記録的な豪雨に脅かされる宅配労働者の安全 2020年8月11日/韓国の労災・安全衛生

8日、光州広域市のCJ大韓通運の先端サブターミナルの近くで、宅配車輌が豪雨に浸水している様子。<宅配連帯労組>

8月6日、江原道春川の衣岩湖の人工島の固定作業に行った船舶が転覆し、労働者8人の内7人が亡くなった。衣岩ダム上流にあるダムの放流で増水して事故の危険が高かったが、期間制労働者たちは作業を強行した。10日、死亡した春川市庁の主務官の遺族の話しでは、この主務官の自動車のブラックボックスには「休暇中だが仕事に行く」「変だよ、間違ってるよ」「私はまた家に帰ることになるね。一人だけ懲戒されて」といった音声が録音されている。上層部からの指示を拒否できずに現場に向かったという証しだ。8人の労働者に作業を拒否できる権利があれば、こうなっただろうか。

ゲリラ豪雨で人命被害と浸水被害が続いている中、雨の中でも運行しなければならない宅配労働者も同じ境遇だ。労働者でない個人事業者として、1件当たりの手数料を受け取る人たちは、CJ大韓通運やロッテ宅配のような大企業宅配会社ではなく、その代理店(集配店)と業務委託契約を結んでいる。代理店には荷主から受けた物品の配送を中止したり、損傷した物品に対する責任を負うだけの、権限と余力がない。

業務拒否は仕事を切られる覚悟がなければ

「雨が激しく降っているのに、配送に出て行くべきかで悩みます。いつ止むか判らないのに待っていることもできずに。物品は次々と配車されるからです。個人事業者だから、仕事をしたくなければしなくても良いはずなのに、代理店が契約解約をちらつかせるのでやむを得ません。道路が浸水して、家族が心配になる状況なのに、家にも帰れなくて・・・・。」

全北でCJ大韓通運の宅配運転手として10年間働いている公共運輸労組・宅配支部の組合員Aさん(45)が、苦しさを訴えた。会社は、宅配運転手は個人事業だというが、豪雨でも仕事を中止するのは容易ではない。勤労基準法上の労働者ではないので、代理店が契約解約をしても、雇用労働部に訴えられる身分でもない。

雨で物品が破損すれば、宅配労働者が負担するケースは日常茶飯事だ。 ロジェン宅配で20年間働いているヨム・ソンチョル全国宅配労組の支部長は、「技士はずぶ濡れになっても、もしボックスが濡れて顧客とトラブルになるのではないかと、冷や冷やしながら運ぶ」が、「それでも破損すれば、配送技士や集荷技士が責任を負わされるケースが多い」と話した。彼は「代理店は早く下車作業を終わらせれば自分の手から離れるので、雨が激しく降っていても下車させようとする」「下車以後に物品に問題が発生すれば、技士の責任になるから」と説明した。

光州・全南地域には7~8日で600ミリに達する集中豪雨が降った。光州市のCJ大韓通運先端ターミナルは、道路が流失して宅配車輌の進入ができず、配送は中止された。ところがロッテ宅配の労働者は、いつも通り配達業務を行った。CJ大韓通運の宅配労働者も、元請けや代理店から業務中止の指示は受けられなかった。警察が道路を統制したせいで、該当のターミナルの3つの入口が塞がれて、強制的に業務中止されたという。

CJ大韓通運は「会社は自然災害に関して、事前に安全規則の遵守と、ガイドラインを配布していて、現場の安全のためのプロセスを完備している。」「自然災害発生時には、代替のターミナルを利用して下車業務などを行い、サービスに支障がないようにし、状況によって、休業、遅延配送などを行っている」とした。

作業中止権を保障しなければ

しかしCJ大韓通運代理店連合会が使っている契約書を見ると、作業中止権または天災地変時に配送技士の免責特権に関する条項はない。宅配貨物の集配送委託契約書7条(損害賠償)に「受託者(宅配運転手)は、委託業務の遂行過程で発生する貨物事故(滅失・き損・未配送・誤発送など)について、商慣習および関連法規による損害賠償責任を負担する」と規定されているだけだ。

公共運輸労組・宅配支部長は「雨が激しく降っているから配送を中止せよという指示はなかった」と話した。ユ・ソンウク宅配連帯労組・事務局長は「特別な災難状況でも、会社が作業中止命令を出せば全面的に責任を負わなければならない」とし、「代理店は(作業を中止できる)力量もなく、権限もない」と話した。

郵政事業本部の、郵便物の利用制限と郵便業務の一部停止に関する告示は参考になる。告示5条(集配業務の停止と解除)によれば「総括郵便局長などは、自然・社会災難およびこれに準ずる場合、次の各号(大雪・豪雨・台風などの自然災害、黄砂・猛暑・微細粉塵などの自然・社会災害)の場合、集配業務を停止・解除しなければならない」と規定している。5条3項は、「配達員は総括郵便局長などの集配業務停止決定とは別に、郵便物の配達などが困難だったり、待避が必要と判断される場合、業務を停止したり緊急待避することができる」としている。

ホ・ソヨン集配労組・教育宣伝局長は「該当の告示がで正しく適用されるには、配達を中止しても、配達人は不利益を受けないという確信がなければならない」とし、「各郵便物ごとに送達基準が明示されていて、配達員はこの基準を守らなければならないという圧力を受けている」と指摘した。

一方、産業安全保健法52条1項には「勤労者は産業災害が発生する緊急で差し迫った危険がある場合、作業を中止して待避することができる」と規定されている。しかし、多重下請け構造で、元請けが事実上の権限を握っている宅配業界、そして特殊雇用職の宅配労働者には、この条項は適用されない。

2020年8月11日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者

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