特集/製品・環境中の石綿汚染物質:製品・環境中の石綿汚染物質~最新の知見と対処の選択肢ーUNEPが国連環境総会に提出した文書

化学物質と廃棄物の健全な管理に関する決議5/7パラグラフ24の実施に関する情報-「製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢」と題した文書の提示/UNEP/EA.6/INF/14, 2024.2.6

事務局による注記

  1. 化学物質と廃棄物の健全な管理に関する決議5/7パラグラフ24で、国連環境計画(UNEP)の[第5回]国連環境総会はUNEP事務局長に対して、資源が利用可能であることを前提に、また世界保健機関と協力して、第6回総会において環境総会によって検討されるために、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するためのあらゆる選択肢を提示するよう要請した。
  2. この要請に応えて、UNEPは世界保健機関と協力し、また国際労働機関からも情報を得て、「製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢」と題した文書を作成した。
  3. 本注記の付録に示されるこの文書は、アスベストの人の健康と環境に及ぼす悪影響、ライフサイクルに沿った物質の流れなど、アスベストに関する基礎知識の概要を提供している。また、様々な国で適用されている規制アプローチから得られた教訓を概説し、代替品に関する考察を提供し、環境中のアスベストに対処するための推奨される様々な選択肢を提示している。

付録:製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢

本文書について

第5回国連環境総会(UNEA)の要請に応えて、国連環境計画(UNEP)は、世界保健機関(WHO)と協力し、また国際労働機関(ILO)からも情報を得て、「製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢」に関する共同文書を作成した。

以下の文書は、アスベストの人の健康と環境に対する悪影響、ライフサイクルに沿った物質の流れなど、アスベストに関する基礎知識の概観を提供する。様々な国で適用されている規制アプローチから得られた教訓を概説し、安全な代替品に関する考察を提供し、環境中のアスベストに対処するための推奨される様々な選択肢を提示する。本文書は、入手可能なすべての情報と文献を網羅的にレビューしたものではなく、迅速なレビューの要約である。

主な知見

  • アスベスト及びアスベスト含有物質(ACMs)への曝露が、中皮腫、石綿肺、肺がん、喉頭がん、卵巣がんなどの重篤な疾病を引き起こし、人の健康を脅かす証拠が持続している。
  • 何百万トンものアスベストがいまだに世界中の建物と製品中にあり、また新たなACMが製造され、商業に導入されている。
  • 人と環境に対するアスベストの脅威は、調整されたアスベスト管理計画の欠如、アスベストの健康リスクに関する認識の低下、アスベスト禁止措置の実施の遅れなどがみられる地域で、とりわけ切迫している。
  • 世界全体では、2016年に、アスベストへの職業曝露が推計209,481人の死亡の原因となっており、これは労働関連がんによる全死亡の70%以上に相当する。
  • 不純物としてのアスベスト汚染は、粉末状化粧品、ベビーパウダー、クレヨンなどの消費者製品でみつかっている。
  • アスベストの不適切な管理が、いかなる利益をも上回る医療費の増大につながっていることを示す証拠が、現在もみつかっている。アスベスト関連疾患の全患者の生涯にかかる疾病費用の負荷は、110億米ドルに上ると推計されている。
  • アスベストの継続するリスクに対処する努力が実施され、貴重な教訓が得られている。アスベストに関する規制が弱いか不十分であること、アスベストへの曝露の危険性とより安全な代替品の利用可能性についての認識が低いこと、既存の構造物からのアスベストの除去には費用がかかり複雑であることから、アスベストの採掘と使用が後を絶たない。
  • アスベスト禁止の経済的影響を検討した結果、アスベストからの脱却を果たした国々では、禁止措置の実施後、経済への否定的影響はみられなかったと結論づけられた。
  • 場合によっては、政府内におけるコンセンサスの欠如が、アスベストの効果的な管理及び/または使用禁止を実施する国の努力を妨げてきたこともあり、多部門にわたるガバナンスを実現することの難しさを浮き彫りにしている。

既存の証拠を考慮し、アスベストの管理のために、以下の5つの推奨される選択肢が、関連する関係者その他の指針となることが提案される。

  • 選択肢1:すべての種類のアスベストの使用を中止し、ライフサイクル全体にわたってアスベストのリスクを管理することによって、アスベスト関連疾患の根絶を強化するために、法的枠組みと制度的メカニズムを強化する。
  • 選択肢2:ライフサイクル・アプローチを用いて、アスベストのより安全な代替品を調査・採用するとともに、製品のバリューチェーン全体を通じて革新的かつ持続可能な解決策を取り入れる。
  • 選択肢3:すでに使用されているアスベストに対処し、遺産使用とアスベスト曝露に取り組むために、証拠に基づいた戦略を採用する。
  • 選択肢4:能力構築を強化するとともに、アスベストのリスクに関する啓発を推進するために、パートナーシップを促進するとともに、資源の動員を改善する。
  • 選択肢5:包括的な知識とデータの生成を強化し、早期診断、治療、リハビリテーションサービスを強化するとともに、情報に基づいた意思決定と行動を支援するために、アスベストに関する情報へのアクセスを確保する。

これらの選択肢は、「化学物質に関する世界的枠組み-化学物質と廃棄物による危害のない地球のために(GFC)」に概説されている戦略目標とターゲットに沿ったものである。GFC独自のマルチステークホルダー・アプローチは、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対応するのに貢献すると同時に、より安全で持続可能な製品、及び持続可能な消費・生産パターンの進展を提供するための革新に向けた根本的な変化転換を促進することができる。

アスベスト関連問題に対処するための概説された選択肢は、相互に補強し合い、包括的で相互に関連した戦略を作り上げている。これら5つの選択肢を、地域や国の状況に合わせてカスタマイズすることは、製品と環境の双方におけるアスベスト汚染に関連したリスクを効果的に管理・軽減するために不可欠である。

選択肢1は基本的柱となるものであり、アスベスト関連疾患を根絶するための法的枠組みと制度的メカニズムの強化に重点を置いている。コンプライアンスを確保し、アスベストのライフサイクルを監視し、アスベストの使用中止を執行するためには、強固な法的構造と制度的支援が不可欠である。

選択肢2、3及び5は、この基盤の上に、より安全な代替品の探求、既存アスベストに対する証拠に基づいた戦略の採用、知識の創成とアクセスの重視といった実際的な措置を提供するものである。

選択肢4は、パートナーシップ、資源動員、能力構築、啓発活動を中心とする分野横断的な要素として機能する。協力関係を促進し、意識を高めることによって、選択肢4は、選択肢1、2、3及び5で提案された法的、実際的かつ知識ベースの諸措置を実施するための全体的な能力を強化する。

これらの選択肢を組み合わせることで、アスベストに関連する諸課題に効果的に取り組むための、相乗的かつ相互支援的な戦略を形成する。

はじめに:アスベストの問題への取り組み

アスベストとACMsの悪影響の最小化に前進が見られる一方で、現在と将来の世代を守るためには、すべての関係者と部門による、より革新的で野心的かつ緊急の行動が必要である。図1に詳述するように、アスベストへの曝露は、様々な経路や飛散を通じて起こる可能性がある。

図1 アスベスト曝露の経路と飛散

・ 鉱滓
土壌の悪化や生体系の汚染につながるアスベスト採掘による
鉱滓を再処理すれば残存するアスベスト繊維が再び健康ハザーズになる
・ 職業曝露
主として建設部門で生じ、アスベスト関連疾患を引き起こす
すなわち、悪性中皮腫、肺がんや石綿肺である
・ 非職業曝露
アスベストに汚染されたタルクを含有した家庭内曝露や二次曝露を通じて-とくに助成に影響を及ぼす
例えば、アイシャドウなどの化粧品、ベビーパウダー、クレヨンなど
・ 有害なアスベスト繊維の終末期[エンド・オブ・ライフ]飛散
アスベスト材料を含んだ建物の崩壊、解体や埋立地における不十分な廃棄物の管理を通じて
自然災害が問題をさらに悪化させる
アスベストは長期間空気中に浮遊し、風や水によって長距離に運ばれるため、発生源から離れた地域を汚染する可能性がある

2016年現在、世界全体で、アスベストへの職業曝露は、労働関連がんによる死亡の70%以上を占めている(WHO/ILO共同推計)。気管・気管支・肺がん、卵巣がん、喉頭がん、中皮腫により、推定209,481人が死亡し、397万人の障害調整生存年が失われた(WHOとILO 2021;Pegaら 2022)。アスベストに曝露する労働者の多くは建設部門に属し、廃棄物管理、採掘・採石関連の仕事がそれに続く。

非職業曝露は、女性に影響を及ぼすことが多く、過小評価され認識されていない可能性が高い(D’Agostinら 2018;KrówczynskaとWilk 2019)。職業上の男女差のため、女性はアスベストに汚染されたタルクなどの家庭用品からの曝露や、アスベストに関わる作業をしている家族が残留物を家に持ち帰るなどのアスベストへの二次曝露のリスクが高い(Gordonら 2014)。女性の中皮腫症例の60%以上は、非職業的アスベスト曝露に起因する可能性が高いことが研究で示されている(Rakeら 2009;Lacourtら 2014)。

健康影響

あらゆる種類のアスベストは、アスベスト関連疾患を引き起こす可能性がある(国際がん研究機関[IARC] 2012;WHO 2014a)。これには、エリオナイトやアンチゴライトなどの石綿様鉱物や、タルク、バーミキュライト、長石など、他の鉱物の自然汚染としてみられる、すべての種類のアスベストが含まれる。

アスベストへの曝露は、肺、喉頭、卵巣のがんや石綿肺を引き起こす。アスベストは肺がんの発がん物質として作用し、喫煙とアスベスト曝露の組み合わせは肺がんのリスクを大幅に高める(Villeneuveら 2012)。石綿肺は、肺の拡張を制限する肺の炎症と瘢痕化を特徴とする呼吸器疾患である(Carboneら 2011)。これらすべてにおいて、アスベストの初回吸入から検出可能な疾病までの潜伏期間は特徴的に長く、中皮腫の場合、疾病リスクは初回曝露から約50年後に横ばいになる(Reidら 2014)。

ILOは、予防と補償を目的とした職業性疾病の特定に長い歴史を持っている。2002年の国際労働会議で採択された「2002年職業病リスト勧告」(第194号)には職業病のリストが附属し、2010年に改訂されている(ILO 2010)。労働と疾病の因果関係は、臨床的・病理学的データ、職業背景・職務分析、職業リスク要因とその他のリスク要因の役割の特定と評価に基づいて確立される(ILO 2009)。

環境影響

建設、解体、採掘、製造活動によってアスベストが環境中に飛散されると、大気(吸入する可能性がある)(Bautista SierraとLamus Delgadillo 2019;Pena-Castroら 2023)、水(摂取する可能性がある)(CunninghamとPontefract 1971;MurrとKloska 1976;Andersenら 1993;Varga 2000;WangとCullimore 2010;Bunderson-Schelvanら 2011;Kimら 2013;WHO 2014a;Di CiaulaとGennaro 2016;Di Ciaula 2017;PunuraiとDavis 2017;Van Laarhovenら 2022a;Avataneoら 2022b;WHO 2022;Zavašnikら 2022;Pena-Castroら 2023)、土壌(空気中や水中に容易に分散・再分散する)(Ricchiutiら 2020)を汚染する。アスベストは、長期間空気中に浮遊し、沈殿する前に風や水によって長距離運ばれる可能性があるため、発生源から遠く離れた地域を汚染する。アスベストは分解または生物分解しない(Indiana Department of Environmental Management 2023)。

アスベストが野生の動植物に与える影響に関する研究は少ない。動物を対象とした研究から得られた知見は、人におけるアスベストの健康への影響が確立していることを反映している。ラット、ハムスター、マウス、人を対象に、様々な投与方法でアスベストの発がん性を評価する試験が行われた。アモサイト、アンソフィライト、トレモライトをラットに吸入させると中皮腫や肺がんが発生し、胸膜内投与では中皮腫が発生した。さらに、アモサイト及びアンソフィライトの胸膜内投与はハムスターに中皮腫を誘発した。アモサイトの腹腔内投与を受けたマウスとラットは、中皮腫を含む腹膜腫瘍を示した。同様に、トレモライトとアクチノライトを同じ経路で投与すると、ラットに腹部腫瘍が誘発された(IARC 1987;Soffrittiら 2003)。これらの実験結果は、様々な動物種におけるアスベストとその様々な形態の発がん作用についての洞察を与えている。アスベスト繊維は、アスベスト汚染地域やその周辺に生息するげっ歯類など、いくつかの野生動物種で観察された(Puleioら 2013;Campopianoら 2020;Ingravalleら 2020)。Campopianoら 2020の研究で実施された解剖病理学的分析は、検査動物の60%が肺に巨視的な病変を有していたことを示した。

生態系の悪化は、多くのアスベスト鉱山、とくに閉鎖・放棄された場所で顕著である。例えば、ケベック州南東部では、アスベスト採掘残渣が2308ヘクタールの面積を占めている。約8億トンの鉱滓は、鉱山閉鎖による社会経済的・環境的影響とともに、この鉱業の名残りである。アスベスト鉱滓と廃石の生態学的修復には、高い費用や作業中のアスベスト粉じん曝露による健康リスクなど、多くの検討事項がある(L’evesqueら 2020)。

社会的・経済的影響

アスベスト関連疾患に罹患して生活することは、患者とその家族にとって負担であり、生活の質が低下する。生活の質の低下に関連する費用は、他の経済的費用と比較したり加算したりすることはできない。アスベスト関連疾患に罹患した全患者の生涯で、疾病費用の負荷は110億米ドルと推計される(Aljunidら 2020)。例えば、アスベストに関連した世界の年間医療費は、痛み、苦しみ、福祉損失による追加費用を除くと、24億~39億米ドルと推定される。アメリカだけでも、アスベスト訴訟費用は年間23億米ドルと見積もられている(WHO 2018a)。

アスベストに対する不作為の費用が大きいにもかかわらず、一部の国は、そのような措置の経済的悪影響が想定されることから、アスベストの段階的廃止や管理に関する強力な政策を策定していない(WHO 2018a)。しかし、WHOと経済コンサルティング会社National Economic Research Associates[NERA]が2017年に発表した、アスベストの生産と使用が社会に与える経済的費用の評価では、アスベストの禁止や生産・使用の減少による大きな経済的悪影響は認められなかった(WHO 2018a)。

その一方で、被害者の補償や企業に対する法的措置から生じる費用は多額にのぼる。具体的なケースでは、こうした賠償請求が巨額になることもあり、企業の存続が危ぶまれることもある。この補償の規模や経済的影響は、その国で使用されているアスベストの量にも左右されるし、何よりも労働者のための社会保障規定にも左右される(国際社会保障協会[IISA] 2006)。例えば、欧州連合(EU)の法律は、労働環境におけるアスベスト曝露リスクに対する保護と予防を目的とした規制を実施しているが、被害者に対する補償に関する法的枠組みは欧州各国によって異なる(Institute for International Research, Development, Evaluation and Counselling 2013)。

囲み① 日本におけるアスベスト被害者支措置(出典:言及しない限り国立環境研究所 2008)

アスベストの健康面については、1947年「労働者災害補償保険法」(労災法)と2006年「石綿による健康被害の救済に関する法律」(石綿救済法)の2つの法律が扱っている。アスベストに曝露して石綿肺、肺がんや中皮腫などのアスベスト関連疾患に罹患した労働者は、労災法のもとで補償対象となる。しかし、家庭内曝露や環境曝露による被害者は対象とされない。石綿救済法は、労災法のギャップを埋めて、アスベスト被害者と遺族に補償を提供するために制定された。2022年には、合計1,310件がこれら2つの制度によって対象とされた(日本厚生労働省 2023)。

また、多くの国がアスベスト被害者救済制度を導入し、アスベスト関連疾患の被害者が従来の法的措置では補償を受けられないという問題を解決している(Leeら 2021)。

ライフサイクル

アスベストのライフサイクルとバリューチェーンは、アスベストとアスベスト含有物質の採掘から加工、製造、流通までの全過程を包含している。これには、設置、使用、メンテナンス、改修も含まれ、アスベスト含有物質が採掘や製造から廃棄や除去に至るまで、様々な段階を経る。

図2は、バリューチェーンに沿ったアスベストに関する主な事実と数字を示したものである。

図2 バリューチェーンに沿ったアスベスト-主な事実及び数字

・ 採掘/生産
2023年に世界全体で130万トン採掘された
1970年代のピーク時よりも70%減少した
ロシア、カザフスタン、ブラジル、中国が主要な生産国である
ジンバブエとカザフスタンには相対的に大きな未開拓の埋蔵量がある
・ 適用
建設、採掘、廃棄物-アスベストに曝露する労働者の大多数がこれらの部門に属している
労働関連がんによる全死亡の70%がアスベストへの職業曝露によって引き起こされている
アスベスト関連疾患の世界負荷は110億ドルと推計されている
インド、中国、ロシアが主要な消費国である
・ 終末[エンド・オブ・ライフ]
鉱滓はスベスト繊維が存在することから有害と考えられている
過去の使用による遺産汚染が多くの居住用、公共用、商業用建物に残されている
建物の解体、崩壊は大量のアスベスト廃棄物を生み出す
埋立地-大量のアスベスト含有物質の管理が課題として残されている

1970年代のピーク時には、世界のアスベスト生産量は480万トンにも上った。健康への悪影響に関する知識の蓄積のおかげで、多くの国がアスベストの使用に関する規制を強化した。2023年に世界のアスベスト鉱山生産量は約130万トンと推定されている(連邦地質調査所[USGS] 2023)。アスベストの生産量が最も多いのはロシア連邦とカザフスタンで(各々70万トンと23万トン)、次いでブラジル(19万トン)、中国(13万トン)である(USGS 2023年)。

世界のアスベスト埋蔵量は、入手可能な情報が不十分で多くの国について正確な推定ができないものの、膨大な量になると推定されている(USGS 2023)。2021年のアスベストの上位輸出国は、ロシア連邦(600,569トン)、カザフスタン(232,366トン)、ブラジル(153,571トン)であった(世界銀行[WB]、国連貿易開発会議[UNCTAD]、国際貿易センター(ITC)、国連統計局(UNSD)、世界貿易機関[WTO] 2023a)。アスベストの上位輸入国は、インド(409,987トン)、インドネシア(130,038トン)、中国(140,088トン)であった(WB、UNCTAD、ITC、UNSD及びWTO 2023b)。

Zouら(2023年)は、ロッテルダム条約にリスト搭載された46の化学物質または化学物質群を対象に、2004年から2019年までの国連Comtradeデータベースから66,156件の貿易記録を分析し、有害性の高い化学物質の継続的な大規模世界貿易と違法貿易を検討した。この研究から、2022年におけるアスベスト物質の貿易フローの上位を推定することができる(図3参照)。現在、アクチノライト、アンソフィライト、アモサイト、クリソタイル、トレモライトには同じHSコード2524.90が割り当てられている。クロシドライトの貿易は明らかな減少傾向を示している(例えば、2019年の貿易量は約0.3キロトンで、2010年の貿易量の2%である)。対照的に、他の5品種の貿易活動は2013年以来一定で、年間貿易量は約100万トンであり、クリソタイルが支配的である。

世界的なアスベストの主な用途は、セメント管や屋根板などの石綿セメント建材である(WHO 2014b;USGS 2023)。アスベストの使用と貿易の傾向をよりよく理解するために、材料消費の概念を適用することができる。アスベストの消費量は、国の供給量(アスベスト原料の生産量及び/または輸入量)から報告されている輸出量を差し引いた値を比較することで推定される。図4[省略]は2022年からのデータを示しており、インドがアスベストの主要消費国であり、中国とロシア連邦がそれに続いている。

アスベストの採掘作業から残された廃棄物にはアスベスト鉱滓があり、一般的にアスベスト繊維が存在するため危険とされている(USGS 2023)。世界全体で利用可能なアスベスト鉱滓の量は、2017年には20億トンから60億トンの範囲と推定されている(Rackley 2017)。場合によっては、鉱滓を再処理して残存するアスベストを抽出することもある(USGS 2023)。

1990年代以前に建設・改築された建物の多くにアスベスト含有物質が存在するため、アスベストは人々の日常生活の一部となっている(Thivesら 2022)。大量のアスベストは、多くの居住用、公共用、商業用建物に、過去に使用された遺産として残っている(Ramazzini 2010)。2009年時点で、約1億5,000万m2のアスベスト製品が使用され、2,000万m2以上のセメント・アスベスト屋根材が使用されている(Gualtieriら 2009)。例えば、日本では、学校、病院、卸売市場、鉄道駅、バスターミナルなどの公共施設にアスベストが大量に使用されていることが判明している(日本環境調査室 2008)。アメリカ合衆国では、学校を含む約84万棟の公共・商業建物にアスベストがあった(Powellら 2015)。韓国では、1970年代に政府主導で行われた古い建物の改築プロジェクトの屋根材に大量の輸入アスベストが使用され(Choiら 1998)、その多くはこの10年初頭の時点でもそのまま使用されていた(Kimら 2020)。オーストラリア政府は、アスベストの廃棄フローは2030年に約167千トンでピークに達すると推定している(オーストラリア・アスベスト安全・根絶機関[ASEA] 2021)。

アスベスト含有物質で建設または改修された建物が解体または崩壊すると、大量のアスベスト廃棄物が発生し、有害なアスベスト繊維の飛散につながる(Kimら 2015)。例えば、ニューヨークの世界貿易センタービルの崩壊後、5,000トンを超えるアスベスト廃棄物が発見され、飛散したアスベスト繊維の量は許容限度の555倍に達した(Klotter 2002)。自然災害は、消防士、救急隊員、清掃作業員を、被災した建物に存在する可能性のある有害なアスベストに曝露することで、この問題をさらに悪化させる(Fire Safe Council Santa Barbara County 2023)。ポーランドで実施された調査によると、現在のアスベスト含有製品の除去率では、定められた期限(2032年末)までにアスベストが国内から除去される見込みはなく、具体的な州によって異なるが、少なくとも27年間、最長で193年間は残留する可能性がある。全国規模では、平均的な除去率によると、アスベスト製品の包括的な廃絶には合計83年かかることになる(Klojzy-KarczmarczykとStaszczak 2022)。

解体や除去から出るアスベスト廃棄物は、埋立地に処分されることが多いが、純粋な繊維状のまま処分されることはほとんどなく、むしろコンクリートなどの建築材料のマトリックスに含まれて処分されるのが一般的である。このため、埋立処分されるアスベスト含有物質の量は大幅に増加する。アスベストの平均濃度を5%と仮定すると、最終的に処分を必要とする汚染廃棄物の総量は、全世界で約40億トンと推定される(Wallisら 2020)。アスベスト含有建材の劣化や、一部の国におけるアスベストの継続使用は、この負荷に拍車をかけるだけである(Wallisら 2020)。

いくつかの要因が、アスベストの採掘と使用を継続させ、環境的に健全な管理を妨げている。第1に、経済的で有用であるとして、各国がアスベストの使用を続けている(Frank 2020)。アスベストの規制が弱かったり、不十分であったりすることで、特定の産業や製品でアスベストが使用され続けている可能性がある(ロッテルダム条約事務局 2023年)。第2に、中皮腫や石綿肺などのアスベスト関連疾患は潜伏期間が長く、時には数十年に及ぶこともある(フランス公衆衛生サーベイランス研究所 2011;Huhら 2022)。このため、現在の曝露と将来の健康問題との関連付けが困難となり、自己満足に陥る可能性がある(Luus 2007)。アスベストへの曝露の危険性や、より安全な代替物質の存在に関する認識が低いことも、アスベストの使用継続の一因となっている。アスベスト禁止以前に建設された建物や産業施設の多くに、いまだにアスベスト含有物質が使われているにもかかわらず、アスベストの問題は過去のものとみなされている。既存の構造物からアスベストを除去するのは、非常にコストがかかり、複雑である(Quezadaら 2018)。

アスベスト規制・禁止:現状と教訓

ILOアスベスト条約(1986年、第162号)は、関連するいくつかの条約・勧告を含む他の国際労働基準とともに、労働者を保護し、アスベスト関連疾患を予防するための国・企業レベルの包括的予防措置のための確固たる法的基盤と実践的指針を提供している。第162号条約は、労働者が労働においてアスベストに曝露するすべての活動に適用される。主な規定は、アスベストまたは特定の種類のアスベスト若しくはアスベストを含有する製品を、より有害性が低いと評価される他の物質または製品に置き換えること、特定の作業工程におけるアスベストまたは特定の種類のアスベスト若しくはアスベストを含有する製品の使用を全面的または部分的に禁止すること、アスベスト粉じんの大気中への放出を防止または制御し、曝露限界またはその他の曝露基準が遵守されるようにし、さらに曝露を合理的に実行可能な限り低いレベルにまで低減するための措置に関するものである。さらに、第162号条約は、「使用者は、労働者に健康リスクを及ぼさない方法でアスベストを含有する廃棄物を処分しなければならない」、「職場から放出されるアスベスト粉じんによる一般環境の汚染を防止するため、権限ある当局及び使用者が適切な措置を講じなければならない」と規定している。

ロッテルダム条約は、2つ以上の締約国が健康または環境上の理由で禁止または厳しく制限している化学物質のうち、ロッテルダム条約締約国会議(COP)が事前の情報提供に基づく同意(PIC)手続の対象とすることを決定した化学物質の附属書Ⅲに、角閃石グループのすべての種類のアスベスト(すなわち、アクチノライト、アモサイト、アンソフィライト、クロシドライト、トレモライト)を含めている。クリソタイルアスベストは、2006年の第3回締約国会議以降、附属書Ⅲに含めるかどうかCOPで検討されてきた。しかし、クリソタイルアスベストのリスト搭載については、2023年の第11回締約国会議でも合意に至らず、COPはこの問題の検討を第12回締約国会議に延期することを決定した。

バーゼル条約のもとでは、管理すべき廃棄物のカテゴリーに関する付属書Ⅰ及びⅧに、項目Y36 アスベスト(粉じん及び繊維)及び項目A2050 廃アスベスト(粉じん及び繊維)が含まれている。附属書Ⅰ及び附属書Ⅷに含まれるカテゴリーに記載されている廃棄物は、附属書Ⅲに含まれるいずれの特徴も有しておらず、条約の規定、すなわち、これらの廃棄物の国境を越えた移動が条約の事前の情報提供に基づく合意手続を通じて管理され、これらの廃棄物の発生が最小限に抑えられ、環境的に健全な管理(ESM)が促進される場合を除き、有害廃棄物である。

また、世界保健機関は、以下の4つの戦略的方向に沿って各国と協力していくことを約束している(WHO 2018a)。①アスベスト関連疾患をなくすもっとも効率的な方法は、あらゆる種類のアスベストの使用を中止することであることを認識すること、②アスベストをより安全な代替品に代替するための解決策に関する情報を提供し、その代替を促進する経済的・技術的メカニズムを開発すること、③既存アスベストやアスベスト除去の際のアスベストへの曝露を防止する措置を講じること、④アスベスト関連疾患の早期診断、治療、リハビリテーションサービスを改善し、過去及び/または現在アスベストに曝露している人々の登録を確立すること、である。

国レベルでは、アスベスト及びアスベスト含有物質の輸入、製造、販売、使用、再利用を管理するための様々な選択肢が適用されてきた。国際アスベスト禁止書記局によると、現在までにアスベストを禁止している国は69か国ある(図5参照)。また、アスベストを公式に禁止していないが、労働者の保護とアスベスト関連疾患の予防を目的としたILO条約を批准している国もある。

禁止措置の遵守を確保し、関連するアスベスト問題を管理するため、国レベルで以下のような様々な措置が文書化されている。

  • 国のベースライン状況を定義し、アスベスト関連疾患の根絶に向けた進捗状況を測定することを目的とした、国際的に標準化された文書であるナショナル・アスベスト・プロファイル(NAP)を含む、国家戦略ロードマップの策定(Arachiら 2021)(囲み②参照)
  • 例えば、①曝露及び健康影響の記録、②アスベストを含む建物の公的記録の維持、③生産の可能性がある企業の追跡を目的としたナショナル・インベントリー[国家登録]の確立
  • 関係省庁によるアスベストに関する全国調整委員会の設置(囲み④参照)
  • アスベストへの曝露を予防するための啓発キャンペーン及びアスベスト汚染に関する情報の一般への公開
  • 職業ハザーズへの曝露を認識し、補償を解決するために不可欠な法的メカニズムとしての職業病リスト(ODL)の活用

囲み② アスベスト及びアスベスト含有物質に対処するためのナショナルアクションプラン

[国家行動計画]-ポーランドのケーススタディ(出典:開発技術省 2024)

ポーランドでは、包括的な法的枠組みにより、アスベストを含む製品の製造、取引、国内税関領域内への持ち込みが禁止されている。EUの文書でも認められているように、ポーランドは国内でのアスベスト根絶に向けた取り組みのリーダー的存在であり、高い環境安全基準を維持するという国の姿勢を反映している。しかしながら、アスベスト除去プロセスにおける大きな課題は、ポーランド全土、とくに住宅や農業用構造物にアスベスト含有物質が広く分布していることにある。この広範な分布は、アスベスト除去の取り組み全体にかなりの障害をもたらし、様々な地域社会におけるアスベスト関連リスクへの対応作業を複雑にしている。

2004年から2013年にかけて、ポーランドの949の市町村の大気中アスベスト繊維濃度を、1,634の測定ポイントを網羅する広範な調査によって評価した。

2009年から2023年までに実施されたポーランド・アスベスト除去プログラムは大きな成果をあげた。このプログラムでは、19万6,000人に及ぶ広範な研修、インベントリ・イニシアティブへの助成金、旧アスベスト製造工場の清掃、製品除去のための資金支援プログラム、建設関連分野の教育活動などが行われた。アミアンタス・イニシアティブは、アスベスト関連疾患を発見するために元従業員を対象とし、労働衛生報告に貢献した。

2024年1月現在、アスベスト・データベースは、860万トンのアスベスト含有製品を目録化し、170万トンのアスベスト廃棄物を無害化した。

教訓

アスベスト禁止による経済効果の検討(国レベルのデータを使用)では、各国がアスベスト離れを進めているため、観察可能な負の経済的影響はなく、アスベストの継続的使用は、健康費用だけでなく、是正/除去費用や潜在的な訴訟費用など、多大な費用をもたらすと予想されると結論づけている(Allenら 2018)。

囲み③ カナダ・ケベック州におけるアスベスト禁止後の経済推移(出典:Allenら 2018)

1970年のピーク時にカナダは150万トン(世界全体の43%)のアスベストを生産していた。カナダのアスベスト生産のほとんどは、ケベック州というひとつの州で行われていた。ケベック州にあったカナダ最後の2つのアスベスト鉱山は、2011年に閉鎖された。鉱山閉鎖後、カナダ政府は、クリソタイルアスベスト産業と経済的につながりのある地域社会の経済的移行を支援するイニシアティブを開始した。このイニシアティブは2020年まで有効で、第2次産業と第3次産業における雇用創出のためのプロジェクトに5,000万カナダドルの予算が組まれていた。例えば、エストリ(イースタン・タウンシップス)地域のアスベスト町は、工業団地の拡張を促進するための新しい道路の建設と、観光客の受け入れと観光産業の発展を支援するための地域公園レセプション・センターの改築に対する資金援助を受けた。

場合によっては、国レベルでの努力-保健当局や地元の専門家が主導することが多い-が、政府内のコンセンサス不足のために、効果的な規制及び/またはアスベストの使用禁止の実施において困難に直面し、多部門ガバナンスの複雑さを浮き彫りにしている(Kanchanachitraら 2018)。

囲み④ アスベスト関連疾患の根絶に向けた政府全体のアプローチ-ケーススタディ

オーストラリアでは、2013年にアスベスト安全・撲滅機関法が制定され、アスベスト安全・根絶機関が独立機関として設立された。これは、アスベスト関連疾患の根絶のために十分な資源を配分するという献身的な姿勢を示すものである。その役割は、アスベスト国家戦略計画の実施を調整することである。この計画は、オーストラリアにおけるアスベスト関連疾患の根絶に向けた段階的なアプローチを概説し、アスベストに対する意識の向上と、安全で効果的なアスベストの管理・除去・処分のために、すべての政府が協力するための枠組みを確立するものである。2023年12月7日、2013年アスベスト安全・根絶機関法(Asbestos Safety and Eradication Agency Act 2013)の改正により、同機関の機能はシリカにも拡張された。同機関の名称もアスベスト・シリカ安全・根絶機関(ASEA 2024)に変更された。

フィンランドでは、フィンランド労働衛生研究所が、職場におけるアスベスト曝露に関する問題を取り扱う主要な役割を担っているため、アスベストプログラム実施の主導機関となっている。主導機関であるにもかかわらず、彼らは、6つの関連省及び政府機関の代表で構成される多機関のタスクフォースを結成し、法改正プロセスを策定及び実施する、協力的なアプローチを選択した(太平洋地域環境計画事務局[SPREP] 2021年)。

アメリカ合衆国では、環境保護庁(EPA)が法律を施行し、アスベストへの曝露から国民を守ることを目的とした規制を発行している。EPAの任務は、有害物質、有害大気汚染物質、有害廃棄物を対象としている。労働安全衛生局、消費者製品安全委員会、鉱山安全衛生局などの他の機関も、それぞれの任務に沿ってアスベスト規制を実施している(US EPA 2024)。

アスベストの意図的な商業利用が禁止され、遺産製品の取り扱いが規制されたとしても、アスベストが不純物として含まれる他の鉱物(タルク、ドロマイト、カンラン石など)を取り扱う場合に曝露の可能性がある。一例として、2004年の調査では、タルクの採掘方法と採掘場所により、アメリカ合衆国で販売される商品の生産に使用される鉱床に、トレモライトやアンソフィライトを含む角閃石系アスベストが一貫して混入していることが明らかになった(Van Gosenら 2004)。アスベスト汚染は、粉末化粧品(アイシャドウなど)、ベビーパウダー(US PIRG 2018)、クレヨン、一部のバーミキュライト製品でみつかった(合衆国国立がん研究所[NCI] 2023)。例えば、欧州連合(EU)は、アスベストの全使用禁止に続き、2021年に補足措置として、すべてのアスベストを除去するための欧州戦略を求める決議を採択した(欧州委員会 2022)。したがって、例えば、タルクやソープストーンの販売業者に対し、指定された分析方法で物質からアスベストが検出されないことを証明する書類の提出を求めるなどして、消費財の意図しないアスベスト汚染を監視・管理することが不可欠である(欧州委員会 2022)。

より安全な代替品の探求

多くの国がアスベストの使用を禁止または厳しく規制しているため、より安全な代替品がほとんどの用途に対して開発されている。化学物質による代替の場合と同様に、意図しない健康・環境影響や残念な代替を避けるために、アスベスト代替物質の補足的調査(ライフサイクルアセスメント(LCA)を含む)とモニタリングが必要である。アスベストの代替について十分な情報に基づいた決定を行うためには、代替となりうる物質のLCAを実施することが不可欠である。この評価は、アスベストを含まない物質の環境的、経済的、技術的性能を総合的に評価することを目的としている。近年、アスベスト代替物の健康被害が検討されており、多くの追加研究が必要である。しかし、健康被害が評価されているのは一部の代替物質のみであり、健康被害データも十分でない場合が多い。Park(2018)により行われた研究における代替物質の検討では、アスベストを含まない代替材料への労働者の曝露を低減するための取り組みが行われるべきであると結論づけられている。

アメリカと欧州の特許データによれば、繊維状物質はアスベストの代替品として検討され得る。繊維状物質には多くの種類があり、合成繊維と天然繊維に分類できる 。しかし、最近の研究では、アスベストの代替として使用される繊維状物質の、がんとの関連を含む健康被害に関する証拠が明るみに出ている。

2007年にLeprinceが確認したアスベスト代替物質には、以下のものがある。

a) 建築分野

  • アスベスト含有保温材や防音材の代替となるミネラルウールやセラミックファイバー
  • アスベスト含有シートやボードの代替品としての合成ガラス繊維や粘土
  • セメント中のアスベスト製品の代替としてのセルロース、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、ガラス繊維(Park 2018)

b) 紡織分野

  • アスベスト含有紡織品の代替としてのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、カーボン、ガラス繊維

これらの代替物質は、(LCAなどによる)総合的な環境影響が十分に評価されていないため、アスベストではないものの、健康被害が減少する証拠が存在する一方で、他の環境影響(温室効果ガス排出量の増加、生物多様性や水不足への影響など)とのトレードオフが生じる可能性があることに注意することが重要である。

WHOは、パラアラミド、アタパルジャイト、炭素繊維など14種類のアスベスト代替物質の危険性を評価している(WHO 2005)。また、Harrisonら 1999は、クリソタイルと比較して、パラアラミド、ポリビニルアルコール、セルロースの健康被害について論じている。これらの研究によると、繊維の健康被害に関連する主な特性は、その用量、寸法(とくに直径)、耐久性である。

まとめると、いくつかの代替物質が健康被害について評価されているとしても、代替物質自体が他の環境、社会、健康への悪影響を及ぼさないよう、さらに評価し、確実にするための努力を強化すべきである(Park 2018)。

アスベストの悪影響に関する既存の証拠は緊急の行動を求めている

既存の証拠を考慮し、政府、国家機関、産業界、学界、市民社会組織、国際機関など、関連する利害関係者の指針となるよう、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための5つの選択肢が提案されている。

これら5つの選択肢は、化学物質に関する世界的枠組み(GFC)の戦略的目的と目標に沿ったものである。GFCは、アスベスト汚染に取り組むうえで不可欠な、多部門・マルチステークホルダーのプラットフォームを提供するものである。GFCは、より安全で持続可能な製品を供給するための技術革新と、資源効率や循環型経済へのアプローチを含む持続可能な消費・生産パターンへの転換を推進している。

以下に示す選択肢を検討する際には、本文書で先に説明したとおり、バーゼル条約、ロッテルダム 条約、ILO 条約など、関連する多国間環境協定の締約国には法的拘束力のある義務が適用されることに留意すべきである。

締約国は、関連条項の実施能力を強化するためのさらなる行動を取ることを望むかもしれない。これら5つの選択肢を統合し、特定の地域や国の状況に合わせてカスタマイズすることは、製品と環境の両方におけるアスベスト汚染に関連するリスクを効率的に処理し、軽減するためにきわめて重要である。

選択肢1:すべての種類のアスベストの使用を中止し、ライフサイクル全体にわたってアスベストのリスクを管理することによって、アスベスト関連疾患の根絶を強化するための、法的枠組みと制度的メカニズムを強化する。アスベストの禁止や制限の普及が示すように、前進は達成されているものの、現在アスベストの禁止を実施しているのは69か国にとどまっていることは注目に値する(図5参照)。このことは、残りの国々において、アスベスト禁止を実施するための努力を強化し、バーゼル条約、ロッテルダム条約、ILO条約に基づくアスベスト関連規定の効果的な実施をさらに強化する必要性を強調している。アスベスト含有物質は、とくに調整されたアスベスト管理計画がない地域、アスベストの健康リスクに関する認識が低い地域、あるいはアスベスト禁止措置の実施が遅れている地域において、依然として深刻な人の疾病の原因となっている。このような問題は、発展途上国においてより顕著である可能性がある(Thivesら 2022)。
国レベルでのアスベストの管理には、通常、規制、執行、労働、健康に関連した側面を担当する様々な政府機関が関与している。規制、執行、労働、健康関連の側面を担当する多様な政府機関が含まれる。これらの機関の構造と責任は、国によって様々である。国によっては、アスベスト関連問題に特化した専門の国家機関や部局を設けている場合もある(太平洋地域環境計画事務局[SPREP] 2021年)。とはいえ、アスベスト除去に関する体系的アプローチに関する政府機関の成熟段階様々であり、計画的で優先順位をつけた除去スケジュールを策定しているのはわずかである(ASEA 2022b)。 したがって、包括的で効果的なアスベスト管理を実施するためには、関係省庁間の連携強化が不可欠である。

選択肢2:ライフサイクル・アプローチを用いて、アスベストのより安全な代替品を調査・採用するとともに、製品のバリューチェーン全体を通じて革新的かつ持続可能な解決策を取り入れる。このアプローチは、リスクを積極的に軽減しながら、人の健康と環境に最大限の利益をもたらすことを目的としている。予防が不可能な場合はに、潜在的なリスクを最小限に抑えることに重点を置く。多くのでアスベストの使用は禁止または厳しく規制されており、より安全な代替品が様々な目的に対して考案されている。それにもかかわらず、いくつかのアスベスト代替品に関連する健康被害に対する懸念が高まっており、多くの場合、健康被害に関するデータが不十分であるため、さらなる研究が必要となっている。したがって、環境、健康、及びアスベストの代替物質を評価するために、徹底的なライフサイクル・アセスメントを実施することが不可欠である。したがって、アスベストを含まない物質の環境的、経済的、技術的特性を評価するために、徹底的なライフサイクル・アセスメントを実施することが不可欠である。アスベストを含まない材料の環境的、経済的、技術的特性を評価するための徹底的なライフサイクル・アセスメントの実施が不可欠である。また、遺産アスベストに対処するための代替技術も利用可能であるが、アスベスト廃棄物管理のための革新的で持続可能な選択肢を探求することは価値がある。この探求は これらの代替が実行可能であることが証明され、適切な政策と規制の変更を伴う場合に行われるべきである(Khatibら 2023)。

選択肢3:すでに使用されているアスベストに対処し、遺産使用とアスベスト曝露に取り組むための、証拠に基づいた戦略を採用する。これには、綿密なアスベストの特定、安全な除去・処分方法の実施、一般の人々への啓発キャンペーンの実施、リハビリテーションを通じた影響を受けた地域社会への支援の提供などが含まれる。過去に居住用、公共用、商業用施設の建設にアスベストが使用された歴史的遺産として、相当量のアスベストが残存している(Ramazzini 2010)。アスベスト汚染の継続的なリスクを軽減するためには、環境に配慮した積極的なアスベスト除去が不可欠である。アスベスト含有物質の劣化、攪乱、損傷に起因するアスベスト汚染と曝露の継続的なリスク軽減するためには、環境に配慮した積極的なアスベスト除去が不可欠である(ASEA 2023b;Khatibら 2023)。これは、アスベストへの曝露とその影響を最小化することによって、健康と環境への便益につながることが期待される(ASEA 2023b)だけでなく、建設の長期的な持続可能性を向上させ、限られた資源全体を維持する役割を果たすことも期待される(Khatibら 2023)。環境に配慮した積極的なアスベスト除去を促進するためには、政府によるインセンティブの提供が不可欠である(ASEA 2023b)。

選択肢4:能力構築を強化するとともに、アスベストのリスクに関する啓発を推進するために、パートナーシップを促進するとともに、資源の動員を改善する。これは、アスベスト及びアスベスト含有物質の効果的な管理を強化することを目的としている。これは、アスベストおよびアスベスト含有物質の効果的な管理を強化することを目的としている。アスベストのバリューチェーン内には、アスベスト除去のための解決策の提供(Duregger 2021)や研究プログラムの実施(Wintersら 2014)など、国レベルでのパートナーシップが存在している。産業界やその他の主要な関係者との連携を強化するために、さらなる検討が必要である。これは、アスベストの把握、安全な除去、より安全な代替品への移行、適切な廃棄物管理に関する効果的かつ効率的な戦略を開発するためにきわめて重要である(Vincentenら 2017)。政府からの補助金や助成助金、官民パートナーシップの促進、保険商品の活用、地域開発金融機関からの融資や助成金の利用、環境信託基金の活用など、財源の動員を強化する必要がある。アスベスト及びアスベスト含有物質の除去を促進するためには、遺産使用の除去も含めて、これがきわめて重要である。アスベスト廃棄物の把握、除去、交換、管理を安全かつ費用効率よく実施する能力を強化すると同時に、関連するリスクについて、消費者、地域産業、社会的弱者を教育する啓発キャンペーンを展開する必要がある。環境的に健全な慣行を採用することの重要性を強調する。

選択肢5:包括的な知識とデータの生成を強化し、早期診断、治療、リハビリテーションサービスを強化するとともに、情報に基づいた意思決定と行動を支援するために、アスベベストに関する情報へのアクセスを確保する。すでに相当量の情報とデータが入手可能になっているが、本要約文書の作成過程で、以下のような特定のギャップが浮かび上がってきた。a)生態系や野生生物に対するアスベストの影響と潜在的影響、b)世界に残るアスベストの使用、c)世界的なアスベスト汚染の規模、d)自然災害や武力紛争の余波におけるアスベスト曝露の規模、e)アスベストへの職業暴露と環境暴露の規模の違い、f)汚染の起源と経路を含む消費者製品の意図しないアスベスト汚染、g)不作為の費用を含むアスベストの継続的使用に関連する経済的要因、h)アスベストのより安全な代替品の利用可能性、i)建設部門におけるアスベスト汚染の最小化または根絶と、気候ニュートラルな将来という文脈におけるエネルギー効率の高い建物の確保との間のトレードオフ、j)アスベスト繊維の種類による毒性及び発がん性の違いの可能性、k)中皮腫の症例数を特定し記録するための、国レベルにおける体系的サーベイランスシステムの存在。したがって、十分な情報に基づいた意思決定と行動を支えるために、十分なデータと情報を得る努力を強化する必要がある。

https://daccess-ods.un.org/access.nsf/Get?OpenAgent&DS=UNEP/EA.6/INF/14&Lang=E

https://www.unep.org/environmentassembly/unea6/documents

2022年3月22日[第5回]国連環境総会によって採択された決議/UNEP/EA.5/Res.7

5/7 化学物質と廃棄物の健全な管理

24. 事務局長に対し、資源が利用可能であることを前提に、また世界保健機関と協力して、第6回総会において環境総会によって検討されるために、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するためのあらゆる選択肢を提示するよう要請する。

https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/39846/SOUND%20MANAGEMENT%20OF%20CHEMICALS%20AND%20WASTE.%20English.pdf?sequence=1&isAllowed=y

化学物質と廃棄物の健全な管理に関する決議5/7の実施における進捗状況:事務局長報告/UNEP/EA.6/6, 2023.11.20

I はじめに

8. 決議パラグラフ24において、環境総会は事務局長に対し、資源が利用可能であることを前提に、またWHOとの協力して、第6回総会において環境総会によって検討されるために、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するためのあらゆる選択肢を提示するよう要請した。

G 製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢

26 決議5/7パラグラフ24の要請に従い、UNEPとWHOは国際労働機関と協力し、バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約事務局から情報を得て、製品と環境中のアスベスト汚染物質に対処するためのの選択肢を概説する文書を作成中である。

IV 勧告及び提案される行動

42 化学物質と廃棄物に関する懸念事項として、内分泌かく乱化学物質、薬剤耐性及びアスベストに関して、環境総会は、バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約の事務局、国際労働機関、WHOと協力して、製品及び環境中のアスベスト汚染物質に対処するための選択肢と、この問題に関するさらなる作業の必要性に留意することを望むかもしれない。

https://undocs.org/Home/Mobile?FinalSymbol=UNEP%2FEA.6%2F6&Language=E&DeviceType=Desktop&LangRequested=False

第6回国連環境総会UNEA-6開会プレナリー/国際労働組合総連合(ITUC), 2024.2.26

親愛なる議長、参加者の皆さん。

私はケニア労働組合中央組織(COTU-K)気候政策アドバイザーのレベッカ・オケロです。私は、国際労働組合総連合[ITUC]が調整する労働者・労働組合メジャーグループを代表して発言します。ITUCは全世界で2億人近い労働者を組合員とする169か国340の労働組合を代表しています。

私たちは10年近く、ケニアの労働組合員とともに気候・環境問題に取り組んでいます。労働現場での悪影響に対処するための訓練を受けたグリーンワーカー代表のネットワークが非常に活発です。干ばつや熱ストレス、危険な化学製品の使用による影響は、組合員の中心的な関心事となっています。私たちの組合員は、インクルーシブでない環境政策の影響を直接受けているのです。

私は、労働者とその労働組合が解決策の一翼を担っていることを強調したい。よりよい政策への私たちの貢献は、ジャスト・トランジション[公正移行]と呼ばれています。公正移行政策を実施する方法は、国際労働機関(ILO)とそのガイドラインで定義されており、昨年、ILOの187加盟国、使用者と労働組合によって確認されたばかりです。環境大臣の皆さん、私たちは皆さんが同僚、労働大臣に、公正移行政策の実施について確認することを強く求めます。

今週のUNEA-6での仕事について、2つの具体的な提案をしたいと思います。

  1. 化学物質と廃棄物に関する決議において、クリソタイルアスベストの使用を禁止するよう強く求める必要があります。ロッテルダム条約がクリソタイルアスベストを禁止できないために、毎年25万人もの労働者が命を落としている。これを止めなければなりません。
  2. 世界の労働組合運動は、循環経済決議と鉱物・金属決議に、公正移行に関するパラグラフを含めることを強く支持する。しかし、私たちは、公正移行が循環経済のバリューチェーンに関わるすべての労働者にとって重要であることを強調したい。これには、廃棄物ピッカーだけでなく、すべての正規・非正規労働者が含まれます。

参加者の皆さん、最後に、アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を引用します。「私たちは、パレスチナの未解決の問題、そして双方が引き起こしている甚大な暴力と苦しみについて、黙っていることができません。ガザでは26,750人以上のパレスチナ人が殺害されたと報告されており、その3分の2以上が女性と子どもです。」

私たちは、即時の人道的停戦と、この恐ろしい紛争の持続可能な解決を必要としています。

https://ituc.sharepoint.com/sites/public/ESP/Forms/AllItems.aspx?id=%2Fsites%2Fpublic%2FESP%2FClimate%2F240226%20UNEA%20opening%20ITUC%2Epdf&parent=%2Fsites%2Fpublic%2FESP%2FClimate&p=true&ga=1

議事録案(UNEP/EA.6/L.1)には、パラグラフ64でこの発言が掲載されているほかにはアスベストへの言及はなく、化学物質と廃棄物の健全な管理に関する決議案(UNEP/EA.6/L.12)もアスベストに言及していない。

https://www.unep.org/environmentassembly/unea6/outcomes

スイス、オーストラリア、EUが上記決議にアスベスト禁止に向けた文言を入れようと奮闘したが、実現に至らなかった。サウジアラビア、南アフリカ、インド、エジプト、カザフスタン、ロシア、中国、バーレーンが反対。国際労働組合連合「クリソタイル」の代表も参加していた、等と伝えられている。

いずれにせよか、国連環境計画(UNEP)がアスベストについて今回のような文書を公表したのは、初めてのことである。

安全センター情報2024年6月号