労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について(基発0514第1号令和7(2025)年5月14日
基発0514第1号
令和7年5月14日
都道府県労働局長殿
厚生労働省労働基準局長
目次
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号。以下「改正法」という。)については、本年3月14日に第217回国会に提出され、本年5月8日に可決成立し、本日公布されたところである。
少子高齢化が進展し、生産年齢人口の減少が見込まれる中、多様な人材が安全に、かつ、安心して働き続けられる職場環境を整備するため、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の強化、化学物質による健康障害防止等の仕組みの整備、機械等による労働災害防止の促進、高年齢労働者の労働災害防止のための取組の強化等の措置を講ずるものである。
改正法の内容は第1のとおりであり、施行期日は、その内容に応じて、公布日、令和8年1月1日、令和8年4月1日、令和8年10月1日、令和9年1月1日、令和9年4月1日、改正法の公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日又は改正法の公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日とされている。[編注:施行期日を各事項の末尾に鉤括弧で記載]
また、公布日施行分に係る改正事項の趣旨、細部事項等については第2のとおりである。公布日施行分以外の改正事項について、その施行のために必要な関係政省令、指針等は、今後、労使等の関係者の意見を聴きつつ検討することとしている。
貴職におかれては、改正法の円滑な施行に万全を期すため、以上のことを十分御理解の上、所要の準備に努められたい。
記
第1 改正法の内容
Ⅰ 個人事業者等に対する安全衛生対策
1 個人事業者の定義及び注文者等が講ずべき措置
(1) 事業を行う者で労働者を使用しないものを、個人事業者として労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)に位置付けることとしたこと。(安衛法第31条の3第1項関係)[令和8年4月1日施行]
(2) 建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないこととしたこと。(安衛法第3条第3項関係)[令和7年5月14日(公布日)施行]
(3) 厚生労働大臣は、労働災害防止計画の的確かつ円滑な実施のため必要があると認めるときは、事業を行う者、その団体その他の関係者に対し、労働災害の防止に関する事項について必要な勧告又は要請をすることができることとしたこと。(安衛法第9条関係)[令和8年4月1日施行]
(4) 特定元方事業者等が統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合を、その労働者及び関係請負人の労働者が一の場所において作業を行うときとしていたのを改め、その労働者である作業従事者(事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者をいう。以下同じ。)(当該労働者である作業従事者のほか、労働者以外の当該特定元方事業者に係る作業従事者がある場合には、当該者を含む。)及び関係請負人に係る作業従事者が一の場所において作業を行うときとしたこと。(安衛法第15条第1項及び第3項関係)[同前]
(5) 建設業に属する事業の元方事業者等が店社安全衛生管理者を選任しなければならない場合、特定元方事業者等が作業間の連絡及び調整等の措置を講じなければならない場合並びに製造業等の業種に属する事業の元方事業者等が作業間の連絡及び調整等の措置を講じなければならない場合について、(4)と同様の改正を行うこととしたこと。(安衛法第15条の3、第30条第1項、第2項及び第4項並びに第30条の2第1項及び第4項関係)[同前]
(6) 建設業その他政令で定める業種に属する事業の仕事で、政令で定めるものを行う事業者は、爆発、火災等が生じたことに伴い作業従事者の救護に関する措置がとられる場合における労働災害の発生を防止するため、救護に関し必要な措置を講じなければならないこととし、当該仕事が数次の請負契約によって行われる場合においては、元方事業者又は指名された事業者は、当該場所において当該仕事の作業に従事する全ての作業従事者に関し、当該措置を講じなければならないこととしたこと。(安衛法第25条の2第1項並びに第30条の3第1項及び第4項関係)[同前]
(7) 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人に係る作業従事者が、仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行い、当該者がこれらの規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならないこととし、当該者は当該指示に従わなければならないこととしたこと。(安衛法第29条関係)[同前]
(8) 建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊するおそれのある場所等において関係請負人に係る作業従事者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならないこととしたこと。(安衛法第29条の2関係)[同前]
(9) 作業場所管理事業者(仕事を自ら行う事業者であって、当該仕事を行う場所を管理するものをいう。以下この(9)及び(13)において同じ。)は、その管理する一の場所においてその労働者である作業従事者(当該労働者である作業従事者のほか、労働者以外の当該作業場所管理事業者に係る作業従事者がある場合には、当該者を含む。)及びその請負人に係る作業従事者が作業を行う場合であって、これらの作業従事者のいずれかが、危険性又は有害性等を勘案して厚生労働省令で定める業務に係る作業を行うときは、当該作業が行われることによって生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならないこととした。ただし、当該場所において一の仕事のみが行われる場合において、当該仕事に係る全ての作業従事者に関して第30条第1項又は第30条の2第1項の措置が講じられることとなるときは適用しないこととしたこと。(安衛法第30条の4関係)[令和9年4月1日施行]
(10) 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物等を当該仕事を行う場所においてその請負人に係る作業従事者(労働者及び労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者に限る。)に使用させるときは、当該建設物等について、労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととしたこと。(安衛法第31条第1項関係)[令和8年4月1日施行]
(11) 建設業に属する事業の仕事を行う二以上の事業者又は個人事業者に係る作業従事者(労働者及び労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者に限る。)が一の場所において機械に係る作業を行う場合において、当該作業に係る仕事を自ら行う発注者又は当該仕事の全部を請け負った者で、当該場所において当該仕事の一部を請け負わせているものは、当該場所において当該作業に従事する全ての労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととした。(安衛法第31条の3第1項関係)[同前]
(12) 注文者は、その請負人に対し、仕事に関し、その指示に従って当該請負人に係る作業従事者が作業を行ったならば、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反することとなる指示をしてはならないこととしたこと。(安衛法第31条の4関係)[同前]
(13) (9)の場合において、作業場所管理事業者の請負人で、当該場所において仕事を自ら行うものは、(9)により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならないこととし、作業従事者は、(9)により講ぜられる措置に応じて、必要な事項を守らなければならないこととし、これらの請負人及び作業従事者は、作業場所管理事業者が(9)の措置の実施を確保するためにする指示に従わなければならないこととしたこと。(安衛法第32条第4項、第7項及び第8項関係)[令和9年4月1日施行]
(14) (5)、(6)、(10)等の場合において、作業従事者は、講ぜられる措置に応じて必要な事項を守らなければならないこととし、これらの措置の実施を確保するためにされる指示に従わなければならないこととしたこと。(安衛法第32条第7項及び第8項関係)[令和8年4月1日施行]
(15) 機械等を事業を行う者に貸与する者は、当該機械等の貸与を受けた事業を行う者の事業場における当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととしたこと。(安衛法第33条第1項関係)[同前]
(16) 建築物を事業を行う者に貸与する者は、当該建築物の全部を一の事業者若しくは個人事業者に貸与するとき、又は二以上の個人事業者のみに貸与するときを除き、当該建築物の貸与を受けた者の事業に係る当該建築物による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととしたこと。(安衛法第34条関係)[同前]
(17) (9)及び(13)の措置等は、厚生労働省令で定めることとしたこと。(安衛法第36条関係)[令和9年4月1日施行]
2 個人事業者等が講ずべき措置
(1) 労働者以外の者で労働者と同一の場所において仕事の作業に従事するものは、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならないこととしたこと。(安衛法第4条関係)[令和8年4月1日施行]
(2) 労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者は、事業者が安衛法第20条から第25条まで及び第25条の2第1項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならないこととし、当該者が守らなければならない事項は、厚生労働省令で定めることとしたこと。(安衛法第26条及び第27条第1項関係)[同前]
(3) 事業者は、安衛法第42条第1項の機械等について、同項の規格又は安全装置を具備しなければ、労働者に使用させてはならないこととし、作業従事役員等(事業者(厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する者に限る。)又は個人事業者(これらの者が法人である場合には、その代表者又は役員)である作業従事者をいう。(4)及び(5)において同じ。)は、自ら当該機械等を使用して、労働者と同一の場所において仕事の作業を行う場合には、当該規格又は安全装置を具備していない当該機械等を使用してはならないこととしたこと。(安衛法第42条第2項及び第3項関係)[令和9年4月1日施行]
(4) 個人事業者に係る作業従事役員等は、労働者と同一の場所において仕事の作業を行う場合には、厚生労働省令で定めるところにより、安衛法第45条第1項の機械等について定期自主検査を行い、及びその結果を記録しておかなければならないこととしたこと。また、個人事業者に係る特定自主検査の実施方法を定めたこと。(本法案第2条による改正後の安衛法第45条第2項及び第3項関係)[同前]
(5) 作業従事役員等は、労働者と同一の場所において危険又は有害な業務に就くときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を受けなければならないこととし、当該教育のほか、作業を行う場所における安全衛生の水準の向上を図るため、安全又は衛生のための教育を受けるように努めなければならないこととしたこと。(安衛法第59条第4項及び第60条の2第2項関係)[同前]
3 申告及び災害状況の調査
(1) 作業従事者は、事業場に安衛法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができることとし、注文者、機械等貸与者その他作業従事者に係る事業を行う者の契約の相手方は、当該申告を理由として、当該事業を行う者に対し、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならないこととしたこと。(安衛法第97条第1項及び第3項関係)[令和8年4月1日施行]
(2) 厚生労働大臣は、労働災害の防止に資する施策を推進するため、業務に起因して作業従事者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡した災害の発生状況に係る情報その他の必要な事項について調査を行うことができることとしたこと。また、厚生労働大臣は、当該調査のために必要なときは、事業を行う者及び作業従事者に対し、必要な事項を報告させることができることとし、当該厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長及び労働基準監督署長に委任することができることとしたこと。(安衛法第100条の2関係)[令和9年1月1日施行]
Ⅱ 心理的な負担の程度を把握するための検査等に関する特例の終了
政令で定める規模未満の事業場(常時使用する労働者数が50人未満の事業場)については、安衛法第66条の10第1項の労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査の実施が、当分の間、努力義務とされていたところ、当該規定を削除することとしたこと。(安衛法附則第4条関係)[公布日から3年以内に施行]
Ⅲ 化学物質による健康障害防止等の仕組みの整備
1 作業環境測定の対象拡大
(1) 「個人ばく露測定」とは、作業環境測定のうち、作業環境における労働者の有害な因子へのばく露の程度を把握するために行うものをいい、作業環境における労働者の有害な因子へのばく露の程度を把握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)を作業環境測定に位置付けることとしたこと。(作業環境測定法(昭和50年法律第28号。以下「作環法」という。)第2条第3号及び安衛法第2条第4号関係)[令和8年10月1日施行]
(2) 事業者は、健康障害の防止のための措置等を講ずる場合であって厚生労働省令で定めるときは、厚生労働省令で定めるところにより作業環境測定を行わなければならないこととし、また、通知対象物等による危険性又は有害性等の調査を行うに当たり、必要に応じて作業環境測定を行うこととしたこと。これらの場合における作業環境測定は、作業環境測定基準に従って行わなければならないこととしたこと。(安衛法第65条の3関係)[同前]
(3) 作環法上の「指定作業場」とは、安衛法第65条第1項の作業場のうち政令で定めるもの及び同法第65条の3第1項から第3項までの規定により作業環境測定を行う作業場のうち政令で定めるものをいうこととしたこと。(作環法第2条第4号関係)[同前]
(4) 事業者は、(2)の作業環境測定を行うときは、その使用する作業環境測定士にこれを実施させなければならないこととしたこと。(作環法第3条第1項関係)[同前]
(5) 作業環境測定士及び作業環境測定機関は、(2)の作業環境測定を実施するときは、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従ってこれを実施しなければならないこととし、作業環境測定士は、個人ばく露測定のうちサンプリング又は分析の業務であって厚生労働省令で定めるものを行う場合には、厚生労働省令で定める者に補助させることができることとしたこと。(作環法第4条関係)[同前]
(6) 作環法は、適正な作業環境及び労働者の作業の安全かつ衛生的な遂行を確保し、もって職場における労働者の健康を保持することを目的とすることとしたこと。(作環法第1条関係)[同前]
2 作業環境測定士試験及び登録
作業環境測定士試験の受験資格から労働衛生の実務の従事経験を削り、これを作業環境測定士となる登録の要件に加えることとし、作業環境測定士の登録の申請書に添付しなければならない書類は、厚生労働省令で定めることとしたこと。(作環法第5条、第9条第2項及び第15条関係)[同前]
3 危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保
通知対象物譲渡者等(通知対象物を譲渡し、又は提供する者をいう。4において同じ。)の文書の交付等による通知義務に罰則を設けるとともに、通知事項に変更を行う必要が生じた場合の変更事項の通知について、努力義務を義務に引き上げることとしたこと。(安衛法第57条の2第2項及び第119条第4号関係)[公布日から5年以内に施行]
4 営業秘密である成分に係る代替化学名等の通知
(1) 通知対象物譲渡者等は、通知対象物に関する成分(労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれの程度を勘案して厚生労働省令で定める化学物質である成分に限る。)の情報が、秘密として管理されている製品の情報その他の事業活動に有用な情報であって、公然と知られていないものである場合には、その旨を相手方にあらかじめ明示した上で、代替化学名等(当該成分の化学名における成分の構造又は構成要素を表す文字の一部を省略し、若しくは置き換えた化学名又は厚生労働省令で定める事項をいう。以下この(1)、(2)及び(4)において同じ。)を定め、これを通知することをもって通知対象物に関する成分の通知に代えることができることとし、これにより代替化学名等を通知された者は、当該通知対象物を譲渡し、又は提供する場合には、当該通知対象物の成分について代替化学名等を通知された旨を相手方にあらかじめ明示した上で、代替化学名等を通知することをもって通知対象物に関する成分の通知に代えることができることとしたこと。(安衛法第57条の2第3項及び第6項関係)[令和8年4月1日施行]
(2) 代替化学名等通知者((1)により代替化学名等を定め、通知を行った者をいう。(3)において同じ。)は、当該通知に係る通知対象物の成分、通知した代替化学名等その他の厚生労働省令で定める事項を記録しなければならないこととし、当該記録に基づいて作成した書類を保存しなければならないこととしたこと。(安衛法第57条の2第4項及び第103条第4項関係)[同前]
(3) 代替化学名等通知者は、通知対象物による健康障害が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、医師による診断、治療その他の厚生労働省令で定める行為のために必要があるときは、当該医師の求めに応じて、当該通知対象物の成分の情報を当該医師に開示しなければならないこととしたこと。また、厚生労働大臣等は通知対象物譲渡者等に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができることとしたこと。(安衛法第57条の2第5項及び第100条第1項関係)[同前]
(4) 厚生労働大臣は、代替化学名等の通知の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することとし、当該指針に従い、通知対象物譲渡者等に対し、必要な指導等を行うことができることとした。(安衛法第57条の2第8項及び第9項関係)[同前]
Ⅳ 機械等による労働災害防止対策
1 特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化
(1) 特定自主検査は、厚生労働大臣の定める基準に従って行わなければならないこととしたこと。(本法案第1条による改正後の安衛法第45条第3項関係)[令和8年1月1日施行]
(2) 検査業者は(1)の基準に従って特定自主検査を行わなければならないこととし、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、これに違反した検査業者に対し、特定自主検査の方法その他の業務の方法の改善に関し必要な措置をとるべきことを命ずることができることとしたこと。(安衛法第54条の4第2項及び第54条の6関係)[同前]
(3) 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、(2)の前段に違反し、又は(2)の後段の命令に違反した検査業者の登録を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて特定自主検査の業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができることとしたこと。(安衛法第54条の7第2項関係)[同前]
(4) 何人も、安衛法第76条第2項の規定により技能講習修了証を交付する場合を除くほか、技能講習修了証又はこれと紛らわしい書面を交付してはならないこととし、都道府県労働局長は、技能講習の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、技能講習修了証を不正に交付し、又はこれと紛らわしい書面を交付した者に対し、当該技能講習修了証又はこれと紛らわしい書面の回収を図ることその他必要な措置をとるべきことを命ずることができることとしたこと。(安衛法第76条の2関係)[同前]
(5) 都道府県労働局長は、登録教習機関が(4)の命令に従わない場合には、その登録を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて技能講習若しくは教習の業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができることとし、これにより登録を取り消したときは、厚生労働大臣が定める基準に従い、十年を超えない範囲内で取消処分を受けた者が登録を受けることができない期間を指定することができることとしたこと。(安衛法第77条第3項及び第4項関係)[同前]
2 特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し
(1) 特定機械等の製造の許可の申請は、登録設計審査等機関が行った設計審査(申請に係る特定機械等の設計が厚生労働大臣の定める基準のうち特定機械等の構造に係る部分に適合しているかどうかの審査をいう。以下同じ。)の結果を記載した書類を添付して行わなければならないこととしたこと。ただし、安衛法第53条の2第1項の規定に基づき都道府県労働局長が当該申請に係る特定機械等の設計審査の業務を行うときは、この限りでないこととしたこと。(安衛法第37条第3項関係)[令和8年4月1日施行]
(2) 特定機械等のうち、ボイラー、第一種圧力容器、移動式クレーン及びゴンドラ(以下この(2)において「ボイラー等」という。)を製造し、若しくは輸入した者、ボイラー等で厚生労働省令で定める期間設置されなかったものを設置しようとする者又はボイラー等で使用を廃止したものを再び設置し、若しくは使用しようとする者は、登録設計審査等機関の製造時等検査を受けなければならないこととし、登録設計審査等機関は、製造時等検査に合格した移動式のボイラー等について、検査証を交付することとしたこと。また、外国においてボイラー等を製造した者は、輸入されたボイラー等について、自ら登録設計審査等機関の検査を受けることができることとしたこと。(安衛法第38条第1項及び第2項並びに第39条第1項関係)[同前]
(3) 登録設計審査等機関の登録は、地域の区分ごとに、設計審査又は製造時等検査を行おうとする者の申請により行うこととし、設計審査に係る登録要件を設けることとしたこと。(安衛法第46条及び別表第4の2~別表第7関係)[同前]
(4) 登録設計審査等機関の義務等について、改正前の登録製造時等検査機関と同様としたこと。ただし、登録設計審査等機関は、厚生労働大臣が定める方法に従って設計審査又は製造時等検査を行わなければならないこととし、登録事項のうち名称等の変更の届出については、変更の日から二週間以内に、厚生労働大臣に届け出なければならないこととしたこと。(安衛法第47条~第53条の2関係)[同前]
3 型式検定対象機械等、技能講習対象業務等の見直し
(1) 型式検定対象機械等として、安衛法第42条第1項の機械等のうち安全装置又は保護具であって、規格等を具備しなければ重大な労働災害を生ずるおそれがあるものであり、かつ、個別検定によることが適当でないものとして政令で定めるものを追加し、必要な規定を整備したこと。(安衛法別表第4及び別表第14関係)[同前]
(2) 技能講習のうち車両系建設機械その他の政令で定める車両系機械の運転に係る技術を取得させるための講習を車両系機械運転技能講習とし、当該講習に係る登録教習機関の登録要件等を定めることとしたこと。(安衛法別表第18~別表第20関係)[同前]
Ⅴ 高年齢者の労働災害防止のための措置
1 事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならないこととしたこと。(安衛法第62条の2第1項関係)[同前]
2 厚生労働大臣は、1の事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することとし、当該指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができることとしたこと。(安衛法第62条の2第2項及び第3項関係)[同前]
Ⅵ 公示手段の適正化
登録設計審査等機関の登録をしたとき等における公示手段を官報に限定しないこととしたこと。(安衛法第112条の2、作環法第22条第1項及び第3項、第29条第2項、第30条第2項並びに第31条第2項関係)[同前]
Ⅶ 附則
1 施行期日
法律の施行期日を、その内容に応じて、公布日(Ⅰの1の(2))、令和8年1月1日(Ⅳの1)、令和8年4月1日(Ⅰの1の(1)・(3)~(8)・(10)~(12)・(14)~(16)、Ⅰの2の(1)・(2)、Ⅰの3の(1)、Ⅲの4、Ⅳの2・3、Ⅴ、Ⅵ)、令和8年10月1日(Ⅲの1・2)、令和9年1月1日(Ⅰの3の(2))、令和9年4月1日(Ⅰの1の(9)・(13)・(17)、Ⅰの2の(3)~(5))、改正法の公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日(Ⅱ)又は改正法の公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日(Ⅲの3)としたものであること。(附則第1条関係)
2 準備行為及び経過措置
登録設計審査等機関の登録及び業務規程並びに厚生労働大臣が定める改正法による改正後のⅢの4の(4)及びⅤの2の指針について準備行為を設けたものであること。また、製造時等検査、検査証、登録製造時等検査機関、技能講習及び技能講習修了証等に係る経過措置を設ける等したものであること。(附則第2条~附則第9条関係)
3 検討規定
政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、これらの法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとしたこと(附則第10条関係)。
4 関係法律の整備
登録免許税法(昭和42年法律第35号)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)について、所要の規定の整理等を行うものとしたこと(附則第11条~附則第14条関係)。
第2 公布日施行分(第3条第3項関係)の改正趣旨等
Ⅰ 改正趣旨及び内容
安衛法第3条第3項は、昭和47年の安衛法制定当時から広く「仕事を他人に請け負わせる者」に適用されてきたものであり、特に建設工事の発注における不適切な工期設定や施工方法の指定が想定されていたことから、建設工事の注文者を例示してきたところであるが、無理な納期設定、作業方法の指定、経費の算定等により労働災害が起こる可能性は建設工事に限られないため、建設工事以外の注文者にも広く適用される趣旨を、明確にしたものであること。
また、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件の例示として、「作業方法」、「納期」を追加したものであること。
Ⅱ 細部事項
(1) 第3条第3項の「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」には、建設工事以外の注文者も含まれること。
(2) 第3条第3項の「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」は、事業主体ではない個人や一般消費者等も含む趣旨であるが、そのような場合であっても、自らの注文した内容が、仕事を請け負った者の安全衛生に影響を及ぼす可能性があることを十分に理解した上で、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないものであること。
(3) 第3条第3項の「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」が仕事を注文する際、①作業場所、②作業方法、③作業に使用する機械・設備等、④作業に使用する原材料等、⑤作業時間帯等を指定する場合には、当該指定が「安全で衛生的な作業の遂行」に影響を及ぼすことがあることから、指定内容に応じ、安全衛生上、留意すべき情報等を明示する等の配慮が必要であること。
また、指定内容によって安全衛生上必要となる教育・研修の受講や機械等の検査等に要した費用についても、当該費用のうち、当該教育・研修や検査の有効期間を受注した仕事に要する期間で按分した金額を安全衛生経費として計上するなどの配慮が必要であること。
なお、注文内容の変更に伴って、教育・研修や機械等の検査等が新たに必要となるような場合については、これに要する費用については、注文者が負担することが適当であるため、請負金に当該費用を追加するなどの配慮が必要であること。
(4) 第3条第3項の「施行方法、作業方法、工期、納期等」には、工程・請負金の費目等が含まれるものであること。
(5) 第3条第3項の「安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件」には、無理な工期・納期の設定や変更、当初予定していなかった条件の注文後の付加等が含まれるものであること。
また、運送業や短期間で行われる建設工事のように、発注ごとに作業場所や作業環境が異なり、仕事を受注した者が作業時に初めて具体的な状況が分かるような場合には、「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」が
① 作業場所を管理する者に適切な作業環境の確保を求める
② 作業場所を管理する者と協議し、あらかじめ作業内容や作業条件を契約時に明示する
などの対応を行うことが含まれるものであること。
(6) プラットフォーマー(インターネット等を活用し、利用者とサービス提供者を結び付ける仕組みや場を提供・運営する事業者をいう。以下同じ。)に対する本条の適用については、サービス提供の形態等によって差異はあるものの、プラットフォーマーから他人に対して仕事を注文する場合には、第3条第3項の「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」に該当するものであること。
また、プラットフォーマーから他人に対して仕事を注文しない場合には、「建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者」に該当せず、本条は適用されないが、プラットフォーマーが提供するサービスを通じた仕事の受注者の仕事に係る契約内容を履行する上で指示、調整等を要するものについて、当該プラットフォーマーがアプリによる業務支援等必要な干渉を行う場合には、仕事の注文者と連携して、受注者の「安全で衛生的な作業の遂行」を損なわないよう、配慮することが望ましいこと。
(※) なお、(1)及び(4)については、「労働安全衛生法および同法施行令の施行について(昭和47年9月18日付け基発第602号)」と同内容である。
安全センター情報2025年7月号