韓国における「トリクロロエチレン」による腎臓がん2例の労災認定/徹底した周知と調査を
発がん性グループ1
トリクロロエチレン(TCE)は、製造業分野で洗浄液として広く使用されてきたが、現在でも多くの労働者が曝露している物質である。今(2014)年、世界保健機構(WHO)傘下の国際がん研究所(IARC)は、トリクロロエチレンを人体の腎臓細胞がんへの発がん物質に区分(グループ1)した。
相当な流通・ばく露状況
TCEは大変危険な物質であるが、金属製造業はもちろん電子製品製造業等で大変広く使われている。(韓国内事業場の約36.3%と推定)これと関連して、雇用労働部の産業安全行政が強化される必要がある。とくにTECの韓国内流通及び曝露現況は、いまだに相当な状況である。国内曝露水準把握を分析した「職業上がん診断及び判定のための有害物質曝露水準に関する研究」(ウルサン大産学協力団、2013年12月)によると、2004年労働部製造業実態調査結果、TCEを取り扱う事業所は全国に1,540か所、労働者は5,949人。
最近10年(2002~2011年)間の安全保健公団作業環境測定結果によると、洗浄、脱脂、メッキ工程のトリクロロエチレン曝露水準が中レベルの2~3ppmで、他の工程に比べ高い。
韓国内での時期別曝露水準は、1970年から1980年代の洗浄作業では100ppmを上回る高濃度のTCEに曝露したものと推定された。よってこの時期に曝露した作業者の場合、基本的に初曝露から25年以上が過ぎた時期であり、相対的に高濃度曝露が発生した。
環境部の「化学物質流通量・排出量調査」による韓国内TCE流通量現況をみると、総計1,765トンが使用され、2,908トンが流通しているものと確認された(2010年基準)。
同じ調査によるTCE排出量現況を見ると、全国50企業で大気、水質等の環境中に735トン排出(2012年基準)、全般的に見ると上位5業種(電子部品・コンピューター・映像・音量及び通信装備製造業、自動車及びトレーラー製造業、金属加工製品製造業(機械及び家具除外)、ゴム製品及びプラスチック製品製造業、一次金属製造業)で全排出量の99%を占めるものと確認された。(2012年732トン/735トン排出)
ただし、上記調査の調査基準は従業員数30人以上、年間取扱量10トン以上の化学業種、(大気、水質)排出企業に限っている。よって2010年統計庁経済総調査のうち「鉱業、製造業産業小分類主要指標(従業員5人以上)」によって該当業種の企業数を推出してみると41,641か所、製造業全体の36.3%と、製造業のうち相当数の企業でTCEの広範囲な使用があったものと推定される。
急性障害
2006年2月、電気器具部品会社において、保護具未着用及び局所排気装置未設置状態で労働者1人が20日ほどTCEを使用し洗浄作業をしたところ、「スティーブンス・ジョンソン症候群」及び「急性肝炎」で死亡した。
2006年5月、電子部品会社で労働者らが、局所排気装置が未稼働の状況で3か月から21か月ほどTCEを使用し洗浄作業を行ったところ、洗浄機の効率が落ち、急性中毒で死亡した。
腎臓がん労災認定2件
一方、ウン・スミ議員室が勤労福祉公団に要請して得た、最近3年間の腎臓がん労災認定現況をみると、業務上疾病判定委員会(疾判委)で認められた事例として、23年4か月間、自動車自動変速機の鍛造等の素材加工などでTCEに曝露して腎臓がんが発症したH自動車の事例(2013年)、8年間テスト用自動車エンジンの洗浄作業過程でTCEに曝露し腎臓がんが発症したK自動車事例(2014年)の計2件を確認した。腎臓がんの場合、国家がん登録資料をみると、毎年増加しており(2007年2,955件→2011年3,989件)、これはTCEの広範囲な使用と無関係ではないであろう。
中小零細でいまだに使用
韓国のほとんどの企業がこれを使用してきており、最近危険性が発見されながら大企業の場合、代替物質に代えている。しかし、中小零細企業の場合はいまだに使用しており、国内流通もたゆまず行われている状況である。この物質が危険であり、代替物質との価格面で差がないにもかかわらず(TCE(2リットル)15,000ウォン、IPA(2リットル)10,000ウォン)企業が引き続き使用している理由は結局、物質の危険性についての政府の積極的な広報不在が理由である。
韓国さらに努力必要
海外の場合、このような化学事故暴露による疾病発生と関連し、該当組織が被害者を積極的に掘り起こし、治療しようとする積極的な努力を傾けている。しかし韓国の場合、積極的な被害者掘り起こしや治療に関する努力はおろか、危険製品の使用予防のような積極的な努力すらない。このようにTCEの使用による発がん性についての疫学的根拠が一貫性を持って提示されているにもかかわらず、国内での使用が現在までも広範囲に、とくに相対的に安定な代替物質へ交代するのが困難でないにもかかわらず、大企業を除いた多くの企業が、いまだにTCEを買い使用するのは、それだけ政府の積極的な広報を通じた労働安全構築意思が足りないことを意味するものである。政府はこのような点で、より積極的な計画をもってアプローチせねばならない。
「TCEで腎臓がん」周知を
上記の腎臓がん2件は、すべて国内屈指の大企業労働者であり、小規模零細事業所でTCE取扱が一層多いにもかかわらず、これら労働者の腎臓がん申請件数はない。政府はTCEによる腎臓がんが発生するという事実を、最低限、現在腎臓がんの診断を受けた患者たちに知らせねばならない。
政府は、TCE使用実態調査を再度実施して、TCE取扱労働者の健康を評価しなければならない。
政府は、現在使用中のTCEをより安全な製品に交代する実質的政策と広報を行わなければばならない。
ウォンジン労働環境健康研究所
所長 イム・サンヒョク
安全センター情報2015年3月