「築地ルール」に学ぶ報告会/東京●旧築地市場解体工事の石綿対策

1. 最大規模のアスベス卜工事-旧築地市場

2018年、東京都中央卸売市場は中央区築地から江東区豊洲に移転し、83年間つづいた旧築地市場には老朽化した建物に大量のアスベストがとり残された。
2018年から開始された旧築地市場の解体工事に伴い、前例のない国内最大規模のアスベスト除去工事(吹付け、成形板、塗材等)が行われてきた。2023年2月まで第1期工事が終わり、残り2棟の解体工事が2025年までつづく。
東京都は旧築地市場のアスベスト除去工事でリスクコミュニケーションを取り入れ、発注者の東京都、工事請負業者、地域住民、アスベスト問題に取り組むNPOの専門家が、アスベストリスクに隠する情報を共有し、「適正、安全、完全なアスベスト除去」に向けた取り組みが行われた。旧築地市場のリスコミの取り組みは様々な意味で画期的なものであり、他のアスベスト除去工事においても参考となるものである。
2023年2月28日に中央区勝どき区民館で、「東京都旧築地市場解体工事に伴うアスベスト対策に隠する報告会」(東京労働安全衛生センター主催)を開催した。会場とオンラインを合わせて100名超が参加した。

2. 改正石綿則の専門資格者による事前調査

外山尚紀(東京安全センター)が、「建築物等のアスベスト飛散、ばく露防止対策と石綿関連法規制」と題して、2020年の大気汚染法防止法、石綿障害予紡規則の改正点を中心に報告した。
石綿則第3条(事前調査及び分析調査)は、石綿の使用の有無の調査では図面や目視による確認に加えて、「適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせなければならない」(4項)とされ、建築物石綿含有建材調査者等の資格を有する専門家による調査が義務付けられた(今年10月から施行)。事前調査結果等の報告、作業計画の届出、完了検査も義務化され、作業の記録の40年間保存(第36条1項)に加え、作業計画による作業の記録を写真や実施状況が確認できる方法で記録を作成し、3年間保存しなければならない(第36条の2)。
改正石綿則に対応するため、いま建築物石綿含有建材調査者や石綿分析の専門家の養成が急務の課題になっている。

3. 「築地ルール」による適正、安全、完全なアスベスト除去

つづいて東京都卸売市場事業部施設課の職員が「旧築地市場解体工事における『適正、安全、完全なアスベスト除去』に向けた取組み」を報告した。
旧築地市場は市街地での大規模工事であり、確実に安全管理、品質管理ができる仕組みが必要であること、そのため独自基準としての「築地ルール」を定めた。
「築地ルール」の特徴の第一は、除去作業員のばく露防止対策を徹底することで、周辺の作業員や近燐住民の健康被害防止を(漏洩防止)を実現すること。第二は、「築地ルール」の実施にあたって、特殊な工法や道具を使うのではなく、既存の取り組みを工夫し、誰にでもできる方法で「適正、安全、完全」なアスベスト除去に取り組むことである。
「築地ルール」の具体的な内容は、以下のようにまとめられる。

【築地ルール1 施工時のチェックポイントの強化】
1工区ごとに4つのチェックポイント
①清掃確認→負圧隔離養生→②養生確認→アスベスト除去→③取残し確認→固化剤散布養生撤去→④完了検査
※合格基準を設定しチェックシートで誰もが同じ基準で確認できる。

【築地ルール2 スモークマシンを用いた「養生確認」】
①負圧隔離養生内を白煙で充満させる→②白煙の漏れがないことを確認→③負圧除塵機を稼働させる→④気流の確認、換気の確認
※作業場内の粉じん量を減らし作業員のアスベスト吸込みを確実に防止。
※見えないものを可視化することで技術によらず確認できる。

【築地ルール3 モニタリングの強化】
※即時のモ二タリングを作業時間中、定期的に実施。
・ デジタル粉じん計による粉じん量の確認(漏洩紡止)
・ スモークテスターや微差圧計による負圧状況の確認(漏洩防止)
・ 風速計による換気量の確認(吸込防止)
※誰でも操作可能な機器で不具合の早期発見・早期対策、品質管理・安全衛生管理に生かす。

【築地ルール4 リスクへの備え】
①アスベスト粉じん濃度測定→一次管理値超過していた場合→直ちに作業中止→必要な措置→二次管理値非超過を確認→除去作業開始
※作業中止から再開までのフローを特記仕様書に明記。
※受注者・監督員・監理者が管理値超過後のフローをあらかじめ共有し、漏洩・吸込の被害を最小限に。

報告者は、「築地ルール」のまとめとして、アスベスト吸込防止の徹底により漏洩を防止すること、既存の取り組みを工夫し、皆で取り組むこと、課題に応じてアップデートしていき、今後の工事でも安全、適正、完全なアスベスト除去に取り組んでいきたいと述べた。

4. リスコミの調整役としての第三者の役割

最後に永倉冬史さん(中皮腫・じん肺・アスベストセンター)が、「旧築地市場の解体工事とアスベスト除去工事に関するリスクコミュニケーションの取り組み」について報告した。
永倉さんは2018年の工事開始以来、アスベストの専門NPOの立場で、清掃検査、隔離養生検査、完了検査等に立ち合ってきた。
永倉さんはリスクコミュニケーションの定義として、「解体等工事における石綿飛散に係るリスクや飛散防止対策の内容と効果などに関する正確な情報を、発注者または自主施工者と工事の元請事業者及び下請負人が周辺住民等や地方公共団体等関係機関と共有し、相互に情報や意見を交換して意思疎通を図ること」(環境省ガイドライン)を紹介したうえで、環境省がいう「外へのリスコミ」に対し、築地では「内へのリスコミ」が行われていたと言う。
工事初期の頃は発注者である東京都の「築地ルール」に関する考え方が元請や下請除去業者になかなか伝わらず、意見のすれ違いや理解の不十分な事態が生まれたが、リスクコミュニケーション(現場会議)が繰り返され、監理会社やNPOの意見が補完されることで、理解が促進された。
リスクコミュニケーションでは、発注者、事業者、下請け孫請け業者との間に入り相互の認識を調整する第三者の役割を重視。現場ではあら捜しではなく、徐去作業者が過酷な作業環境の中で見落としてしまう点や認識が及ばない点を第三者が手伝って補正し、修正することができる。
東京都中央卸売市場事業部が「施主が安全性についてしっかり取り組もうと決意すると、相当なところまでできる」ことを築地で実践・実現した意義は大きい。
「築地ルール」を東京都のすべての工事及び自治体の公共事業に共通ルール化し、それを民間の解体・改修工事に適用していくことが求められると述べた。

5. 除去事業者からの率直な感想

3人の報告につづいて質疑討論が行われた。改正石綿則に対してどのように対応すべきか、東京都の「築地ルール」を適用すると工期が延びてしまうのではないかなど、参加者から質問が相次いだ。
会場には築地で実際に工事に携わっている元誇業者や除去業者、監理会社の方も参加していた。除去業者の方は「ここまでしなければいけないのかというのが正直なところだったが、自分たちもアップデートしている。これが当たり前になればと思う。そのためには元請や協力業者が同じ考えでないといけない」、「よくこの現場ではよく話し合った。みんなでより良いものを目指してひとつの方向を向いて頑張ってこられた」、「築地ルールは作業者のことを考えたものでよい。実際には大変な苦労があった。これが広まれば実際に作業する自分たちにとってはいいのではないか」など率直な感想が出された。

6. 今後もつづくアスベストリスコミプロジェク卜

2011年3・11東日本大震災被災地のアスベスト対策から始まったアスベストリスクコミュニケーションプロジェクトの活動は今年で12年目を迎えた。環境省で災害時におけるアスベスト対策マニュアルの改定版がまもなく完成する。さらに熊本や東京などの自治体でも災害時のアスベスト対策のマニュアルが策定された。今後、こうした取り組みを他の地方自治体に拡大展開していく乙とが求められる。
さらに平常時における建築物等の解体・改修工事のアスベスト飛散、ばく露防止対策に関しでも大気汚染防止法や石綿障害予防規則が改正され、法規制が強化された。東京都の「築地ルール」をモデルとして安全、適正、完全なアスベスト除去工事を実現するため、これからも対策提言と実践交流に取り組んでいきたいと思う。

※2023年2月28日の報告会は2022年度環境再生保全機構地球穣境基金の助成金を受けて開催された。

文・問合せ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2023年8月号