特集②/心理社会的リスクに関する政策・法令-欧州6か国における心理社会的リスクに関する政策及び法令【2025.5.28 欧州労働安全衛生機関】

安全センター情報は意識的に、労働関連心理社会的ハザーズ及びリスクに関する国際的な情報を紹介してきた。
南オーストラリア大学は、国際労働機関(ILO)及び他の世界の大学と連携して「グローバル・インサイト:国家政策インデックス(NPI)を通じた労働関連心理社会的ハザード及びリスクに関する国家政策のマッピング」と銘打った「2025年グローバル政策レビュー」を実施している。2025年11月中頃まで、各国の政策立案者、監督官、労働衛生や労働法分野の専門家、労働組合代表者、及び使用者代表者等からアンケート調査への回答を求め、結果は2026年4月に発表される予定のILOの世界報告の一部になると言う。以下は、「参加者情報シート」からの引用である。
「国の労働安全衛生(OHS)政策(例えば法令)は、労働者の健康保護の基盤であり、労働人口の健康と安全に不可欠である。研究者らは、国家政策インデックス(NPI)を通じて、世界各国の労働関連心理社会的リスクに関する国家政策の全体像を包括的に把握[マップ]するための第3段階のデータ収集に着手している。
本プロジェクトは、心理社会的安全気候グローバル観測所(PSC-GO)の研究員であるレイチェル・ポッター博士と、PSC-GO所長でありオーストラリア研究評議会名誉フェローのモーリーン・ドラード教授が主導している。PSC-GOは、画期的な、学際的、国際研究を実施する革新的な研究プラットフォームであり、世界クラスの専門家を結集して厳密な研究を行い、世界中の職場政策立案に好影響を与える可能性を秘めている。本プロジェクトはまた、スタヴルーラ・レカ教授(英国ランカスター大学健康医学部組織健康・ウェルビーイング研究センター)、アディティア・ジェイン教授(英国ノッティンガム大学ビジネススクール労働・雇用・組織研究グループ)、ロイク・ルルージュ教授(フランス国立科学研究センター[CNRS]研究ディレクター、労働衛生比較研究[CIESCT]国際研究座長)が支援している。
本プロジェクトは国際労働機関(ILO)の承認を受けている。また、ドイツ連邦労働安全衛生研究所(BAuA)、オランダ応用科学研究機構(TNO)、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の代表を含む国際諮問委員会による支援も受けている。
これまでの研究で築かれた基盤を踏まえ、本研究は、国家政策における進展、進捗、または転換を追跡することを目的としている。本調査では、何らかの課題、推進要因及び文脈的洞察を含めた、政策の実施に焦点を当てた追加質問項目を設定している。第1次データ収集段階からはすでに研究報告と学術論文が作成されており、これらは世界各国の国家政策に直接的な好影響をもたらしている。
本研究の目的は、先行研究を踏まえ、労働関連心理社会的ハザーズ及びリスクに関連した各の政策枠組みに関する国際的な概観に貢献することである。これらは、労働者の健康、安全、及び福祉に悪影響を及ぼす可能性のある、労働の組織化、設計、管理及び労働における対人関係の諸側面を指す。この目的を達成するために、各国から少なくとも3名の専門的評価者に、自国の法的拘束力のある(すなわち法律及び規則)並びに法的拘束力のない(すなわち自主的)政策アプローチに関する簡易評価ツール及び一連の他の文脈的質問への回答を依頼している。可能な限り多くの国の参加を呼びかけている。過去の研究では40~45か国が対象となっている。」
https://unisasurveys.qualtrics.com/CP/File.php?F=F_3IQAL3KDKbI5rRc
結果の公表が待たれるが、今号では、2025年5月28日に欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)が公表した報告書「欧州6か国における心理社会的リスクに関する政策及び法令」の主な内容を紹介する。

はじめに

研究の範囲及び目的

本研究は、EU加盟国が職場における心理社会的リスク(PSRs)の予防及び管理にどのように取り組んでいるかを分析する。具体的には、ベルギー、デンマーク、エストニア、スペイン、クロアチア、オーストリアの6カ国における法的及び非法的措置を含め各々のアプローチを調査した。
方法
本研究では、プロジェクトの対象国ごとに、国レベルでの机上調査及び国の関係者とのインタビューを実施した。机上調査では、社会パートナーその他による支援活動を含め、国レベルの法令または戦略アプローチ、支援措置及び執行措置を調査した。2024年7月から10月にかけて、研究対象の加盟国における国の関係者との半構造化インタビューが合計40件実施された。各加盟国では、政府代表者、労働監督機関、使用者団体と労働組合両方をカバーする社会パートナー、及び必要に応じて労働安全衛生(OSH)専門家や研究者とのインタビューが行われた。目的は、どの措置が変化を引き起こすのに成功したか評価することであり、変化につながるのに成功した具体的要素も評価され、また、職場においてPSRに対処するうえでの最大の国の課題を把握することだった。机上調査とインタビューは、国別報告書の作成に貢献し、また、フォローアップアプローチで開発されるべきケーススタディの提案の選択に情報を提供した。

職場におけるPSRの傾向及びガバナンス

この章では、前述した6か国にまたがって職場におけるPSRの規模、進化及びガバナンスに関する主要なデータを検討する。このアプローチでは、COVID-19パンデミックやデジタル化などの重要なグローバルな出来事や動向が職場におけるPSRに与える影響も考慮する。

職場におけるPSRと欧州におけるその影響

欧州労働力調査(EU LFS)特別モジュール(2020年)の結果によると、「ストレス、抑うつまたは不安」は、職場に関連した健康問題のもっとも一般的な種類の2番目で、職場でメンタルウエルビーイングに対するリスク要因に直面していると報告した労働者の割合は45%近くであった。
本研究で分析された様々な加盟国のデータも、メンタルヘルスに関連した労働関連要因の重要な影響を示している。2021年欧州労働条件調査のデータに基づいたベルギーの全国データ分析では、職場いじめやハラスメントなどの労働に関連した問題の悪化が明らかになり、それらの問題は2015年から2021年の間に2倍以上に増加した。さらに、健康に対する労働の否定的影響を報告する労働者の数も増加したが、同じ程度ではなかった。デンマークでは、国家保健プロファイル報告書が、2013年から2021年にかけて、ストレス、不安、睡眠障害や抑うつなどの自己申告によるメンタルヘルス問題を抱える労働者の割合が増加している。例えば、抑うつ症状は2013年の25.5%から2021年の33.8%に、不安は2013年の21.2%から2021年の28.8%に増加している。
スペインでは、2019年の病気休暇の30%が労働関連ストレスに関連しており、2023年にスペイン国立労働安全衛生研究所(INSST)が発表した報告書では、労働力調査(LFS)の特別モジュール調査の結果が示され、回答者の32%がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすものとして、時間的圧力または過重な業務量に曝露していると報告している。クロアチアでは、COVID-19パンデミックに関連してPSRが報告され、労働または家庭における、伝染病への恐怖、隔離、差別、デジタル化、テレワーク、及び暴力が挙げられている。
2020年のマイクロセンサス労働力調査モジュールによると、22,500世帯を対象とした調査結果において、オーストリアの労働力(被雇用者及び自営業者)の59.2%が職場で少なくともひとつのPSR要因に直面している。2024年3月の特別指数評価では、オーストリアの労働者の59%(自営業者は含まれていない)が、時間圧力、過重な業務量、高い集中力を要する労働及び仕事と生活のバランス不全というリスク要因の組み合わせによりストレスを経験していることが示されている。また、すべての欧州の国を対象としたOSH-pulse調査の結果によると、2020年前から職場におけるPSRの対処は重要であったが、パンデミックにより、この問題はより緊急性を帯びるようになった。

変化の促進要因

COVID-19パンデミック

COVID-19パンデミックは、PSRを著しく悪化させ、既存の課題を深刻化させるとともに、メンタルヘルス問題を職場における議論の最前線に持ち出した。様々な部門の労働者が、危機期間中にストレスの増加、雇用不安、ストレスフルな個人的経験に直面した。フロントライン労働者とリモートワーク環境下の労働者の双方が、独自の困難に直面し、PSR管理の複雑さをさらに増大させた。
2022年OSH Pulse調査によれば、EU全体の労働者の44%がパンデミックによる仕事に関連したストレスの増加を報告したが、この数字は加盟国によって異なった。スペイン(50%)とオーストリア(47%)では平均を上回る増加が報告された一方、エストニア(26%)とデンマーク(31%)では低い水準が報告された。さらに、オーストリアでは職場のメンタルヘルスに対するパンデミックの影響が、メンタルヘルス問題による欠勤の増加に反映され、2019年の8.9%から増加して-2023年の全病気欠勤日数の10.3%を占めた。
パンデミックは、とりわけ医療及びエッセンシャルサービスへの圧力を深刻化させ、フロントライン労働者は、長時間勤務、過重な業務量、感染リスクの急増など、多様なリスクに直面した。スペインでは、危機のピーク時に、医療専門家の57%が外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を示し、深刻な心理的負担を浮き彫りにした。
同様に、一般労働者からのデータも、パンデミックの影響の重要性を示している。OSH Pulseのデータは、スペインでインタビューを受けた労働者の50%が、パンデミックにより労働ストレスが増加したと報告した。クロアチアでは、2022年5月に実施された調査で、200人を超える医療労働者のうち64%が、組織的及び財政的な問題によるストレスを報告し、50%を超える者が、感情の調節が困難な状況下での公衆の批判によるストレスを経験したと報告した。
この後、パンデミックはメンタルヘルス問題を一層深刻化させただけでなく、より高い意識及び政策対応を促した。それは警鐘となり、政府、社会パートナーと使用者が、職場におけるPSR予防とメンタルヘルスを優先課題として取り組むよう迫った。例えば、OSH Pulse調査では、回答者の55%がパンデミックにより労働におけるストレスやメンタルヘルスについて話しやすくなったと回答したが、この割合はやはり国によって大きく異った。スペインでは64%が平均を上回るオープンさを報告した一方、デンマーク(40%)とオーストリア(45%)はEU平均を下回った。
政策レベルでは、スペインでは、パンデミックを契機に、10年以上の停滞を経て「国家メンタルヘルス戦略(2021年)」が再活性化され、同時に「メンタルヘルス行動計画(2022~2024年)」が導入された。この計画では、職場支援を含め、メンタルヘルスサービスの向上に10億ユーロが割り当てられた。スペインはまた、今後の危機においてPSRに対処するために、電話による心理的支援や医療施設向けにあつらえられたガイドラインを含む、対象を絞った介入措置を導入した。
一方、クロアチアは、リモートワークの性質の変化とそのメンタルヘルスに対する影響を認めるよう、労働法を改正した。オーストリアの国家報告書は、関係者の間でメンタルヘルスへの注目が高まっていることを指摘し、PSR報告の上昇や使用者向けの包括的なガイドラインの提供を具体例として挙げている。さらに、オーストリアの労働監督官は、PSR評価にCOVID-19の影響が含まれているかどうかの監視を開始して、職場がパンデミックに関連した課題に包括的に対処するよう確保した。国家労働安全衛生戦略はまた、オーストリア労災補償局(AUVA)のプロジェクト「パンデミック-COVID-19からの教訓」を2023年に発足させ、危機から実践可能な教訓を引き出すことを目的としている。
ベルギーでは、ベルギーの国家報告書で強調されているように、関係者がパンデミックの影響について異なる見解を示した。一部の関係者は、同国がすでにメンタルヘルスとPSRに対処する強力な措置の枠組みを有していたため、政策または立法への影響は限定的だったと指摘した。パンデミックがメンタルヘルスに関する広範な認識を高め、より包括的なアプローチへの勢いを後押ししたと強調する者もいた。主要なイニシアティブのひとつは、「職場におけるメンタルウェルビーイングに関する連邦行動計画(MWOHW/BEMAT)」(2022年)であり、パンデミック中にPSRの可視化が高まった点に直接言及した。関係者によれば、この計画は、メンタルヘルスを職場の安全政策により強固に組み込んで、政府のリソースを効果的に調整した。
全体として、COVID-19パンデミックはPSRを著しく高め、欧州全体で職場のストレス及びメンタルヘルス課題を増大させた。すべての部門の労働者が、増加する要求、不確実性とストレインに直面し、医療専門家だけでなく他のフロントライン労働者もとくに影響を受けた。影響は国によって異ったものの、パンデミックはメンタルヘルス支援と職場PSR管理のギャップを普遍的に浮き彫りにした。その結果、これらの危機がまた、意識の高まりと行動を促し、政府と社会パートナーがPSR予防とメンタルヘルスを優先課題として位置づけるよう推進した。複数の国で、これらの問題に対処するために、戦略の見直しまたは導入が行われ、より開かれた環境の構築と、メンタルヘルスを職場政策に組み込む取り組みが進められた。

デジタル化

COVID-19パンデミックは、リモートワークへの移行を加速させ、危機以前から既に勢いを増していた-欧州のデジタルデバイス及びプラットフォームへの依存度をさらに深めた。デジタル化は、危険なまたは反復作業の自動化により職業上のリスクを軽減するなどの機会を提供するものの、重大な課題も生み出しています。これには、労働と生活の境界の曖昧化、孤立感、雇用不安、デジタルハラスメントへの曝露増加などが含まれる。デジタル化の二重の影響は、欧州全体で立法措置や政策対応を促している。多くの国が、つながらない権利、テレワーク規制やメンタルヘルス・イニシアティブなど、その負の影響を軽減するための措置を導入している。
オーストリアでは、労働者の40%が、デジタル化による職場の調査及び監視の強化に関する懸念を報告した。さらに、デジタル化は、とりわけ技術の変化に圧倒されやすい高齢労働者を中心に、雇用不安に関する懸念を高めている。これは多くの国で共通するテーマを浮き彫りにしている。デジタル化は効率性を高め得る一方で、例えば雇用安定性や技術的進歩への適応能力に関連した、ストレスや不安を引き起こす可能性がある。オーストリアの政策立案者は、デジタル化に関連したPSRの評価の義務づけなど、デジタル化に伴う心理的影響に対処する戦略の実施を使用者に促すことによって、対処してきた。
同様に、ベルギーは、とりわけリモートワーク環境における、デジタル化に関連したPSRの管理を目的とした法的規定を導入した。これには、ともにデジタル化と労働と生活のバランスに関連した課題に対処するために設計された、テレワークに関する特別の法律と、つながらない権利に関する別途の規定が含まれる。ベルギーの使用者は現在、デジタル接続の断絶に関する明確なポリシーを策定し、デジタルワーク環境におけるメンタルヘルスへの重点を強化して、リモートワーク環境における対処応することを求められている。テレワークにおけるPSRの管理において使用者と労働者を支援するために、「Let’s Go for It Together!」キャンペーン(2021年)が導入された。これらの措置は、常時接続によって引き起こされるストレインを軽減し、労働者がデジタル化の心理的影響を管理するために必要な支援を受けることを確保するよう設計されている。
クロアチアは、リモートワークに関する新たな規定を導入する労働法改正(2023年)によって、デジタル化によってもたらされる課題に対処する立法措置を講じてきた。しかし、同国のインタビューを受けた関係者は、それらの規定は一定の進展を示すものの、ワークライフバランス、雇用不安や常時接続のメンタルヘルスへの影響など、デジタル化に関連したより広範な心理社会的課題を完全に解決するものではないと指摘している。
デンマークでは、労働環境庁(WEA)が2020年11月にガイドラインを改訂して、デジタル形態の暴力及び不適切な行為に対応した。新たな暴力及び脅迫に関するガイドラインは、職場が現在積極的に防止しなければならない、SMS、Eメール、ソーシャルメディアその他のオンラインコミュニケーションチャネルなど、デジタル手段を通じて行われる心理的暴力を具体的に強調している。同様に、不適切な行為に関するガイドラインは、デジタルチャネルを独自のリスク領域として認識し、適切な予防措置を講じる必要性を強調している。さらに、WEAのデジタルハラスメントに関するキャンペーンセクションは、ファクトシート、法的定義、ガイドラインや部門別の事例を含め、職場がそれらのリスクを理解及び管理するのを援助するリソースを提供している。主なイニシアティブには、BFA Publicの「デジタルハラスメントの防止」、BFA Financeの「デジタルハラスメントの予防と対応」、Digital Responsibilityが提供する「マネージャーのための12のヒント」のような実践的なツールが含まれる。
スペインでは、デジタルワークへの移行が、労働者が在宅勤務を行う場合も含めた、PSRを管理する使用者の責任を含め、リモートワークを実施することのできる条件を明確化した、2021年法律第10号「リモートワーク法」の導入を促した。この法律には、ハイパーコネクティビティの負の影響から労働者を保護し、ワークライフバランスを確保するために設計された、つながらない権利に関する規定も含まれている。
要約すると、デジタル化は、効率を改善し、職業リスクを軽減する機会を提供する一方で、労働と生活の境界の曖昧化、雇用不安、デジタルハラスメントなど、新たなPSRも導入する。分析対象とした諸国は、つながらない権利、テレワーク規制や対象を絞ったメンタルヘルスイニシアティブなど、立法及び政策措置を講じている。それらの努力は進展を示しているものの、技術的変化の急速な進展は、デジタル化が労働者のウエルビーイングにポジティブに貢献し、新たなリスクを効果的に軽減するたことを確保する、適用可能なアプローチの必要性を浮き彫りにしている。

EUの政策・立法の影響

EUの政策及び立法は、6つの加盟国すべてにおいて、PSRに対する国のアプローチを形作る重要な促進要因のひとつとなっている。労働安全衛生に関する枠組み指令(指令89/391/EEC)は、明示的にPSRに対処してはいないものの、すべての加盟国が採用及び実施する基盤となる構造を確立しており、それゆえ、PSRを含め、職場安全衛生基準のベースラインを設定している。分析対象としたすべての国が、この指令を組み込み、自国の特別の状況に応じて、PSRに対処するために国の法令をさらにあつらえている。例えば、オーストリアの労働安全衛生法とデンマークの労働環境法は、いかに各国が、EUの枠組みに従った広範な安全衛生法のアプローチをもちつつ、PSRに関する更新を含めることができるかを示している。
インタビューを受けたクロアチアの関係者は、2013年のクロアチアのEU加盟が労働者保護の転換点となり、国内法がEU指令と整合し、使用者にあらゆる種類の職場リスクを管理する責任を課すようになったと強調した。
特定のPSR及びメンタルヘルスに関連したさらなる側面は、メンタル疲労に言及した画面表示装置に関する指令(90/270/EEC)や妊娠中の労働者に関する指令(92/85/EEC)など、多様な関連指令、その他にも含まれている。さらに、他の指令も関連する措置を含んでいる。例えば、労働時間の組織に関する指令(93/104/EC)は、メンタルヘルスに重大な影響を与える可能性のあるワークライフバランスや労働時間に関する側面に対処することによって、貢献している。分析対象となった加盟国がその法令においてPSRにどのように対処しているかに関する詳細は、セクション「PSRに関する国の法令」で示されている。
欧州委員会は、PSRに長年重点を置いており、職場におけるメンタルヘルスに関連した枠組み指令の実施の解釈文書 (2014年)や、「労働における心理社会的リスクの法令及び実践的管理に関するピアレビュー」(2019年、これを受けて2024年に別のピアレビューが実施された)など、メンタルヘルスとPSRに関する政策及び実践を洞察した詳細な分析のような、枠組み指令(89/391/EEC)の解釈を明確化する文書を提供してきた。より広範な戦略的レベルでは、フォン・デア・ライエン大統領により2023年に発表された欧州委員会の「メンタルヘルスに関する包括的アプローチ」が発表されている。このアプローチは、予防を重視した焦点を持ち、職場における安全衛生を6つの政策分野のひとつとして取り上げている。
2021年に欧州委員会は「労働安全衛生に関する戦略的枠組み(2021~2027年)」を発表し、変化の予測及び管理の分野における焦点のひとつとしてPSRを強調するとともに、労働関連疾患・災害故の予防を改善する分野における暴力やハラスメントなどの具体的なPSRにも言及している。本研究のインタビュー及び文献調査の結果は、クロアチアやオーストリアなど一部の加盟国における、戦略的枠組みの影響を示唆しており、これらの国は、2021~2027年欧州戦略的枠組みの優先事項に国家戦略を整合させたことが報告されている。ベルギーでは相互の影響が報告されており、スペインでも同様の動向が推測され、両国はそれぞれ2023年(スペイン)と2024年(ベルギー)の欧州連合議長国期間中に、このテーマに関する活動を重点的に推進している。
欧州部門別社会対話(SSD)協定は、使用者と労働者の間の協力を促進することを目的としており、文献では、これらの協定が各国政府がPSRに対処する方法に影響を与えたと報告されている。とくに、PSRの予防に関して言及すべき3つの協定がある。労働関連ストレスに関する協定(2004年)、職場いじめ・暴力に関する協定(2007年)、及び最近のデジタル化に関する協定(2020年)である。最後のものは、人工知能システムに関連したワークライフバランス、孤立、心理的安全性など、PSRに関連した複数の側面を扱っている。最初の2004年と2007年の2つの協定の国レベルにおける実施に関する先行研究は、直接的な影響において混合した結果を示している。デンマークでは、2004年協定の主要な側面は署名前にすでに実施されていたとされる。しかし、公共部門における変化において一定の影響が認められた。オーストリアでは、社会パートナーが協定に関する共同ガイドラインを公表した。しかし、より最近の影響の評価は欠如しており、本研究のインタビュー対象者は、過去10年間における協定の影響に関する追加の言及は行っていない。
最後に、EUレベルのより広範な活動、例えば上級労働監督官委員会(SLIC)のPSRに関する監督キャンペーンが、PSRの対処方法に国レベルで影響を与えたと報告されている。例えば、2013年のオーストリアの立法変更は、SLICのキャンペーンがきっかけとなり、監督のための実践的ガイドラインが策定されたと報告されている。同様に、スペインでは、SLICのキャンペーンにより、2012年にINSSTとの協力のもと、国の労働監督局による最初のPSRに関する行動指針が策定された。
EUの取り組みは、加盟国全体に反映されているものの、評価結果によると、PSR関連イニシアティブの採用及び成功は加盟国間で異なり、その実施及び効果に影響を及ぼしている。全体として、EUの政策及び法令が国のPSR戦略に与える影響は、分析対象の加盟国間でまちまちである。EU指令、例えば枠組み指令89/391/EECは、加盟国が労働安全衛生法に組み込む基礎的な枠組みを明確に定めている。労働時間や画面表示装置に関する追加的指令は、メンタルヘルス保護をさらに強化している。EUレベルでの社会対話に関する協定は、PSRを管理するための一貫した指針を提供している。実施状況にはばらつきがあるものの、EUのアプローチは、PSRへの対処と職場メンタルヘルスの促進において、一貫した進展を促してきた。

PSRに対する国のアプローチ

本章では、OSH法令、戦略、ソフトロー及び社会パートナーの活動の枠組みにおける、PSRの認識、予防及び管理に対する国のアプローチの概要を説明し、政策実施を支援するための措置についても取り上げる。

PSRに関する国の法令

欧州の各国は、ますますOSH法令にPSRを組み込むようになっているが、加盟国間のアプローチは依然として多様である。本報告書で検討対象となっている加盟国は、法令においてPSRに対処及びそれらを予防するうえで非常に多様なアプローチを採用している。
オーストリアの労働安全衛生法(ASchG)は1994年に制定され、OSHの法的基盤を確立している。当初は一般的な安全措置に焦点を当てていたが、2013年に施行された改正は、使用者がPSRを評価及び管理することを明示的に義務づけ、身体的安全に加えてメンタルヘルスへの影響を強調している。現在、同法は、物理的要因と心理社会的要因の双方を対象とした包括的なリスクアセスメントを義務づけている。最近の法令改正、例えば2021年の在宅勤務法とその後続のテレワーク規制は、リモートワーク環境におけるOSH保護を拡大し、設備の提供と災害防止に焦点を当てつつ、労働安全衛生法がテレワークにも適用されることを明確にしている。
ベルギーでは、OSHに関する法的枠組みは、職場におけるPSRの予防及び軽減のための包括的な措置を義務づけている。使用者は、職務内容、労働条件及び人間関係をカバーした多様なPSRを対象とした評価及び介入を含む予防計画を策定することが義務づけられている。ベルギーのアプローチの基盤は、1996年8月4日の法律であり、とくに2014年までに大幅な改正が実施された。2014年の法改正では、ストレスとバーンアウトに対処するための詳細な規定が追加されるとともに、PSRの包括的な定義が導入された。これらの改正は、社会パートナーの意見を踏まえて形成され、PSRを認められた職業ハザーズとして位置づけた。法令は、PSRの管理に具体的に言及し、使用者に対して、上述のリスク要因の徹底的な評価を実施し、それらのリスクを軽減するための予防措置を実施することを義務づけている。
さらに、ベルギーの2018年3月26日法律は、「切断する権利」に関する規定を導入し、使用者主に対して、労働時間外のデジタルコミュニケーションツールの使用に関して協議を実施し、協定を結ぶことを義務づけている。これらの協議は、労働者の休息時間、年次休暇及び全体的なワークライフバランスを保護することを目的とし、リモートワークの境界の曖昧化に伴う潜在的なPSRを軽減するものである。
クロアチアでは、PSRは労働安全衛生法(2014年)に統合されており、職場ストレスは重大なリスクとして認められている。クロアチアの法令は、使用者に対して、適切な組織、良好な労働条件及び建設的な人間関係を通じてPSRを予防及び管理することを義務づけている。リスクアセスメントの作成に関する省令(2014年発令、2019年改正)は「心理生理的ストレイン」に言及し、認められたリスクの広範なリストを定めている。2021年の新たな命令は、これをさらに拡大して、PSRを9つのグループに分類し、合計27の異なるリスクをカバーしている。これには、労働負荷、職場関係、労働の組織的側面、職業的不安定性-職業開発の機会、キャリアアップの可能性、雇用契約の種類(例えば有期雇用)のような要因を含む-及び給与条件に関連した様々な要因が含まれる。
デンマークでは、2013年のWE-Act法改正が、職場におけるPSRに対処するための主要な法令枠組みとして機能している。2020年の改正では、この焦点を強化するための具体的な予防ガイドラインが導入された。WE-Actは、「反射的規制」モデルに基づき、使用者に対して、安全で健康な職場環境を確保するための体制を整備し、PSRを積極的に管理する義務を課している。このアプローチは、使用者が職場リスクを評価及び軽減する責任を強調し、労働安全衛生に関する積極的な文化の育成を促進している。
デンマークのPSR関連法令における重要な要素のひとつは、2020年9月に導入された行政命令第1406号である。この命令は、以下の5つの優先分野を強調することによって、PSRに明確に対処している。すなわち、不明確な要求、感情的なストレイン、不適切な言動、過重な労働、及び職場暴力である。使用者は、職場リスクの個人的及び集団的な側面を考慮して、安全な労働環境を確保するための措置を実施することが求められている。使用者は、労働計画、組織的状況及び社会的相互作用に関連したリスクを評価及び管理することが求められており、労働者の参画を促進するガイドライン、訓練、ハラスメント防止措置を盛り込んだガイドラインが示されている。
1999年に施行されたエストニアの労働安全衛生法は、労働及び労働環境の予防に関連した要因としてPSRを定義する枠組みを定めている。同法の2022年改正では、OSHに関する規定がリモートワークにも適用されるよう拡大された。
スペインでは、PSRは、職業リスク法に関する方31/1995(LPRL)で定められた枠組みを通じて対処されている。この法律ではPSRを明示的に定義してはいないものの、使用者に対して、心理社会的性質のものを含め、すべての潜在的な職場ハザーズをカバーするリスクアセスメントを実施する義務を課している。その後の規制、例えば、予防サービスに関する王令39/1997は、PSRを評価及び管理するとともに、心理社会的介入のための措置の組み込むための要件をさらに詳細に規定している。
スペインは、変化する職場環境への対応のなかで、デジタル化とリモートワークに関連した新たな課題に対処するための法令を最近採用している。例えば、法律3/2018は、デジタル断絶権を確立し、より健康的なワークライフバランスを促進している。さらに、リモートワークに関する法律10/2021は、リモートワーク環境におけるリスク評価のための包括的な措置を導入し、とくにPSRの管理に重点を置いている。これらの法令上の進展は、スペインがEUの指針に準拠しつつ、新たな職場の現実に対応するための取り組みを反映している。
全体として、分析対象となったEU加盟国は、OSH枠組みにPSRを組み込む傾向がますます強まっており、国の取り組みの多様性と共通点が浮き彫りになっている。また、本報告書で対象とした国々では、過去数十年間にわたり、リスク要因のより広範な範囲の組み込み及びその定義の明確化が進んでいることが観察されている。

職業病、労働災害及び労働関連疾患

職業病、労働災害及び労働関連疾患は、とりわけPSRの増加とそれらのメンタルヘルスに対する影響に関連することから、OSH枠組みの重要な構成要素である。しかし、メンタルヘルス関連の診断においては、職場環境から直接的かつ排他的に起因する因果関係を証明することが困難なため、それらの公式な認定に大きなギャップにつながっている。本節では、対象となった6つの加盟国が採用しているアプローチを分析し、PSRに関連した職業性健康問題の特定及び対応における進展と残る課題に焦点を当てる。
オーストリアでは、職業病は主に職場要因によって引き起こされる健康障害と定義され、単一要因に焦点を当てている。公式の職業病リストには53の疾患が含まれているが、バーンアウトやストレス起因障害のようなPSR関連疾患は除外されている。一般条項では、特定の物質への職場暴露により排他的に引き起こされるその他の疾患の認定が認められているものの、PSR関連疾患は対象外である。労働によって悪化した精神障害などのPSRに関連した労働関連疾患は認められているが、公式に認定された職業病と同じレベルの監視または補償の対象とはなっていない。例えば、事故後の列車運転手のPTSDは職業性事故として認定される可能性があるが、職業病としては認定されない。
ベルギーは、法的枠組みのなかで職業病、労働災害及び労働関連疾患を区別している。150を超す職業病をカバーする公式の職業病リストにはPSR関連疾患は含まれていないが、ベルギーは「オープンシステム」を採用しており、リストにない疾患についても補償を請求することが可能である。ただし、労働とPSR関連疾患との間の因果関係を立証することは、労働者にとって大きな負担となっている。バーンアウトは労働関連疾患として認められており、予防イニシアティブや支援システムの整備が進められている。最近の司法判断は、使用者のPSR管理に関する責任をさらに強調している。労働組合はさらに、職場におけるメンタルヘルスに対処することの複雑さを認識して、公式リストにPSR関連疾患を追加するよう働きかけている。
同様に、クロアチアでは、職業病は主に物理的、化学的または生物学的要因である職場ハザーズにより直接的に引き起こされた疾患として厳格に定義されている。ストレス、不安、バーンアウトなどのPSR関連疾患は、より幅広い労働関連疾患のカテゴリーに分類され、公式には認定されておらず、または補償の対象にもなっていない。職場での出来事による急性ストレス反応は職業災害として認定される可能性があるが、慢性メンタルヘルス疾患は、化学物質曝露などの物理的要因と結び付いていない限り、ほとんど除外される。
デンマークは、PTSDや労働関連うつ病などのPSR関連疾患を職業病として認定している。職業病のリストに載っていない精神疾患であっても、当該疾患が労働の特定の性質によりもっぱらまたは主に引き起こされた場合には、職業病として認定される可能性がある。この根拠は、労働が精神疾患の発症に特別なリスクをもたらしたと推定できるかどうか、及びリスク要因と疾患との間の因果関係が確からしいかどうかを評価することである。産業災害当局が疾患の認定が可能と判断した場合には、まず産業疾病委員会に案件を提出されなければならない。
さらに、法令改正により、高齢者施設や精神科病院など高リスク部門における使用者の義務が、職場における第三者による暴力から労働者を保護するための保険加入義務に拡大された。これは、職場の力学とメンタルヘルスとの複雑な関係性を認識したものである。この要件は、第三者暴力の結果としての心理社会的ハザーズに関連した労働災害に対する異なる種類の補償を確保するものである。
エストニアでは、最近の進展として、2022年にPSRが職業病を引き起こす可能性のある労働における要因の公式リストに追加され、2022年時点でPTSDやその他の疾患を職業病の公式リストのなかに認定した。これは、職場におけるPSRのメンタルヘルスに対する影響を認定するうえで重要な一歩である。しかし、労働監督の職業病登録データベースのデータによると、2023年にPSRにより直接的にい引き起こされた職業病として公式に記録されたのは1件のみで、労働関連疾患の件数も少ないことが明らかになった。これは、エストニアにおいてPSR関連疾患の診断及び対応の困難さを反映しており、法的根拠やその重要性の認識が高まっているにもかかわらず、依然として課題が残っていることを示している。
スペインでは、法的枠組みは労働災害、職業病及び労働関連疾患を区別している。PSRにより引き起こされたメンタルヘルス障害は、職業病ではなく労働関連疾患に分類されるため、公式な認定の範囲外に残されている。労働者は、これらの疾患が認定されるために、排他的な労働関連性を立証しなければならず、これは労働者に重い立証責任を課すことが多い。こうした制限にもかかわらず、最近の政治的な議論では進展が示されており、PSRにより引き起こされた疾患の診断を含む職業病のカタログを更新するコミットメントが表明されている。司法機関も役割を果たしており、裁判所が判決においてPSRを考慮する事例が増加している。過去10年間で、相互保険機関は労働に関連した精神疾患の事例を1,000件以上報告しており、この問題への認識が高まっていることを示している。

PSRに関する国の戦略

PSRに対処する国のOSHまたは健康戦略は、分析対象となった6か国において、進展を遂げてきた。これらの戦略は典型的には、複数にわたる計画、予防措置及び関係者の協働を組み込み、PSR予防及び/またはメンタルヘルス保護・促進を、労働安全衛生の主要な要素のひとつとして統合することを目的としている。
オーストリアの国の2021~2027年労働安全衛生戦略は、EUの2021~2027年労働安全衛生に関する戦略的枠組みと一致して、変化の予測及び管理、職場災害及び疾患の予防の向上、並びに将来の危機への備えの強化に関連した、3つの主要な目標を強調している。PSRは、全体的な枠組みのなかで具体的に言及されていないが、「健康な生活及び労働条件を共に創造する」という目標に含まれるものと理解することができる。この国のアプローチは、労働者の健康を保護、維持、回復及び促進するための包括的な戦略を強調して、労働者が健康な状態で退職年齢を迎えることを確保している。戦略では、健康な労働条件の促進を目的とした特別のプログラムが強調されており、筋骨格系障害とPSRの予防、労働不能となった労働者の再統合の支援が含まれる。注目すべき要素として、「fit2work」プログラムがあり、目標を絞った支援及び予防措置を通じて、職場の健康を向上させ、労働者が雇用にとどまる能力を保つのを支援すること目的としている。オーストリアのアプローチは、パンデミック後の文脈においてテレワークの配置にも特別の配慮を払っている。
戦略的な意思決定を支援するために、オーストリアは、職場状況を監視し、PSRを主要な構成要素のひとつとして包んだ、オーストリア労働風土指数を導入している。それは、オーストリアの職場における傾向に関する貴重な洞察を提供し、強みと改善すべき領域を特定する。政策立案者や社会パートナーは、この指数を参考に、労働条件の改善、労働者の福祉の促進、PSRのような課題への対処を目的とした政策決定やイニシアチブの策定に活用している。
ベルギーは、ストレスとバーンアウトの予防を政策の優先課題として、PSRに対処するための一連の行動計画を策定してきた。2022~2027年の労働者の労働遂行における福祉を向上するための国の行動計画は、PSRの削減及び予防措置の職場慣行への統合に焦点を当てている。この戦略的アプローチは、社会対話の役割を強調し、メンタルヘルス問題を含め長期的な疾患に苦しむ労働者の再統合を優先している。計画はさらに、2014年に導入されたPSRに関する法令が現実にどのように機能しているかを継続的に監視することを想定している。最後に、計画はまた、リモートワークやデジタル切断に関連した新興のPSRに対処し、医療など高リスク職業向けの部門別イニシアティブを支援している。PSR予防に取り組むためのアプローチを支えるデータに重点を置くという目標に沿って、ベルギー全国労働評議会(NAR/CNT)は、調査、社会保障記録及び職場報告からPSRデータを統合するデータマイニングプロジェクトを監督している。このリソースは、政策立案者や社会パートナーに提供され、労働衛生リスクの傾向を特定し、政策改善を導く役割を果たしている。
クロアチアのPSRに対する戦略的アプローチには、2030年までのメンタルヘルスのための戦略的開発枠組みが含まれており、PSRを包括的なメンタルヘルス支援策の一環として統合している。この枠組みは、ストレス軽減に焦点を当て、メンタルヘルス教育、早期介入、ストレス対策プログラムの促進を推進している。また、メンタルヘルスにとって不可欠な要素として、職務の自律性や意思決定のような職場要因を認識するとともに、執行措置の改善の必要性も強調している。とくに注目すべきは、クロアチアの戦略がバーンアウトの予防、職業と私生活のバランス、メンタルヘルス問題のスティグマ解消を目的としていることである。また、クロアチアは現在、EUのアプローチと一致したPSRの管理及び予防をさらに推進する、労働、安全及び雇用に関する国の計画(2021~2027年)の策定を進めている。
デンマークの労働環境協定は、3年ごとに再交渉され、三者構成の労働環境評議会を通じてPSRに戦略的な焦点を当てている。最新の協定(2023~2026年)は、PSR及びストレス予防に関する9つの具体的な取り組みを組み込んでいる。これらのうち一部は部門別の焦点を有する一方、労働環境協定(WEA)の具体的な目標に言及するものもある。例えば、執行アプローチの改善や、使用者と労働者への支援を提供する活動、リスクの高い特定のグループへの重点的な取り組みなどが含まれる。デンマークの戦略は、労働組合及び使用者団体がPSRに関する立法や戦略的イニシアチブの形成に積極的に参画する点でとくに強固である。
エストニアでは、過去10年間に、とくに職場環境における、PSRとそれらのメンタルヘルスに対する影響への認識が著しく高まっている。この関心の高まりは、2020~2030年人口健康開発計画、2023~2026年メンタルヘルス行動計画、メンタルヘルスに関するグリーンペーパー及び2023年エストニア人間開発報告書などの国の戦略に反映されている。これらのイニシアティブはあいまって、レジリエンス、ワークライフバランス及び職場メンタルヘルスプロモーションに重点を置いて、公衆衛生におけるPSRの重要な役割を強調することで、メンタルウェルビーイングの促進、職場状況の改善、職場におけるPSRへの対処をめざしている。エストニアのアプローチは、公衆衛生に重点を置き、PSRの予防をより広範な社会的な健康取り組みに統合し、使用者や医療専門家を巻き込んでそれらのリスクの特定及び軽減に取り組んでいることを反映している。
スペインの2023~2027年労働安全衛生戦略は、デジタル化による新たな働き方の普及を背景に、メンタルヘルスとPSRを重要分野として強調している。この戦略は、既存の法令の見直しを通じてPSRの統合を強化し、遵守を確保するための執行メカニズムの拡大を強調している。スペインはまた、中小企業におけるPSR予防のためのツールとトレーニングの開発、及びリモートワークやテレワークに関連したPSRへの対処を優先事項としている。最後に、スペインの戦略は、多様性、不安定な雇用及びジェンダーの視点といった側面にも注目している。社会パートナーは、法令改正、予防イニシアティブ及び部門別の支援を含む、この戦略に積極的に参画している。
結論として、分析対象となった諸国を通じて、国のPSR戦略は、各国のニーズと優先事項を反映した多様なアプローチを示しているが、いずれも、PSR予防及び/または職場におけるメンタルヘルスの重要性について、異なるかたちで強調している。いくつかの戦略的アプローチで取り上げられているテーマには、職場復帰を含め、長期かつ健康な働き方を可能にするためのメンタルヘルスと一般健康の保護・促進の重要性が含まれる。一部の国の戦略では、不安定な雇用形態の労働者など特定の労働者層の保護の必要性を強調し、ジェンダーの視点を取り入れている。将来の危機への備えや新たなリスクへの適応も、複数の戦略で言及されている。しかし、これらの戦略の深さと焦点は異なっている。例えば、ベルギーとデンマークは、戦略的アプローチを通じてPSR予防及び/または職場におけるメンタルヘルスを長年組み込んでいる。エストニアとクロアチアの取り組みは、主に健康の視点から導かれており、PSR予防を幅広い社会的健康イニシアチブに統合するか、個人レベルの健康促進に重点を置いている。デンマークのアプローチは、より具体的な内容で、短い期間を対象とし、社会パートナーの積極的な参画を伴う具体的な行動を策定している点が特徴的である。一方、スペインのアプローチは、メンタルヘルス及びPSR予防に関する多様性に優先順位を置いている。

社会対話の役割

社会対話は、より良い労働条件と労働者の保護にとって不可欠である。しかし、社会対話の強度と歴史的重要性は国によって異なり、一部の国では政策の設計及び実施において、より大きな役割を果たしている。これはまた、PSRに対処する国のアプローチとその発展にも影響を及ぼしている。
ベルギーは、社会対話と団体交渉の強い伝統を有している。主要な2つの全国団体-全国労働評議会及び中央経済評議会(CRB/CCE)-は、労働組合と使用者団体間の議論及び包含を促進している。全国労働評議会は、すべての部門をカバーする団体交渉協定(CBA)を締結することができ、これらの協定は、PSRを含め、職場安全衛生を扱うことも多い。さらに、ハイレベルの上級社会パートナー代表からなる「10人委員会」は、部門横断的な協定を通じて作業プログラムを策定し、その後のCBAに影響を及ぼす。ベルギーの労働組合は、歴史的に強く、職場安全衛生及び心理社会的福祉の促進に長年取り組んできた。全国労働評議会の集団協定第72号(1999年)は、労働におけるストレスを取り扱っており、PSR予防において画期的なもので、ベルギーをEUでストレス予防を法的に義務づけた最初の国のひとつにした。
部門レベルでは、使用者と労働者が共同委員会や小委員会を通じて集まり、PSR予防措置を含め、部門固有の協定を交渉している。部門別社会基金が予防イニシアティブの立ち上げや訓練の提供に参画することは、OSHに対するベルギーの多層的なアプローチの重要な要素である。企業レベルでは、労働組合代表と予防委員会が協力して、リスクの評価及び軽減に取り組んでいる。これらの主体は、法律で義務づけられている場合(労働者50人以上の企業)には、社会対話の促進、職場リスクの評価、PSR予防を含め行動計画の実施を推進する。この構造は、大規模企業におけるPSR管理の強化を確保しているものの、中小企業における社会対話の役割は、公式化が相対的に少ない。
社会対話に対するデンマークのアプローチは、PSRを含め職場安全衛生に関連したすべての事項において社会パートナーの参画を義務づける「WE-Act」に深く根づいている。デンマークの労働組合は、部門別労働環境コミュニティ(BFAs)と呼ばれる部門別団体を通じて使用者団体と協力し、様々な業種におけるPSRをの防止するためのツール、ワークショップ及びリソースを共同で開発している。
労働組合と使用者団体の同数の代表で構成される全国労働環境評議会が、PSR削減の全国目標を設定するうえで重要な役割を果たしている。これらの目標は、安全な心理的労働環境の創造と、重大な心理的ストレス要因への曝露の削減に焦点を当てている。社会パートナーは、この枠組みの中で協力し、全国目標を業種別の目標に転換し、PSR予防戦略が適切で実行可能なものとなるよう確保している。
この強固なシステムは、PSRに対処することを目的にした部門別のガイドライン及びツールキットの開発につながった。例えば、各BFAは、部門特有のニーズに基づいてツールを作成し、職場を直接支援するためのコンサルタントを配置している。しかし、これらの取り組みの有効性は部門によって異なり、一部のイニシアティブは、資金の持続可能性や評価の不足に関する課題に直面しており、これが長期的に影響を及ぼす可能性がある。
社会対話に長い伝統のあるオーストリアでは、オーストリア労働組合連盟(ÖGB)や連邦労働会議(AK)などの労働組合が、職場安全衛生に関する法令及び政策の形成において、歴史的に重要な役割を果たしてきた。社会パートナーは、OSH戦略の策定、欧州指令の国内法への効果的な移行、及び法律が職場の慣行に効果的に反映されるよう確保する取り組みに深く関わっている。その影響力は、国の政策の策定から、とくに労働者が使用者と協力して持続可能なOSH予防アプローチを構築することが多い大企業における、企業レベルの協力にまで及んでいる。
社会対話はまた、広範なOSH問題に関するオーストリアの政策議論も形成している。労働組合連合の2023~2028年作業文書では、労働組合は、OSH専門家と労働監督機関に、PSRを含め職場リスクに対処するためのより大きな権限を付与するよう求めている。また、オーストリア政府に対して、国際労働機関(ILO)の労働における暴力対策条約(ILO第190号)を批准するよう働きかけている。労働組合は、PSRに関する意識向上活動にも積極的に関与し、在宅勤務のメンタルヘルスに関するガイドなどのリソースも提供し、労働者や使用者を対象にPSR対処に関する訓練/会議も開催している。こうして、研究成果やベストプラクティスを共有するプラットフォームを提供し、オーストリアにおける職場安全衛生の進歩における社会対話の役割をさらに強化している。
スペインの労働組合、とりわけ労働者委員会(CC.OO)と一般労働者連合(UGT)は、PSRの予防及び管理を推進するうえで重要な役割を果たしてきた。歴史的に、これらの組合は職場の健康状態を監視し、PSRの評価及び予防措置を含む団体協定の交渉を行ってきた。CC.OOとUGTの双方は、専門研究所-労働・環境・健康労働組合研究所(ISTAS)とUGTの心理社会的リスク監視機関-を設立し、研究を実施し、訓練を提供し、PSRを評価するツールを開発している。労働組合の重要な貢献のひとつは、コペンハーゲン心理社会的質問票(CoPsoQ)をスペイン向けに適応させたことで、PSR評価のために広く採用されている方法を提供している。
三者構成のフォーラムは、労働組合、使用者団体及び政府を一同に集め、PSR政策の側面に取り組んでいる。これらの共同努力は、PSR関連問題に対処するための意識向上、訓練プログラムの充実、及び職場慣行の改善につながっている。
社会パートナーの積極的な影響にもかかわらず、課題は依然として存在している。2020年の研究では、健康安全代表がいる職場では、PSR評価を実施し、ストレス軽減措置を実施する可能性が高いことが示されたが、制度的及び構造的な障壁が労働組合の有効性を制限する場合もある。さらに、一部の社会パートナーは、労働組合のPSR予防に関する行動を交渉戦略の一部と捉えており、これによりこれらのリスクを真に解決する努力が複雑化する可能性がある。
クロアチアでは、2013年のEU加盟以来、PSRに関する社会対話が徐々に進展してきた。労働組合とクロアチア使用者協会(HUP)などの使用者団体は、職場メンタルヘルスに関するイニシアティブへの関与を徐々に拡大してきた。しかし、クロアチアにおけるPSRに関する社会対話は依然として発展途上であり、他のEU加盟国で確立されたシステムと比べてまだ十分ではない。クロアチアの労働組合は、職場ストレス及びハラスメントに関する意識向上を目的とした数多くの研究プロジェクトや活動を組織してきた。使用者団体との協力のもと、ストレス管理やワークライフバランスに関するワークショップやセミナーが開催されている。これらの努力にもかかわらず、クロアチアにおけるPSRに関する社会対話の進展は、財政的及び制度的な支援の不足といった課題により阻害されており、関係者がより広範な影響力を発揮することが困難な状況にある。
エストニアは、クロアチア同様、社会対話の長い伝統を有していない。労働組合は、労働者の利益を擁護し、OSH政策及び慣行の推進を主張しているものの、現在の影響力は限定的である。団体交渉と労働組合の加入率は依然として低く、労働力の約7%しか組合に加入していないため、PSRに関する政策形成における彼らの可能性は制約されている。
全体として、社会対話は、PSR関連政策の形成において重要な役割を果たしており、労働組合と使用者団体は職場のメンタルヘルスと安全の向上を主張している。ベルギー、デンマーク、スペイン、オーストリアなど、社会対話の伝統が根づいた国々は、確立された協力体制と効果的な団体交渉メカニズムを活かし、より先進的なPSR枠組みを整備している。他方、クロアチアやエストニアでは、労働組合の組織率の低さ、財政資源の不足、制度的な支援の欠如といった障壁が、PSRイニシアチブの持続性と影響力を妨げている。全体として、PSR管理における社会対話の有効性は、協力枠組みの強度、利用可能な資源、法令による支援の有無に依存している。

政策/法令の実施を支援する措置

6か国において、職場におけるPSRに関する政策及び法令の実施を支援する活動は、キャンペーン、リスク管理ツールや手引き、無料相談や助言などの支援サービス、監督などの執行措置を含む多様な方法を含んでいる。

意識向上キャンペーン

PSRの予防及び管理の有効な実施及び促進において、意識向上キャンペーンは分析対象となった加盟国における職場において不可欠な要素である。意識向上イニシアティブは、理解の向上、積極的な管理の促進、及びPSRに対処するための支援的な環境の創造を目的としている。
オーストリアは、AUVAの支援を受けて、意識向上イニシアティブに大きな重点を置いている。AUVAは、全国に職業心理士を配置し、労働におけるPSRとその予防に関する包括的な手引きを提供するとともに、意識向上を促進している。さらに、労働監督局は、ジェンダーや多様性などの問題に焦点を当てたキャンペーンを実施している。これらの連携した取り組みは、オーストリアの国家労働安全衛生戦略と一致しており、インタビューを行った関係者は、労働条件とメンタルヘルスとの関連性に関する理解が向上したと評価している。
ベルギーの労働におけるメンタルウェルビーイングに関する連邦行動計画は、メンタルヘルス意識向上に向けた高度に調整されたアプローチの好例である。この行動計画の一環として、2021年11月から2022年6月まで実施された包括的なキャンペーンは、職場におけるメンタルヘルスに関する偏見の軽減を目的とし、とくにCOVID-19パンデミックにより悪化した課題に焦点を当てた。
デンマークでは、WEAが「Tag Snakken」(Talkit Over!)などの意識向上キャンペーンを主導し、職場ハラスメントとリーダーシップのコミュニケーション強化に焦点を当てている。オープンな対話を促進し、有用なリソースを提供することで、このキャンペーンはより安全で支援的な職場文化の創造をめざして、PSRの意識向上及び積極的管理を改善することを目的としている。
エストニアでは、Peaasi.eeが主導する職場におけるメンタルヘルス・グッドプラクティスと行動計画が注目されている。このイニシアティブは、訓練セッションやカウンセリングを通じてメンタルヘルスへの意識を高め、職場がウェルビーイングを優先する体制を築くことを支援している。さらに、Peaasi.eeは、メンタルヘルスを積極的に推進する組織を「メンタルヘルス・ラベル」で表彰している。これらのラベルは、企業のメンタルヘルス支援へのコミットメントを認めるとともに、職場環境の評価及び改善を促し、積極的なメンタルヘルス保護の文化を育むことを目的としている。
全体として、これらの意識向上ャンペーンは、メンタルヘルスとウェルビーイングを優先し、スティグマを軽減し、積極的な管理を促進する環境を育むうえで重要である。

PSR予防及び管理のための実践的ツール及びリソース

実践的ツールその他の訓練・情報リソースは、使用者、労働者、その他の関係者に手引きを提供し、法令遵守を支援するとともに、職場におけるPSRに関する状況の改善方法に関するさらなる洞察を提供する。
オーストリアは、AUVAを通じて無料のPSR評価ツールの提供に焦点を当てている。主な例として、グループ評価用の「Arbeits-Bewertungs-Skala(ABS)」と、対話型PSR評価用の「EVALOGツール」が挙げられる。これらのツールは、とくに中小企業がPSRを効果的に評価し管理するのを支援する。AUVAが運営するeval.atプラットフォームは、職場評価に関する追加の情報及びリソースを提供している。オーストリアは、fit2workプログラムのようなイニシアティブを通じて、労働者のメンタルウェルビーイングと職場復帰を支援している。このプログラムは、病気休暇後の労働者の円滑な職場復帰を可能にするため、企業向けに無料のコンサルティングを提供している。
ベルギーは、零細・小規模企業(MSE)向けのPSRに関するオンラインインの対話型リスク評価ツール(OiRA)など、実践的なツールを複数提供している(2024年末公開)。このツールは、使用者がPSR評価プロセスをナビゲートし、カスタマイズされた行動計画の策定を支援する。部門別のOiRAツールには、PSR予防に関する項目も含まれている。さらに、ベルギー労働監督局は外部の労働安全衛生サービスと協力して、詳細な手引きを提供するとともに、諸措置の一貫した実施を確保している。
クロアチアでは、クロアチア公衆衛生研究所労働衛生部が、教育資料、PSR評価質問用紙及び予防措置の提案を含むオンラインプラットフォームを提供している。また、「Company Friend of Health」イニシアティブは、職場における健康と福祉の促進を目的として、カスタマイズされた訓練セッション及びリソースを提供している。Erasmus+プロジェクトを通じて開発された人事管理者向けメンタルヘルスツールキットは、職場におけるPSR管理を支援するための追加リソースを提供している。
デンマークでは、WEAが、PSR予防を総合的な労働安全衛生管理アプローチに統合するための包括的なツール及びガイドラインを提供している。これらのリソースは、Plan-Do-Check-Actサイクルに基づいて開発され、対話支援ツール、構造化された問題特定ツール、管理者及び労働者代表を支援するためのガイドが含まれている。WEAのテーマ別PSRガイドは、過重労働、いじめ、感情的な要求など、多様なリスクをカバーしている。
エストニアでは、国立保健開発研究所が提供する「職場におけるメンタルヘルス:使用者と労働者のためのハンドブック」を含めたリソースが利用可能である。この出版物は、メンタルヘルスに配慮した職場環境を構築するための実践的な戦略及び行動指針を提供している。さらに、エストニア労働監督局は、自己評価アンケートやガイドライン文書などのPSRに焦点を当てたツールを通じて、使用者を支援している。Peaasi.eeが運営するオンラインプラットフォームでは、「職場におけるメンタルヘルス・グッドプラクティス及び行動計画」も提供されており、訓練モジュールやカウンセリング支援が含まれている。
スペインは、INSSTを通じてリソースの開発に長い伝統を有している。とりわけ、PSR関連のテーマ、例えばバーンアウトやデジタル化・テレワークに関連したリスク要因などについて取り上げた技術的予防指針が挙げられる。これらの指針は、使用者と労働者の双方に対して具体的な指針を提供している。INSSTはまた、多様な職場における包括的なPSR管理を支援するための技術文書、ガイドライン、部門別訓練資料なども作成している。

監督及び遵守メカニズム

監督及び遵守メカニズムは、PSR法令が効果的に実施され、職場が確立された基準を遵守することを確保するうえで重要である。
オーストリアでは、遵守メカニズムには労働監督局による監督が含まれており、2013年労働安全衛生法改正後、監督中心のアプローチからより助言的な役割へと移行した。約300人の監督官が、PSR評価の監督及び予防措置に関する助言を行うための訓練を受けた。監督は、遵守を支援し、PSRに関する意識向上を図るための相談を含むことが多く、シフト労働の管理、職場暴力の防止、パンデミック関連ストレス要因の監視などが対象となる。過去10年間、特定の部門や特定のリスクに焦点を当てた多様な監督キャンペーンが実施されてきた。
ベルギーは、法的枠組みに組み込まれた包括的な遵守メカニズムに大きく依存している。例えば、使用者には、リスク評価を実施し、PSRに対処するた措置を講じる義務が課されている。労働監督局は、これらの要件の遵守状況を監督し、集団的及び個別措置の両方に焦点を当てている。使用者は、5年ごとに包括的なPSR評価を実施し、その結果を予防計画に反映させなければならない。遵守は、外部の職業予防サービスによっても支援されている。
デンマークでは、WEAが、PSRに焦点を当てた定期的な監督を実施している。1990年代半ばから、WEAは、PSRを監督プロトコルに組み込み、時間とともに監督官の自主性を拡大する方向で進化してきた。例えば、管理者が同席しない状態で労働者と直接会話する権限が与えられるようになった。WEAはまた、監督官が監督中に労働者と行うための3つのテーマ別PSRインタビューガイドを保有している。これらのガイドは、以下のテーマ、1)対象PSRの発生状況、2)企業がPSRを軽減または防止するための戦略及び措置、3)PSRの影響、をカバーしている。WEAは、即時の改善命令から、使用者がWEAの支援と監視の下で問題に対処することに同意する柔軟な「合意に基づく監督」まで、多様な通知を発行できる。この革新的なアプローチは、使用者と企業が規制を遵守しつつ、労働条件の改善に向けた協働努力を促す役割を果たしている。
エストニアでは、労働監督局が職場におけるPSRの特定及び軽減を支援するために、監督を実施し、実践的なツール及びガイドラインを提供することで、遵守の促進を図っている。労働監督局は、2018年と2019年に運輸部門と医療部門を対象としたPSRに関する重点的なキャンペーンを実施した。その後、PSRを特定の対象とした具体的なキャンペーンは実施されていない。しかし、労働監督官による一般的な監督において、PSRは他の職業リスクとともに評価されている。これらの一般監督において、PSRがより広範にどのように対処されているかに関する詳細な情報は入手できていない。
スペインは、PSR規制の遵守を確保するために、法的措置と非法的措置を組み合わせたアプローチを採用している。労働監督局はINSSTと緊密に連携して、監督を実施し、行動指針を提供している。この協力的なアプローチにより、職場暴力や新興(心理社会的)リスクに対応したより標的を絞った監督キャンペーンが実施されるようになったた。スペインは、技術指針の定期的な更新と部門別のリソースの提供に重点を置くことで、遵守メカニズムが変化する職場の動向に適切に対応できるよう確保している。
要約すると、分析対象となった諸国におけるPSR政策の実施を支援する措置には、意識向上キャンペーン、実践的なツール及び支援、訓練プログラム並びに執行アプローチが含まれる。意識向上キャンペーンは、理解を深め、偏見を軽減し、積極的なPSR管理を促進する。リスク評価ガイドやカウンセリング支援などの実践的なツールは、職場における具体的な解決策を提供する。労働監督機関が主導する執行アプローチは、規制遵守を確保し、職場のメンタルヘルスと安全の継続的な改善を促進する。これらの取り組みは総合的に、より健康で安全かつ支援的な職場環境の形成を促進する。しかし、現在の報告書では、意識向上から監督キャンペーンまで、これらのアプローチの実施方法が多様であり、協調的で継続的なアプローチを採用している場合と、一時的な措置に限定されている場合があることが示されている。

PSRに対処するうえでの成功要因及び課題

ベルギー、デンマーク、エストニア、スペイン、クロアチア、オーストリアにおけるPSRに対処するための法的措置と非法的措置の、関係者のフィードバックに基づく分析は、成功要因及び課題の複雑な相互作用を明らかにしている。インタビュー対象者は、すべての国が過去数年間でPSRに対処するうえで進展を遂げた点で一致しているものの、これらの措置の効果は、法令枠組み、実施戦略、文化的背景、社会パートナーの支援、そしておそらく経済的要因や労働市場のマクロ構造的影響の違いにより、異なる結果を示している。にもかかわらず、インタビュー対象者は、PSRの管理及び予防並びに職場メンタルヘルス促進のための、包括的かつ協働的で状況に敏感なアプローチの重要性を強調している。本章では、本研究で特定された主要な成功要因及び課題をまとめ、6つの分析対象国の独自の文化的、立法的、組織的文脈によって形成された比較視点を提供する。

法的措置と非法的措置における共通の成功要因

6か国に共通する成功要因は、体系的なPSR評価及び管理を義務づける法的枠組みに支えられた、OSHの重要な要素としてのPSRの認識である。ベルギーやデンマークのような国だけでなく、エストニアの法的枠組みも、PSRの具体的な定義を含む包括的な法令をもち、意識向上と行動の義務化に重要な役割を果たすとともに、そのようなものとして行動の明確な枠組みを提供している。例えば、ベルギーには、PSRの包括的な定義を含んだ詳細な法的枠組みが存在し、PSRの5つの主要な領域-職務内容、労働条件、労働組織、雇用状況及び対人関係-を特定することによって、これらのリスクに対処するための措置の理解及び実施を促進している。
法令上の要件とは別に、いくつかの加盟国(例:ベルギー、スペイン、クロアチア、オーストリア)は、具体的なガイドラインの提供に焦点を当てている。これらのガイドラインは、使用者が自らの義務をより理解し、実践に反映させるのに役立つ。例えば、オーストリアの2013年労働安全衛生法改正は、PSR評価を実施するための具体的なガイドラインによって補完されている。スペインの法令は、労働におけるPSRの取り扱いに関する解釈の指針及び説明を提供する一連の技術文書によって補完されている。

デジタル化と国の法令アプローチにおけるPSR

ベルギー、スペイン、クロアチアなどの諸国は、その法令枠組みにおいて、テレワークの手はずのための使用者の義務、及び、ベルギーとスペインでは、デジタル切断に関するより具体的な規定を含め、リモートワークに関連したPSRに具体的に対処している。デンマークでは、デジタルハラスメントと心理的暴力を労働関連リスクとして認識するうえで、オンラインいじめに曝露する労働者のための法的保護を確立する進展がみられている。
成功するアプローチは、法的措置と意識向上キャンペーンや使用者手引きを組み合わせたものである。例えば、ベルギーの「Let’s Go for It Together!」キャンペーンは、テレワークに関連したPSRに対応する労働者を支援し、デンマークのBFAの部門別イニシアティブは、異なる業種でデジタルハラスメントを管理するための実践的なツールを提供している。

PSRと職業病

調査対象となった諸国の大多数は、PSRに関連した職業病を認定するうえで変更を実施してきたが、その完全な包含と実施の程度は、国によって異なる。例えば、エストニアは最近、特定の職業病の原因と考えられる労働によるPSR曝露を包含し、これらのリスク要因の労働者の健康に対する影響を認めるうえで進展を示している。ベルギーやデンマークなどの他の国では、労働者がこれらのリスクの健康状態に対する影響を証明することを求めるオープンシステムを採用しており、このプロセスは、しばしば非常に負担が大きく困難なものと捉えられている。スペインとクロアチアも、PSRと明確に関連した職業病のリストを確立していない。全体として、PSRによって引き起こされた職業病と認定されることは、労働者にとって非常に困難で負担の大きいプロセスであり、一部の国では単純に不可能な状況である。しかし、最近の変更や議論は、この点における意識の高まりを示唆している。

PSR予防における社会パートナーの役割

ベルギー、デンマーク、エストニア、スペイン、クロアチア、オーストリアでは、職場におけるPSR予防のための国の政策及び戦略の形成において社会パートナーが重要な役割を果たしている。その関与の程度は、制度的枠組み、社会対話の伝統、具体的なイニシアティブによって異なる。一部の国では、PSRをOSH政策のより広範な枠組みに組み込んだ深く根づいた社会対話構造が存在するが、他の国では、社会パートナーの関与が比較的低い状況である。
ベルギー、デンマーク、スペイン及びオーストリアなどの諸国では、社会パートナーがOSH政策の策定、実施及び執行に参画できる三者構成のシステムが深く根づいている。これらの国では、労働組合と使用者団体が国の諮問委員会、三者協議会または部門別協定に参加し、法令の形成及びそれぞれの戦略的アプローチの策定に参画している。
デンマークは、全国労働環境評議会を通じて効果的な協働の模範を示している。この評議会では、社会パートナー-政府機関、使用者団体及び労働組合-が連携し、政策及び規制の改定を共同で形成している。同評議会は、国立労働環境研究センター(NRCWE)の研究結果を基にした根拠に基づく介入を保証している。スペインの社会対話も、とくに団体交渉協定を通じて、部門別の措置の形成に重要な役割を果たしてきた。労働組合は、柔軟な労働手はずやストレス管理プロトコルなどの職場政策改善の推進において重要な役割を果たしている。オーストリアの国家OSH戦略(2021~2027年)は、社会パートナーや労働衛生専門家を含め多様な関係者を巻き込んだ合意に基づくイニシアティブを強調し、部門横断的なPSR措置の広範な受け入れと実施を確保している。社会パートナーは、PSRに関する2013年改正の交渉において重要な役割を果たし、使用者と労働者の視点のバランスを保ち、共有責任を促進する協働的なアプローチを促進した。

監視及び執行

もうひとつの成功要因は、PSR措置の有効性を確保するうえで重要な役割を果たす監視及び執行メカニズムに関連している。デンマークとオーストリアはこの点でとくに注目される。オーストリアの労働監督局は、PSR評価の遵守状況を監視する積極的な役割を果たし、定期的な監督を実施し、助言サービスを提供している。しかし、リソースの制約が、、これらの取り組みを妨げる要因となっている。デンマークでは、WEAが実施する合意に基づいた監督と、WEAが実施する部門別キャンペーンが、職場のメンタルヘルスに与えるポジティブな影響で評価されている。これらの革新的な監督は、監督官と使用者の協力を促進するカスタマイズされたアプローチを採用している。この戦略は、遵守を確保するだけでなく、知識の移転を促進し、組織がより効果的なPSR管理慣行を採用するのを支援している。
支援サービスとリソースを通じた遵守の提供は、ベルギー、デンマーク及びオーストリアにおける成功の基盤となっている。デンマークのBFAは、中小企業のニーズに合わせた部門別ガイドラインを提供し、規制遵守をよりアクセスしやすいものとしている。オーストリアのAUVAは、PSR評価を実施するためのツールと無料リソースを提供し、とくに中小企業の財務的な障壁を軽減している。ベルギーでは、PSRに関する外部の予防アドバイザーの義務的な役割が、機密保持が保証された相談員への相談に関する内部の相談窓口が不十分な場合、労働者が問題を報告するシンプルなプロセスを確保している。デンマークとエストニアでもコンサルティングサービスが重要な役割を果たしており、コンサルタントが職場を訪問して、PSRへの対処を支援している。さらに、意識向上及び訓練イニシアティブもPSR対応において不可欠である。クロアチアは、クロアチア公衆衛生研究所が主導する訓練プログラムとワークショップの重要性を強調している。これらのイニシアティブは、意識向上を図り、使用者がPSRを効果的に対処するためのツールを提供している。デンマークやオーストリアでは、OSH専門家、使用者、労働者向けの質の高い訓練プログラムに投資している。これらのプログラムは、PSRの理解を深め、関係者が効果的な措置を実施するためのツールを提供する。ベルギーでは、職場のメンタルヘルスに関するオープンな議論を促進する意識向上キャンペーンが成功を収めている。他方、エストニアでは、2019年の法令改正後に意識向上が進んだにもかかわらず、使用者向けの具体的なツールやリソースの不足がPSR措置の実施を妨げていると指摘されている。
部門別戦略は、高リスク業種が直面する特有の課題に対処するうえでとくに効果的である。スペインの医療、運輸、公共行政部門における取り組みは、PSR措置を特定の状況に適合させることのメリットを示している。オーストリアの多様性アプローチは、中央労働監督局のMEGAPプロジェクトを通じて、PSRの評価及び予防において対象グループ別のアプローチの重要性を浮き彫りにしている。対象を絞ったアプローチは、脆弱なグループにも拡大されている。例えば、スペインは、PSRが女性に与える不均衡な影響を軽減するため、ワークライフバランス措置を導入している。障害のある者、女性、高齢労働者など、脆弱なグループのニーズに対応する重要性を強調することは、PSR戦略の包摂性と効果をさらに向上させる可能性がある。デンマークの刑事司法システムは、刑務所職員に対する暴力関連リスクを軽減するための取り組みを実施している。

国特有の側面

職場におけるPSR問題に対処するには、各国の固有の社会的、経済的及び文化的背景を反映した、その国に合わせたアプローチが必要である。以下の例は、PSRを軽減し、職場のウェルビーイングを促進するために、各国が様々なアプローチを採用している様子を示している。
ベルギーは、明確な定義及び予防措置により、PSRを包括的に網羅する、強固な法的枠組みを整備している。この明確さにより、PSR予防措置の理解及び実施が向上している。ベルギーのアプローチの中心は、様々な部門の関係者間の協力を促進する、強力な社会対話伝統である。この協力的なアプローチにより、部門別のリスク評価やカスタマイズされた訓練プログラムなどのイニシアティブが実現している。ベルギーのアプローチには、女性や移民などの脆弱なグループや、ワークライフバランスや雇用不安に特に重点を置いた高リスク部門を対象とした、的を絞った対策が含まれている。また、ベルギーの制度では、労働者が職場でPSRに直面した場合、2段階のエスカレーションが用意されている。より内部的で非公式なアプローチでは、秘密厳守のカウンセラーによる支援が提供される。このアプローチが失敗した場合、次のステップとして、外部の予防アドバイザー、この役割に関する訓練及び教育において一定の品質基準を満たした特定の外部委託業者の支援を求めることができる。上記のアプローチに加え、ベルギーでは、評価の文化も根強く、法的措置と非法的措置の両方が定期的に評価されているが、これらの評価結果は、必ずしも公開されているわけではない。
デンマークがPSR問題に対処して成功を収めているのは、社会対話という強い伝統があり、それが労働環境評議会などの仕組みによって制度化されているからである。この評議会は、執行よりも協力に重点を置いた合意に基づく監督など、協調的な政策立案と規制の革新を推進している。NRCWEの実証に基づく研究により、PSR規制は、科学的証拠に裏づけられ、信頼性が高く、効果的なものとなっている一方、部門別の協議会(BFA)は、規制を簡素化し、とくに中小企業や零細な職場における遵守及び理解の促進に貢献している。このアプローチは、PSRを率直に議論するデンマークの文化の変化と相まって、同国の枠組みのユニークな特徴となっている。インタビューした者によると、このオープンな姿勢により、PSRの報告件数が増加し、職場のメンタルヘルス問題に対する意識が高まったとのことである。高リスク部門を対象としたキャンペーンは、デンマークの文脈に応じた解決策へのコミットメントをさらに強化している。
エストニアでは、2019年OSH法改正が、PSRに対処するための重要な一歩として位置づけられ、意識向上を促し、使用者がこれらのリスクを真剣に受け止めるよう促すものとされている。さらに、2022年に、PSRが、承認された職業病のリストに追加された。改訂版によると、労働環境における心理社会的ハザーズによって引き起こされる職業病には、1)PTSD、及び2)PSRによって引き起こされるその他の疾患が含まれる。PSRの職業病リストへの包含は、それらの労働者の健康に対する影響を認識する点で進展を示しているが、認定された事例の数は依然として非常に少ない状況である。さらに、労働監督局のメンタルヘルス専門家との無料相談サービスは、使用者と労働者双方から高く評価されており、職場のメンタルヘルスへの意識の高まりを浮き彫りにしている。
オーストリアのPSRに対するアプローチは、職場評価に職業心理士を参加させる可能性が特徴的である。一部の関係者のフィードバックによると、この参加により、PSR評価の質が向上し、一般的なリスクアセスメントではしばしば欠如している専門性や深みを持ってメンタルヘルス課題に対応できるようになった。オーストリアは、評価及び訓練のための無料の標準化されたツールを提供することで、あらゆる規模の企業に適した指導へのアクセスを拡大し、とくに小規模組織が積極的なPSR管理に取り組むことを容易にしている。
スペインは、PSRに対して積極的なアプローチを採用しており、とくにデジタル化がもたらす課題に対応している。同国は、デジタル権利法令など、デジタル切断のような問題に対処し、労働者が常に接続されている状態によるストレスから保護する革新的な措置を導入している。労働組合は、柔軟な労働時間その他など部門別の措置を含む団体交渉を通じてPSR管理を推進している。インタビューでは、医療、運輸、公共行政などPSRが高い部門において、国レベルの部門別アプローチがとくに有効であることが報告された。さらに、同国の部門別戦略-とくに公衆との接点が多い部門におけるもの-は、目標を絞った介入の重要性を浮き彫りにしている。スペインが女性や移民など脆弱なグループに焦点を当てている点も、職場健康イニシアティブにおける公平性と包摂性の重視に寄与している。
クロアチアは、過去数年間にわたり、COVID-19パンデミックから生じた課題の一部を背景に、PSRに対処するうえで目立った法令上の変更を実施してきた。リモートワークに関する新たな規定とメンタルヘルスに関する国家戦略は、クロアチアのこの問題への取り組みの一環である。クロアチア公衆衛生研究所と社会パートナーが実施する意識向上キャンペーンと訓練プログラムは、PSRの予防に向けたスティグマの軽減と能力向上、及び職場の安全とウェルビーイングの文化の育成に焦点を当てている。
本報告書のための分析結果によると、調査対象となった諸国において、過去数十年間にわたり、法的措置と非法的措置を通じてPSR予防に関する重要な変化が生じたものの、その効果的な実施と影響を確保するうえで課題が残っていることが明らかになった。主要な成功要因には、既存の強力な法令枠組み、効果的な社会対話、意識向上キャンペーン及びPSR予防措置をより幅広いOSH戦略に統合することが挙げられる。これらのアプローチを、継続的な追跡及び評価を可能にする具体的なデータに基づいて構築することが、成功を確保するための重要な要因であると考えられる。
他方、リソースの制約、法令の複雑さ、中小企業及び脆弱なグループに対する措置の不足は、継続的な改善の必要性を浮き彫りにしている。より健全な職場環境を実現するためには、監視の強化、データ収集及び協働が不可欠である。調査対象となった諸国間で共通するさらなる課題は、以下に示される。

確認された課題

国ごとの状況や法制度の違いにもかかわらず、各国は職場におけるPSRの有効な予防及び管理において共通の課題に直面している。これらの課題は、PSRに対処する複雑さを浮き彫りにし、意味のある進展を確保するための包括的かつ多角的なアプローチの必要性を示している。
既存のPSRに対処する法的枠組みに関して、いくつかの課題が指摘された。一部の事例では、関係者は法律が曖昧すぎるまたは過度に複雑であると指摘し、解釈や効果的な実施が困難であると述べている。例えば、ベルギーでは、法的枠組みが過度に形式的で複雑であるとみなされており、とくに中小企業を含む使用者にとって行政上の負担を引き起こすことがある。クロアチアでは、PSRの法的定義が明確でないため、解釈の余地や適用の一貫性欠如が生じているとの指摘がある。エストニアでは、法令におけるPSRのリストに制約がないため、使用者が関連するリスクをすべてカバーしているかどうか不明確であり、混乱を引き起こしていると報告されている。スペインの関係者は、PSRに特化した専用の法令枠組みの欠如が、実施におけるギャップや曖昧さを生じさせていると指摘している。インタビューをした者によると、多くの人が、法令にPSRの具体的な言及を盛り込む重要性を強調しているが、報告されている明確さの欠如は、とくに小規模組織における遵守を妨げ、また、部門間でPSR措置の実施が不一致になる結果を招いている。
さらに、法令が存在する場合でも、その実施及び執行が不十分であるとの報告が頻繁に寄せられており、PSRへの対応にギャップが生じる可能性が指摘されている。すべての国において、複数の関係者が、遵守を効果的に監視するための十分なリソース及び能力の不足を報告している。デンマークでは、インタビューした者によると、監督の質は改善されたものの、ハラスメントや不明確な要求といった問題は評価が困難だと指摘されており、暴力の場合を除いて罰金がほとんど課されていない状況である。ベルギーとエストニアからのフィードバックでも、監督官の不足が指摘されており、これにより遵守の執行が制限され、職場の監視を効果的に行うことが困難になっている。スペインでは、インタビューをした関係者が、監督のためのリソース不足を報告しており、執行は予防策ではなく反応的な措置に重点が置かれていると説明されている。
EU全体として、中小企業は、限られた財政的、人的及び技術的リソースのため、PSR措置の実施に重大な課題に直面している。これは、調査対象となったすべての国で共通する問題である。相対的に小さい企業は、限られた資源のため、遵守に苦労することが多い。ベルギーでは、中小企業がPSR立法の行政負担に苦労しており、完全な遵守を実現するためのリソースが不足していることが報告されている。オーストリアでは、中小企業におけるPSR評価の実施率が低く、多くの小規模企業が評価を実施していない状況である。エストニアとクロアチアでも同様の課題が指摘されており、中小企業は、包括的なPSR戦略を実施する能力が不足している。スペインでは、中小企業は、PSR評価を法的要件を満たすための形式的な手続きとして扱い、職場のメンタルヘルス改善に向けた意味のある取り組みとして捉えていない傾向がある。
デジタル化とリモートワークの普及は、ワークライフバランスの境界の曖昧化、常に利用可能である必要があるという感覚、孤立感など、既存の政策措置では十分に解決されていない新たなPSRをもたらしている。本研究で対象としたほとんどの国では、最近の立法措置において、これらの新たなリスクの側面を一部カバーしているものの、技術の変化の急速なペースは、デジタル化が労働者のウェルビーイングにポジティブに貢献し、新興リスクを効果的に軽減するための、適応可能なアプローチの必要性を浮き彫りにしている。さらに、とくにリモートワークに関する執行措置の不明確な点や不一致は、明確化が望まれる。
使用者、管理者、労働者及び労働監督官のPSRに関する訓練及び認識の不足、並びにそれらに対処し効果的に防止する方法に関する知識の欠如は、多くのインタビューで指摘されるもうひとつの共通の障害である。調査対象となった諸国における関係者は、使用者と労働者がPSRを効果的に管理するための知識を身につけるための対象を絞った訓練プログラムの必要性を強調している。例えば、デンマークでは、PSRに関する認識は過去数年間で向上したものの、インタビューをした者は、依然として監督官と職場代表向けのさらなる訓練の必要性を指摘している。ベルギーでは、複数の関係者が、中間管理職と上級管理職を対象としたPSRに関する義務的な訓練の必要性を強調し、特定のツールやリソースの開発も求めている。クロアチアでは、使用者がPSR関連法規を効果的に実施するための知識や実践的な理解が不足しているとの報告がある。エストニアでも、PSR管理戦略の策定及び実施に関する専門知識が多くの使用者に欠如していることが指摘されている。さらに、使用者と労働者がPSRの認識と対応に関する訓練が不十分であるとの報告もある。スペインでは、PSR措置の執行及び支援を強化するため、労働監督官と労働組合代表に対する訓練の必要性が報告されている。ただし、一般的にここで考慮すべき点は、このようなテーマに関する知識や意識が高まるほど、特定の措置が求められる傾向があることである。つまり、ベルギーのインタビューで言及されたように、中間管理職向けのPSR管理に関する訓練を要求したインタビュー対象者は、テーマへの意識の高まりと、解決策の着手点に関する知識の向上を示す兆候である可能性がある。
現在の研究結果に基づき、PSR措置の実施を支援する職業心理学者その他の有資格専門家の人材不足が、調査対象の一部国において課題として指摘された。例えば、オーストリアでは、複数の関係者が、職業心理学者がOSHサービスにおいて必須ではない点、及びPSR評価への関与が限定的である点を不利な点として指摘した。エストニアでは、職業心理士の不足が問題として報告され、PSRによる職業病の診断において、職業医が利用できる職業心理学の専門知識が不十分であることも指摘された。同様に、クロアチアでは、リスク評価における労働衛生専門家と心理士の義務的な参加の欠如が、PSR予防措置の質を制限する要因として挙げられた。インタビューの結果によると、ベルギーでも外部のOSH予防サービスの人員不足と過重な業務負荷、及びPSR予防に関する役割(PSR予防アドバイザー)の明確な定義が課題となっている。資格を有する専門家の不足は、PSR評価と介入の質と効果を低下させる可能性がある。
社会対話は、PSR防止の進展にプラスの貢献をしていると報告されている一方、社会対話の欠如は逆の効果をもたらしている。調査対象となった国の一部では、社会対話が十分に発展していないため、効果的なPSR措置の策定及び実施が制限されていると報告されている。クロアチアでは、社会対話は手続き上の義務に留まる場合が多いと報告されており、エストニアでは、PSRへの対処における関係者の協力が限定的であり、社会対話は依然として比較的弱いと報告されている。スペインでは、社会対話は拡大しているものの、PSR管理における労働組合の役割を強化するためには、労働組合の活動のためのより多くの資源と研修が必要であると、複数のインタビュー対象者が指摘している。
もうひとつの共通の課題は、PSR措置に関する信頼できるデータ及び評価の不足であり、これらが証拠に基づく政策立案を妨げている。ベルギーでは、法令上の措置の体系的かつ効果的な評価が行われているが、非法的措置の評価は不足しており、フォローアップが不十分であるとの報告があるす。オーストリアでは、関係者がPSR評価に関する高品質な全国データが存在しないことを確認している。エストニアでは、法的措置と非法的措置の両方について体系的な評価が行われていない。スペインでは、PSR対処の努力を妨げる重大なデータ不足が報告されており、スペインとクロアチアの関係者は、職場のメンタルヘルスを監視するための包括的な研究と報告システムの必要性を強調している。ベルギーとオーストリアはまた、メンタルヘルス結果における職場要因を孤立させて分析する複雑さを指摘し、包括的な評価メカニズムの必要性を強調している。
他方、PSRに関する意識の高まりが、これらの報告件数の増加にもつながる可能性がある点に注意が必要である。その意味では、PSRに曝露していると報告する労働者の数を測定することは、意識向上策や期待の高まりと密接に関連している場合がある。この点において、データは慎重な解釈が必要である。
本章では、対象となった加盟国におけるPSRに対処する際の共通の課題を特定した。主要な優先事項には、法令の明確化、執行の強化、中小企業に対する目標を絞った支援の提供、訓練及び意識向上の強化、システム的な要因の対処、資格を有する専門家の確保の拡大、社会対話の促進、データ収集と評価の改善、及びデジタル化とリモートワークから生じる新たなリスクへの対応が含まれる。これらの課題に取り組むことで、各国は、PSRを効果的に予防・管理できる、より健康で支援的な職場環境を築くことができる。

政策の指針

分析結果によると、PSR防止に関する国の法令は進化を続けており、デジタル化に伴う新たなリスクへの対応を含む包括的なリスク管理への重点が強化されている。しかし、国内ごとのアプローチの差異、執行上の課題、信頼できるデータの不足、及び新たな労働現実への対応におけるギャップが、継続的な課題となっている。

法令枠組み

  • PSRを主要な国のOSH法令に組み込む。本プロジェクトにおける関係者のフィードバックは、まずPSR予防を国のOSH法令に組み込むことから始める、PSRに対処するための政策措置の有用性に関する洞察を確認している。法令が効果的であるためには、使用者に対して明確な義務を課す一方で、ベルギー、デンマーク及びオーストリアの事例が示すように、組織や部門特有のニーズに合わせて介入をあつらえるための柔軟性を確保する必要がある。ただし、法的枠組みの複雑さは回避すべきで、法律がアクセス可能で理解しやすく、執行可能なものであることを確保する必要がある。簡素化された枠組みは、多様な部門における遵守及び効果的な実施を促進する。
  • PSRの包括的な定義を導入する。PSRの特定及び管理は、その多要因的な性質と標準化された定義の欠如により、しばしば複雑化される。明確な法的定義は、労働条件や人間関係を含めすべての関連するリスクを効果的に対処できるようにする。
  • 国の調査でインタビューした関係者の一部は、職業病の公的リストを拡大して、労働におけるPSRによって引き起こされる疾患を含める必要性を強調している。現在、PTSDなどの疾患は、職業病ではなく労働災害として分類されており、心理社会的要因によって引き起こされる職業病を証明する責任が被害者だけにのしかかっているため、手続きを煩雑かつ困難にするとともに、結果の見通しも不明確な状況となっている。
  • 現代の職場課題に対応するよう法令を整備する。テレワークの普及とデジタル化が進むなか、インタビューした関係者の多くが、新興のPSRから労働者を保護するために、労働規制の進化が必要だと指摘している。とくにクロアチアとスペインの関係者は、テレワーク、切断する権利、デジタル化に関連したその他の側面などの新興の課題に対処するための、法令の改正の必要性を強調している。これらの適応措置は、ますますデジタル化や労働環境の柔軟化が進むなかで、労働者のメンタルヘルスとワークライフバランスを保護することを確保する。技術革新から生じる新たな形態のPSRを軽減するために、リモートワークに関するガイドラインを含め、デジタル変革を考慮した包括的な政策が統合されなければならない。スペインの関係者はまた、PSRの法令及び定義が、労働の性質の進化に対応し、将来的に特定される可能性のあるリスクに対処できるよう柔軟であるべきだと強調している。
  • 脆弱なグループに対する目標を絞ったアプローチ。スペインとクロアチアの関係者は、脆弱なグループの特定のニーズが適切に考慮及び保護される必要性を強調した。これは、すべての労働者に対する公平な待遇及び機会を促進する包括的かつ公平な職場政策を通じて実現することができる。たんに法令措置にのみ焦点を当てるのではなく、関係者は、包括性を促進するとともに、広範な労働力に利益をもたらすために、あつらえられた政策、部門別のイニシアティブ、強化された支援メカニズムなど、多様なアプローチの検討を提案した。

法令を実践に移す

  • 異なる部門に対する特別なアプローチも考慮されるべきである。異なる部門は、高度に感情的または認知的な要求、長時間または不規則な労働時間、困難な依頼者、生徒または顧客との対応など、特別な労働条件によって影響を受ける独特のPSRに直面することが多い。これらの部門特有の課題に対処することで、これらの部門の使用者及び労働者向けにより明確でより適切なガイドラインや支援資料の開発が可能となる。あつらえられた部門の措置には、カスタマイズされたリスクアセスメントツール、対象を絞った訓練プログラム、各部門に特化して設計された予防戦略などが含まれる。
  • 意識向上及びスティグマの軽減。PSR及びメンタルヘルス問題に関する意識向上は、スティグマを軽減するとともに、職場における積極的なPSR管理を促進するために不可欠である。エストニア、スペイン及びクロアチアなどの一部の国では、例えばエストニアの「メンタルヘルス月間」など、すでにキャンペーンの実施のような対策を取っているにもかかわらず、スティグマの問題にとくに苦労しているようである。オーストリアでは、スティグマを軽減する取り組みがポジティブな影響を示し、職場文化の改善やPSRとメンタルヘルスへの注目を高めている。同時に、評価の観点から、特定のリスクに関する意識向上が、それらのリスクの報告件数の増加につながる可能性がある点に留意する必要がある。その点で、数値は文脈を考慮し、多因子的要因を念頭に置いて解釈する必要がある。
  • PSR及びメンタルヘルス促進のために共有責任を促進する。対象を絞った非法的取り組みは、使用者と労働者の双方に焦点を当て、組織内におけるメンタルウェルビーイングが共有責任であることを強調すべきである。ベルギーとオーストリアの事例は、使用者に対して、職場条件がメンタルヘルス不調に与える役割について教育することの重要性を示しており、責任の所在を、個人から組織の責任へとシフトさせる必要性を浮き彫りにしている。最初に組織的及び技術的措置を優先することによって、PSRを根絶または予防することを常に確保する、予防のヒエラルキーは、考慮する指針となる原則である。個人的支援は、健全な心理社会的労働環境が確保された場合にのみ有効である可能性がある。
  • PSRリスクアセスメント及び予防計画。PSRを効果的に管理するためには、職場リスクアセスメント及び予防措置のための計画が必要である。使用者は、妥当性及び有効性を確保するために、労働者を計画の策定に積極的に参画させる包括的な戦略を通じて、PSRの根絶または軽減を最優先すべきである。このプロセスにおいて使用者に対する十分な支援を提供することがきわめめて重要である。ベルギーのOiRAツールは、零細中小企業向けに特化して開発され、使用者がPSRアセスメントを実施し、メンタルウェルビーイング政策を策定するうえで、使用者を手引きするリソースとして機能するように設計されている。同様に、オーストリアのAUVAは、労働者50人未満の企業向けに無料の支援とあつらえられたツールを提供し、アクセスしやすく実践的な解決策を促進している。
  • 専門家の参画による予防強化は、労働衛生専門家と心理士の専門知識を職場アセスメント及び予防計画に統合することによって、多くの関係者が有効なアプローチとして指摘している。これらの専門家を参画させることによって、使用者はPSRに対処する戦略が包括的かつ効果的であり、職場におけるメンタルヘルス課題の複雑さに対処することができる。エストニア、クロアチア及びオーストリアの事例は、専門知識を活用して対象を絞った効果的な介入策を開発し、使用者がPSR予防戦略を策定するのを支援する価値を示している。ベルギーの機密保持を重視したカウンセラーと予防アドバイザーの活用アプローチも、職場におけるPSRに関連して生じる問題に対処するための革新的な手法を示している。
  • 労働監督及び監督官の強化。PSR法令の遵守を徹底するととともに、予防の取り組みを支援するために、対象を絞った訓練、追加の人員配置及び/または専門部署の設置、並びに強力なツールの導入を通じた労働監督の強化が不可欠である。ベルギー、スペイン及びオーストリアなどの国では、監督官にチェックリストと訓練を提供している。ベルギーとデンマークでは、PSRに対処するための専門部署を設立しており、例えば、ベルギーの労働における福祉に関する監督総局が挙げられる。エストニアとクロアチアでは、関係者が監督官の能力向上と明確なガイドラインの必要性を強調し、効果的な監督及び使用者支援を確保するための取り組みの強化を指摘している。
  • 中小企業に対する追加の支援。中小企業が利用可能なリソースと専門知識が限られていることが多いことを考慮して、PSR法令の遵守を確保するためには、対象を絞った支援及びインセンティブが不可欠である。簡素化されたツール、財政的インセンティブ及び構造的な支援は、中小企業が具体的な措置を実施するのを支援できる。クロアチアの関係者は、PSR措置が実践的で持続可能なものとなるよう、小規模企業向けの適切な支援の重要性を強調している。ベルギーのOiRAツール支援は、すでに上記で言及されている。構造的な支援は、リソースの不足を補い、中小企業が過度の財政負担なく職場の健康と安全を優先できるようにする。

証拠に基づいた政策のためのデータの活用

  • データ収集の改善。堅固なデータ収集システム、義務的な報告メカニズム及び研究資金の増額は、PSRの理解及び緩和を改善するために不可欠である。職場条件及びリスク、労働者の福祉及びPSRの経済的影響に関する包括的なデータは、証拠に基づいた政策及び実践のために情報を提供する。ベルギー、スペイン、クロアチア及びオーストリアなどの諸国は、正確かつタイムリーなデータに裏づけられた、新興のリスクに対応する法令の必要性を強調している。例えば、ベルギーの労働におけるメンタルウェルビーイングに関する連邦行動計画は、国家回復・レジリエンス計画の下で資金提供を受けたデータマイニングプロジェクトによって補完されている。このイニシアティブは、職業リスク、労働条件及び予防措置に関する500を超える指標を複数のソースから集約した中央データベースを構築している。

社会的対話の促進

  • 社会的対話及び多関係者間の協力を強化する。効果的な社会対話は、PSRに対処し、支援的な職場環境を構築するために不可欠である。使用者、労働者とその代表及び政策決定者間の協働は、PSR予防のための戦略の策定及び実施において多様な視点が反映されることを確保する。ベルギーとデンマークの事例は、国、部門及び企業レベルで関係者を巻き込む多層的なアプローチが、法令及び措置の設計、実施、監視及び評価を改善する方法を示している。
  • 関係者の協働は、ベルギーとオーストリアの事例が示すように、PSRに関する意識向上、スティグマの軽減、報告の促進においても不可欠である。オープンなコミュニケーションチャネルを確立することによって、社会対話はあつらえられた戦略の策定を促進し、政策の受け入れを強化し、職場の福祉向上への共通のコミットメントを育む。これらの協働努力を強化することは、より革新的で効果的な解決策を生み出し、すべての人にとって安全で健康な労働環境を確保する。この包括的なアプローチは、政策が部門特有の課題に対応し、多様な業腫の労働者が直面する現実を反映するように確保する。

https://osha.europa.eu/en/publications/strategies-and-legislation-psychosocial-risks-six-european-countries

安全センター情報2026年3月号