令和5年度化学物質管理に係る専門家検討会報告書 令和6(2024)年1月31日厚生労働省労働基準局安全衛生部

目次

Ⅰ 検討の趣旨及び経緯等

1 検討の趣旨

今般、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)のうち、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)等の特別則の規制の対象となっていない物質を起因とするものが多数を占めている。これらを踏まえ、従来、特別則による規制の対象となっていない物質への対策の強化を主眼とし、国によるばく露の上限となる基準等の制定、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みの整備・拡充を前提として、事業者が、危険性・有害性の情報に基づくリスクアセスメントの結果に基づき、国の定める基準等の範囲内で、ばく露防止のために講ずべき措置を適切に実施する制度を導入することとしたところである。

この制度を円滑に運用するために、学識経験者からなる検討会を開催し、2に掲げる事項を検討する。

2 検討会の検討事項

(1) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質のばく露の濃度の基準及びその測定方法

(2) 労働者への健康障害リスクが高いと認められる化学物質の特定並びにそれら物質の作業環境中の濃度の測定及び評価の基準

(3) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質に係るばく露防止措置

(4) その他

3 検討の経緯

本年度の検討の経緯は次に掲げるとおりである。

○ 第1回検討会(令和5年6月8日10:00-12:00)
① 令和5年度検討スケジュール
② 皮膚から吸収・侵入して健康障害を生ずるおそれが明らかな物質の特定
③ その他

○ 第2回検討会(令和5年7月18 日14:00-17:00)
※ 全般事項の構成員と毒性に係る構成員のみ
① 濃度基準値の検討
② その他

○ 第3回検討会(令和5年8月28 日14:00-17:00)
① 濃度基準値の検討
② 濃度基準値設定対象物質ごとの測定方法について
③ 個人ばく露測定の精度管理について
④ その他

○ 第4回検討会(令和5年10 月6 日14:00-17:00)
① 濃度基準値の検討
② 濃度基準値設定対象物質ごとの測定方法について
③ 個人ばく露測定の精度の担保等について
④ その他

○ 第5回検討会(令和5年11 月6日14:00-17:00)
① 濃度基準値の検討
② 濃度基準値設定対象物質ごとの測定方法について
③ 個人ばく露測定の精度の担保等について
④ その他

○ 第6回検討会(令和5年12 月22 日14:00-17:00)
① 濃度基準値の検討
② 濃度基準値設定対象物質ごとの測定方法について
③ 作業環境測定(個人サンプリング法)の対象物質の拡大の検討
④ その他

○ 第7回検討会(令和6年1月15 日14:00-17:00)
① 濃度基準値の検討
② 濃度基準値設定対象物質ごとの測定方法について
③ 令和5年度報告書案について
④ その他

4 構成員名簿

(全般に関する事項)

大前 和幸慶應義塾大学 名誉教授
尾崎 智一般社団法人 日本化学工業協会 常務理事 環境安全 レスポンシブル・ケア推進 管掌
小野 真理子独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター 化学物質情報管理部 特任研究員
城内 博独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター長
髙田 礼子聖マリアンナ医科大学 医学部予防医学教室 主任教授
鷹屋 光俊独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 所長
武林 亨慶應義塾大学 医学部 衛生学 公衆衛生学教室 教授
平林 容子国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター長
宮内 博幸産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学講座 教授
宮本 俊明日本製鉄株式会社 東日本製鉄所 統括産業医
最川 隆由一般社団法人 全国建設業協会 労働委員会 労働問題専門委員 西松建設株式会社安全環境本部 安全部 担当部長

(毒性に関する事項)

上野 晋産業医科大学 産業生態科学研究所 職業性中毒学研究室 教授
川本 俊弘中央労働災害防止協会 労働衛生調査分析センター所長
宮川 宗之帝京大学 医療技術学部 スポーツ医療学科 非常勤講師

(ばく露防止に関する事項)

津田 洋子帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 講師
保利 一産業医科大学 名誉教授
山室 堅治中央労働災害防止協会 労働衛生調査分析センター 上席専門役
(50音順)

Ⅱ 濃度基準値

第1 濃度基準値の適用等(昨年度整理した事項)

※詳細は、「令和4年度化学物質管理に係る専門家検討会報告書(令和5年2月10日)」参照。

1 混合物への濃度基準値の適用

(1) 混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用する場合、それら物質の相互作用による複合的な生物学影響が単一物質による影響の合算と同じ場合(相加効果)や単一物質による影響の合算より大きい場(複合効果)によって毒性が増大するおそれがあることについては、米国、英国、ドイツ各国の職業ばく露限度策定機関で一致した見解となっている。しかし、複数の化学物質による相互作用は、個別の化学物質の組み合わせに依存するため、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用する複数の化学物質による混合であったとしても、その限度値の適用を単純な相加式で一律に行うことついて、十分な科学的根拠があるとまではいえず、相加式による限度の換算を推奨すべきかついては、各機関で判断が分かれている。また、各機関で採用している相加式は、閾値が明らかな確定的健康影響を対象にしており、確率的影響である発がん性に対して適用する趣旨ではない。
(2) このため、混合物に対する濃度基準値の適用においては、混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって標的臓器することが明らかな場合には、それら物質よる相互作用を考慮すべきという趣旨から、次に掲げる相加式を活用してばく露管理行うことに努めるべきであることを濃度基準値の適用に当たって留意事項として規定すべきである。
C1/L1+C2/L2+…+Cn/Ln≦1
ここで、C1,C2,…,Cnは、それぞれ物質1,2,…,nのばく露濃度であり、L1,L2,…,Lnは、それぞれ物質1,2,…,nの濃度基準値である。

2 濃度基準値の単位

(1) 室温において、蒸気とエアロゾル粒子が同時に存在する物質については、空気中濃度の測定に当たっては、濃度の過小評価を避けるため、蒸気と粒子の両者を捕集する必要がある。蒸気によるばく露がばく露評価に与える影響は、物質の濃度基準値が、当該物質が飽和蒸気圧に達した場合の濃度と比較して相対的に小さいほど大きくなる。このため、蒸気と粒子の両方を捕集すべき物質は、原則として、当該物質が飽和蒸気圧に達した場合の濃度の濃度基準値に対する比(飽和蒸気圧に達した場合の濃度/濃度基準値)が0.1から10までの物質とすべきである。当該比率が0.1より小さい場合は、粒子によるばく露が支配的となり、10より大きい場合は、蒸気によるばく露が支配的になると考えられるからである。ただし、作業実態において、粒子や蒸気によるばく露が想定される物質については、当該比が0.1から10までに該当しなくても、蒸気と粒子の両方を捕集すべき物質として取り扱うべきである。

(2) 当該物質の濃度基準値の単位については、複数の単位の基準値があることによる測定及び分析における混乱を避けるため、管理濃度と同様に、ppmかmg/m3のいずれかの単位を採用すべきである。ただし、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号。以下「技術上の指針」という。)で定める予定の個別物質ごとの標準的な測定方法において、当該物質については、蒸気と粒子の両方を捕集すべきであることを明記するとともに、標準的な捕集方法として、蒸気を捕集する方法と粒子を捕集する方法を併記するとともに、蒸気と粒子の両者を捕集する方法(相補捕集法)を規定すべきである。

(3) さらに、技術上の指針において、ppmからmg/m3への換算式(室温は25℃とする。)を示し、事業場の作業環境に応じ、当該物質の測定及び管理のために必要がある場合は、濃度基準値の単位を変換できるように配慮すべきである。

3 濃度基準値の検討の進め方

(1) 選定した濃度基準値設定対象物質について、(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所(安衛研)における専門家会議で文献調査等を行い、濃度基準値の提案値を含めた報告書を作成することとした。提案値は、有害性に関する一次文献(入手できない場合には、二次文献)に基づき、初期調査と詳細調査の2段階で検討する。初期調査の情報では提案値を決定できない場合には、詳細調査を行い、その情報に基づき決定することとした。

(2) この濃度基準値の提案値及びその根拠論文等について、本検討会で妥当性を検討し濃度基準値を決定することとした。濃度基準値の検討に当たっては、①測定方法が定められていること、②有効な呼吸用保護具があることを考慮することとし、測定方法又は有効な呼吸用保護具がない場合は、これらが確立するまでの間、濃度基準値は設定しないこととした。

(3) なお、濃度基準値の提案値は、現時点での知見に基づき設定されるものであり、基準値に影響を与える新たな知見が得られた場合等においては、再度検討を行う必要があるものである。

4 発がん性物質への濃度基準値の設定の考え方

(1) 米国、英国、ドイツの職業ばく露限度策定機関では、ヒトへの発がん性の確からしさの分類に応じ、ヒトへの発がん性が明確な場合は、安全な閾値が設定できないという理由から、限度の設定を行っていないことがわかる。そのような物質については、事業者に対し、ばく露を最小化することを強く求めている。

(2) 一方、各基準策定機関ではヒトへの発がん性が明確でない物質に対しては、非がんの疾病を対象に、安全な閾値として、限度を定めている。閾値を設定する理由としては、ヒトや動物への遺伝毒性がない、又は、あったとしても非常に少ない、かつ、発がんリスクへの寄与が小さいことをあげている。

(3) このため、濃度基準値の設定においては、主としてヒトにおける証拠により、ヒトに対する発がん性が知られている物質(国が行うGHS分類で発がん性区分1Aに分類される物質)については、発がんが確率的影響であることから、長期的な健康影響が発生しない安全な閾値である濃度基準値を設定することは困難である。この場合、濃度基準値を設定しないことで、安全な物質であるという誤解が発生しないよう、検討結果において安全な閾値が設定できない物質であることを明示するべきである。さらに、例えば、技術上の指針にこれら物質の一覧を掲載する等に加え、事業者に対し、数理モデル等によるリスク評価を活用し、これら物質に対するリスクアセスメントを適切に実施し、その結果に基づき、労働者がこれら物質にばく露される程度を最小限度にしなければならないことの周知を図る必要がある。

(4) 発がん性区分1Bに分類される物質については、発がん性の証拠の強さの観点からヒトに対して恐らく発がん性があるとされる物質であり、ヒトへの発がん性が明確であるとまではいえない。この場合、ヒトに対する生殖細胞変異原性などの遺伝毒性が明らかでない、又は、十分に小さい、かつ、発がんリスクへの寄与がない、又は、小さいことが評価できる物質であって、非がん疾病について、無毒性量(NOAEL)等が明らかなものについては、濃度基準値を定めるべきである。濃度基準値を設定すべきか否かの判断は、個別の物質ごとに発がんが見つかったばく露濃度のレベルや、遺伝毒性等に関する根拠文献の評価により判断されるべきである。

(5) 発がん性区分2に分類される物質は、ヒトに対する発がん性が疑われる物質であり、このうち、非がん疾病について、無毒性量(NOAEL)等が明らかなものについては、濃度基準値を定めるべきである。ただし、生殖細胞変異原性が区分1に分類されているなど、遺伝毒性が知られている物質については、遺伝毒性に関する根拠文献の評価により、濃度基準値の設定を個別に判断するべきである。

第2 令和5年度の濃度基準値の検討結果

1 各年度の濃度基準値設定候補物質

※各年度の濃度基準値設定対象物質リストは別表1-1~1-3参照。

2 令和5年度の濃度基準値及びその測定方法の検討結果

物質ごとの濃度基準値の案及び測定方法、留意事項は別表2のとおりである。なお、発がん性が明確であるため、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値は設定しなかった物質についても別表2に掲載している。検討された物質の文献調査結果は別紙1のとおりである。

測定方法については、標準的な手法として示しているものであり、同等以上の精度が確保できる場合は、その他の方法で行っても差し支えない。

なお、令和4年度に濃度基準値を設定した物質の個別具体の測定法は別紙2のとおりである。

3 濃度基準値を設定しなかった物質とその理由

発がん性が明確であるため、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値は設定しなかった物質は別表3-1のとおりである(再掲)。その他の理由で濃度基準値を設定しなかった物質は別表3-2のとおりである。検討された物質の文献調査結果は別紙1のとおりである。

4 令和6年度以降に再度検討する物質とその理由

令和4、5年度に検討対象であった物質のうち、令和6年度以降に再度検討することとなった物質とその理由は別表4のとおりである。検討された物質の文献調査結果は別紙1のとおりである。

Ⅲ 個人ばく露測定の精度の担保等

第1 個人ばく露測定の精度の担保

※個人ばく露測定の精度の担保の詳細については「令和5年度化学物質管理に係る専門家検討会中間とりまとめ(令和5年11月21日)」参照。

本検討会では、個人ばく露測定の精度を担保するために測定の実施者に求められる能力や要件等についての検討を行った。検討結果は次のとおり。

1 個人ばく露測定のデザイン及びサンプリングを行う者の要件等

(1) 個人ばく露測定の測定対象者の選定は、個人サンプリング法による作業環境測定とは考え方が異なる。また、作業環境測定より多様な化学物質等の測定が必要なため、捕集方法や試料採取機器、ポンプの流量については、作業環境測定より広範な知識が求められる。このため、作業環境測定士(第一種・第二種)については、追加講習の受講が必要である。

(2) 講習の品質管理の観点から、都道府県労働局長により登録を受けた機関が実施するとともに、修了試験を行うべきである。講師要件については、作業環境測定士に対する講習の講師要件等を踏まえて決定すべきである。

(3) オキュペイショナル・ハイジニストの職務には、個人ばく露測定のデザイン及びサンプリングが含まれるため、デザイン及びサンプリングを行う資格者として認めることが妥当である。

(4) 事業場に所属する作業環境測定士は、現場の作業内容をよく理解し、作業者とのコミュニケ-ションが取りやすいため、最も望ましい。これが困難な場合は、均等ばく露作業の特定等の際に作業内容をよく知る化学物質管理者が関与することが望ましい。

2 個人ばく露測定のサンプリングのみを行う者の要件等

(1) 1に掲げる資格者から指示を受けてサンプリングのみを行う者については、サンプリングの実務に必要な知識に関する講習を受講した者を認めるべきである。

(2) 講習の品質管理の観点から、都道府県労働局長により登録を受けた機関が実施すべきである。講師要件については、作業環境測定士に対する講習の講師要件等を踏まえて決定すべきである。また、幅広い者を養成する観点から、受講資格を設けるべきではなく、修了試験によって修了者の質を担保すべきである。

(3) (1)のサンプリングのみを行う者は、1に掲げる有資格者からの指示を受けた場合にのみサンプリングを実施できる者であり、(1)の資格者単独でサンプリングを実施することはできないことに留意する必要がある。

(4) なお、測定が終了した試料採取機器の回収・保存、分析機関への搬送等の職務は、1に掲げる資格者が担うべきである。

3 個人ばく露測定の分析を行う者の要件等

(1) 分析機器を保有し、それを用いた精度を担保した分析が可能であるという意味で、第一種作業環境測定士(機関)が最も望ましい。しかし、作業環境測定機関だけでは、分析対応能力が不足する可能性があるため、他法令に基づく測定関係の資格者も分析可能とすべきである。

(2) これらを踏まえ、分析に関する資格者は、測定対象物質の捕集及び分析に必要な試料採取機器及び分析機器を有する者であって、次に該当する者とすべきである。

・ 第一種作業環境測定士
・ 作業環境測定機関(当該機関に所属する第一種作業環境測定士が分析を実施する場合に限る。)
・ 1級化学分析技能士(所属事業場に係る個人ばく露測定における試料の分析に限る。)

(3) 一つの測定機関(者)が、濃度基準値設定物質(リスクアセスメント対象物)の全てを分析するための分析機器を保有することは困難であるため、分析機関が相互に連携・分担し、多様な化学物質の分析を可能とする仕組みが必要である。

第2 リスク見積りの際のばく露の程度の把握について

※詳細は別紙3参照。

技術上の指針において確認測定(ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定をいう。以下同じ。)を行う必要があるとされる「ばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれ」の有無の判断基準について、その運用について明確にするため、関係指針等をレビューした結果は以下のとおり。

1 確認測定の趣旨等に関する関係指針の規定

(1) 技術上の指針の関連する規定から、確認測定は、リスク見積りを行うための手段であることは明らかであり、確認測定を含めたリスク見積りの結果に応じ、リスク低減措置を検討することになる。同様に、「当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれ」の判断もリスク見積りの一環であり、材料等の代替、工学的対策、管理的対策、保護具の使用という優先順位に基づいてリスク低減措置を検討するより前の段階に行われるものである。リスク見積りの趣旨は、材料等の代替、局所排気装置等の設置や、呼吸用保護具の使用等のリスク低減措置を検討するに足る材料を提示することであり、これらのリスク低減措置は、すべて、労働者の呼吸域の濃度が濃度基準値を超えることを前提としていることから、「当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれ」の判断は、労働者の呼吸域の濃度によってなされる必要がある。

(2) ここで、仮に、リスク見積りの段階で、優先順位に基づくリスク低減措置の検討をしないまま、その結果を先取りして、最も優先順位の低い保護具をリスク低減措置とすることを前提として、数理モデルでばく露の程度を推計するとした場合、呼吸用保護具より優先度の高いリスク低減措置を検討する余地がなくなってしまう。このような考え方は、化学物質リスクアセスメント指針(化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号)をいう。)や技術上の指針に基づくリスク低減措置の優先順位の考え方と合致せず、適切でない

(3) なお、指針7-2(1)に明記されているように、保護具の使用を除くリスク低減措置を検討した後に、呼吸用保護具の使用によりリスクを低減せざるを得ない場合には、指針7-3及び7-4に定めるところにより、呼吸用保護具をリスク低減措置として採用することができる。また、リスク低減措置の検討に資するため、数理モデルを活用し、工学的対策や呼吸用保護具の使用等のリスク低減措置を実施した場合のばく露の推定を行うことも差し支えない。

2 呼吸用保護具に関する法令及び指針の規定

(1) 金属アーク溶接等を継続して行う屋内作業場及び改善が困難な第三管理区分作業場においては、正確な要求防護係数を算出する観点から溶接ヒューム測定告示(金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等(令和2年厚生労働省告示第286号)をいう。以下同じ。)又は第三管理区分測定告示の規定による個人ばく露測定を実施し、その結果に応じ、有効な呼吸用保護具を使用させることが義務付けられており、数理モデル等による呼吸域の濃度や呼吸用保護具の内側濃度の推定で代えることはできないことに留意が必要である

(2) 技術上の指針においても、個人用保護具を労働者に使用させる場合には、個人ばく露測定による確認測定を数理モデルによる呼吸域の濃度や呼吸用保護具の内側の濃度の推定で代えることはできないことに留意が必要である。

3 技術上の指針の改正について

以上を踏まえ、リスク見積りの趣旨をよりわかりやすくするため、次に掲げる点について、技術上の指針で明確にする。

(1) 技術上の指針3-1(1)の規定について、事業者は、リスクアセスメントによる作業内容の調査、場の測定の結果及び数理モデルによる解析の結果等を踏まえ、労働者の呼吸域における物質の濃度が八時間濃度基準値の2分の1程度を超えると評価された場合は、確認測定を実施することを明確にする。

(2) (1)の趣旨は、リスク見積りの一環として、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれのある屋内作業の有無を判断するために、確認測定を実施する基準であることを明確にする。

(3) 「労働者の呼吸域」の定義として、溶接ヒューム測定告示の施行通達(金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について(令和2年7月31日付け基発0731第1号))に合わせる形で、当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした半径30センチメートルの顔の前方に広がった半球の内側ということを技術上の指針にも明記する。

Ⅳ その他

1 皮膚から吸収・侵入して健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな物質の特定

※詳細は別紙4参照

労働安全衛生規則第594条の2で規定する「皮膚等障害化学物質等」のうち、「皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれのあることが明らかなもの」(以下「皮膚吸収性有害物質」という。)を特定するための要件について検討を行った。検討結果は次のとおり。

(1) ばく露限界等を提案する諸機関(※)における、皮膚吸収性有害物質と同様の毒性学的概念であるSkin Notationを付与するパターンを踏まえると、皮膚吸収性有害物質に該当する条件は、次のいずれかに合致することとすべきである。

● ヒトにおいて、経皮ばく露が関与する健康障害を示す情報(疫学研究、症例報告、被験者実験等)があること
● 動物において、経皮ばく露による毒性影響を示す情報があること
● 動物において、経皮ばく露による体内動態情報があり、それら情報を用いたモデル計算等から、経皮ばく露により職業ばく露限界値等を超えるおそれが評価できるなど、ばく露限界値等と関連させて経皮毒性を評価できる十分な情報がある。

(2) さらに、国によるGHS分類はされているが諸機関の評価書内に経皮ばく露に関する情報がない(ばく露限界値はある)物質や、評価書自体がない物質のうち、動物急性経皮毒性区分1に該当する物質が42物質ある。これら42物質のうち、ばく露限界値がある2物質及び(1)により皮膚吸収性有害物質に分類される24物質を除いた16物質についても、皮膚吸収性有害物質に該当すると判断すべきである。

(3) 経皮ばく露による健康障害の予防的観点から、今後、皮膚吸収性有害物質になる可能性がある物質について、最新の知見を収集し、皮膚吸収性有害物質への該当の有無を検討する仕組み等を検討すべきである。

(4) 皮膚吸収性有害物質の経皮ばく露の防止には、有害化学物質との接触機会を低減できる作業環境管理や作業手法の管理が重要であり、保護具の使用は最終的な手段である。保護具の使用等に関しての教育等が必要である。

※米国産業安全衛生専門家会議(ACGIH)、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国労働安全衛生庁(OSHA)、ドイツ学術振興会(DFG)、英国安全衛生庁(HSE)、日本産業衛生学会(産衛)

2 作業環境測定(個人サンプリング法)における測定手法の検討について

※詳細は別紙5参照

昨年度の化学物質管理に係る専門家検討会において、個人サンプリング法による作業環境測定(C・D測定)は、適用できる作業場の種類を拡大していくべきとの結論が得られ、別紙5表1に掲げる26物質については、引き続き検討を行うこととなっており、本年度に行った検討の結果は次のとおり。

(1) 別紙5表1の上の表に掲げる物質のうち、別紙5表2に掲げるジクロルベンジジン及びその塩他4物質については、現行の作業環境測定基準にない測定法(NIOSH法)を取り入れること等で測定可能かを検討した結果、測定技術上の問題はないと判断された。

(2) 別紙5表1の下の表に掲げる物質のうち、別紙5表3に掲げる塩素化ビフェニル他8物質については、それぞれの物質に関して検討が必要な理由について個別に評価した結果、測定技術上の問題はないと判断された。

(3) 以上から、個人サンプリング法による作業環境測定の対象として、別表5の14物質を追加すべきである。それに伴い、別表5の試料捕集方法及び分析方法を追加する(下線部)。

3 作業環境測定の分析方法の追加について

※詳細は別紙5参照

作業環境測定における分析手法に誘導結合プラズマ質量分析方法(ICP-MS)を追加することについて、別紙5の表4により検討した結果、測定技術上の問題はないと判断された。このため、別表6に掲げるベリリウム及びその化合物その他6物質の分析方法に誘導結合プラズマ質量分析方法(ICP-MS)を追加すべきである。

4 有機溶剤等の消費量の推定に用いる数値の改正

(1) 有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)第17条第1項等に規定する作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量の算定について、厚生労働大臣が定める数値を乗じて算定している。厚生労働大臣が定める数値は、それぞれの製品における有機溶剤等の含有率に基づき定めたものであるが、「その他の接着剤」など多数の製品が含まれる区分についても共通の数値を定めている。

(2) しかし、技術の進歩により多様な製品が市場に流通し、その製品ごとに有機溶剤の含有率も様々であることから、多数の製品が含まれる区分について、共通の含有率を定めることは適当ではない。このため、製品の有機溶剤等の含有率に応じて個別に数値を設定が可能となるようにすべきである。

(3) 具体的には、有機溶剤等の量を乗ずべき数値のうち、「接着剤」のうちの「その他の接着剤」の数値について、「当該接着剤に含有される有機溶剤の量(当該接着剤が有機溶剤を二以上含有する場合にあっては、それらの合計値。)を当該接着剤の量で除した値」といった規定に改めるべきである。

(4) 同様の改正を「その他の表面加工剤」「その他のインキ」、「その他の工業用油剤」、「その他の繊維用油剤」、「その他の殺菌剤」、「その他の塗料」、「その他の絶縁用ワニス」についても行うべきである。

[以下は稿末の報告書PDF参照]

別表1-1 濃度基準値設定対象物質リスト(令和4年度からの積み残し分)
別表1-2 濃度基準値設定対象物質リスト(令和5年度)
別表1-3 濃度基準値設定対象物質リスト(令和6年度)
別表2 物質ごとの濃度基準値の案及び測定方法
別表3 濃度基準値を設定しなかった物質とその理由
別表3-1 発がん性が明確であるため、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値は設定できない物質(一部再掲)
別表3-2 発がん性以外の理由で設定しない物質
別表4 令和6年度以降に再度検討する物質とその理由
別表5 個人サンプリング法による作業環境測定の対象物質、試料採取方法及び分析方法の追加(下線部)
別表6 作業環境測定の分析手法の追加

令和5年度化学物質管理にかかる専門家検討会報告書2024年1月31日厚生労働省労働基準局安全衛生部(pdf)

同上 別紙(pdf)

「令和5年度化学物質管理に係る専門家検討会」の報告書を公表します(厚生労働省2024年1月31日)