ILO:労働における有害な化学物質への曝露と結果としての健康影響:グローバルレビュー(2021.5.7) 知見の概要:シリカ

▶シリカ、または二酸化ケイ素(SiO2)は、天然のケイ素と酸素の化合物である。シリカのもっとも豊富な形態は、α-石英[アルファクォーツ]であり、一般的な用語である結晶性シリカの代わりに、石英という用語が使われることが多い。

▶吸入すると、様々な肺に関連した疾病を引き起こし、また、IARC(国際がん研究機関)は、c[結晶性]-シリカが肺がんを引き起こすという十分な証拠があると結論づけている。

▶曝露はまた、微粒子シリカ粉じんの沈着によって生じる、長期進行性の肺疾患である、珪肺の原因にもなる。

▶シリカへの職業曝露によって2019年に世界で65,000人超の死亡が生じたと推計されており、シリカへの曝露の防止が、シリカに関連した罹患率と死亡率を抑えるためのもっとも効果的な方法である。

▶WHOとILOは、吸入性シリカに曝露した労働者に対して、生涯にわたる健康監視を勧告している。

▶ジェンダーを考慮したデータはほとんどないものの、シリカへの曝露は、一般的に男性が多い、肉体労働をともなう職業でもっとも多いと考えられる。

主要な曝露業種:鉱業、建設業、農業・プランテーション・その他農村部門、製造業(非金属/鉱物製品(例えば陶器、セラミックやレンガ)及び一部の切断・成形・仕上げ)、研磨用サンドブラストを使用する隙間産業(例えば繊維/衣料、修復)
主要な健康影響:がん(肺がん)、珪肺
職業曝露の世界負荷:5千万人超(35か国を対象とした限定的データ)
労働関連健康影響:年65,000人超の死亡

曝露

吸入性のc-シリカへの職業曝露は、金属、非金属や炭鉱・精製所、花崗岩の採掘・加工現場、水圧破砕作業、採石業、鋳物工場、セラミックスやサンドブラスト作業など、幅広い加工・建設現場でもっとも多く生じている。シリカはまた、採掘される他の鉱石や物質、あるいは採掘環境を汚染し、それによって気づかずに労働者を曝露させる可能性もある。例えば、アメリカのアパラチオ山脈中央にある炭鉱では、薄い石炭の層がシリカを多く含む砂岩に挟まれており、炭鉱労働者に吸入性c-シリカへの大量の曝露が生じている。

砂や砂利の主要な成分はc-シリカである。砕石の石英/c-シリカの含有量は、地域によって異なっている。重工業では、高温または耐火性のシリカレンガ、鋳造用鋳型や金属鋳物製造用の中子の生産に、石英砂を使用している。石油・ガス産業では、岩石や珪砂を破砕して炭化水素の流れと抽出を促進する割れ目を開くために、水と砂の混合物を使用している。c-シリカは、アスファルトフィラー、レンガ、モルタル、しっくい、コーキング、屋根用グラニュール、外壁、コンクリート、人工石や建材の規格石材としても使用されている。

アメリカでは約230万人、欧州で300~500万人、日本で50万人、中国で230万人以上、インドで1,100万人、南アフリカ(ブラジル・コロンビア・チリ・ペルー)で600万人以上の労働者が、シリカに職業曝露していると推計されている。

健康影響

がん

結晶性シリカ(c-シリカ)は、IARCによって、ヒトに対して発がん性(グループ1)として分類されている。IARCによれば、c-シリカが肺がんを引き起こすという十分な証拠がある。吸入されたc-シリカの影響は、吸入可能な大きさ(10μm未満)の粒子への職業曝露と厳密に関連している。最近のコホート研究やメタアナリシスの結果は、c-シリカへの曝露は、たとえ珪肺がなかったとしても、肺がんと関連していることを確認している。肺がんのリスクは、100μg/m3以下での長期曝露によっても増加する。実際、66,000人以上の労働者を対象とした10コホートのプールドデータを用いた最近の推計では、10μg/m3という低い限界値であれば、シリカ曝露によって引き起こされる肺がんその他の疾病に関連した死亡数を大幅に予防するであろうことが示されている。c-シリカへの高レベルの曝露は、喉頭がんのリスクを高めることもわかっている。

珪肺

珪肺は、主として職業曝露の結果として生じる、c-シリカを含有する粉じんの吸入性粉じんの吸入や肺沈着によって引き起こされる、じん肺または肺線維症の一種である。治療法のない、永続的な疾病であり、吸入性粉じんへの曝露がなくなった後も悪化する可能性がある。

世界疾病負荷研究は、シリカへの職業曝露による全原因死亡が、2019年に世界で65,870人と推計している。この合計のうち、12,886人の死亡が珪肺によるものである。その他の重要な死亡原因は気管・気管支・肺がんである。WHO/ILOは現在系統的レビューを実施しており、珪肺の新しいGBD推計を知らせるだろう。じん肺の一種である珪肺は、利用できる治療法のない、治らない疾病である。

地域的傾向

低中所得諸国(LMICs)の労働者がもっともシリカに曝露している。しかし、すべての国で、曝露労働者は移住者や人種的/民族的マイノリティであることが多い。2016年に世界で、工業用の砂と砂利のかたちで、推計1億7900万トンのシリカが生産されている。上位の生産国は、アメリカ(7,700万トン)、イタリア(1,390万トン)、フランス(870万トン)、トルコ(800万トン)、ドイツ(750万トン)である。

事例研究:オーストラリアの人工石労働者
吸入性シリカの吸入による職業性肺疾患は多様であり、生命を脅かす可能性がある。過去20年間に人工石産業が成長するにつれて、臨床医は、古典的な慢性珪肺とは異なる兆候や症状をもつ独特な珪肺の発現を報告してきた。例えば、多数の人工石を使った石工たちが、珪肺のために肺移植を余儀なくされている。これらの患者には、同じ肺実質内に線維性/結節性珪肺と顕著な肺胞タンパク症の両方を有していた。疾患の放射線学的及び病理組織学的な相関関係が、文献に明確に示されてきた。

ジェンダーの役割

シリカへの曝露が多い職業の多くは重筋肉労働をともなうため、一般的に労働者の大部分が男性であることを意味している。例えば、イタリアで行われた研究では、女性よりも男性の方がシリカへの職業曝露を受けている可能性が高いと結論づけている。しかし、世界的に見ても、ジェンダーを明確に区別した監視・健康データは不足しており、また、ジェンダーが肺疾患の重症度に影響する可能性があることから、これらの分野で働く女性を見過ごしてはならない。

選択された優先行動:シリカ

国の政策措置の例

▶サンドブラストの実施の段階的禁止。サンドブラストはいくつかの国(主に高所得諸国)で数十年前から禁止されている。多くのLMICsはサンドブラストを禁止しておらず、とくにインフォーマルな環境では禁止の実施が困難であることが判明している。

政策決定者のための追加的行動

▶サンドブラストの禁止及びシリカへの労働者の曝露を低減するためのその他の措置の効果的な実施を確保するため、規制を強化するとともに、職場監督を促進する。

職業曝露限界(OELs)

▶シリカに対するOELsを更新・実施・施行するとともに、それらOELsの国際的調和を確保する。

▶OELsの策定は国及び業種によって様々である。以下の表に確立されたOELsの例を示している。

様々な国及び機関の吸入性シリカOELsの範囲の例(2020年8月
アメリカ合衆国産業衛生専門官会議(ACGIH) 0.025 mg/m3
オーストラリア(SafeWork) 0.05 mg/m3
カナダ 0.025 mg/m3
欧州委員会職業曝露限界専門委員会(SCOEL) 0.05 mg/m3
南アフリカ 0.1 mg/m3
アメリカ非規制(NIOSH) 0.05 mg/m3
アメリカ規制(OSHA:一般産業/海事) 0.05 mg/m3
アメリカ規制(MSHA:鉱業) 0.1 mg/m3

現実的な職場介入の例

▶必要に応じて国の勧告にしたがって、管理のヒエラルキーを適用する。ハザードの物理的除去または相対的に有害性の低い選択肢へのハザードの置き換えによる代替化による一次予防が、シリカに関連した罹患率・死亡率を抑えるもっとも効果的な方法である。例えば、研磨ブラストを行う場合、シリカを含有する研磨剤をスチールグリッドやスチールショットに置き換えることが、シリカへの曝露を根絶する代替化である。

▶ベストプラクティスの方法を用いて、吸入性粉じんについての定期的な試料採取を実施する。

▶発生源における粉じん捕集を改善するために、穴開け、採掘やトンネル掘削機器は水抑制をシステムを使用するなど、環境から吸入性c-シリカを除去するための工学的管理を実施する。c-シリカを含有する人工石でつくられた調理台の切断や仕上げを行う際に、影響を受ける場所で粉じんを捕集するために、散水システムを使うこともできる。

▶最後の手段として、管理的対策やPPEを使用する。それらは、もっとも効果の低い対策であり、適切かつ持続的な保護を確保するための労働者の多大な努力はもちろん、コストの増加を必要とする。

▶吸入性c-シリカに曝露する労働者の定期的なスクリーニングと健康監視を実施する。WHOとILOは、以下のような、吸入性c-シリカに曝露する労働者のための生涯にわたる健康監視を勧告している。
1. ベースライン時、曝露後2~3年及びその後2~5年ごとの胸部X線検査。これは、ILOじん肺X線写真国際分類の使用に関する2011年ILOガイドラインにしたがって、体系的に解釈されるべきである。
2. 呼吸器症状の評価をともなった年1回の肺機能検査(スパイロメトリー)
3. 地域の罹患率に応じて必要な結核検査を実施する。これにより、病気の前兆となる事例を確認できるようにするとともに、進行を防ぐための早期介入が可能となる