欧州ナショナルセンターの安全保健目標「ビジョン・ゼロ」 2022年2月3日 韓国の労災・安全衛生

欧州連合(EU)の27加盟国で、毎日事故で亡くなる労働者の数は9人に達する。災害に遭う労働者は毎年300万人を超える。EU加盟国で仕事による事故で亡くなった人は、2018年だけで3332人に達し、その年の傷病(負傷と疾病)の被害者も310万人に達した。また、毎年12万人が仕事のために癌に罹り、この内、8万人が死亡する。

こうした問題に対応するため、EUナショナルセンター(ETUC)は「ビジョン・ゼロ」を掲げている。「ビジョン・ゼロ」はEU執行委員会が昨年6月に発表した「EUの職場安全保健基本戦略」(EU Strategic Framework on Health and Safety at Work 2021~2027)で示されたもので、仕事による死を「ゼロ」にするという政策目標だ。ETUCは更に一歩進んで、仕事による死だけでなく、仕事による負傷と疾病も「ゼロ」にしなければならないと強調する。

EU加盟国はEUの基準に合わせて「ビジョン・ゼロ」計画を策定し、実行しなければならないということだ。その第一歩は、事故予防のための体系的な産業安全保健計画を作る責任が使用者にあることを認めることから始めなければならないと、ETUCは強調している。もちろん、使用者の安全保健計画がきちんと作られるためには、労働組合との徹底した協力が欠かせない。

「ビジョン・ゼロ」の実現に向けて、ETUCが使用者責任の次に強調するのは、加盟国政府の効果的かつ効率的な法執行だ。そのためには、定期的な労働監督の実施に加え、当該産業の労働者を組織している労働組合の安全保健代表者と監督当局が、緊密な協力関係を構築しなければならない。

ETUCはEU加盟国の勤労監督件数が減っていると評価している。主な理由は、加盟国政府が勤労監督のための人材と資源に投資をしていないことだ。ETUCは、加盟国が国際労働機関(ILO)が勧告している最低基準の、労働者1万人当たりに監督官一人を満足させるべきだと主張している。また、使用者が安全保健義務をきちんと履行しない場合、強力な監督と処罰が伴わなければならないと強調する。

ETUCは、安全保健に関して具体的な行動が必要な問題として、△COVID-19対応、△化学物質の使用、△筋骨格系疾患、△ストレスと心理社会的(psychosocial)危険、△職場での暴力といじめ、などを挙げている。COVID-19で労働者の雇用が不安になり、収入が減少したが、労働市場の下層に位置する労働者が最も大きな被害を受けている。労働市場の中上位層に位置する労働者も、在宅勤務で職場と家庭の境界が不明瞭になった。このようにCOVID-19は、労働市場の全般に衝撃を与え、労働者を心配と不安に陥れている。労働者のストレスと心理・社会的リスクが大きくなったのだ。

ETUCはEU加盟国で、仕事による死亡者の53%ががんのためだという15年の調査結果に注目している。『職場における発がん物質と突然変異物質に関するEU指針』の改正を求めている。

筋骨格系疾患はEU加盟国で最も一般的な職業病で,数百万人が苦しんでいる。『2019年欧州企業のリスク要因に関する調査(2019 EUropean Survey of Enterprise on New and Emerging Risks)』によると、労働者の60%が筋骨格系の問題で、職場や家庭で生活の質が落ちたと答えた。ETUCは筋骨格系疾患による病気休暇や障害、そして早期退職によって発生する社会的・経済的損失を防ぐべきだと指摘している。

女性・移住労働・障害・低学歴・同性愛・青少年・老人といった脆弱労働者に加えられる身体的な暴力や心理・社会的な暴力も、深刻な安全保健問題だとETUCは強調する。職場の危険要素を評価して予防措置を設計する際、労働者の多様性を考慮し、反映すべきだと注文する。

最後に、ETUCは、気候変化やプラットフォーム作業、人工知能やデジタル化が仕事の世界で引き起こす新たな危険についても、事前に準備すべきだと主張している。EU執行委員会がCOVID-19を職業病と認めたことを歓迎しつつ、「ビジョン・ゼロ」の実現のためには、安全保健措置の設計と実行に、労働組合の適切な介入を保障すべきであると強調する。

仕事による死の被害者を「ゼロ」にするだけでなく、仕事による負傷と疾病の被害者を「ゼロ」にすることも可能だというETUCの「ビジョン・ゼロ」キャンペーンは、重大災害処罰法を施行したばかりの韓国に様々な示唆を与えている。

2022年2月3日 毎日労働ニュース ユン・ヒョウォン客員記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=207226