ロッテルダム条約COP11代表団に対する公開書簡/Open letter to the RC COP11 delegates, 2023.5.

すべての締約国に、複雑な問題に対する単純な解決策、新たな付属書Ⅷを創設する改正提案を支持するよう求める

世界経済には、35万種類以上の化学物質が流通している。多くの化学物質とその廃棄物が有害な性質をもち、人間の健康と環境に重大な悪影響を及ぼす。
労働者は、化学物質の最初の使用者であり、もっとも曝露されやすい脆弱な集団のひとつである。100万人を超す労働者が、有害な化学物質とその廃棄物への曝露によって死亡している。ロッテルダム条約は、有害な化学物質と駆除剤の使用から人間の健康と環境を守ろうとする、グローバルな安全衛生枠組みにおける重要な手段である
有害な化学物質と駆除剤に関する同条約の事前の情報提供に基づく同意(PIC)の手続は、各国、とりわけ低所得国や移行経済諸国が、自国に入ってくるリストに掲載された有害物質について知る権利をもつことを確保する。輸出国に、リストに掲載された有害物質を輸送する前に、輸入国の事前の情報に基づく同意を求める要求事項は、有害物質の国境を越えた移動における重要な管理を提供する。重要なのは、同条約は、化学物質の貿易を禁止するのではなく、この重要な情報共有ツールが主権国家に、その国民の健康はもちろん環境を守るための情報に基づく意思決定を可能にすることである。
しかし、この条約は重大な岐路に立たされている。当初は協力を促進するために導入された、物質のリスト掲載のための「全会一致」要件がそうではなく、少数の締約国が、勧告された高度に有害な物質のリスト掲載を首尾よく阻止し続けることを許すことによって、いまや条約の存続と有効性を脅かしているのである。このような慣行は、それらの物質がリスト掲載のすべての要件を満たしていることを決定してきた化学物質審査委員会(CRC)の科学に基づく作業を台無しにするものである。

改正提案は単純な解決策を提供

オーストラリア、ブルキナファソ、コロンビア、コスタリカ、ジョージア、ガーナ、ナイジェリア、 ノルウェー、ペルー、モルディブ共和国、南アフリカ、スイス、トーゴ、イギリスによって提案された改正案が、2023年5月のCOP11で検討されようとしている。

この改正案は、核心としての全会一致原則も守りつつ、締約国がこれまで行ってきた活動を基礎とする条約の有効性を改善するための新たな単純な解決策を提供するものである。それは、有害な化学物質に関する情報を共有したいと望む締約国が、引き続きそうすることを可能にする。要約すると、改正提案は、承認されれば、以下をもたらすだろう。

  • 付属書Ⅲを維持し、リスト掲載のための全会一致による意思決定プロセスを維持する。条約の一義的目的は、付属書Ⅲへのリスト掲載を促進することであり続ける。
  • しかし、化学物質が、化学物質審査委員会(CRC)によって付属書Ⅲへのリスト掲載の要件を満たすと確認されたものの、COPが全会一致によってリスト掲載に合意することができない場合に、新しい経路が利用できる。この新たな付属書(付属書Ⅷ)へのリスト掲載は、4分の3以上の多数決による支持を得る必要がある。
  • 新たな付属書Ⅷにリスト掲載された化学物質については、事前の情報提供に基づく同意手続も適用されるが、明示的な同意が必要であるという重要な新たな変更が加えられている。
  • この改正条約は単純に、阻止された物質について情報を共有しようとする締約国に、そうするための手段を創設する。これは並行路線ではなく、情報提供の主要な手段として付属書ⅢとPIC手続を維持しつつ、阻止された化学物質に関連した情報共有を勧めたい締約国に新しい道筋を提供するだけである。

付属書Ⅷのリスト掲載に関する明示的な同意の要求事項は、新たな付属書Ⅷへのリスト掲載された化学物質に関する手続が付属書Ⅲの場合よりも厳格であることを意味することから、重要な新しい要素である。
われわれは、多くの締約国及び多数の専門家によって示された強い支持に留意する。そのなかでもとくに注目すべきは、共同声明を発表した3人の国連特別報告者である。
「われわれは締約国に対して、スイス、マリ及びオーストラリアによって提案された改正を採択するよう求める。われわれは、化学物質によって人権、人間の健康及び環境の完全性に対してもたらす深刻なリスクと気概に対処するために、制度や手段を適切かつ適合したものに保つ大胆な行動を必要としている。」
安全で健康的な労働に対する権利は基本的人権であり、ディーセントワークに不可欠なものである。
2022年にILOの国際労働会議は、全会一致により、安全で健康的な労働環境を、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言に含めることに合意した。安全衛生はいまや、労働の世界における基本的権利として、強制労働、児童労働からの保護、団体交渉権及び結社の自由と並んで追加されている。
これは、ILOの187の加盟国すべてが、基本的権利として、健康的で安全な職場を推進することを約束したことを意味している。重要なのは、第155号条約が、中核的条約に追加されたことである。様々な義務のなかでも、それは、物質のリスクとその正しい安全な使用に関する情報を共有することを求めている。
われわれ、以下に署名した団体と個人は、より効果的なロッテルダム条約知る権利の擁護に尽力するロッテルダム条約のすべての締約国に対して、COP11で議論される改正提案を支持するよう求める。現在、同条約は、創設されたときに共有されていた期待と意図に応えることができず、効果のないツールになる危険にさらされている。関心をもつ締約国が条約の近代化に失敗すれば、条約は、その潜在能力を十分に発揮できず、より多くの労働者と消費者が重傷を負い、死亡することになるだろう。

https://solidar.ch/wp-content/uploads/2023/05/Open-Letter-COP-11.pdf

安全センター情報2023年8月号