第119回~第125回及び第126回労災保険部会における委員の主なご意見「第119回~第121回労災保険部会における委員の主なご意見」掲載分を除く

目次

1 適用関係

(1) 暫定任意適用事業に係る論点について

・ 暫定任意適用とされている農林水産事業について、労災保険法を強制適用することについて

<労働者代表委員の意見>
  • 農業、林業、漁業や養殖業等の水産業、いずれの分野でも労災事故の発生率は高く、保護の必要性も高いと考える。こういった点から、暫定任意適用は速やかに廃止して、労災保険法の保護を及ぼしていくことが重要。
  • 農林水産業の労働実態は近代化してきており、労災保護の必要性も高いということがヒアリングでも明らかになっている。また、農林水産業を本当に魅力あるものにしていくためには安心して働くことができる環境づくりが必要である。これらの点を踏まえて、暫定任意適用事業を廃止し、小規模な農林水産事業についても労災保険を強制適用することが必要と考えている。
<使用者代表委員の意見>
  • 暫定任意適用事業の対象となる小規模な経営体においても、死亡事故等の重大な労働災害が発生している。どのような職場で働く労働者であっても、業務上の負傷、疾病に関して適切な保険給付が受けられるよう暫定任意適用事業を廃止し、労災保険を強制適用することに賛同する。
<公益代表委員の意見>
  • 施行期日はともかく、廃止の方向で道筋を早期につけるべき。

・ 全面的に強制適用する場合に留意すべき点について

<労働者代表委員の意見>
  • 施行までの期間をむやみに長くすることは適当ではない。暫定任意適用を廃止するとなれば法改正が必要となるが、法案提出までの時間なども含めれば、準備期間は相応に取ることができる。労働力不足はとても深刻で農林水産業において、魅力ある労働環境の整備が急務の課題となっていることを踏まえ、労災保険法の強制適用をできる限り早く実現していく必要がある。
  • 施行までの期間は、例えば5年など、あまりに長く取るべきではないと考えており、この点、今後報告書案をまとめるにあたって、その点に留意した記載としていただきたい。
<使用者代表委員の意見>

○ 強制適用にあたっては、小規模な経営体の実態把握や行政手続に伴う事業主の事務負担の軽減、施行までの十分な周知期間の確保、労働災害防止対策の推進など、所管省庁や関係団体から示された課題や要望に対応していく必要がある。

(2) 特別加入制度に係る論点について

・ 特別加入団体の承認や取消しの要件を法令上明記すること及び承認の取消し等に先だって段階的な手続を設けることについて

<労働者代表委員の意見>
  • 特別加入団体の承認、取消要件を法令で定めることが適当。特別加入団体の要件が通知で5つ定められているが、特別加入団体は、加入手続や加入後のフォローも含めて、極めて重要な役割を持っているため、これを法令に根拠を置き、適切に監督指導を行っていくことは欠かせない。
  • 特別加入団体に課せられる事務所要件について、使用者側からは、物理的なスペースの確保の必須化というのは過剰な対応ではないかという意見もあったが、原則事務所保有という要件は、対面の相談の確実性を担保することに加え、全国的に相談窓口を設置し得る能力や体制がきちんと確保できるという安定的な団体としての運営を担保するという側面もあった。それにもかかわらず行政解釈という理由で、公の議論も経ずに今回引き下げになり、しかも制度がスタートしてあまり時間も経過していないタイミングで行われてしまったことは問題。改めて以前の要件に戻すべき。
  • 特別加入団体は特別加入制度の運営上重要な役割をになっていることを踏まえ、法令に承認取消し要件の根拠を置いた上で、適切に指導・監督していくことが必要。
  • 法令に明記する要件は既存の通達の要件を単純に格上げするのではなく、内容を厳格化していく必要がある。特に加入時の審査を適切に行うことができる体制や、財政基盤の安定性などの視点が重要。どこまで法律に書き、どこまで省令に書くのかは検討する必要があるが、具体的な要件が議論できるように、部会でイメージを出していただきたい。
  • 特別加入団体の承認取消しがあった場合の対応として、「特別加入者の不利益を軽減するための工夫を行う」としているが、この表現では加入者保護の観点では十分ではない。特別加入団体の取消しなどがあった場合でも、保険料を納めた期間内は特別加入者としてみなすなどして、確実に保険関係が継続するような措置を講じるべきであり、報告書の表現も、その趣旨が明確となるようなものとすべき。
<使用者代表委員の意見>
  • 4000を超える特別加入団体の中には、誇大広告や加入者へのサポートが不十分な団体があるといった労働者代表委員の指摘、また、毎年一定数の特別加入団体が消滅しているという使用者代表委員の指摘を踏まえると、特別加入団体において、団体の健全、透明、安定的な運営はもとより、加入者の災害防止等、期待される役割を果たしていくためには、災害防止に関わる役割や実施すべき措置事項、事務処理体制、財政基盤に関する事項等を承認要件の内容とすべき。
<公益代表委員の意見>
  • 特別加入制度への加入は任意であるが、加入すれば強制保険である労災保険本体と同じ給付が受けられる。強制保険である労災保険と同じ1つの制度に属する以上は特別加入団体の承認や取消、災害防止措置と報告義務などきっちりやって行くべき。

・ 特別加入団体に災害防止措置を求めること及びそれに当たって法令的根拠を設けることについて

<労働者代表委員の意見>
  • 特定フリーランス事業以外の特別加入団体も災害防止の役割を担うことが非常に重要であり、新たな役割を担わせるのであれば、法令に根拠を置くということが当然。また、承認や取消の要件の法令への格上げに当たっては、単純に通達の5つの要件を格上げするだけでなく、内容を厳格化していくことが必要。
  • 特定フリーランス事業の特別加入団体のヒアリングでは、相談体制や財政見通しといったところで、もう少し精度を高めたほうがよいのではないかという印象を受けるケースもあった。労働側としては、加入時の審査を適切に行うことが非常に重要であると考えており、そのためにも加入時の審査や相談を適切に行える体制、安定的な財政の基盤を担保していくことの要件を明示し、行政としてその適合性を丁寧に確認していくことが必要である。

・ 保険関係の消滅に係る手続き及び加入者保護の仕組みについて

<労働者代表委員の意見>

○ 特別加入団体の承認取消しに際して、段階的な手続きを設けることに異論はないが、承認取消しにより特別加入者が突如無保険になるといった不利益を被らないようにする対策が欠かせない。この点、保険関係消滅時に特別加入者の地位も喪失、つまり無保険となり、別の特別加入団体を自分で探す必要がある状況は、特別加入者の保護の観点から問題である。承認取消に至った場合においても、例えば年間で保険料を納めていた場合は、その期間は特別加入者としてみなすなど、特別加入者が引き続き保険関係を継続できるような仕組みが必要。

・ その他の意見

<労働者代表委員の意見>
  • 特別加入の範囲を広げていく以前に、労基法の労働者概念を拡大して、労災保険法本体の保護の範囲を拡大していくことが重要。こうした課題感も、報告書で言及しておくべき。
  • 労基研報告に基づいた労働者性の認定について、ケースによってまちまちであり労働者として認定される場合とされない場合があるということで、建設業においては非常にグレーな働き方がある。しかもその差が理解できないようなことがあった。そのような中で現行の特別加入制度があり、現状、この範囲の中で何ができるかということは、きちんと進めていく必要がある。労働者、労基法の関係は、これはまた別途議論されるべきところではないか。この労災保険制度においては、経緯がある中で今の特別加入制度があるのだと理解をしている。
<使用者代表委員の意見>
  • 報酬を得て働く人は全て労災保険に強制加入する制度へと見直していくことは、将来の課題として専門的な見地から検討を深めていただきたい。強制加入となった場合には、特別加入制度との関係も議論の対象になると思われ、特別加入制度の対象とするためには、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護することがふさわしいものであると整理される必要があるのではないか。そうした強制適用の範囲、強制加入の範囲、特別加入制度の趣旨、目的などに合致するかについて、慎重に、将来的に検討していくことが必要。
  • 労災保険の特別加入の対象とするためには、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護することがふさわしいものであると整理される必要がある。特別加入制度は、災害補償責任を基礎とする労災保険制度の趣旨を損なわない範囲で認められる特例であると理解している。今後の検討に際しては、対象拡大に足りるエビデンスがあるのか、しっかりと確認していく必要がある。
  • 中間報告書では、労災保険の強制適用の範囲の在り方について専門的な見地から引き続き議論を行う必要があると結論付けており、本件については、学識経験者による議論の蓄積を待つべき。
<公益代表委員の意見>
  • 労災保険の社会保障的性格を強調するのであれば、労働基準法上の労働者に限らず、報酬を得て働く人は全て労災保険に強制加入する制度へと見直していくこともあり得る。これは労働基準法の災害補償責任と結び付いた現在の法制度を根幹から見直すことを意味し、長期的な検討課題である。その上で、短期的には、引き続き社会のニーズに応じて、特別加入制度を柔軟かつ迅速に拡大していく形で対応していくことが必要である。現行制度の下で特別加入の対象にすらなっていない事業はまだまだ残されており、それらの事業を特別加入の対象にすることについても随時検討していくべき。

(3) 家事使用人に係る論点について

・ 仮に労働基準法が家事使用人に適用される場合に、私家庭の私人が災害補償責任を負うこと及び労災保険法を強制適用することについて

<労働者代表委員の意見>
  • 労災保険の保護を及ぼすことについては、家事使用人の保護の観点からも最も重要であると言っても過言ではない。今回を逃すといつ強制適用できるか分からないため、強制適用の道筋を示していくべき。
<公益代表委員の意見>
  • 家事使用人については、労働基準法が適用されたら直ちに強制適用できるように準備が必要と考える。

・ 家事使用人に対する労災保険法等の適用に当たっての運用上の課題について

<公益代表委員の意見>
  • 家事使用人を使用する家庭の状況は様々であり、中には高齢や障害のために、判断能力の不十分な方が家事使用人を雇用していることもある点に留意が必要。JILPTの2023年の調査でも、家事使用人が普段行う業務(複数回答)として46%が高齢者介護、認知症介護と回答しているというデータが示されている。高齢者や障害者の方々が、介護保険や障害者総合支援制度ではカバーされない生活援助や介護のニーズを、家事使用人を自費で雇うことによって補うということは、少子高齢化の進行によって今後も増えていくと思われ、特に、家族からの援助を得られない単身の高齢者や障害者が家事使用人を雇用する場合は、労災保険制度内での手続負担軽減の取組だけでは必ずしも十分とは言えず、例えば、日常生活自立支援事業などの社会福祉制度による支援との連携も視野に入れて議論する必要があるのではないか。

2 給付関係

(1) 遺族(補償)等年金に係る論点について

・ 遺族(補償)等年金における夫と妻の支給要件の差の解消について

<労働者代表委員の意見>
  • 夫婦間の支給要件の差は、夫の要件を妻に合わせる形で解消すべき。使用者代表委員からは生計維持という点に着目し、妻に55歳以上の年齢要件や一定の障害状態という要件を付けることも排除すべきではないという意見があったが、労働者代表委員としては賛同できない。遺族(補償)等年金は夫婦生活を支えていた被災労働者の収入が途絶えたことに対する填補という目的があり、この目的は妻だけでなく夫にも共通するものであり、年齢によって区切られるものではない。
  • 夫にのみ設けられている要件を廃止すべき。夫にのみ設けられている要件を妻に課すことについては、遺族(補償)等年金をどのように捉えるかの問題に直結し、その影響も大きいと考える。生計維持要件がゆるやかに認定されている実務があり、家族としてお金を出し合う関係性であった中、労災事故による損失を遺族(補償)等年金として補填していることを踏まえれば、年齢で支給するか否かを区切ること自体がなじまない。また、特別遺族年金についても同様に解消すべき。
<使用者代表委員の意見>
  • 差の解消に当たっては、考え方の一貫性を大切にしていただきたい。時どきの状況によって考え方を変えることは、制度の安定的な運営という観点からは非常に問題である。仮に考え方を変えるのであれば、どのような理由で変えるのかということが重要。従来からの考え方をどのように評価して新しい結論を導いていくのかを検討していくべき。
  • 遺族(補償)等年金の生計維持要件については、現在は、死亡労働者の収入によって消費生活の一部を営んでいた事実が認められれば生計維持要件を満たしていたとされている。これを前提として、夫にも稼得能力の喪失の填補や被扶養利益の填補という目的で給付することが適当かということについて、共働き世帯の増加や女性就労の増加をはじめ現状に照らし、制度の趣旨・目的も踏まえて、専門的見地から議論をお願いしたい。
  • 遺族(補償)等年金制度の趣旨・目的に関する議論を経ないまま夫に課せられた支給要件を撤廃する、あるいは現行の長期給付を維持するという結論を導くことには違和感がある。制度創設時と比べた際の男女の働き方や家族の在り方の変化を踏まえて、改めて遺族(補償)等年金制度の役割や適切な給付を議論する必要がある。その議論を経た上で、これらの論点に対する結論を出すべき。
  • 夫に課せられている支給要件を撤廃する形で夫婦間の支給要件の差を解消すること、現行の長期給付を維持することについては妥当である。
<公益代表委員の意見>
  • 遺族(補償)等年金について、制度創設時から見て、男女共に働き方や家族の在り方が変わってきていることは疑いのない事実であり、改めて、遺族(補償)等年金の役割や適切な給付について、議論すべき。
  • 研究会報告書では、「夫に課せられた支給要件を撤廃することが適当」との意見が太宗を占めたところ、生計維持要件がゆるやかに認定されているという現行実務を引き合いに「被扶養利益の喪失」は夫にも認め得るという意見などが出ていた。この点、被扶養利益の喪失の補填という制度趣旨を踏まえると、夫に課せられた支給要件を撤廃するという選択肢を取っていくのが良いのではないか。併せて、将来的には制度趣旨を踏まえて、遺族(補償)等年金の制度全体の在り方も議論が必要かと考える。
  • 現行の受給権者は妻が約9割だが、これは現行法上妻が優遇され、相対的に夫が不利な立場に置かれていることを意味する。夫が妻と同一順位としての扱いになるのは、60歳以上又は一定障害の場合に限られ、55歳以上60歳未満の場合は、父母や孫、祖父母より後の順位となり得ることは是正すべき。妻と夫の受給要件を合わせるべきと考えるが、現行規定で妻が優遇された事情として、当時、大半の女性が結婚、出産により労働市場から退出し、再び働くとしても、パートタイムなどの低賃金労働の職に就くしかなかったという状況を認識すべき。
  • 妻が、いわば、優遇されている理由を考慮することなく、単に現行規定の妻の受給要件に夫の受給要件を合わせるということには賛同しかねる。ただ、労働者側委員からの指摘にもあるが、単に夫に合わせればよいとも考えていない。

・ 給付期間について

<労働者代表委員の意見>
  • 給付期間については、現行の長期給付、すなわち終身給付を維持すべき。仮に、有休給付化を考えるとなると、それは遺族(補償)等年金そのものをどう捉えるかということに直結し、短期間に結論が出るものではない。研究会でも指摘されているように、夫婦間で考えれば、被災労働者が亡くなったことによって、夫婦の共同生活で得られていたはずの利益が失われたという損害は、何年たったから無くなるとか、損害が回復するというものではなく、損害が生じている間は長期に給付を行うことは自然である。さらに、単純な有期給付化は、遺族の補償水準の低下にもつながる。こうしたことから、現時点において短期給付の方向性を議論したり、打ち出すことは適切ではなく、長期給付の維持が適当。
  • 労災保険制度の安定的な財政運営は必要であるが、支給要件の夫婦間格差をそのまま残しておくことや、短期給付化も含めた給付水準の切り下げを行うと、遺族(補償)等年金の被扶養利益の損失の填補という目的だけではなく、被災労働者や遺族の迅速かつ公平な保護という労災保険制度そのものの目的も果たさなくなることが懸念される。遺族(補償)等年金の持つ目的は変わっておらず、その目的を実現するための財政はどうあるべきかという視点での検討が必要。
<使用者代表委員の意見>
  • 民事損害賠償との兼ね合いについて、相殺可能額が減少する可能性については、そのとおりと考える。同時に、有期給付化された場合の影響は企業によって様々であり、仮に夫の年齢要件を妻に合わせるとした場合、相殺できる額が追加で出てくる可能性もある。被災労働者の死亡に対してどの程度の手当をすべきかについては、他の社会保障制度の状況も踏まえつつ、制度の趣旨・目的の意義に照らして、議論すべき。
  • 制度の趣旨に沿って財源、財政の在り方を考えていくべきということは理解できる。遺族(補償)等年金の目的がどのようなものかについて議論が必要で、それに沿って給付されていくことが財政の健全性にどの程度影響するのかについても議論が必要。
  • 長期給付については、労災保険制度を取り巻く環境が変化している。労災保険と同じく、社会保障制度を構成する遺族厚生年金においては、60歳未満の死別に際して、原則5年間の有期給付とする制度の大幅な見直しが行われている。こうした動きも参考にして、遺族(補償)等年金における長期給付の妥当性を検討すべき。
<公益代表委員の意見>
  • 遺族(補償)等年金の給付内容の在り方については、その趣旨・目的をどう考えるか、労災保険が提供すべき公正な保護とは何かを考える必要があり、これについて様々な見解があると承知している。研究会報告書で指摘されているが、我が国は労災補償と損害賠償を併せて請求することが認められており、民事損害賠償との関係も考慮する必要がある。仮に遺族(補償)等年金を大幅に縮小する場合、被災労働者側にとっては縮小分を民事損害賠償で請求する負担が増えることになり、使用者側にとっては保険給付と民事損害賠償が調整される分が縮小され、個々の使用者が負う損害賠償責任が増える。
  • 民事損害賠償との関係は考慮すべき問題ではあるが、労災補償が無過失責任、民事損害賠償は過失責任であることを忘れずに議論することが必要。また、使用者に非常に重大な責任がある場合には、感覚的には使用者がある程度民事損害賠償責任を負うべきだと思われ、労災保険でカバーされるからよいという考えだけではいけない。
  • 長期給付の見直しも1つの考え方だが、生計維持要件の見直しの可能性もある。未成年の子がいる世帯のように、ニーズの高いものに確実かつ優先的に給付されるという制度設計が必要。

・ 特別加算について

<労働者代表委員の意見>
  • 遺族(補償)等年金の特別加算については、趣旨・目的を踏まえれば、単純に廃止だけするという結論には至らないと考える。特別加算が設けられた主旨は、高齢又は一定障害の妻は働くことが困難で生活が困窮しがちであるところ、それを防止するというものである。この趣旨を踏まえれば、高齢の妻という身分に着目した特別加算という形は廃止した上で、現行の水準維持を前提に、夫も含めて広く生活困窮の可能性がある者を対象にする方向で見直すべき。
  • 高齢の妻という身分に着目した特別加算を見直し、妻以外も含めて給付日数を広く拡充する方向で検討すべき。そもそも遺族の生活の安定という加算の目的を踏まえれば、55歳以上や、一定の障害状態にある妻にのみ日数を増やすという合理性は乏しく、遺族が夫や子供の場合も含めて遺族一人の場合の給付日数の「153日」自体を等しく底上げしていくべきで、現在の特別加算の水準である「175日」を妻以外の遺族についても補償することが適当である。
  • 特別加算について、高齢や障害のある妻に着目するのではなく遺族1人の場合の給付基礎日額を一律に引き上げる形で見直すことが必要。現在の遺族補償等年金の給付日数については、遺族が1人の場合が153日、2人の場合が210日、3人が223日、4人以上245日と、遺族1人の場合と2人以上の場合で大きなギャップが生じている。遺族の数に応じてバランスのとれた給付水準にするという考え方から、175日とすることが適切。
<使用者代表委員の意見>
  • 特別加算制度については、制度創設時である1970年(昭和45年)当時の考え方が現代では妥当しないというのが研究会の一致した結論。合理性の失われた制度であり、廃止が妥当。その上で、遺族1人の場合の給付水準については、特別加算の廃止の議論とどのように関係するのか理解し難い。
  • 唐突に給付水準の話が論点に挙がってくることに違和感を覚える。研究会での議論内容も含めて、どのような観点からこの論点を論じるべきなのか示した上で議論していくべき。
<公益代表委員の意見>
  • 遺族1人の場合、配偶者や子供といった遺族の属性だけではなく、就労の可否や賃金水準、財産などによって様々な状況があり得る。その上で、女性の就業率が上昇していることや、男女間の賃金格差が縮小していることなど、社会経済状況の変化も踏まえると、高齢や障害の妻といった特定の属性を取り出して特別に給付水準に差を付けるという理由は見当たらない。遺族の数に応じてバランスの取れた給付水準にするという考え方から、遺族1人、2人、3人、そして4人以上のそれぞれの給付水準というのが同程度の差になるような形で遺族1人については、175日分とすることが適当ではないか。

・ 石綿健康被害救済法における特別遺族年金について

<労働者代表委員の意見>
  • 石綿健康被害救済法における特別遺族年金も含めて、夫に課せられた支給要件を撤廃する形で夫婦間格差を解消していくことが適当。

(2) 消滅時効に係る論点について

・ 外形的な事実だけでは給付を受けられるかどうかの予測が容易にはできない点において、特有の事情を有するものとすることについて

<労働者代表委員の意見>
  • 労災保険は、他の社会保険とは異なり保険証がなく、被災労働者自身が労災保険制度の適用対象であるか明確に意識していない。このために、事故に遭ったとしても、自身が労災保険給付の対象であることに直ちに気付かないことがある。労災保険については、他の社会保険である厚生年金や雇用保険と異なり、外形的な事実だけで給付を受けられるか不明であることなどを踏まえれば、特有の事情がある。
<使用者代表委員の意見>
  • 業務起因性を明らかにする必要があることから、外形的な事実だけでは給付を受けられるかどうかの予測が容易にはできないという点は、確かに労災保険の特徴的な事情と言えるかもしれない。ただし、そのことが直ちに消滅時効期間を延長する理由にはならない。2020年の労基法改正時に災害補償請求権の2年間を維持した理由は、早期に権利を確定させて被災労働者の救済を図る必要性、早期の労災保険給付請求を通じて、事業主の安全衛生対策、再発防止対策を促進することで、これらの必要性は、今も何ら変わらず、災害補償請求権と同じく労災保険の短期給付の消滅時効期間が2年間であることは合理性がある。

・ 災害補償請求権及び労災保険給付請求権に係る消滅時効期間の見直しの要否について
・ 消滅時効期間を見直す場合の方策について

<労働者代表委員の意見>
  • 消滅時効について、使用者代表委員は、政府答弁を踏まえて延長ありきではない議論が必要であると主張している。たしかに早期の労災請求によって証拠の散逸などがなくなり、給付がなされる可能性が高まるという点は理解するが、労災請求を早期にするということと、時効による請求権を早期に消滅させることは別次元の問題である。また、早期の安全衛生対策についても、請求権の消滅と関係があるというのは理解しがたい。時効を議論した労災保険部会で時効を徒過した件数が示されていたが、時効の到来によって請求を諦めてしまうケースが多いことも明らかになっている。時効徒過による不支給件数が少ないことをもって時効延長が不要だという結論にはならず、5年に延長すべき。
  • 一人親方等の特別加入について、労働者だとして労災請求をした事案において、審査請求などから2年以上経過して結果として不支給となるなど、療養給付などの2年の時効が消滅してしまうという問題がある。(労災請求による)時効の中断というものが現行もあるので、周知が必要。
  • 時効徒過防止に向けて、「周知を工夫することや運用を改善することが適当」とされている点に関し、特に介護(補償)等給付は現在でも時効を過ぎた請求件数割合が高いことも踏まえ、具体的な改善に努めていただきたい。

・ 脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病等、発症後の迅速な保険給付請求が困難な場合があると考えられる疾病を原因として請求する場合に時効期間を5年に延長することについて

<労働者代表委員の意見>
  • 消滅時効を他の社会保険と合わせる必要はなく5年に延長すべきである。脳・心臓疾患や精神疾患、石綿関連疾病など、発症後の迅速な保険給付請求が困難な場合であると考えられる疾病に限って5年に延長することは理解できない。一般原則である民法の消滅時効は5年であり、それよりも労災保険給付の消滅時効を短く設定する合理的理由はなく、疾病の種類で差を付けるものでもない。
  • 脳・心臓疾患や精神障害など、特定の疾病のみ消滅時効を5年に延長する論拠としてデータが示されているところ、確かに3つの疾病に関する給付の2年以上の徒過事案が多く、骨折の事案については割合が少ないが、件数で見れば骨折であっても2年超の事案も少なくなく、決して無視してよい数字ではない。脳・心臓疾患など、特定の疾病に係る労災請求の時効が5年、それ以外の骨折などの労災請求を2年とすることは、こういった事実を無視する措置であると考えられ、原因となる疾病で時効期間に差を設けるべきではない。また、過去の部会で給付種別ごとの時効徒過件数と割合が示されたところ、介護(補償)等給付について時効が過ぎたことで不支給となったものが、件数も割合も非常に高いということが示されていた。こうしたことも踏まえると、脳・心臓疾患などの特定の疾病に着目して時効に差を設けることは適切ではなく、一律に5年に延長することが適当。
  • 労災保険給付請求権などの時効期間は、疾病の違いにかかわらず一律に5年に延長すべき。仮に論点整理で示されているように、延長の対象を特定の疾病を原因とする請求に限る方向とするとしても、将来的に見直すことは確認をさせていただきたい。
  • 消滅時効期間について、労働者側としては、原因となる疾病の違いにかかわらず、5年に延長すべきというのが基本的な考え方。使用者側委員からは、2020年の労基法改正時の建議にも言及し、早期に権利を確定させて被災労働者の救済を図る必要性の観点から2年に据え置くべきという意見があったが、早期に労災を請求することと、早期に請求権を消滅させることとは全く違う話である。早期の請求が、早期の権利確定、労災保険給付を受けることができる可能性を高めることはそのとおりであるが、それは早期の請求に向けてアナウンスを強化する形で対応すべきであって、早期に被災労働者の権利を消滅させることとは全く別次元である。

<使用者代表委員の意見>

  • 骨折と比較すれば、脳・心臓疾患や精神障害、石綿関連疾病において、最初の休業の日から2年を徒過した後に請求がなされた件数の割合は高いが、2年を超える請求件数は、絶対数としては少なく、このデータだけをもって特定の疾病に関する労災請求の消滅時効期間を延長すべきとの結論を導くべきではない。過去の部会の資料では、請求人の制度の不知・誤解、請求人が手続を失念していた、事業主の手続漏れ、書類の不ぞろい、紛失等のための手続遅怠といった理由が挙げられており、これらの理由を踏まえると、まずは事業主や労働者、医療機関など、労災保険給付の請求手続の関係者に対して、現行制度の周知広報に注力することが先決。
  • 仮に対象となる疾病を追加する場合、最初の休業の日から2年を徒過した後に休業補償給付の請求がなされた件数の割合がどのぐらいあるかなど、消滅時効期間の延長に必要なエビデンスの確認をすることが前提。部会で論議をする際には、そのようなものをご提示いただきたい。
  • 仮に一部の疾患を対象に短期給付請求権の消滅時効を5年に延長したとしても、業務起因性の立証は時間の経過とともに困難となることからも、早期に請求を行って被災労働者の権利の実現を目指すことの必要性は何ら変わるわけではない。厚生労働省においては、事業主や労働者、医療機関など、労災保険給付請求手続の関係者に対して時効期間の長さにかかわらず、早期の請求が重要である旨を周知広報していただくことが重要。
<公益代表委員の意見>
  • 他の社会保険と比較した労災保険の特殊性を認めた上で、一部の疾病に関わる場合にのみ療養補償給付等の消滅時効を5年に延長するという変則的な対応によって、労働者にとってかえって分かりにくい制度とならないか懸念。私見だが、療養補償給付等について、その支給原因となる傷病を問わず、労働基準法の賃金と同じように5年の消滅時効としていくことが望ましい。同時に、他の社会保険制度とも足並みをそろえることが望ましく、これは制度横断的な検討をすべき問題。
  • 一部の疾病について消滅時効期間を異ならせることは、好ましくない。石綿関連疾病を5年とすることはデータからも適切であると思われるが、脳・心臓疾患と精神障害については特別に5年とすることが適切であるかは、判断が困難である。特に精神障害については、その原因がハラスメントである場合、時間が経過することにより、業務上認定が難しくなるのではないか。

・ 労働基準法の災害補償請求権についても、労災保険給付請求権と同様に、消滅時効期間を延長することについて

<労働者代表委員の意見>
  • 労働基準法の災害補償請求権の時効期間は、労災保険給付請求権とともに、一律に5年へ延長すべき。
<使用者代表委員の意見>
  • 労災保険給付請求権を延長すべき立法事実はないと考えているため、労働基準法の災害補償請求権の消滅時効期間を延長する必要もない。

(3) 社会復帰促進等事業に係る論点について

・ 特別支給金等の処分性を認めることについて

<公益代表委員の意見>
  • 研究会中間報告書のとおり、特別支給金も含めて処分性を認め、審査請求や取消訴訟の対象とすることが適当。

・ 給付的な社復事業の不服申し立てを労働保険審査官及び労働保険審査会法の対象とすることについて

<公益代表委員の意見>
  • 給付的な社会復帰促進等事業に対する不服申立てについては、保険給付と同様に労働保険審査官及び労働保険審査会法の対象とすべき。

(4) 遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額に係る論点について

・有害業務に従事した最終の事業場を退職した後、別の事業場で有害業務以外の業務に就業中に発症した場合における給付基礎日額について

<労働者代表委員の意見>
  • 遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額の算定は、発症時賃金を原則とし、例外として、発症時賃金がばく露時賃金よりも低くなる場合には、ばく露時賃金を用いることが適切。使用者側から、発症時の生活保障という趣旨を踏まえると、発症時賃金がばく露時賃金より低い場合に遡って、ばく露時賃金を用いることについて考え方を整理すべきという意見があったが、考え方の一貫性という意味で言えば、原則は発症時賃金で、例外がばく露時賃金より発症時賃金が低い場合のみという形で明確に原則と例外の関係を示せば、一定の整理ができるのではないか。
<使用者代表委員の意見>
  • 給付基礎日額の算定に当たって発症時賃金を原則として用いる場合、発症時賃金がばく露時賃金より低くなる場合には、ばく露時賃金を用いることに関して、方向性に反対はしないが、この労災給付の役割の位置付けと考え方を整理することが必要。

・ 有害業務に従事した事業場を退職した後、就業していない期間に発症した場合における給付基礎日額について

<労働者代表委員の意見>
  • 発症時に無職であったときの給付基礎日額の考え方について、ばく露時賃金を用いることには賛同できない。発症時に何らかの理由でたまたま失業している場合であっても、アスベストなどの遅発性疾病を発症した瞬間は無職だからというだけの理由で何十年も前の賃金で労災保険給付を算出することは、不幸にして労災に遭った労働者の生活保障の観点で十分とはいえない。
  • 建設業のアスベスト関係は、ばく露してから発症までの期間が人それぞれで、通常の30~40年の他、10年ほどで発症するケースもある。国も防止策を展開しているが、現在も、既存の住宅等の建材にアスベストがあり、それを解体したときにアスベストにばく露する可能性もあることは間違いない。どうしても賃金の算定ができない方の救済という意味では、発症時賃金を原則として算定することは必要。
  • アスベスト疾患は発症するまで10年の方や、20年、30年と時間が経過するということもあり、いわゆる一般的な定年を超えて発症するケースもある。現行の取扱いを維持しつつ、専門的な見地から検討を行うことが適当と整理されているところ、今後も引き続き、労災認定された方々が生活できる十分な給付が受けられるように検討をお願いしたい。
  • 遅発性疾病の発症時に就業していなかった場合に数十年も前のばく露時賃金で給付基礎日額を計算することは、被災労働者の生活保障の面で十分ではないという課題を踏まえ、発症時賃金の推認などの具体的な見直しについて意見を申し上げてきた。論点整理では現行の取扱いを維持した上で、専門的な見地から検討を行うとされているが、遅発性疾病にかかる給付基礎日額の算定方法の見直しは法改正を伴うものではないと考えられるため、速やかに専門的な見地での検討を行っていただき、早急に対応を図っていただきたい。

3 徴収等関係

(1) メリット制に係る論点について

・ メリット制の意義・効果について

<労働者代表委員の意見>
  • 研究会では、送検事例の中で労災かくしの動機にメリット制を挙げたケースはゼロとの結果をもって「労災かくしの…影響は確認されていない」と結論付けているが、労災かくしの動機としてメリット制を明示的に挙げていなくても「監督署からによる司法処分や行政処分を受けることを懸念した」という回答の中に含まれている可能性もある。
  • メリット制の災害防止効果について研究会で一定整理されたというが、マイナスのメリット制適用事業場における効果は判然としない。マイナスのメリット適用がなされた事業場は、メリット制がなくとも被災者数が0である可能性や、災害防止の取組をした可能性も考えられる。プラスのメリット適用がなされた事業場における効果は認めうるが、メリット制の廃止を求める声があることを踏まえると、存続という結論ありきではなく、労災かくしにつながる懸念の払拭や是正も含め、制度の在り方の検討が必要。
  • メリット制について、労災かくし、事業主からの報復行為や不利益取扱いに関する懸念の実態把握を行い、その結果も踏まえて制度の在り方について議論をしていくことが必要。併せて、諸外国におけるメリット制の効果や課題について、調査や分析を進めていただきたい。
<使用者代表委員の意見>
  • データの取得が可能な範囲で、メリット制の効果検証を継続することは反対しないが、研究会委員の意見が一致する形で制度の適切な運用が提言されており、制度自体の根源的な検討は必要ない。

・メリット制を存続させ適切に運用すること及び継続的にその効果等の検証を行うことについて

<労働者代表委員の意見>
  • 現時点で、メリット制に効果があり、今後もメリット制を続けて行くという結論を導くのは時期尚早。研究会での検証は一歩前進と考えるが、決して十分とは言えない。また、メリット制によって保険料が上がった事業主が被災労働者に対して報復行為や不利益取扱いを行うことの懸念に係る検証もされていない。現場から聞く中では、労災申請をした労働者の配置転換をするだけでなく、申請協力者にも力関係の差を利用して会社の意に沿う陳述をさせるといった事例も聞く。こうしたことの実態把握をした上で、制度の在り方の検証が必要。なお、諸外国のメリット制の状況については、制度の有無だけではなく、災害防止効果や課題、さらにはその課題への対応状況などについても調査・分析をお願いしたい。
  • メリット制に関して、災害防止効果があるのかといった点や、労災かくし等の懸念も指摘されているところから、継続的に効果検証するとともに、労災かくしや事業主による報復行為、不利益取扱いについて実態を把握することが適当である。
<使用者代表委員の意見>
  • メリット制による保険料負担を減らすために災害防止努力をするかは、事業主により様々な考え方があるところ、保険制度である以上は、給付の原因を起こした企業とそうでない企業における負担の差を設けることは当然であり、諸外国も同様の考え方でメリット制を敷いているものと思う。
  • 事故を起こすと保険料が上がるという心理的抑止力は必要であり、JILPTの調査によれば、ドイツ、フランス、アメリカといった諸外国の労災保険制度においてもメリット制が採用されている事実からそういった効果を類推できることからすると、安全な労働環境のためにもメリット制は必要。
  • 民間保険の自動車保険においても事故を起こさなければ保険料は安くなる。メリット制によって労災かくしが発生するという主張についても、研究会では認められないとの結論であり、自身の経験でも成り立たないと思っているため、メリット制を存続すべき。
  • 研究会で示された効果検証は、メリット制の目的である事業主の自主的な災害防止努力の促進と、事業主の負担の公平性の確保について、一定の効果を裏付けるものと認識。効果検証の継続に反対はしないが、制度を存続させて適切に運用すべきであり、根源的な検証をする段階にはない。
  • メリット制の存在が、労災かくしや被災労働者等への報復行為・不利益取扱いにつながるといった懸念について、エビデンスに基づく議論を行う観点から実態を把握することは重要。具体的な方法は今後の検討だが、調査を通じて事業主による不利益な取扱いに該当する行為が確認できたとしても、それが報復行為と言えるのか、メリット制や労災支給との間に因果関係があるのか、ヒアリングなどによる丁寧な実態調査と事案の十分な分析が不可欠。

・ 労災かくし及び労災保険給付を受給した労働者等に対する事業主による報復行為や不利益取扱いに繋がるといった懸念及びその実態を把握することについて

<労働者代表委員の意見>
  • メリット制を原因とした不利益取扱いに関する明示的なデータはないが、被災労働者に対する不当な配転や、労災申請協力者に対する圧力など、現場からは労使の力関係の差を利用した対応があると聞く。そうした点について調査をして、国として実態を把握すべき。
  • 建設業においては、働き先によっては労災かくしの排除はまだ十分ではないと考える。ゼネコン現場では徹底されてきているのは事実だと思うが、それ以外の現場ではあると考えられる。労働者は声を上げにくい、弱いものの立場にあるということを踏まえて、運用をきちんとしていくべき。保険料を支払っている事業主側から見れば、メリット制のために労災かくしは起きていないという話になるのだと思うが、結果的に労災かくしが発生している。実態把握の結果に基づき、必要な検討を行うべき。
  • メリット制が労災かくしを助長しているという指摘について、エビデンスを示すべきという使用者側委員の意見があったが、そもそも証拠を廃棄したり隠蔽したりするといった行動をとるのは、事業主である。そういった事業主の行動について、労働者側に数字的な根拠・証拠を出すことを迫るような姿勢には違和感を覚える。エビデンスに基づく議論を行うためにも、実態把握を行うことは有効である。
<使用者代表委員の意見>
  • メリット制によって企業が労災かくしをするかについては、労災かくしをするリスクを負ってまでそのようなことをするというエビデンスが必要ではないか。
  • メリット制による労災かくしや被災労働者等への不利益取扱いに対する懸念については、エビデンスを示していただく必要があり、対応策の検討に当たっては、具体的にどのような行為がなされたのか、その原因などを把握する必要がある。研究会報告書は、制度の意義を損なう影響は確認できていないとの結論であり、実態把握ができていない以上は論点として扱うことも疑問。
  • メリット制に伴う懸念については、研究会中間報告では、制度の意義を損なうほどの影響を確認できないとされており、可能性やおそれにとどまらず、エビデンスが伴わない懸念を議論の前提とすることは適切とはいえず、実態を把握することが重要。その際には、具体的にどのような行為があったのか、それが事業主による報復行為や不利益取扱いといえるものか、また、その原因は何か、メリット制との間に因果関係があり得るかを含め、正確に事案を確認し、分析する必要がある。
  • 保険である以上、災害の発生率、発生件数に応じて料率を設定するという考え方について、業種別に料率が設定されており、これを企業別も適用するという考え方は、保険として当然の考え方と理解している。名称からすると企業側がメリットを得るような仕組みと見られるが、損得ではなく労災保険財政に与える影響の度合いに応じて保険料を負担しているというだけに過ぎない仕組みと考えるべき。このようにメリット制は保険として当然に含まれるべき考え方であり、これを廃止するかどうかという議論については、災害を助長する、労災かくしや事業主による報復行為につながっているという明確なエビデンスがあって初めて議論の俎上に上る話ではないか。こうした調査を行うということついては、どこまで意義があるのかとも考えられるが、調査自体を否定するものではない。
  • ○ メリット制の適用によってプレッシャーがかかるという事例はないのではないか。研究会報告書でもないとされており、実際にもし事例があるのであれば、具体的な事例を出していただき、それを解決していくべき。
  • ○ 労働者代表委員からも実態把握について進めてほしいというご要望があったところ、使用者代表委員としても実態把握をお願いしたい。具体的にどのような行為があり、それが会社の事業主にとっての権利の濫用、解雇権や人事権といった権利の濫用につながるものではないか、その範囲も含めて、正確な把握と分析が必要だと考える。
  • ○ メリット制の実態調査を行うことに異論はない。報復行為が事実としてあると判明した場合、労災保険制度の趣旨に沿った運用が行われるべき。ただし、それぞれの事案には個別の事情があり、仮に調査をした中で、報復行為が疑われるケースが出てきた場合であっても、ごく少数の事案が大局的な観点での懸念の裏づけに直接つながるかどうかというのは疑問があり、結果を見ながら慎重に検討する必要がある。また、報復行為があるという調査結果が出たとしても、それはメリット制の運用を行う上での課題であり、メリット制自体を否定するような議論にはならないと考える。

(2) 労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題に係る論点について

・ 労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実を、事業主に対して情報提供するとについて

<労働者代表委員の意見>
  • 負傷であると物理的な問題、けがの場合は見た目にも非常に分かるが、疾病についてはそういった問題が事前に分かるということでもなく、実際にどのような労働環境で働いていたかということを含めて非常に機微な問題。労働者に影響がないようにする必要がある。
  • 事業主として、なぜ労災支給決定などの情報がないと再発防止ができないのかが理解し難い。労災保険の支給不支給にかかわらず、事故の際は事業主として再発防止を講じることや検討することは当然である。
  • 使用者側委員からは、障害等級や傷病等級も情報提供をすべきという話があったが、被災労働者にとって機微な障害等級の情報がないと再発防止ができないということは全く理解できない。そもそも事業主としては、請求時の事業主証明や監督署の調査協力を通じて請求があることは把握しているはずであり、そうした情報をもとに社内で事故内容を調査し再発防止に努めるのが筋であり、情報提供は不要。
  • 災害防止について労使一体でという指摘があったが、労使一体という前提が崩れているケースもあり、情報提供することはいかがなものかと思う。事業主の協力が得られないケースについては、通知に値せず、効果もないものと考える。
  • 支給不支給の情報提供、メリット適用事業主への労災保険料の算定情報、いずれも被災労働者が被るデメリットを踏まえれば提供すべきでない。そもそも、労災の情報の有無にかかわらず、事業場の事故は事業主として原因分析、再発防止は当然の責務である。労災保険給付の情報がなければ、対策ができないというのであれば、その方が問題。
  • 研究会報告書の結論を重視すべきとの意見もあるが、あくまで研究会報告書であって、参考にはするが、本部会の議論を縛るものではない。労働側としては、限定的であっても情報提供する必要はないと考えている。その前提で、支給不支給の情報は全く知らせる必要はなく、特に支給決定金額や算定基礎減額理由などの提供は論外。使用者代表委員は再発防止に役立つというが、こうした情報があろうがなかろうが再発防止はすべき。また、労災保険給付の金額的な情報は、事業主が再発防止策を講じる上で何ら関係がない。
  • 労災保険給付の支給決定事実を事業主に情報提供すると、事業主はメリット制によって労災保険料が上がることを見据えて、将来の保険料が上がるのは労災認定されたせいだとして、被災労働者や遺族、さらには被災労働者に協力する資料提供者や証言者などに不当に圧力をかけることが懸念される。手続保障と引き換えにこうしたことが横行しては、労災申請の萎縮にもつながる。また、労災の支給決定情報の有無にかかわらず、事業場の事故について、原因分析を行い、再発防止をすることは、事業主として当然の責務である。労災保険給付の情報がなければ対策ができないことの方が問題である。
  • 不支給決定を通知することについては、再発防止という点で提供する必要があるのか理解し難い。例えば、脳・心臓疾患、精神障害については業務起因性の判断が難しいため、事業主が再発防止策を講じるためには情報提供が必要という意見がある。しかし、こうした疾病については、仮に労災認定されなかったとしても仕事上の負荷などが一定程度寄与している場合があり、この場合に、不支給の結果を明示的に伝えれば、事業主は「対策不要」と考えるだけであり、かえって災害抑止効果がなくなるなど逆効果が生じかねない。
  • たとえ提供すべき情報をどんなに限定したとしても、それを糸口に情報提供を受けた事業主からの不当なプレッシャーなどを受ける懸念というのは拭えない。また、再発防止という観点についても、事業主は請求時の事業主証明や監督署の調査協力などを通じて労災請求があること自体を把握しているはずで、その情報をもとに、社内で事故調査をして、再発防止に努めることができるし、むしろそれが筋であると考えている。
  • 被災労働者が亡くなった場合、鎮痛な思いをしている遺族にそうしたことを問わなければいけないということに対する事業主やその答える側の遺族の心情についての意見もあった。しかし、そういったことがあったとしても、遺族とその真摯に向き合って話し合いをするということは、労災事故が生じた際の事業主としての当然の責務である。
<使用者代表委員の意見>
  • 事業主への情報提供については、研究会中間報告書では、支給不支給の決定の事実を事業主に提供すること、労災保険率の決定の基礎になった情報を提供することが適当と結論付けられた。学識経験者の意見も一致しており、重く受け止めるべき。その上で、事業者の事業場内による災害の把握及び防止対策が重要であるところ、業務起因性のない災害まで事業主が効果的な対策を打つのは現実的ではなく、その意味で労災保険の支給不支給の結果とその判断に至った理由を提供いただきたい。とりわけ、脳・心臓疾患、精神障害については業務起因性の判断が難しく、監督署がどのように判断したのか、請求人同様にその理由を教えていただく機会を設けていただきたい。
  • 事業主への情報提供については、メリット制による保険料の還付の際に労働災害であったことを初めて知ったケースもあったことから、再発防止の観点と共に業務起因性があったということをお知らせいただきたい。通知をしないメリットはないと思っており、事業主から被災労働者等へプレッシャーがかけられるとの意見についても、それは労災請求を出すタイミングで発生するものであり、支給決定の段階でプレッシャーが生じることはないと認識している。
  • 事業主への情報提供について、事業主は死傷病報告の提出義務が課せられているところ、死傷病報告は就業中や事業場内、その付属建物内における休業や死亡を対象としていることから、報告対象は業務上の災害に限らないが、適切かつ有効な再発防止対策が現実的なのは業務上の災害である。会社として業務起因性がないと考える場合であっても、監督署が業務起因性ありと判断したことは非常に重みを持つものであり、他の類似の災害防止を効果的に行うにあたっても、業務起因性の有無や理由の確認は必要。
  • 労働災害の防止のため労使一体となることが不可欠であり、また、労災請求手続きへの協力や、再発防止への対応、保険給付で賄えない部分を補償する責任、及び労災保険料を全額負担していると言った事業主の果たす役割を踏まえると、請求人と同じ情報をもらえない方向で議論が進むのは違和感を覚える。労災の支給決定に係る全ての情報を事業主に情報提供することを出発点として、どうしても不都合がある項目について例外的に提供しないことが適切。その際、どのような理由で提供できないのか、個人情報保護法制の扱いを所与とはせず、労災保険給付の特性に照らした検討が必要。労災保険給付に関する情報も、個人情報保護法の例外規定を設けることで、災害防止に役立て、手続き保障の確保を図ることが可能ではないか。
  • 労側委員の労使一体という前提が崩れているケースを原則として議論することは違和感がある。しかるべき時期に情報提供を、事業主にいただきたい。精神障害など判断が難しい疾病についても、事業者側の対応の必要性を考えると、業務起因性の判断理由を情報提供いただきたい。
  • 使用者の災害補償責任を基礎とした労災保険制度であり、実際に請求されている内容について、情報提供いただければ次の災害防止に資すると考えている。
  • 労働者代表委員から、労災に非協力的な事業主の話があったが、これをなくすためにも、業務起因性について、お互いに認識することが必要。これがわからないと災害防止につながらない。労使共に、目指すところは同じと思っている。
  • 労働災害には業務起因性がないと考えられるものもある中、適切かつ有効な対策を取ることができるのは業務上の災害であり、業務起因性の有無、理由を確認することで、類似の災害を防止するにあたり、効果的な対策を講じることができる。労災保険給付の支給不支給の情報提供は不要との意見についても、災害防止は職場の皆の問題であり、安衛法に基づき労働者も事業者等への協力義務もあるところ、私生活や身体の脆弱性が一因となる場合、実効性のある対策は困難。また、労基法上、労働基準監督官の調査には真摯に協力する必要があり、虚偽陳述などには罰則もある。労災請求の心理的な負担についても、国の制度の下で給付を受けるためには、労働者のみの主張だけではなく、監督署の判断が必要であり、そのために事業主の証明、監督署の調査協力などを必要とする制度となっている。心理的な負担と情報提供がされることを区別して考えるべき。情報提供を制限して、手続き保障の余地を狭める、災害防止努力の範囲を狭めるのではなく、労災の適正な申請給付を促すためにどのようにすべきかが本質論ではないか。
  • 支給要件を満たしていることを監督署が判断するために、請求人の主張だけではなく、労災事故の一方の当事者である事業主に対しても、証明調査への協力を必要としている。また、事業主の意見申出の制度も設けられており、この事業主へ決定の結果も説明されるという通達も発出されている。事業主に保険給付決定の結果を一定程度説明しているということは、事業主への情報提供を行う妥当性を行政として認識していることの表れと認識。この通達では、事業主の意見申出制度の趣旨として、事業主は、労働安全衛生法等に基づき労働者の健康管理に責任を有する立場にあり、事業者が労災事故の一方の当時者でもあることを指摘。そのような立場の事業主の照会に応じ、請求人に対してと同様の情報を提供することはバランスの観点からも適切。個人情報保護法や情報提供を制限するという方法を前提・所与とすることなく、労災保険制度や事業主の立場や役割に照らし、必要な対応策を検討することが適当。また、国の制度である労災保険給付が適切になされることは、保険財政の規律や労働者間の公平性確保の観点からも大事。労働基準監督官の調査には、事業主、労働者ともに真摯に協力する必要があり、労基署の尋問に対しては、虚偽の陳述や供述拒否には罰則も設けられている。当該事業所等での類似の事故の再発を防ぐという観点からは、労働安全衛生法上、事業者が安全健康確保義務を負うとともに、労働者も必要事項の遵守や事業者等の措置への協力義務を負っている。私生活や事業者が予見可能でない身体の脆弱性が一因となる場合、実効性のある対策を講じることは困難。適切な安全対策が講じられていない場合、作業等の過程で、他の労働者にも予期せぬ危険が及ぶおそれもある。このようなことを労使一体で取り組んでいくことが重要である。労災であれば、請求をためらわずに行い、適正な補償を受けられるような環境を構築することこそが本質。プレッシャーがあるという指摘についても、情報提供の観点でのみ議論することなく、懸念の解消方法を含め、実態把握をし、どのような対応が必要かの議論を共に行っていきたい。
  • 行政手続の電子化は我が国が目指すデジタル社会の基盤となる取組だと認識しており、労働保険の年度更新手続を電子化している事業主を対象に情報提供を行うということは理解できる。厚労省においては、より多くの事業主が情報提供を受けられるよう、電子申請の利便性向上や普及促進に努めていただきたい。
  • 情報提供を求める理由として、労使一体で災害防止対策に取り組む観点を重ねて使用者側から訴え、議論してきた。業務起因性のない災害にまで適切かつ有効な災害防止対策を講じることは困難。労災保険の支給決定は、労働基準監督署が客観的な立場から業務起因性を肯定したものであり、その情報を提供することで、事業主が類似災害の早期の再発防止に向け実効性のある取組を行うことが期待できる。このことが早期の情報提供を求める最大の理由である。
  • 労災保険給付が適正に行われることについて、保険料を全額負担する立場にある事業主が制度運用の適正さを求めることは当然であるところ、保険財政の規律の維持、支給の公平性という観点は労働者にとっても意味がある。制度運用に係る適正さの確保に寄与する手続が確保されてこそ法治国家と言えるものであり、その機能を発揮するために、仮に支給要件に該当しないと思われる保険給付があった場合には、支給を受けた被災労働者の法的地位の安定性を確保しつつ、不利益を被る事業主が保険料の認定決定の不服申立や取消訴訟において、その旨を主張立証できる仕組みとしておく必要があり、このためにも、事業主にも情報提供がなされるべき。
  • ○ 下請事業者に対しては元方事業者から情報を提供するということと理解をしたが、この論点整理に従えば、労災保険給付の支給決定内容という、これまで扱うことのなかった情報を事業者間で共有して取り扱うということになる。こうした情報のやり取りを有効かつ円滑に、また、適切に行うことができるように、必要な環境の整備をお願いしたい。
  • ○ 元方事業者は、安衛法で混在作業場における統括的な労働災害防止措置の義務を負っているとされているが、個別労働者に対して、より直接的に災害防止の義務を負うのは各事業者と理解をしている。今回、この災害防止措置を講ずるべき事業主のみに情報提供を行うという論点整理になっているが、現場の安全管理においては、元方事業者、直接雇用する事業者の両者の連携協力関係が不可欠であるということに関して十分留意をした上で、具体的な措置が図られるようお願いしたい。
  • ○ 情報提供や労災請求というプロセスにも労働者側に心理的な負担があることは、使用者と労働者の関係性や立場の違いから十分理解できる。労災が起きた場合に会社が対応してくれるのか不安に思うこともあると思うが、このような中でも安全対策の実効性の向上、制度運用の適正性の確保という目的は労使共通であると思う。情報提供のあり方について必要な検討を行う上では実態調査も踏まえ、適正な労災申請がしやすい環境を整備するにはどのような政策が適切かという観点に立つことが重要。使用者としても労災とその原因・対策に真摯に向き合うべきと思っており、労使が同じ方向を向き、公益代表委員の知見を得ながら、当部会で議論していきたい。

・ 提供される情報を被災労働者等への通知項目のうち支給決定金額、算定基礎、減額理由等を除いた項目(支給(不支給)決定の有無、処分決定年月日、処分者名、処分名(=給付種別))及び被災労働者名とすることについて

<労働者代表委員の意見>
  • 使用者代表委員から、幾度となく再発防止を講じるためにも、請求人と同じタイミングで同じ情報を提供してほしいという意見が述べられているが、労災支給決定情報の有無にかかわらず、事業所で何らかの事故が起こった際に再発防止を講じるということは、事業主として当然の責務である。
  • 使用者側委員から、労災認定の理由について監督署に照会した場合には、可能な範囲で開示いただきたいというような意見についても、到底認められない。認めてしまうと、労災申請に非協力的な事業主などが労災支給決定に至ったのかというところを根掘り葉掘り聞き出し、その情報をもとに、被災労働者、証言者への不当な圧力などをかけるということが容易に想像できる。
<使用者代表委員の意見>
  • 事業主としての安全対策はもちろんのこと、被災者や遺族への災害補償責任を負っていることからすると、保険給付額の情報がないとこれを適切に行うことはできない。平均賃金など保険給付請求の情報から推算は可能かもしれないが、正確な保険給付の情報がないと、個別企業における災害補償責任の事務履行が適切になされない。事業主に提供することの不都合が、その不利益を超えることにならない。
  • 労災の防止は労使が一体となって取り組む課題。特に、メンタル系疾患や喫煙が原因になり得る疾患は、事業主にどのような問題があって認定されたのかを明らかにしていただくことが再発防止には不可欠。被災労働者にとって知られたくない情報はあるかもしれないが、認定に至った理由を事業主が知らないと的外れな対策を取ってしまうかも知れず、危険が潜在するような作業を継続させることにもなってしまう。
  • 情報提供の範囲について、研究会の中間報告では、特に限定されてはいないという認識であり、当部会でも個別の項目に関する十分な議論がなされたとは認識していない。
    また、個人情報や機微情報として保護すべきなのかという点も、特に細かい議論はされていない認識であり、事業主の手続保障に着目しない形で情報提供の範囲を絞るという提案が出ており違和感がある。中間報告を踏まえ、事業主に提供される情報の内容は、早期の災害防止に取り組む上で必要であるということ、労災保険の保険料負担が労働基準法の災害補償責任を基礎としていること、労働保険料の認定決定処分の取消訴訟等における手続保障を確保することの3点を議論して、情報提供項目を検討するべき。提案されている情報提供内容では不十分であり、早期に実態を把握した上で、情報提供を原則とする方向での検討が行われること、さらに中間報告をきちんと踏まえた上で項目の検討がされることを希望する。
  • 支給決定で教えたくない事実が労働者側にあるかもしれないが、プレッシャーがかけられることをなくすことに注力すべきであり、そのために保険給付等の決定内容を教えないという議論をすべきではない。隠しながら事故が減ることは確実になく、互いに事実を共有しながら労災をなくしていくべき。目指すところは同じなのに、隠すことが正義とされることは納得できない。是非、同じ内容を共有して、業務起因性があったのか、どこが悪かったのか、お互い気をつけることは何なのかということを目指していければと考える。
<公益代表委員の意見>
  • 療養給付は被災労働者への通知はないが、事業主には通知するのであれば、被災労働者にも通知すべきではないか。また、災害補償責任が労基法第8章にあり、労災保険法に基づく給付がなされれば、使用者は補償の責を免れる。労基法の解雇制限もある。労働者の疾病等が業務災害か否かは、使用者が労基法の義務を果たすために必要な情報であり、これまで事業主に情報提供が一切されなかったことについて疑問に思う。事業主に対して情報提供がなされれば大きな前進だが、論点に記載の情報提供項目は災害防止努力の観点、すなわち労災保険法の観点から出されたものと思われ、労基法の使用者責任、保険料負担者としての使用者という観点からすると、事業主に更に情報提供することは当然。

・ メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供することについて

<労働者代表委員の意見>
  • メリット適用事業主への給付総額の情報提供もするべきではない。特に被災労働者個人別の情報提供、障害等級などの情報提供は論外。個人の特定につながる情報提供がされると、自身の給付が経済的不利益に結びついたことが可視化され、情報提供を受けた事業主からの不利益取扱いや証言の協力の委縮を招きかねない。労働者側としては、全ての情報について、事業主への提供は不要と考えている。その上で、現在の論点立てでは、情報提供を受けた事業主による報復行為防止の措置、問題が生じた場合のサンクションが示されておらず、検討を行う前提にさえ立っていないと考えている。
<使用者代表委員の意見>
  • あんしん財団最高裁判決の解釈について労使で見解が分かれているところ、労働保険料の認定決定処分の中で労災保険の支給不支給処分を争うには、個別の労災保険給付に関する具体的な情報が必要。情報がないと、不服申し立て等の必要性の判断が困難となることから、あらかじめ情報提供いただくことが必要と考える。
  • 平均賃金として証明した事実が違っている場合についても、事業主には訂正後の金額も提供されないとなると、事業主が個別支給額を算定することは困難。メリット制の適用に個別事案がどの程度寄与するか正確に把握することはできない。算定基礎に含めるべきでない給付を事業主が判断・立証することは困難であり、給付総額だけでは実質的な手続保障は確保されない状況があり、そのような状況は早期に解消されるべき。
<公益代表委員の意見>
  • 私見としては、最高裁判決の趣旨に即して事業主の手続的保障が図られていると言えるためには、事業主に対してメリット制の増額の原因となった保険給付を特定できる程度の情報提供が必要。研究会においても、病歴等の機微情報について慎重論はありつつ、手続的保障の観点から情報提供が必要であるとされた。論点に示された「納得度を高める」は情報提供の趣旨目的を完全に変更するものであり、情報提供の正当化には不十分。

・ 提供される情報は、当該事業場のメリット制に反映された保険給付に係る当該メリット算入期間における保険給付、特別支給金及び特別遺族給付金の合計金額とすることについて

<労働者代表委員の意見>
  • 労働側としては、限定的であっても情報提供する必要はないと考えている。その前提で、支給不支給の情報は全く知らせる必要はなく、特に支給決定金額や算定基礎減額理由などの提供は論外。使用者代表委員は再発防止に役立つというが、こうした情報があろうがなかろうが再発防止はすべき。また、労災保険給付の金額的な情報は、事業主が再発防止策を講じる上で何ら関係がない。
<使用者代表委員の意見>
  • 経営法曹会議の弁護士によれば、対象者毎、項目毎の支給金額や支給決定の理由が開示されなければ実質的な手続き保障にならないとの指摘がされている。個々の保険給付額が保険料増額にどれほど寄与しているのか参考にはなるという事務局の発言もあるが、これらが具体的に把握できないと、保険料増額に含めるべき保険給付について立証が困難である。また、業務起因性の判断理由もお示しいただかなければ、労働保険料の認定決定処分の不服申し立て等において、事業主が請求理由を具体的に主張することも困難。疑わしい場合は全ての事案について不服審査や取消訴訟を提起することとなれば、行政、裁判所にとっても非効率。個々の支給金額を含め、請求人と同じ情報を提供いただくとともに、労災認定理由について、監督署に照会した場合は可能な範囲で開示いただきたい。
<公益代表委員の意見>
  • 保険給付の総額の情報提供では、保険料認定処分の基礎となった労災保険給付を特定できるのか疑問。支給不支給の情報提供によって、3年前の支給決定が保険料増額の根拠になっていることが分かり、保険料認定決定処分の不服審査の中でも主張できるという考えかもしれないが、メリット制に対する事業主の知識や理解度に依拠することが適切であるか疑問。

・ 実態把握の結果に基づき、事業主に対する支給決定に関する情報の提供の在り方について、必要な検討を行うことについていて

<労働者代表委員の意見>
  • 実態把握自体は否定しない。実態把握の結果として、問題が生じているということが明らかになることもあるかと考えられるところ、そのような場合には、事業主への情報提供をしないことも視野に入れた検討とするべき。
  • 労使双方の意見が割れているため、実態把握をきちんと行うということがこの議論の中では必要。その結果に基づきながら、どういうあり方が必要なのか議論をすることについて否定しないし、この間の議論からすれば検討が必要。

安全センター情報2026年3月号