解体工事等石綿対策一定強化/事前調査結果等の電子報告も-改正石綿障害予防規則等10月以降施行
目次
- 改正の主な内容等
- 石綿含有成形品の除去工事に関する規制/令和2(2020)年10月1日施行
- 事前調査の方法の明確化等/令和3(2021)年4月1日施行
- 事前調査等の結果の記録の保存、作業場における掲示/備え付け/令和3(2021)年4月1日施行
- 吹付石綿・石綿含有保温材等の除去工事に関する規制/令和3(2021)年4月1日施行
- 石綿含有仕上塗材の除去工事に関する規制/令和3(2021)年4月1日施行
- 建材を湿潤な状態にすることが困難な場合の措置/令和3(2021)年4月1日施行
- 写真等による作業の実施状況の記録/令和3(2021)年4月1日施行
- 労働者ごとの作業の記録項目の追加/令和3(2021)年4月1日施行
- 発注者の責務等/令和3(2021)年4月1日施行
- レベル2建材を計画届対象に追加/令和3(2021)年4月1日施行
- 事前調査等の結果の概要等の労働基準監督署への報告/令和4(2022)年4月1日施行
- 事前/分析調査を実施する者の要件/令和5(2023)年10月1日施行
改正の主な内容等
石綿障害予防規則等[「等」は労働安全衛生法施行規則のこと]の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第134号)及び改正省令による改正後の石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)に基づく関係告示が公布・告示され、ま2020年8月4日付けで施行通達-基発0804第8号「石綿障害予防規則等の一部を改正する省令等の施行について」が示された。
次頁の図は、今回の改正の主な内容を図示したもの、19頁の表には、「工事・作業別の規制内容の早見表」を示した。以下、施行日順に、石綿障害予防規則等の改正内容を解説する。
石綿含有成形品の除去工事に関する規制/令和2(2020)年10月1日施行
■事業者は、成型された材料であって石綿等が使用されているもの(石綿含有保温材等を除く。以下「石綿含有成形品」という。[スレート、ボード、タイル、シートなど])を除去する作業においては、技術上困難な場合を除き、切断、破砕、穿(せん)孔、研磨等(以下「切断等」という。)以外の方法により当該作業を実施しなければならない。
■切断等以外の方法により石綿含有成形品を除去する作業を実施することが技術上困難な場合であって、石綿含有成形品のうち特に石綿等の粉じんが発散しやすいものとして厚生労働大臣が定めるもの[けい酸カルシウム板第1種]を切断等の方法により除去する作業を行うときは、当該作業を行う作業場所をビニルシート等で隔離する等の措置を講じなければならない[負圧に保つことまでは求められていない]。
〇技術上困難な場合とは:
材料が下地材などと接着材で固定されており、切断等を行わずに除去することが困難な場合や、材料が大きく切断等を行わずに手作業で取り外すことが困難な場合など
〇切断・破砕等以外の方法とは:
ボルトや釘等を撤去し、手作業で取り外すことなどをいう
事前調査の方法の明確化等/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。以下同じ。)の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業(以下「解体等の作業」という。)を行うときは、あらかじめ、当該建築物、工作物又は船舶(それぞれ解体等の作業に係る部分に限る。以下「解体等対象建築物等」という。)の全ての材料について、設計図書等の文書を確認する方法及び目視により確認する方法により石綿等の使用の有無の調査(以下「事前調査」という。)を行わなければならない。
これは、用語が整理されるとともに、工事対象となる全ての材料について事前調査が必要なこと、及び、事前調査の方法が明確化されたものである。
・「目視」とは、単に目で見て判断することではなく、現地で部材の製品情報などを確認することをいう。
・目視ができない部分は、目視が可能となった時点で調査する。
・石綿が使用されていないと判断するためには、製品を特定した上で、以下のいずれかの方法によらなければならない。
・その製品のメーカーによる証明や成分情報などと照合する方法
・その製造年月日が平成18(2006)年9月1日以降であることを確認する方法
〇「建築物」の定義の整理
全ての建築物をいい、建築物に設けるガス若しくは電気の供給、給水、排水、換気、暖房、冷房、排煙又は汚水処理の設備等の建築設備を含むものであること
〇「工作物」の定義の整理
上記の建築物以外のものであって、土地、建築物又は工作物に設置されているもの又は設置されていたものの全てをいい、例えば、煙突、サイロ、鉄骨架構、上下水道管等の地下埋設物、化学プラント等、建築物内に設置されたボイラー、非常用発電設備、エレベーター、エスカレータ-等又は製造若しくは発電等に関連する反応槽、貯蔵設備、発電設備、焼却設備等及びこれらの間を接続する配管等の設備等があること
なお、建築物内に設置されたエレベーターについては、かご等は工作物であるが、昇降路の壁面は建築物であることに留意すること
■ただし、以下など、一定の要件に該当する場合は別の方法によることができるとされている。
・以下の確認ができる場合は、目視等によらなくてもよい。
・過去に行われた事前調査に相当する調査の結果の確認
・インベントリ確認証書が交付されている船舶のインベントリの確認
・着工日が平成18(2006)年9月1日以降であることの確認
・以下に該当する場合は、石綿の飛散リスクはないと判断できるので、調査を行う必要はない。
・木材、金属、石、ガラス、畳、電球などの石綿が含まれていないことが明らかなものの工事で、切断等、除去または取り外し時に周囲の材料を損傷させるおそれのない作業
・工事対象に極めて軽微な損傷しか及ぼさない作業・現存する材料等の除去は行わず、新たな材料を追加するのみの作業
・石綿が使用されていないことが確認されている特定の工作物の解体・改修の作業
■事業者は、事前調査を行ったにもかかわらず、解体等対象建築物等について石綿等の使用の有無が明らかとならなかったときは、分析による調査(以下「分析調査」という。)を行わなければならない。ただし、当該解体等対象建築物等について、石綿等が使用されているものとみなして労働安全衛生法及びこれに基づく命令に規定する措置を講ずるときは、この限りでない。
事前調査等の結果の記録の保存、作業場における掲示/備え付け/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、事前調査又は分析調査(以下「事前調査等」という。)を行ったときは、当該事前調査等の結果に基づき作成した記録を3年間保存するものとする。
〇調査結果の記録項目
・事業者の名称・住所・電話番号、現場の住所、工事の名称・概要
・事前調査の終了年月日*
・工事対象の建築物・工作物・船舶の着工日、構造
・事前調査の実施部分*、調査方法、調査結果(石綿の使用の有無とその判断根拠)*
■事業者は、解体等の作業を行う作業場には、必要な事項[上記の*の項目]を作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示するとともに、石綿等が使用されている解体等対象建築物等の解体等の作業を行う作業場には、当該記録の写しを備え付けなければならない。
吹付石綿・石綿含有保温材等の除去工事に関する規制/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、解体等対象建築物等に吹き付けられている石綿等(石綿等が使用されている仕上げ用塗り材(以下「石綿含有仕上げ塗材」という。)を除く。)又は石綿等が使用されている保温材、耐火被覆材等(以下「石綿含有保温材等」という。)の除去、封じ込め又は囲い込みの作業を行う場合に講じなければならない措置に、次の措置が追加された。
① ろ過集じん方式の集じん・排気装置の設置場所を変更したときその他当該集じん・排気装置に変更を加えたときは、当該集じん・排気装置の排気口からの石綿等の粉じんの漏えいの有無を点検すること。
② その日の作業を中断したときは、前室が負圧に保たれていることを点検すること。
・負圧の点検は、作業開始前に加えて、作業中断時に作業者が集中して前室から退出するタイミングで実施する必要
※作業中断時とは、休憩等で作業を中断した時や何日間か継続する作業において最終日以外の日の作業を終了した時をいう
■事業者は、前記の作業を行う作業場所の隔離の措置を行ったときは、石綿等に関する知識を有する者が当該吹き付けられた石綿等又は石綿含有保温材等の除去が完了したことを確認した後でなければ、当該隔離を解いてはならない。
〇取り残しがないことの確認ができる資格者
・除去作業の石綿作業主任者
・事前調査を実施する資格を有する者(建築物に限る)
・取り残しがないことの確認は、分析等は不要
石綿含有仕上塗材の除去工事に関する規制/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、建築物、工作物又は船舶の壁、柱、天井等に用いられた石綿含有仕上げ塗材を電動工具[ディスクグラインダーまたはディスクサンダー]を使用して除去する作業を行うときは、当該作業を行う作業場所をビニルシート等で隔離する等の措置を講じなければならない[負圧に保つことまでは求められていない]。
・高圧水洗工法、超音波ケレン工法等は作業場所の隔離不要
建材を湿潤な状態にすることが困難な場合の措置/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、石綿等を湿潤な状態のものとすることが義務付けられている石綿等の切断等の作業等について、石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なときは、除じん性能を有する電動工具の使用その他の石綿等の粉じんの発散を防止する措置を講ずるように努めなければならない。
〇湿潤化を義務付けられている作業
・石綿等の切断等の作業
・石綿等を塗布し、注入し、又は張り付けた物の解体等の作業
〇湿潤な状態にする方法には:
散水による方法、固化剤を吹き付ける方法のほか、剥離剤を使用する方法も含まれる
〇発散防止措置には:
除じん性能付き電動工具の使用以外に、作業場所を隔離することが含まれる
写真等による作業の実施状況の記録/令和3(2021)年4月1日施行
■事業者は、石綿等が使用されている解体等対象建築物等の解体等の作業を行ったときは、当該作業に係る作業計画に従って作業を行わせたことについて、写真その他実施状況を確認できる方法により記録を作成し、3年間保存しなければならない。
・以下の内容が確認できるよう写真等により記録(⑥は文書等による記録で可)
① 事前調査結果等の掲示、立入禁止表示、喫煙・飲食禁止の掲示、石綿作業場である旨等の掲示状況
② 隔離の状況、集じん・排気装置の設置状況、前室・洗身室・更衣室の設置状況
③ 集じん・排気装置からの石綿等の粉じんの漏洩点検結果、負圧の点検結果、隔離解除前の除去完了確認の状況
④ 作業計画に基づく作業の実施状況(湿潤化の状況、マスク等の使用状況も含む)
※同様の作業を行う場合も、作業を行う部屋や階が変わるごとに記録する必要
⑤ 除去した石綿の運搬または貯蔵を行う際の容器など、必要な事項の表示状況、保管の状況
⑥ 作業従事者及び周辺作業従事者の氏名及び作業従事期間
・記録は、写真のほか、動画による記録も可能
撮影場所、撮影日時等が特定できるように記録する必要
労働者ごとの作業の記録項目の追加/令和3(2021)年4月1日施行
■石綿等の粉じんを発散する場所において常時石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する作業又は石綿分析用試料等を製造する作業に従事する労働者等に係る作業の記録の記録項目に、当該作業(石綿等が使用されている解体等対象建築物等の解体等の作業に限る。)に係る事前調査等の結果の概要、作業の実施状況等の記録の概要等が追加された(40年間の保存義務)。
〇事前調査結果の概要
後出の「電子システムで報告が必要な内容」と同様
〇作業の実施状況の記録の概要
写真等をそのまま保存する必要はなく、保護具の使用状況も含めた措置の実施状況についての文章等による簡潔な記載による記録
発注者の責務等/令和3(2021)年4月1日施行
■解体等の作業を行う仕事の発注者は、当該仕事の請負人による事前調査等[所持する情報を事前調査を実施する事業者に提供すること等]及び前項の記録の作成[写真等による記録の作成が適切に行われるよう[許可や協力]]が適切に行われるよう配慮しなければならない。
レベル2建材を計画届対象に追加/令和3(2021)年4月1日施行
■労働安全衛生法第88条第3項の計画届の対象となる仕事に、次の仕事を追加
① 建築基準法第2条第9号の2に規定する耐火建築物又は同法第2条第9号の3に規定する準耐火建築物に吹き付けられている石綿等の封じ込め又は囲い込みの作業を行う仕事
② ①の耐火建築物及び準耐火建築物以外の建築物、工作物又は船舶に吹き付けられている石綿等の除去、封じ込め又は囲い込みの作業を行う仕事
③ 建築物、工作物又は船舶に張り付けられている石綿含有保温材等の除去、封じ込め又は囲い込みの作業(石綿等の粉じんを著しく発散するおそれのあるものに限る。)を行う仕事
・旧石綿則第5条の作業の届出の対象としていたものについて、新たに労働安全衛生第88条第3項の計画届の対象に加えたもの
事前調査等の結果の概要等の労働基準監督署への報告/令和4(2022)年4月1日施行
■事業者は、一定規模以上の建築物又は工作物(工作物については、石綿等が使用されているおそれが高いものとして厚生労働大臣が定めるものに限る。)の解体工事又は改修工事を行おうとするときは、あらかじめ、電子情報処理組織を使用して、事前調査等の結果の概要等を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。
〇報告が必要な工事
①解体部分の床面積が80m2以上の建築物の解体工事
※建築物の解体工事とは、建築物の壁、柱及び床を同時に撤去する工事をいう
②請負金額が100万円以上の建築物の改修工事
※建築物の改修工事とは、建築物に現存する材料に何らかの変更を加える工事であって、建築物の解体工事以外のものをいう
※請負金額は、材料費も含めた工事全体の請負金額をいう
③請負金額が100万円以上の以下の工作物の解体工事・改修工事
・反応槽、加熱炉、ボイラー、圧力容器
・配管設備(建築物に設ける給水・排水・換気・暖房・冷房・排煙設備等を除く)
・焼却設備
・煙突(建築物に設ける排煙設備等を除く)
・貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く)
・発電設備(太陽光発電設備・風力発電設備を除く)
・変電設備、配電設備、送電設備(ケーブルを含む)
・トンネルの天井板
・プラットホームの上家、鉄道の駅の地下式構造部分の壁・天井板
・遮音壁、軽量盛土保護パネル
〇電子システムで報告が必要な内容
・事業者の名称・住所・電話番号・労働保険番号、現場の住所、工事の名称・概要・工事期間
・事前調査の終了年月日、事前調査を実施した者の氏名等
・工事対象の建築物・工作物の着工日、構造の概要
・床面積(建築物の解体工事)または請負金額(その他の工事)
・石綿作業主任者の氏名
・事前調査結果の概要(材料ごとの石綿使用の有無、判断根拠)
・作業の種類・切断等の作業の有無・作業時の措置
〇報告の方法
・複数の事業者が同一の工事を請け負っている場合は、元請事業者が請負事業者に関する内容も含めて報告する必要
・平成18(2006)年9月1日以降に着工した工作物について、同一の部分を定期的に改修する場合は、一度報告を行えば、同一部分の改修工事については、その後の報告は不要
事前/分析調査を実施する者の要件/令和5(2023)年10月1日施行
■事業者は、建築物に係る事前調査については、一定の条件に該当するものとして「設計図書等の文書による方法及び目視によリ確認する方法」以外の方法によることができるとされている場合(前出)を除き、適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせなければならない。
〇事前調査を実施することができる者
・特定建築物石綿含有建材調査者
・一般建築物石綿含有建材調査者
・一戸建て建築物石綿含有建材調査者(※一戸建て住宅・共同住宅の住戸の内部に限定)
・令和5(2023)年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者
■事業者は、分析調査については、適切に分析調査を実施するために必要な知識及び技能を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせなければならない。
〇分析調査を実施することができる者
・厚生労働大臣が定める分析調査者講習を受講し、修了考査に合格した者
・公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する「石綿分析技術の評価事業」により認定されるAランクまたはBランクの認定分析技術者
・一般社団法人日本環境測定分析協会が実施する「アスベスト偏光顕微鏡実技研修(建材定性分析エキスパートコース)修了者」
・一般社団法人日本環境測定分析協会に登録されている「建材中のアスベスト定性分析技能試験(技術者対象)合格者」
・一般社団法人日本環境測定分析協会が実施する「アスベスト分析法委員会認定JEMCAインストラクター」
以上は、「改正の要点」について基発0804第8号の記述(■をつけて記述した部分)、それに続く解説(青色で表示)をも厚生労働省作成のリーフレット「建築物・工作物・船舶の解体工事、リフォーム・修繕などの改修工事に対する石綿対策の規制が強化されます」()から)を基本にして、必要と考えた加筆・修正を加えたもので、基発0804第8号の「細部事項」にはより詳しい解説があるので、必要に応じて参照されたい。
〇労働安全衛生法及び大気汚染防止法に基づく石綿(アスベスト)規制の概要-規制内容の比較
〇2020年9月改正「建築物等の解体等の作業及び労働者が石綿等にばく露するおそれがある建築物等における業務での労働者の石綿ばく露防止に関する技術上の指針」
〇石綿障害予防規則等改正案と全国連の意見/大防法改正案成立と附帯決議
〇[石綿則・大防法による石綿対策の見直し]作業完了検査義務付け、濃度測定義務は見送り-事前調査実施者要件、大防法罰則強化も(安全センター情報2020年3月号)
「石綿総合情報ポータルサイト」が開設され、「改正後の石綿則の各条文及び解説」も公表されている。