2022年度労災認定15万件、急増にも処理対応、認定率99.7%、5類移行後も認定取り扱いに変更なし【特集】新型コロナウイルス感染症
目次
労災請求件数等の公表は186回目
厚生労働省は2023年4月18日に、同年3月31日現在の「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等」を公表した。
2020年4月30日現在分の公表以降、平日ほとんど毎日情報更新を続けた後、2020年12月4日現在分以降は毎週、2021年10月31日現在分以降は毎月に切り替えて、情報更新を続けている。今回は186回目の公表となる。図1は、過去の公表内容をグラフ化したものであり、表3は4月18日の公表内容に率等を加えたものである。
月別の労災請求・決定件数も公表されるようになっているが、こちらの数字は公表されるたびに修正されている。表2は、4月18日の公表内容である。
他方、令和3(2021)年度分の「業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)」が2022年12月にとりまとめられ、厚生労働省ウエブサイトで公表されている。
2019年度と2020年度の数字(ウエブ上には情報なし)も含めて、表1に示した。2022年度の新型コロナウイルス感染症の数字には4月18日に公表された数字を入れ、同感染症以外が仮に約10,000件だったとした場合の推計を示している。
新型コロナウイルス感染症は最大の職業病
新型コロナウイルス感染症の労災認定は、2019年度は0件、2020年度に初めて4,556件だったものが、2021年度には19,608件、そして2022年度には149,481件(約15万件)へと、対前年度比で、2021年度には4.3倍、2022年度は7.6倍(対2020年度比では32.8倍)へと劇的に増加した。
2020年度には業務上疾病認定件数全体の30.3%を占めたが、2021年度には69.9%を占めるに至り、2022年度には約95%を占めるという事態になっている可能性が高い。
別の言い方をすれば、新型コロナウイルス感染症が主な原因となって、業務上疾病(職業病)認定件数全体が対前年度比で、2020年度には1.8倍、2021年度には1.9倍(対2019年度比では3.4倍)になり、2022年度には5.7倍(対2019年度比では19.2倍)になっているかもしれないということである。
新型コロナウイルス感染症は、まさに最大の職業病になっている。
新型コロナウイルス感染症は最大の職業病
新型コロナウイルス感染症に関する労災請求は2020年3月に最初の1件があったとされ、2020年5月15日に厚生労働大臣が、初めての認定決定2件があったことを公表している。
月別請求件数は、2020年6月~12月は3桁、2021年1月~2022年2月は2022年1月を除き1,000~3,000件、2022年3月以降は5,000件を超え、2022年9月以降は1万件を突破、2022年9月と10月がとりわけ多く2万件を超えている(表2・図2)。
累計請求件数は、2021年4月に1万件を超え、2022年6月に5万件を突破、同年10月に10万件、2023年1月に15万件を突破して、2023年3月31日現在で190,402件となった(図1)。
月別認定(支給決定)件数は、2020年6月~2021年2月は3桁、2021年3月~2022年4月は2022年2月を除き1,000~3,000件、2022年5月以降は5,000件を超え、2022年9月以降は1万件を突破、2022年10月がとりわけ多く2万件を超えている(表2・図2)。
累計認定件数は、2021年7月に1万件を超え、2022年8月に5万件を突破、同年12月に10万件、2023年2月に15万件を突破して、2023年3月31日現在で173,645件となった(図1)。累積請求件数よりも2月程度遅れて推移しているように見える。
認定率(認定件数/決定件数)は、2020年10月19日現在までは100%で、その後不支給決定事例が現われはじめたものの、2023年3月31日現在でも累計不支給件数は509件にとどまり、認定率は99.7%という高い水準を維持している。ちなみにもっとも認定率が低かったのは、2021年3月12日現在で94.6%だった(図1)。
処理率(決定件数/請求件数)は、2020年9月9日現在の56.5%まで急速に上昇した後、2021年5月頃まで停滞ないし減少が続き、その後2022年1月31日現在の89.2%まで再び増加、請求件数急増のためと思われるが、2022年4月30日現在の67.0%まで減少したものの、その後引き続く請求件数の増加にもかかわらず持ち直して、2023年3月31日現在で91.5%という状況である。
労災請求と事業主による報告の乖離拡大?
以上に加えて、事業者が届け出た労働者死傷病報告のデータとの関係もみておきたい。
2021年4月30日に公表された「令和2年の労働災害発生状況」によると、暦年で2020年の死傷者数は131,156人で、うち6,041人が新型コロナウイルス感染症によるものだった(全体の4.6%)。表2から同期間の労災請求件数を計算すると2,652件である。事業者が労働災害であるとして6,041件報告しているにもかかわらず、労災請求がなされたのはその43.9%にすぎないということになる。同期間中の認定件数は1,516件にとどまっていた。
2022年5月30日に公表された「令和3年の労働災害発生状況」によると、暦年で2021年の死傷者数は149,918人で、うち19,332人が新型コロナウイルス感染症によるものだった(全体の19.9%)。表2から同期間の労災請求件数を計算すると20,860件である。今度は、事業者が労働災害であるとして報告している数を上回る労災請求がなされたことになる。同期間中の認定件数は18,554件だった。
本稿執筆時点で「令和4年の労働災害発生状況」はまだ公表されていない(編注・令和4年の労働災害発生状況を公表)。2023年3月7日までに報告があったものを集計した「令和5年3月速報値」によると、死傷者数は275,733人、うち31,597人が「その他」で「主として感染症による労働災害を示す分類」と説明されている。前年度-2022年3月7日までに報告があったものを集計した「令和4年3月速報値」では、死傷者数は146,856人、うち31,024人が「その他」で「主として感染症による労働災害を示す分類」と説明されていた。死症者数は1.9倍に(128,877人)増加しているのに、「その他」の数はほとんど変わっていない。表2から暦年で2022年の労災請求件数を計算すると118,945件、認定件数は102,734件である。前年同様に労災請求件数が事業主による報告件数を上回っているだけでなく、両者の乖離が著しく拡大していることになるかもしれない。注目されると同時に、問題点の抽出と対策が必要な課題でもある。
医療従事者等の事例が4分の3
累計では、2023年3月31日現在の新型コロナウイルス感染症の労災請求190,402件、認定173,645件、不支給509件。認定率は99.7%で、処理率は91.5%となっている。請求のうち死亡は213件で、請求全体の0.11%(うち200件が認定され、不支給は1件のみ)という結果である(表3)。なお、参考までに、2022年6月号で紹介した2022年3月31日現在の状況を一部改編して、表4として再掲しておく。
表3・4では、医療従事者等、医療従事者等以外、海外出張者の別に、業種別の労災請求件数等を示している。
2023年3月31日現在の状況(表3)で、医療従事者等については、労災請求143,348件(全体の75.3%)、認定130,394件(75.1%)、不支給299件(58.7%)。認定率は99.8%で、処理率は75.1%となっている。請求のうち死亡は36件で、請求全体の0.025%にすぎない。
業種別では、医療業が医療従事者等全体の請求の64.1%、認定の64.5%、不支給の81.3%。社会保険・社会福祉・介護事業が請求の34.8%、認定の34.4%、不支給の1.7%。その他業種が請求の1.8%、認定の1.1%、不支給の1.4%を占めている。
医療従事者等の不支給事案は、厚生労働省のこれまでの説明から、「新型コロナウイルス感染症として労災請求されたものの、実はそうではなく、かつ業務上でもなかった事案」であると思われる。
医療従事者等以外については、請求46,991件(全体の24.7%)、認定43,194件(24.9%)、不支給210件(41.3%)。認定率は99.5%で、処理率は92.4%となっている。請求のうち死亡は167件で、請求全体の0.36%である。
業種別では、社会保険・社会福祉・介護事業、製造業、医療業、建設業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業が多いが、多くの業種にまたがっていて、認定率はいずれも99%を超えている。
海外出張者については、請求63件(0.0.3%)、認定57件(0.03%)、不支給0件(0%)。認定率は100%で、処理率は90.5%となっている。請求のうち死亡は10件で、請求全体の15.9%である。
請求全体に占める死亡の割合は、医療従事者等でもっとも低く、海外出張者では非常に高い。医療従事者等以外では、死亡事案以外の請求が相対的に少ないことを示しているのかもしれない。
2022年3月31日現在の状況(表4)と比較してみると、医療従事者等の比率が増加したことがわかる。
地方公務員災害補償は相対的に少ない
地方公務員災害補償基金は2023年4月10日に、同年3月31日現在の「新型コロナウイルス感染症に関する認定請求件数、認定件数について」公表した。
地方公務員災害補償基金は、2021年末から隔月ごとの情報更新に切り替えたようで、2020年6月1日に同年5月29日現在の情報を提供して以来、45回目の情報更新ということになる。
累計公務災害請求件数は、2022年3月31日現在で1,000件を超えた後、11月30日現在で2,000件を超え、2023年3月31日現在では3,090件となった。
累計公務上認定件数は、2022年11月30日現在で1,000件を超え、2023年3月31日現在では2.527件となった。
公務外認定事例は、2022年3月31日現在で初めて1件現われ、それまでは認定率(公務上認定件数/決定件数)100%を維持していた。2023年3月31日現在でも累積公務外決定は4件にとどまり、認定率は99.9%である。
処理率(決定件数/請求件数)は、2020年8月に65.7%まで急上昇した後、横ばい気味に上下したが、2021年度以降ゆるやかながら上昇し続け、2023年3月31日現在では94.1%となっている。(以上、図2)
認定率・処理率とも、間労働者が対象の労災保険の場合を上回ってはいるものの、ともに、労災保険の場合と比較して低すぎると考えている。
2023年3月31日現在の状況を、表5に示した。
看護士、保健師・助産師、その他の医療技術者を「医療従事者等」として括ると、請求件数・公務上認定件数とも全体の81.8%占めており、2022年3月31日現在の59.7%及び60.5%(計算はしていないが、2022年7月号にデータを紹介)より増加しており、2022年度に「医療従事者等」の請求件数・公務上認定件数が、それ以外の者によるものよりも大きく増加したことがわかる(図2のグラフのカーブからも明らかである)。
なお、地方公務員災害補償基金は、「認定・補償実績」に関する統計を公表しているが、ここには新型コロナウイルス感染症に関する情報は含まれていないのが残念である。
国家公務員災害補償は情報公表中止
人事院もウエブサイトの「新型コロナウイルス感染症」ページで「一般職の国家公務員に係る新型コロナウイルス感染症に関する報告件数及び認定件数」を公表し、毎月更新を続けていたのだが、2022年3月31日現在の状況を同年4月19日に公表した後、とりやめたようである。
「年次報告書」の「災害補償」で報告はされており、2021年度は公務災害と通勤災害を合わせた認定件数1,942件のうち32件が新型コロナウイルス感染症であったとされている。2020年度は公務災害と通勤災害を合わせた認定件数1,909件のうち疾病によるものが95件としているだけで、新型コロナウイルス感染症についての記述がない。前記2022年3月31日現在の状況によると、公務上認定件数は88件(請求件数は97件)だったので、88件-32件=56件が2020年度の数字であるかもしれない。2022年度分はまだ公表されていない。
労災保険料の取り扱いは変更の可能性
新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類感染症へ位置づけが変更される(5月8日の予定)ことに関連して、2023年3月24日に、厚生労働省ウエブサイト上の以下のQ&Aが更新された。
・ 新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け):更新箇所-「5 労災補償」の問1、問2、問3を更新
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00018.html
・ 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け):更新箇所-「7 労災補償」の問1、問2、問3、問13を更新
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html
「労災補償」については、労災保険料を除き、「新型コロナの感染症法上の位置づけが5類感染症に変更された後においても、取扱いに変更はない」という内容である。
唯一、労災保険料については、「新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に変更されるまでに労働者が発病した場合の労災保険給付については、メリット制による労災保険料への影響はありませんが、5類感染症に変更された後に労働者が発病した場合の労災保険給付については、メリット制による労災保険料への影響がありえます」とされた。具体的には、企業の方向けQ&Aの7-問13であり、問と回答の全文は以下のとおりである。
7-問13 新型コロナウイルス感染症に関する労災保険給付があった場合、労災保険料に影響があるのでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q5-14
【回答】 労災保険制度においては、個々の事業ごとに、労災保険給付の多寡により、給付があった年度の翌々年度以降の労災保険料等を増減させるメリット制を設けています。
他方、法に基づき入院措置や外出自粛などが行われる感染症法上の「新型コロナウイルス感染症」に関連する給付は、全ての業種においてメリット制の対象外とし、労災保険料に影響を与えない特例を設けています。
このため、新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に変更されるまでに労働者が発病した場合の労災保険給付については、メリット制による労災保険料への影響はありませんが、5類感染症に変更された後に労働者が発病した場合の労災保険給付については、メリット制による労災保険料への影響がありえます。
具体的な取り扱いについては、おつて示されるものと思われる。