裁判所「労災被災遺族の不採用期間の賃金を支払え」初の判決 2022年8月24日 韓国の労災・安全衛生

最高裁全員合議体は2020年8月「労災遺族特別採用を明示した団体協約は有効」と判決した。/金属労組

起亜自動車に、労災で死亡した労働者の子女を特別採用しなかった期間の賃金を支給せよという裁判所の初めての判決が出た。労災で死亡した遺族の特別採用に関連して、賃金支払い義務を判断した事件は今回が初めてだ。

今回の判決は2020年8月に最高裁全員合議体が、労災で死亡した労働者の遺族を特別採用するように定めた起亜車労組の団体協約条項は適法だと判断したことによるものだ。裁判所は起亜自動車に採用以前の賃金に相当する損害賠償額と、採用以後から現在までの賃金差額を支給するよう命じた。同時に、採用義務が発生した時点に入社したことを前提に、号俸を訂正するように命じた。

遺族の主張は「2014年から採用義務を不履行」
要請日から6ヵ月以内に採用する団体協約に違反

「毎日労働ニュース」の取材によると、ソウル中央地裁は起亜車の労災死亡労働者の子供のAさんが、起亜車を相手取って起こした賃金請求訴訟で、原告勝訴の判決を行った。

Aさんの父親は1985年に起亜自動車に入社して金型洗浄作業を担当した。その後、2008年2月に現代自動車の南陽研究所に移った後、同年8月に急性骨髄性白血病の診断を受けた。闘病生活をしていた故人が2010年7月に亡くなると、勤労福祉公団は、少なくとも15年間、ベンゼンにばく露して白血病に罹ったと認め、業務上災害と判断した。

Aさんは起亜自動車の労使が締結した団体協約を根拠に採用を要求したが拒否され、2014年4月に訴訟(先行訴訟)を提起した。「業務上災害によって死亡した組合員の直系の家族1人を、欠格事由がない限り、要請日から6ヶ月以内に特別採用する」という団体協約条項によって採用すべきだという主張だった。

一・二審は、労災遺族特別採用条項が民法103条(善良な風俗、その他の社会秩序に違反して無効)に違反するとして無効としたが、最高裁はこれを覆した。最高裁全員合議体は、11対2の意見で原審を逆転した。「特別採用条項は、死亡した勤労者の特別な犠牲に相応しい補償を行い、家族の生計の困難を解決できるよう、社会的弱者を保護する規定」と判断した。

その後、昨年3月18日の破棄差し戻し審でAさんの勝訴が確定した。起亜自動車は破棄差し戻し審の宣告直前の同年3月8日、Aさんを組立工程担当のエンジニア・技術職として採用した。初めて採用を要求した2014年4月から7年が過ぎていた。これにAさんは、採用義務不履行期間の賃金相当額を支給せよと、同年4月に訴訟を提起した。

裁判所「採用義務不履行の故意・過失」、「採用日までに賃金相当の損害賠償」

裁判所はAさんの請求を全て認容した。団体協約で定めた、採用要請日から6ヶ月以内に採用する義務があるにも拘わらず遅れて採用したので、2014年10月から採用時点である昨年3月までに発生した賃金相当の損害賠償金を支給する義務があると判断した。同時に、採用日から発生した賃金を支払う義務があると判示した。

起亜自動車が、採用義務不履行に対する故意・過失がないと抗弁した部分も排斥された。起亜自動車は先行訴訟の一・二審が労災遺族特別採用条項が無効と判断し、雇用労働部も条項の改善意見を明らかにするなど、特別採用条項の有効性に関する議論が続いていると主張した。しかし裁判所は、「このような事実だけでは、採用義務がないと信じたことに正当な理由があるとか、誤った法的判断を正当化する特別な事情があるとは見難い」と指摘した。最高裁は債務履行を拒否したまま訴訟によって争っていたとしても、法的判断が間違っているならば、故意・過失があると判断した経緯がある。

特別採用条項が団体協約が新たに締結された時も維持され、就業規則にも同趣旨の規定があるという点が根拠になった。労働部もやはり、2015年に雇用世襲採用条項の後続措置として、被災遺族の特別採用に関しては違法性を断定することは難しいとした。採用義務不履行に故意や過失が認められるということだ。

「号俸も採用義務発生日時を訂正」、労災遺族の類似の賃金訴訟に注目

起亜自動車は裁判で、先行訴訟の下級審判決を信じてAさんを採用しなかったと再度主張したが、これも受け容れられなかった。裁判所は「起亜自動車は先行訴訟の訴状を送達されても、6ヶ月以内にAさんを採用しなかった」、「その後に宣告された一・二審の結果を見た後にAさんを採用しなかったとは見られない」と指摘した。実際、起亜自動車は1990年以降、Aさん以外に9人を特別採用し、このうちの2人は、訴訟中の2016年頃に特別採用されている。

裁判所はAさんの号俸も、エンジニア・技術職19号俸に訂正するように命じた。起亜自動車は採用時点で1号俸に該当する賃金を支給すれば十分だと主張した。しかし裁判所は「2014年10月頃に採用した他の技術職勤労者と比較して、Aさんを不当に差別している」とし、「採用日からも、以前の号俸の昇給を反映した賃金を支給する義務がある」と判示した。

今回の判決は「労災遺族特別採用」の最高裁判決の以後に初めて出された賃金訴訟の結果だ。他の被災遺族の訴訟に繋がるかが注目される。Aさんを代理したキム・サンウン弁護士は、「今回の判決は労災遺族特別採用規定に基づき、賃金相当額の損害賠償と同時に、採用義務発生日を基準に、同期入社者と同じ号俸に訂正することを注文して、労災遺族保護条項の意味を明確にした」と説明した。

2022年8月24日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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