一日のサマーフィールドワーク/東京●製缶現場・移住労働者・石綿被害

昨年から再開されたサマーフィールドワーク。今年は台風の影響で日程を1日のみに短縮し、8月30日に開催した。テーマは、「ものづくり現場の安全、移住労働者との共生、アスベスト被害を学ぶ」。都内の大学で産業保健を学ぶ学生など11名の方が参加された。
午前中のセッションでは、江戸川区平井にある江戸川製缶株式会社の工場を見学した。同社は1947年の創業。主に印刷用インキ缶の製造を行っている。工場では複数の製造ラインが稼働し、金属からインキ缶をプレス加工していく。かなりの騒音が出る機械もあるし、缶の加工の中で有機溶剤を使用する工程もある。最近、製造ラインを増設したとのことで、多くの社員のみなさんが忙しく働いていた。
この工場では、長年にわたり参加型安全衛生活動を行ってきた。当日の工場見学では、まず、安全衛生活動の担当者の方から工場の現在の事業概要などをうかがったうえで、アクションチェックリストを片手に工場内をまわり、現場の良い点をチェックしていった。工場見学の後、センターに戻ってグループワーク。2つのグループに分かれて、チェックリストをもとに、見学した現場の安全衛生について良かった点や改善点を出し合った。グループワークで出された「良かった点」と「改善点」については、後日、江戸川製缶の皆様にお伝えし、同社での安全衛生活動の参考にしてもらっている。
午後のセッションの前半は、「移住労働者との共生社会」がテーマ。最初に、東京安全センターのスタッフから、日本社会における移住労働者の現状と、労災相談の現場から見えてくる状況を説明した。
国の統計によると、日本に暮らす在留外国人は右肩上がりで2023年は過去最高の341万人となり、白本国内の職場で働いている外国人の数も過去最高の204万人となっている。中小零細の現場を中心に、製造・建設・農業・漁業・サービス業など各地の現場は、多くの移住労働者の人々によって支えられている。その一方で、技能実習生をはじめ不安定で弱い立場に立たされている移住労働者も数多く、労災補償をはじめ労働者の権利も十分に守られていない実態がある。
今回は、ミャンマー(ビルマ)から難民として来日し、その後、十数年にわたり日本で働いてきたAさんをゲストに迎え、彼の経験を参加者の皆さんに語っていただいた。Aさんは長年、都内の飲食店に正社員として勤務し、野菜や肉を串にさす「串打ち」の仕事をしてきた。1日に何百本も串打ちをする中で、左親指の付け根の関節症(CM関節症)になってしまった。現在は休職して治療に専念しつつ、労災申請をしている。職場で白本人の同僚からきつく当たられた経験など、移住労働者が日本の職場で直面する問題について語ってくれた。Aさんは、故郷に一度帰りたいという思いもあるという。しかし、その故郷のミャンマーは、いま軍事政権のクーデータによる内戦の真っただ中にある。母国から遠く離れ、日本で懸命に働いてきたAさんの話に、参加者の皆さんは聞き入っていた。
また当日は、Aさんのお子さんで大学生のBさんも通訳として参加し、同世代の参加者の皆さんと交流していた。
今年はプログラムを短縮したため、午後のセッションの後半で、アスベスト(石綿)が原因で起こる職業牲の疾患について取り上げた。このセッシヨンでは、東京安全センターの代表理事で、亀戸ひまわり診療所で職業病の診察・治療にあたってきた平野医師が講師となり、アスベストが原因で発症する中皮腫や肺がん、石綿肺などの疾患について説明した。
業務などで石綿を大量に吸い込むと、長い潜伏期簡の後で、肺の細胞が次第に壊され「石綿肺」という病気を発症することがある。一方、石綿以外にも、様々な粉じんが原因となって、肺の細胞が壊されて肺機能が低下する「じん肺」という職業病が起こる。今回のセッシヨンでは、石綿が原因で起こる疾患の話に加えて、そうした「じん肺」の問題も取り上げた。
「かつて医学界では、一部の種類の粉じんだけが『じん肺』の原因になると言われていた。しかし、実際には、水に溶けない性質を持つ粉じんであれば、すべて肺に入ると『じん肺』の原因になる。職業病の問題に取り組む医獅たちがその危険性を明らかにしてきた。鉱物の粉じんだけでなく、植物性の粉じんでも、『じん肺』は起こる。『じん肺』は決して過去の話ではない」という平野医師の話に、参加者から驚きの声が上がっていた。
今年は日程を1日に短縮したため、やや駆け足のプログラムになってしまった。それでも参加者が記入してくれたアンケートでは、「アスベストは過去の問題と思わず、現在・未来を考えて予防していきたい」、「共生ということを改めて考えていきたい」、「実際の労働現場を学ぶことができた」などの感想が寄せられ、高評価をいただいた。
次年度は、より充実した内容にして、学生や社会人の皆さんにフィールドワークを体験してもらいたいと思う。

文・問い合わせ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2025年3月号