世界貿易センター生存者における中皮腫症例/Annals of Case Reports, Volume 09; Issue 02, 2024.11.20

抄録

目的:2001年9月11日のニューヨーク市の世界貿易センター(WTC)タワー崩壊(9/11)は、粉じん状微粒子約100万トンをマンハッタン南部及びブルックリン地域に飛散させ、地域住民や救急対応者を高濃度の潜在的に有害な環境粒子に曝露させた。WTCタワーの特定区域で使用されていたアスベストへの曝露は健康上の懸念事項であった。腹膜腔及び胸膜腔の内層細胞(中皮)に由来する悪性中皮腫は、アスベスト曝露に関連する合併症のひとつである。
方法:WTC環境保健センター(WTC EHC)は、WTCの粉じん煙に曝露した地域住民(生存者)を対象とした治療・監視プログラムである。
結果:本報告書では、2023年7月1日現在におけるWTC EHCの4例の中皮腫症例について報告する。うち2例は腹膜中皮腫、2例は胸膜中皮腫と診断された。
結論:アスベスト曝露後の中皮腫発症における既知の潜伏期間を踏まえ、WTC曝露が地域社会に及ぼす健康被害への理解を深めるために、われわれはこれらの早期中皮腫症例に関する情報を提供する。

はじめに

2001年9月11日のニューヨーク市の世界貿易センター(WTC)タワーに対する攻撃は、タワーと周辺の建物の崩壊により、広範な健康被害を生じさせる可能性のある、100万トン以上の粉じんと瓦礫を周辺大気中に飛散させて、救急対応者や地域住民を吸入可能な毒素に曝露させた。タワーの崩壊により発生した粉じん雲は、鉛、ガラス繊維、アスベスト等の化学物質を含む微細な粒子をロワーマンハッタン全域に拡散させた。含水ケイ酸マグネシウム繊維状鉱物の商用名であるアスベストは、その耐熱性と耐燃焼性から産業分野で広く使用されてきた。WTCタワーに使用されたアスベストの正確な量は、当初の計画へのアクセスが困難であったため推定にとどまる。建築物におけるアスベスト使用は一般的であったが、WTCタワー建設が行われた1970年までに、断熱目的でのアスベスト吹き付けはニューヨーク市により禁止されていた。主にクリソタイル形態のアスベストは、当初WTC北タワーの建設に組み込まれていた。その後、健康ハザーズが認められたため、ある時点以降の使用は中止され、残りの部分には非アスベスト様の耐火材料が採用された。過去30年間に一部のアスベストは除去されていたものの、2001年9月11日時点で数百トンが残存しており、放出された。
周辺地域におけるアスベスト検査の結果は議論の的となってきた。連邦環境保護庁(EPA)が9/11後にロワーマンハッタンで採取した1万件の大気環境サンプルのうち、22件でアスベストレベルがアスベストハザード緊急対応法の基準の70繊維/mm2を超過していることが判明した。とくに9/11直後の数日間に採取されたサンプルで最高値が観測された。大気サンプルからは、アスベスト曝露量が当初は高かったものの、数日後には連邦EPA基準値内に低下したことが示された。グラウンド・ゼロの堆積粉じんからは0.8~3.0%のアスベストが検出された。近隣アパートの粉じんからもアスベストが検出され、屋外環境よりも高い濃度を示す場合もあった。有害物質・疾病登録庁による57戸のアパート調査はEPA報告書にまとめられ、浮遊繊維はバックグラウンドレベル以上検出されなかったと報告された。しかし、ロワーマンハッタンのアパートでは、より遠隔地のアパートと比較して16%で堆積粉じんサンプルからアスベストが検出された。WTCの粉じんはわずかな機械的撹拌でも空気中に浮遊することが知られており、近隣の商業ビルの調査では表面汚染度に応じて増加する大量の吸入可能アスベストが確認された。したがって、測定された粉じん中のアスベスト濃度上昇を報告した研究は少なかったものの、タワー内における既知のアスベスト使用、測定値のばらつき、粉じんの再浮遊による区域再汚染の可能性、そしてアスベストの既知の健康ハザーズは、アスベスト曝露を9/11後の健康上の懸念事項にした。
WTC EHCは、慈善基金による学術・地域連携として始まった。後に、H.R.847ジェームズ・ザドロガ健康補償法により設立されたWTC健康プログラムの下で、地域住民(生存者)の治療及び監視のための中核センターとして法人化された。WTC EHCは、9/11当日にWTC粉じんへの急性曝露歴、またはその後1年以内の慢性曝露歴があり、かつ気道消化器疾患や多種多様ながんを含む定義されたWTC関連疾患を有する患者を登録している。WTC認定がんとして登録されるための潜伏期間は、WTC粉じん曝露から個人が初めてがん診断を受けた日までの期間によって定義される。中皮腫の最小潜伏期間は、混合形態のアスベスト曝露後の直接観察(NIOSH)に基づき、WTC健康プログラムにより11年と決定されている。われわれは以前、WTC EHC患者におけるがんの分布について報告している。今回、2023年7月1日現在の、WTC曝露地域住民集団における4例の中皮腫症例を報告する。

方法及びデータ収集

個々人は、疾病管理センター(CDC)-国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた曝露基準に基づく初期健康評価(IHE)を経て登録の資格を得る。これらの基準には、2001年9月11日にニューヨーク市災害区域内の粉じんまたは粉じん雲に存在したこと、当該区域に就労・居住・通学/通園していたと、清掃または維持作業に従事したこと、及び定義された期間内の居住または就労記録をもっていることを含めた地理的場所が含まれる。さらに、登録者は、証明可能なWTC関連健康状態を有していなければならず、これには気道消化器疾患、がん、またはPTSD、うつ病、不安障害に一致する精神健康症状が含まれる可能性がある。WTC EHCにおける患者の継続的モニタリングは、約12~18か月ごとに提供される。IHE及びモニタリング訪問時に患者は、医学的及び精神的健康評価、がん診断の記録を含む標準化された評価を受ける。すべてのがん診断は臨床記録及び病理記録を通じて確認される。情報は、WTC EHCデータベース及びWTC EHC汎がんデータベースに保存される。中皮腫の特徴及び取得可能なバイオマーカープロファイルはWTC EHC汎がんデータベースから導出され、追加情報は医療記録のレビューから収集された。
本分析でわれわれは、2012年9月(WTC EHCにおける中皮腫の潜伏期間として認められた時期)から2023年7月1日までに中皮腫と診断され、WTC EHCに登録された4名の患者を対象とした。本研究は、ニューヨーク大学医学部機関審査委員会(IRB番号:i06–1及びi06–1_MOD49)により承認され、データ分析への同意書に署名した参加者、または死亡した参加者を対象とした。

症例紹介

症例1

80歳の女性患者が、2020年2月にはじまった進行性の腹壁硬化と左下腹部痛を主訴として受診した。原因不明の体重減少を訴え、PET/CT検査では左腹直筋に沿って不均一な集積亢進が認められ、同筋は非対称的に肥大していた。その後、画像ガイド下生検が実施され、中皮腫が疑われた。2020年8月、左下腹部の硬さが増すことを患者が訴えた。2021年1月、より多くの組織を採取するため開腹生検が実施され、切除不能な腹膜上皮様中皮腫及び左腹直筋鞘、横隔膜、漿膜、小腸への浸潤が確認された。潜伏期間はWTC粉じん曝露から19年であった。バイオマーカープロファイルでは、WT1、カルレチニン、D2–40、BER-EP4、メソテリン(95%)が陽性。BAP-1、CEA、PDL-1は陰性(表1、3)。当時化学療法開始を計画中。関連する既往手術歴として、1973年から1980年にかけての帝王切開3回、2003年の胆嚢摘出術、小児期の虫垂切除術があった。さらに、家族のがん歴はなく、2015年に皮膚扁平上皮がんを切除している。
患者は、ロワーマンハッタンで事務所の清掃員として働いており、2001年9月11日に世界貿易センター(WTC)粉じんへの急性曝露を報告した。9/11の1週間後に同じ職場に復帰し、週40時間勤務した。通常は夜間に勤務していた。喫煙歴はなかった。両親や近親者の職業に関する情報は得られていない(表2)。

症例2

38歳の男性が、2012年から腹部膨満感と間欠的な腹痛を訴えた。肝臓超音波検査を実施したところ、軽度の腹水と肝線維症が認められた。2016年、疑われた後腹膜/十二指腸傍ヘルニアの修復を目的として診断的腹腔鏡検査を受けた。後腹膜ヘルニアや小腸間膜ヘルニアの所見は認められなかったが、大網、腸間膜の腹膜面、及び骨盤腹膜の一部領域に著明な粘液沈着が認められた。これらの所見は偽粘液腫様病変の可能性を示唆していた。大網及び腸間膜表面結節の生検が実施された。2017年1月の腹膜大網・腸間膜生検の最終病理報告は、高分化型乳頭状中皮腫と一致した。患者は2017年1月に腹膜中皮腫に対する最大限の減量手術及び温熱腹腔内化学療法(HIPEC)を受け、手術を良好に耐えた。2017年5月時点では、治療や病状に関連する症状は認められず、身体所見も良好であった。経過観察を継続中である(表1、3)。
患者は2005年に虫垂切除術を受けた。喫煙歴はなく、アスベスト曝露歴や粉じん曝露の可能性のある趣味も報告されていない。近親者のアスベスト曝露の可能性については不明である。2001年9月11日、患者はWTC現場から数ブロック離れた場所に居住しており、同日にWTC粉じんへの急性曝露を経験した。避難したが、9/11から約1週間後に自宅アパートに戻った。自宅には微量の粉じんが堆積していた。自身で清掃したが、専門業者による清掃は行われていない。自宅にWTC粉じんが1か月以上存在していたと患者は述べている(表2)。

症例3

70歳の男性が、2018年に左背部痛を訴え、胸部X線検査に続いて胸部CT検査を実施した。画像所見に異常が認められ、2018年5月に胸膜生検を行い、胸膜上皮様悪性中皮腫と確定診断した。生体マーカープロファイルでは、CAM5.2、CK 5/6、 カルレチニン、WT1(100%)、D2–40、メソテリン(100%)、Ki-67(40%)が陽性であったが、BAP1、BER-EP4、TTF-1、CEA、B72.3、p40、HMB-45、PDL-1(<1%)、S100タンパク質は陰性であった。患者は6サイクルの化学療法を受けた。治療にもかかわらず、診断から18か月後に死亡した(表1、3)。
患者は皮膚基底細胞がんの既往歴があり、2017年に切除された。19歳から46歳まで1日1箱の喫煙歴(26箱-年)を報告した。さらに、米陸軍に1年7か月間従軍したことも報告している。9/11時、患者は世界貿易センター(WTC)タワーから北へ9ブロック離れた場所で清掃作業員として勤務していた。同日午後10時にスタテン島行きのフェリーに乗船できるまで現場にとどまり、WTC粉じんに曝露したと報告している。9月12日に勤務に復帰し、週5日・1日8時間の清掃業務に関連して複数回グラウンド・ゼロを訪れたとも報告した。2008年に清掃局を退職した(表2)。

症例4

57歳の男性が、2020年に右胸水及び右胸膜腫瘤(5.0cm)を主訴として受診した。2020年6月に胸膜生検を実施し、上皮様型悪性中皮腫と確定診断した。患者のバイオマーカープロファイルは、カルレチニン、CK 5/6、WT-1、D2–40、 CK 7、BER-4、サイトケラチンCAM 5.2、Ki-67(60%)、PDL-1(15%)、BRG1が陽性であったが、BAP1、MOC31、B72.3、CEA、TTF-1、ナプシン、サイトケラチン20、ムシカルミン、MTAPは陰性であった。肩甲骨及び右大腿骨への転移、並びに右胸腔内中皮腫の再発が認められた。患者は化学療法を受けた。治療にもかかわらず、診断から21か月後に死亡した(表1、3)。
患者は4年間喫煙し、年間1箱の喫煙歴があり、当院受診の35年前に禁煙した。2001年9月11日、患者は事務職として勤務中、世界貿易センター(WTC)粉じんに急性曝露した。髪、皮膚、衣服に粉じんや破片が付着したと報告している。9月11日から3週間後に職場復帰した。職場は専門業者による清掃が実施された(表2)。

討論

世界貿易センター(WTC)地域住民における中皮腫4例を報告する。いずれも救急または復旧作業に関与した者ではない。腹膜中皮腫2例と胸膜中皮腫2例を報告する。全症例が2001年9月11日の急性曝露及びその後の慢性曝露を報告している。これらの患者において、WTC粉じん以外のアスベスト曝露を特定することはできない。
アスベストは、腹膜腔及び胸膜腔の内層細胞(中皮)に由来する悪性中皮腫の主要な曝露リスクとして広く報告されている。WTCタワーの建設におけるアスベスト使用は、ひとつの建物(ノースタワー)の一部に限られていたものの、記録されている。建築業では、断熱材や建築資材として、クリソタイル・アスベストとアモサイト・アスベストがもっとも一般的に使用されていた。WTC周辺の商業地域や住宅地における粉じん中のアスベスト濃度は場所によって異なり、被災地に近いほど高濃度であった。Lioyらは、世界貿易センター周辺の様々な道路から採取したサンプルにおいて、主に炭酸塩結合剤で固結されたクリソタイル・アスベスト繊維が体積の1%未満を占めると推定した。WTC曝露者における直接的なアスベスト繊維曝露の記録は困難であり、WTC救急対応者や地域住民の肺から採取した検体に関する病理学的報告は稀である。WTC粉じんに重度に曝露した消防士の気管支肺胞洗浄液の鉱物学的分析では、クリソタイル及びアモサイト・アスベスト繊維が報告されている。重篤な呼吸器症状または原因不明の異常なX線所見を呈したWTC救急対応者の肺生検では、クリソタイル・アスベスト濃度の上昇が認められた。重篤な呼吸器症状を有する地域住民の肺生検報告では、アスベスト繊維を検出できない鉱物学的法が用いられた。したがって、救急対応者の肺病理検体から吸入されたアモサイト及びクリソタイル繊維の存在を示す証拠は存在する。しかし、WTC粉じんや災害時の煙に曝露した地域住民の肺におけるアスベスト繊維の存在に関するデータは存在しない。
アスベストは悪性中皮腫の主要な曝露リスクとして広く報告されており、腹膜腔及び胸膜腔の内層細胞(中皮)に由来する。非職業性アスベスト曝露と胸膜中皮腫の関連性は、家庭内及び近隣環境での曝露においても職業環境と同様の繊維タイプ別可能性を有し、リスクが著しく上昇することを示唆している 。繊維の種類によって中皮腫リスクとの関連性の程度が異なり、角閃石系がもっとも強く、クリソタイルがもっとも弱い関連性を示した。したがって、居住者が曝露した繊維の種類が中皮腫発生率に影響を与える可能性がある。クロシドライトとアモサイトの繊維は、職業曝露者における中皮腫の主要な原因として認識されている。
われわれは、腹膜中皮腫の2症例を報告する。腹膜中皮腫は通常稀であり、全中皮腫症例の約15~20%を占める。また、腹部で発生する中皮腫の中で2番目に多い形態である。アスベストへの急性曝露強度が高いほど腹膜中皮腫のリスクは増大する。職業曝露以外の場合、男女間で発症リスクに差は見られない。
われわれの腹膜中皮腫患者はどちらも、アスベスト曝露の可能性を伴うWTC粉じんへの顕著な曝露を報告したが、曝露状況は異なっていた。1人の患者は自宅から9/11当日に広範囲に曝露され、もう1人は現地作業員であった。両者とも当該地域での居住または就労による慢性的な曝露歴があった。腹膜中皮腫は胸膜中皮腫に比べ曝露からの潜伏期間が短く、診断時の年齢層は通常40~65歳に及ぶが、幅広い年齢層が存在する。われわれの2例の腹膜中皮腫は診断時の年齢範囲が広く(38歳と80歳)、WTC曝露からの潜伏期間は比較的短かかった(15年及び19年)。
腹膜中皮腫患者はどちらも腹痛を主症状として発症した。腹膜中皮腫症例における追加所見には、原因不明の体重減少、腹部膨満感、及び初期検査で認められた軽度の腹水を伴う腹壁硬化が含まれた。これらの所見は、腹痛や腹水といった漠然とした不明瞭な徴候・症状を呈する腹膜中皮腫症例に関する既報と一致する。また、当症例群でも指摘されたように、非特異的な症状提示により診断が遅延することが多い。2例の病理所見も異なっていた。1例の腹膜中皮腫は上皮性腹膜中皮腫の稀な亜型である高分化乳頭型中皮腫と診断されたが、もう1例は上皮型中皮腫と記載された。残念ながら、高分化乳頭型中皮腫の患者については、手術と治療が外部病院で行われたため、免疫組織化学的所見は得られていない。アスベストは中皮悪性腫瘍の発症リスク要因であるが、生殖細胞変異や変異性素因も腹膜中皮腫のリスクに寄与する可能性がある。われわれの患者における変異リスクに関する詳細な情報は得られておらず、バイオマーカー・データが利用可能な患者は1例のみである。
中皮腫の大半は胸膜に発生する。アスベスト繊維はリンパ管経由または直接穿通により胸膜に到達し得るためである。われわれの患者2例は胸膜中皮腫を呈した。これら胸膜中皮腫例はいずれも現地作業員として曝露しており、両者とも9/11当日の曝露と災害後の慢性曝露を報告した。両者とも喫煙歴を報告したが、1例はごく軽微かつ過去の喫煙歴であった。1例は軍隊に勤務した経歴があり、当時の詳細な曝露歴は把握していない。アスベスト曝露後の胸膜中皮腫における長い潜伏期間はよく知られている。中皮腫の潜伏期間は13年から70年と大きく変動する。この変動性は職業、性別、曝露源、アスベスト曝露強度、及び潜伏期間の定義によって影響を受ける。LanphearとBuncherによる1,000例超の症例レビューでは、中央値32年(1992年時点)と報告され、症例の96%が初回曝露から少なくとも20年後に診断され、33%が曝露後40年後に診断された。混合形態のアスベスト曝露に関する追加研究では、悪性中皮腫の最小潜伏期間が13~15年と報告されている。最近の研究では南米の302例の胸膜中皮腫の特徴が報告され、診断時の中央年齢は61.1歳であった。WTC健康プログラムにおける認定には、中皮腫がWTC認定(NIOSH)とみなされるまでに最低11年の潜伏期間が必要であるが、われわれの患者はそれぞれ17年及び15年という比較的短い曝露潜伏期間で診断された。1例は潜伏期間が短く(15年)、診断年齢も若年であった(57歳)。胸膜中皮腫患者のどちらも死亡している。アメリカにおける中皮腫による平均死亡年齢は、2009~2015年の監視・疫学・帰結がん登録報告によれば72.8歳であり、男女死亡比(M:F)は4.2:1であった。これはアスベスト曝露職業における歴史的な男性優位性を反映している。われわれの2例の胸膜中皮腫患者はどちらも72歳と59歳で死亡し、診断後の生存期間はそれぞれ18か月と21か月であった。胸膜中皮腫は一般に上皮型、肉腫型、二相型の3亜型に分類され、上皮型組織像は症例の50~70%に認められる。われわれの2症例の胸膜中皮腫はどちら上皮型と診断された。
免疫組織化学所見は中皮腫の診断と治療において重要性を増している。本情報を得るため全患者のカルテを調査したが、染色プロトコルは様々であり、不完全な情報しか得られなかった。中皮腫の組織学的亜型を鑑別し、他のがんを除外するために、Cam 5.2、カルレチニン、WT1、D2–40等の様々な免疫組織化学的バイオマーカーが用いられており、われわれの症例においても組織学的亜型の鑑別のためにこれらを記載した。BRCA1関連タンパク質1(BAP1)及びその他の腫瘍抑制遺伝子の遺伝性変異は、アスベストやその他の発がん性繊維への曝露と関連して、中皮腫に直接結びついていることが示されている。BAP1は脱ユビキチン化酵素として機能し、DNA複製、DNA修復、代謝、細胞死に関与する多数の遺伝子及びタンパク質の活性を調節する。多数の研究により、中皮腫及びその他様々ながんにおけるBAP1変異の病原性役割が検証され、理解が深められている。さらに、体細胞変異したBAP1(腫瘍細胞増殖過程で獲得された変異)は中皮腫の約60%で検出されており、中皮腫発症予防におけるBAP1の重要な役割が強調されている。われわれのレビュー対象の3例のバイオマーカー・プロファイルが利用可能であったが、いずれもBAP1変異は認められなかった。データが得られた1例の腹膜中皮腫ではProgrammed death-ligand 1(PD-L1)が陰性であり、データが得られた1例の胸膜中皮腫では陽性であった。PD-L1は患者の39%に存在すると報告されており、とくに非上皮性中皮腫において生存率の低下と関連している。われわれの腹膜中皮腫及び胸膜中皮腫症例のうち1例では陰性であったが、もう1例の胸膜中皮腫では弱陽性であった。

結論

WTC EHCでは、9/11のWTCタワーの崩壊で発生した粉じんや煙への急性及び慢性曝露が健康に及ぼす潜在的影響について継続的に報告している。当初は瓦礫中のアスベスト曝露が懸念されたが、現在までに報告された中皮腫症例はごく少数である。本報告では、救急及び復旧活動に関与しなかった生存者(地域住民)集団における腹膜中皮腫及び胸膜中皮腫4例を報告する。われわれはWTC粉じんアスベスト曝露に代わる要因を特定できなかった。重要な点として、2例は若年発症であり、全症例でWTC曝露からの潜伏期間が比較的短かった。さらに2例の腹膜悪性腫瘍の存在は、これらの患者における相当量の曝露可能性を示唆している。この悪性度の高いがんの発症に対するWTC曝露の影響をより深く理解するため、WTC曝露集団における追加の中皮腫症例の注意深い監視が不可欠である。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11578103/

安全センター情報2026年1・2月号