【特集2 心理社会的リスク:高まる危機】フランステレコム:「彼らは本当に仕事を妨害した」ローラン・ヴォーゲル(RTUI) ディエゴ・ラヴィエ(写真家)

リストラ、自殺者多数

「結局のところ、この自殺事件はひどかった-彼らは本当に仕事を妨害した」。ディディエ・ロンバールは、自分が被告席にいるのか理解していなかった。2005年から2010年まで、彼はフランステレコムのCEOだった。彼にとっては、いまでもサクセスストーリーなのだ。労働者や労働組合は、経営陣によって潰された数十人の自殺者という悲劇として、違ったかたちで記憶している。

2022年9月30日、パリ控訴院は、旧国営企業フランステレコムの数名の経営陣に対して起こされていた訴訟手続に終止符を打つ、待望の判決を下した。2000年代にこれらの経営陣は、全従業員の約5分の1-22,000人の雇用を削減することを目的とした、リストラ計画に着手した。大量解雇を回避するため、経営陣は従業員に圧力をかけ、弱体化させる政策をとり、 大量の「自発的」退職者を出した。経営陣のやり方は次第に残忍になり、強制的な社内移動、傍観者扱い、技能とは無関係な新たな配属などが行われた。中間管理職のボーナスや昇進は、退職するスタッフの数と連動していた。

フランステレコムを変革することを目的とした3年間の「NExT」リストラ計画が2006年に開始された瞬間から、心理社会的問題、ストレス、バーンアウト等、警報が鳴り始めた。最初の自殺者が報告された。一方、2005年から2009年の間に137億ドル相当の配当が分配された。経営陣にとって、収益性への執着は多くの不満をかき消した。ストレスと強制移動を監視する労働組合センターが2007年6月に設立された。2008年に労働組合センターは、会社の従業員の自殺を記録しはじめた。

自殺者が増えるにつれ、メディアがこの話題を取り上げた。2009年7月14日、ミシェル・デパリスが、フランステレコムをはっきりと非難した遺書を残して、マルセイユで自殺した。このとき、苦悩の感情が全国的な労働者のスタッフの動員へと発展した。労働省は懸念した。2004年からフランステレコム本社の労働監督官を務めていたシルヴィー・カタラは調査を命じられた。彼女は、経営陣と労働組合に被害の大きさを警告した。数年後、彼女が2010年2月に完成させた詳細な報告書は、裁判所のいくつかの判決に影響を与えた。2009年12月、SUD (連帯労働組合)は、同社を刑事告訴した。SUD PTT(郵便・電信・電気通信)労働組合連合は、2010年3月に民事当事者として手続に加わり、法的措置の経過を「内部から」追う機会を得た。調査は4年がかりで行われ、フランステレコムの経営陣に関連したすべての事件を統合した。

戦略的経営の責任

過失致死罪や生命に危険を及ぼすようなもっとも重い犯罪は無視され、罰則の範囲が大幅に縮小された。最終的に、「組織的心理的ハラスメント」があったと結論づけられ、39件が特定された: 自殺19人(囲み記事参照)、自殺未遂12人、うつ病の症状のある者8人であった。

2005年から2010年まで同社のCEOであったディディエ・ロンバールは、2012年7月4日に起訴された。彼の元右腕であるルイ=ピエール・ウェネスと人事部長のオリヴィエ・バルベロが続いた。2014年には、他の4人の幹部が「心理的ハラスメントの共犯」で起訴された。さらに、この7人に加えて、民営化後オレンジとなったフランステレコムが、法人として起訴された。

一審の裁判は、真新しく機能的に設計された裁判所の一室で行われた。椅子だけの厳密な配置は、そこが刑事裁判所であり、会議室ではないことを示唆していた。裁判官のためにひな壇があった。左側には、民事当事者の弁護士たちがいた。証人用の折りたたみ椅子がいくつかあった。被告とその弁護団には右側にスペースが割り当てられていた。彼らは一種のバブルを形成しており、そこで、世界の秩序がひっくり返されるような裁判全体に対して、自分たちは異質な存在であるという思いで結束していた。一般市民は壇に向かって座り、被告たちが公然とおしゃべりをし、彼らの後ろに座っている弁護団と威勢のいい身振り手振りを交えながらコミュニケーションをとり、また大抵は退屈の極みを示していた、この奇妙なドラマを傍聴していた。

すべての労働組合と労働衛生キャンペーンを展開する様々な団体が民事当事者として参加した。調査段階で確認された被害者と家族に加えて、SUD PTT組合が、第1回審問の時点で、さらに119人の被害者を民事当事者として加わることを説得した。

裁判は、2019年5月6日に始まり、41日間にわたって行われた。判決は2019年12月20日に言い渡された。ディディエ・ロンバール、ルイ=ピエール・ウェネス、オリヴィエ・バルベロは心理的ハラスメントで有罪とされた。彼らは、この犯罪に対する最高刑である懲役1年、執行猶予8か月、罰金15,000ユーロを言い渡された。この判決は、2007年から2008年にかけての彼らの行為に関するもので、2009年から2010年にかけての行為については免責された。共犯で起訴された4人には、より軽い刑罰が言い渡された。フランステレコム(現オレンジ)は、法人としての最高刑である罰金75,000ユーロの支払いが命じられた。民事当事者には、精神的苦痛に対する損害賠償が命じられた。その額は10,000から45,000ユーロの間であった。組合と団体は、彼らの分として、15,000ユーロから40,000ユーロの賠償金を受け取った。

この判決の象徴的な範囲は、禁止を確立している限りにおいて、広大である。300頁を超える判決のエッセンスは この一節に要約できるだろう。

「22,000人の解雇という設定された目標を達成するために選択された手段は禁止されていた。法律レベルの理由づけは厳格であり、人間科学からのインプットを考慮に入れている。それは、フランステレコムの労働者が受けた心理的ハラスメントの制度的側面を前面に押し出している。ディディエ・ロンバールと他の被告は、自殺する前の被害者たちのことを知らなかったと何度も繰り返した。

彼らは、中央の指令を誤って解釈したとされる現地マネージャーに責任を転嫁しようとしていた。これに対して判決は、経営陣の決定、中間管理職に対する組織の「スリム化」を促す数多くのコミュニケーション、そして組織的な心理的ハラスメントの実施には因果関係があると判断した。警報信号を考慮することの組織的拒否もその一環である。

コラム 殉教者の目録

日刊紙「ル・モンド」のジャーナリスト、パスカル・ロベール=ディアール氏は、自殺者リストの概略を次のように説明した。
審査判事ブリジット・ジョリヴェが署名した673頁にも及ぶ照会命令を開くと、まず最初に、村の戦没者慰霊碑に刻まれているような苗字と名前の羅列が目に飛び込んでくる。
アンドレ・アメロ(54歳)は自ら首を吊った。カミーユ・ボディヴィット(48歳)は橋から身を投げた。アンヌ・ソフィー・カッスー(42歳)、麻薬とアルコールのカクテルを摂取。コリンヌ・クレジウ(45歳)は自ら首を吊った。ミシェル・デパリス(50)は手紙を残した「フランステレコムでの仕事のために自殺します」。ステファン・デッソリー(32歳)は自ら首を吊った。「フランステレコムでの仕事のために自ら命を絶ちます。他に理由はありません」。ニコラ・グルノヴィル(28歳)は自ら首を吊った。 「この仕事に耐えられない、フランステレコムはそんなことお構いなし」。ブリス ホッド(54歳)は、自ら首を吊った。ジャン・ミシェル・ローラン(53歳)は電車の下に身を投げた。その数秒前、彼は労働組合の代表者と電話をしていた。最後の言葉は「電車が来る」だった。レミー・ルヴラドゥー(56歳)は会社のある拠点の外で焼身自殺した。ディディエ マルタン(48歳)は自ら首を吊った。「すべてのきっかけは仕事だ」。ドミニク・メネシェス(53歳)は自ら首を吊った。ステファニー・モワソン(32歳)は職場の窓から身を投げた。アニー・ノレ(53歳)は自ら首を吊った。ロベール・ペラン(51歳)は自分の銃を自分に向けた。ベルナール・ピルー(51歳)は高架橋から身を投げた。ジャン-マルク・レニエ(48歳)は拳銃で自を撃った。パトリック・ロラン(43歳)は自ら首を吊った。ジャン=ポール・ルアネ(51歳)は高速道路の橋から身を投げた。

階級の失われた名誉

判決を下された各個人は、判決を不服として控訴した。一方、フランステレコムは、善意の意思表示としてその非を認め、判決で認められた損害賠償に加えて補償基金を設立した。

控訴審は5月11日から2022年7月1日まで、まったく異なる環境で行われた。控訴裁判所は、シテ島の由緒あるパレ・ド・ジュスティス にある。法廷内は、豊富な木製のパネル、絵画、黄金のケルビム、肖像画や著名な裁判官の胸像で飾られている。法廷は、芸術的なシンボルで埋め尽くされた部屋に エリートたちの古くからの支配を祝う芸術の象徴が所狭しと飾られている。教会であり、オペラであり、サロンである。ブルジョワがひとつに凝縮されている。偶然にも、2015年11月13日に発生したパリ同時多発テロ事件に関する裁判が同時刻にアサイズ裁判所で、特別に適応された部屋で行われていた。パレ・ド・ジュスティスは、警察の大規模な道路封鎖によって、市内から完全に遮断されていた。

この闘いを10年以上続けてきた被害者と労働組合員にとっては、控訴審の手続は余計なことに思えた。すべては一審の審理で丹念に解剖された。傷口を再び開く必要があったのだろうか?傷口を再び広げる必要があったのだろうか?彼らは、もう一度最初から、被告たちの自己満足に耐えなければならないのか?

元人事部長のオリビエ・バルベロは、最初の審理で控訴を取り下げた。ただ一人、ナタリー・ブーランジェ元Territorial Actions部長だけが、いくらか感情を込めて悔しさを表明した。第一審では、彼女はしばしば欠席しているように見えた。彼女は、議場内を見回した数少ない被告であった。他の被告人たちは自分たちの中に閉じこもったままだった。

裁判が、ハラスメントと闘う手段を労働組合に提供しようとする、政治的なものであるという評価において、6人の弁護は明確だった。それが、弁護側が守ろうとしたのは階級の失われた名誉だった。ディディエ・ロンバールの弁護士ジャン・ヴェールは躊躇しなかった。「ディディエ・ロンバールが有罪になれば、誰も二度と大企業を率いたいとは思わなくなるだろう」。

民事当事者の不安は最初から感じられた。そのうちの一人が証人席に呼ばれたが、発言しないことにした。彼女は、この繰り返しの意味が理解できなかった。一審ですべて話したはずではないか?

最初の審問のなかでエマニュエル・ドッケスは言った。「不思議なことに、被害者たちは被告たちよりも緊張し、傷ついているように見える。[…]加害者側に悔恨の念がないこと、責任を否定すること、そしてそれが意味する軽蔑は、おそらく被害者たちが感じている緊張の一端を説明するものだろう。[…]被害者たちは罪悪感を感じている。有罪の当事者は、自分たちが無実だと思っている」。この状況は、一審で召喚された労働衛生専門家の証言を聴取しないという裁判所の決定によってさらに悪化した。彼らの証言は、経営陣による暴力の拡大という、より一般的な文脈の中に、この事件を位置づけていた。

裁判は7月1日まで続けられた。判決は9月30日に言い渡された。労働組合と被害者の最初の反応は、ほとんどの被告に科された刑が軽いことと、2人の免責に対する失望だった。しかし、これはもっとも重要なことだったのだろうか?疑問の余地がある。いずれにせよ、罰則は象徴的なものだった。被告が誰ひとりとして刑務所に収監されることはない。ディディエ・ロンバードにとっては、懲役1年・執行猶予8か月と懲役1年・全期間執行猶予との間に大きな差はなかった。

その一方で、341頁の判決文全文を読めば、判例法の観点から、労働組合の行動を通じて達成された勝利について疑問の余地はない。一審判決とは多少異なる表現で書かれたこの判決は、心理的ハラスメントという犯罪が、中央経営陣による戦略的決定から生じうることを確認している。次のように述べている。

「労働条件を損なうという当初の目的は必ずしもなかったが、その実施において労働者の個別的・集団的労働条件を損なうという最終的な目的または効果を有する、管理上または経営上の方法、真の意味で経営上の組織から反復される行動が生じ得る」。

SUD PTT連合会の弁護士であるシルヴィー・トパロフは、この判決の革新的な性質を強調している。彼女は、「刑法に訴えることが抑止力として機能することを示している」と考えている。「この判例があれば、より早い段階で効果を発揮する可能性がある」。

事実、まだ次の段階がある。控訴審で判決を受けた者たちは、Court of Cassation(フランスの司法の最高裁判所)に上訴する意向を表明した。判例の正確な範囲はまだわかっていない。

法的手続全体から得られるもうひとつの紛れもない利点は、政治的タブーを打ち破ったことである。労働による自殺の問題が、社会で公けに議論されるようになった。労働組合の法的取り組みが進むにつれて、社会科学と文学の両分野でこの問題を取り上げた出版物のすべてを数行で要約することは不可能だろう。演劇、映画、テレビ、ラジオ放送は、自殺を話題にしてきた。労働組織が自殺につながりうるという認識が、本格的なカルチャーショックを引き起こしたとも言える。数十人の労働組合員の粘り強い活動が実を結んだ。

コラム タブーを打ち破る

芸術界でも社会科学界でも、労働における自殺という重大な問題はもはや目に見えないものではなくなっている。フランステレコム事件に関する労働組合のキャンペーンが、タブーを打ち破った。数ある事例のうちの3つを紹介しよう。
ドキュメンタリー映画「労働における苦しみ:私たちはあきらめない」は、ダニエル・クプフェルシュタインによって、労働関連自殺と抑うつ協会(ASD-Pro)の依頼で制作した。フランステレコム裁判の民事当事者であるASD-Proは、補償金を使ってこの映画を制作した。メインテーマは、2016年4月に失職を告げられて自殺した同僚のローリアン・アマリオを偲んで、アンジェの消防士たちが企画した540キロのランである。また、欧州宇宙機関(ESA)のエンジニアの自殺や、ベナンに赴任していた外務省職員の自殺未遂の裏話も扱っている。ハラスメントのプロセスを分析した一級の映画である。また、消防士たちの集団的動員も描かれている。
「最強の理由:フランステレコム裁判クロニクル」は、エリック・ベイネルがコーディネートした集団的作品である。フランステレコム裁判の一審判決までの法的手続を体系的に洞察している。優れた一般向けガイドであり、数十人の異なる人々が各審理後にその場で書いた叙述も収録されている。これは、ノワール小説から法律学や社会学を経由した精神分析まで、様々な学問分野の出会いである。
他方、サンドラ・ルクベールのエッセイ「誰も銃を取り出さない」は、経営的言語を分析することによって、同じ裁判に光を当てている。彼女はこのプロジェクトについて、「フランステレコムの裁判では、裁かれているのは私たちの世界である。裁いている世界もまた私たちの世界である。[…]私たちの社会機構全体が裁かれるべきであり、それができないのは、私たちがそのなかにいて先入観に支配されているからである」。プルーストの足跡をたどり、彼女は散文を通して世界を解剖し、それが遍在しているがゆえに人々が見ることのできないものを明るみに出すことにした。

https://www.etui.org/sites/default/files/2023-01/HM26_France%20T%C3%A9l%C3%A9com%20%E2%80%98They%20really%20threw%20a%20spanner%20in%20the%20works%E2%80%99_2023.pdf

安全センター情報2024年1・2月号