労働者には「義務」使用者には「自律」、重大災害削減行程表 2022年12月1日 韓国の労災・安全衛生
来年、危険性評価が300人以上の事業場から段階的に義務化される。危険性評価をしなかったり、杜撰に行った場合、是正命令や罰則を受けるように関連の規定を改正する。雇用労働部が『重大災害削減ロードマップ』を発表した。
ロードマップは、企業が自ら危険要因を発掘して改善する『危険性評価』を中心とした『自己規律予防体系』の構築によって、死亡事故万人率を経済協力開発機構(OECD)の平均レベルまで下げるという目標を含んでいる。昨年の労災事故死亡者は828人で、2026年までに、今の3分の1を減らさなければならない。
労働界は「既に失敗した自律安全政策の二番煎じ」とし、「企業に対する処罰を緩和するだけ」と批判した。一方財界は、「却って規制だけが増える」と反発した。
「企業、規制慣れして自らの危険予防能力がない」
危険性評価を2025年までに義務化、災害調査意見書は来年から公開
労働部長官は30日に記者ブリーフィングを行い「重大災害削減ロードマップ」を発表した。昨年、韓国の労災事故死亡万人率は0.43人で、8年間足踏み状態だ。労働部は重大災害が減らない理由として「規制・処罰中心の行政によって、企業が他律的な規制に慣れ、自主的に危険要因を改善するシステムと力量が非常に貧弱」であるためだと診断した。「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)の施行後も、企業が安全力量の強化に投資するよりも、大型法律事務所への諮問などで、処罰の回避に注力する傾向を示しているのも同じ脈絡と看た。
この解決策として示されたのが『自己規律予防体系』だ。労働省はイギリスの『ローベンス報告書』に注目した。1972年に発表されたローベンス報告書は、きめ細かな法と規制だけでは重大災害予防に限界があるとし、事業場の自律安全予防体系の樹立を提案している。これを受け容れたイギリスは、この50年間で、年間1000人の事故死亡者を、200人台に減らすことに成功した。
労働部は『自己規律予防体系』の核心的な手段として、『危険性評価』を提示した。2013年に導入した危険性評価は、労使が一緒に事業場内の有害・危険要因を自ら把握し、改善対策を樹立して履行する制度だ。強制性がないため、現場では正しく作動していない。労働部は危険性評価を、来年、300人以上の事業場から義務付け、2025年には5人以上の事業場にまで、段階的に拡大すると明らかにした。産業安全保健法を改正して罰則条項を新設し、重大災害が発生した場合、危険性評価関連の内容を捜査資料に記載して、検察と裁判所が求刑・量刑を判断する時に考慮するようにする方針だ。この間『捜査中の事件』という理由で非公開だった災害原因調査意見書も、来年から公開する予定だ。
安全保健規則を、処罰と予防に分類
労働者を制裁するための『標準安全保健管理規定』を作る
法規と行政も危険性の評価を中心に改編する。定期産業安全監督を『危険性評価点検』に変える。労働部は「この間、事業場では監督に摘発されれば改善するというよりも、『運が悪かった』と片付けて次に進む慣行がある」とし、「今後は、勤労者へのインタビューによって危険性の評価結果を認知しているか、事故事例が共有されていたか、などを点検する予定」とした。今年の産業安全監督は2万7千ヶ所を対象に実施したが、定期監督の対象事業場は1万1千ヶ所だった。
産業安全保健基準に関する規則(安全保健規則)も全面的に見直す。現在679条に達するほどの膨大な規則を、処罰と予防規定に分類する。労働部は、来年上半期に『産業安全保健法令プロジェクトチーム』を運営し、改善案を議論する予定だ。
労働部は労働者の安全義務も強調した。自己規律予防体系がきちんと作動するためには、労働者が安全保健の主体としての役割と責任を明確にし、義務を果たすべきだということだ。ところが、労働者の参加よりは、規制に焦点が当てられている。労働部は、安全規則に繰り返して違反した労働者に対する制裁理由と手続きなどを盛り込んだ『標準安全保健管理規定』を来年までに用意する。企業が就業規則を作成する時、労働者の安全規則遵守の可否によって、褒賞と制裁ができるように指導する予定だ。労働者の作業中止権に関するマニュアルも作る。作業中止の具体的な範囲と要件などが盛り込まれる予定だ。
労働界「使用者の軽い処罰志向」
財界「もう一つの規制だけが生まれる」
労働界は、今回のロードマップは、企業に対する処罰と監督を緩め、労働者に対する統制だけを強化する対策だと反発している。危険性評価に労働者の参加を担保する制度的な装置が不足し、実効性も不足しているという指摘だ。労働部は、危険性評価に労使の参加を強調しているが、実質的な措置としては、『作業前の安全点検会議』の強化に言及しているだけだ。民主労総は「下請け労働者の工程に関する元請けの危険性評価実施の義務や、下請け労働者の参加方法などが細部的に準備されるべきだ」とし、「特に2024年から50人未満の事業場にも重大災害処罰法が適用される以上、危険性評価の義務化も繰り上げられるべきだ」と指摘した。
危険性評価を重大災害処罰法の捜査資料に摘示し、裁判でも考慮するという点も、ややもすると企業に免罪符的な効果を与えかねないと憂慮した。韓国労総は、「義務事項である危険性評価を、あたかもすごい努力をしたかのように包装し、政府が捜査を手加減することで軽い処罰を指向しているのではないか」と指摘した。民主労総は「安全認証企業に、重大災害処罰のレベルを減軽するやり方と同じ趣旨だ」と批判した。
特に、定期監督を危険性評価点検に切り替えることは、政府の「監督放棄」に他ならないという声が大きい。韓国労総は「企業の自律的な労災予防のためには、更に膨大で細かい規定が必要だが、逆方向に進んでいる」と批判した。民主労総も「安全保健規則は産業安全保健法38条(安全措置)と39条(保健措置)の実質的な内容で、各条項全体が、違反した場合の刑事処罰の対象になる」、「これを処罰と予防規定に分類するということは、処罰規定を大幅に縮小するということだ」と指摘した。
財界は危険性評価の義務化などロードマップの措置が、新しい処罰と規制要素になるだろうと不満を吐露した。経総は「危険性評価の義務化は、既存の産業安全保健法との重複規制の整備と恣意的な法執行の防止のための明確な基準などが前提されなければ、また別の規制に過ぎず、実効性を担保できない」と主張した。中小企業中央会は、「重大災害処罰法と産業安全保健法の強い処罰規定はそのままにして、危険性評価の義務化によって新しい処罰規定を作るのは、むしろ労働規制を強化するおそれがある」とした。
2022年12月1日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=212249