半導体労働者は現場で有害物質をどれだけ解って使用するか 褐色細胞腫で労災不承認/労働現場の知る権利法制化を 2022年10月24日 韓国の労災・安全衛生

Aさんが「匂い確認改善作業内訳」で作成した業務日誌で、Aさんは半導体工程生産ラインで問題が発生すれば、直接匂いを嗅いで措置している。/パノリム提供

高校三年生の時、就職前提型の現場実習生として大手企業の子会社に入社したAさん(40代)は、20年以上半導体の事業場で設備のメンテナンス業務を行っている。半導体工程の生産ラインで問題が発生すれば、匂いを嗅いで把握し、措置する。ガス感知センサーが工程のすべてに設置されておらず、一々人間が匂いで確認しなければならない。

Aさんは24日、記者との電話で「危険物を扱うだけに、常時対応のためには二人一組作業が必要だと考えて会社に建議したのに、反映されない。」「どんな物質なのか、何が混ざっているのかも解らずに、匂いを嗅がなければならないのは問題がある」と話した。Aさんは設備洗浄の仕事をしながら、洗浄剤であるフッ酸と過酸化水素、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどにもばく露した。

Aさんは2020年、悪性クロム親和性細胞腫4期と診断された。褐色細胞腫とも呼ばれるクロム親和性細胞腫は、腎臓の上側に密着している副腎に腫瘍が発生し、高血圧や頭痛、発汗などを起こす。手術で腫瘍を取り除いた後、今は会社に通いながら経過観察中だ。

Aさんは労災認定を受けられなかった。Aさんは「遺伝的にも問題がなく、業務関連性が疑われるが、医学的に立証されず不承認になった」と話した。Aさんは勤労福祉公団を相手に訴訟を進めている。

Bさん(20代)は、京畿道の半導体設備の部品工場で3年ほど働いて辞めた。化学物質に対してきちんとした教育も受けずに現場に投入されたが、仕事をしながら心配が大きくなった。部品洗浄をする時に使用するラテックス手袋が薄くて破れることも多く、体に発疹が出たこともあった。洗浄室に設置された局所排気装置(有害ガス、粉塵などを外部に排出する装置)は、本来の役割を果たせていなかった。

Bさんは「直ぐには問題にならなくても、体に有害物質が蓄積されて癌や病気として現れた時、労災処理が正しくされるか心配になった。」「物質安全保健資料(MSDS)は現場に配置されているというが、これをきちんと知らせず、労働者は自身が扱う物質の有害性を知らずに働いている」と話した。

Bさんが通っていた工場では、洗浄剤として使っていた「TCE(トリクロエチレン)」を「BCS1000」に交換した。会社は「環境にやさしい製品」に変えると言った。しかしBCS1000には1級発がん物質の二塩化プロピレンが90~99%含まれている。BさんはMSDSにBCS1000が発がん物質と表記された事実を、後になって知った。

クリーンルーム半導体の生産現場。/京郷新聞の資料写真

化学物質を使用する企業の事業主は、MSDSを労働者がよく見える場所に掲示する義務がある。しかし、韓国産業安全保健公団が2019年に1000ヶ所の電子産業事業所を調査した安全保健実態によると、MSDSをきちんと備えた企業は486社(48.6%)で、半分にも達しなかった。3ヵ所に1ヵ所(37%)は、法的義務事項である作業環境の測定もしていなかった。産業安全保健法によると、人体に有害な作業をする作業場は、ジクロロメタンとベンゼン、トリクロロエチレンなど、有害化学物質に対する作業環境測定をしなければならない。

市民団体「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)のイ・サンス活動家は「半導体の事業場で使う物質に対する有害性は多く語られているが、抽象的な水準で認識が変わっただけで、実際に現場労働者が知っている具体的な知識水準は大きく変わっていない。」「MSDSの掲示など、法的な義務を守るレベルに留まるのではなく、実質的に労働者に危険情報を伝達する安全教育が必要だ」と指摘した。特に、社会に進出したばかりの現場実習生には、事前にきちんとした安全教育が重要だと話した。

電子管または半導体素子製造業事業場で働く労働者の職業性がんの労災不承認率も高い。環境労働委員会のウ・ウォンシク「共に民主党」議員室が勤労福祉公団に確認した結果、電子管または半導体素子製造業での職業性がんの労災処理「不承認率」は、2017年の42.9%から2020年の50%、2021年の51.6%、2022年9月現在では53.3%と高くなっている。

産業安全保健研究院のイ・ギョンウン専任研究委員が今年発表した「職業性がんの発生現況」分析資料によると、昨年の職業性がんの労災認定事例は414件だ。労災保険加入者10万人当り職業性がんの承認率は1.8人で、ドイツ(15.1人)、フランス(11.39人)よりも遙かに低い。「我が国は職業性がんの労災申請自体が少ない。そのため、勤労者集団全体に発生するがん対比認定率の比率が小さい。」「これは勤労者自らが、がんの原因が業務と関連があると認知できないため」と分析した。

パノリムのチョ・スンギュ労務士は「根本的には自身が働く作業環境の発がん性の危険などに対する知識がないことが問題で、作業環境に対する知る権利が重要だ」と話した。

パノリムは「知る権利三法」の成立を主張している。知る権利三法は、ウ・ウォンシク議員が発議した産業安全保健法、「共に民主党」のイ・ドンジュ議員が発議した産業技術保護法と国家先端戦略産業法だ。前・現職の労働者を含む労災被災者が、安全保健情報を取得する際に、非公開条項などを理由にして制約されないようにしようというのが骨子だ。

ウ・ウォンシク議員は、「サムソン半導体の白血病労災は、資料の公開を巡って繰り広げられた長い闘いだった。」「仕事中に死んだり怪我をした災害者とその遺族が、資料公開を巡って受ける二重苦を解決するためにも、安全保健資料公開のための法改正がどうしても必要だ」と話した。

2022年10月24日 京郷新聞 ユ・ソンヒ記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202210241029001