アウトプット/アウトカム指標達成で労働災害減少への転換目指す~前期はコロナを除いても労働災害増加【特集】第14次労働災害防止計画
目次
労働災害防止計画
厚生労働省は3月8日に、2023~2027年度の5年間を計画期間とする「第14次労働災害防止計画」(14次防)を策定した。全文は
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html
を参照。
わが国では、1958年に最初の「産業災害防止総合5か年計画」が策定されて以来続く計画であるが、国際的には、2006年にILOが「職業上の安全及び健康促進枠組条約(第187号)」及び「勧告(第196号)」(2007年4月号参照)を採択し、わが国も2007年7月に同条約を批准している。
同条約は、第1条(c)で、「『職業上の安全及び健康に関する国内計画』又は『国内計画』とは、所定の期間内に達成すべき目的、職業上の安全及び健康の改善のために定める措置の優先順位及び手段並びに進展を評価する手段を含む国内計画をいう」と定義したうえで、「国内計画」について、第5条で以下のように規定している。
「1 加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、職業上の安全及び健康に関する国内計画を定め、実施し、監視し、評価し、及び定期的に検討する。
2 国内計画は、
(a)各国の安全及び健康に関する危害防止の文化の発展を促進する。
(b) 職業上の負傷、疾患及び死亡を予防し、並びに職場における安全及び健康を促進するため、国内法及び国内慣行に従って、かつ、合理的に実行可能な限り、職業上の危険性又は有害性を除去し、又は最小限にすることにより、労働者の保護に貢献する。
(c)職業上の安全及び健康に関する国内の状況の分析(職業上の安全及び健康に関する国内制度の分析を含む。)に基づいて定められ、及び検討される。
(d) 目的、対象及び進展の指標を含む。
(e) 可能な場合には、安全かつ健康的な作業環境を漸進的に達成することを支援するその他の補完的な国内計画等によって補強される。
3 国内計画は、広く公表するものとし、可能な範囲で、最上級の国内機関により承認され、及び開始される。」
また、勧告では、以下のように規定している。
「7 条約第1条(c)に定義する職業上の安全及び健康に関する国内計画は、特に職場の段階における危険性又は有害性の評価及び管理の原則に基づくべきである。
8 国内計画は、措置の優先順位を特定し、並びに定期的に検討され、及び更新されるべきである。
9 加盟国は、国内計画を定め、及び検討するに当たり、条約第5条1に規定する協議に他の関係者を加えることができる。
10 条約第5条の規定を実施する観点から、国内計画は、職場における予防措置並びに使用者、労働者及びこれらの代表の参加を含む活動を積極的に促進するものとすべきである。
11 職業上の安全及び健康に関する国内計画は、適当な場合には、他の国内計画等(例えば、公衆衛生及び経済的発展に関連するもの)と調整されるべきである。
12 加盟国は、国内計画を定め、及び検討するに当たり、自国が批准した条約に基づく義務の範囲内で、附属書に掲げる職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関連のある国際労働機関の文書を考慮に入れるべきである。」
同条約批准後に策定されたわが国の11次防では、「最近の行政においては、計画的な行政運営、評価等が必要であり、平成19年度に批准されたILO第187号条約においても、同様な考え方が安全衛生の国内計画に求められているため、本計画については、目標の設定、評価等を行うことにより的確な推進を図る」と記述された。
本誌は以前から(2003年6月号、2008年4月号等)、「的確な推進を図る」ために「目標の設定・評価」が重要であることを指摘することはもとより、「労働災害防止計画」を、国レベルでの労働安全衛生マネジメントシステム実践のなかでの国の労働安全衛生に関する方針を明示するもの位置づけたうえで、以下のような改善を図ることを提言してきた。
① 雇用対策基本計画のように、国が定める=閣議決定に格上げする。
② 死亡災害の首位である交通災害=国土交通省、墜落災害=国土交通省と地方自治体・公団等、放射線障害=旧科学技術庁等、関係する他省庁等との連携協力も内容に含める。
③ 国家公務員(人事院)、船員(国土交通省)、鉱山労働者(経済産業省)、非現業の地方公務員(総務省)、教育公務員(文部科学省)も含めた日本のすべての労働者を対象にした「労働災害防止計画」にする。-この点では、「過労死等防止対策大綱」が、国家公務員・地方公務員も含めるという先例もできている。
④ さらに、「労働災害の防止」だけでなく、「労働者の健康確保」もすでにカバーしてはいるものの、労働安全衛生と環境の包括という面では、まだ改善の余地があるだろう。
過去13次の計画の主要目標と実績
次の表は、過去の労働災害防止計画が掲げてきた「主要目標」を要約したものである。
数値目標に関しては、10次防の解説通達(平成15年3月24日付け基発第0324004号)は、「20%以上減少とは、第9次の計画期間である5年間に発生した休業4日以上の死傷災害の総件数と本計画の期間中に発生する休業4日以上の死傷災害の件数を比較するものであること」としていたが、11次防以降は、前計画期間末年の実績と比較した数値目標として明示されるようになった。
また、次の表には関連する指標の推移に関するデータを掲載し、
さらに下に、各労働災害防止計画の数値目標の達成状況も確認できるようなかたちで、グラフ化したものを示した。折れ線グラフが当該指標の推移を、棒グラフは「前期最終年に対する憎減率」を示し、各計画期間の「目標」及び「実績」(率は前期最終年に対する憎減率で統一した)も記載している。
なお、「休業4日以上の死傷災害件数」は、11次防第4年次=2011年までは、「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)より作成」とされたデータを掲載し、11次防第5年次=2012年以降は、「労働者死傷病報告より作成」されたデータを掲載している。厚生労働省が、事故の型別分類等もなされていて今後の対策に生かせるということで、公表するデータを変更したためである(1998~2011年については、2種類のデータが入手できており、2022年9月号17頁の表に示してあるが、比較する場合には注意が必要である)。
13次防の目標と2021年実績、期間中の取組
2018年に策定された、2018~2022年度の5年間を計画期間とする「第13次労働災害防止計画」(13次防-2018年5月号参照)は、「国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないとい5う基本理念の実現に向け、以下の目標を計画期間中に達成することを目指す」とした。
① 死亡災害については、死亡者数を2017年と比較して、2022年までに15%以上減少させる。
② 休業4日以上の死傷災害については、死傷者数の増加が著しい業種、事故の型に着目した対策を講じることにより、死傷者数を2017年と比較して、2022年までに5%以上減少させる。
③ 重点とする業種は以下のとおりとする。
・ 建設業、製造業及び林業については、死亡者数を2017年と比較して、2022年度までに15%以上減少させる。
・ 陸上貨物運送事業、陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設及び飲食店については、死傷者数を2017年と比較して、2022年までに死傷年千人率で5%以上減少させる。
④ 上記以外の目標については以下のとおりとする。
・ 仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上(71.2%:2016年)とする。
・ メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(56.6%:2016年)とする。
・ ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(37.1%:2016年)とする。
・ 化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「GHS」という。)による分類の結果、危険性又は有害性等を有するとされる全ての化学物質について、ラベル表示と安全データシート(以下「SDS」という。)の交付を行っている化学物質譲渡・提供者の割合を80%以上(ラベル表示60.0%、SDS交付51.6%:2016年)とする。
・ 第三次産業及び陸上貨物運送事業の腰痛による死傷者数を2017年と比較して、2022年までに死傷年千人率で5%以上減少させる。
・ 職場での熱中症による死亡者数を2013年から2017年までの5年と比較して、2018年から2022年までの5年で5%以上減少させる。
2022年8月2日に開催された第148回労働政策審議会安全衛生分科会に、「第13次労働災害防止計画の評価について(報告)」として「主な目標に関する令和3年(2021年)実績」が報告されている。「計画の目標」、「目標を数値化したもの」と「2021年実績」等の対比に加えて、上記目標③④については、「13次防期間中のこれまでの取組」と「2021年実績の分析」、関連資料等を示したものである。
目標①②について前出の表「第13次労働災害防止計画の全体目標と2021年実績」、目標③について前出の表「第13次労働災害防止計画の重点業種別目標と2021年実績、期間中の取組(抄)」に、また、目標④について下の表「第13次労働災害防止計画のその他目標等と2021年実績、期間中の取組」に要約したので、前出の表「労働災害防止計画の主要目標」~図「業務上疾病補償件数の推移」と合わせて参照していただきたい。ただし、「2021年実績の分析」はすべて省略し、「13次防期間中のこれまでの取組」も、建設業、林業、陸上貨物運送業については省略した。
「死亡災害発生件数」(暦年)(前出)については、2017年(暦年)の死亡数が978人だったので、2022年に831人以下であれば、13次防の「15%以上減少」という目標が達成できたことになる。
2022年5月30日に公表された「令和3年労働災害発生状況」によると、2021年の死亡災害による死亡者数は867人で、2017年比11.3%減少であるが、新型コロナウイルス感染症へのり患による89人を除くと778人で、2017年比20.4減少となる。速報値(758人-2023年3月7日までに報告があったものの集計結果でコロナを含む、以下同じ)でみると、2022年は2021年よりも減少しているので、少なくともコロナを除いた実績では、目標を達成できるものと思われる。長期的に減少傾向が確認できるのであれば、喜ばしいことである。
「死傷災害発生件数」(暦年)(前出)については、2017年の休業4日以上の死傷者数が120,460人だったので、2022年に114,437人以下であれば、13次防の「5%以上減少」という目標が達成できたことになる。
「令和3年労働災害発生状況」によると、2021年の休業4日以上の死傷者数は149,918人で、2017年比24.5%増加。コロナによる19,322人を除いても130,586人で、2017年比8.4%の増加である。速報値(275,733人)でみても2022年は2021年より増加しているので、目標の達成は困難であろう。休業4日常の死傷者数は、2009年を底にずっとゆるやかながら増加傾向がみられる状況である(前出)。
13次防の重点業種別目標の達成状況については、3頁表を見ていただきたい。建設業、製造業、林業の死亡者数については、いずれも2021年実績が2017年比減少となっており、速報値でみると、製造業は2022年に前年同期比で増加しているものの、2017年比では減少、建設業と林業は前年同期比でも減少している。「15%以上減少」という目標を、林業は達成できそうで、製造業と建設業がコロナを除いて達成できるかどうかというところである。
陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設、飲食店の死傷年千人率でみた休業4日以上死傷者数については、いずれも2021年実績が2017年比増加となっており、速報値でわかるのは陸上貨物運送事業と「第三次産業」という括りの数字であるが、いずれも2022年に前年同期比でも増加している。「5%以上減少」という目標は達成できそうにない。とりわけ社会福祉施設の実績が悪く、2021年実績で、コロナを除いても2017年比35.5%の増加であるうえに、コロナを含めると94.9%の増加と大きな影響を受けている。飲食店についても、コロナの影響が大きくなっている。
なお、過去の労働災害防止計画では、「重大災害」や「職業性疾病」の減少が目標に掲げられたこともある。重大災害発生件数は2015年の統計を最後に公表されなくなってしまったが、「労災保険新規受給者数」と「業務上疾病補償件数」の推移を前出の表と図に示した。
「労災保険新規受給者数」(年度)(前出)は、2009年を底に2019年度までゆるやかながら増加傾向がみられた後、2020年度はコロナによる4,556人を含めても減少、2021年度は増加して678,604人、うちコロナが19,526人、コロナを除くと659,078人で、2017年度と比較してもやや増加となった。新規受給者数は「労災保険事業年報」により、コロナによる補償件数は「業務上疾病の労災補償状況調査結果」によるものである。
「業務上疾病補償件数」(年度)(前出図)についてみると、2016年度を底にやや増加傾向がみられていたが、2020・21年度もコロナを除いても増加傾向が持続している。コロナの影響はすさまじく、総補償件数に対するコロナの比率が2020年度32.7%、2021年度66.7%。別途毎月更新されている情報によると、2022年度のコロナによる補償件数は2023年2月末現在で130,743人で、すでに前年度の6倍を超えている。前出表には、「業務上疾病発生状況等調査」(暦年)による数字も示した。
いずれにせよ、「死亡災害発生件数」が比較的順調に減少していたとしても、それだけをもってわが国の労働災害の状況が継続的に改善し続けていると言えないし、活用できるデータは何でも使って、現状認識、目標設定、監視・評価等に生かすべきであると考える。
「その他目標」及び「目標以外の実施事項」の2021年実績及び/または期間中の取組については、表12~13の表を参照していただきたい。
労働安全衛生施策の政策評価
労働災害防止計画は、策定段階では、まだ前期最終年度の実績が確定しておらず、目標の達成状況の評価が確定できないこともあってか、とりわけかつては評価に関連した記載が少なかった。
関連した情報も整理しておこう。ひとつは、「政策評価」である。2001年1月15日に「政策評価に関する標準的ガイドライン」による全政府的な政策評価の取り組みが開始され、また、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が2002年4月1日から施行されて、同法に基づく政策評価も実施されるようになった。厚生労働省もウエブサイトに「政策評価」のページを設けて、関連情報を提供している。
評価を行う施策目標として、基本目標Ⅲ「働く人が安心して快適に働くことができる環境を整備すること」のもとに施策大目標2「労働者が安全で健康に働くことができる職場づくりを推進すること」が設定されていることは、表記・表現に若干の違いはあるものの変わりがない。毎年度、そのもとに1つまたは複数の施策目標と、その施策目標に関する目標と評価等が設定されて、実績評価やモニタリングが実施されているが、その内容や形式等は変わってきている。評価結果の公表状況は以下のとおりである(「」書きの後の()内には評価指標の例等を示した)。この経験の積み重ねが14次防の構成にも反映されているものと考えられるので、2022年度については、やや詳しく紹介する。
- 2002年度-Ⅲ-2-1「事業場における安全衛生水準の一層の向上を図ること」(評価指標は労働安全衛生マネジメントシステム普及促進事業利用状況等)、Ⅲ-2-2「産業安全対策の推進を図ること」(機械の包括的安全基準普及促進事業利用状況等)、Ⅲ-2-3「労働衛生対策の推進を図ること」(化学物質管理者研修受講者数等)、Ⅲ-2-4「国際化に対応した安全衛生対策の推進を図ること」(開発途上国研修協力事業実施状況)の実績評価書
- 2003年度-前年度と同内容のⅢ-2-1(評価指標に労働災害死亡者数と休業4日以上死傷者総数を追加)、Ⅲ-2-2、Ⅲ-2-3(評価指標に業務上疾病者数等追加)のモニタリング結果報告書
- 2004年度-前年度と同内容のⅢ-2-1(評価指標の労働災害死亡者数と休業4日以上死傷者総数が10次防と関連付けられた)、Ⅲ-2-2(評価指標に建設業における休業4日以上死傷者総数が追加)、Ⅲ-2-3(評価指標に業務上疾病者数等追加)の実績評価書
- 2005~2006年度-前年度と同内容のⅢ-2-1、Ⅲ-2-2、Ⅲ-2-3の実績評価書
- 2007年度-Ⅲ-2-1「労働者の安全と健康が確保され、労働者が安心して働くことができる職場づくりを推進すること」のみ、個別目標1「安全対策の推進を図ること」、2「労働衛生対策の推進を図ること」、3「事業場における安全衛生管理対策の強化を図ること」、4「労働者が安心して働くことができる労働環境を整備すること」、5「働き方の見直しによる長時間労働を是正すること」、アウトカム指標は10次防と関連付けられた労働災害死亡者数、休業4日以上死傷者数等-の実績評価書
- 2008年度-前年度と同内容のⅢ-2-1+個別目標1~5+アウトカム指標のモニタリング結果報告書
- 2009年度-前年度と同内容のⅢ-2-1の実績評価書(アウトカム指標は11次防と関連付けられた)
- 2010年度-前年度と同内容のⅢ-2-1、施策小目標1「労働者の安全確保対策の充実を図ること」、2「労働者の健康確保対策の充実を図ること」、3「職業性疾病の予防対策の充実を図ること」、4「労働災害全体を減少させるためのリスク低減対策」、5「働き方の見直しによる長時間労働を是正すること」、アウトカム指標は11次防と関連付けられた労働災害死亡者数、休業4日以上死傷者数等-の実績評価書
- 2011年度-前年度と同内容のⅢ-2-1+施策小目標1~4+アウトカム指標のモニタリング結果報告書
- 2012年度-前年度と同内容のⅢ-2-1で施策小目標1~4はなく、測定指標として休業4日以上死傷者数(11次防ではなく新成長戦略の2020年までに3割減が目標)等、のモニタリング結果報告書
- 2013年度-前年度と同内容のⅢ-2-1+測定指標として労働災害死亡者数と休業4日以上死傷者数のみ(目標は12次防と関連付けられた)、のモニタリング結果報告書(報告書では前年度の他の測定指標も使用)
- 2014年度-前年度と同内容のⅢ-2-1+測定指標の実績報告書
- 2015~~2018年度-実施計画に前年度と同内容のⅢ-2-1の項目はあるものの、評価実施なし
- 2019年度-Ⅲ-2–1「労働者が安全で健康に働くことができる職場づくりを推進すること」、達成目標「労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、労働災害防止の取組を強化すること」(アウトカム指標は13次防と関連付けられた労働災害死亡者数、休業4日以上死傷者数等)の実績報告書
- 2020年度-前年度と同内容のⅢ-2-1+達成目標+アウトカム指標の実績評価書
- 2021年度-実施計画に前年度と同内容のⅢ-2-1の項目はあるものの、評価実施なし
- 2022年度-前年度と同内容のⅢ-2-1「労働者が安全で健康に働くことができる職場づくりを推進すること」の実績評価書で、以下のような構成。
「施策実現のための背景・課題」として5点が挙げられ、「各課題に対応した達成目標」、として1「死亡災害の撲滅を目指した対策の推進により死亡災害を減少させること」(測定指標は13次防と関連付けられた労働災害死亡者数(アウトカム)-達成「△」)、2「就業構造の変化や労働力の高齢化等に対応した対策の推進により死傷災害を減少させること」(同様に休業4日以上死傷者数(アウトカム)-達成「×」)、3「職場におけるメンタルヘルス対策を推進すること」(同様にメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合(アウトカム)-達成「×」、仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合(アウトカム)-達成「△」)、4「化学物質等による労働災害防止対策を推進すること」(同様にGHSによる分類の結果、危険性又は有害性を有するとされる全ての化学物質について、ラベル表示と安全データシート(SDS)の交付を行っている化学物質譲渡・提供者の割合(アウトカム)-達成「△」)、5「外国人材の受入れ環境整備等を図るため外国人労働者の労働安全衛生を確保すること」(外国人労働者向けの安全衛生教材の作成件数(アウトプット)-達成「〇」)が設定された。
2022年度の実績評価書は、実績値は2021年のものに基づいているが、すでに括弧書きに達成の判定結果も紹介しているように、13次防の実績評価書のような内容になっている点で興味深い。「学識経験を有する者の知見の活用」、「評価結果と今後の方向性-目標達成度合いの測定結果/総合判定/施策の分析(有効性の評価/効率性の評価/現状分析)/次期目標等への反映の方向性」という記載項目が設定され、記述も常になく多い。
「総合判定」では、指標1~6ごとに判定理由を記述した後、「以上より、主要な測定指標である指標1『労働災害による死亡者数』については、目標を概ね達成(第13次労働災害防止計画の作成時に想定していなかった新型コロナウイルスの件数を除けば目標を達成)しており、また、主要な測定指標である指標2『労働災害による死傷者数(休業4日以上)』についても、目標未達成ではあるものの、指標1と同じく新型コロナウイルスの件数を除けば目標を概ね達成したと言え、目標達成に向けて一定程度進展していると判断できるため、測定結果を④【進展が大きくない】とし、判定結果をB【達成に向けて進展あり】とした」としている。
なお、12次防は、「計画に基づく取組が着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況の確認、評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告・公表する」と明記した。実際に安全衛生分科会で、2014年7月25日第84回、2015年6月18日第91回、2016年9月6日第96回、同年10月18日第97回に「第12次労働災害防止計画の実施状況」、2017年7月24日第106回に「第12次労働災害防止計画の評価」(同年11月2日第109回にはその「労働安全衛生調査を反映したもの」)、2018年8月25日第117回に「第12次労働災害防止計画の実績」が報告されている。
13次防でも、「本省においては、毎年13次防の実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告」し、局においても同様にするとされていた。実際には、2019年10月4日第124回、2020年11月18日第134回、2021年10月11日第140回に「第13次労働災害防止計画の実施状況」、2022年8月2日第148回、同年9月28日第149回に「第13次労働災害防止計画の評価」(実績)が報告され、11月16日第150回、12月14日第151回に「第14次労働災害防止計画の指標について(案)」及び「計画本文案」が示されて検討が行われ、2023年2月13日第152回に「計画案」が諮問され、同日答申という経過だった。
14次防の目標・指標
2023年度から2027年度までの5か年を計画期間とする第14次労働災害防止計画は、「国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないという基本理念の実現に向け、以下の各指標を定め、計画期間内に達成することを目指す」を「計画の目標」としている。
まず、「本計画においては、後述する計画の重点事項の取組の成果として、労働者の協力の下、事業者において実施される次の事項をアウトプット指標として定め、国は、その達成を目指し、本計画の進捗状況の把握のための指標として取り扱う」。
また、「事業者がアウトプット指標に定める事項を実施した結果として期待される事項をアウトカム指標として定め、本計画に定める実施事項の効果検証を行うための指標として取り扱う」。
厚生労働省作成の「概要」では、「重点事項における取組の進捗状況を確認する指標(アウトプット指標)を設定し、アウトカム(達成目標)を定める」とも説明されている。
さらに、「上記のアウトカム指標の達成を目指した場合、労働災害全体としては、少なくとも以下のとおりの結果が期待される」として、死亡災害及び死傷災害/死傷者数の減少目標を示すという構成をとっている。
指標が定められた事項は、以下の5つである。
■指標事項
① 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
② 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
③ 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
④ 業種別の労働災害防止対策の推進
⑤ 労働者の健康確保対策の推進
⑥ 化学物質等による健康障害防止対策の推進
各々について、アウトプット指標とアウトカム指標を対応させるかたちで、具体的内容を下の表にまとめた。対応関係は、安全衛生分科会における検討経過を踏まえたものだが、「労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」の3つのアウトプット指標のうちの最初の2つが、3つのアウトカム指標のうちの最初の2つと対応し、3つのアウトプット指標のうちの後の2つが、3つのアウトカム指標のうちの最後の1つと対応している。「労働者の健康確保対策の推進」のアウトプット指標「使用する労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年までに50%以上とする。」については、検討資料で、「(指標は立てず)労働者の健康障害全般の予防につながり、健康診断有所見率等が改善することを期待」とされている。
「計画の重点事項」は、次の8つである。
■重点事項
① 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
ア 安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価される環境整備
イ 労働災害情報の分析機能の強化及び分析結果の効果的な周知
ウ 安全衛生対策におけるDX[(デジタルトランスフォーメーション]の推進
② 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
③ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
④ 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
⑤ 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
⑥ 業種別の労働災害防止対策の推進
ア 陸上貨物運送事業対策
イ 建設業対策
ウ 製造業対策
エ 林業対策
⑦ 労働者の健康確保対策の推進
ア メンタルヘルス対策
イ 過重労働対策
ウ 産業保健活動の推進
⑧ 化学物質等による健康障害防止対策の推進
ア 化学物質による健康障害防止対策
イ 石綿、粉じんによる健康障害防止対策
ウ 熱中症、騒音による健康障害防止対策
エ 電離放射線による健康障害防止対策
各々の事項について、「労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと」及び「その達成に向けて国等が取り組むこと」が列挙されており、詳しくは原文を当たっていただきたいが、上の表に「国等が取り組むこと」の「例」を紹介した。
これらの「重点事項」の取組の成果として「アウトプット指標」の達成を目指し、それが達成できれば「アウトカム指標」の達成が期待でき、また、アウトカム指標に基づき、「期待される労働災害全体としての結果」を推計することができるという関係になるというのが14次防の立場で、巻末の「(参考)アウトプット指標とアウトカム指標の考え方」でその説明を試みているので参照していただきたい。
また、以下のようにも説明されている。
「アウトカム指標に掲げる数値は、本計画策定時において一定の仮定、推定及び期待のもと試算により算出した目安であり、計画期間中は、従来のように単にその数値比較をして、その達成状況のみを評価するのではなく、当該仮定、推定及び期待が正しいかも含めアウトプット指標として掲げる事業者の取組がアウトカムに繋がっているかどうかを検証する」。
■期待される労働災害全体としての結果
① 死亡災害については、2022年と比較して2027年までに5%以上減少する。
② 死傷災害については、2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022年と比較して2027年までに減少に転ずる。
■計画の評価と見直し
「本計画に基づく取組が着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。また、必要に応じ、計画を見直す。
計画の評価に当たっては、それぞれのアウトプット指標について、計画に基づく実施事項がどの程度アウトプット指標の達成に寄与しているのか、また、アウトプット指標として定める事業者の取組が、どの程度アウトカム指標の達成に寄与しているか等の評価も行うこととする」。
「政策評価」とともに、14次防の毎年の確認・評価についても注目していきたい。