血液がんの抗がん治療中なのに「就職可能」という勤労福祉公団 2022年10月17日 韓国の労災・安全衛生
2005年、忠清南道牙山市のサムソンディスプレー湯井工場の液晶工程で働いたKさん(33)は、生理不順・下血といった健康異常を来たし、2008年に退社した。症状がひどくなり、2017年に血液がん(非ホジキンリンパ腫4期)と診断をされたKさんは、2018年に労災が認められ、休業給付を支給された。2019年12月に治療を完了した彼女に、2020年10月に血液がんが再び現れて問題が起こった。抗がん治療を受けながらうつ病の診断までされたKさんに、勤労福祉公団は就業しながら治療を並行できる状態だと判断した。こうした場合、通院した日数にのみ休業給付が支給される。
公団の主治医を無視して「就業しながら治療可能」
勤労福祉公団の就業可否の判断は、主治医の判断を参考にして、諮問医師会が結論を出す手続きを採る。主治医が一次、公団の諮問医師会が二次の判断をする。公団は日常生活に不便があっても、ある程度労務を提供できる状態であれば、就業しながらの治療は可能だと見ている。すべての判断は主治医と諮問医に一任している。
16日、「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)によると、Kさんはがんの再発後、事実上、就業不可能な状況だった。パノリムとKさんは、がんが再発した2020年から5回も公団の門を叩いた。しかし公団は、「就業できる」という立場を維持した。
最初の拒否は血液がんの再発を確認した2020年だった。Kさんは23日間、17回にわたって放射線治療を受けた。口が腫れて喉が痛く、硬い食べ物は食べられなかった。抜け毛が起きて憂うつ感に襲われた。状態がこうなのに、公団は就業できると見て、放射線治療をした23日だけの休業給付を支給した。血液腫瘍内科の主治医の診療計画書には、就業治療の可否は記載されていなかった。公団は諮問医師の所見を聞いて「就業治療可能」とした。
昨年、Kさんは再びうつ病と診断された。彼女は抗がん治療中だった2019年11月に、既にうつ病障害と診断されていた。公団は追加の傷病を承認した。精神健康医学科の主治医から就業治療が困難だという所見も聞いた。公団は傘下の仁川病院で心理評価を実施し、諮問医師会会議の結果、就業治療可能の所見が出たとした。
Kさんの健康は日増しに悪化した。昨年2月、血液がんは二次再発と判定され、うつ病も更に悪化した。血液腫瘍内科と精神健康医学科の主治医はいずれも、就業治療不可の判定を出した。公団は諮問医師の所見を理由に、就業治療可能とする所見を出した。精神健康医学科の主治医が、うつ病の二次・三次診療計画書に就業治療不可の判定を出したが、公団は判断を保留している状況だ。Kさんは今年6月から臨床治療を受けている。
自営業まで「就業」と広範囲に解釈、現実的な判断の可能性は考慮しない
公団がKさんを就業治療が可能だと判断した理由は、就業概念が広範囲であるためだ。最高裁と雇用労働部、公団は、就業の概念を自営業まで含めたあらゆる種類の職業と見ている。事故性の災害によって体を動かすことができない場合でなければ、就業可能という判断を出すことになるのだ。
現実に背を向けているという指摘が続いている。Kさんは「数年間、私を治療する主治医が就業治療はできないだというのに、公団はなぜできると言うのか」、「公団の理事長なら、血液がんが再発し、がんが転移したがん患者を、うつ病まで患う患者を、公団職員として採用するだろうか」、「公団の理事長なら、血液がんが二回再発し、がんが転移したがん患者、うつ病まで患う患者、どうか私に希望を与えて欲しい」と訴えた。
公団もこのような問題点があることを知らないわけではない。歯科と眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科に関する傷病は、就業治療可能だとする所見が高まる問題点を認識し、2018年の勤労福祉研究院の研究結果を土台に、このような傷病を特殊傷病に分類して、別途の指針を作った。就業の概念を原職への復職と見て、公団の労災病院で特別診察を受けさせ、災害事業場への復職の意思の確認を就業治療可能可否の審査段階とした。
しかし、Kさんのように、職業性癌の判定を受けた後に癌が再発した人の場合、指針の適用を受けられない死角地帯が発生する。実際にサムスンディスプレイでの労災申請者は39人で、大多数が再発と転移の可能性がある肺がんと乳がん、血液がん(白血病・リンパ腫)、骨肉腫、腫瘍などだ。専門家たちは特殊傷病指針を、すべての傷病に拡大適用する必要性があると提言する。パノリムのチョ・スンギュ公認労務士は「特殊傷病に対する休業給付指針は特別な内容ではなく、当然の内容」で、「体さえ動かせれば休業給付を支給しないとする規定は、不合理で公平に合わないため、常識的で合理的な特殊傷病指針を全傷病に適用すべきだ」と主張した。
モデル事業傷病手当、判断ガイドライン導入の準備
就業概念の転換と判断基準作りの声が高く
新型コロナウイルス感染症の拡散を契機に、『病気になれば休む権利』に対する議論が続いてモデル事業まで始まっている傷病手当。現在、健康保険公団は傷病手当の支給に関するガイドラインを作っている。ガイドラインは、主治医が傷病手当を支給するかどうかを判断する際の参考にする。疾病別に勤労活動が不可能な期間を設定し、医療供給者の受容性を高める方法を模索する方向で研究をしている。主治医と諮問医の自律的な判断に任せる休業給与とは違いがある。このため、休業給付支給の可否を、医師の自主的な判断ではなく、ガイドラインで基準を定めて決定するべきだという主張が提起されている。
共に民主党のウ・ウォンシク議員は「公団は、治ってもいない被害者を就業可能だと判断して、仕事をしろと追い詰めている」、「これは仕事中に負傷した人を、正しく保護するのではなく、労災補償保険法の趣旨にも合わないため、就業可能かどうかの判断過程に関する問題点を確認すべきだ」と明らかにした。
2022年10月17日 毎日労働ニュース イム・セウン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=211438