20条、第21条に基づく個々の規制(立入禁止等に関するものを除く)について、改正の必要性を精査の上、必要性が認められるものについて所要の改正を行う」、「②上記①には一定の期間を要することから、所要の改正が行われるまでの間、ガイドライン等により、事業者に対して『保護具』や『作業方法』の周知を推奨する」等としていた。

他方で、安全衛生部会は、論点3「危険有害作業以外の個人事業者等対策」として掲げられた「個人事業者等の過重労働、メンタルヘルス、健康確保等の対策」をもとに、個人事業者等自身及び注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項等を示した「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」についての検討も行った。

表2「検討会の報告結果を踏まえた検討状況」は後に再度ふれるが、2024年4月26日の第161回安全衛生分科会に示されたものである。

改正省令施行通達の「第1 改正の趣旨」を続けると、「同報告書において、『法第25条に基づく「災害発生時の作業場所からの退避」や法第20条、第21条に基づく「立入禁止等」については、ある作業場所の管理権原に着目した措置であり、雇用関係や請負関係にかかわらず、当該場所で作業に従事する者を対象として、事業者に措置義務を課していることを踏まえれば、「有害性」と「危険性」で対応に差を設ける合理性はないため、法第22条以外の条文に関しても、速やかに所要の省令改正を行うこととする』とされたことを踏まえ、改正省令においては、労働者と同じ場所で働く労働者以外の一人親方等に対しても、労働者と同等の保護措置を図る観点から、法第27条の規定に基づく法第20条及び第21条に係る労働安全衛生規則(「安衛則」)、ボイラー及び圧力容器安全規則(「ボイラー則」)、クレーン等安全規則(「クレーン則」)及びゴンドラ安全規則(「ゴンドラ則」)の規定を改正するものである」。

以下、改正省令施行通達によって、「第2 改正の概要-1 改正の要点、2 留意事項」、「第3 細部事項-1 各省令に共通する事項、2 省令ごとの特記事項(共通事項以外)」、及び、「第4 今回改正を行っていない事項」の内容を示す。

省令改正の概要-改正の要点

機械等による危険、特定の業務における作業方法から生ずる危険及び特定の場所に係る危険を防止するため、法第20条及び第21条等の規定に基づく4省令[安衛則、ボイラー則、クレーン則及びゴンドラ則]を改正し、当該危険に係る業務又は作業を行う事業者に対して、

・ 当該危険に係る業務又は作業を行う場所において、他の作業に従事する一人親方等の労働者以外の者に対しても労働者と同等の保護措置を講ずる義務(ただし、場所の管理権原に基づく立入禁止や退避等に係るものに限る。)を課す

こととし、具体的には次の(1)及び(2)のとおりとしたこと。

なお、今回の改正により、これまで労働者に対する義務が生じていた内容に変更が生じるものではないこと。

(1) 場所に関わる危険の防止(立入禁止、退避等)に係る規定の改正

ア 特定の場所への立入禁止等の対象拡大(改正安衛則第128条第1項、第151条の7第1項、第151条の9第1項、第151条の48第2項、第151条の62第2項、第151条の70第2項、第151条の95、第151条の96、第151条の97第1項、第151条の140、第151条の142、第151条の164、第151条の166、第158条第1項、第164条第3項第3号、第171条の2第3号、第171条の6第1号、第180条第3項第2号、第187条、第194条の6第1号、第205条第2号、第224条、第245条第1号、第274条の2第2項、第288条、第312条第2号、第313条第3号、第361条、第365条第1項、第372条第1号、第386条、第389条の8第2項、第411条、第415条、第416条第1項、第420条第2項、第433条、第452条、第453条、第461条、第478条第1項、第481条、第517条の3第1号、第517条の7第1号、第517条の11第1号、第517条の15第1号、第517条の21第1号、第530条、第532条の2、第552条第2項第2号、第563条第3項第2号、第564条第1項第2号、第575条の6第2項第2号及び第575条の7第2号、改正ボイラー則第29条第1号、改正クレーン則第28条、第29条、第33条第1項第2号、第74条、第74条の2、第75条の2第1項第2号、第114条、第115条、第118条第1項第2号、第153条第1項第2号、第187条及び第191条第1項第2号並びに改正ゴンドラ則第18条関係関係)

事業者は、危険が発生するおそれがある場所には、必要がある労働者を除き、労働者が立ち入ることを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示する義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、必要がある者を除き、当該場所で作業に従事する者が立ち入ることを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示しなければならないこととしたこと。

イ 特定の箇所への搭乗禁止の対象拡大(改正安衛則第116条第1項、第151条の13、第151条の50第1項、第151条の51第3項及び第4項、第151条の72第1項、第151条の73第3項及び第4項、第151条の81第1項、第151条の101、第151条の105第1項、第151条の119第1項、第151条の144第1項及び第2項、第151条の168第1項及び第2項、第162条、第194条の15、第194条の20第1項、第221条並びに第223条、第531条並びに改正クレーン則第26条、第27条第1項及び第2項第3号、第72条、第73条第1項及び第2項第3号、第112条、第113条第1項、第186条第1項並びに第207条第1項関係)

事業者は、車両系荷役運搬機械等の乗車席以外の箇所など危険な箇所に労働者を搭乗させてはならないとされているところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含め、危険な箇所に搭乗することを禁止しなければならないこととしたこと。

ウ 事故等発生時の退避の対象拡大(改正安衛則第150条の3第2号、第150条の5第2号、第274条の2第1項、第321条、第322条第2号、第389条の7、第389条の8第1項、第479条第2項及び第3項、第517条の16第2項及び第3項、第575条の12並びに第575条の13並びに改正ボイラー則第19条関係)

事業者は、特定の事故等が発生し、労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは、事故等が発生した場所から労働者を退避させる義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者を退避させなければならないこととしたこと。

エ 退避に関連する措置の対象拡大(改正安衛則第24条の6、第389条の10、第389条の11第1項、第575条の14第1項、第575条の15第1項及び第575条の16第1項関係)

事業者は、退避に関連する措置として、避難用器具などについて労働者の人数分以上の備付けや労働者に対する備付け場所及び使用方法の周知、退避等の訓練の実施などの義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、措置を講じなければならないこととしたこと。

オ 特定の場所での火気使用の禁止の対象拡大(改正安衛則第312条第3号、第313条第4号、第318条第3項及び第321条の2第1号関係)

事業者は、特定の場所においては、労働者が喫煙など火気を使用することを禁止する義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者が喫煙など火気を使用することを禁止しなければならないこととしたこと。

カ 悪天候時の作業禁止の対象拡大(改正安衛則第151条の106、第151条の145、第151条の170、第245条第2号、第483条及び第522条並びに改正クレーン則第33条第1項第3号、第75条の2第1項第3号、第118条第1項第3号、第153条第1項第3号及び第191条第1項第3号関係)

事業者は、悪天候のため特定の作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならないとされているところ、労働者以外の者も含めて、悪天候時に当該作業を行わせてはならないこととしたこと。

キ 表示による必要事項の周知の対象拡大(改正安衛則第273条関係)

事業者は、化学設備(配管を除く。)に原材料を送給する作業による爆発又は火災を防止するため、必要な事項について労働者が見やすい位置に表示する義務があるところ、労働者以外の者も含めて、見やすい位置に表示しなければならないこととしたこと。

(2) 労働者以外の者による立入禁止等の遵守義務に係る規定の整備

ア 労働者以外の者による立入禁止の遵守義務の対象拡大(改正安衛則第128条第2項、第416条第2項関係)

労働者は、立入りが禁止された場所には立ち入ってはならないとされているところ、(1)アにより新たに立入禁止の対象とされた労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、立入りが禁止された場所には立ち入ってはならないこととしたこと。

イ 労働者以外の者による特定の設備使用の遵守義務の対象拡大(改正安衛則第101条第5項、第151条の45第2項、第151条の67第2項、第427条第2項、第449条第2項、第526条第2項及び第551条第2項関係)

労働者は、特定の場所では踏切橋や昇降するための設備などを使用しなければならないとされているところ、労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、当該設備を使用しなければならないこととしたこと。

ウ 労働者以外の者による搭乗禁止の遵守義務の対象拡大(改正安衛則第116条第2項、第151条の50第2項、第151条の51第5項及び第6項、第151条の72第2項、第151条の73第5項及び第6項、第151条の81第2項、第151条の105第2項、第151条の119第2項、第151条の144第3項、第151条の168第3項並びに第194条の20第2項並びに改正クレーン則第186条第2項及び第207条第2項関係)

労働者は、車両系荷役運搬機械等の乗車席以外の箇所など危険な箇所に搭乗してはならないとされているところ、(1)イにより新たに搭乗禁止の対象とされた労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、搭乗してはならないこととしたこと。

エ 労働者以外の者による火気使用禁止の遵守義務の対象拡大(改正安衛則第279条第2項、第291条第2項及び第318条第4項関係)

労働者は、特定の場所では火気を使用してはならないとされているところ、(1)オにより新たに禁止対象とされた労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、火気を使用してはならないこととしたこと。

省令改正の概要-留意事項

(1) 重層請負関係にある場合の措置義務者とその対象者

改正省令により、事業者は、機械等を使用するなど特定の業務又は作業により危険が生じる場所について、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて立入禁止等の義務が新たに課されるが、これらの義務は、当該業務又は作業を行う全ての事業者が義務を負うものであること。ただし、第3の1の(1)イ(エ)にあるとおり、当該業務又は作業を複数の事業者が共同で行っている場合等、同一場所についてこれらの義務が複数の事業者に課されるときは、立入り等の禁止の表示を事業者ごとに複数行う必要はなく、当該複数の事業者が共同で表示を行っても差し支えないこと。

(2) 改正省令における請負人の定義

改正省令に規定する請負人には、労働者を使用しない個人事業者(建設業のいわゆる「一人親方」も含む。以下同じ。)も含まれること。

(3) 業務又は作業の全部を請負人に請け負わせる場合の取扱い

改正省令により、事業者は、自らが行う特定の業務又は作業に伴う危険を防止するため、労働者以外の作業に従事する者に対して立入禁止等の措置を講ずることが新たに義務付けられることとなるが、当該業務又は作業を自らは行わず、当該業務又は作業が行われる場所の管理も含め、そのすべてを請負人に請け負わせているような場合については、当該請け負わせた業務又は作業については事業者としての立場は有さず、法第20条及び第21条等の適用対象とはならない(当該業務又は作業の注文者という立場となる)ことから、改正省令により新たに課される義務の対象とはならないこと。

(4) 措置の対象となる作業場所の範囲

改正省令により、事業者は、特定の業務又は作業を行う場所について、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて立入禁止等の措置を講ずる義務が新たに課されるが、これら立入禁止等の義務が及ぶ場所の範囲は、当該業務又は作業が行われている一定の区切られた範囲(当該業務又は作業の影響が直接的に及ぶと考えられる合理的な範囲)であること。

なお、当該範囲は、今回の改正により、これまで労働者に対する義務が生じていた範囲と、異なるものではないこと。

(5) 元方事業者の講ずべき措置

改正省令は、法第27条に基づき法第20条及び第21条等に係る事業者の講ずべき措置を定めたものであり、元方事業者に係る措置義務等は新設されていない。

しかしながら、法第29条第1項においては、関係請負人が法やそれに基づく命令(改正省令により改正された4省令を含む。)の規定に違反しないよう必要な指導を行わなければならないこと、同条第2項においては、違反していると認めるときは是正のために必要な指示を行わなければならないこととされており、改正省令により義務付けられた措置を関係請負人が行っていない場合には、当該指導又は指示の対象となるものであること。
おって、個人事業者は、法第29条第1項又は第2項の「関係請負人の労働者」には該当しないこと。

細部事項-各省令共通事項

(1) 場所に関わる危険の防止(立入禁止、退避等)に係る規定の改正

ア 改正の趣旨

(ア) 事業者は、労働者に対して、特定の場所への立入禁止、特定の箇所への搭乗禁止、事故等発生時の退避、退避に関連する措置、特定の場所での火気使用の禁止、悪天候時の作業禁止、表示による必要事項の周知を行う義務があるところ、これらの措置は、場所の危険性の観点から危険防止を図るための措置として義務付けられているものである。このため、労働者以外の者であっても、当該場所で作業に従事する者には等しく適用されるべきものであることや、これらの措置は指揮命令に基づくものではなく、当該場所を実態として使用・管理している者の権原に基づいて行うものであることから、労働者以外の者も、これらの措置義務の対象に追加したものであること。

(イ) 立入禁止又は火気使用の禁止の方法としては、必ずしも事業者が常時監視する必要はなく、禁止する旨を見やすい箇所に表示する方法も認められるところ、改正省令により、改めて表示による禁止も含まれることを条文上明示したこと。なお、これは表示による禁止も可能であることを改めて条文上明示したに過ぎず、立入禁止の方法はバリケードの設置やロープ、柵当の設置、出入口の施錠などの方法から実態に即したものを選定すればよく、表示による禁止が最も適切である等の趣旨を表したものではないこと。

(ウ) 搭乗禁止の方法としては、必ずしも事業者が常時監視する必要はなく、禁止する旨を見やすい箇所に表示する方法や口頭で確実に伝達する方法が認められること。

(エ) 悪天候時の作業禁止の方法としては、必ずしも事業者が常時監視する必要はなく、禁止する旨を見やすい箇所に表示する方法や口頭で確実に伝達する方法が認められること。

イ 解釈等

(ア) 措置義務の対象に含まれる者の範囲

改正省令により、新たに立入禁止、退避等の措置対象に追加された特定の場所において作業に従事する者とは、作業の内容如何に関わらず、その場所で何らかの作業(危険有害な作業に限らず、現場監督、記録のための写真撮影、荷物の搬入等も含まれる。)に従事する者をいい、たとえば次に掲げる者が含まれること。

① 当該場所で何らかの作業に従事する他社の社長や労働者
② 当該場所で何らかの作業に従事する一人親方
③ 当該場所で何らかの作業に従事する一人親方の家族従事者
④ 当該場所に荷物等を搬入する者

なお、一部の規定について「作業場において作業に従事する者」と規定しているのは、「労働者」とは異なり、「作業に従事する者」は措置義務の主体である事業者と直接関係を有するとは限らないことから、立入禁止等の対象となる者を特定する必要があるためであり、対象範囲を狭め、又は限定する趣旨ではないこと。

(イ) 立入禁止又は火気使用の禁止の方法

立入禁止又は火気使用の禁止を表示で行う場合は、対象となる全ての者に確実にその旨が伝わることが重要であることから、見やすい箇所に分かりやすく表示する必要があること。

(ウ) 立入禁止、火気使用の禁止、退避等の措置に係る事業者の義務の範囲

事業者が、表示その他の方法で立入り又は火気使用を明確に禁止している場所について、作業に従事する者が当該表示等を無視して、当該場所に立ち入った場合や当該場所で火気を使用した場合において、その立入りや火気の使用についての責任を当該事業者に求めるものではないこと。
また、労働者以外の者に対して事業者が明確に退避を求めたにも関わらず、当該者が退避しなかった場合において、その退避しなかったことについての責任を事業者に求めるものではないこと。

(エ)同一場所に措置義務がかかる事業者が複数いる場合の取扱い

危険有害業務又は作業を複数の事業者が共同で行っている場合等、同一場所について立入禁止又は火気使用の禁止を行う義務が複数の事業者にかかっているときは、立入り等の禁止の表示を事業者ごとに複数行う必要はなく、当該複数の事業者が共同で表示を行っても差し支えないこと。

(2) 保護具等の使用に係る周知について

ア 改正の趣旨

(ア) 改正省令により、事業者は、危険が発生するおそれがある場所には、必要がある者を除き、当該場所で作業に従事する者が立ち入ること等を禁止しなければならないこととされるところ、当該場所における作業の一部を請負人に請け負わせている場合には、当該請負人に必要な保護具等を使用する必要がある旨を周知させるときは、当該場所に当該請負人を立ち入らせること等ができることとしたこと。

(イ) なお、当該請負人に対して事業者が指揮命令を行うことはできないため、請負人についてはこれらの措置を講ずる必要があることを周知させなければならないこととしたこと。

(ウ) 事業者は、請負人ほか労働者以外の者に対して保護具等の使用に係る周知を行う際には、当該者が適切な保護具等を選択できるよう、労働者に使用させる保護具等の種類や性能等について情報提供することが望ましいこと。

イ 解釈等

(ア) 周知の方法

事業者は、以下のいずれかの方法により周知させなければならないこと。なお、周知させる内容が複雑な場合等で④の口頭による周知が困難なときは、以下の①~③のいずれかの方法によること。

  1. 常時作業場所の見やすい箇所に表示又は備え付けることによる周知
  2. 書面を交付すること(請負契約時に書面で示すことも含む。)による周知
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場所に当該記録の内容を常時確認できる機器を設置することによる周知
  4. 口頭による周知

(イ) 請負人等が講ずべき措置

改正省令により設けられた事業者による周知は、請負人等に指揮命令を行うことができないことから周知させることとしたものであり、請負人等についても労働者と同等の保護措置が講じられるためには、事業者から必要な措置を周知された請負人等自身が確実に当該措置を実施することが重要であること。

(ウ) 周知に係る事業者の義務の範囲

改正省令により設けられた事業者による周知は、周知の内容を請負人等が理解したことの確認までを求めるものではないが、確実に必要な措置が伝わるように分かりやすく周知することが重要であること。その上で、請負人等が自らの判断で保護具を使用しない等、必要な措置を実施しなかった場合において、その実施しなかったことについての責任を当該事業者に求めるものではないこと。

(3) 労働者以外の者による立入禁止等の遵守義務に係る規定の整備

ア 改正の趣旨

改正省令により、特定の場所への立入禁止、特定の箇所への搭乗禁止及び特定の場所での火気使用の禁止の措置対象に、労働者以外の者であって作業に従事する者も追加されたことを受け、労働者以外の者にもこれらの措置を確実に遵守させる必要があることから、労働者に加えて、労働者以外の者についてもこれらの措置に係る遵守義務を設けたこと。

イ 解釈等

労働者以外の者については、立入禁止、搭乗禁止及び火気使用の禁止についての遵守義務について、罰則はないこと。

細部事項-安衛則のみの特記事項

ア 改正安衛則第151条の48第2項、第151条の62第2項、第151条の70第2項及び第420条第2項関係

本規定は、第1項において事業者が、作業指揮者を定め、当該指揮者に労働者の立入を禁止させているところ、労働者以外の作業に従事する者と作業指揮者との間に指揮命令関係が存在しないことを踏まえ、作業指揮者の義務への追加ではなく事業者の直接の義務として労働者以外の作業に従事する者の立入を禁止することとしているが、事業者がその義務を果たすための方法として、作業指揮者に当該措置の実施を命じることにより労働者以外の作業に従事する者に対する立入禁止の措置を講ずることも認められるものであること。

イ 改正安衛則第151条の51第3項及び第4項並びに第151条の73第3項及び第4項関係

本規定は、第1項に定める事業者が講ずべき措置のうち、荷台への搭乗禁止に係る措置について労働者以外の者まで拡大する観点から、新たに規定したものであること。また、同条第3項の「不整地運搬車(又は貨物自動車)を走行させる場合」については、作業場における場合か否かを問わないものであること。

ウ 改正安衛則第151条の15及び151条の104関係

本規定は、安全支柱等の使用状況の監視対象を労働者に限定しているが、これは、労働者以外の作業に従事する者と作業指揮者との間に指揮命令関係が存在しないことを踏まえ、対象を明確化したものであること。なお、労働者以外の作業に従事する者について、作業指揮者が監視することを妨げるものではないこと。

エ 改正安衛則第291条第2項関係

本規定は、第1項に定める事業者の責務に関連して作業に従事する者の義務を定めているものであるが、当該規定においては、みだりに行う喫煙、採だん、乾燥等の行為を禁止しているものであり、事業場の定めるルール等に則り行う行為(例えば事業場のルールに則り喫煙所で喫煙すること)までも禁止する趣旨ではないこと。

オ 改正安衛則第318条第3項関係

本規定は、第1項に定める事業者が講ずべき措置のうち、火薬又は爆薬を装填するときに、その付近での火気使用の禁止に係る措置について労働者以外の作業に従事する者まで拡大する観点から、新たに規定したものであること。

今回改正を行っていない事項

法第20条及び第21条に基づく「立入禁止等」以外の規定(特定の作業方法によらなければならないとする規定や保護具等を使用させなければならないとする規定など)については、視覚により作業者が容易に危険を把握できる場合が多い一方、視覚のみでは危険を把握できないものがあるため、今後、個人事業者等による災害実態を把握し、個々の規制について改正の必要性を精査の上、必要性が認められるものについて所要の改正を行い、個人事業者等にも当該規定の対象を拡大することとしており、改正省令では改正を行わないこととしている。

しかし、個人事業者等は労働者と同様の業務又は作業を行っていることが多く、事業者が労働者の危険を防止する観点から措置を講ずる必要がある場面においては、個人事業者に対しても危険を防止する観点から同様の措置を講ずる必要があるという理由から、法令改正を待たずに事業者が個人事業者に対して必要な措置を自主的に実施することが推奨されること。

したがって、事業者が当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときにおいて、保護具等の使用や特定の方法に基づいて業務又は作業を実施することを当該請負人に対して周知することは、個人事業者等による業務上の災害を防止する上で重要であり、具体的には、以下のような対応が考えられること。(これらは一例であって、他の規定についても同様に対応が推奨されること。)

  1. 安衛則第151条の5のように、事業者は車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、あらかじめ、適正な制限速度を定め、それにより作業を行わなければならない、とされている規定について、当該作業の一部を請負人に請け負わせるときは、事業者は当該請負人に対し、当該事業者が定めた適正な制限速度により作業を行う必要がある旨を周知すること。
  2. 安衛則第341条のように、事業者は高圧の充電電路の点検、修理等当該充電電路を取り扱う作業を行う場合において、当該作業に従事する労働者について感電の危険が生ずるおそれのあるときは、労働者に絶縁用保護具を使用させる又は活線作業用器具を使用させる措置を講じなければならない、とされている規定について、当該作業の一部を請負人に請け負わせるときは、事業者は当該請負人に対し、絶縁用保護具を着用する必要がある旨又は活線作業用器具を使用する必要がある旨を周知すること。
  3. 安衛則第524条のように、事業者はスレート、木毛板等の材料でふかれた屋根の上で作業を行うときは、労働者に対して踏み抜きによる危険を防止するための措置を講じなければならない、とされている規定について、当該作業の一部を請負人に請け負わせるときは、事業者は当該請負人に対し、踏み抜きによる危険を防止するための措置を講じる必要がある旨を周知すること。
  4. 安衛則第538条のように、事業者は作業のため物体が飛来することにより労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、労働者に保護具を使用させる等の措置を講じなければならない、とされている規定について、当該作業の一部を請負人に請け負わせるときは、事業者は当該請負人に対し、保護具を使用する必要がある旨を周知すること。

健康管理に関するガイドライン

厚生労働省はまた、2024年2月14日に「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン案(概要)」を示して、2月29日を締め切りに意見募集(パブリックコメント手続)を実施した(5月28日結果公表)。

適用期日は「3月下旬(予定)」とされていたが、遅れて5月28日に「個人事業者等の健康管理に関するガイドラインの策定について」発表され、ガイドライン本文通知文リーフレットが公表された。

厚生労働省ウエブサイトの「個人事業者等の安全衛生対策について」のページにも情報が追加され、こちらには「個人事業者等の健康管理に関するガイドラインQ&A」も含まれている。

ガイドライン本文と通知文は19頁以下に紹介するが、ここではパブリックコメント手続で示された「概要」を示しておく。

なお、「個人事業者等」とはガイドラインで、「事業を行う者のうち労働者を使用しないもの及び中小企業の事業主若しくは役員」とされ、「注文者等」とは、ガイドラインでは「個人事業者等に仕事を注文する者又は注文者ではないものの、個人事業者等が受注した仕事に関し、個人事業者が契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて必要な干渉を行う者」、「概要」では「注文者又は当該仕事を管理する者(プラットフォーマーも含む)」とされている。

ガイドラインは、「労働者と同じ場所で就業する者や、労働者とは異なる場所で就業する場合であっても、労働者が行う作業と類似の作業を行う者については、労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであるという基本的な考え方のもと、個人事業者等が健康に就業するために、個人事業者等が自身で行うべき事項、注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項等を周知し、それぞれの立場での自主的な取組の実施を促すものである」。

(1) 基本的な考え方

○個人事業者等による取組

個人事業者等は、自ら事業を営む事業者等であることから、健康管理については自らで行うことが基本であり、心身に配慮して働くことや、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、自らの健康状態を自覚し、心身の健康の保持増進に努めることが重要である。

○注文者等による取組

個人事業者等が注文者等から注文を受けて仕事を行う場合には、注文者等による注文条件等や作業環境が個人事業者等の心身の健康に影響を及ぼす可能性があることから、その影響の程度に応じて、注文者等が必要な措置を講じることが重要である。

○個人事業者等及び注文者等の関係団体等による取組

個人事業者等や注文者等が加入する業種・職種別の団体や仲介業者は、個人事業者等及び注文者等が上記の取組を円滑に実施することができるよう、必要な支援を行うことが期待される。その際、当該団体等が、本ガイドラインを参考に、それぞれの業種・職種の実情や商習慣に応じた業種・職種別のガイドラインを必要に応じて策定することも期待される。

○国による取組

国は、個人事業者等の健康管理を支援するための取組を行うこととする。

(2) 個人事業者等自身による健康管理

○定期的な健康診断の受診による健康管理

  • 保険者が実施する特定健康診査等を活用し、1年に1回、定期に健康診断を受け、その結果に基づき必要な精密検査を受けたり医療機関を受診したりすること。
  • 特定の危険有害な業務に従事する場合、労働者であれば、特殊健康診断の実施が事業者に義務づけられているところ、個人事業者等においても、特殊健康診断と同様の健康診断を受け、その結果に基づき必要な精密検査を受けたり医療機関を受診したりすること。

○長時間の就業による健康障害の防止

  • 自身の就業時間を把握し、睡眠・休養の確保も含めた体調管理を行うこと。
  • 就業時間が長時間になりすぎないようにすること。なお、健康への影響を未然に防止する観点から、同様の業態で働く労働者に適用される労働時間の基準と同水準の就業時間とすることが望ましい。
  • 就業時間や疲労蓄積度をチェック・記録できるツール(アプリ)等の活用により、長時間就業による疲労の蓄積があると感じる場合には、医師による面接指導を受けること。

○メンタルヘルス不調の予防

  • 定期的なストレスチェックを実施すること。
  • 高ストレスと判定された場合には、医師による面接指導や看護職、心理職等による健康相談を受けること。

○腰痛等の筋骨格系疾患等の防止

  • 自らが就業する場所における適切な作業環境を確保すること。
  • 長時間の座り作業や運転業務を行う場合には、適切な作業姿勢、適切な椅子等の調整、休憩等の対応をとること。
  • 情報機器作業を行う場合には、作業場所の明るさ等の調整、情報機器作業に関する健康診断の受診等の対応をとること。

○個人事業者等のヘルスリテラシーの向上

  • 心身の健康に配慮した働き方、生活習慣の改善等についての知識を深め、心身の健康の保持増進に努めること。
  • 健康に影響を及ぼすおそれのある危険有害業務に従事する場合には、あらかじめ当該業務による健康障害リスクや健康障害を防止するために必要な対策についての知識を得ておくこと。

○注文者等が実施する健康障害防止措置への協力

  • 注文者等が作業者の健康障害を防止する観点から定めたルールに従うこと。

(3) 注文者等による措置

○長時間の就業による健康障害の防止

  • 個人事業者等の安全衛生を損なうような長時間就業とならないよう、期日設定等に配慮すること。
  • 注文者等から依頼される業務の性質上、就業時間が特定される場合(※)は、就業時間が長時間になってしまった個人事業者等からの求めに応じて、注文者等が医師による面接指導を受ける機会を提供すること。

(※)以下に掲げるような特定のケースで働く個人事業者等を想定。

ア 注文者等が、1日に配送すべき荷物量を指定するなど、個人事業者等の日々の業務量を具体的に管理・指定しているようなケース
イ 映画の撮影現場のように、個人事業者等側で業務量や業務時間を自由にコントロールできないようなケース
ウ 個人事業者等が、注文者等の事業場に常駐して、注文者等の労働者や他の個人事業者等と共同で一つのプロジェクトに従事するなど、個人事業者等側で業務時間を自由にコントロールできないようなケース

○メンタルヘルス不調の予防

  • 個人事業者等が就業により心身に不調をきたすことがないように、個人事業者等の安全衛生を損なうような就業環境、就業条件をとならないよう配慮すること。
  • 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)等を踏まえ、パワーハラスメントを防止するために必要な措置を講じること。

○健康診断の受診の促進

  • 個人事業者等に対し、安全衛生教育や健康診断に関する情報や受講・受診機会を提供するよう配慮すること。
  • 個人事業者等に危険有害業務を請け負わせる場合には、当該危険有害業務による健康障害を防止するために必要な情報を伝達すること。
  • 労働者であれば特殊健診が必要となる業務を反復・継続して個人事業者等に注文する場合には、請負契約に当該健診費用を安全衛生経費として盛り込むこと。
  • 個人事業者等が専ら一者から注文を受けた仕事のみを行っているような場合であって、①契約期間が1年を超える場合、又は②1年を超えない契約期間の請負契約を繰り返し締結している場合には、請負契約に一般健診費用を安全衛生経費として盛り込むことが望ましいこと(40歳以上の個人事業者等については、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき特定健診の実施が義務づけられているため、請負契約に一般健診費用を盛り込む必要はないものとする。)。
  • 個人事業者等が作業を行う場を統括する者(建設工事の元方事業者や製造工場の事業者など)は、安全衛生教育の受講や健康診断の実施状況を確認すること(当該者が協力会社などにその確認を委任することも可能とするなど、柔軟な運用を想定。)。

○作業環境による健康障害等の防止

  • 注文者等から依頼される業務の性質上、就業場所が特定される場合には、当該就業場所について、適切な環境確保のために必要な措置(室内の温度管理、気積の確保、照度の確保、便所の設置等)が講じられていることを確認すること。就業場所を注文者等が管理していない場合には、注文者等は当該場所を管理・貸与する者(建築物貸与者)にこれらの措置が講じられていることを確認すること。

見直し第3弾に向けた検討開始

2024年4月26日に開催された第161回安全衛生分科会には、表2「検討会の報告結果を踏まえた検討状況」、表3「検討会報告書の項目ごとの対応状況及び今後の検討予定」等が示されて、「建設アスベスト訴訟最高裁判決」を踏まえた個人事業者等に対する安全衛生対策見直しの第3弾に向けた議論がすでにはじまっている。

主として、論点1「危険有害作業に係る個人事業者等の災害を防止するための対策①(個人事業者自身、注文者等による対策)」として検討会報告書で掲げられた内容の具体化ということであるが、「今後の検討の進め方」としては、まず、「労働安全衛生法上どのように『個人事業者等』を位置づけるのか」ということで、【総論①】労働安全衛生法上の「個人事業者等」の範囲、及び、【総論②】労働安全衛生法で「個人事業者等」を保護し、又は規制するに当たっての考え方を設定し、さらに「措置主体に応じて具体的内容を検討してはどうか」として、【各論①】個人事業者等自身でコントロール可能な災害リスクへの対策、【各論②】個人事業者等自身でコントロール不可能な災害リスクへの対策」、【各論③】その他(【各論①】、【各論②】の実行性を高めるための取組等)を設定している。

検討会報告書の項目と【総論】【各論】の対応状況をまとめたのが表3である。なお、検討会報告書の「2 個人事業者等を取り巻く安全衛生上の現状と課題」は、上述したの囲みで全文紹介している。

合わせて、総論①②について、以下のような「論点」及び「対応案」が示された。

【総論①】労働安全衛生法上の「個人事業者等」の範囲

論点: 個人事業者をどのように定義すべきか。また、個人事業者以外にどの範囲まで対象に含めるべきか。

対応案: 労働安全衛生法において保護対象や義務主体とする「個人事業者等」の範囲は以下のとおりとしてはどうか。

①個人事業者

  • 労働者を使用しない。
  • 法人、非法人(個人)かは問わない。
  • 請負契約や業務委託契約のような契約の有無は問わない(=農家、芸術家なども含む)。

②中小事業の事業主及び役員

  • 個人事業者や労働者が行うのと類似の作業を自ら行う中小事業の事業主や役員。

※中小事業の範囲は、業務上災害の実態や他の労働基準関係法令での取扱いを踏まえて定めることとする

【総論②】労働安全衛生法で「個人事業者等」を保護し、又は規制するに当たっての考え方

論点: 労働安全衛生法の枠組み上、個人事業者等自身に措置を求めることができるのは、どのような場合が考えられるか。

対応案: 労働安全衛生法が労働者の安全や健康の確保を通じた労働者保護を主目的としていることを踏まえれば、個人事業者等自身に措置を求めるのは労働者と同じ場所で就業する場合とすることが適当ではないか。

論点: 労働安全衛生法の枠組み上、事業者や注文者、建築物や機械等の貸与者に個人事業者等の保護の観点から措置を求めることができるのは、どのような場合が考えられるか。

対応案: 労働安全衛生法が労働者保護を主目的としていることを踏まえれば、個人事業者等が労働者と同じ場所で就業する場合には、事業者や注文者、建築物や機械等の貸与者に個人事業者等の保護の観点から措置を求めることが適当ではないか。

個人事業者等が労働者とは異なる場所で就業する場合であっても、注文した仕事に係る作業場所や作業方法から生ずる災害リスクへの対応については、安衛法の既存の枠組み(発注者、注文者対策)の活用が可能なものもあるため、これを活用することとしてはどうか。

論点: 労働安全衛生法の枠組み上、個人事業者等自身や事業者、注文者、建築物や機械等の貸与者に措置を求めることが困難な場合にどのような方策が考えられるか。

対応案: 法令に基づく措置が困難な場合であっても、個人事業者等の危険や健康障害を防止する観点から、ガイドライン等により関係者に措置を求めることとしてはどうか。

さららに5月27日に開催された第162回安全衛生分科会には、【各論①】個人事業者等自身でコントロール可能な災害リスクへの対策について、以下のような論点と対応案が示された。

論点: 個人事業者等に対して、使用禁止とする対象機械や、個人事業者等に義務付ける定期自主検査等の範囲(年次検査、月次検査、作業開始前点検)、定期自主検査等の対象機械等の範囲をどのように考えるか。

対応案: 〇労働安全衛生法上、個人事業者等自身に措置を求めることができるのは、労働者と同じ場所で働く場面とすることを踏まえれば、使用禁止とする対象機械や、実施を義務付ける定期自主検査等の範囲、定期自主検査等の対象機械等については、労働者保護の観点から事業者に義務付けられているものと同一の範囲としてはどうか。〇対象機械等を個人事業者等自身が持込む場合には、定期自主検査等は自らが行うことが可能であるが、事業者が労働者に使用させているものを一時的に使用する場合については、個人事業者等が直接、定期自主検査等を行うことが現実的でない場合もあるため、新たに義務付けられる措置の具体的な実施方法等を省令や通達で明確にすることとしてはどうか。

今後の検討に注目していきたい。

プラットフォーマーの取り扱い

なお、一連の見直しのなかで注目されていることのひとつがプラットフォーマーの取り扱いである。

検討会報告書では、「発注者以外の災害原因となるリスクを生み出す者等による措置」(3-2(3))で機械等貸与者、建築物等貸与者とプラットフォーマーにふれられ、【プラットフォーマー等仕組みを提供する者による措置】が以下のようにされている。

  • 〇プラットフォーマーが個人事業者等に行わせる危険有害業務の内容によっては、法第3条第3項の規定がプラットフォーマーにも当てはまる場合がある旨を解釈例規やガイドラインの策定といった手段を通じて明確化することにより、プラットフォーマーが配慮すべき具体的内容を明確にすることとする。
  • 〇別途、フリーランス保護の観点から検討がなされているフリーランスに関する各種施策とも連携の上、国は、上記の趣旨を様々なチャンネルを通じ、事業者や注文者、プラットフォーマー、個人事業者等に広く周知させることとする。
  • 〇プラットフォーマー等の業務形態や契約に着目した新たな規制の枠組み、諸外国の規制動向等にも注視しつつ、安衛法の既存の枠組みでは捉えきれない課題への対応についても将来的な検討課題の把握に努めることとする。

法第3条第3項は、「建設工事の注文者等仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない」と規定している。

また、前述のとおり、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」は、「当該仕事を管理する者(プラットフォーマーも含む)」も「注文者等による措置」として掲げられた長時間の就業による健康障害の防止、メンタルヘルス不調の予防、健康診断の受診の促進、作業環境による健康障害の防止をが行うべきまたは配慮すべきものと位置づけられている。

第161回安全衛生分科会で配布された資料では、表2「検討会の報告結果を踏まえた検討状況」で措置の主体のひとつに「注文者以外の災害リスクを発生させる者」の欄が設けられており、表3で検討会報告書の3-2(3)は、【各論②】として整理されている。

海外の動向をみても、リスクを生み出し、及び/または増大させ得る者、換言すればリスクを管理し得る、低減させ得る者に、責任を負わせようとする流れができているように思われる。

「将来的な検討課題の把握」にとどまらないイニシアティブを発揮することが求められていると言えよう。

安全センター情報2024年7月号