独立報告:規定疾病D1(じん肺)についての規定の見直し検討及び更新/2023年11月16日 英:労働災害諮問委員会(IIAC)

抄 録

現在のじん肺についての規定は100年以上前にさかのぼるが、80年近く大きな見直しは行われていない。その間に疾病の原因や診断技術は大幅に変化した。現在の規定は、請求者にとっても管理者にとっても使いにくいものである。加えて、特定された職業は主に歴史的なものであり、とくにシリカについては、現在曝露が起こる可能性のあるすべての職業が含まれているわけではない。本委員会は、改訂される規定のなかで考慮される疾病は、それ以上の修飾なしに「じん肺」であるべきであり、また、PD[Prescribed Disease=規定疾病] D1の目的のために、じん肺の潜在的な原因として、以下の曝露を伴う労働を含めるべきであると勧告する。

  1. アスベスト
  2. 石炭または炭鉱粉じん
  3. シリカ含有粉じん
  4. 金属粉じん:アルミニウム、ベリリウム、コバルト、インジウムスズ酸化物、希土類金属、炭化タングステン

じん肺の臨床的及び放射線学的特徴は、他の肺疾患と類似していることがあり、しばしば代替的な診断や治療法が存在する。したがって、IIAC[労働災害諮問委員会]は、じん肺による労働災害障害給付金(IIDB)の申請を検討する前に、通常、専門医の臨床意見が入手されるべきであると期待する。

IIACは、じん肺に対する給付金を他の疾患に対する給付金と同じように、実際の障害に関係なしに診断がつけば自動的に給付金が支給されることがないようにすることを勧告する。併存する慢性閉塞性肺疾患(COPD)についての請求は、現在では別個に検討されるべきである。さらに、合併症である結核及び非結核性抗酸菌症についての裁定は、シリカ曝露に関連したじん肺に限定されるべきである。

規定された曝露について診断を確立するために必要な曝露の程度、または障害の評価については、変更の提案はない。

はじめに

  1. じん肺についての現在の規定は、100年以上前の補償制度に遡る古いものである。労働災害諮問委員会(IIAC)によって何度も審議され、委員会の報告書が1953年、1973年、1996年、2005年、2006年に公表されているが、ほぼ80年間、実質的な改訂は行われていない。この間、この病気に関する理解、定義及び用語は変化し、診断技術も変化してきた。現在の規定は、請求者にとっても管理者にとってもナビゲイティブでないことを含め、いくつかの点で満足のいくものではない。特定された職業の多くは歴史的なものであり、とくにシリカについては、現在曝露が生じている職業を反映していない。呼吸器健康超党派議員連盟は最近、シリカ曝露の潜在的影響と珪肺発症リスクに対する産業界全体の認識不足に注意を喚起している(APPG 2023)。
  2. 本コマンド・ペーパーは、PD D1と現行規定の歴史的背景を概説したうえで、改訂規定に含めるべき職業曝露の4つの簡略化されたカテゴリー、すなわち以下を提言する。
    ・ アスベスト
    ・ 石炭または炭鉱粉じん
    ・ シリカ含有粉じん
    ・ 金属粉じん:アルミニウム、ベリリウム、コバルト、インジウムスズ酸化物、希土類金属、炭化タングステン
  3. 本報告では、各状態と懸念される特定の物質について説明し、曝露の可能性、診断、及び発生する可能性のある障害について検討する。個々のじん肺に関する注記は付録2に示す。
  4. 委員会は、じん肺とそれらが関連する証拠が乏しい関連物質及び曝露を幅広く検討したが、これらについての規定は勧告していない。
  5. 上述したPD D1に関する懸念にもかかわらず、現行の規定のもとで相当数の請求が行われている。2010年から2019年の間に12,245件、つまり年間約1,200件の労働災害障害給付金(IIDB)の裁定があり、そのほとんどがアスベスト、石炭及びシリカへの曝露に関連したもので、80%近くが石綿肺についてのものであった。委員会は、勧告される変更によって、無症候性のじん肺における低レベルの障害について成功する請求件数が減少する可能性があると予想している。しかし、珪肺については、労働者と使用者の間でこの病気に対する認識が高まり、病気の発見と診断が改善されることを期待している。

労働災害障害給付制度

  1. IIDB制度は、雇用された稼得者の業務中に発生した事故または規定疾病による障害に対して、無拠出、「無過失」の給付を行うものである。この給付は、他の就労不能または障害給付に加えて支給される。非課税であり、労働年金省(DWP)により運営されている。
  2. 法律上の要件は、1992年社会保障拠出金給付法に規定されており、国務大臣が、その疾病が以下であると納得した場合には、当該疾病を規定することができるとされている。
    (a) その原因及び発生率並びにその他の関連する検討事項を考慮して、すべての者に共通するリスクとしてではなく、当該職業のリスクとして扱うべきであり、かつ
    (b) 特別な事情がない限り、合理的な確実性をもって、特定の症例を当該雇用の性質に帰属させることを確立または推定できるようなものであること。
  3. したがって、疾病は、ある職業の労働者に対して認められたリスクが存在し、かつ、疾病と職業との関連が個々の症例において確立または合理的に推定することができる場合にのみ、規定され得る。

労働災害諮問委員会の役割

  1. IIACは、1946年に設立された法定独立機関で、IIDB制度に関する事項について労働年金大臣に助言を行う。委員会の大半の時間は、給付金を支払うことができる規定疾病のリストを拡大または改正すべきかどうかの検討に費やされている。
  2. 規定の問題を検討する際、委員会は、個々の症例において、合理的な信頼性をもって、疾病が職業曝露に起因することを示す実際的な方法を模索する。この目的のため、「合理的な信頼性」は、確率の均衡に基づくものと解釈される。
  3. 職業病のなかには、職業との関連性が明確であるため、検証が比較的簡単なものもある。特定の作業によってのみ発症するもの、ほとんど常に作業と関連するもの、作業との関連を証明する特定の医学的検査があるもの、曝露との関連が迅速なもの、作業との関連を確認しやすいその他の臨床的特徴があるものなどである。しかし、その他の多くの疾患は、職業性特有のものではなく、職業に起因する場合、職場で危険有害性に曝露していない者に起こる同じ疾病と区別がつかない。このような状況では、職業に起因するかどうかは、確率の均衡から見て、規定された職業における労働または規定された職業曝露を伴う労働が当該疾病を引き起こすという研究証拠に依拠する。そのため、委員会は、特定の職業曝露または状況に関連した疾病の発症リスクが2倍以上であるという証拠を探す(委員会の過去の報告書では、この閾値が選ばれた理由を説明している)。

PD D1の歴史的背景

  1. じん肺[pneumoconiosis](またはpneumo-koniosis)という用語は、19世紀半ばに作られた造語で、粉じんに関連した肺の疾患を指す。珪肺、炭鉱夫じん肺、石綿肺などの疾患を包括する用語である。喘息、綿肺、COPDなど、じん肺という用語が一般的に適用されない粉じん関連肺疾患もある。
  2. 1906年労災補償法は、職業病に対する補償を規定した最初の法律であったが(Meiklejohn 1954)、肺疾患は含まれていなかった。1907年に「線維性喘息」(珪肺)を含める可能性が検討されたが、診断の確立が難しいなどの理由で受け入れられなかった。その段階では、胸部X線撮影はまだ発展途上であった。
  3. 1919年耐火物産業(珪肺)制度は、珪質粘板岩(シリカ)鉱夫と珪石れんが製造労働者に対し、死亡、完全身体障害または身体障害となる結核を伴う珪肺に罹患した場合の補償を規定した。珪肺は、当時一般的な病気であった結核の発症リスクを高めることが知られている。
  4. 1927年金属研削産業(珪肺)制度は、金属研削及び一定の関連工程に従事する労働者に適用を拡大した。1928年各種産業(珪肺)制度は、1919年の法律を修正し、鉱業と採石業を追加した。1931年の改正では、石工作業、錫の採掘、磨き粉の製造が追加された。その後、陶器産業の様々な工程が追加され、金属のサンドブラストも追加された。
  5. 1931年アスベスト産業(石綿肺)制度により、石綿肺患者へ補償が拡大された。
  6. 1943年労災補償法は、じん肺の原因として石炭採掘を追加し、他の制度を統合して「あらゆる種類のじん肺」に補償範囲を拡大した。この法律によって、現在のじん肺の定義が導入された。
    「シリカ粉じん、アスベスト粉じん、またはその他の粉じんによる肺の線維症で、粉じん網状化として知られる肺の状態が含まれる。」
  7. 既存の様々な制度は、1946年国民保険(労働災害)法に統合された。ガラスのサンドブラストとショットブラストに関する規定が追加された。旧制度からの円滑な移行を確実にするため、1946年法には、長年にわたって蓄積された数多くの「精巧で詳細な表」がほぼそのまま盛り込まれた。
  8. 1946年法のカテゴリーは一時的に適用されることを意図しており、1953年のIIACコマンドペーパー(Cmd 8866:じん肺)で見直しが検討された。
  9. 1953年のIIACペーパーは、3つの主要な問題を取り上げた。
    (i) 疾病の定義
    i. IIACは、じん肺を、それ以上明確にすることなく粉じん関連肺疾患と定義するか、肺線維症の要件を含めるか、検討した。これは、炭鉱労働者におけるCOPDの問題の進展と、その労働との関連の可能性に対する認識を反映したものであった。IIACは、線維症をじん肺の定義の必須要素として維持することを選択した。様々なじん肺を個別に規定するかどうか議論されたが、最終的には一般的な用語を維持することになった。
    (ii) じん肺の原因
    ii. 見直し検討では、じん肺が発生する可能性のある状況のリストが増え続けているという問題を認識していた。すでに1946年から3つの新しい曝露がリストに加えられていた。
    ・ 遊離金属鋳造のための動力工具の使用
    ・ 炭素電極の製造
    ・ ボイラーのスケーリング
    iii. IIACは、規定因子のリストを完全に廃止することを議論したが、残すべきだと考えた。委員会は主に2つの勧告を行った。
    ・ 表に掲載されていない曝露に対する「オープン」カテゴリーの導入
    「それに雇用される者が、いかなる時点でも掲げられた他の職業のいずれでも労働したことがない場合の粉じんへの曝露」
    オープン・カテゴリーに基づき申請する者は、その疾病が業務に起因するものであるとの推定による恩恵を受けることはない。他のカテゴリーに基づき申請する場合には、そのような恩恵を受ける。
    ・ IIACは、規定職業リストに将来追加される職業は、特定の状況または曝露を詳述するのではなく、広範な用語で表現されるべきであると勧告した。
    (iii) 最小限の障害を持つ者の地位
    iv. 見直し検討の当時、じん肺の給付は、障害が5%以上と定量化された場合のみに支払われた。IIACは、これを修正し、じん肺と診断されれば自動的にIIDBが支給されるべきだと主張した。
    「…われわれは、じん肺と診断された者は、ほとんど常に1%以上のじん肺障害を負うと考えるのが妥当と考える。」
  10. 当時、裁定は稼得の損失に対してなされており、1953年の提案の主な効果は、進行の危険性がある早期じん肺の坑内労働者を、全体的な収入減を被ることなく、曝露量の少ない地上労働に移行させることであった。稼得減収規定は1994年に廃止された。
  11. IIACはさらに、じん肺による障害を10%未満の単位で測定することは不可能であり、1%の障害は自動的に10%に、11%は20%に格上げされるべきであると主張した。その結果、じん肺の診断を受けた者は、自動的に最低10%の障害裁定を受けることになった。
  12. 1967年国民保健(労働災害)改正法により、障害査定が50%以上の場合、COPD(「肺気腫及び慢性気管支炎」)の影響はじん肺の影響であるかのように扱われることができるようにした。これは、炭鉱粉じんがCOPDを引き起こす可能性があることをいち早く認識したものである。炭鉱労働者のCOPDは、1992年に独立した疾病として規定された。
  13. 1967年国民保健(労働災害)改正法はまた、結核の影響も考慮されるようにした。
  14. IIACは1973年、社会保障大臣の要請を受けてじん肺の規定の見直しを検討した(Cmd 5443:じん肺及び綿肺)。委員会は、1953年以来、これらの疾病に関する医学的知識、診断方法、労働慣行においてかなりの発展があったことを指摘した。炭鉱労働者のCOPDに対する認識が高まっていることがとくに懸念され、「…他の呼吸器疾患と合併している場合、じん肺の程度を評価する際に特別な問題が生じる」とした。
  15. 26. 1973年の見直し検討の主な結論と勧告は以下のとおりであった。
    ・ COPDを明示的に除外するじん肺の定義の改訂
    「じん肺とは、鉱物粉じんの吸入及びその存在に対する肺の組織反応による肺構造の永続的な変化を意味するが、気管支炎及び肺気腫は含まれない」。
    ・ 炭鉱労働者の単純じん肺は、一般に障害の原因とはみなされない。珪肺の影響は、通常、炭鉱夫じん肺よりも深刻であるとされた。
    ・ じん肺が存在するというだけで、自動的に障害が認められるべきでない。
    「…じん肺と診断された事実上すべての人に障害給付金を支給すべきであるという1953年に出された結論を支持することはできない。」
    ・ じん肺による障害の評価は、引き続き10%刻みで行うべきである。
    ・ 50%以上の障害査定を受けた者については、併存する結核及びCOPD(「慢性気管支炎及び肺気腫」)の影響を引き続き考慮すべきである。
  16. IIACは、1996年のコマンドペーパー(Cmd 3467:アスベスト関連疾患)で、アスベスト関連疾患の見直し検討を行った。石綿肺に関する規定の変更は勧告されなかった。
  17. IIACは、2005年に再度アスベスト関連疾患の見直し検討を行った(Cmd 6553:アスベスト関連疾患)。委員会は、CT検査が可能な場合には石綿肺の診断を補助するために使用すべきであるが、診断のために必要であるべきではないとの見解を示した。当時、胸部レントゲン写真で患者を初期評価し、その後CTで評価するのはごく一部であるというのが、標準的な臨床慣行であると考えられていた。委員会は、将来CT検査がこれらの検査において普遍的なものとなった場合に、この勧告を再考することに留意した。規定に対する変更は勧告されなかった。
  18. IIACは2006年に、炭鉱労働者の間質性線維症の問題を検討した(ポジションぺーパー:炭鉱労働者における間質性線維症)。炭鉱労働者のじん肺とは別のびまん性間質性線維症の規定を可能にするようなエビデンスはなかった。
  19. 委員会は2014年(Cmd 8880:疾病が雇用の性質によるものであるとの推定:適用範囲と時間規則)と2015年(Cmd 9030:疾病が雇用の性質によるものであるとの推定:請求査定における反証の役割)に、推定、すなわちどのような場合に追加の証拠を必要とせずに疾病が業務に起因すると推定できるかという問題を取り上げた。委員会は、ほとんどの場合、PD D1は、関連する曝露が通算して2年以上あれば、業務に起因すると推定されると指摘した。オープンカテゴリー(13)に基づく請求には、推定の恩恵はない。

現行の規定

規定疾病

  1. じん肺は、社会保障法のなかで定義されている唯一の職業病である。その定義は以下のとおりである。
    「シリカ粉じん、アスベスト粉じん、またはその他の粉じんによる肺の線維症であり、粉じん網状化として知られる肺の状態を含む。」
    線維症の要件は、一般に障害を引き起こすとは考えられていない鉄沈着症またはバリウム症などの、いわゆる良性じん肺を除外している。また、COPDのような一般にじん肺とはみなされない疾病も除外している。それは完全に満足できるものではない。例えば、急性珪肺は、必ずしも線維化を伴うことなく、肺胞蛋白症の病理学的外観を伴う。また、線維症は、必ずしも炭鉱夫じん肺の初期段階の特徴ではない。
  2. 「粉じん網状化」という表現は、1943年労災補償法に導入されたもので、胸部X線写真に不規則な混濁が見られるという当時の理解を反映したものである。これらは初期の炭鉱夫じん肺の病理学的特徴を示していると考えられた。
    「…粉じん粒子の蓄積から生じる肺の網状結合組織の、必ずしも大きくはないが広範な増加」。
  3. 当時、単純じん肺の病理学的外観は「網状化」とも呼ばれていたが、この用語は紛らわしく、一般に採用されることはなかった。この用語の難しさは、1973年のIIACのコマンドペーパーの時点で認識されていた。じん肺の定義から網状化への言及を削除することが勧告されたが、この勧告は実施されなかった。

職業

  1. 現行の規定(付録1)には、12の既定職業のカテゴリーと14サブカテゴリーが含まれている。 そのうち8つのカテゴリーはシリカを伴う作業、ひとつはアスベストを伴う作業、ひとつは鉱山作業、その他3つは黒鉛鉱物の粉砕、炭素電極の製造、ボイラーのスケーリングに関するものである。最後のオープン・カテゴリー(13)は、「それに雇用される者が、いかなる時点でも掲げられた他の職業のいずれでも労働したことがない場合の粉じんへの曝露」である。
  2. 現在の職業/曝露表に掲載されているカテゴリーの大部分は歴史的なものであり、1946年国民保険法以前の補償制度に遡るものである。 そのほとんどは、現在では請求者のごく一部にしか該当しないシリカ曝露に関するものであり、リスクにさらされている現在の人々を完全に反映してはいない。このなかには、サンドブラストなどの工程が含まれるが、この工程は現在も行われている可能性はあるものの、イギリスでは数十年間合法的に使用されていない。また、石炭トリマーなどの作業ももはや行われていない。これらの工程に起因する疾病は、改訂される規定によって依然としてカバーされるべきであるが、職業表にとくに記載する必要はもはやない。また、IIACは、臨床医が、より新しい状態及び曝露状況が規制対象に含まれていることを認識していないという事例的な証拠を持っている。

給付の裁定

  1. PD D1は、障害の有無にかかわらず、その状態があるとみなされれば給付が認められるというめずらしいものである。その理由は、前述したように歴史的なものである。同様の取り扱いは、綿肺及びびまん性中皮腫にも適用されている。
  2. PD D1は、合併症である結核と同様に、合併症であるCOPDの影響が給付査定において考慮され得るという点でもめずらしい。COPDは現在、一般的に別の疾病として扱われ、炭鉱労働者にはPD D12として規定されている。IIACは、他の職業曝露に関連するCOPDについて、別途見直し検討を行っているところである。結核は、じん肺による障害の評価に結核の規定が設けられた1967年当時と比べると、現在でははるかに少なくなっており、治療も容易である。一方、非結核性抗酸菌症はより一般的に診断されている。どちらもシリカ曝露の合併症として認められているが、他のじん肺の原因では認められていない。

PD D1に対する変更の勧告

規定疾病

  1. 本委員会は、規定の目的に適した、一般的に合意されたじん肺の定義がないことを認識している。もっとも広く用いられているのは、国際労働機関(ILO)の定義:「じん肺とは、肺への粉じんの蓄積及びその存在に対する組織の反応である」(ILO 1998)。この定義には明記されていないが、この病気は一般に、悪性疾患及び喘息やCOPDなどの気道疾患を除外するものと考えられている。
  2. 社会保障法におけるじん肺の定義は、肺の線維症に言及しているが、これはじん肺のすべての種類及びすべてのステージに存在するものではなく、ほとんどの場合、実質的な障害は肺線維症がある場合にのみ生じる。大半の場合、じん肺の診断は放射線学的特徴及び曝露歴に基づいており、病理学的特徴は証明されるよりもむしろ仮定される。
  3. 現在の定義はまた、粉じんの網状化に言及しているが、この用語は歴史的な関心でしかなく、混乱を招く可能性があり、もはや意味がないと考えられている。
  4. 本委員会は、規定で考慮される疾患は、それ以上の修飾を加えることなく「じん肺」とすることを勧告する。 この用語は、呼吸器専門家に理解され、以下のような関連教科書に、多くの定義と説明がある。
    ・ 「じん肺は、吸入された鉱物または有機粉じんに対する肺の非腫瘍性反応及び結果として起こるその構造の変化と定義されるが、喘息、気管支炎、及び肺気腫は除外される」(Parks 1994)。
    ・ 「じん肺は、吸入した何らかの粉じんの肺内における滞留及びその影響を表す総称であり、喘息や新生物を除く」(Newman Taylor et al 2016)
    ・ 「じん肺は、喘息、気管支炎または肺気腫を除く、鉱物または金属粒子若しくは粉じんの習慣的な吸入によって引き起こされる肺の非腫瘍性疾患に用いられる用語である」(Hendrick et al 2002)
  5. じん肺の診断は、ほとんどの場合、呼吸器専門医または関連専門医によって確立されるものと予想される。これは通常、NHS[国民保健サービス]で働く呼吸器コンサルタントである。すべての呼吸器専門医は、職業性肺疾患についての訓練を受けるべきであり、職業性肺疾患の可能性がある場合には、職歴が通常の臨床評価の一部となるべきである。職業性呼吸器センター(GORDS)のネットワークがあり、個々の症例について助言を提供したり、診断に疑義がある場合に評価を引き受けたりすることができる。IIACは、じん肺の診断には通常、びまん性肺疾患の存在を確認し、他の診断の可能性を除外する専門家による調査が必要であるとの見解である。専門家による評価が不可能な例外的なケースもあるかもしれず、それについては許容されるだろう。
  6. 個々のじん肺の診断に関する注釈を添付する(付録2)。
  7. 委員会は、じん肺の診断には、環境的、そしてほとんどの場合職業的な原因が含まれていることを指摘する。これ以上の説明や限定は必要ないと思われるかもしれない。しかし、規定の表現を満たす可能性の高い物質/曝露のリストは、潜在的な請求者に何らかの手引きを与えるだろう。
  8. 放射線学的所見ではなく病理学的所見からじん肺と診断される場合もある。これは死後の請求でもっとも起こりやすい。診断を確定するために必要な病理学的特徴または基準に変更は予定されていない。

職業

  1. 現行の規定(付録 1)の12のカテゴリーに記載されている、職務及び使用器具に関連した個々の状況は、もはや特定されるべきではないと提案される。これらの多くは、歴史的な関心にすぎないが、規定の明瞭性を低下させ、現代の労働慣行または曝露に起因する疾病を持つ申請者を阻害する可能性がある。
  2. 委員会は、PD D1の目的のために、じん肺の潜在的原因として、以下への曝露を伴う労働を含めるべきであると考える。
    ・ アスベスト
    ・ 石炭または炭鉱粉じん
    ・ シリカ含有粉じん
    ・ 金属粉じん:アルミニウム、ベリリウム、コバルト、インジウムスズ酸化物、希土類金属、炭化タングステン
  3. 何らかのじん肺の診断を確立するために必要な頻度、期間または強度の点で、曝露の程度を変更することは提案されていない。
  4. 改訂される規定は、石綿肺を引き起こす可能性のある職場または曝露として、アスベスト織物、機械または工場に、具体的な言及はしない。十分な程度の、またその源が何であれ、すべてのアスベスト曝露が現在、「アスベストへの曝露を伴う何らかの職業」という総称に等しく含まれている。
  5. 同様に、シリカへの曝露を伴う特定の仕事、職務または職場への言及は、「シリカ含有粉じんへの曝露を伴う何らかの職業」という用語に置き換えられている。この簡素化はとりわけ、規定された条件として、相対的に新しい労働技術または曝露によって引き起こされる珪肺についての認識の助けになることが期待されている。
  6. ボイラーのスケーリングに起因するじん肺は、汚染シリカの結果である可能性が高く、そのカテゴリーのもとで検討されるべきである。同様に、鉱物の黒鉛の粉砕または炭素電極の製造に起因するじん肺は、その状態がイギリスにまだ存在する限り、汚染シリカの結果と考えられるべきである。
  7. 現在、オープンカテゴリー(カテゴリー13「それに雇用される者が、いかなる時点でも掲げられた他の職業のいずれでも労働したことがない場合の粉じんへの曝露」)に基づき裁定がなされるケースは比較的少ない。12の表示されたカテゴリーのいずれにも就労したことがないことが要求される。特定の産業における終身雇用が減少し、労働力の流動化が進むなか、これは不調和につながる可能性が高い。したがって、例えば、ある人がアスベスト(カテゴリー9)と関わって働き、その後、表示されていない業種で働いた結果として珪肺を発症した場合、規定の現行の表現のもとでは、給付を受ける資格がない。
  8. どのような曝露がオープンカテゴリーに含まれるかについてのガイドラインはない。労働・年金省(DWP)は、特定の曝露が個人の病気を引き起こしたかどうかだけでなく、問題の曝露が疾病を引き起こす可能性があるかどうかも判断する必要がある。じん肺はほとんどの場合、潜伏期間の長い病気であることから、その決定の根拠となる曝露した日々に症状が重くなるなどの臨床的特徴はない。これは通常、DWPが判断するというより、むしろIIAC自身が判定すべき問題である。
  9. オープンカテゴリーを削除し、じん肺の新たな原因が認識されるようになった場合には、IIACが評価し、規定曝露の表に含めるかどうか決定することが勧告される。
  10. IIDBの裁定を受ける可能性のある曝露の性質及び程度に関するガイダンスを添付する(付録2)。

給付の裁定

  1. じん肺の診断を下すのに必要な曝露の程度や、障害の評価に変更を加えることは提案されていない。
  2. 本委員会は、適切な専門医により、じん肺またはじん肺の一種(例えば石綿肺、珪肺等)の診断が確立されている場合には、請求者の状態が以下に掲げたカテゴリーのひとつの労働によるものであると推定されるべきであると勧告する。本委員会は、まれに曝露開始後短期間で病気が発症することがあることに留意して、推定はもはや、累積労働期間が2年以上の者に限定すべきではないと勧告する。
  3. じん肺と診断されたからといって、障害の程度に関係なしに自動的に給付金の裁定につなげるべきではない。裁定は、障害の程度に基づくべきである。これは、症状、肺機能、放射線学的特徴、及び合併症を含む、すべての利用可能な情報を考慮して、現在そうであるように、個別に定量化されるべきである。適切な場合には、他の規定疾病についての裁定に追加されることもあり得る。
  4. 石炭粉じんに関連したCOPDは、現在では別の規定で扱われており、じん肺についての障害の裁定に含める必要はない。
  5. 結核及び非結核性抗酸菌症は、シリカ曝露の合併症として認識されており、シリカ含有粉じんに起因するじん肺患者の障害の評価において考慮されるべきである。 結核または非結核性抗酸菌症が他の酒類のじん肺と関連して発症するのは、偶然の可能性が高い。

結論及び勧告

  1. 本委員会は、改訂される規定で考慮される疾病は、それ以上の修飾なしに「じん肺」であるべきであり、PD D1の目的のために、じん肺の潜在的な原因として、以下への曝露を伴う労働を含めるべきであると勧告する。それらは以下の表に示されている。
    疾病名-じん肺
    職業の種類-以下への曝露を伴う何らかの職業:アスベスト、石炭または炭鉱粉じん、シリカ含有粉じん、金属:アルミニウム、ベリリウム、コバルト、インジウムスズ酸化物、希土類金属、炭化タングステン
  2. 委員会はまた、以下のように勧告する。
    ・ じん肺についてのIIDBの裁定は、障害の程度を反映すべきであり、関連する障害がなくても自動的に行われるべきではない。
    ・ 適切な専門医によって、じん肺またはじん肺の一種の診断が確立されている場合には、請求者の状態は上掲のカテゴリーのひとつの労働によるものであると推定されるべきである。
    ・ オープンカテゴリーは削除し、じん肺の新たな原因が認識されるようになった場合には、IIACが評価し、規定曝露の表に含めるかどうかを決定すべきである。

予防注記

  1. 安全衛生庁に予防に関する助言を求めたところ、以下のような回答を得た。
  2. アスベスト繊維または-石炭、炭鉱粉じん、シリカまたは金属含有粉じんを含む-吸入性粉じんによるじん肺のリスクは、労働者が曝露しないようにするか、または曝露を最小限に抑える方法で作業が行われるようにすることによって低減されなければならない。
  3. 2002年健康有害物質管理規則(COSHH)は、じん肺を引き起こす可能性のある粉じんを含む、健康に有害な物質への労働者の曝露を管理するために、使用者に強固で確立された要求事項を課している。COSHHは鉱山において全面的に適用され、また、2014年鉱山規則が、坑内における吸入性及び呼吸可能な粉じんの管理と測定に関して、鉱山事業者に追加的な義務を課している。アスベストを伴う作業は、とくに2012年アスベスト管理規則規制(CAR)のもとで規制されている。
  4. COSHH規制とCAR規制には同等の義務がある。呼吸性結晶質シリカやアスベストなど、健康に有害な物質を特定し、リスク評価を行い、効果的な管理体制を整えることが義務づけられている。両者とも、回避、封じ込め、または適切な管理慣行の適用の順に重点が置かれている。両者とも、労働者の訓練、曝露の監視、健康監視または医学的監視の要求事項について同様の義務を負っている。アスベストを伴う作業については、認可及び公共建築物におけるアスベスト管理義務など、さらに具体的な要求事項がある。
  5. COSHHのもとで、より危険性の低い物質で代替することによって曝露を防ぐことが合理的に実行可能でない場合、吸入性結晶質シリカへの曝露は合理的に実行可能な限り低減されなければならず、職場曝露限界値(WEL)0.1mg/m3を超えてはならない。曝露は、適切な作業工程、システム及び工学的管理を用いて低減されなければならない。これには、発生源で曝露を管理する粉じん抑制及び局所排気などの対策が含まれる。適切な呼吸用保護具(RPE)は、検討されるべき最後の管理対策オプションであり、他の方法では適切な管理が達成できない場合に、他の手段と組み合わせて使用されることがある。リスクアセスメントは、健康監視手順を導入する必要がある場所を示すべきである。労働者が定期的に吸入性結晶質シリカに曝露し、珪肺を発症する可能性がある場合には、 健康監視を実施しなければならない。シリカを伴う作業に関連した健康監視に関する具体的なガイダンスは、HSEのウェブサイトで入手できる。
  6. イギリスにおけるアスベストの輸入、供給、及び使用は現在禁止されているが、アスベストは1970年代後半まで建築材料として広く使用されていた。現在、アスベスト繊維に曝露するリスクがあるのは、アスベストを含有物質を除去する人々や、作業中に知らず知らずのうちに曝露する可能性のある建設・メンテナンス労働者などである。CAR規則は、アスベスト含有物質を伴う作業の前のリスクアセスメント、曝露を低減するための適切な管理措置の使用及びRPE[呼吸用保護具]の提供を義務付けている。アスベストを扱う者は、健康診断を受ける必要がある場合もある。アスベストを扱う作業の種類によっては、事前に認可を取得するか、または安全衛生庁(HSE)に届け出る要求事項もある。
  7. 気中試料採取や健康監視に関する助言を含め、様々な作業環境におけるグッドプラクティス管理措置に関する助言が、安全衛生庁のウェブサイトで自由に入手できる。

参考文献[省略]

付録1 現行のPD D1の規定[省略]

付録2 個々のじん肺に関する注記

(a) 石綿肺

石綿肺は、主にクリソタイル(白石綿)及び角閃石系鉱物繊維であるアモサイト(茶石綿)やクロシドライト(青石綿)など、商業的形態のアスベストのひとつによって引き起こされるびまん性肺線維症である。放射線学的には、通常、間質性肺炎(UIP)様のパターンを特徴とし、胸膜下、基底部優位の網状異常で、しばしば「ハニカム」変化や牽引性気管支拡張を伴う。

イギリスでは20世紀を通じて、アスベスト含有製品の工業的製造、ボイラーその他の機器の断熱材、造船、陸上建設、その他多くの産業で、アスベストへの大規模な曝露が発生した。過去にアスベストに大量に曝露した仕事には、造船所労働者、配管工、大工、電気技師、建設労働者、金属労働者、その他多数が含まれる。

20世紀の最初の部分にアスベストへの曝露は非常に高かった可能性があり、例えば、1960年代の造船業では、鉄骨構造物に吹き付けられたアスベスト断熱材を除去する際に、最高500繊維/mlの濃度が記録された。アスベスト断熱材の塗布や除去では、最高で100繊維/mlの濃度が発生する可能性がある。
空気1mlあたりの繊維数で表したアスベスト曝露の例(HSE 2006)は以下のとおりである。

  • 吹き付けスプレー塗膜の剥離-1,000繊維/ml前後
  • パイプまたは船舶断熱材の剥離-最大100繊維/ml
  • アスベスト断熱板の電動鋸切断-最大20繊維/ml
  • アスベスト絶縁板の穴あけ(バキュームなし)-最大10本/ml
  • 手作業によるアスベスト断熱板の鋸引き-5~10繊維/ml
  • アスベスト断熱板の慎重な全体除去-最大3繊維/ml
  • 手動工具を使用した湿式剥離-最大1繊維/ml
  • 粉じん除去を伴うアスベスト断熱板の穴あけ-最大1繊維/ml

石綿肺の診断は、放射線学的所見が、特発性疾患である特発性肺線維症や関節リウマチなどの結合組織障害に伴うまたは治療薬によって引き起こされた肺線維症と同じであることから、主として曝露歴に依存する。まれな症例では、通常、死後に病理学的特徴とアスベスト小体またはアスベスト繊維数の増加というかたちで、アスベスト曝露の証拠から診断が確立される場合がある。

石綿肺は一般に、胸膜プラークまたは中皮腫を引き起こすのに必要な曝露量と比較して、相対的に多量の曝露後に発症する。石綿肺を引き起こすのに必要な閾値曝露は確立されていないが、曝露の程度が増すにつれてリスクは増加する。アスベスト繊維は曝露が止まった後も肺に残留することがあり、石綿肺は曝露が止まってから数十年後に初めて臨床的に明らかになることもある。

石綿肺の典型的な放射線学的特徴は、主に基底部、末梢、びまん性の肺線維症である。石綿肺の存在は、通常CTスキャンを用いて確立される。胸膜肥厚斑がしばしば認められ、アスベストへの曝露歴があることを示すが、必ずしも石綿肺を引き起こすのに十分ではない。局所的な線維化や、巻き込み型・円形無気肺のような局所的な異常は、石綿肺のものではない。

石綿肺の機能障害は一般に、放射線学的陰影の程度に関連して増加し、CTスキャンで確認される程度の軽度の石綿肺は、必ずしも障害につながるわけではない。

(b) 石炭または炭鉱粉じん

石炭は、地下で採掘されることもあれば、地表で採掘されることもある。1920年代のピーク時には、100万人以上の人々が石炭採掘に従事していた。しかし、20世紀の間に石炭産業は衰退の一途をたどり、1990年代半ばまでにイギリスではほとんどが閉鎖された。

炭鉱粉じんは、炭素に加えてカオリン、雲母、シリカ(石英)を含む鉱物の複雑な混合物である。地下採掘における過去の曝露量は多かったが、ここ数十年で一般的に減少している。1940年代には、イギリスの炭鉱で曝露が100mg/m3を超えることもあった(Bedford and Warner, 1940)が、1980年代までには、大気中の吸入性粉じん濃度への曝露は、ほとんどが6mg/m3未満になった (Hurley et al 1982)。吸入性粉じんへの曝露は、地表の露天採掘では地下よりもはるかに低く、一般に1mg/m3未満であった。 石炭火力発電所や輸入石炭を処理する埠頭など、他の産業で働く労働者も吸入性石炭粉じんに曝露した可能性がある(Love et al, 1997)。

炭鉱夫じん肺は、放射線学的なびまん性結節異常と典型的な病理学的特徴を伴う、肺への石炭粉じんの蓄積を指す。初期の段階では、肺の抹消細気管支の周囲に石炭斑が形成される。これらは後に合体し、進行性巨大線維症の集塊性異常を形成することがある。

炭鉱夫じん肺の発症リスクは曝露の程度に関係する。一般的に曝露期間が10年未満では発病しないが、リスクがない閾値は確立されていない(Newman Taylor et al 2017)。

炭鉱夫じん肺の診断は、曝露歴、疾病の放射線学的パターン、及び同様の放射線学的外観を有する他の疾病の除外に基づいて行われる。まれに、肺生検や死後検査で得られた病理学的特徴に基づいて診断されることもある。

炭鉱夫じん肺の放射線学的特徴は、主に上層結節で、より大きな集塊性陰影を伴うか、または伴わない。外観は珪肺と類似しており、この2つの疾病を放射線学的に鑑別するのは困難である。特発性疾患であるサルコイドーシス及びその他の疾患でも同様の放射線学的パターンを示すことがあるが、職業歴によって容易に区別できる。UIPパターンのびまん性肺線維症(石綿肺に類似)は、2006年のIIACポジションペーパー(ポジションペーパー17:石炭労働者における間質性繊維症)で論じられているように、炭鉱夫じん肺の特徴とは考えられていない。

単純じん肺(すべての異常が直径1cm未満)は、一般に症状を起こさず、障害を引き起こさない(Parks 1994)。炭鉱夫じん肺と診断されても、それ自体が必ずしも障害を意味するわけではない。

(c) シリカ含有粉じん

シリカ(二酸化ケイ素)は、地殻の約4分の1を占める一般的な鉱物である。シリカは、結晶状、非晶質状、または他の鉱物と結合してケイ酸塩を形成して存在する場合もある。

珪肺

珪肺は、吸入可能な結晶質シリカ(RCS)に曝露することによって引き起こされる疾病であり、その多くは石英の形態であるが、異なる結晶構造を持つトリジマイトやクリストバライトとして存在することもある。シリカの毒性は結晶構造が重要で、例えばガラスに含まれるような非晶質は有害性がはるかに低い。

RCSは他の多くの鉱物粉じんよりもはるかに毒性が強く、より厳しく管理される。シリカの職業ばく露限界値(WEL)は、8時間時間加重平均で0.1mg/m3である。これは、低毒性粉じんの曝露限界値4mg/m3と比較している。

イギリスでは、多くの労働者グループで高いRCS曝露レベルが報告されており、職業曝露に関する法的限界値の遵守が一般に不十分であった。例えば、1990年代の建設業の特定の作業におけるRCSレベルは一般に0.1mg/m3を超えており、手持ち電動工具を使った乾式作業では最高レベルが報告されている(最高7mg/m3)(Chisholm 1999)。平均曝露量はもっと低く、おそらくほとんどが0.1~0.5mg/m3であったろう。RCS曝露から労働者を保護するための呼吸保護具の使用は、産業界全体で不十分であった。

歴史的に、珪肺は、鉱業、採石業、建設業、鋳物工場、サンドブラスト、セラミック製造などの産業で働く労働者の間で発症した。最近では珪肺は、紡織または人工合成石の加工など、様々な新しい環境で報告されている。イギリスの労働関連職業性呼吸器疾患(SWORD)制度では、歯科技工士や宝飾品製造など、従来とは異なる環境での症例が報告されている(Barber et al, 2019)。他の新しい環境において、疾病が出現する可能性が依然として懸念される。Leung (2012)は、シリカ曝露を引き起こす可能性のある職業及び労働慣行について詳述している。

珪肺の3つの主な病型が認められている。これらは主に曝露の強度/程度に関連しており、それによって発症のスピードが決まる。

肺胞蛋白症に似た特徴をもつ急性型は、比較的短期間に大量のRCSに曝露した場合に、数週間から数年の間に急速に発症する(Leung et al 2012)。CTスキャンでは、主に「すりガラス」密度のびまん性肺内陰影を伴う。典型的な病理学的外観は、間質性炎症(肺胞炎)及び肺胞の変性界面活性剤による充満である。外見は特発性の肺胞蛋白症と同じである。

慢性珪肺は、より一般的で、生検では線維性の小結節が密に渦巻いた特徴的な外観を呈する。放射線学的には、後上部で優位な、小さな、丸みを帯びた結節(単純性珪肺)、及び、密集した上部陰影がある(進行性巨大線維症)によって特徴づけられる。

数年間の比較的高濃度の曝露の後に、より急速に進行する「加速型」珪肺が発症する場合がある。

慢性珪肺の発症には、RCSへの累積曝露がもっとも重要な要因であるが、他の特徴も重要である。破砕されたばかりのシリカ粒子は、新鮮でないものよりも毒性が高い。通常、粉じん濃度が1mg/m3未満の場合、10年以上曝露して初めて発症するが、法定限界値内の曝露でも発症することがある。個人の曝露の程度を判断するのは困難なことが多く、珪肺の診断を確定するための閾値曝露に関する確固としたガイドラインはない。珪肺の診断は、RCSへの曝露及び曝露歴と互換性のある放射線学的または病理学的特徴に加え、より可能性の高い他の診断の除外による。

軽度の単純性珪肺症(すべての異常が直径1cm未満)は、必ずしも症状や肺機能の異常を引き起こさない。より広範な疾病、とくに進行性巨大線維症がある場合には、障害を伴う可能性が高い。進行性巨大線維症は、じん肺の一部と考えられる局所的な肺気腫を伴うことがある。より一般化した肺気腫/慢性閉塞性肺疾患は、別の疾病と考えられている。

珪肺は、結核及び非結核性抗酸菌症のリスク上昇と関連しており、これらが発症した場合には、その影響を障害の評価に考慮することができる。

混合鉱物粉じん繊維症

典型的な珪肺は、比較的純粋なRCSに曝露した場合にのみ発症する。RCSが他の非線維性粉じんと混合され、粉じん全体の約15%未満になると、異なる病理学的様相を呈する病態-混合鉱物粉じん線維症が発症することがある(Honma et al 2004)。他の粉じんが存在することで、シリカの作用が修正され、毒性が弱くなると考えられている(Donaldson and Borm 1996)。

混合鉱物粉じんじん肺に関連する職業には、ヘマタイト鉱業、鋳造作業、陶器・セラミック作業、石工、コンクリート粉じんに曝露する仕事などがある。1960年代のイギリスにおけるヘマタイト鉱業では、吸入可能な粉じん曝露レベルは約2mg/mであった。

病理学的には、混合鉱物粉じん線維症は、典型的な珪質性結節を伴う、または伴わない、炭鉱夫じん肺でみられるような終末細気管支周囲の斑状組織によって特徴づけられる。放射線学的には、びまん性結節や網状陰影、進行性の巨大線維化など、様々なパターンが報告されている。この状態は、珪肺、石綿肺及び炭鉱夫じん肺に比べ、あまりよく特徴づけられていない。

非繊維状ケイ酸塩じん肺

ケイ酸塩とは、その結晶構造においてシリカ及び様々な他の金属によって形成された鉱物群である。それには、タルクや雲母のようなシート状の結晶を形成する鉱物、バーミキュライト、ベントナイト、カオリナイト(陶土)のような粘土、アスベストのような繊維が含まれる。アスベストは一般的に、非繊維状ケイ酸塩と区別して考えられている。

従来、非繊維状ケイ酸塩のなかでもっとも重要なのはタルク、雲母及びカオリンであった。タルクは、現在でもゴムや紙の製造、化粧品に広く使用されている。歴史的には、フランスやオーストリアの工場で働く生産労働者の曝露は30mg/m3に達することもあった(Wild et al 1995)。雲母は、その絶縁特性から電気・電子産業、建築の充填材や断熱材、塗料やプラスチックに使用されている。かつて世界のカオリン(陶土)の半分以上がコーンウォールで採掘されていた。 紙の充填やコーティング、陶磁器産業、ゴム、塗料、プラスチックなどの充填剤として使用されている。

いくつかの非繊維状ケイ酸塩がじん肺と関連しているという証拠があるが、それらの効力は全体的にRCSのそれよりも小さいようであり、多くの場合、有害な影響はRCSの汚染によるものかもしれない。タルクの場合、家庭内での曝露による症例がいくつか報告されており、静脈内薬物乱用者では、注射された物質がタルクと混合された場合に関連した症状が見られる。

非繊維状ケイ酸塩に関連したじん肺症例では、一貫した放射線学的パターンは報告されていない。診断は、十分な曝露歴及び他の原因の除外による。 粉じんレベルが1mg/m3を超える環境、または同等の環境での作業が少なくとも10年以上続いている可能性が高い。

(d) 金属

アルミニウム

過去には、アルミニウムパウダーの吸入は有益であると考えられ、他のじん肺の予防や治療に使用されていた。シェーバー肺は1940年代に研磨剤コランダムの製造において報告されたが、おそらく急性珪肺の一種であった(Hendrick 2002)。さらに、1940年代に火薬に使用されるアルミニウムの火工品フレークの製造でも症例が報告されている。それ以来ときおり症例が報告されているが、アルミニウムじん肺の報告は、この金属が使用される頻度に比して比較的まれである(Newman Taylor et al 2016)。

ベリリウム

ベリリウム(原子番号4)はもっとも軽い金属で、鋼鉄よりも剛性が高く、熱と電気の優れた伝導体である。そのため、航空宇宙、原子力、防衛、自動車、電子機器、電気通信など、様々な産業で使用されている。また、歯科補綴物やスポーツ用品などにも使用されている。曝露は、採掘、製錬、製造、リサイクルで発生する可能性がある。Darby and Fishwick(2011)は、ベリリウムの用途と応用について詳述している。

ベリリウムの急性大量曝露は、化学性肺炎及びその他の上気道炎を引き起こす可能性がある。

慢性ベリリウム病(CBD)は、金属に反応するCD4+veTリンパ球の発達に伴うベリリウムへの感作のために生じる。高濃度曝露労働者の最大20%が感作を発症すると報告されており、遺伝的要因がリスクに寄与している(Balmes et al 2014)。

ベリリウムに感作された労働者全員が発病するわけではない。その割合は、多くの研究で10%から100%の間である。通常、発症は初回曝露から10~20年後であるが、数か月以内に発症することも報告されている。

CBDの主要な病理学的特徴は、サルコイドーシスでみられるのと同じ非カゼイチン性肉芽腫の存在である。ベリリウム粒子が肉芽腫内に認められることがあるが、これは本症の一貫した特徴ではない。

呼吸困難、倦怠感、咳嗽、胸部不快感を伴い、主に肺が侵される。胸部X線写真の特徴はサルコイドーシスに類似しており、主に中~上層帯の結節、縦隔または肺門リンパ節腫脹を認める。CTスキャンは、胸部X線写真よりもはるかに高い感度で早期疾患を検出できる。結節はもっとも一般的な所見であり、しばしば気管支周辺、小葉間隔内、または胸膜下に集積している。地中ガラス混濁、気管支壁の肥厚、小葉間隔の肥厚もみられる。気流閉塞、制限、孤立性ガス移動障害など、様々な肺機能異常が報告されている。

CBDの外観はサルコイドーシスと同じであるため、診断が容易に見落とされることがある。職業歴を聴取した後、サルコイドーシスの初期診断をCBDに修正した研究もある(Muller-Quernheim et al 2016)。診断の鍵となる検査は、末梢血または気管支肺胞洗浄液を用いたリンパ球増殖検査である。

希土類金属/ランタノイド/セリウム

17種類の希土類金属(ランタノイドとも呼ばれる)があり、そのなかでもっとも豊富なのがセリウムである。これらの金属は、触媒、電気モーターやタービンに使用される高性能磁石、電子機器、合金として重要な用途がある。これらの金属の使用はここ数十年で著しく増加している。

希土類金属に起因する肺疾患の症例報告は、医学文献に20例弱あり、そのほとんどがカーボンアーク灯のオペレーター、写真製版技師、レンズ研磨技師である(Sulotto et al, 1986)。ほとんどの場合、疾病のパターンはびまん性肺線維症であるが、肉芽腫性疾患も報告されている(Nemery 1996)。金属は曝露後も肺に残留し、どの程度までが曝露に起因するのか、あるいは偶然なのかは不明である。イギリスではまだ症例は報告されていないが、リサイクル業界では、発病の可能性があるかもしれない。

インジウムスズ酸化物

インジウムスズ酸化物は、導電性、光学的透明性、薄膜としての応用のしやすさから、ディスプレイスクリーンやスマートウィンドウなどのコーティングとして広く使用されている。

医学文献に報告されているインジウム肺の症例は20例未満である(Chonan et al 2019)。もっとも一般的な異常は、肺胞蛋白症、牽引性気管支拡張症及び「ハニカム」変化を伴う肺線維症である。イギリスでは症例は報告されていないが、リサイクル産業などで曝露の可能性がある。

コバルト/炭化タングステン/ハードメタル病(コバルト関連間質性肺疾患)

ハードメタルは、炭化タングステン、5%~10%のコバルト、及びタンタル、チタン、ニッケル、ニオブ、クロムなどの金属の混合物を高温で加熱することによって製造される。こうしてできた素材は、ダイヤモンドよりわずかに硬度が低く、高温に強い。これらの特性により、金属や岩石を機械加工、研削、穴あけ、切断するための工具に最適である。硬い金属は、耐久性を高めるために柔らかい金属をコーティングするためにも使用できる。コバルトやその他の金属粒子への曝露は、とくに研削、研磨、機械加工、コーティングといった硬質金属工具製造の最終工程で発生する。

金属そのものではなく、硬い金属に含まれるコバルトがじん肺の原因である可能性が高い。ダイヤモンド研磨機は、研磨面が最大90重量%のコバルトを含む金属マトリックスで固められた高速研磨工具を使用する。この工具の使用は、硬金属病に似た症状と関連している(Demedts et al 1984)。そのため、硬金属病ではなく、より一般的なコバルト関連間質性肺疾患(CRILD)という用語を使用するのが適切であることが多い。

CRILDのもっとも一般的な病理学的特徴は、肺胞内マクロファージ、他の細胞を共食いする多核巨細胞、間質性単核球浸潤を伴う巨細胞性間質性肺炎

(GIP)であり(Choi et al 2005)、典型的には気道中心の線維化である(Adams et al 2017)。対象者の約10~20%は、通常の間質性肺炎(UIP)型パターンまたは「ハニカム」型パターンを伴うびまん性肺線維症の特徴を有する。GIPを伴わないUIP型の線維化パターンを有する患者も同程度存在する。その他、過敏性肺炎、落屑性間質性肺炎、非特異的間質性肺炎、肉芽腫性肺疾患など、あまり報告されていない病理所見もある。これらの状態は比較的まれであり、また他の病態でもみられるため、CRILDとの関連性はあまり定かではない。

CRILDは見かけ上低レベルの曝露で発症することがあり(Sprince et al 1994)、免疫過敏症がその発症に何らかの役割を果たしている可能性を示唆している。CRILDに対する遺伝的感受性は、HLA-DPグルタミン酸69との関連という形で報告されており、このグルタミン酸69はコバルトとの結合や金属の取り込みと関連している(Potolicchio et al 1997)。

職業歴は、CRILDを認識するうえで重要である。患者は亜急性または慢性の息苦しさを呈し、放射線学的な「すりガラス」陰影やUIP型肺線維症を伴う。典型的な病理学的特徴は肺生検で認められる。

https://www.gov.uk/government/publications/review-and-update-of-the-prescription-for-prescribed-disease-d1-pneumoconiosis/review-and-update-of-the-prescription-for-prescribed-disease-d1-pneumoconiosis