パンデミックに直面して: 労働安全衛生の確保 2020年の国際労働安全衛生の日に向けた報告書(国際労働機関ILO)2020年4月22日
01 はじめに
過去20年間にわたって、世界は、早い伝播速度を示した、多くの感染症を目撃してきた。
現在、世界のいくらかの部分におけるCOVID-19感染の増加の持続及び他の部分における増加率の減少を維持する能力に対する懸念が高まっている。政府、使用者、労働者及びそれらの組織は、COVID-19パンデミックと闘い、労働安全衛生を保護しようと試みるにつれて、膨大な課題に直面している。差し迫った危機を超えて、伝播を抑制するうえでなされた進展を持続させるやり方での活動の再開に対する関心もある。
本報告書は、COVID-19の拡大によって生じる労働安全衛生(OSH)リスクに焦点をあてている。また、感染、心理社会的リスク、及びパンデミックに付随するその他の労働関連安全衛生リスクを予防及び管理するための対策を検討している。
2019年6月に採択されたILO100周年宣言は、「安全で健康的な労働条件はディーセントワークに対する基本である」と宣言した。労働安全衛生を確保することは、パンデミックの管理及び労働を再開させる能力において欠くことができないものであることから、これは今日一層重要である。
[コラム①] COVID-19に関する主な情報
[省略]
02 COVID-19パンデミック:労働の世界はどのように影響を受けるか?
COVID-19パンデミックは緊急の健康緊急事態である。パンデミックに対処する対策は同時に、市場、供給(商品及びサービスの生産)、需要(消費及び投資)並びに労働の世界にも直接の影響をもつ。
ロックダウン及び事業の途絶、旅行制限、学校閉鎖その他の封じ込め措置は、労働者及び企業に突然かつ劇的な影響を与えた。多くの場合、最初に職を失うのは、例えば、店員、ウエイター、厨房スタッフ、手荷物取り扱いや清掃員など-その雇用がもともと不安定な人々である。5人に1人しか失業手当の資格がない世界では、レイオフは何百万もの家族にとって破滅を意味している。世界の労働力の約61%を占めるインフォーマル労働者は、彼らがすでに高い労働安全衛生(OSH)リスクに直面し、十分な保護を欠いていることから、パンデミックの間にとりわけ影響を受けやすい。病気休暇または失業給付などの保護を欠いて働くなかで、こうした労働者は、健康と収入の間で選択をする必要があるかもしれず、そのことが彼らの健康、他者の健康及び彼らの経済的ウエルビーイングの双方をリスクにさらすことになる。
失業及び不完全雇用に加えて、この危機はまた、労働条件、賃金及び社会的保護へのアクセスにも影響を与え、労働市場の悪影響に対して相対的に脆弱な特定のグループにとりわけ否定的な影響をもつ。
パンデミックはまた、人口の一定の部分に対して過度の経済的影響をもち、それは主として以下のようないくつかの労働者グループに影響を与える不平等を悪化させる。
- 潜在的な健康問題をかかえる労働者
- すでに失業及び不完全雇用に直面している、若い人々
- 深刻な健康リスクをもたらす相対的に高いリスクに直面し、また経済的脆弱性に苦しむかもしれない、高齢労働者
- パンデミックに対処する最前線にいて、学校または介護システムが休止された場合に世話の責任に過度の負担を負う、女性
- 有給または病気休暇へのアクセスをもたない、自営業者、臨時及び単発労働者
- 行先国で労働の場所にアクセスすることも家族の元に帰ることもできないかもしれない、移住労働者
重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザA(H1N1)、及びエボラウイルスのアウトブレイクの最近の経験は、リスクにさらされている人々を確認するためだけではなく、疾病伝播のメカニズムを理解し、首尾よい管理及び予防の諸措置を実施するためにも、職場に焦点をあてることの重要性を強調している。職場は、使用者及び労働者が、協力して、感染症の拡大を減少させるための予防及び保護対策を含め、労働安全衛生に関する情報及び感性を広めることのできる効果的なプラットフォームである。
03 パンデミックのなかでの労働安全衛生の確保
感染性病原体は、重篤性、致死性、感染様式、診断、治療及び管理において大きく異なっている。
健康危機とパンデミックに対処するためにつくられた職場における包括的な緊急時対応計画をもっていることによって、職場はよりよく、企業が直面している特定の緊急事態に対する諸措置を採用すると同時に、迅速かつ調整のとれた効果的な対応を構築する準備ができているかもしれない。再発を予防するためには、感染危機の間とその後に、変化する事態、労働条件や労働力の特性に対して感染リスクと関連した管理対策が採用されていることを確保するために、労働安全衛生状況の継続的監視と適切なリスクアセスメントが必要だろう。
[コラム②] 労働安全衛生条約(第155号)及び勧告(第164号):権利、役割及び責任
第155号条約及びその勧告の数多くの条項が、労働の世界におけるCOVID-19のようなパンデミックの否定的な安全衛生影響を緩和させるための予防及び防護対策を提示している。以下はそうした条項のいくつかである。
使用者は、合理的に実行可能である限り、その管理下にある作業場、機械、装置及び工程が安全かつ健康リスクがないものであること、また、その管理下にある化学的、物理的及び生物学的な物質及び因子が適切な防護対策がとられていれば健康リスクがないものであることを確保することを要求されるべきである。使用者は、必要な場合には、合理的に実行可能な限り、事故または健康に対する悪影響のリスクを予防するために、適切な保護衣及び保護機器を提供することを要求されるべきである(第155号条約第16条)。
かかる衣服及び保護機器は、労働者に費用を負担させることなしに、提供されるべきである(第164号勧告段落10(e))。
使用者は、必要な場合には、適切な応急手当の措置を含む、緊急事態及び事故に対処する措置を提供することを要求されるべきである(第155号条約第18条)。使用者はまた、労働者及びその代表が彼らの労働に関連した労働安全衛生について協議を受け、知らされ、また訓練されていることを確保すべきである(第155号条約第19条)。
労働者及びその代表は、労働安全衛生に関する適切な情報及び訓練を受ける権利をもつ。彼らはまた、彼らの労働に関連する労働安全衛生のあらゆる側面について、調査する-及び使用者によって協議される-ことができるべきである。労働者はまた、不当な結果を受けることなしに、自らの生命または健康に対し差し迫った重大な危険をもたらすと信ずる合理的な理由のある労働状況から自らを避難させる権利をもつ(第155号条約第13条)。そのような場合、労働者は直接の管理者に対してその状況を報告すべきであり、使用者は是正措置を取るまでは、必要な場合には、使用者は、生命または健康に対し差し迫った重大な危険が存在し続けている労働状況に戻ることを労働者に要求することはできない(第155号条約第19条)。
労働者及びその代表は、労働安全衛生の分野で使用者に協力すべきである(第155号条約第19条)。これには、自己の安全及び労働における自己の行動または怠慢によってて影響を受ける他の者の安全に合理的な注意を払うこと、自己及び他の者の安全及び健康のために与えられた指示に従うこと、安全装置及び保護機器を適正に使用し並びにこれらの機能を失わせないこと、危険をもたらすと信ずる理由があり、かつ、労働者自身では是正することのできない状態を直ちに直接の管理者に報告すること、労働中または労働に関連して生ずる事故または健康障害を報告することが含まれるべきである(第164号勧告段落16)。
▶緊急時対応の労働安全衛生マネジメントシステムへの統合
過去数十年間、工業国と開発途上国の双方において、労働安全衛生マネジメントシステム(OSH-MS)アプローチが導入されてきた。その適用は、職場レベルでのその採用を求める法的要求事項から自主的な採用まで多様である。経験は、OSH-MSが事業所レベルにおける労働安全衛生パフォーマンスの継続的改善にとって論理的かつ有用なツールであることを示している。
労働安全衛生マネジメントシステムに関するILOガイドライン(ILO-OSH 2001)は、OSH-MS確立のために適切な手配がなされるべきであり、それは、方針、組織化計画及び実施、評価及び改善のための行動を含むべきである。
OSH-MSアプローチは以下のことを確保する。
- 予防的及び保護的対策の実施が効率的かつ整然としたやりかたで行われている。
- 適切な方針が確立されている。
- コミットメントがなされている。
- ハザーズ及びリスクを評価するのに職場のすべての要素が考慮されている。
- 経営陣と労働者が各々の責任のレベルに応じてプロセスに関与している。リスクの予防及び管理に関する対策を確立するなかで、OSH-MSはまた、緊急時対応に関する明確な手続、中程度のアウトブレイクまたは重大なパンデミックを含め、様々なシナリオに対する対応の計画を含めるべきである。
- 職場における緊急事態のなかですべての者を保護するために、必要な情報、内部のコミュニケーション及びコーディネーションが提供されていることを確保する。
- 関係する地方当局、近隣及び緊急対応サービスに対して情報を提供するとともに、コミュニケーションをとる。
- 救急及び医療援助、消火及び職場におけるすべての者の避難に対処する。
- 緊急時の予防、準備及び対応における定期的訓練を含め、すべてのレベルの、組織のすべてのメンバーに、関係する情報及び訓練を提供する。
[コラム③] 事業継続計画
労働者の全面的参加によって策定された事業継続計画は、危機のときに特定の事業または組織に影響を及ぼすかもしれないリスクを確認するとともに、それらの影響を低減させる戦略を立てるのに役立つだろう。
開発途上国における経験に基づけば、計画には、職場における疾病に対する労働者曝露のリスクを低減させる実用的な方法を提供すべきである。これには、医療、個人的衛生習慣の奨励及び人対人の接触を最小化するために労働編成を変えることが含まれるかもしれない。
何らかの既存の国及び/または地元の公的機関からのガイダンスにしたがって、計画は、(事業を継続または急増したサービスを提供するために、様々な職務にまたがった労働者らに相互訓練することを含め)減少した労働力で必須の事業を実施するという選択肢はもちろん、社会的距離置き、作業シフト、事業の削減、テレワークその他の曝露低減対策が含まれるかもしれない。計画はまた、メンタルヘルス及びエピデミックが労働者に与えるかもしれない社会的影響を扱うかもしれない。
計画は、すべての労働者、請負業者及び供給業者に知らされるべきである。すべての者が、自らの義務及び責任を含め、計画に基づいてすべきこと-またはすべきでないこと-を知っていなければならない。
▶労働安全衛生リスクと対策
感染リスクの管理
ヒトの感染症は、細菌、ウイルス、寄生虫及び菌を含め、病原である微生物によって引き起こされる。それらは、直接接触、飛沫、(食料、水及び媒介物などの)媒体、媒介生物によって伝播され、かつ/または、大気中に浮遊しうる。疾病感染パターンもまた、その労働が動物原性感染症のリスクにさらす動物との接触をもたらす者と関係している。感染症への感染の職業リスクから-合理的に実行可能な限り-労働者を保護する適切な対策をとるために、使用者はリスクアセスメントを行うべきである。
一般的に、職業リスクは、危険なイベントの発生の可能性とこのイベントによって引き起こされる人々の傷害または健康被害の重大性の組み合わせである。
労働における感染リスクのアセスメントはしたがって以下のことを考慮する。
- 感染に曝露している可能性、感染症の特性(すなわち伝播パターン)及び労働者がその義務の過程で感染者と遭遇または汚染された環境または物質(例えば検査室の試料、廃棄物)に曝露する可能性を考慮する。
- 結果としての健康影響の重大性、感染の影響を管理するために可能な対策はもちろん、(年齢、基礎疾患及び健康状況を含め)個々の影響する要因を考慮する。
[コラム④] ILO:COVID-19の予防及び緩和-アクションチェックリスト
このツールは、労働者の安全と健康を保護するためにCOVID-19リスクを評価する簡単かつ共同のアプローチを提供している。それは以下の問題を扱っている。
物理的距離。例えば、労働者、請負業者、顧客及び訪問者の間の相互作用を評価するとともに、それらのリスクを緩和するための対策を実施する。顔を合わせての会議よりも、実行可能な場合には電話、Eメールまたはバーチャルを使い、人々が物理的に距離を置くことができるようにするやり方で労働を組織する。いかなるときでも施設内における労働者の大きな密集を避けるために、作業シフトを導入する。
衛生。例えば、消毒剤を提供するとともに定期的に共同領域を消毒する。手洗いの文化を促進する。職場におけるよい呼吸衛生(例えば、咳やくしゃみをするときは口や鼻を曲げた肘やティッシュで覆う)を奨励する。
清掃。例えば、定期的に机とワークステーション、ドアノブ、電話、キーボード及び作業対象を消毒剤で定期的に拭くとともに、休憩室を含めた共用エリアを定期的に消毒する文化を促進する。休憩室などの共同領域は定期的に消毒すべきである。
訓練及びコミュニケーション。例えば、ウイルスへの曝露を防止するために採用された対策及びCOVID-19に感染した場合の行動方法に関して経営陣、労働者及びその代表を訓練する。PPEの適切な使用、メンテナンス及び廃棄に関して訓練する。職場、地域及び国における状況に関する最新情報を提供するために労働者との定期的コミュニケーションを維持する。国の法律及び決められた手続にしたがって、差し迫った重大な危険を引き起こす労働状況から自らを避難させるとともに、速やかに直属の管理者に知らせる権利をもっていることを、労働者に知らせる。
個人用保護具(PPE)。必要な場合には、PPEを衛生的にそれを廃棄するための蓋の閉まる瓶とともに提供する。
対応。地元当局のガイダンスにしたがって、COVID-19の疑われる症状のある労働者が職場に来ないようにするとともに、有給病気休暇、病気給付及び育児/介護休暇へのアクセスを拡張し、すべての労働者に知らせる。適切な保健施設への移送を待つ間、職場でCOVID-19の症状が出た者を隔離するための用意をしておく。感染した労働者と濃厚接触をしたことのある者の健康調査を提供する。
チェクリスト全体は以下で入手できる:
「職場におけるCOVID-19の予防・緩和-アクションチェックリスト」(英語版)(日本語版)
感染のリスクは何らかの労働者、とりわけ最前線で対応している者、必須のサービスを提供している労働者、または密集した作業場の労働者において、相対的に高い。リスク管理対策は、これらの労働者の必要性に具体的に合わせるべきである。
緊急対応労働者
医療労働者。アウトブレイクの間、医療労働者のような最前線の緊急事態対応にあたっている様々な労働者のグループ、また、とりわけアウトブレイクの管理に積極的に関わっている者(緊急医療チームの最初の応答者、緊急ユニット及び専門治療ユニットの医療労働者、輸送、及び応急処置)についてリスクは相対的に高い。現在のCOVID-19パンデミックのなかで、イタリア及び中国などの諸国は、医療労働者が確認された陽性者の事例の合計数の約20%に達したと報告している。
COVID-19においては、医療及び緊急対応労働者において感染のリスクを低減させるために、以下のような様々な種類の対策を実施することができる。
- 病原体及び表面や対象物の汚染の拡大の低減にねらいを定めた環境的及び技術的管理。それらには、患者間及び患者と医療労働者の間の物理的距離を空けることができるように適切なスペースを提供すること、COVID-19が疑われまたは確認された患者のために換気のよい隔離室が利用可能であることを確保することが含まれる。
- リスキーな行動を予防することにねらいを定めた管理的対策。それらには、適切なインフラ、明確な感染予防・管理(IPC)方針の策定、検査へのアクセスの促進、適切なトリアージ及び患者の配置、適切なスタッフ対患者比、及びスタッフの訓練など、IPC対策のための適切なリソースが含まれる。実施されるべき別の管理的対策は、(例えば、熱またはその他の感染症の初期症状を監視することにより)疾病を治療するのが相対的に容易な初期段階で、職業ハザーズの何らかの否定的な健康影響を検出するための、リスクにさらされている労働者の監視及び調査に関係している。すべての曝露者が何らかの症状を容易に、医療当局にそれを届け出る必要のある、管理者に報告することができることを確保するための手配がなされなければならない。
- 適切なPPE。これには、適切なPPEを選択すること、それを装着、取り外し及び廃棄する方法に関して訓練されていることが含まれる。
WHOは、アウトブレイク中の医療労働者の権利、役割及び責任に関するガイドラインを策定している[4月号24頁参照]
検査機関スタッフ。検査機関のなかでバクテリア、ウイルス、血液、組織及び/または体液を扱うことは感染を引き起こすかもしれない。研究で用いられる人体及び動物によって運ばれる疾病もまたチームによって伝播され、彼らはその後キャリアになるかもしれない。WHOの検査室バイオセーフティマニュアルは、感染を予防するための、すべてのレベルにおける検査室での使用の技術及び対策に関する実用的なガイダンスを提供している。また、検査室環境での具体的な操作に関連した最低限/必須の労働条件を扱った勧告を含め、COVID-19に関する特別のガイダンスも策定されている。
死亡対応[デス・ケア]労働者。いくらかの感染症の場合に人間の遺体が健康リスクを生じさせるかもしれない。遺体安置、葬儀、検視または埋葬を含め、遺体の管理に関わる労働者は、COVID-19の場合を含め、感染をもたらすリスクにさらされるかもしれず、よい手の衛生、PPE、作業領域の適切な換気及び機器の清掃によって、適切な用心をしなければならない。
緊急輸送労働者。アウトブレイクの間、(専用の飛行機、列車及び船舶はもちろん、救急車によって)患者を有する必要があるかもしれず、そうした労働者を感染のリスクに曝露させる。感染性の高い疾病により死亡した者の遺体を輸送する者もリスクにさらされる。車両の清掃及び消毒もまた感染のリスクを生じさせる。
医療及び緊急施設の清掃及び廃棄物処理労働者。こうした労働者のCOVID-19感染のリスクは、汚染された可能性のある物、表面及び環境への接触から生じる可能性がある。こうした施設の消毒及び廃棄物処理を管理する労働者については、適切な手の衛生、PPE及び適切な消毒方法が用いられなければならない。
また、COVID-19パンデミックのような危機的状況のなかで、警察官、防災要員、軍人、消防士は、緊急時対応において支援するために最前線に呼ばれるかもしれない。彼らが指名されるかもしれない任務に応じて、彼らは、汚染された環境はもちろん、感染した(発見された及び疑われていなかった)人々、患者及び同僚に曝露するかもしれない。こうした労働者は、PPEの使用その他の予防対策など、パンデミックに関連してこれらの任務を安全に行う方法に関して、適切な情報及び情報を受けなければならない。
必須のサービス及び高密度な作業場所の労働者
COVID-19の伝播パターンのゆえに、半拘束的な環境のなかでの他の労働者との近接から高密度な労働の者(例えば、工場、コールセンター、オープンスペースの事務員など)はもちろん、潜在的に感染性の高い個人とふれあう労働者(例えば、食料品店及びスーパーマーケット、銀行、学校、配達サービス、飲食店、スポーツ及び観光施設など)もまたリスクにさらされる。
この例外的な状況に直面して、世界中の多くの政府が、感染を制限するための工場、サービス及びビジネスの休止とともに、人々に対して義務的な隔離措置を課すことを決定してきた。(必須の事業または必須の作業活動を指すことも多い)「必須のサービス」のリストは、通常-社会パートナーとの協議によって-政府によって採用され、アウトブレイクの間、どのサービス及び業種が操業を続けるかを決定する。
食料品店労働者はCOVID-19中の保護対策の強化を要求
必須のサービスの労働者は適切な安全衛生対策、病気休暇及び使用者からの援助を要求している。
例えば、アマゾンの子会社のひとつであるWhole Foodsの労働者は、複数の労働者が検査でCOVID-19陽性と判明した後に集団的行動を組織した。労働者は2020年3月31日に病気で電話する行動を組織し、病気休暇、無料のコロナウイルス検査及びパンデミック中2倍の危険手当を要求した。
インフォーマル労働者
とりわけ開発途上国における、多くのインフォーマル労働者は、その代わりが窮乏でしかないことから、移動及び社会的交流が限定されているにも関わらず、働かざるを得ない。こうしたインフォーマル労働者は、物理的距離置き、手洗いまたは自己隔離など、保健当局によって義務付けられた予防措置を遵守することができないかもしれず、それゆえ適切な支援が提供されなければ、感染のリスクが高まる。
こうした労働者を保護する対策には-とりわけ-安全で衛生的な作業慣行に関する教育及び訓練、必要に応じたPPEの無料出の提供、保健サービスへのアクセス及び生活代替策が含まれるべきである。
ストレス、心理社会的リスク若しくは暴力及びハラスメントへの対処
緊急事態のなかで人々はストレスに異なるかたちで反応するかもしれない。心理的変化には、不安の増大、低調の気分、やる気のなさ及び不安または憂鬱な考え方が含まれるかもしれない。
COVID-19のようなアウトブレイクの間は、人口全体が、とりわけ義務的な自宅隔離が強いられる場合には、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼし得るようなストレスのレベルの増大の対象になる。労働者は、労働状況の現在及び将来の不確実性若しくは労働の過程及び調整における変化から生じる心理社会的ハザーズによって影響を受ける可能性がある。
仕事または事業を失う恐れ
COVID-19の国際的アウトブレイクの間-とりわけ自宅での監禁または事業の一時的閉鎖が強いられた場合-労働者、起業家及び自営業者の大きな部分が労働から離れることを強いられ、唯一の収入の機会を失うかもしれない。
不確実性に関連したストレスは、抑うつ、バーンアウト及び不安など、労働者のウエルビーイング及びメンタルヘルスに否定的な影響をもち得る。
さらに、パンデミックの間に労働者が堪えることになる多くの要因がストレスを誘導する可能性があり、それらには以下が含まれる。
- 自身または疾病に罹患するかもしれない家族及び同僚のウエルビーイングについての恐れ
- 個人防護のための安全機器の不足
- 社会的支援または社会的ネットワークの不足
- 確立された安全プロトコルと個々人を世話または介護したい願望との葛藤(例えば、安全な埋葬を確保すること、隔離及び無接触方針の実行)
- 運動、よい食習慣及び十分な休息の取得など、セルフケア活動を維持するうえでの困難
COVID-19のもののようなアウトブレイクの間、緊急時対応労働者は、感染を予防するための厳格な労働安全衛の生対策及び手順の結果として、例えば、重いPPEの身体的緊張、物理的隔離など、ストレスのレベルの増大に直面するかもしれない。
加えて、緊急時対応労働者の作業量は、こうした労働者がしばしば病気になったりまたは隔離されたりするかもしれないなど、スタッフの減少の可能性という悪化要因によって、劇的に増加する。こうした労働者の多くは、典型的な週40時間労働よりも長時間の労働及び連続シフトを要求されることが多い。作業量の増加と休憩時間の減少ははまた、必須の商品の生産、配達及び運輸、または人々の保安及び安全の確保に関わる人々にも関係するかもしれない。一般的に、重い作業量と休息時間の減少は、疲労及びストレスのレベルを増大させ、ワーク・ライフ・バランスに否定的影響を及ぼす可能性があり、それらすべてが、こうした労働者のメンタルヘルスに有害な結果をもたらす。疲労及びストレスはまた、労働傷害及び事故のリスクも増大させるかもしれない。
経験は、アウトブレイクの間に、社会的な汚名及び差別に加えて、(身体的及び心理的双方の)暴力及びハラスメントが増加す可能性があることを示している。
人々は疾病との結び付きに対する偏見のゆえに、レッテルを貼られ、型にはめられ、差別され、及び/または立場を失う経験をするかもしれない。現在のCOVID-19アウトブレイクの間に、一定の民族的背景の人々並びにウイルスに接触したとみなされた人々に対して、社会的な汚名及び差別的行動がみられた。感染のリスクレベルの高い領域及び職業で働く人々は、汚名を着せられ、また差別されるかもしれず、それはコミュニティからの排除並びに暴力及びハラスメントの増加につながる。
いくらかの流行に関連した高い死亡率、症状の不確実性によって倍加された苦悩、検査キットが利用できないこと及びワクチンや治療方法がないことは、医療専門家並びにその他の患者及びその家族の世話を直接担っている者に対する暴力行為につながる可能性がある。
コンゴ民主共和国のエボラ・アウトブレイク中の事象
2019年4月、コンゴ民主共和国のエボラ・アウトブレイクの真っただ中で働いていた医療労働者及び科学者が、ブテンボ大学病院に対する攻撃のなかで負傷した。労働者の一人でWHOから配置された疫学者が攻撃のなかで殺害された。この攻撃は、アウトブレイクの間に医療施設及び対応者に対して繰り返された多くの攻撃のひとつだった。こうした攻撃は、外国人がこの疾病をコンゴ民主共和国に持ち込んだという間違った信念に動機付けられたものだった。
市民の移動を制限する措置は、必用品の不足とあいまって、それらの措置の執行を委ねられたスタッフ(例えば、警察官)または必須商品の販売及び輸送に関わるスタッフに対する反感につながる可能性がある。安全衛生法令の執行、すなわち労働監督官によって労働者の健康に重大かつ差し迫った危険のある状態と判断された場合の作業中止もまた、彼らを暴力にさらす可能性がある。
食料品店労働者に対する暴力及びハラスメント
パキスタンでは、ある食料品店の所有者及びその3人の労働者が、店内の品不足に対する顧客の怒りのゆえに多数の男性の集団によって棒でたたかれた。オーストラリアでは、ある男性が言い争い中に意図的に商店労働者に向かって咳をした。ニュージーランドのある食料品店の労働者は、複数の機会に、顧客たちが彼女と同僚に物を投げつけ、唾を吐きかけ、罵倒したと説明した。
暴力及びハラスメントを含め、心理社会的リスクを予防及び低減させるために、労働安全衛生対策が実施されるべきであり、労働者のウエルビーイングに対する影響を予防することに加えて、メンタルヘルス及びウエルビーイングを促進すべきである。
WHO及びILOによって作成された、医療労働者及び対応者を保護するためのマニュアル(2008年)は、こうした労働者における労働関連ストレスを予防するために実施されるべきいくつかの対策を掲げている。それらはまた、パンデミックの最前線にいるその他の労働者にも関係している。対策には以下のことが含まれる。
- 労働者が知らされていると感じられるようにするとともに、管理できているという感覚を与えるための、よいコミュニケーション及び最新の情報
- 労働者が自ら及び同僚の健康リスクについて懸念を表明し、質問をすることのできる場
- スタッフのウエルビーイングに関するものを含め、懸念を確認するとともに、問題を解決するために共同するための多くの専門分野にわたるセッション
- 地元のスタッフの家族がアウトブレイクによって影響を受けるかもしれないことから、組織の文化及び他の者に対する感受性をレビューすること
- 自ら及び他の者のストレス及びバーンアウトの兆候を認識することを含め、個人的戦略、弱点及び限界を評価及び理解するためのチェックリスト
- 心理的支援を提供するとともに、ストレス及びバーンアウトを監視するためのバディ制度
- 労働時間中に十分な休憩をとるための定期化された休憩時間
- 運動を含め、身体的健康を促進するための機会、及び、労働者が健康的な食習慣を維持するよう奨励すること
- 労働者が内密に恐れ及び悩みを共有することのできる心理的支援
- 管理者がその監督下にあるスタッフにとってのロールモデルであるロールモデリング、及び、彼らをいかにストレスを緩和するかを示すやり方について案内すること
- 感染または汚染に対する人々の潜在的な過剰の恐れから引き起こされる医療労働者の排除に対処するための、汚名を減らすキャンペーン、及び、労働者が自らが行っていることに誇りを感じるようにするための、最前線にいる男女の役割を人々が高く評価することを促進すること
- 対話、革新的解決策及び態度の肯定的変化を促進することのできるユーモア及び参加型テクニックの活用
自宅で働く人々のメンタルヘルスの保護
COVID-19パンデミックの間、多くの労働者が一時的に自宅で労働することを求められている。
ユーロファンド及びILOによって15か国で行われたある最近の調査は、現場だけで働く者の25%と比較して、自宅で働く者の41%が自らを高度にストレスを受けていると考えていることを明らかにした。
自宅で労働することは、孤立していると感じる、相対的に長時間働く、及び労働と家族生活の間の一線が不鮮明になる、ことにつながる可能性がある。隔離が集中を促進する可能性がある場合には、社会的相互作用をもたないことが強力なストレッサーになり得る。柔軟な労働時間が休憩なしの過重労働時間になり得るし、夜中を通しての労働時間になり得、不眠に関連したリスクにつながる。
隔離のメンタルヘルスに対する影響
ランセットは隔離の心理的影響に関するレビューを出版した。レビューした研究の大部分が、外傷後ストレス障害、混乱、及び怒りを含め、否定的な心理的影響を報告していた。ストレッサーには、隔離の長期化、感染の恐れ、フラストレーション、退屈、不適切な供給、不十分な情報、経済的損失及び汚名が含まれた。長期間持続する影響を示唆した研究者もいた。
自宅で労働する場合、有給労働と個人生活の間に境界を設定することがとりわけ困難な可能性がある。とりわけ家族への世話の提供及び舵の両方を含め、家庭における無給労働に一時的な責任を負い続ける女性にとってそうである。
COVID-19のようなパンデミック中に隔離を強いられる状況の間、多くの学校及びデイケア施設が閉鎖される。これは、労働義務に加えて、教師及び介護者としての役割を引き受ける必要があるであろう、働く両親に対して大きな負担を生じさせる。
それゆえ使用者及び労働者がこれらの問題を話し合うことが重要である。
例えば、パフォーマンスの対象における何らかの調整、ケア及び自宅教育の責任をもつテレワーカーのための労働時間の調整または短縮若しくは特別の休暇の調整をできるようにすることが可能かもしれない。子供の世話と家庭の雑用の双方について通常時に利用できるかもしれない援助(家族、隣人及び有料援助)は、隔離措置のために、例えばCOVID-19パンデミック中はもはや利用できないかもしれない。
健康的な両親は、例えば、自らがパンデミック状況下での食料品購入の責任をもつことを見出し(開店時間の短縮、PPEを含め防護準備、購入商品を消毒する消耗なプロセス等)、また、COVID-19のために隔離させられている高齢の家族のための食料品購入の責任ももつ必要があるかもしれない。
これらはすべて、調理、給仕、清掃、教育、室内活動の組織化及び自宅でフルタイム労働をすること、非常に小さな家であることも多い監禁状態のなか子供たちに全日の活動を確保することを含め、その日の終わりのない時間を費やす独立したフルタイム仕事である。
これは、一人で複数の役割を引き受けなければならない一人親にとってより歴然としている。こうした親はまた、アウトブレイクの間、多くの前例のないストレスフルな決定にも対処しなければならない。彼らは、子供に関して通常の日々の決定をさばくとともに、家族及び他者の安全と健康に影響を及ぼす決定をしなければならない。
世界中の一人親の大部分は女性であり、働く母親の負担がCOVID-19のような公衆衛生危機及び非常事態中よりもあからさまだったことはない。
こうしたリスクを低減させ、労働者のメンタルヘルス及びウエルビーイングを保護するために、様々な労働安全衛生対策を採用することが可能である。
(経営陣のトップから一線の管理者に対する)経営陣の関与及び支援は、かかる対策が実行及び適用されることを確保するために重要である。フルタイムのテレワークに付随する社会的隔離の現実のリスクを踏まえて、テレワーカーが管理者、同僚及び全体としての組織とつながり続けるのを援助するためにあらゆる努力がなされるべきである。
すべてのパートナーは、労働者が達成することを期待される結果、彼らの職務、雇用状況、連絡可能な時間並びに(過度に面倒な報告義務なしに)進捗状況を監視及び議論する方法に関する明確な予想を必要としている。例えば、労働者が労働可能なまたは可能でない時間に関する基本ルールを設定し-それを尊重することが重要である。
たとえ予想が明確であったとしても、なお有給労働と個人生活の間の境界の効果的管理のための個人的戦略をつくることが重要である。これには、混乱させられることのない専用作業スペース、並びに、休憩及び個人生活のために留保される特定の時間に労働から離れる能力が含まれるべきである。
労働者は適切な機器(例えば、ラップトップ、テレワーク用アプリケーション、適切なIT支援)及び訓練へのアクセスをもつべきである。
テレワークは労働者に、組織の通常の事業時間中には連絡可能であり続けながら、もっとも便利な時間に労働を行う柔軟性を提供し得る。この柔軟性は、それが子供、高齢の両親及び病気の家族の世話など、個人的責任の前後に有給労働を計画できるようにすることから、テレワークを効果的にするために重要である。
チリはリモートワーク及びテレワークに関する法律を承認
2020年3月に採択された法律は、リモート労働者に、24時間のうち少なくとも連続した12時間連絡を絶つ権利を認めている。使用者は労働者に、休息の日、許可または労働者の年間休日はもちろん、連絡を絶つ時間中はコミュニケーション、命令又はその他の要求に応えることを要求しない。
加えて、使用者はリモート労働者に対して、予防対策及び作業手順はもちろん、彼らの作業に関連する職業リスクについて知らせなければならない。使用者はまた、彼らの職務に関連した労働安全衛生対策について労働者を訓練しなければならない。
労働者の安全、健康及びウエルビーイングが危険にさらされないよう確保するためにコミュニケーションのよいシステムを設定することも重要である。使用者が労働者に、緊急時の連絡電話番号を提供するとともに、電話、ウエブまたはEメールを通じた健康状態に関する定期的更新を調整するかもしれない。加えて、懸念について議論し、従業員援助プログラムを含め、支援サービスにアクセスするために、労働者に連絡先を提供することもできる。
[コラム⑥] COVID-19封じ込め期間中の家庭内暴力の予防
距離置き及び封じ込め措置が実行され、人々が家庭にとどまること、また可能な場合には自宅で働くことを奨励されるにつれ、とりわけ女性及び子供に対する、家庭内暴力のリスクが増加する可能性がある。エピデミック(例えば、エボラ及びジカ)の経験は、移動が制限された状況下で女性に対する暴力が増加する傾向があることを示している。虐待関係にある女性は暴力的な家族と密接に接触してより時間をすごし、家族は追加的ストレス及び潜在的な経済及び仕事の損失に対処することから、彼らが家庭内暴力に曝露する可能性は増加する。ILOの2019年暴力及びハラスメント条約(第190号)によれば、加盟国は、家庭内暴力の影響を認める適切な措置を講じるとともに、合理的に実行可能な限り、労働の世界におけるその影響を緩和すべきである(第10(f)条)。
スペインにおけるCOVID-19強制的封じ込めの間に、スペイン政府は、制裁なしに助けを求めて街頭に出ていく能力を被害者に与え、被害者のためのリソース及び情報の共有を通じることを含め、ジェンダーに基づく家庭内暴力をやめさせる情報キャンペーンを開始した。
人間工学的、物理的、環境的及び化学的労働安全衛生リスクの管理
エピデミック対応のなかで医療に関わる労働者の間で、身体及び荷物を扱うことによる人間工学問題が増加するかもしれない。窮屈な姿勢を伴なうことも多い、荷物-すなわち患者-の手を使った取り扱いは急性の筋骨格系障害を引き起こす可能性があり、労働能力を減少させ、また、厳格な作業慣行を順守する能力を減退させ、結果的に欠勤を増加させる。
医療労働者はまた、顔面への物理的マーク付け、熱ストレス及び脱水など、重いPPEを使用することから生じるリスクにも直面する。実際、身体全体(またはその大部分)を覆うPPEの使用は、熱及び汗を閉じ込め、蒸気冷却の身体の予防メカニズムを制限するかもしれない。熱ストレスは職業病につながる可能性があり、労働者に(例えばめまいによる)傷害のリスクを増加させる可能性がある。熱ストレス及び脱水のリスクを低減させるために労働者はきれいな飲料水を提供されるべきである。彼らは、熱ストレスを低減させる方法について訓練され、症状の自己監視を奨励されるべきである。
すでに肉体的に要求の大きい労働に直面している、必須サービスの労働者は、労働時間の増加、作業量の増加及び労働者の欠勤レベルの増加によるプレッシャーの増大に直面するかもしれない。こうした問題は、オペレーションラインの作業量についていく必要のある労働者に、筋骨格系障害のリスクを増大させるかもしれない。また、こうした状況から生じるストレス及び疲労が、事故及び傷害のリスクを増大させるかもしれない。
自宅で労働する人々もまた、公式の職場で入手可能なものと同じ安全衛生基準を満たさないことも多い、自宅の環境に関連したいくつかのリスクに直面するかもしれない。机、椅子その他のアクセサリーは、事務所のものと比較可能な(同等の)質をもっていないかもしれない。加えて、(熱、寒さ、照明、電子安全、家庭衛生及び住宅改修など)物理的環境は適切でないかもしれない。
労働者は、例えば以下のような、自宅で行われる労働に関連した問題に関する適切な情報を受け取るべきである。
- 労働者が長時間同じ姿勢で働かないことを確保するために職務を多様化する
- 例えば、グレアを生じさせないように窓から話すなど、画面の位置を見直す
- ねじったり、伸ばしすぎを最小限にするように機器を配置する
- 作業を行うのに必要な機器その他の物のために十分な作業スペースをとる
- 労働者に定期的に休憩をとるとともに、毎1時間ごとに1分立ち上がって動くよう奨励する
加えて、清掃及び化学品による消毒が感染を防止するための重要な要素になることも多い。とりわけ医療、運輸、食料品店、緊急要員その他の労働力部門など、主要な必須のサービスのあらゆる職場で、労働者は、感染の伝播からと接触する自ら、同僚及び一般の人々を保護するために化学品及び消毒剤が置かれた職場でより多く働いていることを見出すかもしれない。こうした消毒材の需要の世界的増大の可能性のために、化学産業で働く人々もまた、こうした化合物の量の増大のなかで働くかもしれない。(消毒用ティッシュ、スプレーその他の家庭用クリーナーに一般にみられる)第4級アンモニウム化合物など、COVID-19に対する消毒剤に多く使用される化学物質のいくつかは、精子数及び排卵過程に悪影響を与え、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクを増大し、喘息の症状に影響を及ぼすかもしれない。労働者が、これらの化学物質の正しい安全な使用について訓練され、また、とりわけ当該職場で以前に使われたことがないかまたは使われる頻度が少なかった化学物質である場合には、それらのリスク及び曝露レベルについて知らされるべきである。テレワークをする労働者もまた、家庭の清掃及び消毒の間に化学物質に接触するようになるかもしれない。
04 安全で健康的な職場を確保するための共同の行動
COVID-19パンデミックは再び、ディーセントワークのための労働安全衛生の重要な役割を示している。職場が安全で健康的であることを確保することが、ウイルスの拡大を阻止して、労働者及びよりひろい人々の健康を守るために重要である。
COVID-19危機に直面するなかで、効果的な職業上の予防及び管理対策は、それが、さらなる経済的及び社会的混乱につながる可能性のある、さらなるアウトブレイクを防止及び回避するのを援助することから、事業の継続及び雇用に肯定的な影響をもつ。生産を再開及び持続するために企業は、労働安全衛生リスクを管理するとともに法的要求事項を遵守する必要があるだろう。これは、(例えば物理的距離置きを確保することなど)特別の工学的及び管理的アレンジメントを要求するかもしれない。新たな職場アウトブレイクは、経済及び雇用に重大な影響を与えるさらなる混乱をもたらす可能性がある。現在のCOVID-19のようなパンデミックの間、国際的及び国レベルにおける協力が重要である。
各々が特定の専門領域における、すべての国際機関は、諸国間の協力を確保するうえで重要な役割を果たしている。とりわけ、WHIOとILOは、個々人、労働者、地域社会及び国のための、持続可能な短期、中期及び長期的解決策を確認するための、労働者の安全と健康に関する国際的ガイダンスを提供している。国際的な様々な機関及びフォーラムもまた、自営業者、臨時及びインフォーマル労働者、とりわけ都市部及び農村部双方の中小企業(SMEs)の者のための、パンデミックの健康、経済的、雇用及び社会的影響に対処する、ジェンダー平等を志向した対策の確認及び採用を支援している。
パンデミックは政府に、保健部門だけでなく経済及び労働部門に対しても強力な影響をもち得る、困難な選択をすることを強いている。社会パートナーとの協議は、とられた決定の実行可能かつ現実的実行をできるようにするために重要である。加えて、政府は、国及び国際的レベルの科学界を含め、技術的な権威及び専門家とも協議及び調整を行うべきである。
▶パンデミックへの対応
COVID-19の拡大とともに現在経験しつつあるもののような危機の影響を緩和するためには、政府の対応は健康保護及び経済的対策に焦点をあてる必要がある。
[コラム⑦] COVID-19危機に対応するうえでの重要な柱
ILOは以下の4つの柱にしたがってその主要方針を編成してきた。
▶積極的な財政政策、緩和的な金融政策、保健部門を含めた特定部門に対する融資及び財政支援を通じて経済及び雇用を刺激する
▶すべての者に対する社会的保護の強化、雇用保持対策の実施、企業に対する財政/税その他の救済の提供により、企業、職業及び収入を支援する
▶労働衛生対策の強化、(例えばテレワークなど)労働調整の適用、差別及び排除の防止、すべての者に対する保健アクセスの提供及び有給休暇へのアクセスの拡大により、職場において労働者を保護する
▶使用者及び労働者の団体の能力及び耐性の強化、政府の能力の強化、社会対話、団体交渉並びに労使関係の機関及びプロセスの強化により、解決策のための社会対話に依拠する
2017年のILO平和及び強靱性のための雇用及びディーセントワーク勧告(第205号)によれば、危機対応は、すべての労働者への個人保護機器及び医療援助の提供、救助及びリハビリテーション活動に従事する者の包含を含め、安全かつディーセントな労働条件を促進すべきである(段落9(a))。実際、医療労働者に、適切なPPEを含め、適切な労働安全衛生対策なしに、感染した患者をケアすることを要求することは倫理的に正当化できないだろう。しかし、医療及び緊急労働者だけでなく必須のサービスなどその他の労働者グループのためにも、特別の労働安全衛生の方針及びガイドラインが策定されるべきである。
危機防止の方針及び戦略におけるジェンダー平等を志向したアプローチの採用
ILO平和及び強靱性のための雇用及びディーセントワーク勧告(第205号)は、危機が女性と男性に異なって影響を及ぼすことを認めて、加盟国に、平和の促進、機器の防止、復興の可能化及び強靭性の構築のための整合性のある包括的戦略の一部として、あらゆる危機防止及び対応の設計、実施、監視及び評価活動に、ジェンダーの視点を適用することを求めている(第8(g)条)。衝突または災害直後における危機対応には、明確なジェンダーの視点をもった調整された包摂的なニーズアセスメントが含められるべきである(第9(a)条)。
国連女性機関は、現在の決定及び方針にジェンダーの視点の包摂を促進するために、COVID-19対応のためのチェックリストを策定しており、英語、スペイン語及びフランス語で入手できる。https://www.unwomen.org/en/news/stories/2020/3/news-checklist-for-covid-19-response-by-ded-regner
第205号勧告は、危機状況から回復するなかで、政府は、社会パートナーとの協議のうえで、必要な場合には、労働保護及び労働安全衛生に関する条項を含め、労働法令をレビュー、確立、再確立または強化すべきであると助言している。法令はまた、労働者が病気にかかり、公式に認められた公衆衛生勧告(すなわち隔離)にしたがっている場合に、アウトブレイクの間彼らを解雇から保護すべきである。
ウルグアイ及びスペインの労働監督官はCOVID-19の状況に対応
エピデミックの間、労働監督官は、労働安全衛生法令の順守を促進する彼らの努力を増強するよう求められるかもしれない。
COVID-19と関連して2020年3月にウルグアイの労働監督機関は、監督官のためのテレワーク及びオンコール計画のシステムを確立した。オンコールの間、監督官は、差し迫った生命の危険、重大かつ致死的な災害、(進行中の活動についての)予防的閉鎖及び作業停止の一時的中止に関する申し立てに対処することを優先する。加えて、監督は、食料品店で現在の公衆衛生状況に対する対応プロトコルの存在を検証するために行われる(適切な場合には、二者構成の労働安全衛生委員会及び/または労働衛生サービスの参加によって精緻化される)。この監督は、労働者への情報の提供、職場の目に見える領域における予防対策の掲示及び個人保護及び衛生機器の利用可能性を検証することを目的にしている。こうした訪問の間、監督官は、マスク及びゴム手袋を使用し、公共交通における感染のリスクを避けるために業務用車両により通勤する。
スペインの労働監督機関は、労働の世界におけるCOVID-19の影響に対処するために、特別の管理ユニットを創設した。こにゅニットは、予防対策の強化、パンデミックの時期に無視または制限されるかもしれない労働者の個人的及び集団的権利の保護を目的とし、一時的雇用規則の手続に基づいた監督報告における基準を調整及び統一することに加えたものである。それはまた、新型コロナウイルスによって生じた状況に関する、労働及び社会保障監督機関の措置及び行動に関する運用基準も発行した。
労働安全衛生と公衆衛生の間の相互関係
エピデミックの影響を緩和し、労働力の健康を保護し、またエピデミック中及び後に保健サービスの持続を確保するためには、強力な保健システムが必要である。エピデミック及びパンデミックはこうしたシステムを大きなプレッシャー及びストレスのもとに置く。人々、努力、及び医療供給はすべて緊急事態への対応にシフトする。これはしばしば、基本的及び通常の必須の保健サービスが無視されることにつながる。さらに、医療施設、及びとりわけ緊急救命室は、電線のハブになり得る。予防及び管理対策が適切に実施されなければ、多くの人々がこうした環境のなかで感染するかもしれない。対応の最前線にいる医療労働者は自身が感染するようになり、亡くなる。
公衆衛生サービスもまた、一般の人々のための予防及び緩和対策のなかで重要な役割を果たす。通常労働安全衛生サービスの手が届かない-インフォーマル経済及び小零細企業における労働者にとって、公衆衛生サービスはこれらのグループに到達することのできる唯一のサービスであるかもしれない。
調整された情報の共有
情報は重要である。人々が、伝播のモード及び疾病の拡大を回避する方法について明確に知らされず、リスク及び採用されるべき対策について敏感にならなければ、彼らは効果的に自ら及び他者を保護することができない。
政府は、すなわち以下のような、受益者集団ごとに対して適切な情報が提供されることを確保する必要がある。
- 一般の人々:症状、感染を防止し疾病の伝播を制限する方法、必要な場合には監禁及び隔離の理由及びタイミング、最新のアウトブレイクの状況、可能な金銭的支援及び雇用の保護等に関する情報
- 責任のある立場にいる者:臨床管理、感染管理、公衆衛生方針、法令及び執行手段、労働安全衛生対策及びエピデミックに対する国の対応がよく調整されていることを確保するための社会的保護に関する助言のためのガイドライン
- 使用者及び管理者:彼らの組織及び労働安全衛生勧告と関連した彼らの責任に関連した国の法律、方針及びガイドラインを実施する方法に関する情報
- 労働者:現実的な労働安全衛生勧告を遵守する彼らの責任はもちろん、感染を予防及び対処するための現実的な機器の使用及び手順に関する情報
情報を迅速に流布するためには迅速なコミュニケーションのシステムが必要である。これには、とりわけ、ウエブサイト、テレビ、新聞及び雑誌、広告、ニューズレター、電話相談が含まれる。
「インフォデミック」を避ける
しばしばエピデミックの間、一般の人々にパニックを生じさせるかもしれない、噂、ゴシップ及び信頼できない情報を含め、複数のソースからのあらゆる種類の情報が素早くひろまる。この現象はしばしば「インフォデミック」として定義されている。それは、保健専門家または当局者及び、生存、保健または経済的または社会的ウエルビーイングに対する脅威(ハザード)に直面している人々の間における、リアルタイムの情報、助言及び意見の交換に言及する。
アウトブレイク・リスクコミュニケーションは、協力し合わなければならない以下の3つの主要要素が関わっている。
1. 話す。当局、専門家及び対応チームは、事象の特徴及び人々がとるべき保護措置に関する情報を素早くリレーしなければならない。
2. 聞く。応答者、専門家及び当局は、影響を受ける者の恐れ、懸念、認識及び見解を素早く評価及び理解するとともに、そのような懸念に対処する彼らの介入及びメッセージをあつらえなければならない。
3. 噂を管理する。応答者はかかる誤情報を発見し、それを是正する手段をもつ必要がある。
▶パンデミックの時期における労働安全衛生に関する社会対話
すべてのレベルにおける効果的な社会対話は、すべての労働者の身体的及び精神的健康を保護するとともに、パンデミックの経済及び労働影響を緩和する、持続可能な行動にとって重要である。
危機に対応するなかで、政府は、もっとも代表的な使用者及び労働者団体の代表と協議のうえ、提供されたすべての対策がジェンダー包摂的な社会対話を通じて策定されていることを確保すべきである。ILO第205号勧告に含まれる-この示唆は、政府によってとられた緊急対策が効果的かつ適用可能であることを確保するために、パンデミックの状況のなかで重要である。政府は、感染を阻止し、拡大を遅くするために重大な-しかし欠かせない-対策をとることを強いられていることを見出すかもしれない。かかる例外的な対策は、決定がなされるべき、またその適用に関与すべき決定の最初から社会パートナーが関与している場合にのみ、効果的に適用できる。
職場におけるCOVID-19の拡大に対処及び阻止するために設計された対策を調整するためのイタリアの合同プロトコル
閣僚会議議長の要請に基づき2020年3月14日に使用者団体と労働組合によって署名された-プロトコルは、医療以外の環境においてCOVID-19の拡大に対処するための予防的対策の効果を高めるためのガイドラインを提供することを目的としている。優先的目標のひとつは、生産活動の継続を健康的で安全な労働条件及び環境と結びつけることである。この目標を達成するために、プロトコルは、労働安全衛生情報、企業の施設にアクセスする手続、清掃及び消毒、衛生対策、PPE、作業編成、企業における無症状の人々の管理、健康調査等を含め、様々な労働安全衛生対策を要求している。
使用者及びその団体は、労働の調整に関するものを含め、国及び地方当局により提供された助言について意見を述べるとともに、労働者に対して重要な情報を知らせるべきである。彼らは事業混乱の潜在的リスクを評価し、事業の強靭性を強化するために国及び地方当局によって与えられたガイドラインにしたがった事業継続計画をレビューまたは策定し、また労働者及びその家族を支援すべきである。使用者は、アウトブレイクから生じる職場と関連した労働者その他の人々に対するリスクを把握及び緩和するとともに、職場衛生を促進すべきである。彼らはまた、とりわけハイリスク部門において、労災補償のための事業の責任を評価するとともに、政府に懸念を伝えることのできる使用者及び事業が会員の団体からの助言及び支援を求めるとともに、事業の強靭性及び持続可能性について伝導性のある方針対応を形成すべきである。
労働者及びその団体もまた、方針決定及びエピデミックに対する方針対応に参加するうえで重要な役割をはたす。職場レベルでは、労働者とその団体は、予防的及び保護的対策の実施において積極的に使用者に協力すべきである。彼らは、職場衛生慣行を厳格に順守するとともに、責任ある行動を採用すべきである。労働者団体は、最新の情報を提供することによって、労働者の予防及び保護に寄与すべきである。彼らは、連帯並びに労働者及び病気の人々の非差別/汚名を促進すべきである。
[コラム⑧] 国際使用者団体(IOE)と国際労働組合連合(ITUC)によるCOVID-19に関する共同声明
IOEとITUCは、拡大を防止し、生命及び生計を保護し、また強靭な経済及び社会を構築するための、事業の継続、収入の安定及び連帯、方針の調整及び一貫性、及び、パンデミックに立ち向かうための強力かつ機能する保健システムなど、主要な領域における緊急の対策を要求している。
彼らは、2019年の労働の未来のためのILO100周年宣言が、COVID-19を含めパンデミックに対するあらゆる長続きする持続可能な対応に向けて鍵となる重要な要素を含んでいることを認めている。
IOEとITUCは、労働者及び企業が危機を乗り越え、労働者をその職にとどめ、失業及び収入喪失から保護し、また金銭的荒廃を軽減するのを援助するための努力について、政策決定者を支援するために関与及び準備している。
共同声明は以下で入手できる:https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—ed_dialogue/—actrav/documents/genericdocument/wcms_739522.pdf
▶労働衛生専門家の特別の役割
アウトブレイクの間、労働者及び経営陣の対して信頼できる情報へのアクセスを促進するとともに、疾病とその症状及び(例えば、呼吸エチケット、手洗い、病気の場合の自己隔離等)個人的予防対策を促進するために、労働衛生専門家は主要なアクターである。彼らは、予防、封じ込め、緩和及び回復のための計画の策定または改定はもちろん、リスクアセスメント(すなわち、感染性及び非感染性ハザーズの把握及び関連するリスクのアセスメント、予防及び官吏対策の採用、監視及び見直し)において使用者を支援すべきである。
労働安全衛生専門家が直面する重要な挑戦は、医療及び緊急対応労働者、必須の活動(例えば、食品供給及び小売、公益、通信、運輸及び配達等)の者、(インフォーマル経済、ギグ経済、家庭内労働者等を含め)未組織労働者並びに代替労働調整(自宅での労働)を含め、特別のガイダンスの必要な様々な労働状況に関連している。
COVID-19パンデミックによって生じるもののような挑戦は、すべてのレベルにおける、政府、社会パートナー、協会、国際機関、経済及び金融機関の間における、かつてない強力な社会的対話及び調整をみる国際的な調整された対応がある場合にのみ打ち勝つことができる。多くの側面が労働の世界におけるこの健康危機の影響を緩和するために協力する必要があるとともに、労働安全衛生は引き続き労働者の健康を守り、事業の継続性を確保するための重要な投資対象としてある。
参考文献一覧及び付録は省略
※https://www.ilo.org/global/topics/safety-and-health-at-work/events-training/events-meetings/world-day-safety-health-at-work/WCMS_742463/lang–en/index.htm