「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書/厚生労働省●「労働基準法改正研究会」開催

労基法が改正される!

昨年10月13日、厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」が報告書を公表しました。研究会の目的は、「働き方や職業キャリアに関するニーズ等を把握しつつ、新しい時代を見据えた労働基準関係法制度の課題を整理すること」でした。
1月21日、「報告書」と働き方改革法の施行状況をふまえ、今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を具体的に行うことを目的とした「労働基準関係法制研究会」の第1回が開催されました。厚生労働省は研究会の結果を受けて年度内に法律の学識者らによる研究会を発足させ、本格的な法改正「労基法の改正」の議論に入ります。

労働者が求める働き方は多様

「報告書」はどのような内容でしょうか。
研究会を始める契機として、経済社会の変化として労働者の意識や働き方への希望がこれまで以上に個別・多様化の傾向を強め、現行の労働法では対応しづらい部分、足りない部分が出てきています。例えば、現行法は同じ時間・場所で使用者の指揮命令によって画一的に働く集団を想定している、物理的な「事業場」が規制の単位となっているなど、現代の働き方にそぐわなくなってきています。
見直すに当たっては労働者が能力を十分に開発し発揮できる働く環境を構築するために特に2つの視点が重要です。
第一は、「全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を実現」のためには、従来の労働基準法制の基本原則などを「守る」ことを前提に、労働者の心身の健康をしっかりと「守る」制度設計の検討の視点です。
第二は、全ての働く人が活躍し、やりがいを持って働ける社会を実現するために、働く人の多様な希望に応えることができるように選択を支援する「支える」の視点です。
企業や個人からアンケートと同時に様々なヒアリングや調査を行いました。
労働者が仕事において重視する要素である希望する労働時間制度、業務遂行の仕方に対する意向は一様でなく、求める働き方は多様であることが見受けられました。労働時間制度としては、通常の労働時間制度、フレックスタイム制度、変形労働時間制度、みなし労働時間制度、労働時間制度の対象としない働き方等を希望する層も一定存在しました。
健康について、「企業よりも個人が自身の健康確保を行っていくべきか」の質問には、「そう思う」73.2%でした。
労働組合についてです。
労働組合と交渉する際に特に力を入れて欲しいことは、「賃金・労働時間等の条件」41.6%で、正規39.8%に比べ非正規44.6%が高くなっています。
「現在、成果に基づく賃金となっていると思うか」の質問のなかの「賃金・労働時間等の条件」に特に力を入れて欲しいとする割合は、そう思う32.3%、そう思わない45.8%、「日常業務改善(業務の効率化等)」については、そう思う23.0%、そう思わない19.1%でした。さらに「労働組合の信頼度」の「賃金・労働時間等の条件」に特に力を入れて欲しいについては、組合あり・頼りになると思う46.3%、組合あり・頼りになると思わない48.2%とほぼ同じでした。

「労働者」「事業」「事業場」の基本的概念に変化

新しい時代に対応するための視点についてです。
現在は、労基法の「労働者」の枠に収まらない人、適用単位となる「事業場」の枠に収まらない企業などが広く現れています。その一方、企業は、スマートフォンなどで働く人の事業場の外での活動も相当程度把握できるようになってきています。これからの企業では、「画一的」ではなく「多様性を生かす」、そして、主体的なキャリア形成が可能となるような環境を整備することが重要です。
労基法については、その対象とすべき労働者の範囲や、事業場を単位とした規制がなじまない場合における適用手法も含め、働き方と雇用管理・労務管理の変化を念頭に、その在り方を考えていくことが必要です。
労基法の基本的概念が実情に合っているかの確認が必要です。
変化する経済社会の中で、個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられ、リモートワークが急速に広がるとともにオフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、「労働者」「事業」「事業場」等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要です。
そのことを踏まえ検討課題としては、これからの企業の雇用管理・労務管理においては、「画一的」なものだけではなく、「多様性を生かす」、そして、主体的なキャリア形成が可能となるような環境を整備することが重要です。
労基法は、こうした働き方と雇用管理・労務管理の変化を念頭に、その在り方を考えていくことが必要です。

サプライチェーン全体での人権尊重を

適正で実効性のある労使コミュニケーションの確保についてです。
個々の労働者と使用者との間には情報や交渉力の格差があることを踏まえると、集団的労使コミュニケーションの役割がこれまで以上に重要。この点で、労働者が団結して賃金や労働時間などの労働条件の改善を図る上で労働組合の果たす役割は引き続き大きいです。
働き方の個別・多様化が進む、非正規雇用労働者が増加する、労働組合組織率が低下する等の状況を踏まえると、企業内等において多様な働く人の声を吸い上げ、その希望を労働条件の決定に反映させるためには、現行の労基法における過半数代表者や労使委員会の意義や制度の実効性を点検した上で、多様・複線的な集団的な労使コミュニケーションの在り方について検討することが必要です。その際、労基法制については、労使の選択を尊重し、その希望を反映できるような制度の在り方を検討する必要です。
企業に期待することとしては、企業グループ全体やサプライチェーン全体で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点(いわゆる「ビジネスと人権」の視点)を持って、企業活動を行っていくことが重要になっています。

最低基準の新たな例外、強行法規的な部分の骨抜きを懸念

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書はオブラートに包まれたものになっています。「報告書」に関して、労働条件分科会において労使それぞれの立場からさまざまな意見が出されました。使用者側からは「願望」も出されています。その抜粋です。

  • 労働基準法はあくまで働く上での最低基準であり、働き方やキャリア形成など、働く人の多様な希望に対応していくことは、労働基準法を見直さなくても十分に可能ではないか。
  • 長時間労働によって過労死等に至る労働者というものが未だ少なくない中、この強行法規である労働基準法の見直しの方向性が示されたことで、最低基準を外すことのできる新たな例外が検討されるのではないか、また、労働基準法の持つ強行法規的な部分が抜き取られて、労働者保護の砦が崩されるのではないかと懸念している。…労使合意があれば、最低基準を引き下げられるような見直しは断じて行うべきではない。労働基準法を遵守させる観点から、長時間労働の根絶に向けて、副業・兼業の労働時間管理、高度プロフェッショナル制度など、現行制度の厳格化につながる検討を進めてほしい。
  • 多様性に対応することを考えると、…シンプルに構えつつ、当事者である企業の労使が話し合うことで柔軟に働き方を決めていけるような方向性で検討を進めてほしい。業種・業態によって働き方や労使の関係性の幅に差異があるので、労働者の心身の健康確保に留意しつつ、その制度の中身や話し合いの対応も含め、個別企業の労使が選択できる視点を入れてもらいたい。
  • まずは団結権などが保障された労働組合による労働者間、そして労使間の関係の構築や団体交渉、労使協議をはじめとする集団的労使の営みを促進することが重要ではないか。その上で、企業内で発言するために、集団的な手だてを持たない働く人もいるため、まずは、過半数代表制の規定の厳格化や、運用の徹底を図るべきではないか。
  • 働き方に変化が生じている中で、健康の確保は働く人がどのような選択希望を持っているかにかかわらず、全ての働く人にとって共通して必要との認識は今まで以上に重要であると受け止めている。この働く人の中には、曖昧な雇用で働く就業者も含まれるべきであり、労働者概念の見直しとその保護の充実に向けた検討に早急に着手するべきである。

労働時間の短縮、時間外労働の削減の強制を

労基法改正に際しては、ます国際的に比べて長い労働時間の短縮、時間外労働の削減を、心身の健康管理、ワークライフバランスの視点からも規制を強める必要があります。
しかし、「報告書」からは、労働時間制度についてさまざまな希望があることや「画一的」でない、「多様性」をあげて使用者が推進しようとしているみなし労働時間制度や高度プロフェッショナル制度などの導入、規制緩和が推進されることが危惧されます。
ワークアンドバランスは労働時間と生活時間の均等化ではありません。労働者が生活スタイルを確立して規則正しい生活リズムを確保することを含みます。変形労働時間制度、みなし労働時間制度のような労働者の生活時間に侵略して労働に従属させる制度は極力制限される必要があります。「インターバル制度」「つながらない権利」などにより労働者が労働から遮断されて心身ともに解放される生活を権利として保障する必要があります。そのことが過労死等を防止することにもなります。
労働契約法は労基法がおよばない労使間の隙間にある課題を解決するためにも制定されたといわれました。しかし、強制法の労基法が適用されない労使の交渉課題は、現在の力関係のなかでは使用者の言いなりにされることがしばしばあります。
契約内容などは、労基法の改訂で強制力を持つものにすることがまず必要です。
労基法の「労働者」の枠に収まらない人、適用単位となる「事業場」の枠に収まらない企業などが存在しています。同じ企業に帰属する労働者には正規・非正規労働者などの雇用契約による賃金格差を禁止することが必要です。正規労働者だけを優遇する雇用契約をなくすことは労働者の潜在能力を発揮させることに繋がり、企業の総合力を高めます。
また、親企業の管理・支配が実質的に、依存性・労働者性が強い労働者には親企業の就業規則の効力が企業グループ全体に有効性をもつものにするとグループ全体の生産性は向上します。発展につながります。現行の部分修正では不十分です。
ただ、現在の集団交渉は、交渉事項が労基法や就業規則に盛り込まれている労働条件に関する条項に限定されることがあります。職場環境の問題が交渉事項からはずされることがしばしばあります。また現在、親会社は子会社の労組と交渉する義務がありません。そのため子会社の労働者は劣悪な労働条件が改善されない状況におかれていたりします。
そのため職場環境の悪化が要因で個人が就労不能になった事態などについても交渉の開催が困難な場合もあります。労働条件には、当然職場環境が包まれると明記し、団体交渉拒否の状況が生じないようにする必要があります。
厚生労働省は、労基法の改正に当たっては、多くの労働者・労働組合の声を聞き、取りこぼしがない、実効性のあるものにしていくことが大切です。

文:いじめメンタルヘルス労働者支援センター

安全センター情報2024年4月号