令和7年度化学物質管理に係る専門家検討会報告書(令和8(2026)年3月27日)厚生労働省労働基準局安全衛生部
Ⅰ 検討の趣旨及び経緯等
1 検討の趣旨
現在、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)のうち、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)等の特別則の規制の対象となっていない物質を起因とするものが多数を占めている。これらを踏まえ、特別則による規制の対象となっていない物質への対策の強化を主眼とし、国によるばく露の上限となる基準等の制定、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みの整備・拡充を前提として、事業者が、危険性・有害性の情報に基づくリスクアセスメントの結果に基づき、国の定める基準等の範囲内で、ばく露防止のために講ずべき措置を適切に実施する制度を導入することとしたところである。
この制度を円滑に運用するために、学識経験者からなる検討会を開催し、2に掲げる事項を検討する。
2 検討会の検討事項
(1) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質のばく露の濃度の基準及びその測定方法
(2) 労働者への健康障害リスクが高いと認められる化学物質の特定並びにそれら物質の作業環境中の濃度の測定及び評価の基準
(3) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質に係るばく露防止措置
(4) その他
3 検討の経緯[省略]
4 構成員名簿[省略]
Ⅱ 濃度基準値及び測定方法
第1 令和7年度の濃度基準値及び測定方法の検討結果
1 令和7年度の濃度基準値設定候補物質
令和7年度の濃度基準値設定候補物質は濃度基準値設定対象物質リスト(令和6年度までの積み残し分)(別表1-1)[128物質]及び濃度基準値設定対象物質リスト(令和7年度)(別表1-2)[149物質]のとおりである。
2 令和7年度の濃度基準値及びその測定方法の検討結果
物質ごとの濃度基準値の案及び測定方法、留意事項は別表2のとおりである。また、検討された全ての物質の文献調査結果は別紙1[省略]のとおりである。令和6年度に濃度基準値を設定した物質の個別具体の測定法は別紙2[省略]のとおりである。なお、測定方法については、文献調査結果等を基に標準的な方法(一例)として示しているものであり、事業者等が測定を実施するにあたりこれらの方法と同等以上の精度が確保できる場合は、その他の方法で行っても差し支えない。
3 濃度基準値を設定しなかった物質とその理由
発がん性物質への濃度基準値の設定の考え方(P13、(参考)濃度基準値の適用等(令和4年度に整理した事項)の4参照)に基づき、ヒトへの発がん性が明確である等として、長期的な健康影響が生じない安全な閾値としての濃度基準値を設定しなかった物質は別表3-1[3物質]のとおりである。その他の理由で濃度基準値を設定しなかった物質は別表3-2[8物質]のとおりである。
4 令和8年度以降に再度検討する物質とその理由
令和4年度から令和7年度に検討対象であった物質のうち、令和8年度以降に再度検討することとなった物質とその理由は別表4[214物質]のとおりである。
第2 今後の濃度基準値の検討対象物質
1 令和8年度の濃度基準値の検討対象物質
令和8年度の濃度基準値の検討対象物質は、令和4年度報告書に基づき、リスクアセスメント対象物(令和7年度以降に施行されるものを含む)のうち、リスク評価対象物質(特定化学物質障害予防規則などへの物質追加を念頭に、国が行ってきた化学物質のリスク評価の対象物質。令和4年度に検討済み)以外の物質であって、吸入に関する職業性ばく露限界値があり、かつ、測定・分析方法がない物質のうち、令和7年度の濃度基準値検討対象物質を除く物質(別表1-3)とする。なお、濃度基準値の根拠となる文献の信頼性が高いものから優先的に検討を行うこととし、詳細に文献調査を行う必要が生じた物質等、令和8年度中に濃度基準値が設定できなかった物質については、下記2(1)の①として、令和9年度以降に検討を行うこととする。
2 令和9年度以降の濃度基準値の検討対象物質
令和9年度以降の濃度基準値の検討対象物質については、以下のとおりとする。
(1) 新たに濃度基準値を検討する対象物質(新規検討物質)
令和4年度の検討会報告書において、濃度基準値の検討対象物質は、欧米の基準策定機関の職業性ばく露限界値がある物質を対象とすることとし、令和4年度から令和8年度までに順次検討することとされている。
令和9年度以降の濃度基準値の新規検討対象物質は、政府GHS分類がなされている物質の中から、これまでの物質選定の考え方を踏襲しつつ、濃度基準値の検討に当たり得られた情報等から対象物質を選定することとする。
具体的には、以下の①から④の物質とする。
① 令和4年度から令和8年度の検討対象物質のうち、濃度基準値の導出に係る詳細な検討が必要となった等の理由により引き続き検討中の物質
② 本検討会において濃度基準値に係る知見がないこと等から濃度基準値を設定できないとされた物質
③新たに基準策定機関において職業性ばく露限界値が設定された物質
④ 新たに政府GHS分類がされた物質のうち、基準策定機関において既に職業性ばく露限界値が設定されている物質
(2) 濃度基準値の見直しを検討する物質(見直し検討物質)
濃度基準値が設定されている物質のうち、濃度基準値の見直しを行う物質は以下の①から④の物質とする。
① 基準策定機関において職業性ばく露限界値が更新された物質
② 類似物質の情報から濃度基準値を定めた物質のうち、対象物質固有の有害性情報が得られた物質
③ 濃度基準値の検討の際、生殖毒性・発生毒性等の知見があることから確認・検討が必要とされた物質
④ 政府GHS分類において発がんの区分が1に変更された物質
(3) 新規検討物質及び見直し検討物質の検討スケジュール
① 新規検討物質
令和8年度に情報収集等及び対象物質の選定を行い、令和9年度以降の濃度基準値の検討スケジュールを策定する。
② 見直し検討物質原則として以下のスケジュールで行う。
濃度基準値検討年度 R4 R5 R6 R7
情報収集 R8 R9 R10 R11
見直しの検討 R9 R10 R11 R12
③ 各年度における検討物質数
新規検討物質と見直し検討物質を合わせて150物質程度とする。なお、検討の優先順位については、令和4年度に年度ごとの検討対象物質を検討した際と同様、測定・分析法の有無、職業性ばく露限界値の設定状況等を踏まえて検討することとする。
第3濃度基準値の単位濃度基準値の単位については、対象物質の物性や濃度、主な使用条件等(ミスト散布など)を考慮の上、定めてきたところであるが、統一的な運用の観点から、今後、濃度基準値を検討するに当たっては、以下の考え方を踏まえ、物性や測定方法、使用条件等を考慮し、適切な単位を設定するものとする。常温、常圧(25℃、1気圧)での状態により以下のとおりとする。
・ 気体→ppm
・ 液体、固体→飽和蒸気圧濃度(※)/濃度基準値の値により判断(下表)
飽和蒸気圧濃度/濃度基準値/単位/備考
0.1未満/mg/m3
/濃度基準値付近において、エアロゾル粒子である可能性が高いため
0.1以上10以下/mg/m3
/濃度基準値付近において、蒸気とエアロゾル粒子が同時に存在すると考えられるため
10を超える/ppm
/濃度基準値付近において、気体である可能性が高いため
※ 飽和蒸気圧濃度は、飽和蒸気圧における濃度をppmとして換算し、それを用いて計算される。例えばある物質の飽和蒸気圧が8×10-3mmHgの場合、大気圧が760mmHgとすると、飽和蒸気圧における当該物質の濃度は0.008/760=0.000010=10ppmとなる。
上記※の飽和蒸気圧濃度の計算式は、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号)に追記すべきである。
(参考)濃度基準値の適用等(令和4年度に整理した事項)※詳細は、「令和4年度化学物質管理に係る専門家検討会報告書(令和5年2月10日)」[2023年1・2月号]参照
Ⅲ 皮膚等障害化学物質(皮膚吸収性有害物質)の選定について
※詳細は別紙3及び別紙4[省略]参照
労働安全衛生規則第594条の2で規定する「皮膚等障害化学物質等」のうち、「皮膚等障害化学物質等のうち、皮膚から吸収され、又は皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質」(以下。皮膚吸収性有害物質)という。)について、令和5年度検討会の検討以降、新たにGHS分類が行われた物質や職業性ばく露限界値が設定された物質等について皮膚吸収性有害物質に該当するか検討を行った。検討結果は以下のとおり。
1 判断基準等について
皮膚吸収性有害物質の判断基準については、現時点では変更は行わず、従来の判定基準に基づき、選定した。
2 検討対象物質について
(1) 令和4年度(前回)の検討以降新たにGHS分類が行われた化学物質であって、国内外の代表的な化学物質評価機関において職業性ばく露限界値、Skin Notationが付与されている物質
(2) GHS分類対象物質であって、各化学物質評価機関において、前回の検討以降、新たに評価され、職業性ばく露限界値、SkinNotationが付与された物質、または、既に評価されているが、前回の検討以降に見直しがあり、職業性ばく露限界値が設定、Skin Notationが付与された物質
(3) 経皮ばく露による発がんに関する知見がある物質(*皮膚がん含む)
3 個別物質の検討結果
各機関の評価書に記載の引用論文のレビュー結果等に基づき、新たに以下の16物質について皮膚吸収性有害物質に該当すると判断した。
No. CAS RN 化学物質名称
1 3691-35-8 2-(フェニルパラクロルフェニルアセチル)-1,3-インダンジオン(別名:クロロファシノン)
2 107-12-0 プロパンニトリル
3 50-78-2 アセチルサリチル酸
4 60-12-8 ベータ-フェニルエチルアルコール(別名:フェネチルアルコール)
5 532-32-1 安息香酸ナトリウム
6 3033-62-3 ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル
7 111-77-3 2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(別名:ジエチレングリコールモノメチルエーテル)
8 121-45-9 亜りん酸トリメチル
9 106-50-3 p-フェニレンジアミン
10 102-71-6 トリエタノールアミン
11 64-67-5 硫酸ジエチル
12 65996-93-2 高温コールタールピッチ
13 70-25-7 N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン
14 684-93-5 N-メチル-N-ニトロソ尿素
15 759-73-9 N-エチル-N-ニトロソ尿素
16 96-13-9 2,3-ジブロモ-1-プロパノール
※別紙4「令和7年度皮膚等障害化学物質の選定のための検討会報告書」において判断基準に該当すると判断された18物質のうち、2物質は特定化学物質に該当することから皮膚等障害化学物質(皮膚吸収性有害物質)に該当しないと判断した。
4 適用期日
皮膚吸収性有害物質は、最終的には臓器等への健康障害を生ずる物質であるが、皮膚から吸収又は侵入というばく露経路に着目しているため、国によるGHS分類に該当する有害性区分がなく、特定することができない。
そのため、皮膚吸収性有害物質は、皮膚から吸収され、又は皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質であって、厚生労働省労働基準局長が定めるものと告示で規定されており、専門家検討会の検討結果を踏まえ、通達で物質を指定している。
今般、新たに皮膚吸収性有害物質に該当するとされた物質については、SDS等の更新及び保護具の準備等に係る対応期間も考慮して局長通達を改正し、令和9年4月1日から適用すべきである。
それまでの間、物質の追加について厚生労働省ホームページや関係団体等への事務連絡等で周知を図るべきである。
Ⅳ 危険有害性情報の通知関係
※詳細は別紙5[省略]参照
本検討会では、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の2第8項の規定に基づく通知対象物に係る代替化学名等の通知に関する指針(案)について検討を行い、特段の異論なく了承された。
[別表省略-以下で全文入手可能]
※https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72030.html
安全センター情報2026年6月号


