サムソン電子での労災申請は「空の星をつかむ?」ほど難しい/サムソン電子労組が労災隠しの実態調査 2020.07.30/韓国の労災・安全衛生

http://www.hani.co.kr/arti/society/labor/955833.html (ハンギョレ新聞)

サムソン電子の光州事業場で14年間、洗濯機などを組み立てるラインで働いたKさんは、先月国民健康保険公団から『産業災害療養申請案内』と書かれた郵便物を受け取った。「貴下は製造ラインでの頻繁な肩の使用によって、10年以上肩の痛みが持続し、筋骨格系疾患である回転筋蓋症候群などによって病院で数回の健康保険による治療を受けた」が「業務から生じた疾病・負傷・災害によるものなら、産業災害申請をしなければならないが、これを放棄する場合、健康保険公団の負担金の一切を還収することになる」という警告文だった。23日に<ハンギョレ>と話したKさんは、「初めは産災申請ができるのかもよく分からなかったが、後で申請しようとしたら、会社の管理者が人事考課で不利益を受けることもあると言った」と話した。

Kさんだけでなく、サムソン電子の光州事業場では筋骨格系疾患を病んでいるのに、会社が故意に申請を妨害したという労働者の証言が続いている。企業が産災による処理が増えれば評判が悪くなった保険料負担が増えることなどを敬遠するため、公傷で処理をするケースは少なくないが、特にサムソン電子の場合、人事考課と連係させて、労働者が産災を申請できないような雰囲気を作ってきた、ということだ。

筋骨格系疾患は業務で動作を反復し、首・肩・腰・腕と脚などに発病するケースが多い。Kさんは2007年9月、120㎏もある重い洗濯機を持ち上げてネジを締める作業をしていて左の肩を脱臼した。作業班長・パート長など、会社の管理者と労使協議会の委員を訪ねて業務を変えてくれと言ったが、「○○は痛いところはないのか」という返事が帰ってきた。その後も痛みは消えず、2018年1月には習慣性脱臼を治療する手術まで受けた。昨年11月、Kさんは再び会社に、産災申請が可能なのかを尋ねたが、担当の管理者は「人事考課は考えていないのか?」と問い返した。

通常、企業が産災より公傷処理を希む理由は、産災で処理されれば企業が負担しなければならない産災保険料が増える上に、企業のイメージにも打撃が大きいからだ。労働者の立場からは、業務上の疾病・事故と認められれば、勤労福祉公団の産災保険給付によって、治療費・リハビリ費用などが支給されるが、公傷で処理をすることになれば、一般の疾病などと同じように、健康保険の適用を受ける。労働健康連帯のユ・ソンギュ労務士は「国民健康保険公団の調査官が病院の義務記録等によって、これを摘発するケースが多いが、後で保険料請求などの不利益が労働者に還元されて、被害をこうむることが少なくない」と指摘した。産災を公傷で処理する場合、治療のための適正水準の補償と療養期間が保証されることも困難だ。特に再発の可能性が高い筋骨格系疾患などは、事後の症状の悪化による手術の可能性や、慰謝料などを考慮すれば、公傷処理が労働者には大きな損害になりかねない。

Kさんと同じ工場で12年間働いたNさんは、今年2月、資材を積んだ車に腰をぶつける事故に遭った。病院で椎間板脱出症の診断を受けて神経整形手術を受けたNさんは、会社に産災申請を出すと言ったが、工場の環境安全課長が「産災を申請すれば、恨まれて考課の評価にも良くないから、止めておけ」と言った。3ケ月間病欠したNさんの復職を前に、パート長が家を訪ねて来て、「その日に出勤していたのは間違いないか」「本当にぶつかったために痛めたのか」「事故でなく病気と違うか」と尋ねたりした。その後、Nさんはうつ病の治療まで受けなければならなかった。

15年間働いたもう一人の同僚Cさんも、2016年9月に会社の食堂で転倒して骨折して手術を受けたが、会社の管理者は「産災申請はできない」と一蹴した。彼は「ひょっとして不利益に遭うかと思って産災申請もしなかったが、一番低い考課を受けて、進級が延ばされた」「病休を使ったので下位考課を点けるしかないと言われたよ」と打ち明けた。病休を出して下位考課を受けた記憶は、KさんとNさんも同じだ。

産業安全保健法57条は(死亡または3日以上の休業が必要な)産災発生の時、事業主はその事実を隠さず、一ヶ月以内に雇用労働部に報告しなければならない、と規定している。産災申請ができないように妨害することは産業災害隠蔽に該当する。

韓国労総傘下のサムソン電子労組のイ・ウォンイル光州工場支部長は「生産職は三段階の昇進体系になっているが、最低の考課を一回でも受ければ、3年間は昇進が難しい。それによって1千万ウォン近い年俸の格差が生じることがあって、管理者の話に従う雰囲気が固定化されている」とし、「2013年から一つの組み立てラインを7~8個のセルに区分し、セル別の生産台数比較ができるようにして、タグ・タイム(1台の生産にかかる時間)を毎年減らす等の方法で、競争をあおっている」と主張した。ハン・チャンヒョン労務士は「同じ作業をする生産職の労働者に、厳格な人事考課をして比較するには、結局、病休などで席をどれくらい空けるかが重く評価される」「病休を使ったという理由で考課点数を低く押さえるのは明白な勤労基準法違反」と話した。

サムソン電子労組が5月27日から6月6日まで、光州事業場の生産職労働者、53人を対象に行った健康管理実態調査でも、産災の申請が難しい情況がそのまま明らかになった。回答者49人が業務と関連して筋骨格系疾患の診療や治療を受けたことがあり、現在も療養中の者が28人に達した。しかし、産災申請を出した者は誰もいなかった。産災申請をできない理由(重複返事)については、34人(64.2%)が『人事上の不利益を心配』を、11人(20.8%)は『公傷処理を望む上司と担当部署の懐柔と圧力』を挙げた。 また32人(60.4%)は『産災処理の方法がよく分からなかった』と答えた。

これについてサムソン電子光州事業場の人事・労務担当者は「会社が産災申請を妨害する理由はなく、むしろ後になって『法違反の問題があるので、積極的に申告しなさい』と、各種教育や社内公示で案内している」とし、「病休を出したからといって人事考課を悪くしたというのも、事実とは違う」と釈明した。

訳註:

実務で公傷処理とは、「企業と労働者が合意して、労働者が労災法上の補償を受けずに、企業が直接労働者の療養補償または休業補償などを行うこと」を意味する。公傷処理は、企業(または現場管理者)が事業場内で事故が発生した場合、労働安全衛生法上の処罰の回避と労災保険料の引き上げ、対内外の企業イメージ、建設工事の場合、官庁発注工事の制限、安全事故発生の責任問題などを理由に、労働者に公傷処理することを先に提案し、労働者は公傷の処理を拒否した場合の不利益への懸念、企業による迅速な補償、事故発生に対する処罰の恐れなどを理由に、企業が提案した公傷の処理を受け容れている。

2020年7月30日 ハンギョレ新聞 キム・ヤンジン・ソン・タムン記者