じん肺X線写真集改定検討委員会報告書(3/27公表):厚生労働省●新たに16症例の画像追加を提案/職業性呼吸器疾患研究会有志医師の会が意見書(3/24、報道発表3/27)/厚生労働省交渉(1/23)でも議論

じん肺標準エックス線写真集の改定等に関する検討会の報告書は、2024年3月25日の労働政策審議会安全衛生分科会じん肺部会に報告された後、3月27日に公表された。新たに16症例の画像をじん肺標準エックス線写真集に掲載するべきという結論であった。じん肺部会では、じん肺診査ハンドブック改定の提案等は行われていない。

職業性呼吸器疾患研究会有志医師の会は検討会報告書への意見書をまとめている。報告書及び意見書の内容は以下のとおりである。

また、1月23日の全国安全センターの厚生労働省交渉でも、じん肺標準エックス線写真集の改訂及び労災取り扱いについて取り上げられており、要望事項と文書回答を紹介する。

じん肺X線写真集改定検討会報告書【2024年3月27日】

1. はじめに

○じん肺法第4条では、申請者から提出された胸部エックス線写真の像は第1型から第4型までに区分するものとされており、その際の判定においては、「じん肺標準エックス線写真集」(最終改定:平成23年)を用いて行うこととしている。

○厚生労働科学研究費補助金健康安全確保総合研究分野労働安全衛生総合研究における芦澤和人らの「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究(平成29年~令和元年度)」(以下「芦澤班」という。)報告書において、じん肺診査を円滑に行う上で「じん肺標準エックス線写真集」に写真の整理及び追加が望ましい症例があるという知見が得られた。

○これをうけ、「じん肺標準エックス線写真集の改定等に関する検討会」として、厚生労働省労働基準局安全衛生部長の下に有識者の参集を求め、最新の科学的根拠に則り、「じん肺標準エックス線写真集」を改定する必要性等を検討した。

2. 検討の経過

○検討会は令和5年11月から令和6年3月まで、対面とオンラインのハイブリッド開催1回、オンライン開催2回、持ち回り1回の計4回行われた。

○第1回の検討会では、検討の背景を共有し、検討にかかる総論的事項について確認を行った後、芦澤班から新たにじん肺標準エックス線写真集に掲載してはどうかと提案があった症例の一部について検討を行った。

○第2回の検討会では、芦澤班から提案があった症例の一部、及びそのほか構成員等から掲載の提案のあった症例の一部について検討を行った。

○第3回及び第4回の検討会では、構成員等から掲載の提案のあった症例について検討を行った。

3. 検討の結果

○検討の結果、芦澤班から提案された症例のうち9症例、その他、構成員等から提案された症例のうち7症例の画像を新たにじん肺標準エックス線写真集に掲載するべきと結論された。

○新たな症例の画像を含む写真集の構成等は表1のとおり。

○なお、芦澤班や構成員等から提案があったものの、掲載に至らなかった症例とその理由については表2のとおり。

4. おわりに

○今回、芦澤班の研究結果を契機として、じん肺標準エックス線写真の改定について議論を行い、合計16症例を追加する結論を得た。

○今後も、必要に応じて適宜の改定が行われることを期待する。

表1 新たな「じん肺標準エックス線写真集」の構成

表2 掲載に至らなかった症例

注:芦澤班症例5については、縦隔条件のCTも併せて掲載する。

※1 読影社によって容易には型・区分の評価が一致しないなど、典型的な症例とは言いがたい。
※2 個人情報を消去した形でのDICOM画像の用意が困難
※3 典型的な撮像条件ではない(仰臥位で撮影されている)。
※4 DICOM画像の用意が困難

じん肺X線写真集改定検討委員会報告書(pdf)

検討会報告書への意見書
:職業性呼吸器疾患研究会有志医師の会(2024年3月24日)/報道発表3月27日

1) はじめに

2023年度厚生労働省は「じん肺標準エックス線写真集の改定等に関する検討会」を設置し、3回(内2回はオンライン)の事例検討を行ったのち、持ち回りの検討会で報告書を取りまとめ。2024年3月「じん肺標準エックス線写真集の改定等に関する検討会報告書」を作成した。

この検討会は芦澤和人らの「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究(平成29年~令和元年度)」(以下「芦澤班」という。)報告書において、じん肺診査を円滑に行う上で「じん肺標準エックス線写真集(平成23年版)」に写真の整理及び追加が望ましい症例があるという知見が得られたため開催されたとされている。

芦澤班から提案された14症例のうち9症例、その他、構成員等から提案された18症例のうち7症例の画像を新たにじん肺標準エックス線写真集に掲載するべきと結論された。

検討会報告書に対する有志医師の会としての見解を明らかにする。

2) 今回追加された症例は以下のとおりである

[検討会報告書の表1を参照]

(1) 検討会で①読影者間で評価が分かれた6症例、②DICOM画像(個人情報が消去できないものを含む)がない9症例、撮影情景が不適切な1症例は除外されている。

(2) 小粒状影で追加されたのは芦澤班の症例3「1/1」及び症例4、2型(2/2)である。

(3) 石綿ばく露による不整型陰影は7症例が追加されたが「じん肺(石綿肺)は否かを判定する」ことに寄与するのは芦澤班の症例9、構成員提案の症例1の2症例が「1/0」として追加されたのみである。

3) 追加症例の評価

(1) 小粒状影

① 芦澤班提出の症例1および2は、典型的な第1型、第2型として評価できる。

② しかし、4)でも述べるようにデジタル標準写真集平成23年版における「番号3」がじん肺ではないPR0型の上限とすることに異論が出されている事を背景とすると今回「0/1」症例が提示されなかったことは問題がある。

今回の検討会でも第1回検討会で芦澤構成員から「症例2」に関して「もともとのデジタル3番の症例が0/1としては数が多すぎるという意見があったのでもう少し数の少ない0/1をという事で」選定した旨が報告されている。この「症例2」に関しては第1回検討会では「みんなが文句なく0/1というふうに言うと思うので、文句なく0/1という」との発言もあった。再度検討された第2回検討会でも「構成員の先生方から、0/1につきまして何かご意見はございますか。特にご意見はございませんか」と構成員の異論なく「0/1」と判断されている。ところが最終的には事務局預かりとなり最終報告書では「症例2」は「読影者によって容易には型・区分の評価が一致しないなど、典型的な症例とは言いがたい」として掲載されなかった。

われわれはDICOMデータではなくPDFデータしか見ることが出来ないため「症例2」に関して正確な判断は出来ないが「0/1」の正しい写真が追加されることは重要であると考える。修正する必要があった平成23年版の偏りをそのまま踏襲したものとなっている報告書には問題がある。

(2) 石綿による不整型陰影

① 「芦澤班症例9」は胸膜病変と肺内病変が混在し、石綿肺の1/0と0/1の判断が容易でなく「0/1」「1/0」と評価が分かれる症例であり、削除を求める。

② 「芦澤班症例11」及び「構成員提案の症例2」は検討会において「2/1」相当とされたものであり、標準写真として相応しくない。この2症例を除いても検討会報告の追加症例を含めると石綿による不整型陰影第2型は3症例あり、典型例でない症例を追加する必要がない。どうしても掲載する際には典型例を示す「第2型」とするのではなく「2/1」と明示する必要がある。

(3) その他の症例として追加された「構成員提案の症例7」は検討会の読影では第2型とする意見がある中で、行政判断が「第1型1/2」であったことから、「第1型」とされている。標準写真として相応しくないものと考える。

4) 「芦澤班」報告書との整合性に関して

今回の検討会の基礎となった芦澤班の2018年度報告書では、分担研究6として「じん肺標準エックス線写真集電子媒体版の症例検討」が行われている。

この分担研究報告書によれば①0型(0/1)とされている写真番号3は「1型1/0」、②1型(1/0)とされている写真番号5は「1/1」③「1/1」として組合せ写真にも使用されている写真番号7は「1/2」と診断されている。すなわち小粒状影に関しては12階尺度が1尺度ずつ濃い密度となっている事が指摘されている。

不整型陰影に関しても写真番号15は「胸部単純X線写真とCTの所見が乖離していたため、胸部単純X線写真の所見が軽め」のものとの差し替えが、写真番号17は肺野の所見に左右差があり差し替えが指摘されている。

ところが今回の検討会においては、芦澤班のこの研究成果は考慮されず、症例を追加する事のみが行われている。とりわけ小粒状影の評価に関しては「1型1/0」の症例が標準写真電子媒体版を用いることによって誤って「0型0/1」と行政認定されていた可能性がある。この様な従来の電子媒体版の改正を伴わない今回の報告書は大きな限界があると言わざるを得ない。

さらに今回の検討会構成員7名中、大塚義紀座長を含む4名が2018年分担研究班であったことを付言する。

5) 胸部CTが補助的検査であることを明示すべき

厚生労働科学研究で行われた2014年~2016年「じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究(研究代表者 芦澤和人)」、2017年~2019年「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究(研究代表者 芦澤和人)」、2020年度からの「モニターを用いたじん肺画像診断に関する研究(研究代表者 芦澤和人)」においてもじん肺診断に関する胸部CTの標準化は行うことができなかった。今回の検討会でも胸部CTの所見と単純写真との乖離が議論されている。じん肺の診断は胸部エックス線写真で行い、胸部CTはあくまで補助的検査であることを明示する必要がある。

6)  産業衛生学会・職業性呼吸器疾患研究会等での検討に関して

今回検討された症例は、芦澤研究班提案の症例に関しては一部がPDFで公開され、構成員が提案した症例に関しては、PDFでも公開されていない。

標準写真の改正に関しては多くの研究者やじん肺診断・診療にあたっている医師の合意が必要である。今回の検討会報告のみにおいて標準写真集の改定を直ちに行うのではなく、日本産業衛生学会・職業性呼吸器疾患研究会をはじめとした研究会でDICOMデータを示して意見集約を行うことが必要と考える。

社会的なコンセンサスを得ることができるより適切な方法は、長期間継続して石綿健診等を受けた事例について、画像の経年的変化を観察し0/1、1/0を割り出すこと、そうした例を多数集めることである。

7) 1978年標準写真の様に単純写真、CTのスケッチの添付

じん肺診断・診断に係わる医師が減少傾向にある。経験の少ない医師でも適切なじん肺の診断が行うことが出来るように、1978年版の標準写真に添付されていたような、シェーマの添付が必要である。検討会でも、厚労省においても検討して頂きたい。

検討会報告書への意見書:職業性呼吸器疾患研究会有志医師の会(2024年3月24日)(pdf)

全国安全センター厚生労働省交渉~2024年1月23日

【要望①】

「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」で、じん肺診査ハンドブックについて改訂点が提起された。その後の検討状況について明らかにすること。とりわけ、①膿性痰の評価に好中球エラスターゼ活性値の活用、②呼吸機能検査の判定基準、③CTの導入について、検討経過を明らかにすること。

【回答①】

  1. 近年における医療の進展や医学的知見の集積、過去の研究成果及びそれに基づく知見等を踏まえて、じん肺診査ハンドブックの改訂を見据え、令和4年度から3年間の予定で研究を行っています。今年度の研究成果は、令和5年度の研究報告書として公表される予定です。
  2. ご指摘の①膿性痰の評価に好中球エラスターゼ活性値の活用、②呼吸機能検査の判定基準については、それぞれ令和4年度の分担研究の結果として、また③のCTの活用にかかる内容については今後発表される研究結果に含まれるものと承知しております。

【要望②】

じん肺標準エックス線写真集電子媒体版の改訂を検討しているのか明らかにすること。

【回答②】

  1. 令和5年11月13日より「じん肺標準エックス線写真集の改定等に関する検討会」を開催しており、ご指摘の電子媒体版を踏まえ、じん肺標準エックス線写真集の改定の必要性等に関する検討を行っています。
  2. また、検討会で取りまとめられた内容については、最終的に労働政策審議会安全衛生分科会じん肺部会においてご議論いただくものと考えています。

【要望③】

1986年基発51号通達を改正すること。同通達では、労働者あるいは特別加入者として粉じん作業に従事した期間が特別加入未加入の期間より3年以上長い場合に、じん肺症または合併症が労災認定される。この通達を「労働者、特別加入期間で10年以上の粉じんばく露作業従事歴があれば労災認定する」よう改正すること。

【回答③】

  1. 労働者あるいは特別加入者として粉じん作業に従事した期間と特別加入未加入の事業主等として粉じん作業に従事した期間との双方の職歴がある方のじん肺症又は合併症について、業務起因性があると判断されるためには、労働者あるいは特別加入者として従事した粉じん作業が相対的に有力な原因であると認められる必要があります。
  2. そのため、労働者あるいは特別加入者として従事した粉じん作業と事業主として従事した粉じん作業を比較して粉じんの種類や濃度に明らかな差異のない場合であって、労働者等としての粉じん作業従事期間が事業主としての粉じん作業従事期間よりも明らかに長いと認められる場合には、業務とじん肺の発症との間に相当因果関係を認めるよう通知を行っているところです。
  3. 加えて、同通達では粉じん作業従事期間の比較だけではなく、従事した粉じん作業の内容、粉じんの種類、気中粉じん濃度、作業の方法、粉じん作業従事期間、1日の粉じん作業時間等の調査及びじん肺の経過等に関する地方じん肺診査医等の意見を踏まえ、総合的に業務起因性を判断する取扱いとしております。
  4. 今後とも、同通達に沿って、個々の事案ごとに迅速・公正な労災認定に努めてまいります。

【要望④】

じん肺管理区分2ないし4の被災者が発症したANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎肉芽腫、好酸球性多発血管炎肉芽腫)を労災補償の対象とすること。

【回答④】

  1. 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎については、じん肺との医学的因果関係に係る知見は確立されていないことから、現在のところ労災保険給付の対象とはなっておりません。
  2. 今後とも、最新の医学的知見を収集して、適切に検討を行ってまいります。

【要望⑤】

じん肺合併続発性気管支炎で労災認定され療養中の被災者が細菌性の肺炎に罹患した場合、続発性気管支炎の増悪と判断し、療養補償給付等を支給すること。また死亡した場合も業務上の死亡として遺族補償給付等を支給すること。

【回答⑤】

  1. じん肺合併症の続発性気管支炎で労災認定された方が、細菌性の肺炎に罹患し、また、死亡された場合、当該細菌性の肺炎と労災疾病、当該死亡と労災疾病との相当因果関係について、治療の経過等を十分に検討した上で、総合的に判断しているところです。
  2. 引き続き、迅速かつ適正な労災認定に努めてまいります。

安全センター情報2024年6月号