職場内いじめに勤労基準法を適用、初めて『懲役刑』 2021年5月28日 韓国の労災・安全衛生
職場内いじめの被害労働者に対する保護措置を正しく履行しなかった事業主が、一審の裁判で、勤労基準法違反で懲役刑を宣告された。職場内の暴力事件を刑法で処罰した事例はあるが、勤労基準法を適用して懲役刑を宣告したのは今回が初めてだ。
陰城労働人権センターによれば、清州地方裁判所の忠州支院(刑事1部)は、勤基法違反で起訴された構内食堂の委託運営業者の代表理事のAさんに、懲役6月、執行猶予2年を宣告し、保護観察と120時間の社会奉仕も命じた。
陰城郡の病院の構内食堂で働く被害者のBさんは、2019年7月、管理者のCさんから様々ないじめにあった。入社式の名目で会食費を強要され、悪口・暴言を言われた。Cさんは化粧品を売り付けたり、自分に好意的な職員に時間外勤務を集中するなど、権限を濫用した。Bさんなどいじめにあった同僚4人が、構内食堂の運営会社の管理理事(代表理事Aさんの配偶者)に訴えた後、事態はさらに悪化した。CさんはBさんらに「雷に打たれろ、子供もだ」「目玉を抜くぞ」といった暴言はもちろん、性的な羞恥心を起こす汚い言葉を吐いた。
7月24日に、会社が加害者のCさんに言動に気を付けろという趣旨で、けん責に当たる警告懲戒を行った。被害者は翌日は出勤せず、27日にセンターを通して会社の代表理事に職場内いじめを申告した。彼に帰ってきた措置は解雇であった。会社は職場内いじめを申告した二日後の7月29日、無断欠勤を理由に被害者を退社させた。
会社の異常な行動はこれで終わらなかった。センターはBさんが解雇された後、8月20日に構内食堂の運営業者の前・現職労働者を対象に、職場内いじめの実態を調べる懇談会を開催した。30人余りが被害を訴えて集まった。この席には、代表理事と会社関係者も参加した。会社はこの日の懇談会の証言を録音して加害者のCさんに伝えた。加害者は録音を根拠に、被害者のBさんを名誉毀損で告訴した。
1週間の後の8月27日に行われた人事委員会は、加害者に対するけん責懲戒をそのまま維持した。被害者には自主退社処理を撤回して無給休職に変更した。そして代表理事のAさんは、独断で被害者を他の事業場に配置転換した。度重なる被害にあったBさんは、9月に大田地方雇用労働庁・忠州支庁に、会社を職場内いじめを禁止した勤基法違反で告訴した。この間に忠北地方労働委員会は同年11月にBさんの不当配転の救済申請を認める判定を行い、会社はこれを受け容れた。
忠州支庁から起訴意見で事件を移送された検察は、罰金200万ウォンの略式命令を出した。Aさんは罰金命令に従わず、2010年4月に裁判所に正式な裁判を請求した。
代表理事Aさんの立場からは、正式裁判の請求は合理的な選択だったとみられる。勤労基準法には、職場内いじめの加害者に対する直接的な処罰条項がない。ただし、職場内いじめを申告したという理由で不利益な措置をすれば、3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処すことになっている。Aさんは裁判の中で、被害者は復職し、被害は復旧されたと主張した。会社次元の不利益措置が消えたので、勤基法違反ではないという主張だ。
裁判所は違った。検察の求刑より重い懲役刑を宣告した。裁判所は「被害勤労者が本社を訪ねて、管理理事に被害を訴えて以来、不当配転救済の審判が確定するまでの一連の段階で、被告人が執った個々の措置を見ると、勤労者に対する配慮は少しも見られない。」「これは被告人の経営マインドが現行の規範に及ばない非常に低いレベルで、勤労者を対象化して認識していることに起因する」と判示した。続けて「被告人の勤労者に対する低いレベルの認識は、いつでもまた別の加害者を容認し、また別の多くの被害者を放置すること」とし、「再犯の予防のために、特別遵守事項を内容とする保護観察を賦課し、被告人に労働の意味を覚醒させるために社会奉仕を賦課する」とした。Aさんは一審裁判の結果が出た翌日、直ちに控訴した。
一方、労働人権センターは、代表理事Aさんを個人情報保護法違反で近く警察に告発する。2019年8月の懇談会を録音して被害者に伝える不法行為をした、というのが理由だ。現在、被害者のBさんは会社側と合意して別の事業場で働いている。加害者のCさんは2020年7月に職場内の金銭取り引きなどを理由に解雇され、懲戒手続きが正当でないとして復職したが、その後、自主的に退社した。
2021年5月28日 毎日労働ニュース チェ・ジョンナム記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=203038